説明

プリンターおよびその印刷ヘッドの傾き調整機構

【課題】印刷位置において支軸を中心にして回転可能に構成されたキャリッジの傾き調整機構を、角度調整範囲が大きく、単純且つ軽量な構成にすること。
【解決手段】インクジェットプリンター1におけるインクジェットヘッド11の傾き調整機構50は、横長の開口51が形成されたキャリッジフレーム15と、開口51に装着される楔形スペーサー52と、楔形スペーサー52に対峙するキャリッジ10の部分に設けられた度当てローラー53と、キャリッジ10とサイドフレーム56との間に配置された付勢部材55を備える。キャリッジ10は、印刷位置Aでは付勢部材55の付勢力によって反時計回りに付勢され、度当てローラー53が楔形スペーサー52の斜面52aに当接した位置で停止する。楔形スペーサー52を左右に動かすと斜面52aに沿って度当てローラー53が前後に動くため、キャリッジ10の傾きを調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷ヘッドを記録媒体の幅方向に動かすことなく印刷を行うライン方式のプリンターおよびその印刷ヘッドの姿勢を調整するための傾き調整機構に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体の幅全体をカバーできる幅にインクノズルを配列し、印刷ヘッドを記録媒体の幅方向に走査することなく印刷を行うライン方式のインクジェットプリンターにおいては、印刷ヘッドの幅が大きいため、印刷ヘッドの傾きが印刷品質に及ぼす影響が大きい。例えば、印刷ヘッドが回転して紙幅方向に対して傾いた姿勢になった場合や、記録媒体のスキューが生じた場合には、記録媒体の左端から右端までの広い範囲でインクノズル列が傾いて配列された状態になるため、左端側のインクノズルと右端側のインクノズルの位置ずれ量が大きくなってしまう。そこで、傾き調整機構を設けて印刷ヘッドの姿勢(傾き)を調整できるようにしたプリンターが用いられている。
【0003】
従来の印刷ヘッドの傾き調整機構としては、キャリッジに対する印刷ヘッドの取り付け角度を調整するものが用いられている。また、特許文献1には、ライン方式のヘッドユニットに傾き調整機構を設けた構成が開示されている。特許文献1のプリンターは、横長のヘッドユニットの右端に回動軸を設けてこれを中心としてヘッドユニットを回転可能にしており、ヘッドユニットの左端に位置補正装置を設けている。位置補正装置は、ねじ軸およびボールねじナットを備えており、ねじ軸を回転させることによってヘッドユニットの左端を前後方向に動かすことができる。これにより、単票紙の傾きに応じてヘッドユニットの傾きを調整できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−25523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャリッジに対する印刷ヘッドの取り付け角度を調整する方式の傾き調整機構は、キャリッジ内に搭載されているため、角度調整範囲が狭く、調整範囲を大きくとろうとするとキャリッジを大型化させる必要があり、メカサイズが大きくなってしまうという問題点がある。また、キャリッジの重量の増加によってキャリッジを移動させるための消費電力が増加してしまうという問題点もある。更に、キャリッジに対して印刷ヘッドを取り付ける際に最適な角度に取り付けることができるものの、ヘッド取付後に傾き調整を行うのは困難である。
【0006】
また、特許文献1の傾き調整機構は、ねじ軸を回転させるための駆動機構および駆動源を必要とするものであり、構成が複雑である。また、特許文献1の傾き調整機構は、ライン方式のヘッドユニットを全体として傾けることができるものの、ヘッドユニットの一端に傾き調整機構が固定されており、ヘッドユニットを幅方向に移動させて記録紙の上から退避させる構成に適用できるものではない。
【0007】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、角度調整範囲が大きく、単純且つ軽量な構成で印刷位置における印刷ヘッドの傾きを調整できる傾き調整機構およびこれを備えるプリンターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の印刷ヘッドの傾き調整機構は、
印刷ヘッドを搭載し、一端側に設けられた支軸を中心にして正逆方向に回転可能に支持されたキャリッジが記録媒体に対峙する印刷位置にあるとき、当該キャリッジを予め設定した回転方向に付勢する付勢手段と、
前記予め設定した回転方向とは逆の側から前記キャリッジに対峙する傾き調整部材と、
前記傾き調整部材が取り付けられ、且つ、当該傾き調整部材の取付位置を調整可能に構成された支持部材とを有し、
前記キャリッジが前記印刷位置に移動すると、前記付勢手段の付勢力によって前記キャリッジが前記傾き調整部材に押し付けられ、当該傾き調整部材の前記支持部材への取付位置に応じた回転位置に前記キャリッジが位置決めされることを特徴としている。
【0009】
本発明は、このような構成により、印刷位置において支点を中心にして回転可能な状態になっているキャリッジを傾き調整部材の側に付勢して、傾き調整部材に押し付けられた位置に位置決めできる。そして、傾き調整部材の取付位置を調整し、これによってキャリッジの回転位置を調整して、キャリッジの傾きを調整できる。このようにすると、印刷ヘッドを搭載するキャリッジをその一端を中心として回転可能にした構成を利用して傾き調整を行うことができ、必要な構成としては、キャリッジを付勢する付勢手段と、キャリッジに対峙させた傾き調整部材およびその支持部材を設けるだけでよい。従って、キャリッジを大型化させる必要がなく、簡単且つ軽量な構成にすることができる。よって、装置の小型化に有利であり、キャリッジを移動させるための消費電力の増大も抑制できる。また、キャリッジがその一端を中心として回転するため、角度調整範囲が大きい。更に、付勢部材によってキャリッジを傾き調整部材に押し付けて位置決めするため、キャリッジを支持する機構のガタ寄せを行うことができ、印刷位置におけるキャリッジのガタつきを解消できるという利点もある。
