説明

プラスチック製バイアル

【課題】容器が凹む等の変形を生じないプラスチック製バイアルを提供する。
【解決手段】ブロー成形法により製造することができる、油性の薬剤を充填するプラスチック製バイアル10であって、容器の全高をL(mm)、胴回りの直径をW(mm)、弾性率をY(GPa)、肉厚をX(mm)として、W≦14XY+42、L>W、X≦1.2を満たすこと。少なくとも1層が、ポリプロピレンと、熱可塑性エラストマーとからなる樹脂組成物の層を有し、外層及び内層の間に、ガスバリア性を有する層を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製バイアルに関し、特に油性用薬剤を充填するバイアル容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療用の薬品を封入する管瓶(カンビン)として、バイアル容器が用いられている。そして、このバイアル容器の材質として、高温に耐えることができ、また、化学薬品に対する耐腐食性に優れているという観点から従来ガラス製の容器が用いられてきた。
【0003】
近年では、リサイクル性、安全性等の観点から、従来のガラス製の容器から、断面が多層構造のプラスチック等の樹脂製の容器に切り替わりつつある。
【0004】
特許文献1には、凍結乾燥された医療用薬剤を、プラスチック製の容器本体に収容する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−189492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、プラスチック製のバイアル容器に、凍結乾燥された薬剤に代えて、油性の薬剤を封入すると、樹脂を透過する空気の量よりも油性の薬剤の方が空気の吸収速度が速いため、容器内部が減圧し、バイアル容器の胴部直径が大きい程、容器外部の大気圧がかかり易くなることから、容器が凹む等といった変形が生じてしまうという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、内容物を視認可能なプラスチック製のバイアル容器に於いて、内部に油性の薬剤を封入したとしても、容器内部の減圧により容器が凹む等の変形が生じることのないプラスチック容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明におけるプラスチック製バイアルは、油性の薬剤を充填するプラスチック製バイアルであって、容器の全高をL(mm)、胴回りの直径をW(mm)、弾性率をY(GPa)、肉厚をX(mm)として、W≦14XY+42 L>W X≦1.2を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、油性の薬剤を充填したバイアル容器に於いて、内容物の視認性を妨げることなく油性の薬剤が空気を吸収することがないので、内部の減圧が防止され、容器が凹む等の変形が生じない剛性に優れたプラスチック製容器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るプラスチック製バイアルの縦断面を示す図である。
【図2】図1のプラスチック製バイアルのA部の層構成の好適な一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化乃至省略する。
【0012】
本発明の実施形態に係るプラスチック製バイアルは、油性の薬剤が充填される容器であって、少なくとも1層、好ましくは内外層が、ポリプロピレン系樹脂と、熱可塑性エラストマーとの樹脂組成物からなる樹脂組成物の層を有することを特徴とする。
【0013】
また、本実施形態に係るプラスチック製バイアルは、内容物を視認することができるように、多層積層体として可視光域全域(波長400〜700nm)にわたって55%以上の光線透過率を有する。より好ましい光線透過率の値としては、75%以上であることが好ましい。ここで、光線透過率とは、分光光度計により水を対照に測定した値である。また、ポリプロピレン系樹脂に熱可塑性エラストマーを添加することで、ポリプロピレン系樹脂層の透明性を向上させることができる。さらに、透明性を確保し、視認性を良くするために、容器の断面の肉厚は0.9mm以下であることを要する。
【0014】
なお、透明性の容器は、特に、医薬品、食品分野において需要が多いが、医薬品には、光に不安定な物質があり、そのような医薬品を充填する場合には、着色剤あるいは酸化チタン等の遮光剤を添加することは任意である。
【0015】
樹脂組成物中の主成分であるプロピレン系樹脂は、ポリプロピレン、プロピレン−α・オレフィン共重合体を挙げることができ、さらに詳しくはプロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体を挙げることができるが、この中でもプロピレン−エチレンランダム共重合体が透明性の点で好ましく、エチレン成分が2〜15mol%のMFR(メルトマスフローレイト)が1.0g/10min以上、特に外層に使用する場合は光沢性の点でエチレン成分が4mol%以上、MFRが3.0g/10min以上のプロピレン−エチレンランダム共重合体(r−PP)が好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂としては、耐熱性及び滅菌処理(121℃、30分)の観点から、融点は121℃以上のものが好ましく、医療用又は食品包装用等に用いられている公知の樹脂であれば、特に限定されることなく用いることが可能である。
【0016】
