説明

プリザーブドフラワー

【課題】害虫忌避成分を自然に蒸散させて害虫を忌避することができ、意匠性にも優れる害虫忌避製品の提供。
【解決手段】害虫忌避成分を含有することを特徴とするプリザーブドフラワー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫、特に飛翔害虫に対して忌避効果を奏するプリザーブドフラワーに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生活環境には、蚊、ハエ、ゴキブリ、ダニ等の害虫が生息している。従来、これらの害虫を防除する方法として、例えば、蚊取り線香、液体蚊取り等、着火・通電させて防除剤を空間に加熱蒸散させる方法、燻煙剤、エアゾール剤等、防除剤を空間に散布させる方法が実用に供されてきた。
しかし、前記方法は、煙や刺激、溶媒による家具の汚染により不快感を覚える場合があり、また、火や電気を必要するため施用時間帯、施用場所が制限されるといった欠点がある。そのため、防除剤を保持した容器を室内に設置し、自然蒸散させて害虫を防除する製品の需要も高い。とりわけ、常時、対象空間全体にわたって害虫を忌避することができ、かつ生活環境の美観を損ねない、意匠性に優れた製品が望まれている。
【0003】
一方、生花を長期保存する加工技術としてプリザーブドフラワーが知られている。プリザーブドフラワーは、生花の組織液を保存液で置換した加工花であり、従来のドライフラワーに比べてより生花に近い形態を保持しているので、装飾品としての人気が高い。
これまでに、生花等の植物を害虫防除に利用したものとして、例えば、薬剤を水分と共に植物体に吸い上げさせ、植物体表面より屋内に薬剤を揮散させる方法(特許文献1)、乾燥により加工されてなる植物体を常温蒸散性薬剤の保持材として利用し、該保持材に蒸散性薬剤を直接塗布し及び/又は保持材の一部を薬液中に浸漬して薬液を吸液せしめ、自然蒸散、送風蒸散及び加熱蒸散の少なくとも1つの方法により薬剤を空気中に放出させる方法(特許文献2)等が知られているが、実際に、プリザーブドフラワーを利用したものは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−182305号公報
【特許文献2】特開2000−139319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、害虫忌避成分を自然に蒸散させて害虫を忌避することができ、意匠性にも優れる害虫忌避製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、プリザーブドフラワーを製造する際に用いられる保存液に害虫忌避成分を添加し、生花の組織液を当該保存液に置換させることで害虫忌避成分を含有するプリザーブドフラワーが得られること、さらに、当該プリザーブドフラワーから忌避成分が自然蒸散し、常時、対象空間全体にわたって害虫を忌避することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、害虫忌避成分を含有することを特徴とするプリザーブドフラワーを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプリザーブドフラワーは、害虫忌避成分を自然蒸散させるので、常時、対象空間全体にわたって害虫を忌避することができる。また、施用時間帯、施用場所等を問わない。さらに、本発明のプリザーブドフラワーは、害虫忌避製品としての意匠性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるプリザーブドフラワーは、生花組織中の水分(組織液)が保存液で置換された生花の加工品である。
プリザーブドフラワーに用いられる生花の種類は、特に限定されず、例えば、カーネーション、薔薇、チューリップ、菊、ガーベラ、ひまわり、トルコキキョウ、ペチュニア、スイートピー、ユリ、ラン等が挙げられる。生花は、花、葉の部分を用いるのが好ましく、特に花の部分を用いるのが好ましい。
【0010】
本発明のプリザーブドフラワーは、生花を脱水・脱色する工程と、害虫忌避成分を含有する保存液に浸漬する工程と、乾燥工程とにより製造することができる。
生花の脱水・脱色は、生花を脱水・脱色液に浸漬し、組織液を当該溶液に予備置換させることにより行われる。
本発明で用いられる脱水・脱色液としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられる。脱水・脱色液に、有機酸を添加して用いてもよい。また、脱水・脱色液は市販品を用いてもよい。
【0011】
