説明

プラズマディスプレイパネルの点灯検査方法および検査用表示装置

【課題】点灯検査の所要時間を短縮する。
【解決手段】画面の点灯状態の良否を判定するために、画面内の全セルを点灯すべきセルとする第1サブフレームと全セルを点灯すべきでないセルとする第2サブフレームの両方または片方から構成されるフレームが繰り返し表示される。第1サブフレームを表示するために、各セルにおける走査維持電極とアドレス電極との間に書込みアドレッシングのための壁電荷を形成するアドレッシング準備操作と、複数のアドレス電極を一括して非選択電位に保った状態でセルにライン順次にスキャンパルスを印加する全面アドレッシング操作と、セルに一斉にサステインパルスを印加するサステイン操作とを順が順に行われる。第2サブフレームを表示するために、画面内の各セルにおける走査維持電極とアドレス電極との間に残存する壁電荷を減少させるリセット操作と、全面アドレッシング操作と、サステイン操作とが順に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー表示の可能なAC型のプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法および検査用表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルは、前面基板と背面基板とに挟まれかつ隔壁で区画されたガス封入空間をもち、ガス放電によって赤、緑および青の3色の紫外線励起型蛍光体を選択的に発光させてカラー表示を行う。蛍光体を発光させる表示放電は、いわゆる面放電形式の放電(以下、これを面放電という)である。面放電はマトリクス表示領域である画面の水平方向に沿って平行に延びる第1および第2の表示電極の電極間で生じる。表示電極は一般に前面基板に配列され、マトリクス表示の行にそれぞれ対応する表示ラインを画面内に定める。画面には表示ラインと交差するようにアドレス電極が配列され、表示ラインとアドレス電極との交点のそれぞれに表示素子であるセルが対応する。
【0003】
典型的な画面の色配列は、赤、緑および青が水平方向に沿って並ぶいわゆるストライプ配列である。ストライプ配列の画面において、マトリクス表示の各列に対応する垂直セル列に属するセルの発色は同じであり、隣接する垂直セル列の間では発色が異なる。各垂直セル列には1本のアドレス電極が対応する。すなわち、各アドレス電極には赤、緑および青の3色のうちのいずれか1色が対応する。
【0004】
プラズマディスプレイパネルを製造する工場では、完成したプラズマディスプレイパネルに対する点灯検査が行われる。従来の検査では、全セルを点灯させる全面白色表示が行われ、その後またはその前に1つの色のセルを全て点灯させる単色表示が3色について順に行われる。これらの表示を検査担当者が観察してプラズマディスプレイパネルの良否を判別する。全面白色表示中には、主として暗いセル(暗点)および目立って明るいセル(輝点)の有無が調べられる。そして、単色表示中には、表示色に対応したアドレス電極の断線の有無が調べられる。
【0005】
白色表示による点灯検査に関して、CCDカメラを用いて検査を自動化することが特許文献1において提案されている。また、同文献には、プラズマディスプレイパネルのエージングに際して、矩形状のプラズマディスプレイパネルの4辺に沿ってそれぞれ配置された4つの端子群に4つの長尺の外部電極(電極バー)の1つずつを接触させた状態で、これら4つの電極バー及び端子群を介して、プラズマディスプレイパネルの電極に電圧を印加することが記載されている。
【特許文献1】特開2006−100122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
単色表示を行うには、総数が画面の水平解像度の3倍である多数のアドレス電極をそれらに対応するセルの色ごとに個別に制御しなければならない。白色表示とは違って多数のアドレス電極を共通接続して一括に駆動回路と接続することができない。このため、点灯検査に際しては、アドレス電極の端子群に対応した端子群を有する配線板を用いてアドレス電極と駆動回路とが接続される。使用される駆動回路はアドレス電極に対する個別の電位制御を可能にするドライバを備えている。一般に、端子の配列間隔は200μm以下と小さいので、プラズマディスプレイパネルに対する配線板の位置決めは難しい。今後、画面の高精細化が進むと、ますます位置決めは難しくなり位置決め作業の所要時間が長くなる。
【0007】
また、アドレス電極の断線の有無を調べるために3色について1色ずつ計3回の単色表示を行うには、それ相応の時間が必要である。
【0008】
