説明

プラズマディスプレイパネルの製造装置

【課題】プラズマディスプレイパネルの製造における放電ガスの無駄な消費を低減する。
【解決手段】プラズマディスプレイパネルの製造装置は、製造途中のプラズマディスプレイパネルであるワークに連結される配管用のヘッドと、ヘッドに繋がった管路と、管路に放電ガスを吐出するためのガスボンベと、管路内に残留する放電ガスを回収する放電ガス回収回路とを備える。放電ガス回収回路はカプラを介して管路に対して着脱可能に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマディスプレイパネルの製造装置、特に放電ガス封入工程に用いる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルは、前面板と背面板とで挟まれかつ放電ガスが封入された内部空間を有する。前面板および背面板は電極の配列されたガラス基板である。プラズマディスプレイパネルの製造工程は、別個に作製された前面板および背面板の周辺部どうしをシール材によって接合する封着、内部空間から残留ガスを吸引する真空排気、および内部空間に放電ガスを導入するガス封入を含む。真空排気およびガス封入を行うために、背面板の材料としてあらかじめ通気孔が形成されたガラス基板が用いられる。
【0003】
プラズマディスプレイパネルの量産には、封着と真空排気とガス封入とを連続的に行う装置が適している。この装置は、シール材を溶融させてその後に加熱状態で真空排気をするための全長が数十メートルに及ぶ加熱炉と、処理対象であるワークを積載して連なって移動する複数台の台車とを備える。複数の台車のそれぞれに真空ポンプとともに放電ガスボンベが搭載されており、各台車において一定時間の真空排気と一定圧力のガス封入とが自動的に行われる(特許文献1)。
【0004】
一般に用いられる放電ガスはネオン(Ne)に微量のキセノン(Xe)を混合したペニングガスである。他にも、ヘリウム(He)またはアルゴン(Ar)を含む3成分ガス(Ne+Xe+He,Ne+Xe+Ar)、ヘリウムとキセノンの2成分ガス(He+Xe)、ヘリウムとアルゴンとキセノンの3成分ガス(He+Ar+Xe)、キセノンに代えてまたはキセノンとともにクリプトン(Kr)を混合したガスなどが知られている。
【特許文献1】特開平11−25862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、希少資源である放電ガス成分の枯渇が危惧され、放電ガスの有効利用の重要性が高まっている。有効利用は製造コストの削減にも貢献する。しかし、従来では、放電ガスボンベからワークに至る管路に残存する放電ガスが真空排気されて廃棄物になっていた。本発明はこのような事情に鑑みてなされ、プラズマディスプレイパネルの製造における放電ガスの無駄な消費を低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するプラズマディスプレイパネルの製造装置は、放電ガス封入工程に用いる装置であって、製造途中のプラズマディスプレイパネルであるワークに連結される配管用のヘッドと、前記ヘッドに繋がった管路と、前記管路に放電ガスを吐出するためのガスボンベと、前記管路内に残留する放電ガスを回収する放電ガス回収回路とを備える。前記放電ガス回収回路はカプラを介して前記管路に対して着脱可能に接続される。
【0007】
例えばヘッドを介してワークに繋がった管路を移動させる場合に、カプラの接続を解除することによって管路と放電ガス回収回路とを切り離せば、放電ガス回収回路を移動させる必要がない。
【0008】
好ましい態様では、前記ヘッド、前記カプラの一部であるソケット、および前記管路が取り付けられ、且つ前記ワークおよび前記ガスボンベを積載して移動する台車を備え、前記放電ガス回収回路が、前記カプラの一部であって前記ソケットに連結可能なプラグを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、装置内の管路に残存する放電ガスを回収することができ、放電ガスの無駄な消費を低減することができる。例えば回収した放電ガスを資源として再利用または売却することにより、プラズマディスプレイパネルの製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1および図2において本発明の実施形態として例示する放電ガス封入装置1は、封着と真空排気とガス封入とを連続的に行うプラズマディスプレイパネルの製造のための設備である。図1では放電ガス封入装置1を上方から見た全体構成の概要が示され、図2では要部の構成が示されている。
【0011】