【0010】
本発明において、前記キャリッジにおける前記傾き調整部材に対峙する部分に設けられた度当て部を有し、前記傾き調整部材として、前記度当て部に対峙する斜面を備える楔状部材を用いる構成にすることができる。このようにすると、傾き調整部材(楔状部材)をキャリッジの度当て部が設けられた側面に対して平行移動させることにより、斜面を度当て部に対して進退動させることができる。よって、キャリッジの傾きを調整できる。
【0011】
また、本発明において、前記付勢手段は、前記キャリッジの側面と、印刷位置において当該側面に対峙するサイドフレームとの間に配置された付勢部材を備え、当該付勢部材は、前記キャリッジが印刷位置に移動したことに基づいて弾性変形し、その弾性復帰力によって前記キャリッジを前記サイドフレームとは逆の側に付勢する構成にすることができる。このようにすると、サイドフレームを利用して、キャリッジが印刷位置に移動したときだけキャリッジに付勢力を加えることができる。
【0012】
ここで、前記支持部材として、前記印刷位置と、前記記録媒体の側方に退避した退避位置との間を往復移動する前記キャリッジの移動経路に沿って延びるキャリッジフレームを用いることができる。このようにすると、キャリッジ移動機構の構成部材を利用して傾き調整部材を支持できるため、構成を単純化でき、部材点数を削減できる。
【0013】
この場合に、前記キャリッジフレームは、前記傾き調整部材を取り付けるための開口を備え、前記傾き調整部材は、前記開口から前記キャリッジ側に突出した状態で、前記開口の一端から他端までの範囲をスライド可能であり、前記開口の一端から他端までの範囲の任意の位置に前記傾き調整部材を固定するための固定手段を有する構成にすることができる。このようにすると、傾き調整部材の取付位置を連続的に調整でき、印刷ヘッドの傾きを微調整できる。
【0014】
このとき、前記開口における前記傾き調整部材のスライド方向に沿った縁部分に目盛りが設けられていることが望ましい。このようにすると、目盛りを参照して、傾き調整部材を基準取付位置に容易に取り付けることができる。また、キャリッジの傾き調整完了後に傾き調整部材の取付位置を読み取ることができるため、メンテナンス等のために傾き調整部材を取り外した場合に、元の位置に正確に取り付けることができる。
【0015】
次に、本発明のプリンターは、
記録媒体に対峙する印刷位置において前記記録媒体上の印刷領域の幅方向の一端から他端までの範囲にインクを吐出可能に構成された印刷ヘッドと、
当該印刷ヘッドを搭載しており、一端側に設けられた支軸を中心にして正逆方向に回転可能に支持されたキャリッジと、
前記印刷位置を経由する搬送経路に沿って前記記録媒体を搬送する手段と、
上記の傾き調整機構とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、印刷ヘッドを搭載するキャリッジをその一端を中心として回転可能にした構成を利用して傾き調整を行うことができ、必要な構成としては、キャリッジを付勢する付勢手段と、キャリッジに対峙させた傾き調整部材およびその支持部材を設けるだけでよい。従って、キャリッジを大型化させる必要がなく、簡単且つ軽量な構成にすることができる。よって、装置の小型化に有利であり、キャリッジを移動させるための消費電力の増大も抑制できる。また、キャリッジがその一端を中心として回転するため、角度調整範囲が大きい。更に、付勢部材によってキャリッジを傾き調整部材に押し付けて位置決めするため、キャリッジを支持する機構のガタ寄せを行うことができ、印刷位置におけるキャリッジのガタつきを解消できるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態のプリンターの全体構成を示す縦断面図である。
【図2】インクジェットヘッドおよびヘッド移動機構の説明図である。
【図3】ヘッド移動機構によるキャリッジの移動過程を示す説明図である。
【図4】ヘッド移動機構によるキャリッジの移動領域の説明図である。
【図5】ヘッド移動機構の側面図である。
【図6】ヘッド移動機構の印刷位置側の端部およびプラテンギャップ検出器の斜視図である。
【図7】ヘッド移動機構の斜め上から見た斜視図である。
【図8】モノレール機構の説明図である。
【図9】傾き調整機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したプリンターおよびその印刷ヘッドの傾き調整機構を説明する。
【0019】
(全体構成)
図1は本実施形態のプリンターの全体構成を示す縦断面図である。インクジェットプリンター1(以下、プリンター1という)は、複数種類のカラーインクを用いて長尺状の記録紙P(記録媒体)に印刷を行うものである。プリンター1の後側部分にはロール紙装填部2が設けられており、ここに装填されたロール紙3から引き出された記録紙Pは、ロール紙装填部2の前方に配置されたプラテン4の表面を経由する記録紙搬送経路5に沿って、プリンター前方に向かって搬送される。
【0020】
