説明

プラント構成部材への白金皮膜形成方法

【課題】本発明の目的は、化学除染に連続して原子炉構成部材及びフェライト皮膜表面に白金皮膜を効率的に形成する方法を提供するところにある。
【解決手段】上記した目的を達成する本発明の特徴は、プラント構成部材を有するプラントの運転停止後で前記プラントの運転開始前に、白金イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を、プラント構成部材の表面に接触させ、前記プラント構成部材の前記表面に、白金皮膜を形成することを特徴とする。
【効果】本発明によれば、化学除染に連続して原子炉構成部材及びフェライト皮膜表面に白金皮膜を効率的に形成する方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント構成部材への白金皮膜形成方法に係り、特に、沸騰水型原子力発電プラントに適用するのに好適なプラント構成部材への白金皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントとして、例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)及び加圧水型原子力発電プラント(以下、PWRプラントという)が知られている。例えば、BWRプラントは、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、原子炉内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
【0003】
BWRプラント及びPWRプラント等の発電プラントでは、原子炉圧力容器などの主要な構成部材は、腐食を抑制するために、水が接触する接水部にステンレス鋼及びニッケル基合金などを用いている。また、原子炉冷却材浄化系,余熱除去系,原子炉隔離時冷却系,炉心スプレイ系,給水系及び復水系などの構成部材は、プラントの製造所要コストを低減する観点、あるいは給水系や復水系を流れる高温水に起因するステンレス鋼の応力腐食割れを避ける観点などから、主として炭素鋼部材が用いられる。
【0004】
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物は、RPV及び再循環系配管等の接水部からも発生することから、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼、ニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水(RPV内に存在する冷却水)と接触することを防いでいる。炉水とは、原子炉内に存在する冷却水である。さらに、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水中に僅かに存在する金属不純物を積極的に除去している。
【0005】
上述の腐食対策を講じても、極僅かな金属不純物が炉水に残ることが避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂によって発生する中性子の照射により原子核反応を起こし、コバルト60,コバルト58,クロム51,マンガン54等の放射性核種になる。これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままであるが、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水内にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水に含まれる放射性物質は、原子炉浄化系によって取り除かれる。しかしながら、除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、BWRプラントを構成する構成部材の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を経済的に可能な限り低くする必要が生じている。
【0006】
そこで、配管への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、亜鉛などの金属イオンを炉水に注入して、炉水と接触する再循環系配管内面に亜鉛を含む緻密な酸化皮膜を形成させることにより、酸化皮膜中へのコバルト60及びコバルト58等の放射性核種の取り込みを抑制する方法が提案されている(特開昭58−79196号公報参照)。
【0007】
また、化学除染後、原子力プラントの構成部材表面にフェライト皮膜としてマグネタイト皮膜を形成することによって、プラントの運転後においてその構成部材表面に放射性核種が付着することを抑制する方法が、特開2006−38483号公報及び特開2007−192745号公報に提案されている。この方法は、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液、過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、その構成部材表面に接触させてその表面にフェライト皮膜を形成するものである。さらに、マグネタイト皮膜よりも安定なニッケルフェライト皮膜もしくは亜鉛フェライト皮膜を原子力プラントの構成部材表面に形成し、プラントの運転後においてその構成部材表面に放射性核種が付着することをさらに抑制する方法が提案されている。
【0008】
原子力プラントの構成部材の応力腐食割れを抑制するために、その構成部材の冷却水と接触する表面に、亜鉛クロマイト(ZnCr24)及びクロム酸化物(Cr23)が混在する亜鉛とクロムの複合酸化物層を形成することが、特開2001−91688号公報に記載されている。
【0009】