図1において、放電ガス封入装置1は、環状の軌道4、軌道4に沿って延びる加熱炉5、軌道4に案内されて移動する複数の台車10、軌道4に隣接する位置に固定配置された放電ガス回収部30、および当該放電ガス封入装置1を制御する制御部60を備える。加熱炉5は加熱エリア、恒温エリアおよび徐冷エリアをもつ。各台車10には、加熱炉5の入口に到着する以前に処理対象のワークが積載される。台車10に積載されたワークが加熱炉5の内部を通過する間に、封着・真空排気・ガス封入が行われ、さらにガスが封入されたワークの内部空間を完全に密閉する処理が行われる。
【0012】
放電ガス回収部30は加熱炉5の出口付近に配置されており、台車10との配管接続のカプラの一部であるプラグ52を有している。そして、このプラグ52と連結可能なソケット51が各台車10に取り付けられている。各台車10はソケット51とプラグ52とが対向する位置で停止するよう制御される。台車10が停止した状態でソケット51とプラグ52とが自動または手動で連結され、台車10の管路に残存する放電ガスが放電ガス回収部30によって回収される。
【0013】
放電ガスの回収が終わると、放電ガス回収部30から切り離された台車10はワークの取替えのための位置へ進む。ガスの封入されたワークに代わって新たなワークを搭載した台車10は加熱炉5へ向かう。台車10を移動させる図示しない駆動系は制御部60によって制御される。
【0014】
本例において複数の台車10の構成は同一である。図2においては代表として1台の台車10が描かれている。図2を参照して放電ガス封入装置1の要部の構成を詳しく説明する。
【0015】
図2の左半に描かれた台車10は、加熱炉5の内部を通過する多段構成のワーク支持部11を有する。図では4段の棚のそれぞれにワーク70が搭載されている。ワーク70は重ねられてクリップで仮止めされた前面板および背面板である。これらの板は環状に配置されたシール材を挟んでいる。図ではガラス製のチップ管(排気管とも呼称される)75の取り付けられる背面板の外面が上向きになるようにワーク70が配置されているが、配置はこれに限らない。背面板の外面が下向きになる配置でもよい。ワーク支持部11の各棚にはチップ管75に配管を接続するためのヘッド(真空ヘッドとも呼称される)12が取り付けられている。複数のヘッド12のそれぞれに配管13,14,15,16の一端が繋がっており、これら配管13,14,15,16のそれぞれの他端は加熱炉5の下方まで延びてバルブ17に繋がっている。
【0016】
台車10には真空ポンプ18が組み付けられ、複数の放電ガスボンベ19,21が搭載される。真空ポンプ18にはバルブ25が付随し、放電ガスボンベ19,21にはバルブ20,22が付随する。1つの放電ガスボンベ19が供給する放電ガスの組成と他の放電ガスボンベ21が供給する放電ガスの組成とが異なっていてもよいし、同一であってもよい。組成を異ならせた場合は、ボンベの積替えを行わずに、製造するプラズマディスプレイパネルの機種に応じて放電ガスの組成を切り換えることができる。組成を同一にした場合は、空になったボンベを十分にガスが充満するボンベと交換する作業の頻度を少なくすることができる。
【0017】
放電ガスボンベ19,21とヘッド12とを繋ぐ管路23は、バルブ17とバルブ20,22とを繋ぐ配管24を含む。配管24は管路23を上述のソケット51に接続するための分岐部24aを有し、ソケット51に付随するバルブ26に繋がっている。配管24には圧力計27が接続されている。
【0018】
図2の右半に描かれた放電ガス回収部30は、台車10から残留ガスを吸引して収容する流体回路であり、台車10のソケット51に連結可能なプラグ52、複数の真空ポンプ31,32,33、手動の着脱が可能に組み付けられた容器34、容器34に見合う圧縮能力をもつコンプレッサ35、圧縮のためのバッファ36、容器34内の圧力を示す圧力計37、および複数のバルブ38,39,40,41,42,43,44を備える。バルブ40,41,42は真空ポンプ32、バッファ36およびコンプレッサ35のそれぞれと真空ポンプ33とを結ぶ管路に配置されている。
【0019】
本例の放電ガス回収部30おいて、容器34は耐圧が1MPa以上であって標準的な作業者が一人で運搬することができる程度の重量および大きさをもつボンベである。容器34の着脱のためのバルブ44は手動バルブである。容器34の運搬の安全を確実にするため、コンプレッサ35の最大吐出圧力は1MPa未満に選定されている。
【0020】
このような放電ガス回収部30を備えた放電ガス封入装置1の操作手順は次のとおりである。
【0021】
