説明

プラスチック製ヘルドおよびその製造方法

【課題】 射出成形により立体構造を簡単に形成することができ、かつ、経糸を直線的に通過させることができて、経糸の摩擦損傷を劇的に減少させることができるプラスチック製ヘルドおよび製造方法を提供すること。
【解決手段】 ヘルド本体1の両端部11・11には係合部11aをそれぞれ設け、かつ、このヘルド本体1の中央部には所定長さの糸挿通部2を形成して、この糸挿通部2はその厚みを端部から中央にかけて長手方向に逓増しつつ傾斜させて、かつ、この傾斜面は一方の側辺にかけても傾斜せしめ、これら隣向するヘルド本体1の糸挿通部2の両傾斜面が平行面空間を形成するように四辺形断面を形成する一方、
前記糸挿通部2の略中央部において、上下を連結する一対の架橋軸21・21を設け、これら架橋軸21・21の間に、経糸Yが挿通可能なメール22を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織機の経糸作動に用いるヘルド(綜絖)の改良、更に詳しくは、射出成形により立体構造を簡単に形成することができ、かつ、経糸を直線的に通過させることができて、経糸の摩擦損傷を劇的に減少させることができるプラスチック製ヘルドおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、織物を織機で製造する場合には、多数のヘルドをヘルド枠に吊架配列して、ヘルドに開設されたメールに経糸を挿通し、これら所要のヘルドを昇降運動させ開口動作させながら経糸を順次送り出していく。
【0003】
従来のヘルドとしては、金属板を長手形状に打ち抜いた後に、中心部分に経糸を挿通するメールとなる孔部を設けて、更にこの中心部分を局部的に捩じって成形したものや(例えば、特許文献1)、局部的に屈曲せしめて整形したもの(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0004】
しかしながら、かかるヘルドは、金属材料であるため厚みが一定であり、成形上の制約が大きいという問題があった。また、構造上においても、経糸がメールを通過する際に、このメールの内側縁部や、隣接して設置されたヘルドの突出部分に擦過することにより、糸が擦れて毛羽立ったり、あるいは、糸に糊付けされた糊が落ちてしまうというおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−299432号公報(第2−4頁、図1)
【特許文献2】特開平6−316832号公報(第4−6頁、図3−5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の織機用ヘルドにおいて、上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、射出成形により立体構造を簡単に形成することができ、かつ、経糸を直線的に通過させることができて、経糸の摩擦損傷を劇的に減少させることができるプラスチック製ヘルド、および製品強度の品質満足に適した製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添付図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0008】
即ち、本発明は、プラスチック材料を射出成形して作製される織機用のヘルドであって、ヘルド本体1の両端部11・11には係合部11aをそれぞれ設け、かつ、このヘルド本体1の中央部には所定長さの糸挿通部2を形成して、
この糸挿通部2はその厚みを端部から中央にかけて長手方向に逓増しつつ傾斜させて、かつ、この傾斜面は一方の側辺にかけても傾斜せしめ、これら隣向するヘルド本体1の糸挿通部2の両傾斜面が平行面空間を形成するように四辺形断面を形成する一方、
前記糸挿通部2の略中央部において、上下を連結する一対の架橋軸21・21を設け、一方の架橋軸21を隅角縁部2Aから持出成形して、かつ、他方の架橋軸21を前記隅角縁部2Aとの対角対称位置にある隅角縁部2Bから持出成形して、これら架橋軸21・21の間に、経糸Yが挿通可能なメール22を形成するとともに、
当該架橋軸21・21の両内側壁面21a・21a同士を互いに平行して、かつ、ヘルド本体1の平坦部表面とも平行に構成するという技術的手段を採用したことによって、プラスチック製ヘルドを完成させた。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ヘルド本体1の係合部11aの側傍にスペーサ突起12を成形するという技術的手段を採用することができる。
【0010】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ヘルドのプラスチック材料を、ポリアセタールにするという技術的手段を採用することができる。
【0011】
更にまた、本発明は、プラスチック材料を射出成形機を用いて織機用のヘルドを製造する方法であって、ヘルド本体1の両端部11・11には係合部11aをそれぞれ設け、かつ、このヘルド本体1の中央部には所定長さの糸挿通部2を形成して、この糸挿通部2の厚みを端部から中央にかけて長手方向に逓増しつつ傾斜せしめて、かつ、この傾斜面は一方側の側辺にかけても傾斜せしめ、これらヘルド本体1が配列されてヘルド列を形成したときに両傾斜面が平行面空間を形成するように四辺形断面を形成する一方、