特開2000−352597号公報は、原子力プラントの構成部材に含まれるCrを安定化することを記載しており、このCrの安定化によって、構成部材の応力腐食割れ感受性を緩和し、構成部材の腐食の抑制を図っている。腐食の抑制は、定期検査時における被ばく線量を低減することができる。そのCrの安定化は、構成部材の表面にMCr24の形態(MはZn,Ni,Fe及びCoのうちの1種あるいは複数種の混合)の化合物を形成することを提案している。MCr24、例えば、FeCr24の構成部材表面への形成方法として、めっき,塗装,ライニング,容赦,プレーティング,プレフィルミング,研磨の表面処理のいずれかまたは複数を用いている。
【0010】
原子力プラントでは、応力腐食割れの進展を抑制するため、原子炉内に白金を注入する技術を適用している。この白金注入技術は、白金を原子炉内の冷却水に注入することによって、冷却水と接触する、原子力プラントの構成部材の表面を強還元環境に保ち、構成部材での応力腐食割れの進展を抑制する。しかしながら、水素注入技術は、その構成部材の表面を強還元環境に保つことにより、構成部材での応力腐食割れの進展を抑制できるものの、その構成部材の表面には60Coを取り込み易い酸化皮膜が形成され易くなることが報告されている。このため、定期点検作業者の被ばく線量増加が危惧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−79196号公報
【特許文献2】特開2006−38483号公報
【特許文献3】特開2007−182604号公報
【特許文献4】特開2007−192745号公報
【特許文献5】特開2001−91688号公報
【特許文献6】特開2000−352597号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】proceedings of water chemistry 2004, p1054-1059.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
原子力発電所の配管表面に白金を形成する方法では、原子炉起動後に白金錯体を給水配管より注入する方法が実施されている(非特許文献1)。また、白金によって原子炉構成部材の表面を強還元環境に保つことにより、構成部材での応力腐食割れの進展を抑制できるものの、その構成部材の表面には60Coを取り込み易い酸化皮膜が形成され易くなることが報告されている。このため、定期点検作業者の被ばく線量増加が危惧される。
【0014】
原子力プラントの構成部材の表面に緻密なフェライト皮膜を形成し60Coの付着量を抑制する、特開2006−38483号公報,特開2007−182604号公報及び特開2007−192745号公報に記載されたフェライト皮膜形成方法は、フェライト皮膜形成対象物である、原子力プラントの構成部材の表面へのフェライト皮膜形成時において、その構成部材の表面に接触させる皮膜形成液である、鉄(II)イオンを含む溶液、酸化剤及びpH調整剤の添加を順に行い、更に白金イオンを含む薬剤を導入することでフェライト皮膜表面に白金を形成する事を記載し、配管の応力腐食割れを低減するとともに60Coの付着量を抑制する事を記載している。
【0015】
発明者らは、原子力プラントの構成部材及びフェライト皮膜表面に適用するのに好適な白金の形成方法を詳細に検討した。その結果、プラントの運転停止期間中に、原子炉構成部材及びフェライト皮膜表面の化学除染に連続して白金皮膜を形成すれば、白金皮膜を効率的に形成できることを発見した。
【0016】
本発明の目的は、化学除染に連続して原子炉構成部材及びフェライト皮膜表面に白金皮膜を効率的に形成する方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、プラント構成部材を有するプラントの運転停止後で前記プラントの運転開始前に、白金イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を、プラント構成部材の表面に接触させ、前記プラント構成部材の前記表面に、白金皮膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化学除染に連続して原子炉構成部材及びフェライト皮膜表面に白金皮膜を効率的に形成する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の好適な一実施例である、BWRプラントの再循環系配管に適用する実施例1のプラント構成部材へのフェライト皮膜形成方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】図1に示すプラント構成部材への白金皮膜形成方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置をBWRプラントの再循環系配管に接続した状態を示す説明図である。
【図3】図2に示す皮膜形成装置の詳細構成図である。
【図4】白金皮膜をステンレス鋼部材表面に形成した場合の皮膜の断面像と組成分析の結果である。
【図5】白金皮膜をフェライト皮膜を形成したステンレス鋼表面に形成した試験片の断面像と組成分析の結果である。
【図6】従来法と本発明による白金皮膜形成量の相対比較である。
【図7】未処理、ステンレス鋼表面に白金皮膜を形成した試験片及びフェライト皮膜を形成したステンレス鋼表面に白金皮膜を形成した試験片への放射性核種の付着状態を示す説明図である。
【図8】本発明の他の実施例である、BWRプラントに適用する実施例2のプラント構成部材へのフェライト皮膜形成方法の手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の他の実施例である、BWRプラントに適用する実施例3のプラント構成部材へのフェライト皮膜形成方法の手順を示すフローチャートである。
