説明

プラズマディスプレイパネル

【課題】水、炭化水素などの不純ガスを十分に除去し、保護層や蛍光体の劣化を抑制した信頼性の高いPDPを提供する。
【解決手段】複数の表示電極対14と誘電体層15と保護層16とが形成された前面基板11と、複数のデータ電極18と下地誘電体層19と隔壁22と蛍光体層23とが形成された背面基板17とを有し、表示電極対14とデータ電極18とが交差するように前面基板11と背面基板17とを対向配置して周囲を封着するとともに内部に白金族元素からなる水素吸蔵性材料20を配置したプラズマディスプレイパネル10であって、水素吸蔵性材料20が水素吸蔵性材料20よりもイオン化傾向の高い材料で被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示に用いられるプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大画面で薄型軽量を実現できるカラー表示デバイスとしてプラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と略記する)が注目されている。
【0003】
PDPとして代表的な交流面放電型PDPは、対向配置された前面基板と背面基板との間に多数の放電セルが形成されている。前面基板は、1対の走査電極と維持電極とからなる表示電極対がガラス基板上に互いに平行に複数対形成され、それら表示電極対を覆うように誘電体層および保護層が形成されている。背面基板は、ガラス基板上に複数の互いに平行なデータ電極と、それらを覆うように誘電体層と、さらにその上に井桁状の隔壁とがそれぞれ形成され、誘電体層の表面と隔壁の側面とに蛍光体層が形成されている。
【0004】
そして、表示電極対とデータ電極とが交差するように前面基板と背面基板とが対向配置されて密封され、内部の放電空間には放電ガスが封入されている。ここで表示電極対とデータ電極とが対向する部分に放電セルが形成される。このような構成のPDPの各放電セル内でガス放電により紫外線を発生させ、この紫外線で赤色、緑色および青色の各色の蛍光体を励起発光させてカラー表示を行っている。PDPを駆動する方法としてはサブフィールド法、すなわち、1フィールド期間を複数のサブフィールドに分割した上で、発光させるサブフィールドの組み合わせによって階調表示を行う方法が一般的である。
【0005】
PDPは、前面基板作製工程、背面基板作製工程、封着工程、排気工程、放電ガス供給工程の各工程を経て製造される。ここで封着工程は、前面基板作製工程で作成した前面基板と背面基板作製工程で作成した背面基板とを貼り合わせる工程であり、排気工程はPDP内部の空間からガスを排気する工程である。封着工程ではフリットを用いて前面基板と背面基板とを貼り合わせるため、それらを重ね合わせてフリットの軟化点温度以上、例えば440℃〜500℃程度で焼成する。
【0006】
このような封着工程において、フリットなどから、水(HO)、一酸化炭素(CO)、炭酸ガス(CO)、炭化水素(C)などの不純ガスが排出され、これらの不純ガスの一部がPDPの内部に吸着される。また、続く排気工程では、PDPの内部空間を排気するが、PDPの内部に吸着された不純ガスを完全に排気することが難しく、PDPの内部にある程度の不純ガスが残留する。
【0007】
保護層や蛍光体などはこれらの不純ガスと反応し、その特性が劣化することが知られている。特に、水(HO)は、保護層に影響を及ぼして放電セルの放電開始電圧を低下させ、表示画面に「にじみ」状の画質劣化を発生させる。また、長時間にわたり静止画像を表示するとその画像が残像となる「焼きつき」を発生させる。また炭化水素は、蛍光体の表面を還元し、蛍光体の発光輝度を低下させる。
【0008】
そのため、PDPの内部に残留する不純ガス、特に水や炭化水素を低減し、放電特性を安定させ、経時変化を抑制して信頼性を高めることが重要である。これら不純ガスを除去する方法として、例えば特許文献1には、結晶性アルミノケイ酸塩(xMO・yMO・yAl・zSiO・nHO)、γ活性アルミナ(γ-Al)または非晶質活性シリカ(SiO)などの吸着剤をPDP内部に配置して水を除去する例が開示されている。また特許文献2には、PDP内部の画像表示領域以外に酸化マグネシウム膜を設けて、水を除去する例が開示されている。
【0009】