ロール紙装填部2の上方には記録紙Pのスキューを防止するための用紙ガイド6が配置され、その後方にロール紙3から記録紙Pを引き出すための繰り出しローラー7が配置されている。記録紙Pは、ロール紙3から繰り出しローラー7に向かって斜め後方に引き出された後、繰り出しローラー7に掛け回される。そして、繰り出しローラー7から前方に引き出された記録紙Pは、用紙ガイド6の後方に配置された図示しない負荷ローラーを経由した後、用紙ガイド6およびその前方に配置された搬送ローラー対8を経由して、プラテン4の表面を通過するようにセットされる。搬送ローラー対8は、記録紙Pに下側から当接する駆動ローラー8aと、駆動ローラー8aの側に上方から付勢された従動ローラー8bとを備えている。搬送ローラー対8の下側には駆動ローラー8aを正逆方向に回転させるための紙送りモーター9が配置されている。繰り出しローラー7、搬送ローラー対8、紙送りモーター9等によって、記録紙Pを記録紙搬送経路5に沿って正逆方向に搬送するための搬送手段が構成されている。
【0021】
プラテン4の上方にはキャリッジ10に搭載されたインクジェットヘッド11(印刷ヘッド)が配置されている。一方、プラテン4の下方にはインクカートリッジ装着部12が設けられている。インクカートリッジ装着部12には、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの4色のインクのそれぞれを貯留するインクカートリッジが装着される。インクカートリッジ装着部12にインクカートリッジを装着すると、インク供給管(図示省略)を介して、インク供給用のポンプ機構(図示省略)とインクカートリッジ内のインクタンクとが接続された状態となり、インクジェットヘッド11へのインクの供給が可能となる。
【0022】
図2はインクジェットヘッドおよびヘッド移動機構の説明図であり、図2(a)は平面構成を示す説明図、図2(b)はプリンター前面側から見た概略断面構成を示す説明図である。図2(a)に示すように、インクジェットヘッド11は、第1ヘッド11Aおよび第2ヘッド11Bを備える複合ヘッドであり、第1ヘッド11Aにはブラックおよびシアンのインクを吐出するインクノズル列が形成され、第2ヘッド11Bにはイエローおよびマゼンダのインクを吐出するインクノズル列が形成されている。第1および第2ヘッド11A、11Bは記録紙Pよりも幅広に形成されており、各ヘッドにおけるインクノズル列は、記録紙Pの印刷領域全体をカバーできる幅の領域に配列されている。
【0023】
図2(b)に示すように、第1および第2ヘッド11A、11Bはインクノズル面11aを下向きにしてキャリッジ10に搭載されており、キャリッジ10を水平にしたとき、インクノズル面11aが水平になるように構成されている。キャリッジ10は、各ヘッドのインクノズル面11aとプラテン4の表面との間に予め設定した寸法のプラテンギャップGが形成される高さにインクジェットヘッド11を保持している。
【0024】
プラテン4の側方にはメンテナンスユニット13が配置されている。キャリッジ10は、プラテン4の上方の印刷位置Aから、メンテナンスユニット13の上方のホームポジションB(退避位置/図2(a)(b)において1点鎖線で示す位置)までの範囲でインクジェットヘッド11を往復移動させる。インクジェットヘッド11は、印刷位置Aでは、長手方向を記録紙Pの搬送方向Xと直交する方向に向けた横向きの姿勢になっており、第1および第2ヘッド11A、11Bに設けられた各色のインクノズル列が記録紙Pの印刷領域をカバーしている。一方、ホームポジションBでは、インクジェットヘッド11が印刷位置Aでの姿勢から90度回転した姿勢になっており、長手方向を搬送方向Xと一致させた縦向きの姿勢になっている。
【0025】
プリンター1は、インクジェットヘッド11を印刷位置Aに位置決めして停止させ、この状態で記録紙Pを所定ピッチずつ搬送する毎にインクの吐出動作を行うことにより、記録紙Pへの印刷を行う。また、プリンター1は、印刷が終了すると、インクジェットヘッド11をプラテン4の上から外れたホームポジションBに退避させ、ホームポジションBで待機させる。待機中には、メンテナンスユニット13により、インクジェットヘッド11のインクノズルの目詰まりを防止あるいは解消するためのメンテナンス動作を行う。すなわち、メンテナンスユニット13の上端に設けられたヘッドキャップを上昇させてインクノズル面11aをキャッピングし、必要に応じてヘッドキャップ内へのインクの吐出動作やヘッドキャップ側からのインク吸引動作を行う。あるいは、メンテナンスユニット13にワイピング機構を設けておき、インクノズル面11aをワイピングする。印刷を再開するときには、ヘッドキャップやワイピング機構を下側に退避させてから、インクジェットヘッド11を印刷位置Aに移動させる。
【0026】
(ヘッド移動機構)
プリンター1は、インクジェットヘッド11およびこれを搭載するキャリッジ10を、印刷位置AからホームポジションBまでの範囲で往復移動させるためのヘッド移動機構14を備えている。図3はヘッド移動機構14によるキャリッジ10の移動過程を示す説明図であり、図4はヘッド移動機構14によるキャリッジ10の移動領域の説明図である。以下に、図3、4を参照して、ヘッド移動機構14によるキャリッジ10の移動経路および移動領域について説明する。ヘッド移動機構14は、キャリッジ10の幅方向の一端側の角部10aと他端側の角部10bの2箇所においてキャリッジ10を支持しており、この2箇所を異なる移動経路に沿って案内するように構成されている。角部10aは、印刷位置AにおいてホームポジションBの側に位置しており、角部10bは、ホームポジションBとは逆の側に位置している。図3に示すように、角部10aの移動経路T1は、搬送方向Xと直交する方向から搬送方向Xと平行な方向に方向転換しており、方向転換部分が円弧状移動経路になっている。一方、角部10bの移動経路T2は、搬送方向Xと直交する方向に延びる直線状移動経路である。
【0027】