また、熱可塑性エラストマーとしては、エチレンプロピレンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−エチレン−スチレンブロック共重合体(SES)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等)、水素添加スチレン系共重合体(例えば、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−ブチレン・ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、水素添加スチレン−ブタジエンゴム(HSBR)等)、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、等から選ばれた一種又は二種以上をブレンドしたものを挙げることができる。この中で、透明性の点から熱可塑性エラストマーとしては水素添加スチレン−ブタジエンゴムを用いることが望ましい。
【0017】
さらに、熱可塑性エラストマーの添加量は、ポリプロピレン系樹脂と熱可塑性エラストマーとの混合物全体100重量部に対して、30重量部未満であることが好ましく、さらに好適には10〜25重量部であることが好ましい。30重量部より大きい場合には剛性が低くなりすぎるため好ましくない。
【0018】
本発明の実施形態に係るプラスチック製バイアルは、少なくとも1層が、ポリプロピレンと、熱可塑性エラストマーとからなる樹脂組成物の層を有することで、落下衝撃等の耐衝撃性、特に低温時における低温耐衝撃性が高く、さらに、容器表面の光沢性、透明性を向上させることができ、特に最外層に備えることでさらに光沢性の高い容器を得ることができる。
【0019】
本発明の実施形態に係るプラスチック製バイアルは、さらに、外層及び内層の間に、ガスバリア性を有する層、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体、ポリアミド系樹脂、環状オレフィン系樹脂等からなる層を備えることが好ましく、この場合、容器に充填された内容物の酸化や劣化を抑制することができる。なお、上述した内外層、中間層等との間には、公知の接着性樹脂を用いて接着させることができる。
【0020】
次に、図1、図2を参照しながら、本発明の他の実施形態に係るプラスチック製バイアル10の構成例について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るプラスチック製バイアルの縦断面を示す図であり、図2は、図1のプラスチック製バイアルのA部の層構成の好適な一例を示す模式断面図である。これらのプラスチック製バイアルは、公知のブロー成形法により製造することができる。なお、ここではプラスチック製バイアル10を多層構成として扱うが、多層であっても単層であっても良い。
【0021】
本実施形態に係るプラスチック製バイアル10は、自立性を有するため、容器下部に底部5を有する。この底部5は、容器本体の大きさ(容量)との関係を考慮し、少なくとも自立可能な直径を備える必要がある。本発明のプラスチックバイアル10は、内容物を出し入れするための容器口部(又は施栓するための蓋体着脱部)1と、首部2に連なる肩部3と、肩部3と底部5とを繋ぐ胴部4とからなり、胴部4は、首部2、肩部3、底部5と比較して薄肉になっている。容器口部1は、薬剤収容後、注射針を突き刺し可能なゴム栓をし、アルミニウムキャップなどで閉口される。また、自立性のため、胴部4の寸法L1は、容器10の全高Lの3分の1以上を有することが好ましく、胴回りの直径Wは、容器の全高Lより低いことが好ましい。
【0022】
また、プラスチック製バイアル10は、自立性を有し、油性薬剤封入後に減圧による変形を防止するため、容器の全高 L(mm)、胴回りの直径 W(mm)、弾性率 Y(GPa)、肉厚 X(mm)は、下記式を満たす必要がある。
<数式1>
W≦14XY+42
L>W
X≦1.2
【0023】
本発明の他の実施形態に係るプラスチック製バイアル10は、油性の薬剤が収納される容器であり、図2に示すように、内層6は、プラスチック製バイアル10の内側を構成する層であり、プラスチック製バイアル10に収納される油性の薬剤と接する側の層である。外層8は、プラスチック製バイアル10の外側を構成する層であり、外気と接する側の層である。また、内層6と外層8との間には中間層7を備える。中間層7は、ガスバリア性を有する樹脂で構成され、EVOHを好適に用いることができる。EVOHからなる中間層7の厚みは、全体の厚みの15%以下とすることが好ましい。EVOHの厚みが15%より大きいと、耐衝撃性が悪くなるため好ましくない。
【0024】
なお、各層の樹脂には、帯電防止剤、滑剤、酸素吸収剤や酸化防止剤などを添加することも可能である。酸素吸収剤や酸化防止剤は、樹脂材料又はゴム材料の分野において通常使用されるものであれば特に制限せず、公知の材料が適用可能である。これらの添加剤は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
[実施例]
以下、本発明の実施例と比較例を説明する。以下で示す条件にてそれぞれブロー成形にて全高を87.5mmとして成形を行い、成形後の容器について透明性と、油性薬剤封入後の変形の評価を行った。なお、弾性率は23℃(JIS K 7161)の規格に基づいて測定を行い、各層を構成する物性値の密度は、JIS K 7112、MFRは、JIS K 7120に基づいて測定を行い、融点はDSCのピーク値から判断を行った。また、胴回りの直径については、ノギスを用いて5箇所の測定を行い、平均した値とした。
【0026】
[実施例1]
内外層にポリプロピレン(密度:0.89g/cm3、MFR(230℃、2.16kg):3.43g/10min、融点132℃)を97重量部と、水素添加−スチレンブタジエンゴム(密度:0.89g/cm3、MFR(230℃、2.16kg):3.5g/10min)を3重量部それぞれを混合した組成物1、中間層にエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(密度:1.21g/cm3、MFR(230℃、2.16kg):8g/10min、融点188℃)を用いて、内外層の膜比率が1:1、中間層が全体の膜厚に対して10%となるようにし、胴回りの直径50mm、肉厚0.8mmとして容器を作製した。このときの弾性率は0.85GPaであった。