さらに、適応するドライバが異なる複数機種のプラズマディスプレイパネルを検査する場合に、機種に応じて駆動回路を交換しなければならなかった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされ、複数のアドレス電極に対する個別の電位制御を不要にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する方法は、ガス封入空間を挟む第1基板および第2基板、前記第1基板上に平行に配列されて画面内にマトリクス表示の表示ラインを定める複数の維持電極および複数の走査維持電極、前記維持電極および走査維持電極を被覆する第1絶縁体層、前記第2基板上に配列されて前記維持電極および走査維持電極と交差する複数のアドレス電極、および前記アドレス電極を被覆する第2絶縁体層を有し、前記複数のアドレス電極のそれぞれに前記画面を構成する発色の異なる3種のセルのうちの1種のセルが対応するプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法であって、前記画面の点灯状態の良否を判定するために、前記画面内の全セルを点灯すべきセルとする2値画像である第1サブフレームと前記画面内の全セルを点灯すべきでないセルとする2値画像である第2サブフレームの両方または片方から構成されるフレームを繰り返し表示し、その際に前記第1サブフレームを表示するために、前記画面内の各セルにおける走査維持電極とアドレス電極との間に書込みアドレッシングのための壁電荷を形成するアドレッシング準備操作と、前記複数のアドレス電極を一括して非選択電位に保った状態で前記画面内のセルにライン順次にスキャンパルスを印加する全面アドレッシング操作と、前記画面内のセルに一斉にサステインパルスを印加するサステイン操作とを順に行い、かつ前記第2サブフレームを表示するために、前記画面内の各セルにおける走査維持電極とアドレス電極との間に残存する壁電荷を減少させるリセット操作と、前記全面アドレッシング操作と、前記サステイン操作とを順に行うものである。点灯状態の良否の判定手段は任意である。作業者が目視の結果に基づいて判定することができ、画像認識技術を用いて判定を自動化することもできる。
【0011】
この方法による点灯検査では、画面内の全セルを対象とした点灯制御が連続的に行われる白色表示と、非点灯表示が連続的に行われる黒色表示と、点灯制御が断続的に行われかつ点灯制御と次の点灯制御との間に非点灯制御が行われる灰色表示とにおける良否判定を行うことができる。灰色表示における表示色は白色表示よりも暗い白色(灰色)、すなわち中間調の無彩色である。ただし、画面の明るさは単位時間あたりの点灯回数に依存する。なお、ここでいう点灯制御とは、セルが正常である場合にそれが点灯するような駆動制御を意味する。非点灯制御とは、セルが正常であったとしてもそれが点灯しないような駆動制御を意味する。全セルが正常であれば、点灯制御が行われる度に全セルが点灯する。
【0012】
画面全体にわたって明るさおよび表示色が一様であれば点灯状態は良好であり、プラズマディスプレイパネルを良品とすることができる。これに対して、顕著な暗点または輝点があれば点灯状態は不良である。また、電極の断線によって現れる水平方向または垂直方向の暗い線があった場合も点灯状態は不良である。
【0013】
アドレス電極の断線は表示色の乱れとして現れる。アドレス電極の断線がなければ、隣接する3列の組の表示色は上述のように無彩色である。しかし、当該組の中の例えば赤の列に対応するアドレス電極が断線していると、赤のセルは点灯しないので、当該組の表示色は赤の補色(シアン)となる。そして、この表示色は有彩色である。当該組の中の2列が点灯しない場合には、当該組の表示色は残りの一つの列の発色となる。これも有彩色である。無彩色の背景に有彩色の線が現れる表示色の乱れは、目視において目立つので見つけ易い。有彩色が何色かを判別することで、どの発色に対応するアドレス電極が断線したかがわかる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、色の異なる3種の単色表示を順に行うことなくアドレス電極の断線の有無を確認することができるので、複数のアドレス電極に対する個別の電位制御が必要な単色表示を省略することができる。
【0015】
また、複数のアドレス電極を電気的に共通化して駆動回路に接続してもよいので、接続作業が容易になるとともに、アドレス電極の電位を切り換える必要がないので、アドレス電極用のドライバが不要になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
プラズマディスプレイパネルを製造する工場において、作業者が図1に示す検査用表示装置1を使用して目視による点灯検査を行う。検査用表示装置1は、所定のスイッチ操作または外部装置からの信号入力に呼応して後述のフレームを表示する。作業者は、フレームを表示している状態の画面を観察し、セルの欠陥や電極の断線といった不具合の有無を判定する。