生花を脱水・脱色液に浸漬する時間は、特に限定されないが、2時間〜40時間、好ましくは5時間〜12時間である。
【0012】
次いで、脱水・脱色後の生花を保存液に浸漬し、組織液を保存液に置換させる。本発明においては、この保存液中に害虫忌避成分を添加し、保存液と共に害虫忌避成分を生花に含有させる。
【0013】
本発明で用いられる保存液としては、不揮発性又は難揮発性の溶液であれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレンアルコール、グリセリン等の多価アルコール類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類等が挙げられる。なかでも、保存性に優れる点、忌避効果を有効に発揮させる点から、グリセリン、ポリエチレングリコールが好ましい。
ポリエチレングリコールは、特に制限されないが、平均分子量(第15改正日本薬局方、マクロゴール400の項に記載される平均分子量試験により測定)が200〜6,000の範囲内にあるものが好ましく、特に200〜600の範囲内にあるものが好ましい。
【0014】
本発明で用いられる害虫忌避成分は、害虫に対して忌避作用を有する成分であって、常温で自然蒸散する成分であれば特に限定されない。害虫忌避成分としては、例えば、N,N−ジエチルトルアミド(DEET);アオモジ、イランイラン、インドイボタノキ、ウコン、オランダセンニチ、カショウ、カッコウアザミ、カバノキ、カミメボウキ、カユプテ、ガーリック、キンマ、グアバ、クローブ、ゲッキツ、ゲラニウム、コブミカン、シダレイトスギ、シトロネラ、ジュラン、ショウガ、樟脳、シナモン、スウィートバジル、スズラン、スペアミント、セロリ、ドクダミ、ナツメグ、ニーム、ニホンハッカ、パクペム、パチュリ、パッチョウリ、フィンガールート、ブラックペッパー、ミツバハマゴウ、ペパーミント、ベチベルソウ、ホワイトジンジャー、松、ミツバハマゴウ、モクレンモドキ、ユーカリ、ヨーロッパアカマツ、ラベンダー、レモングラス、ローズマリー、これらの精油、エキス又は組成成分等が挙げられる。なかでも、ゲラニウム、シトロネラ、ニーム、ユーカリ、ラベンダー、レモングラス又はローズマリーから抽出される精油が好ましく、特にシトロネラ精油が好ましい。害虫忌避成分は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明において、害虫としては、蚊(ハマダラカ、ネッタイシマカ、ステフェンスハマダラカ、ヒトスジシマカ、アカイエカ、テングカ等);ハエ(イエバエ、ヒメイエバエ、クロバエ、キンバエ、ニクバエ、ショウジョウバエ等);ブヨ(ブユ)(アオキツメトゲブユ、ウマブユ、アシマダラブユ等);アブ(イヨシロオビアブ、キンイロアブ、ゴマフアブ、ウシアブ、アカウシアブ等);ノミ(ヒトノミ、ネコノミ等);ダニ(ツメダニ、コナダニ、ヒョウヒダニ、マダニ、ハダニ等);ゴキブリ(チャバネゴキブリ等);繊維害虫(イガ、コイガ、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ等);カメムシ等が挙げられる。なかでも、蚊、ハエ、ブヨ、アブ等の飛翔害虫に本発明を適用するのが好ましい。
【0016】
害虫忌避成分は、その種類や用いる保存液の種類によって相違するが、一般的には保存液全量に対して、2〜20質量%、特に5〜10質量%含有させるのが好ましい。
【0017】
また、保存液には、例えば、着色剤、香料、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤、増粘剤等を適宜配合することができる。
【0018】
生花を保存液に浸漬する時間は、保存性に優れる点、忌避効果を有効に発揮させる点から、5時間〜72時間、好ましくは8〜24時間である。また、害虫忌避成分を含有する保存液の温度は室温が好ましい。
【0019】
前記工程後、必要により洗浄し、次いで乾燥することにより本発明のプリザーブドフラワーが得られる。洗浄には、前記脱水・脱色液を用いるのが好ましい。
また、乾燥方法は特に制限されないが、室温で3日間〜7日間程度自然乾燥することが好ましい。
【0020】
このようにして製造されたプリザーブドフラワーは、そのまま、あるいは容器等に入れられて、好ましくはリビングや和室、玄関、廊下等の室内に設置したり、そのままコサージュ、ブーケ、帽子飾り等に使用され、害虫忌避製品として利用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1:忌避成分を含有するプリザーブドフラワーの作製
1)プリザーブドフラワーにする生花の準備:
新鮮な生花の薔薇を用意し、花首から0.5cm残して茎を切り落とし、花の部分のみとした。