ワーク70が加熱炉5の内部に進入して所定時間が経過すると、シール材が軟化して前面板と背面板との間隙を気密にする。ワーク70の内部が気密になった後に、あらかじめ背面板に形成されている通気孔とそれに繋がるチップ管75を介して、真空ポンプ18によるワーク70の内部の真空排気が開始される。排気経路は、ヘッド12、配管13〜16、バルブ17、配管24、およびバルブ25から構成される。真空排気においてバルブ26およびバルブ20,22は閉じている。本例では複数のヘッド12のそれぞれにバルブ17が設けられているので、もしも圧力計27によってリークが検出され且つリーク箇所が複数のワーク70のいずれかであることが分かったときには、対応するバルブ17を閉じて、他のワーク70の真空排気を続けることができる。
【0022】
ワーク70が加熱炉5の徐冷エリアを移動する間にシール材が固まり、この時点で前面板と背面板との封着が完了する。封着を終えたワーク70が所定の温度まで冷えるのを見計らって、真空排気からガス封入に移行する。真空ポンプ18に近いバルブ25を閉じて、放電ガスボンベ19,21のうちの選択された一方に付随するバルブ20または22を開く。選択された一方のボンベから例えばネオンとキセノンの混合ガスが放電ガスとしてワーク70に流れ込む。圧力計27による測定圧力が設定圧力(例えば67kPa)に達したら直ちに開いていたバルブ20または22を閉じる。この時点でガス封入は終わる。
【0023】
ワーク70の内部と管路23とに放電ガスが存在する状態でチップ管75の封じ切りを行う。これによりワーク70の内部空間が完全に密閉されるとともに管路23も閉空間となる。チップ管75の溶断によってヘッド12からワーク70が切り離された後に、管路23に閉じ込められている放電ガスを回収する。各台車10からの回収の実施時期は、次の真空排気を開始する以前であればよく、ガス封入を終えたワーク70を積載している期間内でも、ワーク70を積み下ろして新たなワークを搭載する前の期間内でも、新たなワークを搭載した後の期間内でもよい。
【0024】
放電ガスの回収に際しては上述のとおり放電ガス回収部30のプラグ52を台車10のソケット51に環境雰囲気下で連結する。連結直前までカプラ50の近傍の管路は外気に晒されていたので、回収に先立ってこの管路の内部を清浄する。そのために、カプラ50の近傍の閉じられている2つのバルブ38,39のうち、真空ポンプ31とカプラ50との間のバルブ38を開き、真空ポンプ31を作動させる。所定時間の排気が終わるとバルブ38を閉じる。
【0025】
回収を開始するため、放電ガス回収部30のバルブ39と台車10のバルブ26を開き、バルブ39の下流側に配置された真空ポンプ32を作動させる。台車10の管路23のバルブ17は開いているので、ヘッド12からバルブ26に至る管路23内に残留する放電ガスが、真空ポンプ32によって吸引されてバッファ36に溜まる。
【0026】
1台の台車10から管路23内の残留放電ガスを放電ガス回収部30に取り込むと、真空ポンプ32を停止させてバルブ39およびバルブ26を閉じ、カプラ50の連結を解除する。回収を終えた台車10が移動し、代わって未回収の台車10が放電ガス回収部30の配置位置で停止すると、この未回収の台車10のソケット51にプラグ52を連結し、上述と同じ手順で管路23内の残留放電ガスを放電ガス回収部30に取り込む。このような動作を台車10の移動に同期させて繰り返す。これにより、各台車10において真空ポンプ18で管路23を排気する際に管路内の残留放電ガスが吸引されることがなくなるので、放電ガス成分のうちの特に貴重なキセノンを廃棄せずにすむ。
【0027】
一方、放電ガス回収部30のバッファに溜まった放電ガスは、定期的に容器34へ収容される。収容に際しては、容器34とコンプレッサ35との間のバルブ43を開いてコンプレッサ35を作動させる。1回または複数回の圧縮封入によって容器34内の圧力が1MPa未満の所定圧力に達すると、作業者はバルブ34を閉じて容器34を放電ガス回収部30から取り外し、代わりに空のボンベを容器34として取り付ける。取り外した容器34は放電ガス成分を再利用するための設備または処理を請け負う業者に引き渡される。
【0028】
容器34を交換したときには、以後に行う回収の準備として、バルブ39が閉じた状態でバルブ40,41,42、バルブ43およびバルブ44を開き、真空ポンプ33を作動させて放電ガス回収部30の内部を真空にする。準備が終わればバルブ40,41,42,43を閉じておく。
【0029】
以上の実施形態において、各台車10に組成の異なる放電ガスを充填した複数の放電ガスボンベ19,21を搭載する場合には、放電ガス回収部30に複数の容器を取り付け、放電ガスを種類別に収容するようにしてもよい。
【0030】
放電ガスボンベ19,21を台車10に搭載せずに、放電ガス回収部30に付属するように設置しておき、カプラ50を介してワーク70に放電ガスを供給する構成としてもよい。この構成では、カプラ50を介して放電ガス回収部30および放電ガスボンベ19,21が各台車10の管路23と接続される。