【図10】図9に示すプラント構成部材へのフェライト皮膜形成方法に用いられる皮膜形成装置の詳細構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明者らは、原子力プラントの構成部材の表面に白金を形成する従来の貴金属注入において、280℃における白金形成メカニズムの詳細な検討を行った。その結果、白金イオンが原子炉構成部材及びフェライト皮膜表面で還元されて白金が形成されると分かった。そこで、発明者らは、100℃以下の低温でも白金イオンが還元できる方法を種々検討した結果、白金イオンを含む薬剤と還元剤を同時に原子力プラントの構成部材の表面に接触させれば、白金が形成できる事がわかった。また、従来より効率的に白金イオンを還元することで白金が緻密な皮膜状になることも突き止めた。そこで、上記の原子炉構成部材及びフェライト皮膜表面への白金及び白金皮膜形成方法を検討した。
【0021】
発明者らは白金イオンを含む第1薬剤と還元剤を含む第2薬剤を原子炉構成部材の表面に接触させることで(1)式の反応に基づいて白金が形成できると考えた。
【0022】
Pt2++2e2- → Pt……(1)
そこで、発明者らは、白金イオンを含む第1の薬剤,還元剤を含む第2薬剤、を含む皮膜形成液を、原子力プラントのステンレス鋼製の構成部材を模擬したステンレス鋼製の試験片の表面及びフェライト皮膜を形成したステンレス鋼表面に白金皮膜の形成を実験により試みた。
【0023】
発明者らは、水に、白金イオンを含む第1薬剤,還元剤を含む第2薬剤を添加して生成した皮膜形成液を、原子力プラントのステンレス鋼製の構成部材を模擬したステンレス鋼製の試験片の表面に接触させ、この表面に白金皮膜を形成した。発明者らは、皮膜形成後に試験片の表面に形成された白金皮膜を電子顕微鏡観察及び組成分析を行った(図4)。その結果、白金が緻密な皮膜状に形成されていることを確認した。また、原子力プラントのステンレス鋼製の構成部材を模擬したステンレス鋼製の試験片の表面にフェライト皮膜を形成し、このフェライト皮膜の表面に白金皮膜を形成した試験片の電子顕微鏡観察及び組成分析を行った(図5)。緻密なフェライト皮膜及び白金皮膜が同時に形成されている事が確認された。以上のように白金を含む皮膜形成液と還元剤を添加することで緻密な白金皮膜の形成が確認できた。図6に従来法と本発明による白金皮膜形成量の相対値を示す。本発明は従来法の約9倍の皮膜形成量が可能になった。さらに発明者らは、ステンレス鋼及びフェライト皮膜を形成したステンレス鋼試験片の放射能付着抑制効果を実験により確認した。得られた腐食抑制効果を、図7を用いて説明する。図7の縦軸は、60Coの付着量の相対値を示している。未処理の試験片に対して、白金皮膜を形成したステンレス鋼及びフェライト皮膜の表面に白金皮膜を形成したステンレス鋼試験片共に放射能の付着を抑制している。つまり、白金を皮膜状に形成することでフェライト皮膜を形成したステンレス鋼試験片だけでなく、ステンレス鋼試験片への60Coの付着量も抑制する事ができた。
【実施例1】
【0024】
本発明の好適な一実施例であるBWRプラントの再循環系配管に適用した実施例1のプラント構成部材への白金皮膜形成方法を、図1,図2及び図3を用いて説明する。ここで、白金皮膜の形成は化学除染,フェライト皮膜形成ののちに連続して行われる。
【0025】
原子力発電プラントであるBWRプラントは、図2に示すように、原子炉1,タービン3,復水器4,再循環系,原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内にジェットポンプ14を設置している。炉心13には多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管22、及び再循環系配管22に設置された再循環ポンプ21を有する。給水系は、復水器4とRPV12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5,復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)6,低圧給水加熱器8,給水ポンプ7及び高圧給水加熱器9を、復水器4からRPV12に向って、この順に設置して構成されている。原子炉浄化系は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ24,再生熱交換器25,非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27をこの順に設置している。浄化系配管20は、再循環ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。原子炉1は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器11内に設置されている。
【0026】
RPV12内の冷却水は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14内に噴出される。ジェットポンプ14のノズルの周囲に存在する冷却水も、ジェットポンプ14内に吸引されて炉心13に供給される。炉心13に供給された冷却水は燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、加熱された冷却水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV12内に設けられた気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)にて水分が除去された後に、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。
【0027】
タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮されて水になる。この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧される。給水は、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱されてRPV12内に導かれる。抽気配管でタービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
