説明

プランジャチップ

【課題】スリーブの内面の摺動面に、適切に潤滑剤を供給することができる技術を提供する。
【解決手段】プランジャチップ30は、スリーブ内に配置される。プランジャチップ30は、チップ本体32と、潤滑油吸収材34と、付勢部材36と、を備える。潤滑油吸収材34は、チップ本体32に取り付けられ、スリーブの内面と接触して、スリーブの内面に潤滑油を供給する。付勢部材36は、チップ本体32と潤滑油吸収材34との間に位置して、潤滑油吸収材34を、スリーブの内面に向けて付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリーブ内の溶湯を鋳造型に射出するためのプランジャチップに関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造工程において、スリーブ内に注入された溶湯は、プランジャチップに押圧されて、鋳造型に射出される。プランジャチップは、溶湯を鋳造型に射出した後、射出前の位置まで戻される。即ち、プランジャチップは、スリーブ内を摺動しながら、往復運動を繰り返す。このため、プランジャチップとスリーブの内面との潤滑性の向上が求められている。
【0003】
特許文献1に、プランジャチップの表面に、液状潤滑剤を滴下する技術が開示されている。特許文献1の技術では、スリーブの外部から、スリーブの外周壁に形成された貫通孔を介して、スリーブ内のプランジャチップの表面に、液状潤滑剤が滴下される。これにより、スリーブの内面とプランジャチップとの潤滑性が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−229691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、スリーブの側面に潤滑剤滴下用の貫通孔を設ける必要がある。本明細書は、そのような貫通孔を設けることなくプランジャチップの潤滑性を向上させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する技術は、スリーブ内の溶湯を鋳造型に射出するためのプランジャチップである。このプランジャチップは、チップ本体と潤滑剤供給部材と付勢部材を備える。潤滑剤供給部材は、チップ本体に取り付けられている。潤滑剤供給部材は、スリーブの内面と接触して、スリーブの内面に潤滑剤を供給する。付勢部材は、チップ本体と潤滑剤供給部材との間に位置する。付勢部材は、潤滑剤供給部材を、スリーブの内面に向けて付勢する。
【0007】
上記のプランジャチップは、スリーブ内を往復運動することによって、スリーブの内面のうち、潤滑剤供給部材が摺動する範囲に、潤滑剤を供給することができる。潤滑剤供給部材は、付勢部材によって、スリーブの内面に向けて付勢されている。このため、潤滑剤供給部材の磨耗によって、スリーブの内面と潤滑剤供給部材とが離間することが防止される。この構成によれば、スリーブの内面と潤滑剤供給部材とが離間することによって、スリーブの内面に潤滑剤が適切に供給されないという事態を回避することができる。
【0008】
付勢部材は、弾性変形によって、潤滑剤供給部材をスリーブの内面に向けて付勢するばねを備えていてもよい。この構成によれば、簡単な構成でプランジャチップを作製することができる。
【0009】
付勢部材の熱膨張率は、チップ本体の熱膨張率よりも大きいことが好ましい。この構成によれば、鋳造工程中の高温環境下では、付勢部材は、熱膨張することによって潤滑剤供給部材をスリーブの内面に押圧する。一方において、チップ本体は、付勢部材と比較して熱膨張率が小さいために、スリーブの内面に接触することが防止される。
【0010】
付勢部材及び潤滑剤供給部材の一方には、付勢部材及び潤滑剤供給部材の他方の一部が嵌合する凹部が形成されていてもよい。この構成によれば、付勢部材に潤滑剤供給部材を取り付ける際に、接着剤等を用いなくて済む。
【発明の効果】
【0011】
本明細書に開示される技術によれば、スリーブの内面に適切に潤滑剤を供給することができる。このため、スリーブの内面とプランジャチップとの潤滑性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】鋳造装置の模式的断面図を示す。
【図2】実施例1のプランジャチップの模式的断面図を示す。
【図3】変形例1のプランジャチップの模式的断面図を示す。
【図4】変形例2のプランジャチップの模式的断面図を示す。
【図5】変形例3のプランジャチップの模式的断面図を示す。
【図6】実施例2のプランジャチップの模式的断面図を示す。
【実施例1】
【0013】
図面を参照して実施例1のプランジャチップについて説明する。図1に示す鋳造装置2は、圧力を加えて金型に溶融金属(溶湯)を射出して製品を鋳造する装置(ダイカストマシン)である。鋳造装置2は、固定金型4と、固定金型4に圧着及び離間する可動金型(図示省略)と、固定金型4に固定されているスリーブ10と、スリーブ10内を往復移動するプランジャチップ30とを備える。なお、図1では、図を理解し易くするために、固定金型4とスリーブ10は断面を示しているが、プランジャチップ30は側面を示している。
【0014】
鋳造工程では、溶湯供給孔18からスリーブ10内に溶湯Hを供給する。次いで、プランジャチップ30に固定されたプランジャロッド40を操作することによって、プランジャチップ30を、スリーブ10の図中右側から左側に向けて移動させる。この結果、溶湯Hは、プランジャチップ30に押圧されて、固定金型4と可動金型とで形成されるキャビティ内に注入される。