【0017】
検査対象であるAC型のプラズマディスプレイパネル2は、カラー表示の可能な画面50を有する。画面50において、交互に配列された維持電極である第1の表示電極Xおよび走査維持電極である第2の表示電極Yが水平方向に延び、アドレス電極Aが垂直方向に延びる。表示電極Xおよび表示電極Yは画面50内に表示ラインを定め、各表示ラインにおいて面放電形式の表示放電を生じさせるための電極対を構成する。表示電極対とアドレス電極Aとの交差部にそれぞれセルが画定される。各アドレス電極Aには発色の異なる3種のセルのうちの1種のセルが対応する。画面50の仕様が例えばフルハイビジョン仕様である場合、表示ライン数は垂直解像度と同数の1080で、アドレス電極Aの総数は水平解像度の3倍の5760である。
【0018】
検査用表示装置1は、表示電極Xに電圧パルスを印加するXドライバ61、表示電極Yに電圧パルスを印加するYドライバ62、ドライバによるパルス印加を制御するコントローラ65、放電のための電力を供給する電源回路66、およびプラズマディスプレイパネル2との電気的接続のためのコンタクト部材67,68,69を備える。検査用表示装置1は、アドレス電極Aにパルスを印加するドライバを有していない。Yドライバ62は、アドレッシング準備操作またはリセット操作のためのパルスを印加するリセット回路620、スキャンパルスを印加するスキャンニング回路621およびサステインパルスを印加するサステイン回路622を有する。コントローラ65は、後述する第1サブフレームを表示するための制御部651および第2サブフレームを表示するための制御部652を有する。制御部651,652は、あらかじめ波形データを記憶しているメモリを参照してプラズマディスプレイパネル2に所定の駆動電圧を印加するようにXドライバ61およびYドライバ62を制御する。
【0019】
Xドライバ61はコンタクト部材67を介して複数の表示電極Xを一括に駆動する。コンタクト部材67は金属繊維からなる導体であり、プラズマディスプレイパネル2の水平方向の一方側の端縁に沿って配置された表示電極Xの端子列に対応する長さをもつ。コンタクト部材67を端子列に重ねることによって、多数の表示電極Xが電気的に共通化される。
【0020】
Yドライバ62はコンタクト部材68を介して複数の表示電極Yを個別に駆動する。コンタクト部材68は、各表示電極Yに対応する導体パターンを有した配線板であり、プラズマディスプレイパネル2の水平方向の他方側の端縁に沿って配置された表示電極Yの端子列に重ねられる。各表示電極Yは個別にYドライバ62と接続される。
【0021】
多数のアドレス電極Aは金属繊維からなるコンタクト部材69を介して一括に非選択電位に保たれる。本例では、非選択電位は接地電位、厳密には電源回路66の接地端子の電位である。コンタクト部材69はプラズマディスプレイパネル2の垂直方向の片側の端縁に沿って配置されたアドレス電極Aの端子列に対応する長さをもつ。コンタクト部材69を端子列に重ねることによって、全てのアドレス電極Aが電気的に共通化され、接地端子に接続される。
【0022】
点灯検査の準備として、検査用表示装置1に搬入されたプラズマディスプレイパネル2の周辺部の所定位置にコンタクト部材67,68,69が重ねられ、例えば図示しないクリップでプラズマディスプレイパネル2に固定される。このとき、コンタクト部材67およびコンタクト部材69については、それぞれが共通化すべき端子群と接触すればよく、高精度の位置決めは不要である。特にアドレス電極Aの端子の配列ピッチは表示電極X,Yの端子の配列ピッチよりも小さいので、アドレス電極Aの端子群を電気的に一括してもよいということは、検査用表示装置1とプラズマディスプレイパネル2との接続の迅速化に貢献する。
【0023】
点灯検査において、プラズマディスプレイパネル2が接続された検査用表示装置1は、図2に示されるフレームFを例えばフレームレート1/60で繰り返し表示する。フレームFは、画面内の全セルを点灯すべきセルとする2値画像である第1サブフレームSF1と、全セルを点灯すべきでないセルとする2値画像である第2サブフレームSF2とから構成される。第1サブフレームSF1の数と第2サブフレームSF2の数は等しく、フレームFのサブフレーム数は偶数である。
【0024】
例えば、フレームFは、5個の第1サブフレームSF1と5個の第2サブフレームSF2の計10個のサブフレームで構成される。約16.7msのフレーム周期Tfが均等に10分割され、各第1サブフレームSF1と各第2サブフレームSF2とに約1.67msの時間が割り当てられる。そして、第1サブフレームSF1および第2サブフレームSF2は一つずつ交互に表示される。これにより、画面50に欠陥がなければ、全体的な目視観察において画面50は白色と黒色の中間の明るさをもつ一様な無彩色の面に見える。