前記糸挿通部2の略中央部において、上下を連結する一対の架橋軸21・21を設け、一方の架橋軸21を隅角縁部2Aから持出成形して、かつ、他方の架橋軸21を前記隅角縁部2Aとの対角対称位置にある隅角縁部2Bから持出成形して、これら架橋軸21・21の間に、経糸Yが挿通可能なメール22を形成するとともに、
当該架橋軸21・21の両内側壁面21a・21a同士を互いに平行せしめて、かつ、ヘルド本体1の平坦部表面とも平行に構成するとき、
前記射出成形機のキャビティには、2箇所の樹脂注入ゲートが設けられており、これらのゲートがヘルド本体1の中心から異なる距離にそれぞれ形成されており、キャビティ内に注入した溶融樹脂の接合点を中心から偏倚せしめるという技術的手段を採用することによって、プラスチック製ヘルドの製造方法を完成させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明にあっては、ヘルド本体の両端部には係合部をそれぞれ設け、かつ、このヘルド本体の中央部には所定長さの糸挿通部を形成して、この糸挿通部はその厚みを端部から中央にかけて長手方向に逓増しつつ傾斜せしめて、かつ、この傾斜面を一方側の側辺にかけても傾斜せしめ、これら隣向するヘルド本体1の糸挿通部2の両傾斜面を平行面空間を形成するように四辺形断面を形成する一方、前記糸挿通部の略中央部において、上下を連結する一対の架橋軸を設け、一方の架橋軸を隅角縁部から持出成形して、かつ、他方の架橋軸を前記隅角縁部との対角対称位置にある隅角縁部から持出成形することによって、
これら架橋軸の間に、経糸が挿通可能なメールを形成するとともに、当該架橋軸の両内側壁面同士を互いに平行せしめて、かつ、ヘルド本体の平坦部表面とも平行に構成することができる。
【0013】
したがって、本発明のヘルドを使用することにより、経糸を直線的に通過させることができて、経糸の摩擦損傷を劇的に減少させることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法によれば、射出成形により立体構造を簡単に形成することができ、しかも、製品強度の品質満足に適したヘルドを成形することができることから、産業上の利用価値は頗る大きいと云える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態のヘルドを表わす全体斜視図である。
【図2】本発明の実施形態のヘルドの糸挿通部を表わす部分拡大斜視図である。
【図3】本発明の実施形態のヘルドの糸挿通部を表わす部分拡大斜視図である。
【図4】本発明の実施形態のヘルドの糸挿通部を表わす上面断面図である。
【図5】本発明の実施形態のヘルドの使用状態を表わす上面断面図である。
【図6】本発明の実施形態の製造方法によるヘルド構造を表わす説明正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて、更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0017】
本発明の実施形態を図1から図6に基づいて説明する。図中、符号1で指示するものはヘルド本体であって、このヘルド本体1は、プラスチック材料(本実施形態ではアセタール系樹脂(特にポリアセタール))を射出成形して作製される織機用のヘルドであって、両端部11・11には係合部11aがそれぞれ設けられている。プラスチック材料は、外力を加えて変形させてから、力を取り除いてもその変形回復が瞬間的でなく、徐々に変形が回復する、所謂「弾性余効」性質を呈することから、運動するヘルドに特に適している。
【0018】
また、符号2で指示するものは糸挿通部であり、この糸挿通部2は、略中央部に経糸Yが挿通するメール22が形成されている。
【0019】
しかして、本発明における織機用のヘルドは、公知の射出成形機を用いて製造するものであって、まず、図1に示すように、ヘルド本体1の両端部11・11には係合部11aをそれぞれ設ける。この係合部11aは、織機のヘルドフレームに止着固定する部分であって、その形状は、O形、C形、J形などに形成することができる。
【0020】
本実施形態では、ヘルド本体1の係合部11aの側傍にスペーサ突起12を成形することができ、複数のヘルドを隣接して設置する際に、完全な接触を避けて経糸通過のための適度な距離を保持することができる。また、帯電を防止することもできる。なお、このスペーサ突起12は、三角柱形状や半球形状などに形成することができる。
【0021】
そして、前記ヘルド本体1の中央部には、所定長さの糸挿通部2を形成する(図2参照)。この際、糸挿通部2をその厚みを端部から中央にかけて長手方向に逓増しつつ傾斜せしめる。具体的サイズとしては、高さ1.20(mm):長さ30.0(mm)(=1:25)程度の勾配を設けることができる。このように構成することによって、中央部分にかけて一様に滑らかな表面を形成することができるとともに、後述する架橋軸21が外側に突出するのを防止することができる。
【0022】
また、糸挿通部2における傾斜面は、一方側の側辺にかけても傾斜している。具体的サイズとしては、高さ0.17(mm):幅3.20(mm)(=1:18.8)程度の勾配を設けることができる。このような傾斜を設けたことにより、隣接するヘルドの側面に経糸が接触しても、抵抗を減少させることができる。
【0023】
このようにして、これらヘルド本体1が配列されてヘルド列を形成したときに両傾斜面が平行面空間を形成するように四辺形断面を形成することができる。
【0024】
