説明

プラスチック表面からの汚染物の除去方法

【課題】
プラスチック表面に付着した水垢や埃、大気中の化学物質、プラスチックの劣化物等の汚染物によって透明感や光沢が損なわれたプラスチック製品について、プラスチックを傷つけることなく、汚染物を除去し、本来の透明感や光沢を回復させる方法を提供する。
【解決手段】
ポリマーと可塑剤を含有した柔軟な組成物からなるゴム状弾性体である摩擦材を用いてプラスチックの表面を摩擦して汚染物を除去し、次いでプラスチックを界面活性剤を含有する洗浄剤で洗浄するか、又は布帛で摩擦して残存している付着物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック表面に付着している汚染物を除去する方法に関する。さらに詳しくは、プラスチック表面に付着している水垢や埃、大気中の化学物質、更にはプラスチックが劣化して生じた物質等によって、透明感や光沢が損なわれた状態になったプラスチック製品に対し、プラスチックを傷つけることなく、プラスチック表面からこれらの汚染物を除去し、本来の透明感や光沢を回復させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のヘッドランプ等に使用されるプラスチック製品は、長年の使用で風雨に曝される間に、水垢や埃、大気中の化学物質、プラスチックが劣化して生じた物質等が表面に付着し、透明感や光沢が損なわれた状態になることがある。透明感や光沢を回復させるには、スポンジや布等を用いて拭いたり、洗浄剤で洗浄するのが一般的であるが、プラスチック表面に固着した水垢等を除去するのは極めて困難である。
【0003】
また研磨剤を含む洗浄剤や汚れ取り粘土等を使用する方法もあるが、これらの方法では、プラスチック表面を傷つけたり、表面のハードコート層を削り取ってしまうことが多い。その結果、プラスチックの耐候性が失われて劣化が促進され、変色やヘーズが大きくなって透明感や光沢が損なわれ易いという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従ってプラスチック表面を傷つけることなく、プラスチック表面に付着した水垢や埃、大気中の化学物質、プラスチックの劣化物等の汚染物を除去し、本来の透明感や光沢を回復する方法の開発が望まれている。本発明はこのような要望を満足させる手段を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、プラスチック表面の上記のような汚染物は、ポリマーと可塑剤からなる柔軟な摩擦材で摩擦すると、プラスチック表面から除去され、プラスチックはその透明感や光沢を回復することを見出した。これは消しゴムの作用と同じく、摩擦材から脱離した磨耗片が、汚染物を包含してプラスチック表面から除去することによるものと考えられる。
【0006】
しかしこの方法によっても、回復される透明感や光沢は、時としてプラスチック本来の透明感や光沢には及ばないことがある。またこの方法で透明感や光沢を回復させたプラスチックは、そのままでは短時間で再び透明感や光沢を失うことが判明した。本発明者はこれらの原因を探求した結果、磨耗片や摩擦材の可塑剤がプラスチック表面に残っていることによることを見出した。これらは透明感や光沢を損なうばかりで無く、プラスチックと反応して短時間で透明感や光沢を悪化させる。そして摩擦材で汚染物を除去したのち、洗浄剤で洗浄したり、布帛で拭って磨耗片や可塑剤を除去すると、プラスチックは本来の透明感や光沢を回復し、且つ長期間に亘ってそれを維持することができる。
【0007】
本発明はこのような知見に基づいて達成されともので、本発明によればポリマーと可塑剤からなる柔軟な組成物からなる摩擦材で、表面に汚染物が付着しているプラスチックを摩擦して、摩擦材の一部を磨耗片として脱離させると共に、該汚染物を磨耗片で包含してプラスチックから脱離させ、次いでプラスチックから表面に残存している磨耗片や摩擦材から移行した可塑剤などを、洗浄剤で洗浄したり、布帛で摩擦して除去することにより、プラスチック表面に付着している汚染物を容易に除去することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、プラスチックを傷つけることなく、プラスチック表面の水垢等の汚染物を除去し、本来の透明感や光沢を容易に回復することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
汚染物除去の対象となるプラスチック製品
本発明は常用のプラスチック製品に広く適用することができる。具体的には塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチロール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂等からなる製品が挙げられる。またこれらのプラスチックからなる所謂プラスチックアロイからなる製品も挙げられる。さらには表面にハードコートや塗装、コーティング、トップコート等の表面処理が施された製品にも適用できる。
【0010】
これらのなかでも熱可塑性樹脂からなる製品、特に透明感や光沢が求められる製品に適用するのが好ましい。例えば風雨に曝されて汚染物が付着し、透明感が低下したポリカーボネート製の自動車のヘッドランプは、本発明方法により容易に本来の透明感を回復させることができる。