【0025】
第1サブフレームSF1に割り当てられる時間はアドレッシング準備期間TR1とアドレス期間TAとサステイン期間TSとに区分され、第2サブフレームSF2に割り当てられる時間はリセット期間TR2とアドレス期間TAとサステイン期間TSに区分される。第1サブフレームSF1と第2サブフレームSF2との間で、区分された3つの期間のそれぞれの長さは等しく、図3に示されるようにアドレス期間TAおよびサステイン期間TSの駆動波形は共通である。駆動波形が異なるのは第1サブフレームSF1のアドレッシング準備期間TR1と第2サブフレームSF2のリセット期間TR2との間である。
〔第1サブフレームSF1の駆動シーケンス〕
アドレッシング準備期間TR1において、画面50内の各セルにおける表示電極Y(走査維持電極)とアドレス電極Aとの間に書込みアドレッシングのための壁電荷を形成するアドレッシング準備操作が行われる。図3に例示されるアドレッシング準備操作は、いわゆる鈍波リセットの手法を用いて、操作の終了時点で所定量の壁電荷が残存するように壁電荷を制御する。鈍波リセットは、ランプ波形パルスに代表される鈍波パルスの印加によって各セル内で微弱な放電を連続的に生じさせ、それによって誘電体における壁電荷量を調整する。詳しくは図3のように、表示電極Yに対して正のランプ波パルスPr1および負のランプ波パルスPr2が順に印加される。このとき、表示電極間電圧の上昇を早めるために表示電極Xにオフセットバイアスが与えられる。アドレス電極Aの電位は接地電位である。
【0026】
ランプ波パルスPr1の印加によって表示電極Yと表示電極Xとの間および表示電極Yとアドレス電極Aとの間に壁電荷が形成される。ランプ波パルスPr1が正極性であるので、表示電極Yの側の壁電荷の極性は負で、表示電極Xの側およびアドレス電極Aの側の壁電荷の極性は正である。壁電荷量に応じた壁電圧が各電極間に生じる。
【0027】
2番目のランプ波パルスPr2の印加によって、以前に形成された壁電荷が減少する。壁電荷の減少は微小放電が始まってからランプ波パルスPr2の印加終了まで続く。ランプ波パルスPr2の印加は、壁電荷の消去を目的としておらず、アドレス期間TAでのスキャンパルスPyの印加に呼応して放電が生じるのに必要な量の壁電荷が残存する時点で終了する。なお、ランプ波パルスPr2の印加に際して、表示電極Xはランプ波パルスPr2の印加終了時点の表示電極Yとの間の電位差が、第2サブフレームSF2のランプ波パルスPr3の印加終了時点の表示電極Yとの間の電位差と同程度となるようにバイアスされる。
【0028】
アドレス期間TAにおいては、表示ライン数と同数の表示電極Yに対して配列の先頭の1番目から最後のn番目まで1本ずつ順に負極性のスキャンパルスPyが印加され、それによって表示ラインが順番に選択される。アドレス電極Aの電位はアドレス期間TAの全体にわたって接地電位であるが、アドレス期間TAの開始時点で残存する壁電荷による壁電圧にスキャンパルスPyの印加による電圧が重畳するので、スキャンパルスPyが印加される毎に、選択された表示ラインのセルにおける表示電極Yとアドレス電極Aとの間でアドレス放電が生じる。このアドレス放電がトリガーとなって表示電極Yと適切にバイアスされた表示電極Xとの間で放電が生じ、表示電極対を覆う誘電体にサステインに必要な壁電荷が形成される。つまり、第1サブフレームSF1のアドレス期間TAでは、全てのセルが次のサステイン期間TSで点灯するように壁電荷を制御する書き込み形式の全面アドレッシング操作が行われる。
【0029】
サステイン期間TSにおいては、表示電極Yと表示電極Xとに交互にサステインパルスPsが印加される。サステインパルスPsの振幅は面放電開始電圧より若干低いサステイン電圧(Vs)である。第1サブフレームSF1のサステイン期間TSでは、画面50内のセルが正常であれば、サステインパルスPyの印加ごとに表示電極間の放電が生じてセルが点灯する。点灯したセルはそれが有する蛍光体で決まる表示色を呈する。
〔第2サブフレームSF2の駆動シーケンス〕
リセット期間TR2において、画面50内の各セルにおける表示電極Y(走査維持電極)とアドレス電極Aとの間に残存する壁電荷を減少させるリセット操作が行われる。当然ながらリセット操作においてもアドレス電極Aの電位は接地電位である。図3に例示されるリセット操作は鈍波リセットの手法を用いており、上述のアドレッシング準備操作に類似している。駆動波形の上でのアドレッシング準備操作との相違点は、アドレッシング準備操作のランプ波パルスPr2に代えて、リセット期間TR2ではランプ波パルスPr3を印加する点である。リセット操作のランプ波パルスPr3の到達電圧V22の絶対値は、アドレッシング準備操作のランプ波パルスPr2の到達電圧V12の絶対値よりも大きい。