図3(a)に示すように、角部10aの移動経路T1は、印刷位置Aの側から順に、搬送方向Xと直交する短い第1直線経路T1aと、円弧状経路T1bと、搬送方向Xと平行な第2直線経路T1cを繋げた形状をしている。キャリッジ10が印刷位置Aのとき、角部10aは第1直線経路T1a上にあり、角部10bは移動経路T2の始端部分(印刷位置A側の端部)に位置している。円弧状経路T1bは、ホームポジションBの側に向かうに従って移動経路T2から遠ざかる形状に設定されている。
【0028】
キャリッジ10が印刷位置AからホームポジションBへ移動するときは、まず、図3(b)に示すように、角部10aが第1直線経路T1aに沿って搬送方向Xと直交する方向に移動する。このとき、角部10bも同様に搬送方向Xと直交する方向に移動するため、キャリッジ10は、印刷位置Aと同じ姿勢のままで幅方向に移動する。次に、図3(c)に示すように、角部10aが円弧状経路T1bに沿って移動する。このとき、角部10bは移動経路T2に沿って直線状に進む一方で、角部10aは移動経路T2から離れてゆく。このため、キャリッジ10は、角部10bを中心として時計回りに回転しながら移動することになる。キャリッジ10は、このような回転による姿勢変化が可能な状態で支持されている。続いて、角部10aが第2直線経路T1cに沿って移動し、角部10bは移動経路T2の終端部分(ホームポジションB側の端部)に沿って移動するときも、角部10aは移動経路T2から離れてゆくため、キャリッジ10は時計回りに回転しながら移動する。図3(d)に示すように、キャリッジ10がホームポジションBに到達したとき、印刷位置Aのときの姿勢から90度回転した姿勢になっている。ホームポジションBから印刷位置Aに戻るときは、この逆の過程で移動する。
【0029】
印刷位置AとホームポジションBとの間を移動するときのキャリッジ10およびこれに搭載されたインクジェットヘッド11の移動領域Rは、図4に示すようになっている。移動領域Rは、記録紙Pの左端部分においてわずかに印刷位置Aの後方(図4の上方)にはみ出しているものの、印刷位置Aから大きくはみ出すことのない領域となっている。ここで、比較のため、キャリッジ10をその一端を中心として回転させたときの移動領域R1(従来の移動方法によるヘッド移動領域)を図4に示している。移動領域R1は、印刷位置Aの後方に大きくはみ出す扇形の領域となっている。
【0030】
次に、ヘッド移動機構14の各部の構成について説明する。ヘッド移動機構14は、図2(a)に示すように、記録紙搬送経路5による搬送方向(図2(a)のX方向)と直交する方向に延びるキャリッジフレーム15と、キャリッジフレーム15のホームポジションB側の端部に支持されているキャリッジモーター16を備えている。キャリッジフレーム15はプリンター1の装置本体フレームに支持されている。キャリッジフレーム15のホームポジションB側の端部はホームポジションBの左端まで延びており、この部分に、ホームポジションBの左端位置に沿って搬送方向上流側(図2(a)の上方)に延びる吊り下げフレーム17が取り付けられている。キャリッジフレーム15は、上下方向に延びている垂直板部15a(図5参照)と、垂直板部15aの上端から搬送方向上流側に向かって水平に延びている水平板部15bを備えており、水平板部15bの下側に吊り下げフレーム17の基端部が固定されている。
【0031】
図5はヘッド移動機構14の側面図(図2(a)のY1方向から見た側面図)であり、図2(a)のZ−Z線よりも右側の部分は図示を省略している。また、図6はヘッド移動機構14の印刷位置A側の端部およびプラテンギャップ検出器の斜視図(図2(a)のY2方向から見た斜視図)であり、図7はヘッド移動機構14の斜め上から見た斜視図である。そして、図8はキャリッジ10を吊り下げるためのモノレール機構の説明図であり、図8(a)は平面構成を示す説明図、図8(b)は部分斜視図である。ヘッド移動機構14は、ホームポジションB側の角部10aを上から吊って円弧状経路T1bを含む移動経路T1に沿って案内するモノレール機構18と、ホームポジションBとは逆の側の角部10bを直線状の移動経路T2に沿って案内するスライド案内機構19とを備えている。
【0032】
モノレール機構18は、吊り下げフレーム17におけるプラテン4側の縁部に形成されたガイドレール20と、このガイドレール20からキャリッジ10の角部10aを吊り下げるために角部10aに設けられた吊り下げ部21を備えている。ガイドレール20は、図2(a)に示すように、第1直線経路T1aを規定している短い第1直線レール部20Aと、円弧状経路T1bを規定しており、第1直線レール部20Aの左端から搬送方向上流側に向かって円弧状に延びている円弧状レール部20Bと、第2直線経路T1cを規定しており、円弧状レール部20Bの後端から搬送方向Xと平行に延びている第2直線レール部20Cとを備えている。ガイドレール20の各部分は、図5、図8に示すように、下向きに延びる垂直な壁部22aと、壁部22aの下端から壁部22aの両側に水平に延びる水平部22bとを備えており、T字型を上下逆にした断面形状をしている。
【0033】
吊り下げ部21は、図8(b)に示すように、キャリッジ10の角部10aからガイドレール20に向けて上向きに突出する突出部23と、突出部23の先端に設けられた走行部24とを備えている。走行部24は、突出部23に対し、垂直な回転軸線(図示省略)を中心として回転可能となるように取り付けられている。走行部24は、軸線方向を水平にした走行ローラー25およびこれを挟んで配置された一対のガイドローラー26を備えるローラーユニット27を、壁部22aの厚さに対応する隙間を空けて対向配置した構成である。各ガイドローラー26は、軸線方向を垂直にして配置されている。走行部24は、壁部22aをローラーユニット27の隙間に挿入し、水平部22bの上に各走行ローラー25を載せた状態となるようにガイドレール20に装着される。これにより、壁部22aの表裏両面をガイドローラー26によってガイドしながら、水平部22bの上を各走行ローラー25が落下することなく走行可能になる。ガイドレール20に沿って走行部24を走行させると、角部10aは、ガイドレール20に吊り下げられた状態で、第1直線レール部20A、円弧状レール部20B、第2直線レール部20Cによって規定される移動経路T1に沿って移動する。