そして、前記糸挿通部2の略中央部において、上下を連結する一対の架橋軸21・21を設ける。この際、一方の架橋軸21を隅角縁部2Aから持出成形して、かつ、他方の架橋軸21を前記隅角縁部2Aとの対角対称位置にある隅角縁部2Bから持出成形する。こうすることにより、これら架橋軸21・21の間に、経糸Yが挿通可能なメール22を形成する(図3参照)。
【0025】
この際、当該架橋軸21・21の両内側壁面21a・21a同士を互いに平行せしめて、かつ、ヘルド本体1の平坦部表面とも平行になるように構成する(図4参照)。
【0026】
以上のように構成したことによって、図5に示すように、メール22内およびヘルド本体1・1間に、複数の経糸を直線的にスムースに通過させることができて、経糸の摩擦損傷を劇的に減少させることができる。
【0027】
なお、本実施形態では、上記ヘルドを製造する際に、前記射出成形機のキャビティにおいて、2箇所の樹脂注入ゲートG・Gを設け、これらのゲートをヘルド本体1の中心から異なる距離にそれぞれ形成することによって、キャビティ内に注入した溶融樹脂の接合点Pを中心から偏倚せしめることができる(図6参照)。
【0028】
このような方法で製造することにより、接合点Pがヘルド全体の中央に該当する架橋軸21(またはその近傍)になることを防止することができるので、樹脂接合部における強度不足を回避することができる。
【0029】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、ヘルドに採用するプラスチック材料は、ポリアセタールに限らず、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(GPPS)、スチレン(ABS)、メタクリル(PMMA)塩化ビニル(PVC)ポリアミド(PA)などの熱可塑性樹脂や、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)液晶ポリマー(LCP)などのエンジニアリングプラスチックを、弾性を有する範囲内で使用することができ、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0030】
1 ヘルド本体
11 端部
11a 係合部
12 スペーサ突起
2 糸挿通部
21 架橋軸
21a 内側壁面
22 メール
2A・2B 隅角縁部
Y 経糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料を射出成形して作製される織機用のヘルドであって、
ヘルド本体1の両端部11・11には係合部11aがそれぞれ設けられており、かつ、このヘルド本体1の中央部には所定長さの糸挿通部2が形成されており、
この糸挿通部2はその厚みが端部から中央にかけて長手方向に逓増しつつ傾斜しており、かつ、この傾斜面は一方の側辺にかけても傾斜しており、これら隣向するヘルド本体1の糸挿通部2の両傾斜面が平行面空間を形成するように四辺形断面を形成している一方、
前記糸挿通部2の略中央部において、上下を連結する一対の架橋軸21・21が設けられており、一方の架橋軸21が隅角縁部2Aから持出成形され、かつ、他方の架橋軸21が前記隅角縁部2Aとの対角対称位置にある隅角縁部2Bから持出成形されており、これら架橋軸21・21の間に、経糸Yが挿通可能なメール22が形成されているとともに、
当該架橋軸21・21の両内側壁面21a・21a同士が互いに平行して、かつ、ヘルド本体1の平坦部表面とも平行に構成されていることを特徴とするプラスチック製ヘルド。
【請求項2】
ヘルド本体1の係合部11aの側傍にスペーサ突起12が成形されていることを特徴とする請求項1記載のプラスチック製ヘルド。
【請求項3】
ヘルドのプラスチック材料が、ポリアセタールであることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック製ヘルド。
【請求項4】
プラスチック材料を射出成形機を用いて織機用のヘルドを製造する方法であって、
ヘルド本体1の両端部11・11には係合部11aをそれぞれ設け、かつ、このヘルド本体1の中央部には所定長さの糸挿通部2を形成して、この糸挿通部2の厚みを端部から中央にかけて長手方向に逓増しつつ傾斜せしめて、かつ、この傾斜面は一方側の側辺にかけても傾斜せしめ、これらヘルド本体1が配列されてヘルド列を形成したときに両傾斜面が平行面空間を形成するように四辺形断面を形成する一方、
前記糸挿通部2の略中央部において、上下を連結する一対の架橋軸21・21を設け、一方の架橋軸21を隅角縁部2Aから持出成形して、かつ、他方の架橋軸21を前記隅角縁部2Aとの対角対称位置にある隅角縁部2Bから持出成形して、これら架橋軸21・21の間に、経糸Yが挿通可能なメール22を形成するとともに、
当該架橋軸21・21の両内側壁面21a・21a同士を互いに平行せしめて、かつ、ヘルド本体1の平坦部表面とも平行に構成するとき、
前記射出成形機のキャビティには、2箇所の樹脂注入ゲートが設けられており、これらのゲートがヘルド本体1の中心から異なる距離にそれぞれ形成されており、キャビティ内に注入した溶融樹脂の接合点を中心から偏倚せしめることを特徴とするプラスチック製ヘルドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162926(P2011−162926A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29642(P2010−29642)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(390014029)株式会社八木熊 (31)