【0030】
ランプ波パルスPr1の印加によって形成された壁電荷がランプ波パルスPr3の印加によって減少する。壁電荷の減少は微小放電が始まってからランプ波パルスPr3の印加終了まで続く。ランプ波パルスPr3の印加は、壁電荷の実質的な消去を目的としており、アドレス期間TAでのスキャンパルスPyの印加に呼応する放電が生じない程度まで壁電荷を減少させる。
【0031】
アドレス期間TAにおいては、第1サブフレームSF1の場合と同様に、表示ライン数と同数の表示電極Yに対して配列の先頭の1番目から最後のn番目まで1本ずつ順に負極性のスキャンパルスPyが印加される。しかし、アドレス電極Aは接地されたままであってアドレス電極Aにパルスは印加されず、しかもスキャンパルスPyの印加による電圧に重畳する壁電圧は零かそれに近いので、表示電極Yとアドレス電極Aとの間のセル電圧は放電開始電圧を超えない。アドレス放電が生じないので、表示電極対を覆う誘電体にはサステインに必要な壁電荷が形成されず、壁電荷量はリセット操作の終了時とほとんど変わらない。つまり、第2サブフレームSF2のアドレス期間TAでは、全てのセルが次のサステイン期間TSで点灯しないように壁電荷の初期化状態を保持する全面アドレッシング操作が行われる。
【0032】
サステイン期間TSにおいては、第1サブフレームSF1の場合と同様に、表示電極Yと表示電極Xとに交互にサステインパルスPsが印加される。画面50内のセルが正常であれば点灯せず、正常でなくても通常は点灯しない。ただし、何らかの要因で余剰点灯が生じる場合はある。
【0033】
次に図4を参照してアドレッシング準備操作とリセット操作との差異をさらに詳しく説明する。図4(A)および(B)では、表示電極Yとアドレス電極Aとの電極間であるYA電極間における印加電圧VdYA、壁電圧VwYAおよびセル電圧VcYAの推移が描かれている。セル電圧VcYAは印加電圧VdYAと壁電圧VwYAの和である。図中の各電圧の極性はアドレス電極Aを基準としており、アドレス電極Aの側の電位に対して表示電極Yの側の電位が高い場合が正、逆の場合が負である。
【0034】
図4(A)において、アドレッシング準備期間TR1の直前のサステイン期間が非点灯期間であるので、アドレッシング準備期間TR1の開始時点の壁電圧VwYAは図中に鎖線で示されるとおりほぼ零である。したがって、図示を省略したがアドレッシング準備期間TR1の開始時点のセル電圧VcYAはほぼ印加電圧VdYAと等しい。ランプ波パルスPr1(図3参照)の印加によって印加電圧VdYAにほぼ等しいセル電圧VcYAがYA電極間の放電開始電圧+VfYAを超えた時点から微小放電が始まる。その後、印加電圧VdYAの上昇を打ち消すように壁電荷が形成され、セル電圧VcYAが放電開始電圧VfYAにほぼ保たれる。ランプ波パルスPr1に続いて反対極性のランプ波パルスPr2が印加されると、微小放電によって壁電荷が徐々に減少するものの、上述したとおりランプ波パルスPr2の到達電圧が低めに選定されているので、所定量の壁電荷が残存する。
【0035】
アドレッシング準備期間TR1に続くアドレス期間TAでは、YA電極間に負の壁電圧VwYAが生じている状態で負のスキャンパルスPyが印加される。これによりセル電圧VcYAが放電開始電圧−VfYAを超えてアドレス放電が生じる。アドレス放電の発生に壁電荷を利用するので、スキャンパルスPyの振幅を放電開始電圧−VfYAよりも大きくする必要はない。
【0036】
一方、図4(B)において、リセット期間TR2の開始時点では、アドレス電極Aの近傍の壁電荷はほぼ零であるが、直前のサステイン期間が点灯期間であって表示電極Yの近傍に壁電荷が残存するので、YA電極間に正の壁電圧VwYAが生じている。リセット期間TR2では、まずランプ波パルスPr1(図3参照)の印加によって壁電圧VwYAの極性を反転させかつアドレッシング準備操作と同様に表示電極Yの近傍に負の壁電荷を形成する。次にランプ波パルスPr3(図3参照)の印加によって壁電荷を十分に減少させる。
【0037】
リセット期間TR2に続くアドレス期間TAでは、YA電極間の壁電圧VwYAがほぼ零の状態でスキャンパルスPyが印加される。セル電圧VcYAは放電開始電圧−VfYAを超えないので、アドレス放電は生じない。
【0038】
以上のように第1サブフィールドSF1および第2サブフレームSF2に適用されるライン順次のアドレッシング操作を含む駆動シーケンスは、プラズマディスプレイパネル2を任意の映像の表示に使用するときの駆動シーケンスに似ており、実使用時の点灯状態を確認する上で有用であるとともに、実使用のための駆動デバイスを点灯検査に流用することができるという利点を有する。フレームFの表示では全セルを一括して点灯させるようにまたは点灯させないように駆動するので、ライン順次の表示ライン選択に代えて全表示ラインに一斉にスキャンパルスPyを印加することが原理的には可能である。しかし、それを行うと、実使用時の駆動形態と大きく異なってしまう。
