説明

プラスチック成形体の劣化防止方法

【課題】 基材樹脂に紫外線吸収剤や酸化防止剤などを添加しなくても、プラスチック成形体の劣化を効果的に防止して、耐久性を付与する方法を提供する。
【解決手段】 プラスチック成形体に、シロキサン系化合物、シラザン系化合物、シラン系化合物などのプラズマ重合性ケイ素化合物のガスを接触させ、プラズマ重合処理することにより、プラスチック成形体表面にケイ素化合物のプラズマ重合被膜を形成させて、劣化を防止する方法である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチック成形体の新規な劣化防止方法、さらに詳しくは、プラスチック成形体の表面にケイ素化合物のプラズマ重合被膜を形成させることにより、該プラスチック成形体の劣化を効果的に防止して耐久性を付与する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】プラスチックは一般に炭素を基本とする骨格を有していて、紫外線や活性酸素などの活性種により、主鎖や側鎖の切断、橋かけなどを生じ、表面から劣化が進行して、強度や弾性などの性能が低下することが知られている。したがって、このような劣化を防止して耐久性をもたせるために、通常紫外線吸収剤や酸化防止剤などが添加されている。しかしながら、このような添加剤をプラスチックに添加した場合、該添加剤が成形品の表面から浸出するおそれがあるため、用途によっては紫外線吸収剤や酸化防止剤の種類について厳しい制限を受け、コスト高になったり、劣化防止が不十分となるなどの問題があり、その上、プラスチックをリサイクル使用する際にもこれが障害となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような事情のもとで、基材樹脂に紫外線吸収剤や酸化防止剤などの添加なしに、プラスチック成形体の劣化を効果的に防止して、耐久性を付与する方法を提供することを目的としてなされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、プラスチック成形体にプラズマ重合性ケイ素化合物ガスを接触させてプラズマ重合処理することにより、該成形体表面にケイ素化合物の重合被膜が形成され、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0005】すなわち、本発明は、プラスチック成形体にプラズマ重合性ケイ素化合物ガスを接触させ、プラズマ重合処理することを特徴とするプラスチック成形体の劣化防止方法を提供するものである。
【0006】また、本発明の劣化防止方法においては、プラズマ重合性ケイ素化合物として、シロキサン系化合物、シラザン系化合物及びシラン系化合物の中から選ばれた少なくとも1種を用いるのが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明方法において用いられるプラズマ重合性ケイ素化合物については、プラズマ重合可能なケイ素化合物であって、高真空下にて室温から50℃程度の温度で蒸発し、気体になるものであればよく、特に制限されない。このようなものとしては、例えばシロキサン系化合物、シラザン系化合物及びシラン系化合物などを好ましく挙げることができる。前記シロキサン系化合物の例としては、ジメチルジシロキサン、テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシクロトリシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサンなどが挙げられる。また、シラザン系化合物の例としては、ジメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられ、シラン系化合物の例としては、ジメチルジシラン、テトラメチルジシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。これらのケイ素化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0008】本発明方法においては、これらのプラズマ重合性ケイ素化合物のガスをプラスチック成形体に接触させてプラズマ重合処理を施す。このプラズマ重合処理は従来公知のプラズマ処理装置を用いて行うことができる。プラズマ重合処理の条件については特に制限はないが、ケイ素化合物ガスは、通常0.01〜1.0torr、好ましくは0.02〜0.1torrの範囲の圧で重合に供される。また、放電出力は、重合装置により異なるが、一般には2〜200Wの範囲で放電が発生し、プラズマ重合が可能となる。ただし、劣化しやすいプラスチック成形体の場合は低出力での重合が好ましく、2〜50Wの範囲が適当である。
【0009】このようにして、ケイ素化合物のプラズマ重合被膜がプラスチック成形体の表面に形成されるが、その被膜の厚さは、該成形体本来の特性をそこなわずに、劣化を効果的に防止して耐久性を付与するためには、100Åないし1μmの範囲が好ましい。重合処理時間は、形成する被膜の厚さが前記範囲になるような時間であればよく、特に制限されないが、通常は1〜60分間、好ましくは2〜10分間程度である。
【0010】プラズマ重合により形成された被膜は、プラスチック成形体の基材表面に共有結合により化学的に結合しているわけではないが、耐剥離性に優れ、かつ均質であり、低波長の紫外線、酸化性ガスプラズマ、電子線などの劣化因子に対して、保護層としての作用を果たす。
【0011】本発明方法が適用できるプラスチック成形体の形状については、その表面にケイ素化合物のプラズマ重合被膜が形成されうるものであればよく、例えばフィルム、シート、織布、不織布、その他構造体など、任意の形状のものを用いることができる。
【0012】また、本発明方法が適用できるプラスチック成形体の基材樹脂としては、特に制限はなく、例えば従来公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーやゴム状弾性体、熱硬化性樹脂などが挙げられるが、これらの中で特に劣化しやすい熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーやゴム状弾性体に適している。