【0034】
スライド案内機構19は、図5、図7に示すように、キャリッジフレーム15の垂直板部15aに沿って、搬送方向Xと直交する方向に、且つ、水平に延びているキャリッジ軸30と、このキャリッジ軸30にスライド可能に支持されているスライダー31と、スライダー31をキャリッジ軸30に沿って往復移動させるための駆動ベルト機構32を備えている。駆動ベルト機構32はキャリッジモーター16の出力回転に基づいて駆動される。図5に示すように、スライダー31には水平に延びる角型断面の溝31aが形成されており、溝31aの内部にキャリッジ軸30が装着されている。スライダー31は、キャリッジ軸30の表面に溝31aの内側面を摺動させながら、キャリッジ軸30に沿ってスライドする。スライダー31における溝31aの背面側には軸保持部31bが形成されている。軸保持部31bは、キャリッジ10の角部10bに取り付けられた垂直な回転軸33(支軸)を回転可能に保持している。
【0035】
図5、図6に示すように、キャリッジ10の角部10bの上部には筒状部34が形成され、ここに回転軸33が挿通されている。また、角部10bの下端部分には筒状部34と同軸状に配置された円板状部分35が形成されており、円板状部分35の中央の軸孔に回転軸33の下端側の部分が挿通されている。回転軸33は、キャリッジ10を水平な姿勢にしたとき、その回転軸線Lがインクノズル面11aおよびこれに対峙する記録紙Pの印刷面に対して垂直になるように取り付けられている。キャリッジ10における筒状部34の下側は、スライダー31の軸保持部31bを装着可能な凹み形状となっている。ここに軸保持部31bが挿入され、軸保持部31bの軸孔に回転軸33の中央部分が挿入されている。このような構成により、回転軸33を介して、キャリッジ10がスライダー31に回転自在に保持されると共に、スライダー31を介してキャリッジ10の角部10b側の重量がキャリッジ軸30に支持された状態になっている。キャリッジ軸30に沿ってスライダー31を往復移動させると、これに伴い、キャリッジ10の角部10bおよび回転軸33がキャリッジ軸30に沿って搬送方向Xと直交する方向に往復移動する。
【0036】
回転軸33の上端は筒状部34の上に突出しており、その先端には上部ガイドローラー36が取り付けられている。キャリッジフレーム15の上端部分に設けられた水平板部15bの下側には、下向きに突出する矩形断面の上部ガイド37が取り付けられている。上部ガイド37と、キャリッジフレーム15における垂直板部15aの上端部分との間に上部ガイドローラー36が配置されており、上部ガイド37は、上部ガイドローラー36に対し、図5の右側から当接している。同様に、回転軸33の下端は円板状部分35の下側に突出しており、その先端に下部ガイドローラー38が取り付けられている。キャリッジフレーム15の垂直板部15aの下端部分には、下部ガイドローラー38と同一高さの部分に下部ガイドローラー38の側に突出する下部ガイド39が取り付けられている。下部ガイド39は、下部ガイドローラー38に対し、図5の左側から当接している。
【0037】
キャリッジ10がキャリッジ軸30に沿って往復移動するとき、上部ガイドローラー36が上部ガイド37の側面37aによってガイドされ、且つ、下部ガイドローラー38が下部ガイド39の側面39aによってガイドされながら移動する。ここで、キャリッジ10は、回転軸33の中央部分を支持しているスライダー31を介して片持ち状態で支持されており、キャリッジ10の重心Qは回転軸33からずれている。このため、回転軸33には、回転軸33の上端をキャリッジ10の重心の側(図5の右側)に傾ける回転力(図5の時計回りの方向への回転力)が作用している。しかしながら、上部ガイドローラー36に対してキャリッジ10の重心Qの側(図5の右側)に上部ガイド37が配置され、下部ガイドローラー38に対してキャリッジ10の重心Qとは逆の側(図5の左側)に下部ガイド39が配置されているため、キャリッジ10の重量に起因する傾き方向への回転軸33の傾きが防止され、キャリッジ10が水平な姿勢で保持されている。
【0038】
(プラテンギャップ調整機構(APG機構))
上記のように、キャリッジ10は、スライダー31を介してキャリッジ軸30に装着されており、キャリッジ軸30によって上下位置が規定されている。本例のプリンター1は、キャリッジ軸30が上下動可能な状態で支持されており、キャリッジ軸30を上下動させることによってキャリッジ10の上下位置を調整し、これによってインクジェットヘッド11のインクノズル面11aとプラテン4との距離(プラテンギャップG)を調整するためのAPG機構40を備えている。
【0039】
APG機構40は、キャリッジ軸30の印刷位置A側およびホームポジションB側の各端部に回転不能に取り付けられたカム部材41と、その下側に配置されたカムピン42を備えている。カム部材41は、回転位置に応じて径寸法が連続的に変化する外周形状をしており、カム部材41の外周面をカム面41aとして用いている。カム部材41はカム面41aに当接するカムピン42によって下側から支持されている。APG機構40は、キャリッジ軸30を介してカム部材41を回転させるためのAPGモーター(図示省略)を備えている。カム部材41が回転すると、カムピン42に当接するカム面41aの位置が変化し、これに応じてキャリッジ軸30が上下動する。カム部材41およびカムピン42は、キャリッジ軸30の印刷位置A側およびホームポジションB側の各端部に配置されているため、キャリッジ軸30は水平な姿勢を保ったままで上下動する。
