説明

プラズマディスプレイパネル

【課題】プラズマディスプレイパネルに用いるガラス基板の板厚を薄くした場合であっても、衝撃強度を高めることができるようにすることを目的とする。
【解決手段】走査電極2および維持電極3からなる表示電極を複数配列して形成するとともにその表示電極を覆うように誘電体層4を形成した前面側ガラス基板1と、この前面側ガラス基板1の前記誘電体層4側の面に、前記前面側ガラス基板1との間に放電空間が形成されるように対向配置しかつ周辺部を封止部材により封着した背面側ガラス基板6とを備え、前記前面側ガラス基板1の平均熱膨張率を誘電体層4を構成する材料の平均熱膨張率より大きく構成することにより、前面側ガラス基板1の誘電体層4側に圧縮方向の残留応力が加わるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大画面で、薄型、軽量のディスプレイ装置として知られているプラズマディスプレイパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルは視認性に優れた表示デバイスとして高精細化および大画面化が進んでいる。プラズマディスプレイパネルの代表的な構造はAC型面放電構造であり、対向配置された前面側ガラス基板と背面側ガラス基板との間に多数の放電セルが形成されている。
【0003】
前面側ガラス基板上には、走査電極と維持電極とからなる表示電極を複数形成し、それらの表示電極を覆うように誘電体層を形成するとともに、その誘電体層上に保護層を形成することにより前面側のパネルが構成されている。また、背面側ガラス基板上には、前記表示電極に直交するように複数の平行なデータ電極を形成するとともに、そのデータ電極を覆うように誘電体層を形成し、その誘電体層上にデータ電極と平行な複数の隔壁を形成し、さらに隣接する隔壁間の誘電体層上にRGB各色の蛍光体層を形成することにより背面側のパネルが構成されている。
【0004】
そして、これらの前面側ガラス基板と背面側ガラス基板とを、前面側ガラス基板の前記誘電体層側の面に、前記前面側ガラス基板との間に放電空間が形成されるように対向配置し、周辺部を封止部材により封着するとともに、内部の放電空間に放電ガスを封入することによりプラズマディスプレイパネルが構成されている。このような構成のプラズマディスプレイパネルでは、各放電セル内でのガス放電により紫外線を発生させ、この紫外線でRGB各色の蛍光体層を励起発光させることによりカラー表示を行っている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−283510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プラズマディスプレイパネルに用いられるガラス基板は、一般的に電極形成などの工程において600℃近い温度の焼成工程を行うため、それに耐えうる高歪点ガラスが必要とされるが、高歪点ガラスは一般的なソーダライムガラスに比べ衝撃強度が弱いという課題があり、所定の衝撃強度を得るためにはガラス基板の板厚を厚くする必要があった。
【0006】
本発明はこのような現状に鑑みなされたもので、プラズマディスプレイパネルに用いるガラス基板の板厚を薄くした場合であっても、衝撃強度を高めることができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明のプラズマディスプレイパネルは、走査電極および維持電極からなる表示電極を複数配列して形成するとともにその表示電極を覆うように誘電体層を形成した前面側ガラス基板と、この前面側ガラス基板の前記誘電体層側の面に、前記前面側ガラス基板との間に放電空間が形成されるように対向配置しかつ周辺部を封止部材により封着した背面側ガラス基板とを備え、前記前面側ガラス基板は、誘電体層側に圧縮方向の残留応力が加わるように構成したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明においては、前面側ガラス基板の平均熱膨張率を誘電体層を構成する材料の平均熱膨張率より大きく構成することにより、前面側ガラス基板の誘電体層側に圧縮方向の残留応力が加わるように構成したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プラズマディスプレイパネルに用いるガラス基板の板厚を薄くした場合であっても、衝撃強度を高めることができ、これによりパネルに使用するガラス基板の板厚を薄くすることにより、パネル重量の軽量化、およびパネルコストの削減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態によるプラズマディスプレイパネルについて、図1〜図5を用いて説明する。
【0011】