【0039】
アドレッシング操作の所要時間はスキャンパルス幅と表示ライン数とに依存する。例えばスキャンパルス幅が1μsで表示ライン数が1080である場合の1サブフレームあたりのアドレッシング時間は1.08msである。フレームFが10サブフレーム編成である場合において、1サブフレームに対する割り当て時間は約1.67msであるので、例えばリセット操作およびサステイン操作に順に0.27ms、0.32msを割り当てることができる。表示電極間に交番極性電圧を印加する一対のサステインパルスを1パルスとみなしたパルス幅を10μsとすると、0.32msのサステイン期間TSにおいて64回のサステイン放電を生じさせることができる。
【0040】
プラズマディスプレイパネル2の点灯検査を担当する作業者は、検査用表示装置1がフレームFを繰り返し表示している状態の画面50を例えば数分程度の時間をかけて観察し、セルの欠陥や電極の断線といった不具合の有無を調べる。画面50の全体にわたって明るさおよび表示色が一様であれば点灯状態は良好であり、顕著な暗点または輝点があれば点灯状態は不良である。暗点の多くは表示電極のパターニング不良によって生じる。輝点の主な原因はガス放電空間を区画する隔壁の欠けである。あらかじめプラズマディスプレイパネル2の良否判定の基準が定められており、作業者は観察結果を基準に照らしてプラズマディスプレイパネル2の品質の良否を決める。
【0041】
アドレス電極の断線は表示色の乱れとして現れるので見つけ易い。アドレス電極の断線がなければ、赤、緑および青のセルが点灯するので、表示色は上述のように中間調の無彩色である。しかし、例えば青のセルに対応するアドレス電極Aが断線していると、断線したアドレス電極Aの付近の表示色は青の補色(赤と緑の混色)となる。緑のセルに対応するアドレス電極Aが断線していると、断線したアドレス電極Aの付近の表示色は緑の補色(赤と青の混色)となる。隣接するアドレス電極Aが共に断線していると、断線したアドレス電極Aの付近の表示色は3色のうちのいずれかの単色となる。いずれにしても、画面50において局部的に表示色が有彩色になる。なお、1本のアドレス電極Aとその両隣のものを合わせた3本のアドレス電極Aが断線している場合には、画面50のうちのこれらアドレス電極Aに対応する部分が暗い線として見える。
【0042】
図5はプラズマディスプレイパネル2のセル構造の一例を示す。プラズマディスプレイパネル2は前面板10、背面板20および図示しない放電ガスから構成される。図では内部構造を解り易くするために前面板10と背面板20とを分離させて描いてある。
【0043】
前面板10は、ガラス基板11、第1の表示電極(維持電極)X、第2の表示電極(走査維持電極)Y、誘電体層17、および誘電体層17に対するスパッタリングを防ぐ保護膜18を備える。表示電極X,Yのそれぞれは透明導体と給電のバスである金属帯とからなる。誘電体層17および保護膜18からなる第1の絶縁体は、画面の全体にわたって拡がり、表示電極X,Yを被覆する。
【0044】
背面板20は、ガラス基板21、アドレス電極A、第2の絶縁体としての誘電体層22、格子状の隔壁23、赤(R)の蛍光体26、緑(G)の蛍光体27、および青(B)の蛍光体28を備える。隔壁23は、アドレス電極Aと平行な複数の垂直壁24と、表示電極Xおよび表示電極Yと平行な複数の水平壁25とから構成される。
【0045】
蛍光体の配置で決まる画面の色配列は、水平方向にR,B,Gの順に3色が繰り返し並ぶストライプ配列である。マトリクス表示の各列に対応する垂直セル列ではセルの発色は同じであり、隣接する垂直セル列の間では発色が異なる。各アドレス電極Aには赤、緑および青の3色のうちのいずれか1色が対応する。
【0046】
なお、表示電極X,Yの配列は広く知られる2つの形態のどちらでもよい。1つは、図示のように表示ラインに一対ずつ表示電極を配列して隣接する表示ライン間の電極間隙を各表示ラインにおける電極間隙(面放電ギャップ)よりも広くするものである。他の1つは、表示電極を等間隔に配列して全ての表示電極間隙を面放電ギャップとするものである。また、隔壁パターンは図示の格子パターンに限らずストライプパターンでもよい。
【0047】
以上の実施形態によれば、全面点灯画像である第1サブフレームSF1と全面非点灯画像である第2サブフレームSF2とを交互に表示することによって中間調を表示するので、駆動周波数を低くして全面点灯画像のみを表示する場合と比べて、非点灯であるべきセルが点灯セルからの誘導で点灯する現象(余剰点灯)が生じにくく電極の断線を見つけ易い。