さらに特許文献3には、アルミナ(Al)、酸化イットリウム(Y)、酸化ランタニウム(La)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化マンガン(MnO)、酸化クロム(CrO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化鉄(Fe)、チタン酸バリウム(BaTiO)、酸化チタン(TiO)などの酸化物や、これらの酸化物に炭化水素の分解触媒である白金族元素を添加した吸着剤をPDP内部の画像表示領域以外に配置して炭化水素を除去する例が開示されている。また特許文献4には、ジルコン(Zr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)などの金属ゲッタをPDP内部の隔壁上に設けて有機溶媒成分を吸着する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−303555号公報
【特許文献2】特開平5−342991号公報
【特許文献3】国際公開第2005/088668号
【特許文献4】特開2002−531918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、近年のPDPの大画面化および高精細化にともない、不純ガスの残留量が増加する。そのため、上記の従来例では、水や炭化水素、有機溶媒などの不純ガスを十分に除去することが難しく、保護層や蛍光体が劣化するといった課題を有していた。
【0012】
本発明はこれらの課題を解決して、水や炭化水素などの不純ガスを十分に除去し、保護層や蛍光体の劣化を抑制した信頼性の高いPDPを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記従来の課題を解決するため、本発明のPDPは、複数の表示電極対と誘電体層と保護層とが形成された前面基板と、複数のデータ電極と下地誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面基板とを有し、表示電極対とデータ電極とが交差するように前面基板と背面基板とを対向配置して周囲を封着するとともに内部に白金族元素からなる水素吸蔵性材料を配置したPDPであって、水素吸蔵性材料が水素吸蔵性材料よりもイオン化傾向の高い材料で被覆されている。
【0014】
このような構成によれば、PDP内部に配置された水素吸蔵性材料が酸化されすぎるのが抑制されて安定した水素吸蔵能力を持つため、水や炭化水素などの不純ガスを十分に除去し、保護層や蛍光体の劣化を抑制した信頼性の高いPDPを実現することができる。
【0015】
さらに、水素吸蔵性材料がパラジウムであり、パラジウムよりもイオン化傾向が高い材料を水素吸蔵性材料にコートしてもよい。このような構成によれば、最も水素吸蔵能力が高いパラジウムの能力を十分に発揮させることができるので、「にじみ」や「焼きつき」などの画質劣化や蛍光体の発光輝度低下がほとんど発生しないPDPを実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のPDPによれば、水や炭化水素などの不純ガスを十分に除去し、保護層や蛍光体の劣化を抑制した信頼性の高いPDPを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態におけるPDPの構造を示す分解斜視図である。
【図2】図1のA‐A線断面図である。
【図3】本発明の実施の形態における水素吸蔵性材料を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
(実施の形態)
図1は本発明の実施の形態におけるPDPの構造を示す分解斜視図、図2は図1の矢印A方向から見た詳細断面図である。図1、図2に示すように、PDP10は、前面基板11と背面基板17とから構成されている。
【0020】
図1は実施の形態におけるPDPの構造を示す分解斜視図、図2は図1のA−A線断面図である。図1、図2に示すように、PDP10は、前面基板11と背面基板17とから構成されている。
【0021】
図1、図2において、ガラス製の前面基板11上には、走査電極12と維持電極13とで対をなす表示電極対14が互いに平行に複数対形成されている。この走査電極12および維持電極13は、走査電極12−維持電極13−維持電極13−走査電極12の配列で繰り返すパターンで形成されている。走査電極12は、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性金属酸化物からなる幅の広い透明電極12aの上に、導電性を高めるために銀(Ag)などの金属を含む幅の狭いバス電極12bを積層して形成されている。維持電極13も同様に、幅の広い透明電極13aの上に幅の狭いバス電極13bを積層して形成されている。