【0027】
[実施例2]
実施例1の容器を、直径51mmに変更した他は同じ条件にて容器を作製し評価を行った。
【0028】
[実施例3]
実施例1の容器を、肉厚1.2mmに変更した他は同じ条件にて容器を作製し評価を行った。
【0029】
[実施例4]
実施例1の容器を、中間層の比率を15%にし、弾性率1.01GPaに変更した他は同じ条件にて容器を作製し評価を行った。
【0030】
[実施例5]
ポリプロピレン(密度:0.89g/cm3、MFR(230℃、2.16kg):3.43g/10min、融点132℃)のみを用いて、胴回りの直径47mm、肉厚1.2mmにて容器を作製した。このときの弾性率は、0.75GPaであった。
【0031】
[実施例6]
実施例1の組成物1を、ポリプロピレンと水素添加−スチレンブタジエンゴムとの混合比を90:10に変更した組成物2で、他は同じ条件にて容器を作製し評価を行った。なお、作製した容器の弾性率は、0.79GPaであった。
【0032】
[実施例7]
内外層にポリプロピレン(密度:0.89g/cm3、MFR(230℃、2.16kg):3.43g/10min、融点132℃)を90重量部と、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(密度:0.89g/cm3、MFR(230℃、2.16kg):4.5g/10min、)を10重量部それぞれ混合した組成物3、中間層にエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(密度:1.21g/cm3、MFR(230℃、2.16kg):8g/10min、融点188℃)を用いて、内外層の膜比率が1:1、中間層が全体の膜厚に対して10%となるようにし、胴回りの直径50mm、肉厚0.8mmとして容器を作製した。このときの弾性率は0.76GPaであった。
【0033】
[比較例1]
実施例1の容器を、直径52mmに変更した他は同じ条件にて容器を作製し評価を行った。
【0034】
[比較例2]
実施例1の容器を、肉厚1.5mに変更した他は同じ条件にて容器を作製し評価を行った。
【0035】
[比較例3]
実施例1の組成物1を、ポリプロピレンと水素添加−スチレンブタジエンゴムとの混合比を50:50に変更した組成物4で、他は同じ条件にて容器を作製し評価を行った。なお、作製した容器の弾性率は、0.60GPaであった。
【0036】
[比較例4]
実施例7の容器を、直径52mmに変更した他は同じ条件にて容器を作製し評価を行った。このときの弾性率は0.76GPaであった。
【0037】
[実験方法]
(変形)
真円状に作製される容器に対して、成形後1日経過後の平均胴直径、油性薬剤を入れ60℃で6ヶ月放置した後の最小胴直径をそれぞれノギスにて測定し、成形後1日経過後の胴直径に対する油性薬剤封入後の胴直径の変化の割合を変形率として算出した。
なお、変形についての評価基準は下記の通りとした。
○:胴直径に対して3%未満
△:胴直径に対して3%以上〜5%未満変形する
×:胴直径に対して5%以上変形する
【0038】
(透明性)
島津製作所株式会社 UV−2400PCを用いて、試験容器を水中に入れて、450nmの波長の光線を照射し、その透過率を測定した。
なお、水中での透明性についての評価基準は下記の通りとした。
○:水中450nmで65%以上
△:水中450nmで55%以上〜65%未満
×:水中450nmで55%未満
【0039】
【表1】

【0040】
以上説明したように、本発明によれば、内部の減圧による容器の変形が防止され、容器が凹む等の変形が生じなることなく、透明性に優れたプラスチック製容器を得ることができる。
【0041】
以上、本発明の好適な実施の形態により本発明を説明した。ここでは特定の具体例を示して本発明を説明したが、特許請求の範囲に定義された本発明の広範囲な趣旨及び範囲から逸脱することなく、これら具体例に様々な修正及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 口部(蓋体着脱部)
2 首部
3 肩部
4 胴部
5 底部
6 内層
7 中間層
8 外層
10 プラスチック製バイアル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性の薬剤を充填するプラスチック製バイアルであって、
容器の全高をL(mm)、胴回りの直径をW(mm)、弾性率をY(GPa)、肉厚をX(mm)として、
W≦14XY+42
L>W
X≦1.2
を満たすことを特徴とするプラスチック製バイアル。
【請求項2】
ポリプロピレン系樹脂に、水素添加スチレン−ブタジエンゴム30重量部未満を混合してなる樹脂組成物からなる内外層と、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂からなる中間層と、を有することを特徴とする請求項1記載のプラスチック製バイアル。
【請求項3】
中間層の厚みが全体の厚みの15%以下であることを特徴とする請求項2記載のプラスチック製バイアル。
【請求項4】
ブロー成形により成形されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプラスチック製バイアル。

【図1】
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【図2】
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