【0040】
プリンター1は、プラテンギャップGを検出するためのプラテンギャップ検出器44を備えており、プリンター1の制御部は、プラテンギャップ検出器44の検出出力に基づいてAPG機構40のAPGモーターを制御してカム部材41を適切な回転位置まで回転させ、プラテンギャップGを基準寸法に調整する処理を行う。プラテンギャップ検出器44は、図6に示すように、プラテン4の右端位置に設けられた検出部45と、キャリッジ10の右側面10cにおける検出部45に対応する位置に設けられた検出凸部46を備えている。検出部45には、検出凸部46を挿入可能な上向きの溝部45aが形成されており、溝部45aを挟み、発光部と受光部(図示省略)が対向配置されている。検出部45は、溝部45a内に入った検出凸部46によって発光部からの検査光が遮られたことを受光部からの出力によって検出し、これに基づいてキャリッジ10が基準位置まで下降したことを検出する構成となっている。
【0041】
(傾き調整機構)
図9は傾き調整機構の説明図である。キャリッジ10は、上記のように角部10bに設けられた回転軸33を中心として回転可能に支持されているが、もう一方の角部10aはモノレール機構18によって上端のみを支持されている。モノレール機構18は、走行部24を構成する部品がガイドレール20に対して僅かに遊びのある状態に装着されている。従って、この遊びの範囲内で角部10aの位置が変動するおそれがあり、図9において破線Cで示すように、印刷位置Aにおいてキャリッジ10が回転軸33を中心として回転して、記録紙Pの幅方向に対して傾いた姿勢になってしまうおそれがある。記録紙Pの幅方向に対してキャリッジ10が傾いた状態で印刷を行うと、キャリッジ10に搭載されたインクジェットヘッド11のインクノズル列が記録紙Pの紙幅方向(搬送方向Xと直交する方向)に対して斜めに配列された状態で印刷が行われ、印刷精度が低下してしまう。このため、本例のプリンター1には、キャリッジ10の傾きを調整するための傾き調整機構50が設けられている。
【0042】
傾き調整機構50は、横長の開口51(図7、図9参照)が形成された垂直板部15aを備えるキャリッジフレーム15(支持部材)と、この開口51に装着される楔形スペーサー52(傾き調整部材/楔状部材)と、楔形スペーサー52に対峙するキャリッジ10の部分に設けられた度当てローラー53(度当て部)を備えている。本例では、キャリッジ10の角部10aの下端部分に度当てローラー53が配置されている。また、傾き調整機構50は、キャリッジ10の右側面10cから右側に突出している突出部材54と、突出部材54を右側に付勢するための付勢部材55と、印刷位置Aにおけるキャリッジ10の右側方に配置されたサイドフレーム56とを備えている。突出部材54の先端はサイドフレーム56に対峙している。突出部材54、付勢部材55、およびサイドフレーム56は、印刷位置Aにおいてキャリッジ10を左側に付勢するための付勢手段を構成している。
【0043】
本例では、上述したプラテンギャップ検出器44の検出凸部46を筒状に形成しており、この筒状部内に突出部材54が装着されている。突出部材54は、検出凸部46から右側に大きく突出した突出位置と、キャリッジ10の右側面10cの側に後退した後退位置との間を移動可能に構成されている。付勢部材55は、検出凸部46内に配置されており、突出部材54を検出凸部46の先端から右側に突出させる方向に付勢している。付勢部材55としては、圧縮バネなどを用いることができる。
【0044】
楔形スペーサー52は楔形形状をしており、開口51に横向きに取り付けられている。楔形スペーサー52は、開口51を通ってキャリッジ10の側に突出する部分の先端に斜面52aが形成されている。斜面52aの傾き方向は、開口51の幅方向の一端側(図9の左側)から他端側(図9の右側)に向かうに従ってキャリッジ10側への突出寸法が増大する方向となっている。図7に示すように、楔形スペーサー52の下端部分には、開口51の下端縁を形成しているキャリッジフレーム15の部分に重なって延びる板状部分52bが設けられ、この部分に長孔52c(固定手段)が形成されている。板状部分52bをキャリッジフレーム15に当接させることにより、楔形スペーサー52のキャリッジ10側への突出位置が決まるようになっている。
【0045】
開口51は楔形スペーサー52よりも幅広に形成されている。開口51内で楔形スペーサー52を左右方向にスライドさせることにより、楔形スペーサー52の取付位置を左右方向に調整可能となっている。楔形スペーサー52を位置決めした後、長孔52cに固定ネジ52d(固定手段)をネジ止めすることにより、楔形スペーサー52を開口51内の任意の位置に固定することができる。開口51の上端縁には楔形スペーサー52のスライド方向に延びる目盛り51aが形成されているため、この目盛り51aに従い、楔形スペーサー52を予め設定した基準取付位置に取り付けることができる。また、キャリッジ10の傾き調整後に楔形スペーサー52の取付位置を読み取って記録することができる。また、一旦楔形スペーサー52を取り外した後、目盛り51aに従って取り外し前と同位置に再度取り付けることができる。
【0046】