【0022】
さらに、表示電極対14を覆うように誘電体層15および酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層16が形成されている。誘電体層15は、膜厚が約40μmの酸化ビスマス(Bi)系低融点ガラスまたは酸化亜鉛(ZnO)系低融点ガラスで形成されている。保護層16は、膜厚が約0.8μmの酸化マグネシウム(MgO)を主体とするアルカリ土類酸化物からなる薄膜層であり、誘電体層15をイオンスパッタから保護するとともに放電開始電圧などの放電特性を安定させるために設けられている。
【0023】
ガラス製の背面基板17上には、銀(Ag)などを主成分とする導電性の高い材料からなる互いに平行な複数のデータ電極18が形成され、データ電極18を覆うように下地誘電体層19が形成されている。下地誘電体層19は、誘電体層15と同様の酸化ビスマス(Bi)系低融点ガラスなどであってもよいが、可視光反射層としての働きも兼ねるように酸化チタン(TiO)を混合した材料であってもよい。
【0024】
下地誘電体層19上には井桁状の隔壁22が形成され、下地誘電体層19の表面と隔壁22の側面とには、赤色、緑色、青色に発光する蛍光体層23が形成されている。隔壁22は、例えば低融点ガラス材料を用いて約0.12mmの高さに形成されている。蛍光体層23は、青色蛍光体としてBaMgAl1017:Euを、緑色蛍光体としてZnSiO:Mnを、赤色蛍光体として(Y、Gd)BO:Euなどをそれぞれ用いて約15μmの膜厚に形成されている。
【0025】
前面基板11と背面基板17は、表示電極対14とデータ電極18とが交差するように、対向配置され、その外周部をフリットなどの封着材(図示せず)によって封着され内部に放電空間が形成されている。放電空間にはキセノン(Xe)などを含む放電ガスが約6×10Paの圧力で封入されている。放電空間は隔壁22によって複数の区画に仕切られており、表示電極対14とデータ電極18とが交差する部分に放電セル24が形成されている。そしてこれらの放電セル24が放電、発光することにより画像が表示される。なお、PDP10の構造は上述したものに限られるわけではなく、隔壁22の形状がストライプ状であってもよい。
【0026】
図2に示すように、隔壁22に対向する位置の保護層16の表面には、粒径が0.1μm〜20μmの白金族元素からなる水素吸蔵性材料20が配置されている。また、図3に示すように、水素吸蔵性材料20の表面は、水素吸蔵性材料20よりもイオン化傾向が高い材料である第2材料21によって部分的にコートされている。
【0027】
従来、PDP10内部に残留した水や炭化水素を除去するために、金属ゲッタや酸化物ゲッタを使用していた。しかしながら、これらの不純ガスの分子径が大きいためにゲッタの内部まで十分に浸透せず、不純ガスの吸着量に限界があった。本発明者らは、PDP10の放電により、保護層16、隔壁22、蛍光体層23などから放出される水分子や炭化水素分子などの不純ガスが、水素原子、酸素原子、炭素原子に分解されることに注目した。そしてパラジウムやパラジウムを含む合金が水素を大量に吸蔵する水素吸蔵性材料であることに着目し、径の小さい水素原子をこれらの材料に吸蔵させることで、水や炭化水素を除去できると考えた。
【0028】
そこで白金族元素を用いて以下のような実験を行った。白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミニウム、パラジウムなどの白金族元素の粉体をそれぞれ有機バインダーと混練し、スプレー法などを用いて隔壁22に対向する位置の保護層16の表面に塗布したPDP10を作成した。このようにして作成したPDP10を用いて画像を表示させ、およそ1000時間の間、「にじみ」および「焼きつき」の有無を目視で確認した。その結果、「にじみ」や「焼きつき」による画質劣化が軽減し、特にパラジウムで軽減効果が大きいことなど一定の効果を確認した。
【0029】
しかしながら、これらの白金族元素からなる水素吸蔵性材料20はPDP10の製造工程において、400℃〜500℃の大気雰囲気で加熱される封着工程を経る。そのため、これら水素吸蔵性材料20の酸化が過度に進行し、本来の白金族元素が持つ水素吸蔵能力を十分に発揮することができず、水、炭化水素などの不純ガスを十分には除去できないことも確認された。