【0015】
図2に示すように、プランジャチップ30は、チップ本体32と、潤滑油吸収材34と、付勢部材36と、を備える。チップ本体32は、円筒形状を有している。チップ本体32の直径は、スリーブ10の内径よりも僅かに小さい。より詳細には、チップ本体32の直径は、次に説明するように、チップ本体32の熱膨張を許容できるように僅かに小さく形成される。鋳造工程では、溶湯Hの熱等によって、スリーブ10及びチップ本体32は熱膨張する。チップ本体32は、スリーブ10及びチップ本体32が熱膨張している状態で、スリーブ10の内面との間に微小な隙間が形成されるように、作製されている。
【0016】
チップ本体32の軸方向(図2の左右方向)の中間位置には、チップ本体32の外周面を一巡する溝32aが形成されている。溝32a内には、潤滑油吸収材34及び付勢部材36が配置されている。付勢部材36は、円環形状を有している。付勢部材36は、溝32aの全長に亘って配置されている。常温下では、付勢部材36の幅(図2の左右方向の長さ)は、溝32aの幅(図2の左右方向の長さ)よりも小さい。このため、鋳造工程中にチップ本体32及び付勢部材36が熱膨張して、付勢部材36が溝32aに挟まれることによって、付勢部材36がチップ本体32から不要な力を受けることが防止されている。付勢部材36の外周面には、付勢部材36の外周面を一巡する凸部36aが形成されている。凸部36aは、付勢部材36の外周面から、付勢部材36の径方向外側に向かって突出している。付勢部材36の熱膨張率は、チップ本体32の熱膨張率よりも大きい。例えば、付勢部材36はABS等の樹脂であり、チップ本体32は鋼材である。
【0017】
潤滑油吸収材34は、例えば、樹脂製のスポンジである。潤滑油吸収材34は、潤滑油を吸収した状態で保持することができる。潤滑油吸収材34は、円環形状を有している。潤滑油吸収材34は、付勢部材36の外周を一巡して配置されている。潤滑油吸収材34の付勢部材36との接触面、即ち、潤滑油吸収材34の内周面には、潤滑油吸収材34の内周面を一巡する凹部34aが形成されている。凹部34aは、潤滑油吸収材34の内周面から、潤滑油吸収材34の径方向外側に向かって凹んでいる。凹部34aには、付勢部材36の凸部36aが嵌合している。常温下における潤滑油吸収材34の外径とチップ本体32の外径とは、略同一である。また、常温下におけるプランジャチップ30の外径は、スリーブ10の内径よりも小さい。このため、プランジャチップ30を、スリーブ10内に容易に挿入することができる。
【0018】
鋳造工程中では、プランジャチップ30は加熱される。この結果、チップ本体32、付勢部材36及び潤滑油吸収材34は熱膨張する。チップ本体32が熱膨張した状態で、チップ本体32の外径は、スリーブ10の内径よりも小さくなるように設計されている。このため、チップ本体32とスリーブ10とが直接接触することが防止される。
【0019】
付勢部材36は、熱膨張することによって、潤滑油吸収材34の外径を拡大する。付勢部材36の熱膨張率は、チップ本体32の熱膨張率よりも大きい。常温下で、チップ本体32の外径と潤滑油吸収材34の外径とが略同一であるために、プランジャチップ30の使用時には、潤滑油吸収材34の外径は、チップ本体32の外径よりも大きくなる。この結果、チップ本体32がスリーブ10の内面に接触しない状態を維持しながら、潤滑油吸収材34を、付勢部材36によって、スリーブ10の内面に押圧することができる。潤滑油吸収材34が付勢部材36とスリーブ10とによって圧縮されることによって、潤滑油吸収材34に吸収されている潤滑油は、絞り出される。この状態で、プランジャチップ30は、スリーブ10内を往復移動する。このため、潤滑油吸収材34に吸収されている潤滑油は、スリーブ10の内面のうち、プランジャチップ30、即ち、潤滑油吸収材34との摺動面に塗布される。
【0020】
この構成では、プランジャチップ30がスリーブ10内を往復移動することによって、潤滑油吸収材34は、スリーブ10の内面に潤滑油を塗布することができる。この構成によれば、スリーブ10の内面に、均一に潤滑油を塗布することができる。
【0021】
また、仮に、プランジャチップ30が傾いて、チップ本体32がスリーブ10の内面に接触したとしても、スリーブ10の内面に塗布されている潤滑油がチップ本体32とスリーブ10の内面を保護し、損傷を回避あるいは抑制することができる。
【0022】
また、潤滑油吸収材34の凹部34aは、プランジャチップ30の移動方向に垂直な方向に凹んでいる。付勢部材36の凸部36aは、プランジャチップ30の移動方向に垂直な方向で、凹部34aに嵌め込まれている。これにより、潤滑油吸収材34が、付勢部材36に対して、プランジャチップ30の移動方向にずれることを防止することができる。
【0023】
また、潤滑油吸収材34は、付勢部材36によってスリーブ10の内面に押圧されている。このため、潤滑油吸収材34が磨耗することによって、潤滑油吸収材34とスリーブ10の内面とが離間することを防止することができる。
【0024】