図9に示すように、キャリッジ10が印刷位置Aに到達すると、突出部材54がサイドフレーム56に突き当たり、付勢部材55が圧縮方向に弾性変形する。付勢部材55は、その弾性復帰力によって突出部材54を右側に付勢し、サイドフレーム56を押圧する。サイドフレーム56は固定されているため、キャリッジ10における付勢部材55および突出部材54の取付位置には、サイドフレーム56とは逆の側に向かう反力が作用する。すなわち、印刷位置Aでは、付勢部材55の付勢力に基づき、キャリッジ10を図9の反時計回り方向に回転させる付勢力が作用する。この付勢力によるキャリッジ10の回転動作は、度当てローラー53が楔形スペーサー52の斜面52aに突き当たることによって停止する。このとき、キャリッジ10の角部10aはキャリッジフレーム15の垂直板部15aの側に付勢されているため、キャリッジ10を支持するモノレール機構18を構成する各部材を遊びの範囲の一端側に位置決めでき、ガタ寄せが行われた状態になる。
【0047】
図9において破線Cで示すように、キャリッジ10およびこれに搭載されたインクジェットヘッド11が記録紙Pに対して反時計回りに傾いた姿勢になったときには、楔形スペーサー52を左側にスライドさせて、楔形スペーサー52の取付位置を左側に移動させる。このようにすると、斜面52aが左側に平行移動するため、度当てローラー53に正対する斜面52aの部分が、キャリッジ10側への突出量が大きい斜面52aの右端寄りの部分になる。このため、度当てローラー53が取り付けられたキャリッジ10の角部10aが、付勢力に逆らってキャリッジ10の側に押し戻される。これにより、付勢力に逆らってキャリッジ10が時計回りに回転する。楔形スペーサー52を適切な寸法だけ移動させることにより、キャリッジ10およびインクジェットヘッド11を、記録紙Pに対して直交する姿勢に戻るまで回転させることができる。従って、キャリッジ10およびインクジェットヘッド11の傾きを解消できる。
【0048】
一方、キャリッジ10およびインクジェットヘッド11が、記録紙Pに対して破線Cの姿勢とは逆の向き(時計回りの方向)に傾いた姿勢になっていたときには、楔形スペーサー52の取付位置を右側にずらして傾きを調整する。このときは、度当てローラー53に正対する斜面52aの部分が、キャリッジ10側への突出量が小さい斜面52aの左端寄りの部分になるため、度当てローラー53が取り付けられたキャリッジ10の角部10aが楔形スペーサー52の側に押し出され、付勢力による回転方向(反時計回り方向)にキャリッジ10が更に回転する。従って、キャリッジ10およびインクジェットヘッド11を記録紙Pに対して直交する姿勢に戻すことができ、傾きを解消することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態のプリンター1における傾き調整機構50は、インクジェットヘッド11を搭載するキャリッジ10を、その一端側の角部10bに設けられた回転軸33を中心として回転させ、その傾きを調整することができる。具体的には、印刷位置Aにおいて、キャリッジ10の右側面10cに反時計回りの付勢力を加える付勢手段(サイドフレーム56、突出部材54、付勢部材55)を設け、その一方で、キャリッジ10の角部10aに度当てローラー53を配置して、この度当てローラー53を楔形スペーサー52の斜面52aに押し付けてキャリッジ10を位置決めできるように構成している。そして、開口51における楔形スペーサー52の取付位置を左右に移動可能にしたことにより、楔形スペーサー52の取付位置に応じて決まるキャリッジ10の回転位置を調整できるようにして、キャリッジ10の傾きを調整できるように構成している。
【0050】
このようにすると、回転軸33によってキャリッジ10を回転可能に支持する回転機構を利用してキャリッジ10およびこれに搭載したインクジェットヘッド11の傾き調整を行うことができ、追加すべき構成としては、印刷位置Aの右側にあるサイドフレーム56を利用してキャリッジ10を付勢するための突出部材54および付勢部材55と、キャリッジフレーム15に形成した開口51およびこれにスライド可能に取り付けた楔形スペーサー52と、度当てローラー53だけでよい。なお、度当てローラー53を省略して、角部10aを楔形スペーサー52に直接押し付ける構成にすることも可能である。従って、キャリッジ10を大型化させる必要がなく、簡単且つ軽量な構成にすることができる。よって、装置の小型化に有利であり、キャリッジ10を移動させるための消費電力の増大も抑制できる。また、キャリッジ10がその一端を中心として全体として回転するため、インクジェットヘッド11の角度調整範囲が大きい。更に、キャリッジ10を反時計回りに付勢しているため、キャリッジ10を支持するモノレール機構18等のガタ寄せを同時に行うことができる。よって、印刷位置Aにおけるキャリッジ10のガタつきを解消できるという利点もある。
【0051】
(改変例)
(1)上記実施形態では、楔形スペーサー52の取付位置を左右方向に調整することで、斜面52aを左右方向に移動させ、これによって度当てローラー53を前後方向(図9の上下方向)に移動させてキャリッジ10の回転位置を調整しているが、傾き調整部材の形状やその移動方向をこれと異なるように設定することもできる。例えば、度当てローラー53に対峙する位置に直方体状のスペーサーを配置して、このスペーサーを垂直板部15aから度当てローラー53の側に突出させた状態に取り付けておき、このスペーサーの取付位置を垂直板部15aに対して垂直な方向に移動させることにより、度当てローラー53の側への突出寸法を調整できるように構成してもよい。また、楔形スペーサー52の斜面52aをその一端に向かうにつれてキャリッジ10側への突出量が増大する湾曲面にしてもよい。
【0052】
(2)上記実施形態では、キャリッジ10の右側面10cの幅方向の中央部分を付勢部材55による付勢位置に設定しているが、付勢位置はこのような位置に限定されるものではない。望ましくは、回転軸33が設けられた角部10bからより離れた位置に付勢力が加わるように構成するとよい。例えば、図9において符号Dで示す位置に突出部材54および付勢部材55を設けるとよい。
【0053】