【0030】
そこで、図3に示すように、水素吸蔵性材料20に水素吸蔵性材料20よりもイオン化傾向が高い材料である第2材料21を部分的にコートし、水素吸蔵性材料20の酸化が過度に進行するのを抑制することを試みた。一般的にイオン化傾向が異なる2種類の材料が接した場合、イオン化傾向が低い材料の酸化が抑えられる。白金族元素からなる水素吸蔵性材料20よりもイオン化傾向が高い第2材料21としては本実施の形態では亜鉛、ニッケル、錫などを用いたがこれにとらわれることなく多くの元素が使用できる。
【0031】
このような構成の水素吸蔵性材料20をPDP10内部に配置した場合、400℃〜500℃での加熱封着工程を経ても水素吸蔵性材料20の過度の酸化はないことが確認された。
【0032】
このような水素吸蔵性材料20を配置したPDP10を用いて画像を表示させ、1000時間の間、「にじみ」および「焼きつき」の有無を目視で確認した。その結果、「にじみ」や「焼きつき」による画質劣化が著しく軽減することが確認できた。特に水素吸蔵性材料20にパラジウムの粉体を用いた場合には、これらの画質劣化がほとんど発生しないことが確認できた。これらの実験から明らかなように、水素吸蔵性材料20にこれよりもイオン化傾向が高い第2材料21をコートし、隔壁22に対向する位置の保護層16の表面に配置すると、放電にともなって分解された水素を水素吸蔵性材料20が十分に吸蔵する。したがって、水分子や炭化水素分子を大幅に減少させ、放電特性を安定させ、経時変化を抑制し、加えて蛍光体の輝度低下を抑えることができる。
【0033】
なお、本実施の形態においては、光の透過を妨げないように、水素吸蔵性材料20を隔壁22に対向する位置の保護層16の表面に配置した例を示したが、この例に限らず水素吸蔵性材料20は、蛍光体層23の表面や内部、または隔壁22の頂部表面などPDP10のどの位置に配置されていても同様の効果がある。
【0034】
また、本実施の形態では、水素吸蔵性材料20の表面に第2材料21を部分的にコートしている。しかしながら、その表面に対するコートの割合である被覆率は、材料選択などによって適宜決定することができ、少なくとも水素吸蔵性材料20の表面の一部が露出していることが望ましい。さらに、水素吸蔵性材料20の表面に第2材料21をコートする方法としては任意の方法が適用できる。
【0035】
以上のように、本発明のPDPによれば、水素吸蔵性材料の酸化が過度に進行するのを抑制するために安定した水素吸蔵能力を実現して、水や炭化水素などの不純ガスを十分に除去し、保護層や蛍光体の劣化を抑制した信頼性の高いPDPを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明本発明のPDPによれば、水や炭化水素などの不純ガスを十分に除去でき、保護層や蛍光体の劣化を抑制できるので、信頼性の高いPDPとして有用である。
【符号の説明】
【0037】
10 PDP
11 前面基板
12 走査電極
12a,13a 透明電極
12b,13b バス電極
13 維持電極
14 表示電極対
15 誘電体層
16 保護層
17 背面基板
18 データ電極
19 下地誘電体層
20 水素吸蔵性材料
21 第2材料
22 隔壁
23 蛍光体層
24 放電セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の表示電極対と誘電体層と保護層とが形成された前面基板と、複数のデータ電極と下地誘電体層と隔壁と蛍光体層とが形成された背面基板とを有し、前記表示電極対と前記データ電極とが交差するように前記前面基板と前記背面基板とを対向配置して周囲を封着するとともに内部に白金族元素からなる水素吸蔵性材料を配置したプラズマディスプレイパネルであって、前記水素吸蔵性材料が前記水素吸蔵性材料よりもイオン化傾向の高い材料で被覆されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記水素吸蔵性材料がパラジウムであることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−150826(P2011−150826A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9766(P2010−9766)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】