【0013】前記熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ芳香族エーテル又はチオエーテル系樹脂、ポリ芳香族エステル系樹脂、ポリスルホン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリレート系樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂などが挙げられる。
【0014】該ポリオレフィン系樹脂としては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン‐1、3‐メチルブテン‐1、3‐メチルペンテン‐1、4‐メチルペンテン‐1などのα‐オレフィンの単独重合体やこれらの共重合体、あるいはこれらと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体などが挙げられる。代表例としては、高密度、中密度、低密度ポリエチレンや、直鎖状ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、エチレン‐アクリル酸エチル共重合体などのポリエチレン類、アタクチック、シンジオタクチック、アイソタクチックポリプロピレンや、プロピレン‐エチレンブロック共重合体又はランダム共重合体などのポリプロピレン類、ポリ4‐メチルペンテン‐1などを挙げることができる。
【0015】ポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば塩化ビニル単独重合体や塩化ビニルと共重合可能な不飽和単量体との共重合体などが挙げられる。該共重合体としては、例えば塩化ビニル‐アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル‐メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル‐エチレン共重合体、塩化ビニル‐プロピレン共重合体、塩化ビニル‐酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル‐塩化ビニリデン共重合体などが挙げられる。さらに、これらのポリ塩化ビニル系樹脂を後塩素化して、塩素含量を高めたものを用いることができる。
【0016】ポリアミド系樹脂としては、例えば6‐ナイロンや12‐ナイロンなど、環状脂肪族ラクタムを開環重合したもの、6,6‐ナイロン、6,10‐ナイロン、6,12‐ナイロンなど、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、m‐キシレンジアミンとアジピン酸との縮重合物など、芳香族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、p‐フェニレンジアミンとテレフタル酸との縮重合物やm‐フェニレンジアミンとイソフタル酸との縮重合物など、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを縮重合させたもの、11‐ナイロンなど、アミノ酸を縮重合させたものなどを挙げることができる。
【0017】ポリエステル系樹脂としては、芳香族ジカルボン酸とアルキレングリコールとを縮重合させたものが挙げられ、具体例としてはポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどがある。
【0018】ポリアセタール系樹脂としては、例えば単独重合体のポリオキシメチレン及びトリオキサンとエチレンオキシドから得られるホルムアルデヒド‐エチレンオキシド共重合体などが挙げられる。
【0019】ポリカーボネート系樹脂としては、4,4′‐ジヒドロキシジアリールアルカン系ポリカーボネート、特にビスフェノールAとホスゲンとを反応させるホスゲン法や、ビスフェノールAとジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法などにより得られるビスフェノールA系ポリカーボネート、さらにはビスフェノールAの一部を2,2‐ビス(4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジメチルフェニル)プロパンや2,2‐ビス(4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジブロモフェニル)プロパンなどで置換した変性ビスフェノールA系ポリカーボネートや難燃化ビスフェノールA系ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0020】ポリ芳香族エーテル又はチオエーテル系樹脂は、分子鎖中にエーテル結合又はチオエーテル結合を有するもので、このような樹脂としては、例えばポリフェニレンエーテル、スチレンでグラフト化されたポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドなどが挙げられる。
【0021】ポリ芳香族エステル系樹脂としては、例えばp‐ヒドロキシ安息香酸の縮重合で得られるポリオキシベンゾイル、ビスフェノールAとテレフタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸との縮重合で得られるポリアリレートなどが挙げられる。
【0022】ポリスルホン系樹脂は、分子鎖中にスルホン基を有するもので、このようなものとしては、例えばビスフェノールAと4,4′‐ジクロロジフェニルスルホンとの縮重合で得られるポリスルホン、フェニレン基がエーテル基とスルホン基を介してp‐位に連結された構造のポリエーテルスルホン、ジフェニレン基とジフェニレンエーテル基とがスルホン基を介して交互に連結した構造のポリアリールスルホンなどを挙げることができる。