潤滑油吸収材34及び付勢部材36の形状は、上記の実施例に限られない。例えば、図3に示すように、付勢部材136の外周面に、付勢部材136を一巡する凹溝136aが形成されていてもよい。潤滑油吸収材134の内周側の一部は、凹溝136aに嵌合していてもよい。また、例えば、図4に示すように、付勢部材236の外周面に、付勢部材236を一巡する断面がV字形状の凹溝236aが形成されていてもよい。この場合、潤滑油吸収材234の内周面には、凹溝236aの形状に対応する凸部234aが形成されているとよい。あるいは、例えば、図5に示すように、潤滑油吸収材334の内周面に、潤滑油吸収材334を一巡する断面がV字形状の凹溝334aが形成されていてもよい。この場合、付勢部材336の外周面には、凹溝334aの形状に対応する凸部336aが形成されているとよい。これらの構成によっても、潤滑油吸収材134、234、334が、付勢部材136、236、336に対して、プランジャチップ30の移動方向にずれることを防止することができる。
【実施例2】
【0025】
図面を参照して実施例2のプランジャチップについて説明する。以下では、実施例1と異なる点について説明する。プランジャチップ430は、チップ本体432と、複数個の潤滑油吸収材434と、複数個のコイルばね436と、を備える。チップ本体432の軸方向(図6の左右方向)の中間位置には、複数個(例えば6個)の収容穴432aが形成されている。1個の収容穴432aは、チップ本体432の中心軸を挟んで、別の1個の収容穴432aに対向している。即ち、2個の収容穴432aは、チップ本体432の中心軸に対して、軸対称に配置されている。なお、チップ本体432の軸方向の中間位置には、チップ本体432の外周面を一巡する溝は形成されていない。それ以外のチップ本体432の構成は、チップ本体32と同様である。
【0026】
複数個の収容穴432aのそれぞれには、1個の潤滑油吸収材434と、1個のコイルばね436とが収容されている。潤滑油吸収材434は、部分円環形状を有する。コイルばね436は、潤滑油吸収材434と収容穴432aの底面との間に配置されている。なお、コイルばね436に替えて、実施例1と同様の付勢部材36を配置してもよいし、皿ばね等の別の種類のばねを配置してもよい。
【0027】
プランジャチップ430がスリーブ10に収容される前の状態では、複数個の潤滑油吸収材434の外縁を結んでできる円の直径は、スリーブ10の内径よりも大きい。このため、プランジャチップ430がスリーブ10に収容されると、潤滑油吸収材434は、コイルばね436によって、スリーブ10の内面に押圧される。この構成によれば、実施例1と同様に、スリーブ10の摺動面に、潤滑油を均一に塗布することができる。
【0028】
上記の実施例の変形例を以下に列挙する。
(1)上記の実施例では、付勢部材36の全周に亘って、凸部36aが形成されている。しかしながら、凸部36aは、付勢部材36の周方向に沿って、断続的に形成されていてもよい。この場合、潤滑油吸収材34の凹部34aは、凸部36aに対応する位置及び形状で形成されていればよい。
【0029】
(2)スリーブ10の内面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部材は、潤滑油吸収材34に限られない。潤滑剤供給部材は、それ自身が潤滑剤であってもよい。潤滑剤供給部材は、例えば黒鉛のように、スリーブ10の内面に押圧された状態で摺動することによって、潤滑剤供給部材が削れて、スリーブ10の内面に付着するものであってもよい。なお、潤滑剤供給部材が硬い材料で作製されている場合、実施例2に示すように、複数個の潤滑剤供給部材を、チップ本体432の外周面に、断続的に配置することが好ましい。
【0030】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0031】
2:鋳造装置
4:固定金型
10:スリーブ
30:プランジャチップ
32:チップ本体
34:潤滑油吸収材
34a:凹部
36:付勢部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブ内の溶湯を鋳造型に射出するためのプランジャチップであって、
チップ本体と、
前記チップ本体に取り付けられ、前記スリーブの内面と接触して、前記スリーブの内面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部材と、
前記チップ本体と前記潤滑剤供給部材との間に位置して、前記潤滑剤供給部材を、前記スリーブの内面に向けて付勢する付勢部材と、を備えるプランジャチップ。
【請求項2】
前記付勢部材は、弾性変形によって、前記潤滑剤供給部材を前記スリーブの内面に向けて付勢するばねを備える請求項1に記載のプランジャチップ。
【請求項3】
前記付勢部材の熱膨張率は、前記チップ本体の熱膨張率よりも大きい、請求項1に記載のプランジャチップ。
【請求項4】
前記付勢部材及び前記潤滑剤供給部材の一方には、前記付勢部材及び前記潤滑剤供給部材の他方の一部が嵌合する凹部が形成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載のプランジャチップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−135771(P2012−135771A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287732(P2010−287732)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)