【0031】
カプラ50の連結の自動化に関しては、例えば特開平5−180382号公報に開示された配管の接続装置を利用することができる。カプラ50の連結と解除を作業員が手動で行う構成を採用してもよい。
【0032】
放電ガス回収部30のバルブ38〜43としては自動制御の可能なバルブが望ましいが、必ずしもそれに限らずこれらバルブの全部または一部が手動バルブであってもよい。容器34の交換のためのバルブ44を電磁バルブとし、手動スイッチで開閉できるようにしてもよい。
【0033】
放電ガス封入装置1の構成については種々の変更が可能である。例えば、ヘッド12とワーク70との連結にチップ管75に代えてガラス以外の材質の管を用いてもよい。また周知のフリットワッシャによって背面板の通気孔を塞ぐ技術を適用することもできる。
【0034】
回収した放電ガスから不純物を取り除く処理回路を放電ガス回収部30に組み入れることもできる。容器34の容量およびコンプレッサ35の圧縮能力は例示に限定されず、製造設備の規模に応じて適宜選定すべき事項である。放電ガス回収部30を各台車10に搭載してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る封着・排気・放電ガス封入の製造装置を上方から見た全体構成の概要を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る放電ガス封入装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 放電ガス封入装置(プラズマディスプレイパネルの製造装置、製造システム)
70 ワーク
12 ヘッド
23 管路
24a 分岐点
19,21 ガスボンベ(放電ガスボンベ)
30 放電ガス回収回路
50 カプラ
51 ソケット
52 プラグ
34 容器
35 コンプレッサ
10 台車


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマディスプレイパネルの放電ガス封入工程に用いる装置であって、
製造途中のプラズマディスプレイパネルであるワークに連結される配管用のヘッドと、
前記ヘッドに繋がった管路と、
前記管路に放電ガスを吐出するためのガスボンベと、
前記管路内に残留する放電ガスを回収する放電ガス回収回路とを備え、
前記放電ガス回収回路はカプラを介して前記管路に対して着脱可能に接続される
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造装置。
【請求項2】
前記管路は前記ヘッドと前記ガスボンベとに繋がり、
前記カプラは前記ヘッドと前記ガスボンベとを繋ぐ管路の途中の分岐点に接続されるように設けられた
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造装置。
【請求項3】
前記放電ガス回収回路は、
前記管路から回収された放電ガスを収容する、当該放電ガス回収回路に対して着脱可能に組み付けられた容器を有する
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造装置。
【請求項4】
前記放電ガス回収回路は、
前記容器に圧縮ガスを送る最大吐出圧力が1MPa未満のコンプレッサを有する
請求項3に記載のプラズマディスプレイパネルの製造装置。
【請求項5】
前記ヘッド、前記カプラの一部であるソケット、および前記管路が取り付けられ、且つ前記ワークおよび前記ガスボンベを積載して移動する台車を備え、
前記放電ガス回収回路が、前記カプラの一部であって前記ソケットに連結可能なプラグを含む
請求項2に記載のプラズマディスプレイパネルの製造装置。
【請求項6】
製造途中のプラズマディスプレイパネルであるワークを移動させながら前記ワークの内部空間の排気と放電ガスの封入と順に行うプラズマディスプレイパネルの製造システムであって、
放電ガスの封入を終えたワークに対して、当該ワークと放電ガス供給源とを繋ぐ管路内に残留する放電ガスを回収する放電ガス回収回路を備える
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造システム。
【請求項7】
それぞれがワークを積載して予め定まった経路上を移動する複数の台車を備え、
前記放電ガス回収回路は、前記複数の台車に積載されたワークに繋がる管路とカプラを介して着脱可能に接続される
請求項6に記載のプラズマディスプレイパネルの製造システム。


【図1】
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【図2】
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