図1に本発明の一実施の形態によるプラズマディスプレイパネルの構造の一例を示し、図2に図1のx方向に切断した断面図を示し、図3に図1のy方向に切断した断面図を示す。これらの図に示すように、透明なガラス基板からなる前面側ガラス基板1上には、ストライプ状の走査電極2とストライプ状の維持電極3とからなる表示電極が複数配列して形成されている。この走査電極2は透明電極2aおよびこの透明電極2a上に形成された補助電極2bとから構成され、維持電極3は透明電極3aおよびこの透明電極3a上に形成された補助電極3bとから構成されている。透明電極2a、3aはインジウムスズ酸化物(ITO)等から構成され、補助電極2b、3bは銀等から構成されている。また、前面側ガラス基板1上には、走査電極2および維持電極3を覆うように誘電体層4が形成され、誘電体層4の上には酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層5が形成されている。
【0012】
また、透明なガラス基板からなる背面側ガラス基板6上には、走査電極2および維持電極3と直交するように複数のストライプ状のデータ電極7が形成されており、このデータ電極7を覆うように誘電体層8が形成されている。このデータ電極7間の誘電体層8上には、データ電極7と平行にストライプ状の隔壁9が配置され、この隔壁9間の誘電体層8上には、赤色、緑色または青色に発光する蛍光体層10が設けられている。
【0013】
これら前面側ガラス基板1と背面側ガラス基板6とは、走査電極2および維持電極3とデータ電極7とが直交するように微小な放電空間を挟んで対向配置されるとともに、周辺部が封止部材により封着され、そして前面側ガラス基板1と背面側ガラス基板6との間に形成される放電空間には、例えばネオン(Ne)とキセノン(Xe)の混合ガスが放電ガスとして封入されている。また、走査電極2および維持電極3からなる表示電極とデータ電極7との交差部分に放電セルが形成される。
【0014】
次にプラズマディスプレイパネルの製造方法について説明する。
【0015】
はじめに前面側ガラス基板1上に構造体を形成する製造工程について説明する。前面側ガラス基板1上に透明導電膜であるITO膜を形成し、このITO膜をフォトリソグラフィー法により所望の形状にパターンニングすることにより、透明電極2a、3aを形成する。次に透明電極2a、3a上に電気抵抗を下げるための金属材料からなる補助電極2b、3bをフォトリソグラフィー法等により形成し、次に透明電極2a、3aおよび補助電極2b、3bを覆うようにダイコート法等により誘電体層4を形成する。誘電体層4の上には、耐スパッタ性に優れかつ、2次電子放出係数の大きいMgO膜を真空蒸着法により成膜することにより保護層5を形成する。以上により、前面側ガラス基板1上に構造体を形成する製造工程が終了する。
【0016】
次に背面側ガラス基板6上に構造体を形成する製造工程について説明する。背面側ガラス基板6上にデータ電極7を形成し、データ電極7を覆うように誘電体層8を形成する。誘電体層8の上に隔壁9を形成し、隣接する隔壁9間の誘電体層8上に蛍光体層10を形成する。以上により、背面側ガラス基板6上に構造体を形成する製造工程が終了する。
【0017】
次に、背面側ガラス基板6の周囲にフリットガラスを塗布し、その背面側ガラス基板6と前面側ガラス基板1とを重ね合わせて封着する。その後、パネル内部を真空に排気し、ネオンおよびキセノンを混合した放電ガスをパネル内部に封入することによりパネルが完成する。
【0018】
ここで、本実施の形態におけるプラズマディスプレイパネルでは、前記前面側ガラス基板1は、誘電体層4側に圧縮方向の残留応力が加わるように構成している。すなわち、前面側ガラス基板1の平均熱膨張率を誘電体層4を構成する材料の平均熱膨張率より大きく構成することにより、前面側ガラス基板1の誘電体層4側に圧縮方向の残留応力が加わるように構成している。この理由について、詳細に説明する。
【0019】
本発明者らは、プラズマディスプレイパネルの衝撃強度を向上させることについて検討を行った。
【0020】
まず、プラズマディスプレイパネルの強度を測定する方法としては、図4に示すように、プラズマディスプレイパネル11をスポンジ12上に平置きした状態で、直径11mm、重量5.5gの鋼球13を自由落下させ、パネル割れが発生する鋼球の落下高さを測定することにより、パネル強度の測定を行い、その測定の平均値をパネル強度とするが、このような方法でパネル強度を測定する中で、パネル割れが発生したサンプルについて、調べたところ、次のようなことが判明した。
【0021】
図5は鋼球13を落下させ、パネル割れが発生した状態を模式的に示す概略図であり、図5に示すように、鋼球13がプラズマディスプレイパネル11に衝突した際、前面側ガラス基板1の変形で誘電体層4に引っ張りの力が生じて割れが生じることがわかった。すなわち、ガラス基板1の誘電体層4側に引っ張り方向の残留応力が存在すると、割れやすい傾向となる。
【0022】
この結果に基づき、ガラス基板1の誘電体層4側の残留応力とプラズマディスプレイパネルの衝撃強度との関係について、さらに検討を行った。
【0023】
一般的にガラス基板1と誘電体層4との界面の残留応力については、誘電体層4形成時に焼成を行った際、冷却中にガラス基板1の元素と誘電体層4の元素がどのように結合するかに影響しており、大きな傾向としてはガラス基板1の平均熱膨張率に対して、平均熱膨張率が大きい誘電体材料を用いると、図6(a)のように誘電体層4側に引っ張り方向の残留応力が生じ、逆に、平均熱膨張率の比較的小さい誘電体材料を用いると、図6(b)のように誘電体層4側に圧縮方向の残留応力が生じることとなる。すなわち、ガラス基板1と誘電体層4側に発生する残留応力の方向は、ガラス基板1の平均熱膨張率と誘電体層4を構成する誘電体材料の平均熱膨張率との関係で、コントロール可能である。