【0011】
摩擦材
本発明で使用する摩擦材は、ポリマーに可塑剤を混練した柔軟な組成物であるゴム状弾性体からなるものである。その代表的なものとしては、ポリ塩化ビニル樹脂にフタル酸エステル系可塑剤を配合した,いわゆる消しゴムが挙げられる。また生ゴムやスチレン−ブタジエン共重合体等のゴムに軟化剤や可塑剤などを配合したものも挙げられる。なお消しゴムには研磨剤などを含有させたものもあるが、このようなものでプラスチックを摩擦すると表面を傷つけ易いので、本発明で用いる摩擦材は、通常は研磨剤などは含有していない。
【0012】
摩擦材の硬さは、JIS K−6253で10〜80であるのが好ましい。硬さが高すぎると、プラスチック表面を摩擦したときにその表面を傷つける恐れがある。また磨耗片が生成し難いので、汚染物の除去がなかなか進行しない。逆に硬さが低すぎると、磨耗片の生成は容易であるが、磨耗片がプラスチック表面に付着し易く、好ましくない。摩擦材の硬さは、JIS K−6253で15〜35であるのがより好ましい。
【0013】
摩擦材でプラスチック表面を摩擦すると付着している水垢などの汚染物が除去されるのは、摩擦材がこれらの汚染物を吸着して表面から剥離させると同時に、汚染物を吸着した摩擦材が磨耗片となって摩擦材から脱離することによるものと考えられる。すなわち一方ではプラスチック表面の汚染物は磨耗片に包含されて表面から除去され、他方では、摩擦材の表面からは磨耗片が脱離するので、常に新しい表面が露出して、汚染物を吸着する。汚染物の付着しているプラスチックを摩擦材で摩擦すると、この吸着―脱離が反復されて、汚染物が除去される。
【0014】
摩擦材でプラスチック表面を摩擦して表面の汚染物を除去する際の圧力(押付力)は、強すぎるとプラスチックを傷つける恐れがあり、弱すぎると摩耗片がうまく生成せず汚染物の除去が良好に進行しないので、用いる摩擦材や汚染物の付着状況により適宜設定すればよい。通常は0.05〜7.5MPa程度の圧力で摩擦すればよい。0.1〜2.5MPa程度、特に0.25〜0.75MPa程度の圧力で摩擦するのが好ましい。摩擦は、手動でもよく、機械装置を用いてもよい。
【0015】
押付力の測定方法は、重量計の上に成形品を置き、摩擦材を押し当てた時の重量変化を読み取り、この重量変化量を摩擦材の接触面積で除した値を押付力として規定した。
【0016】
洗浄剤
摩擦材で摩擦して汚染物を除去したプラスチック表面には、摩擦材から移行した可塑剤が付着しており、また摩耗片も残存しているので、これらを除去することが必要である。これらの付着物が残存したままであると、透明感や光沢を回復させたプラスチクが短時間で再び透明感や光沢を失うようになる。これらの付着物を除去する方法の一つは、プラスチックを界面活性剤を含有する洗浄液で洗浄する。これにより、付着物はプラスチック表面から界面活性剤に包まれて洗浄液中に移行する。
【0017】
界面活性剤としては、摩擦材の成分であるポリマーや可塑剤と親和性のあるものであればよく、通常は家庭用の洗濯用又は台所用の洗剤をもちいればよい。これらの界面活性剤を適宜濃度となるように水に溶解し、スポンジや布帛に含浸させてプラスチックを摩擦すると、プラスチック表面の可塑剤などの付着物が容易に除去され、プラスチックは本来の透明感や光沢を回復する。なお、洗浄剤使用後に水洗いを行い、洗浄剤を完全に除去する。
【0018】
布帛
付着物を除去するもう一つの簡便な方法としては、プラスチック表面を布帛で拭って、付着物を除去する方法がある。布帛としては付着物がよく取れるように微細繊維からなるものを用いるのが好ましい。例えば直径1〜5μm、好ましくは1〜3μmのポリエステル繊維からなる布帛を用いる。このような微細繊維からなる布帛を用いると、プラスチック表面の可塑剤その他の付着物が毛管力などで繊維の隙間に入り込むので、プラスチック表面から除去される。
【0019】
なお洗浄剤で洗浄したり、布帛で拭っても付着物が十分に除去できない場合には、この両方の方法を併用すればよい。例えば洗浄剤で洗浄した後、布帛で拭えば付着物をより完全に除去することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明について実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<試験片の作製>
ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製/商品名 ユーピロン(登録商標)ML−300 青系透明色、赤系透明色、黄系透明色)から、射出成形によって、50mm×90mm×2.0mmの樹脂版を成形した。
この樹脂版をサンシャイン・ウエザオメータによる耐候性促進試験に付し、ブラックパネル温度が63℃、間欠噴霧スプレー(イオン交換水を12分間噴霧スプレー/60分間)の条件で、2000時間処理した。耐候性促進試験により試験片の表面には水垢および表面の劣化物が付着し、外観、へーズ変化率および色差は下記のように変化した。
外観 ヘーズ変化率(%) 色差
青系透明色試験片; 表面が白濁 23.7 15.8
赤系透明色試験片; 表面が白濁 27.3 14.9