【0048】
また、ランプ波パルスPr2とランプ波パルスPr3とでランプ波の傾きを共通とし傾斜部分の時間の長短で到達電圧V12と到達電圧V22とを異ならせたので、比較的に簡単な構成の回路でアドレッシング準備操作およびリセット操作を実現できる。Yドライバ62のリセット回路620は、正のランプ波パルスPr1を出力するブロックと負のランプ波パルスPr2,Pr3を出力するブロックとを備え、各ブロックは例えばキャパシタとそれを充電する定電流源とを有する。コントローラ65は定電流源のオンオフによって到達電圧を制御する。
【0049】
上述の実施形態において、フレームFにおける第1サブフレームSF1と第2サブフレームSF2の組合せは任意である。灰色表示による検査のためのフレームFのサブフレーム編成はサブフレーム数が2以上であって第1サブフレームSF1および第2サブフレームSF2を含むものであればよい。第1サブフレームSF1の数と第2サブフレームSF2の数とが同数であるのが望ましいが、異なっていてもよい。必ずしも第1サブフレームSF1と第2サブフレームSF2とを一つずつ交互に表示する必要はなく、2以上の第1サブフレームSF1を続けて表示した後に第2サブフレームSF2を表示したり、逆に2以上の第2サブフレームSF2を続けて表示した後に第1サブフレームSF1を表示したりする表示順序を採用することができる。また、第1サブフレームSF1と第2サブフレームSF2とに同じ長さの時間を割り当てる必要もない。サステイン期間TSの長さを第1サブフレームSF1と第2サブフレームSF2とで異ならせてもよい。
【0050】
また、フレームFの全てのサブフレームを第1サブフレームSF1のみで編成することにより白色表示が可能であり、全てのサブフレームを第2サブフレームSF2のみで編成することにより黒色表示が可能である。第1サブフレームSF1と第2サブフレームSF2の組合せを適宜に切り替えることにより、灰色表示だけでなく白色表示および黒色表示における表示検査もあわせて可能となる。
【0051】
作業者が点灯状態の良否を判定する例を挙げたが、画像認識技術を用いて検査を自動化することができる。検査位置へのプラズマディスプレイパネル2のセッティングおよびコンタクト部材67〜69を用いて行う検査用表示装置1とプラズマディスプレイパネル2との電気的接続を自動化してもよいし、作業者が行ってもよい。
【0052】
図示の駆動波形は一例であり、振幅、極性およびタイミングを様々に変更することができる。例えば、サステイン期間TSにおいて、表示電極Xと表示電極Yとに互いに極性の異なるパルスを同時に印加することによって表示電極間にサステイン電圧を印加してもよい。サステイン放電の放電確率を高めるため、サステイン期間の初期のパルス振幅やパルス幅を大きくしてもよい。アドレス電極Aを2分割して2表示ラインを同時に選択するダブルスキャン方式を採用することができる。ランプ波パルスPr2,Pr3の到達電圧V12,V22を選定するにあたって、ランプ波の傾きを異ならせてもよい。非選択電位は接地電位に限らず、零ボルトに近い正または負の電位であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係る検査用表示装置の構成の概略を示す図である。
【図2】検査用表示装置が表示するフレームの構成を示す図である。
【図3】駆動波形の一例を示す図である。
【図4】アドレッシング準備操作およびリセット操作における壁電圧の変化を示す図である。
【図5】プラズマディスプレイパネルのセル構造の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 検査用表示装置
2 プラズマディスプレイパネル
17 誘電体層(第1絶縁体層)
18 保護膜(第1絶縁体層)
22 誘電体層(第2絶縁体層)
X 第1の表示電極(維持電極)
Y 第2の表示電極(走査維持電極)
A アドレス電極
50 画面
SF1 第1サブフレーム
SF2 第2サブフレーム
F フレーム
TR1 アドレッシング準備期間
TR2 リセット期間
TA アドレス期間
TS サステイン期間
Py スキャンパルス
Ps サステインパルス
69 コンタクト部材(導体)
61 Xドライバ
62 Yドライバ
65 コントローラ
651,652 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス封入空間を挟む第1基板および第2基板、前記第1基板上に平行に配列されて画面内にマトリクス表示の表示ラインを定める複数の維持電極および複数の走査維持電極、前記維持電極および走査維持電極を被覆する第1絶縁体層、前記第2基板上に配列されて前記維持電極および走査維持電極と交差する複数のアドレス電極、および前記アドレス電極を被覆する第2絶縁体層を有し、前記複数のアドレス電極のそれぞれに前記画面を構成する発色の異なる3種のセルのうちの1種のセルが対応するプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法であって、