【0024】
次に、板厚が2.8mm、1.8mm、0.8mmで平均熱膨張率が83×10-7/℃の同一材料の高歪点ガラスからなるガラス基板を用い、それぞれの厚みのガラス基板に、平均熱膨張率が73×10-7/℃〜82×10-7/℃の範囲の誘電体材料を用いて誘電体層を形成し、ガラス基板−誘電体層界面に種々の残留応力を発生させた前面側のパネルを作製した。その作製したパネルについて、前面側ガラス基板の誘電体層側、すなわちガラス基板−誘電体層界面の残留応力を測定し、パネル強度との相関を調べた。
【0025】
なお、残留応力の測定には、神港精機(株)製の光学測定装置であるポーラリーメーター(SFII型)を用いて、偏向透過光の位相角によって測定した。この測定装置では、圧縮応力と引っ張り応力とで、偏向透過光の見える色が異なる特性を有するため、圧縮と引っ張りの応力の方向の違いを明確に切り分けることが可能である。また、パネル強度は、図4に示す方法により測定し、パネル割れが発生する落下高さをパネル強度で表した。
【0026】
この結果を図7に示しており、図7において、横軸に残留応力を示し、誘電体層側に引っ張り方向の残留応力が発生しているときは、応力としては正方向の値となり、圧縮方向の残留応力が発生しているときは、応力としては負の方向の値となる。また、縦軸にパネル強度としての落下高さを示している。
【0027】
この図7から明らかなように、ガラス基板の誘電体層側に圧縮方向の残留応力が存在する方がパネルの強度は上昇することがわかる。すなわち、ガラス基板として、板厚が1.8mmのものを用いた場合でも、ガラス基板の誘電体層側に圧縮方向の残留応力を持たせることにより、落下高さ40cm以上のパネル強度を持たせることができる。また、ガラス基板として、板厚が0.8mmのものを用いた場合でも、ガラス基板の誘電体層側に圧縮方向の残留応力で、その絶対値を2MPa以上とすることにより、落下高さ40cm程度のパネル強度を持たせることができる。
【0028】
本発明者らの経験によれば、落下高さ40cm程度のパネル強度を持たせておくことにより、製品の製造工程で搬送する際に発生する振動や衝撃からパネルが破損するのを防いで安定して生産することが可能であり、この本発明の結果より、板厚が1.8mmや0.8mmの薄いガラス基板を用いてプラズマディスプレイパネルを製造することができることとなる。
【0029】
なお、0.8mmの板厚のガラス基板を用いることも可能であるが、製造工程でのばらつきなどを考慮すると、ガラス基板の板厚としては、1mm厚以上のものが望ましい。
【0030】
以上説明したように本発明のプラズマディスプレイパネルは、前面側のガラス基板の平均熱膨張率を誘電体層を構成する材料の平均熱膨張率より大きく構成することにより、前面側のガラス基板の誘電体層側に圧縮方向の残留応力が加わるように構成したものであり、プラズマディスプレイパネルに用いるガラス基板の板厚を薄くした場合であっても、衝撃強度を高めることができ、これによりパネルに使用するガラス基板の板厚を薄くすることにより、パネル重量の軽量化、およびパネルコストの削減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上のように本発明は、プラズマディスプレイパネルの軽量化、コスト削減を実現する上で有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態によるプラズマディスプレイパネルの一部分を示す斜視図
【図2】図1のx方向で切断した断面図
【図3】図1のy方向で切断した断面図
【図4】鋼球落下強度試験方法の概念図
【図5】鋼球衝撃でのパネル破壊を示す概念図
【図6】ガラス基板と誘電体層の残留応力の様子を示す概念図
【図7】本発明の効果を確認するために行った実験結果を示す特性図
【符号の説明】
【0033】
1 前面側ガラス基板
2 走査電極
3 維持電極
4 誘電体層
5 保護層
6 背面側ガラス基板
7 データ電極
11 プラズマディスプレイパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査電極および維持電極からなる表示電極を複数配列して形成するとともにその表示電極を覆うように誘電体層を形成した前面側ガラス基板と、この前面側ガラス基板の前記誘電体層側の面に、前記前面側ガラス基板との間に放電空間が形成されるように対向配置しかつ周辺部を封止部材により封着した背面側ガラス基板とを備え、前記前面側ガラス基板は、誘電体層側に圧縮方向の残留応力が加わるように構成したことを特徴とするプラズマディスプレイパネル
【請求項2】
前面側ガラス基板の平均熱膨張率を誘電体層を構成する材料の平均熱膨張率より大きく構成することにより、前面側ガラス基板の誘電体層側に圧縮方向の残留応力が加わるように構成した請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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