【0028】
再循環系配管22内を流れる冷却水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって原子炉浄化系の浄化系配管20内に流入し、再生熱交換器25及び非再生熱交換器26で冷却された後、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された冷却水は、再生熱交換器25で加熱されて浄化系配管20及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
【0029】
BWRプラントの運転が停止された後のBWRプラントの運転停止期間内で、仮設設備である皮膜形成装置30の循環配管(皮膜形成液配管)35の両端が、ステンレス鋼製の再循環系配管22に接続される。この循環配管35を再循環系配管22に接続する作業を具体的に説明する。BWRプラントの運転停止後に、例えば、再循環系配管22に接続されている浄化系配管20に設置されているバルブ23のボンネットを開放して浄化系ポンプ24側を封鎖する。皮膜形成装置30の循環配管35の一端をバルブ23のフランジに接続する。これにより、循環配管35の一端が再循環系ポンプ21の上流で再循環系配管22に接続される。他方、再循環ポンプ21の下流側で再循環系配管22に接続されたドレン配管または計装配管などの枝管を切り離し、その切り離された枝管に、皮膜形成装置30の循環配管35の他端を接続する。循環配管35の両端を再循環系配管22に接続することによって、再循環系配管22及び循環配管35を含む閉ループが形成される。再循環系配管22の両端部におけるRPV12内での各開口部は、皮膜形成液がRPV12内に流入しないように、プラグ(図示せず)でそれぞれ封鎖される。皮膜形成装置30は、再循環系配管22の内面にフェライト及び白金皮膜が形成され、これらの皮膜の形成に使用した皮膜形成液の処理が終了した後で且つBWRプラントの運転停止期間内で、再循環系配管22から取り外される。その後で、BWRプラントの運転が開始される。
【0030】
皮膜形成装置30は、再循環系配管22の内面への白金及びフェライト皮膜の形成、及びこの皮膜の形成に使用した皮膜形成液の処理の両方に用いられる。さらに、皮膜形成装置30は、再循環系配管22内面の化学除染を行う際にも用いられる。再循環系配管22に接続された皮膜形成装置30は、BWRプラントでは放射線管理区域である原子炉格納容器11内に配置されている。
【0031】
本実施例では、再循環系配管22を皮膜形成対象物にしたが、給水系,冷却材浄化系、及び補機冷却水系の各配管を皮膜形成対象物にする場合には、該当する皮膜形成対象物の配管系に循環配管35を接続する。
【0032】
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。皮膜形成装置30は、サージタンク31,循環配管35,鉄(II)イオン注入装置88,酸化剤注入装置86,pH調整剤注入装置87,白金イオン注入装置85,フィルタ51,加熱器53,分解装置64及びカチオン交換樹脂塔60を備えている。
【0033】
開閉弁47,循環ポンプ48,弁49,加熱器53,弁55,56及び57、サージタンク31,循環ポンプ32,弁33及び開閉弁34が、上流よりこの順に循環配管35に設けられている。弁49をバイパスして循環配管35に接続される配管71に、弁50及びフィルタ51が設置される。加熱器53及び弁55をバイパスする配管66が循環配管35に接続され、冷却器58及び弁59が配管66に設置される。両端が循環配管35に接続されて弁56をバイパスする配管67に、カチオン交換樹脂塔60及び弁61が設置される。両端が配管67に接続されてカチオン交換樹脂塔60及び弁61をバイパスする配管68に、混床樹脂塔62及び弁63が設置される。
【0034】
弁65及び分解装置64が設置される配管69が弁57をバイパスして循環配管35に接続される。分解装置64は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。サージタンク31が弁57と循環ポンプ32の間で循環配管35に設置される。弁36及びエゼクタ37が設けられる配管70が、弁33と循環ポンプ32の間で循環配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続されている。再循環系配管22の内面の汚染物を酸化溶解するために用いる過マンガン酸カリウム(酸化除染剤)、さらには再循環系配管22の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。
【0035】
鉄(II)イオン注入装置88が、薬液タンク45,注入ポンプ43及び注入配管72を有する。薬液タンク45は、注入ポンプ43及び弁41を有する注入配管72によって循環配管35に接続される。薬液タンク45は、鉄をギ酸で溶解して調製した2価の鉄(II)イオンを含む薬剤(第4薬剤)を充填している。この薬剤はギ酸を含んでいる。なお、鉄を溶解させる薬剤としては、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなるカルボン酸または炭酸を用いることができる。鉄を溶解する、ギ酸以外のカルボン酸として、シュウ酸またはマロン酸を用いてもよい。
【0036】
酸化剤注入装置86が、薬液タンク46,注入ポンプ44及び注入配管73を有する。薬液タンク46は、注入ポンプ44及び弁42を有する注入配管73によって循環配管35に接続される。薬液タンク46は、酸化剤(第3薬剤)である過酸化水素を充填している。
【0037】
pH調整剤注入装置87が、薬液タンク40,注入ポンプ39及び注入配管74を有する。薬液タンク40は、注入ポンプ39及び弁38を有する注入配管74によって循環配管35に接続される。薬液タンク40はpH調整剤(第2薬剤)であるヒドラジンを充填する。
【0038】
白金イオン注入装置85が、薬液タンク80,注入ポンプ81及び注入配管83を有する。薬液タンク80は、注入ポンプ81及び弁82を有する注入配管83によって循環配管35に接続される。薬液タンク80は、白金錯体を水に溶解して調製した白金イオンを含む薬剤(第1薬剤)が充填されている。
【0039】
本実施例では、白金イオン注入装置85の循環配管35への第1接続点(注入配管83と循環配管35の接続点)84、鉄(II)イオン注入装置88の循環配管35への第2接続点(注入配管72と循環配管35の接続点)78、酸化剤注入装置86の循環配管35への第3接続点(注入配管73と循環配管35の接続点)79、及びpH調整剤注入装置87の循環配管35への第4接続点(注入配管74と循環配管35の接続点)77のうち、第4接続点77が皮膜形成対象物にできるだけ近い位置に配置させることが好ましい。
【0040】
分解装置64は、鉄(II)イオンの対アニオンとして使用するカルボン酸(例えば、ギ酸)、及びpH調整剤のヒドラジンを分解できるようになっている。つまり、鉄(II)イオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減化を考慮して水及び二酸化炭素に分解できるカルボン酸、または気体として放出可能で廃棄物を増やさない炭酸を用いている。
【0041】
本実施例における白金皮膜形成方法を、図1を用いて詳細に説明する。白金皮膜は化学除染、フェライト皮膜の形成を実施した後連続して行われるため、図1に示す手順は、白金皮膜の形成だけでなく、化学除染、及び皮膜の形成に用いた皮膜形成液(例えば、皮膜形成水溶液)の処理の手順も含んでいる。まず、皮膜形成装置30を皮膜形成対象の配管系に接続する(ステップS1)。すなわち、BWRプラントの運転がBWRプラントの定期検査のために停止された後のBWRプラントの運転停止期間において、前述したように、循環配管35が皮膜形成対象物の配管系である再循環系配管(原子力プラントの構成部材)22に接続される。
【0042】
皮膜形成対象箇所に対する化学除染を実施する(ステップS2)。運転を経験したBWRプラントでは、RPV12内の冷却水(以下、炉水という)と接触する、再循環系配管22の内面に、酸化皮膜が形成されている。そのBWRプラントでは、この酸化皮膜が放射性核種を含んでいる。ステップS2の一例は、化学的な処理によりその酸化皮膜を、皮膜形成対象物である再循環系配管22の内面から取り除く処理である。皮膜形成対象物の配管系への白金及びフェライト皮膜の形成は、その再循環系配管内面の放射性核種の付着抑制及び応力腐食割れ抑制を目的とするものであるが、その皮膜の形成に際しては再循環系配管22の内面に対して予め化学除染を実施しておくことが好ましい。
【0043】
ステップS2で適用する化学除染は、公知の方法(特開2000−105295号公報参照)であるが、簡単に説明する。まず、弁34,33,57,56,55,49及び47をそれぞれ開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32及び48を駆動する。これにより、循環配管35及び再循環系配管22の閉ループ内にサージタンク31内の水を循環させる。加熱器53により循環する水を加熱し、この水の温度が90℃になったときに弁36を開く。エゼクタ37につながっているホッパから供給される必要量の過マンガン酸カリウムが、配管70内を流れる水によりサージタンク31内に導かる。過マンガン酸カリウムがサージタンク31内で水に溶解し、酸化除染液(過マンガン酸カリウム水溶液)が生成される。この酸化除染液は、循環ポンプ32の駆動によってサージタンク31から循環配管35を経て再循環系配管22内に供給される。酸化除染液は、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物を酸化して溶解する。
【0044】
酸化除染が終了した後、上記のホッパからシュウ酸をサージタンク31内に注入する。このシュウ酸によって酸化除染液に含まれている過マンガン酸カリウムが分解される。その後、サージタンク31内で生成されてpHが調整された還元除染液(シュウ酸水溶液)は、循環ポンプ32によって再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に存在する腐食生成物の還元溶解を行う。還元除染液のpHが、薬液タンク40から循環配管35内に供給されるヒドラジンによって調整される。再循環系配管22から排出されて循環配管35に戻された還元除染液の一部が、金属陽イオンを除去するために、必要な弁操作によりカチオン交換樹脂塔60に導かれる。
【0045】
還元除染の終了後、弁65を開いて弁57の開度を調整し、循環配管35内を流れる還元除染液の一部を分解装置64に供給する。この還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、薬液タンク46から配管75を通して分解装置64に導かれた過酸化水素、及び分解装置64内の活性炭触媒の作用によって分解される。シュウ酸及びヒドラジンの分解後、弁55を閉じて加熱器53による加熱を停止させ、同時に、弁59を開いて除染液を冷却器58で冷却する。冷却された除染液(例えば、60℃)が、不純物を除去するために、混床樹脂塔62に供給される。
【0046】
原子力プラントの構成部材である再循環系配管22の化学除染が終了した後、フェライト皮膜の形成処理が実行される。
【0047】
皮膜形成対象物の除染が終了した後、皮膜形成液の温度調整を行う(ステップS3)。皮膜形成対象物の除染終了後、すなわち、皮膜形成装置30による最後の浄化運転が終了した後、以下の弁操作が行われる。弁50を開いて弁49を閉じ、フィルタ51への通水を開始する。弁56を開いて弁63を閉じることにより、混床樹脂塔62への通水を停止する。さらに、弁55を開いて加熱器53によって循環配管35内の水を所定温度まで加熱する。弁47,57,33及び34は開いており、弁36,59,61,65,38,41,42及び82は閉じている。循環ポンプ32,48が回転している。フィルタ51への通水は、水中に残留している微細な固形物を除去し、この固形物の表面にもフェライト皮膜が形成されて薬剤が無駄に使用されることを防止するためである。また、フィルタ51への皮膜形成液の供給を化学洗浄中に実施した場合には、溶解によって生じた高濃度の鉄に起因する水酸化物でフィルタの圧力損失が高くなる恐れがあるため適切ではない。
【0048】
本実施例では、皮膜形成液の温度は、再循環系配管22の内面に皮膜を形成している間、加熱器53によって75℃に調節され、この温度に保持される。しかしながら、皮膜形成液の温度はその温度に限られない。要は原子炉の運転時における構成部材である再循環系配管22の腐食を抑制できる程度に、フェライト皮膜が形成できてこの皮膜の結晶等の膜構造が緻密に形成できればよいのである。したがって、皮膜形成液の温度は、100℃以下が好ましく、下限は20℃でもよいが、フェライト皮膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。したがって、皮膜形成処理における皮膜形成液の温度は、加熱器53を制御することによって60℃〜100℃の範囲に含まれる温度に調節することが望ましい。
【0049】
化学除染の終了後で後述の各薬剤が循環配管35に注入される前では、循環配管35から再循環系配管22に供給される液体は、各薬剤の注入により皮膜形成液になる水である。
【0050】
第4薬剤に含まれる鉄(II)イオンを酸化させて水酸化第二鉄を生成させないために、皮膜形成液内の溶存酸素を除去することが必要である。このため、サージタンク31及び薬液タンク45内で、不活性ガスのバブリングまたは真空脱気を行うことが好ましい。ステップ4のフェライト皮膜形成も公知の方法であるが簡単に説明する。
【0051】
鉄(II)イオンを含む薬液(第4薬剤)を皮膜形成液に注入する。弁41を開いて注入ポンプ43を駆動させ、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬液(第4薬剤)が、薬液タンク45から、注入配管72を通って、循環配管35内を流れている皮膜形成液に注入される。ここで注入される第4薬剤は、例えば、鉄をギ酸で溶解して調製した鉄(II)イオン及びこのギ酸を含んでいる。注入された鉄(II)イオンの一部が、皮膜形成液内で水酸化第一鉄となる。
【0052】
酸化剤(第3薬剤)を皮膜形成液に注入する。弁42を開いて注入ポンプ44を駆動させ、酸化剤である過酸化水素を、薬液タンク46から注入配管73を通して、循環配管35内を流れている鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄を含む皮膜形成液に注入する。酸化剤としては、過酸化水素以外に、オゾンまたは酸素を溶解した薬剤を用いてもよい。
【0053】
pH調整剤(第2薬剤)を皮膜形成液に注入する。弁38を開いて注入ポンプ39を駆動することにより、pH調整剤(例えば、ヒドラジン)を、薬液タンク40から、注入配管74を通して循環配管35内を流れている皮膜形成液に注入する。pH計76は、循環配管35を流れる皮膜形成液のpHを計測する。制御装置(図示せず)が、このpH計測値に基づいて、注入ポンプ39の回転速度(または弁38の開度)を制御してヒドラジンの注入量を調節し、皮膜形成液のpHを5.5よりも大きく9.0以下の範囲内で、例えば、7.0に調節する。すなわち、ヒドラジン,鉄(II)イオン,水酸化第一鉄,ギ酸及び過酸化水素を含む水溶液である皮膜形成液のpHが、7.0に調節される。
【0054】
ヒドラジンによってpHが7.0に調節されて温度が90℃である、鉄(II)イオン,水酸化第一鉄及び過酸化水素を含む皮膜形成液が再循環系配管22内を流れて再循環系配管22の内面に接触するので、その皮膜形成液に含まれた鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄が、原子力プラントの構成部材である再循環系配管22の内面に吸着され、過酸化水素の作用によりフェライト化される。これにより、再循環系配管22の内面にフェライト皮膜が形成される。皮膜形成液に含まれた過酸化水素は、再循環系配管22の内面に吸着された、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄を酸化させてフェライト化させる反応を生じさせる。ヒドラジンにより皮膜形成液のpHがフェライト皮膜生成反応を進行させる7.0に調節されているので、上記したように、再循環系配管22の内面にフェライト皮膜が形成される。
【0055】
循環ポンプ32,48が駆動されているので、ヒドラジン,鉄(II)イオン,水酸化第一鉄及び過酸化水素を含む皮膜形成液が、循環配管35により、開閉弁34を介して再循環系配管22内に供給される。この皮膜形成液は、再循環系配管22内を流れ、循環配管35の弁47側へと戻される。皮膜形成液(例えば、皮膜形成水溶液)が再循環系配管22の内面に接触することによって、鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄が部材である再循環系配管22の内面に吸着され、吸着された鉄(II)イオン及び水酸化第一鉄が過酸化水素によってフェライト化され、ヒドラジンの作用でpHが7.0になっているので再循環系配管22の内面に、フェライト皮膜が、再循環系配管22の内面に形成される。
【0056】
本ステップの実施により、鉄(II)イオンが含まれた薬液,過酸化水素及びヒドラジンが皮膜形成液に注入される。各薬剤の注入を、連続的に実施することが好ましい。
【0057】