前記画面の点灯状態の良否を判定するために、前記画面内の全セルを点灯すべきセルとする2値画像である第1サブフレームと前記画面内の全セルを点灯すべきでないセルとする2値画像である第2サブフレームの両方または片方から構成されるフレームを繰り返し表示し、その際に
前記第1サブフレームを表示するために、前記画面内の各セルにおける走査維持電極とアドレス電極との間に書込みアドレッシングのための壁電荷を形成するアドレッシング準備操作と、前記複数のアドレス電極を一括して非選択電位に保った状態で前記画面内のセルにライン順次にスキャンパルスを印加する全面アドレッシング操作と、前記画面内のセルに一斉にサステインパルスを印加するサステイン操作とを順に行い、かつ
前記第2サブフレームを表示するために、前記画面内の各セルにおける走査維持電極とアドレス電極との間に残存する壁電荷を減少させるリセット操作と、前記全面アドレッシング操作と、前記サステイン操作とを順に行う
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法。
【請求項2】
前記フレームを表示する期間の全体にわたって前記アドレス電極を前記非選択電位に保つ
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法。
【請求項3】
前記非選択電位は電源の接地端子の電位であり、前記アドレス電極を前記接地端子に接続した状態で前記フレームを表示する
請求項2に記載のプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法。
【請求項4】
前記複数のアドレス電極を、これらの端部を導体で接続することによって、電気的に共通化する
請求項2に記載のプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法。
【請求項5】
前記第1サブフレームと前記第2サブフレームとを交互に表示する
請求項2に記載のプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法。
【請求項6】
前記フレームにおける第1サブフレームと第2サブフレームの組合せを任意に切り替える
請求項2に記載のプラズマディスプレイパネルの点灯検査方法。
【請求項7】
ガス封入空間を挟む第1基板および第2基板、前記第1基板上に平行に配列されて画面内にマトリクス表示の表示ラインを定める複数の維持電極および複数の走査維持電極、前記維持電極および走査維持電極を被覆する第1絶縁体層、前記第2基板上に配列されて前記維持電極および走査維持電極と交差する複数のアドレス電極、および前記アドレス電極を被覆する第2絶縁体層を有し、前記複数のアドレス電極のそれぞれに前記画面を構成する発色の異なる3種のセルのうちの1種のセルが対応するプラズマディスプレイパネルの点灯検査に使用される検査用表示装置であって、
前記維持電極に駆動パルスを印加するXドライバと、
前記走査維持電極に駆動パルスを印加するYドライバと、
前記画面内の全セルを点灯すべきセルとする2値画像である第1サブフレームと前記画面内の全セルを点灯すべきでないセルとする2値画像である第2サブフレームの両方または片方から構成されるフレームを繰り返し表示するように、前記XドライバおよびYドライバを制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記画面内の各セルにおける走査維持電極とアドレス電極との間に書込みアドレッシングのための壁電荷を形成するアドレッシング準備操作と、前記複数のアドレス電極を一括して非選択電位に保った状態で前記画面内のセルにライン順次にスキャンパルスを印加する全面アドレッシング操作と、前記画面内のセルに一斉にサステインパルスを印加するサステイン操作とを前記XドライバおよびYドライバに行わせる、前記第1サブフレームを表示するための制御部と、
前記画面内の各セルにおける走査維持電極とアドレスとの間に残存する壁電荷を減少させるリセット操作と、前記全面アドレッシング操作と、前記サステイン操作とを前記XドライバおよびYドライバに行わせる、前記第2サブフレームを表示するための制御部と有する
ことを特徴とする検査用表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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