【0023】スチレン系樹脂としては、例えばスチレン、α‐メチルスチレンなどの単独重合体やこれらの共重合体、あるいはこれらと共重合可能な不飽和単量体との共重合体が挙げられる。代表例としては、一般用ポリスチレン、耐衝撃用ポリスチレン、耐熱用ポリスチレン(α‐メチルスチレン重合体)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル‐スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル‐塩素化ポリエチレン‐スチレン共重合体(ACS)、アクリロニトリル‐エチレンプロピレンゴム‐スチレン共重合体(AES)、アクリルゴム‐アクリロニトリル‐スチレン共重合体(AAS)などが挙げられる。
【0024】アクリレート系樹脂としては、例えばメタクリル酸エステル重合体やアクリル酸エステル重合体などが挙げられ、特に代表的なものとして、ポリメチルメタクリレートが挙げられる。フッ素樹脂としては、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリ(4‐フッ化エチレン)などが、ケイ素樹脂としては、例えばポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。さらに、これら以外に、セルロースやフェノキシ樹脂なども挙げることができる。
【0025】また、熱可塑性エラストマーやゴム状弾性体としては、例えば天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ネオプレン、シリコーンゴム、フッ素ゴム、スチレン‐ブタジエンブロック共重合体ゴム(SBR)、スチレン‐ブタジエン‐スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン‐ブタジエン‐スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン‐イソプレンブロック共重合体(SIR)、スチレン‐イソプレン‐スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン‐イソプレン‐スチレンブロック共重合体(SEPS)、エチレン‐プロピレンゴム(EPR)、エチレン‐プロピレン‐ジエンゴム(EPDM)、エチレン‐ブチレンゴム(EBM)などが挙げられる。
【0026】
【発明の効果】本発明方法によれば、プラスチック成形体の表面に、簡単な手段でケイ素化合物のプラズマ重合被膜を形成させることができ、基材樹脂に紫外線吸収剤や酸化防止剤などを添加しなくても、該プラスチック成形体の劣化を効果的に防止して、耐久性を付与することができる。
【0027】
【実施例】次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0028】実施例113.56MHzのラジオ波を用いる誘導結合式のプラズマ処理装置を使用し、内径4.4cm、長さ40cmの反応管内に、厚さ25μmの5cm×5cmサイズのポリプロピレンフィルムを設置したのち、これに0.06torrの圧力下のヘキサメチルジシロキサンガスを導入し、放電出力50Wにて5分間プラズマ重合処理を行った。この処理により、ポリプロピレンフィルムの表面に、厚さ約1000Åの架橋型シロキサンポリマー膜が形成された。
【0029】次に、このプラズマ重合処理されたポリプロピレンフィルムを、圧力0.06torr、出力50Wの条件にて酸素プラズマで処理したところ、約40分間の処理でも重量減少はなく、劣化が認められなかった。
【0030】実施例2実施例1と同様にしてプラズマ重合処理したポリプロピレンフィルムを、圧力0.06torr、出力50Wの条件にて空気ガスプラズマで処理したところ、90分間の処理でも重量減少はなく、劣化が認められなかった。
【0031】実施例3実施例1において、ヘキサメチルジシロキサンの代わりにヘキサメチルジシラザンを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリプロピレンフィルムのプラズマ重合処理を行った。このプラズマ重合処理したポリプロピレンフィルムを、圧力0.06torr、出力50Wの条件にて空気ガスプラズマで処理したところ、90分間の処理でも重量減少はなく、劣化が認められなかった。
【0032】実施例4実施例1において、ヘキサメチルジシロキサンの代わりにヘキサメチルジシランを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリプロピレンフィルムのプラズマ重合処理を行った。このプラズマ重合処理したポリプロピレンフィルムを、圧力0.06torr、出力50Wの条件にて空気ガスプラズマで処理したところ、90分間の処理でも重量減少はなく、劣化が認められなかった。
【0033】比較例1未処理のポリプロピレンフィルムを、実施例1と同様にして酸素プラズマで処理したところ、プラズマ処理に伴って重量減少が著しく、10分間で約7%、20分間で約15%、30分間で約22%の重量減少がみられた。また、これに伴い劣化が生じて引張り強度が減少するとともに、フィルム表面にはエッチングが観察された。
【0034】比較例2未処理のポリプロピレンフィルムを、実施例2と同様にして空気プラズマで処理したところ、プラズマ処理に伴って重量減少が著しく、10分間で約3%、20分間で約6%、30分間で約9%の重量減少がみられた。また、これに伴い劣化が生じて引張り強度が減少するとともに、フィルム表面にはエッチングが観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プラスチック成形体にプラズマ重合性ケイ素化合物ガスを接触させ、プラズマ重合処理することを特徴とするプラスチック成形体の劣化防止方法。
【請求項2】 プラズマ重合性ケイ素化合物がシロキサン系化合物である請求項1記載の劣化防止方法。
【請求項3】 プラズマ重合性ケイ素化合物がシラザン系化合物である請求項1記載の劣化防止方法。
【請求項4】 プラズマ重合性ケイ素化合物がシラン系化合物である請求項1記載の劣化防止方法。