(3)上記実施形態では、突出部材54および付勢部材55をキャリッジ10に設けていたが、このような機構をサイドフレーム56の側に設けても良い。また、付勢部材55として圧縮バネ以外のものを用いることもできる。すなわち、サイドフレーム56とキャリッジ10との間に、キャリッジ10の右側面10cがサイドフレーム56に接近したときにこの間に挟まれて弾性変形する弾性部材(付勢部材)を設けておき、この弾性部材の弾性復帰力によってキャリッジ10をサイドフレーム56とは逆の側に付勢する構成であればよい。
【符号の説明】
【0054】
1…インクジェットプリンター(プリンター)、2…ロール紙装填部、3…ロール紙、4…プラテン、5…記録紙搬送経路、6…用紙ガイド、7…繰り出しローラー(搬送手段)、8…搬送ローラー対(搬送手段)、8a…駆動ローラー、8b…従動ローラー、9…紙送りモーター(搬送手段)、10…キャリッジ、10a…角部、10b…角部、10c…右側面、11…インクジェットヘッド(印刷ヘッド)、11a…インクノズル面、11A…第1ヘッド、11B…第2ヘッド、12…インクカートリッジ装着部、13…メンテナンスユニット、14…ヘッド移動機構、15…キャリッジフレーム(支持部材)、15a…垂直板部、15b…水平板部、16…キャリッジモーター、17…吊り下げフレーム、18…モノレール機構、19…スライド案内機構、20…ガイドレール、20A…第1直線レール部、20B…円弧状レール部、20C…第2直線レール部、21…吊り下げ部、22a…壁部、22b…水平部、23…突出部、24…走行部、25…走行ローラー、26…ガイドローラー、27…ローラーユニット、30…キャリッジ軸、31…スライダー、31a…溝、31b…軸保持部、32…駆動ベルト機構、33…回転軸(支軸)、34…筒状部、35…円板状部分、36…上部ガイドローラー、37…上部ガイド、37a…側面、38…下部ガイドローラー、39…下部ガイド、39a…側面、40…APG機構、41…カム部材、41a…カム面、42…カムピン、44…プラテンギャップ検出器、45…検出部、45a…溝部、46…検出凸部、50…傾き調整機構、51…開口、51a…目盛り、52…楔形スペーサー(傾き調整部材/楔状部材)、52a…斜面、52b…板状部分、52c…長孔(固定手段)、52d…固定ネジ(固定手段)、53…度当てローラー(度当て部)、54…突出部材、55…付勢部材、56…サイドフレーム、A…印刷位置、B…ホームポジション(退避位置)、G…プラテンギャップ、L…回転軸線、P…記録紙(記録媒体)、Q…重心、R…移動領域、R1…移動領域、T1…移動経路、T1a…第1直線経路、T1b…円弧状経路、T1c…第2直線経路、T2…移動経路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷ヘッドを搭載し、一端側に設けられた支軸を中心にして正逆方向に回転可能に支持されたキャリッジが記録媒体に対峙する印刷位置にあるとき、当該キャリッジを予め設定した回転方向に付勢する付勢手段と、
前記予め設定した回転方向とは逆の側から前記キャリッジに対峙する傾き調整部材と、
前記傾き調整部材が取り付けられ、且つ、当該傾き調整部材の取付位置を調整可能に構成された支持部材とを有し、
前記キャリッジが前記印刷位置に移動すると、前記付勢手段の付勢力によって前記キャリッジが前記傾き調整部材に押し付けられ、当該傾き調整部材の前記支持部材への取付位置に応じた回転位置に前記キャリッジが位置決めされることを特徴とする印刷ヘッドの傾き調整機構。
【請求項2】
請求項1において、
前記キャリッジにおける前記傾き調整部材に対峙する部分に設けられた度当て部を有し、
前記傾き調整部材は前記度当て部に対峙する斜面を備える楔状部材であることを特徴とする印刷ヘッドの傾き調整機構。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記付勢手段は、
前記キャリッジの側面と、印刷位置において当該側面に対峙するサイドフレームとの間に配置された付勢部材を備え、
当該付勢部材は、前記キャリッジが印刷位置に移動したことに基づいて弾性変形し、その弾性復帰力によって前記キャリッジを前記サイドフレームとは逆の側に付勢することを特徴とする印刷ヘッドの傾き調整機構。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかの項において、
前記支持部材は、前記印刷位置と、前記記録媒体の側方に退避した退避位置との間を往復移動する前記キャリッジの移動経路に沿って延びるキャリッジフレームであることを特徴とする印刷ヘッドの傾き調整機構。
【請求項5】
請求項4において、
前記キャリッジフレームは、前記傾き調整部材を取り付けるための開口を備え、
前記傾き調整部材は、前記開口から前記キャリッジ側に突出した状態で、前記開口の一端から他端までの範囲をスライド可能であり、
前記開口の一端から他端までの範囲の任意の位置に前記傾き調整部材を固定するための固定手段を有することを特徴とする印刷ヘッドの傾き調整機構。
【請求項6】
請求項5において、
前記開口における前記傾き調整部材のスライド方向に沿った縁部分に目盛りが設けられていることを特徴とする印刷ヘッドの傾き調整機構。
【請求項7】
記録媒体に対峙する印刷位置において前記記録媒体上の印刷領域の幅方向の一端から他端までの範囲にインクを吐出可能に構成された印刷ヘッドと、
当該印刷ヘッドを搭載しており、一端側に設けられた支軸を中心にして正逆方向に回転可能に支持されたキャリッジと、
前記印刷位置を経由する搬送経路に沿って前記記録媒体を搬送する搬送手段と、
請求項1ないし6のいずれかの項に記載の印刷ヘッドの傾き調整機構とを有することを特徴とするプリンター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate