説明

プラスチック成形品のインパルス溶着方法

【目的】 本発明は、プラスチック成形品の表面にクロスを熱溶着するに際して、通常のスポット溶接機で使用できるヒートチップを用いることにより、安価な設備で、作業性及び接合強度の向上がはかれるプラスチック成形品のインパルス溶着方法の提供を目的とするものである。
【構成】 本発明のプラスチック成形品のインパルス溶着方法は、プラスチック成型品1の表面に紙、人造毛皮、金網または布からなるクロス2を重ね合わせ、該クロス2の上方からヒートチップ3により加圧過熱しクロス2を介してプラスチックを溶融させ、その溶融プラスチックをクロス中へ滲み上げた後、前記ヒートチップ3を適宜な手段で冷却させることにより、短時間で両者を接合するようにしたことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチック成形品の表面に紙、人造毛皮、金網または布からなるクロスを熱溶着する方法に係り、特にヒートチップを用いて点若しくは線状に部分的に加圧加熱することにより、作業性及び接合強度の向上をはかるようにしたプラスチック成形品のインパルス溶着方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車や家電製品にプラスチック成型品の表面に紙、布等を貼り付けることによりソフト感のある風合いを持たせることが行われている。このプラスチック成型品の表面にクロスを貼り付ける方法として、古くは、プラスチック成型品の表面側に接着剤を塗布し、この接着剤が塗布された面にクロスを貼り付けていた。しかしながらこのような接着方法では、成型品の曲面等にクロスを貼り付ける作業が面倒であるだけでなく、プラスチック材が工業的に広く用いられているポリプロピレンである場合には、その表面へ接着することは極めて困難なものであった。
【0003】また、高周波誘導過熱を利用した高周波ウエルダーがある。これは、通常は帯状の黄銅板により溶着模様を形成した金型と称する電極と平坦な電極との間に溶着するシートを挟み、1〜5kg/cm2 の圧力を加えながら数秒間高周波電力を加えて過熱した後、加圧したまま数秒間放置した後に圧力を除去して溶着するというものである。しかしながらこの高周波ウエルダー装置は、高周波発生器、過熱制御用整合器、溶着プレス、作業テーブル装置、これらの操作の総合制御装置を必要とする高価な専用的な設備となり、しかも、発生器の出力が500〜1000Wというようにエネルギーの消費が大きいというものであった。
【0004】また、特開昭61−19362号公報のプラスチック成型品では、プレス金型を用いて加圧して溶着させるという方法が提案されている。この工法は、プレス金型に予め略200゜Cに過熱したプラスチック成型品素材をはめ込み、次いでこの素材の一部に紙、人造毛皮または布からなるクロス(装飾面形成部材)を重ね合わせた後、これらをプレス成形(ポンチ)等により加圧して一体的に接合するというものである。従って、この工法においては、接着剤による塗布という繁雑さもなく、かつ、接合強度を高めることができるというものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記の高周波誘導過熱を利用した高周波ウエルダーは、設備費が高価でかつ専用設備となり、エネルギー費も高くなる。また、専用設備であるため、例えば設備の遊休時にこの設備で薄板鋼板のスポット溶接を行おうとしても不可能というものであった。
【0006】また、前記のプラスチック成型品を予め過熱し、プレス金型で加圧して溶着させる方法は、クロスの全面を均一に強い強度で接合できるという利点を有するものの、高価なプレス機や金型の他過熱設備を必要とし、また工程も2つに分かれるため作業が繁雑になるという問題があった。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、プラスチック成形品の表面にクロスを熱溶着するに際して、通常のスポット溶接機等で使用できるヒートチップを用いることにより、安価な設備で、作業性及び接合強度の向上がはかれるプラスチック成形品のインパルス溶着方法の提供を目的とするものである。
【0008】すなわち、本発明のプラスチック成形品のインパルス溶着方法は、プラスチック成型品1の表面に紙、人造毛皮、金網または布からなるクロス2を重ね合わせ、該クロス2の上方からヒートチップ3により加圧過熱しクロス2を介してプラスチックを溶融させ、その溶融プラスチックをクロス中へ滲み上げた後、前記ヒートチップ3を適宜な手段で冷却させることにより、短時間で両者を接合するようにしたことを特徴とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明のプラスチック成形品のインパルス溶着方法に用いられる装置のチップの縦断面図を示すものである。また、図2は、インパルス溶着工程の概略説明図であり、図3は、本発明による被加工物の斜視図を示し、(a)は溶着前の状態を示し、(b)は溶着後の状態を示している。図1〜図2において、1はオレフィン系樹脂、2はクロスであり、溶融樹脂が浸透しやすい素材としては綿、不織布、ネット等が上げられる。なお浸透しにくい素材(例えば綿)の場合はクロスに微細な孔(φ2〜φ4mm)を予めあけておくとよい。3はヒートチップであり、該ヒートチップは内部が空洞になっていて、ここにヒートチップを冷却するための冷却パイプ4が設けられている。なお、上記の実施例ではヒートチップを内部から冷却するようにしているが、外部から冷却しても同じ作用効果が得られるのは言うまでもない。
【0010】次に、本発明のインパルス溶着方法(工程)について明図する。
(1) 始めに、スポット溶接機の台上にプラスチック成型品1とクロス2を重ね合わせて載置する。
(2) 次に、クロス2の上方からヒートチップ3を押しつけ加圧通電してプラスチックの表面を溶融させ、その溶融プラスチックがクロスの中に滲み上がるまで加圧する。
(3) クロス中に溶融プラスチックが滲み上がったらヒートチップへの通電を停止し、直ちにヒートチップ3に冷却空気を導き溶融樹脂を固着させる。
【実施例1】
【0011】実施例1においては、プラスチック成型品の素材はポリプロピレン樹脂を用い、クロスは厚さ0.5 mmクロス布を用いた。また、加圧力は1kgf/cm2 、通電圧は20v、通電流は20Aとしてインパルス溶着を行った。この場合、溶融樹脂はクロスの厚みの8割程の高さに達し、クロスの表面側に外感を損ねるような見苦しいヒートマーク(打こん)は見られず、溶着強度も十分なものであった。
【実施例2】
【0012】実施例2においては、プラスチック成型品の素材はポリエチレン樹脂を用い、クロスとしては線径φ0.3mm,900メッシュの金網を用いた。また加圧力は0.7kgf/cm2 、通電圧は20v、通電流は20Aとしてインパルス溶着を行った。この場合においても、クロスの表面側に外感を損ねるような見苦しいヒートマーク(打こん)は見られず、溶着強度も十分なものであった。
【0013】
【発明の効果】本発明のプラスチック成形品のインパルス溶着方法は、ヒートチップ3を押しつけ加圧通電してプラスチックの表面を溶融させ、その溶融プラスチックがクロスの中に滲み上がるまで加圧し、その後速やかにヒートチップの冷却を介して溶融樹脂を固着させるというものであるから、通常のスポット溶接機を使用できるため設備費が安価であり、また、作業性及び接合強度の向上をはかれることができるという極めて有益な発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に用いるインパルス溶着装置のチップの縦断面図。
【図2】 インパルス溶着工程の概略説明図。
【図3】 本発明による被加工物の斜視図。
【符号の説明】
1 オレフィン系樹脂、 2 クロス、 3 ヒートチップ、4 冷却パイプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】プラスチック成型品1の表面に紙、人造毛皮、金網または布からなるクロス2を重ね合わせ、該クロス2の上方からヒートチップ3により加圧過熱しクロス2を介してプラスチックを溶融させ、その溶融プラスチックをクロス中へ滲み上げた後、前記ヒートチップ3を適宜な手段で冷却させることにより、短時間で両者を接合するようにしたことを特徴とするプラスチック成形品のインパルス溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平10−323905
【公開日】平成10年(1998)12月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−150457
【出願日】平成9年(1997)5月23日
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)