黄系透明色試験片; 表面が白濁 35.2 17.3
【0021】
なお、本明細書において外観、ヘーズ変化率及び色差は下記による。
外観;目視による。
ヘーズ変化率; JIS K−7136「プラスチック−透明材料のヘーズの求め方」に準拠した測定方法で成形品のヘーズを測定し、未処理の成形品と耐候促進試験後の各洗浄処理した成形品のヘーズの変化量をヘーズ変化率とした。
色差;JIS K−7105「プラスチックの光学的特性試験方法」に準拠した測定方法で色差を測定し、未処理の成形品と耐候促進試験後の各洗浄処理した成形品の色差を求めた。
【0022】
<摩擦材による摩擦>
株式会社トンボ鉛筆製のプラスチック字消し「MONO(商品名) PE−01A」を手にもって、試験片の表面を摩擦した。
【0023】
<洗浄剤による洗浄>
ライオン株式会社製ママレモン(商品名)を市販のポリウレタン製スポンジに染み込ませ、イオン交換水を含ませて十分に泡立てたものを用いて、試験片の表面を洗浄した。
【0024】
<布帛による摩擦>
東レ株式会社製クリーニングクロスの「トレシー(商品名)」を用いて、試験片の摩擦した。
【0025】
実施例1〜3
試験片を先ず摩擦材により押付力0.25〜0.75MPaで摩擦し、次いで洗浄剤で洗浄した。結果を表1に示す。
【0026】
実施例4〜6
試験片を先ず摩擦材により押付力0.25〜0.75MPaで摩擦し、次いで乾燥後に布帛で摩擦した。結果を表1に示す。
【0027】
実施例7〜9
試験片を先ず摩擦材により押付力0.25〜0.75MPaで摩擦し、次いで洗浄剤で洗浄し、さらに乾燥後に布帛で摩擦した。結果を表2に示す。
【0028】
比較例1〜3
試験片を洗浄剤で洗浄した。結果を表3に示す。
【0029】
比較例4〜6
試験片を布帛で摩擦した。結果を表3に示す。
【0030】
参考例7〜9
試験片を摩擦材により押付力12.5MPa以上で摩擦し、次いで洗浄剤で洗浄した。結果を表4に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
表1〜表3との対比から明らかなように、本発明方法によればプラスチック表面の水垢等の汚染物をほぼ完全に除去することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと可塑剤を含有した柔軟な組成物からなるゴム状弾性体である摩擦材を用いて表面に汚染物が付着しているプラスチック製品を摩擦して、摩擦材からその一部を磨耗片として脱落させると共に、汚染物を該磨耗片で包含してプラスチック製品から剥離させて除去する第一工程と、該工程を経たプラスチック製品を界面活性剤を含有する洗浄液で洗浄して残存している付着物を除去する第二工程とから成ることを特徴とするプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。
【請求項2】
ポリマーと可塑剤を含有した柔軟な組成物からなるゴム状弾性体である摩擦材を用いて表面に汚染物が付着しているプラスチック製品を摩擦して、摩擦材からその一部を磨耗片として脱落させると共に、汚染物を該磨耗片で包含してプラスチック製品から剥離させて除去する第一工程と、該工程を経たプラスチック製品を布帛で摩擦して残存している付着物を除去する第二工程とから成ることを特徴とするプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。
【請求項3】
ポリマーと可塑剤を含有した柔軟な組成物からなるゴム状弾性体である摩擦材を用いて表面に汚染物が付着しているプラスチック製品を摩擦して、摩擦材からその一部を磨耗片として脱落させると共に汚染物を該磨耗片で包含してプラスチック製品から剥離させて除去する第一工程と、第一工程を経たプラスチック製品を界面活性剤を含有する洗浄液で洗浄して残存している付着物を除去する第二工程と、第二工程を経たプラスチック製品を布帛で摩擦して残存している付着物を除去する第三工程とから成ることを特徴とするプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。
【請求項4】
摩擦材が、ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とからなるゴム状弾性体であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。
【請求項5】
摩擦材が、ポリ塩化ビニル樹脂と可塑剤とからなるゴム状弾性体であり、その硬度がJIS K−6253で10〜80であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。
【請求項6】
布帛が直径1〜5μmの繊維からなることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。
【請求項7】
ゴム状弾性体のプラスチック製品への押付力が0.05〜0.75MPaであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。
【請求項8】
プラスチックが熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項8に記載のプラスチック製品表面からの汚染物の除去方法。