フェライト皮膜の形成処理が完了した後、ステップ5としてPt皮膜の形成が開始される。具体的には、白金錯体を水で溶解した白金イオンを含有した薬液タンク80から、注入ポンプ81を起動し、弁82を開弁することで白金イオンを含む水溶液を注入点84から注入する。その後、ステップ6として薬液タンク40に含まれたpH調整剤であるヒドラジンを弁38を開弁及び注入ポンプ39を起動することで皮膜形成液に添加し、Pt皮膜が形成される。ここで、pH調整剤であるヒドラジンは還元剤としても知られているため、除染、皮膜形成で利用したpH調整剤を還元剤としても流用できる。この後、フェライト及びpt皮膜形成が判定される(ステップS7)。この判定は、フェライト皮膜の形成処理の開始からpt皮膜処理終了までの経過時間で行われる。この経過時間が再循環系配管22の内面に所定の厚みのフェライト皮膜及び白金皮膜を形成するのに要する時間になるまでの間は、ステップS7の判定は「NO」になる。ステップS4〜S6の操作が繰り返し行われる。ステップS7の判定が「YES」になったとき、制御装置(図示せず)が、注入ポンプ39,43,44及び81を停止して(または弁38,41,42及び82を閉じ)各薬液の、循環している皮膜形成液への注入を停止する。これによって、再循環系配管22の内面への白金及びフェライト皮膜の形成作業が終了する。所定厚みの、フェライト及び白金皮膜が、皮膜形成液と接触している、再循環系配管22の内面全面に亘って形成されている。
【0058】
その後、皮膜形成液に含まれている薬剤の分解が実施される(ステップS8)。再循環系配管22の内面へのクロムを含むフェライト皮膜の形成に使用された皮膜形成液は、クロムを含むフェライト皮膜の形成が終了した後においても、ヒドラジン及び有機酸であるギ酸を含んでいる。皮膜形成液に含まれた薬剤であるヒドラジン及びギ酸は、還元除染剤であるシュウ酸の分解と同様に、分解装置64で分解される。皮膜形成液に含まれた各薬剤の分解処理では、弁57,65の開度を調整し、循環配管35内の皮膜形成液の一部を分解装置64に供給する。弁54を開くことにより、過酸化水素が、薬液タンク46から配管75を通して分解装置64に供給される。ヒドラジン及びギ酸は、分解装置64内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用により分解される。ヒドラジンは窒素と水に、ギ酸は二酸化炭素と水にそれぞれ分解する。皮膜形成液に含まれた各薬剤の分解が終了した後、循環配管35が再循環系配管22から取り外され、バルブ28等が元通りに復旧される。これにより、BWRプラントの運転が開始できる状態になる。
【0059】
触媒を用いた分解装置64の替りに紫外線照射装置を用いることも可能である。紫外線照射装置も、酸化剤の存在下でヒドラジン,ギ酸及びシュウ酸を分解することができる。
【実施例2】
【0060】
本発明の他の実施例であるBWRプラントの再循環系配管に適用した実施例2のプラント構成部材への白金皮膜形成方法を、図1,図8を用いて説明する。本実施例は、化学除染を行い、フェライト皮膜が形成された後、皮膜形成液に浮遊しているフェライト粒子を捕集する工程を含む点で実施例1と異なる。実施例1では皮膜形成後の皮膜形成液には皮膜にならなかったフェライトの微粒子が浮遊している。この状態でPtイオン及び還元剤を皮膜形成液中に添加すると配管表面だけでなく、浮遊しているフェライト粒表面にもPtが形成され、Ptの利用効率が低下する。そこで、皮膜形成液中にPtイオンを添加する前にフィルタを使って、フェライト粒子を捕集するものである。具体的には、皮膜形成後の皮膜形成液を、弁50を開弁してフィルタ51に通水して、浮遊しているフェライト粒子を除去し、その後Ptイオン及び還元剤を添加する。
【実施例3】
【0061】
本発明の他の実施例であるBWRプラントの再循環系配管へのPt皮膜形成方法を、図9及び図10を用いて説明する。
【0062】
本実施例のプラント構成部材へのPt皮膜形成方法では、化学除染後に連続してPt皮膜を形成する点でその他の実施例と異なる。図10に示す皮膜形成装置30Bが用いられる。皮膜形成装置30Bは、実施例1で用いられる皮膜形成装置30が有している構成要素のうち、鉄(II)イオン注入装置88が取り除かれている。
【0063】
皮膜形成装置30Bを用いた本実施例のプラント構成部材へのフェライト皮膜形成方法を、図9に示す手順に基づいて説明する。ステップS1において、皮膜形成装置30Bの循環配管35が、再循環系配管に接続される。この時、配管の接続は実施例1と同様の位置である。その後、ステップS2の化学除染及びステップS3の皮膜形成液(または水)の温度調整が行われる。薬液では、まず、Ptイオンが注入される(ステップS4)。還元剤を含む薬液を皮膜形成液に注入する(ステップS5)。
【0064】
白金イオン及びヒドラジンを含む皮膜形成液が、循環配管35を通って再循環配管に導入され皮膜形成液の接する配管内面に白金皮膜が形成される。
【実施例4】
【0065】
本実施例のプラント構成部材への白金及びフェライト皮膜形成方法は、新設のBWRプラントの配管系の内面に白金及びフェライト皮膜を形成する点で、前述の各実施例と異なっている。本実施例では、実施例1で用いた皮膜形成装置及びステップS2の化学除染を除いた各手順のいずれも適用することが可能である。実施例1で用いた皮膜形成装置30及び図1に示す各手順を適用した本実施例の皮膜形成方法を、以下に説明する。
【0066】
本実施例では、新設のBWRプラントの建設が終了し、このBWRプラントの試運転が開始される前に、図1に示す手順(ステップS2を除く)により、例えば、再循環系配管22の内面に白金皮膜を形成する。
【0067】
まず、新設のBWRプラントにおいて皮膜形成対象物であるプラント構成部材、例えば、配管系である再循環系配管22の設置が終了し、このBWRプラントの試運転が開始される前に、ステップS1において、皮膜形成装置30の循環配管35の両端が、実施例1と同様に、BWRプラントの再循環系配管22に連絡される。新設のBWRプラントでは、再循環系配管22の内面に放射性物質が付着していないので、再循環系配管22に対して化学除染を行う必要がない。このため、本実施例は、図1に示す手順のステップS2の化学除染を実施しないで、ステップS3の循環配管35内の水(または皮膜形成液)を加熱し、水(または皮膜形成液)の温度を60℃〜100℃の範囲内の温度に調節する。