【0023】
2)生花を脱水・脱色する工程:
ポリプロピレン製の密閉容器(400mL容量)に市販の脱水・脱色溶液(バイオフラワー溶液SF−A:森の工房社製)を300mL注ぎ入れた後、生花を脱水・脱色溶液に浸からせ、アルミホイルで作った落し蓋で蓋をした後、完全に密閉して、室内で直射日光を避け、8時間浸した。
【0024】
3)保存液と忌避成分を脱水・脱色溶液と置換する工程:
ポリプロピレン製の密閉容器(280mL容量)に、保存液であるポリエチレングリコール400(商品名:マクロゴール400)を200mLと、忌避成分としてシトロネラオイル(栄香料株式会社製)20mL及び市販の着色剤(バイオフラワー溶液SP−B:森の工房社製)を50mL加えた。次いで、上記2)で得た脱水・脱色後の生花を万遍無く保存液に浸かるようにして、完全に密閉し、室内で直射日光を避け、12時間浸した。
【0025】
4)洗浄、乾燥工程:
上記3)で得た生花を上記2)で使用した『バイオフラワー溶液SF−A』に5分間浸しながら、花表面の余分な溶液を洗い落とした。洗浄後、花の形を整え、花を上に向けて直射日光を避けて風通しの良い換気扇のある室内で3日間自然乾燥させて、忌避成分を含有するプリザーブドフラワーを得た。
【0026】
比較例1:忌避成分を含有しないプリザーブドフラワーの作製
実施例1の3)で、保存液中に忌避成分のシトロネラオイル20mLを添加しない以外は、実施例1と同様な方法でプリザーブドフラワーを得た。
【0027】
試験例1:忌避効力試験
以下の試験方法で実施例1及び比較例1で得たプリザーブドフラワーの忌避効力を確認した。
【0028】
1)30×30×30cmのステンレス製網ケージBを準備し、ケージ内にヒトスジシマカ1群(49匹〜60匹)を放し、餌として砂糖水を配置し、一昼夜放置した。
2)30×30×30cmのステンレス製網ケージAを準備し、プリザーブドフラワーをケージ底面に置き、その上方に、動き回らないように20メッシュのステンレス製金網袋(表面積146〜154cm2)で固定したマウスを吊るし、忌避成分を蒸散させるため一時間放置した後、ケージAとケージBの間をヒトスジシマカが移動できるように筒状のサランネットを接続して試験を開始した。
【0029】
3)試験は、開始から2,4,6,8,24時間後に、吸血してお腹が赤く膨れているヒトスジシマカをケージ外から肉眼で確認し、直径2.5cm×長さ30cmのガラス管に吸引用のチューブを取り付けた吸虫管で回収した。さらに、24時間後にはケージ内にいる非吸血のヒトスジシマカも数えた。
【0030】
4)試験はそれぞれのプリザーブドフラワーについて2回ずつ行い、2回の合計から下記の式(i)により吸血率を算出し、吸血率から下記の式(ii)により忌避指数を算出した。また、対照(検体なし)として、プリザーブドフラワーを設置しないケージAを用いて試験を2回行い、同様に吸血率と忌避指数を算出した。
吸血率(%)=吸血したヒトスジシマカ数/ヒトスジシマカ総数×100 (i)
忌避指数 =(1−検体の吸血率/検体なしの吸血率) ×100 (ii)
結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から明らかなように、害虫忌避成分を含有させたプリザーブドフラワーでは、試験開始から8時間後までは吸血が見られず(忌避指数:100)、24時間後でも僅か14.4%の吸血率(忌避指数:84.3)であった。これに対して、害虫忌避成分を含有させなかったプリザーブドフラワーでは、忌避効果は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫忌避成分を含有することを特徴とするプリザーブドフラワー。
【請求項2】
生花の組織液を、害虫忌避成分を含有する保存液に置換させることで得られる請求項1記載のプリザーブドフラワー。
【請求項3】
害虫忌避成分が、ゲラニウム精油、シトロネラ精油、ニーム精油、ユーカリ精油、ラベンダー精油、レモングラス精油及びローズマリー精油から選ばれる1種又は2種以上である請求項1又は2記載のプリザーブドフラワー。
【請求項4】
生花を脱水・脱色する工程と、脱水・脱色後の生花を、害虫忌避成分を含有する保存液に浸漬する工程と、乾燥工程とを含むことを特徴とするプリザーブドフラワーの製造方法。

【公開番号】特開2012−62253(P2012−62253A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205812(P2010−205812)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】