【0068】
ステップS3での昇温が終了後、ステップS4〜S5が実施され、循環配管35内に、白金イオンを含む薬剤及びヒドラジンが順番に注入される。白金イオン及びヒドラジンを含む皮膜形成液が、再循環系配管22に供給され、再循環系配管22の内面に接触する。皮膜形成液が再循環系配管22の内面に接触することにより、再循環系配管22の内面に白金皮膜が形成される。再循環系配管22の内面に形成れた白金皮膜の厚みが所定厚みになったとき、ステップS7の判定が「YES」になり、再循環系配管22の内面への白金皮膜の形成作業が終了する。その後、ステップS8において、皮膜形成液に含まれたギ酸及びヒドラジンが分解装置64で分解される。
【0069】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0070】
本実施例は、新設のPWRプラント及び火力プラントに対しても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、原子力プラント及び火力プラントに適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 原子炉
3 タービン
4 復水器
10 給水配管
12 原子炉圧力容器
20 浄化系配管
22 再循環系配管
30,30A,30B 皮膜形成装置
31 サージタンク
32,48 循環ポンプ
35 循環配管
37 エゼクタ
39,43,44,81,91 注入ポンプ
40,45,46,80 薬液タンク
51 フィルタ
53 加熱器
58 冷却器
60 カチオン交換樹脂塔
62 混床樹脂塔
64 分解装置
72,73,74,83 注入配管
76 pH計
85 白金イオン注入装置
86 酸化剤注入装置
87 pH調整剤注入装置
88 鉄(II)イオン注入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント構成部材を有するプラントの運転停止後で前記プラントの運転開始前に、白金イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を、プラント構成部材の表面に接触させ、前記プラント構成部材の前記表面に、白金皮膜を形成することを特徴とするプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項2】
前記皮膜形成液に含まれる還元剤がヒドラジンである事を特徴とする請求項1に記載のプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項3】
プラント構成部材を有するプラントの運転停止後で前記プラントの運転開始前に、化学除染後の前記プラントの構成部材表面に白金皮膜を形成する事を特徴とするプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項4】
プラント構成部材を有するプラントの運転停止後で前記プラントの運転開始前に、化学除染後の前記プラントの構成部材表面にフェライト皮膜を形成し、その上に白金皮膜を形成する事を特徴とするプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項5】
前記プラント構成部材の前記表面に接触する前記皮膜形成液の温度が、60℃〜100℃の範囲内に調節される請求項1ないし4のいずれか1項に記載のプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項6】
前記皮膜形成液の前記プラント構成部材の前記表面への接触が、前記プラント構成部材の前記表面の化学除染を実施した後に行われる請求項1に記載のプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項7】
皮膜形成対象物であるプラント構成部材を有するプラントの設置が終了した後で前記プラントの最初の試運転が開始される前に、白金イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を、プラント構成部材の表面に接触させ、前記プラント構成部材の前記表面に、白金皮膜を形成することを特徴とするプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項8】
プラント構成部材を有するプラントの運転停止後で前記プラントの運転開始前に、
加熱装置を有する配管をプラント構成部材である配管系に接続し、
白金イオン及び還元剤を含む皮膜形成液を、前記配管を通して前記配管系内に供給し、
前記皮膜形成液を前記配管系の内面に接触させて、この内面に、白金皮膜を形成することを特徴とするプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項9】
前記配管系及び前記配管により閉ループが形成され、前記皮膜形成液が前記閉ループ内を循環する請求項8に記載のプラント構成部材への白金皮膜形成方法。
【請求項10】
前記白金皮膜を形成する前記配管系が、ステンレス鋼製の配管系及び炭素鋼製の配管系のいずれかである請求項8ないし9のいずれか1項に記載のプラント構成部材への白金皮膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−247322(P2012−247322A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119843(P2011−119843)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)