説明

プリント基板のめっき方法

【目的】 プリント基板のスルホール内壁面に無電解めっきを用いること無く銅めっきを施すダイレクトプレーティング法において、スルホール内面に付着した金属イオンを確実に還元でき、高品質のめっきを得られるプリント基板のめっき方法を提供することを目的とする。
【構成】 アクチベータ工程でコロイド微粒子あるいは金属イオンがスルホール内面に吸着されたプリント基板Pを、アクセラレータ工程においてアルカリ性還元浴に浸漬させて導電化皮膜を形成し、次いで、スタビライザ工程において酸性浴に浸漬させて導電化皮膜を安定化した後、このプリント基板Pに電気めっきを施すプリント基板のめっき方法であって、アクセラレータ工程のアルカリ性還元浴とスタビライザ工程の酸性浴20にそれぞれ電極部材82を配置し、該電極部材82を整流器83の陽極に、前記プリント基板Pをコンベア70のステンレス製ロールリング72を介して整流器83の陰極に接続し、該陰極と前記陽極との間に低電圧を印加して所定の電流を通電する弱電解処理を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、プリント基板のめっき方法、特に、無電解めっきを用いること無くプリント基板のスルホール内壁面にめっきを施すめっき方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、上述のような無電解めっきを用いること無くプリント基板のスルホール内壁面に銅めっきを施す、いわゆるダイレクトプレーティング法においては、プリント基板のスルホール内壁面にパラジウムを含むコロイド微粒子あるいは金属イオンをスルホール内面に吸着させ、これを2価スズイオンの不均化反応、または、ジメチルアミノボランやほうそ化水素ナトリウムなどの化学薬品を用いて化学的反応により還元して導電性金属皮膜を形成し、さらに、酸性浴に浸漬させて導電性金属皮膜を安定化し、この後に、電気めっきを施すようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来のダイレクトプレーティング法にあっては、2価スズイオンの不均化反応やジメチルアミノボランやほうそ化水素ナトリウムなどの化学薬品の還元作用により還元するため、スルホール内面に吸着した2価スズイオンの量やほうそ化水素ナトリウムなどの化学薬品の活性に還元効果が大きな影響を受け、スルホール内面に十分な2価のスズイオンを吸着させることができなかった場合やほうそ化水素ナトリウムなどの化学薬品が劣化していた場合等に、還元が不十分で高い導電性、また、適正な導電性皮膜が得られないことがあるという問題があった。この発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、スルホール内面に付着した金属イオンを確実に還元でき、高品質のめっきを得られるプリント基板のめっき方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、パラジウムが含まれるコロイド微粒子あるいは金属イオンをプリント基板のスルホール内面に吸着させるアクチベータ工程と、該アクチベータ工程でコロイド微粒子あるいは金属イオンがスルホール内面に吸着されたプリント基板をアルカリ性還元浴に浸漬させて導電化皮膜を形成するアクセラレータ工程と、該アクセラレータ工程で導電化皮膜が形成されたプリント基板を酸性浴に浸漬させて導電化皮膜を安定化するスタビライザ工程と、該スタビライザ工程から移送されるプリント基板に電気めっきを施す電気めっき工程とを備えるプリント基板のめっき方法において、前記アクチベータ工程のアルカリ性還元浴および/または前記スタビライザ工程の酸性浴に電極部材を配置し、該電極部材を整流器の陽極に、前記プリント基板を整流器の陰極に接続し、該陰極と前記陽極との間に低電圧を印加して所定の電流を通電する弱電解処理を行うようにした。
【0005】そして、この発明のプリント基板のめっき方法は、前記弱電解処理を印加電圧が3ボルト以下、前記通電電流がプリント基板の銅の表面積に対して5〜500mA/dm2 の範囲、かつ、通電時間が3乃至5分間程度の態様(請求項2)に、また、前記弱電解処理における電極部材が白金、カーボン、ステンレスあるいはチタンからなる不溶性アノード、または、金属基材の表面に酸化イリジウムをコーティングした不溶アノードからなる態様(請求項3)、さらに、前記アルカリ性還元浴が炭酸塩、カセイソーダ、銅イオンおよびキレート剤を含み、前記酸性浴が硫酸を10〜200g/l含む態様(請求項4)に構成することができる。
【0006】
【作用】本発明のプリント基板のめっき方法によれば、アクチベータ工程においてプリント基板のスルホール内面にパラジウムコロイド等が吸着され、このスルホール内面のパラジウムコロイド等がアクセラレータ工程のアルカリ性還元浴あるいは前記スタビライザ工程の酸性浴の少なくとも一方において化学的な還元と併せて電気的にも還元され、スルホール内面の導電性皮膜の金属化が促進されるとともに皮膜中への銅の析出も増加し、高い導電性が得られ電気抵抗が減少する。したがって、後のめっき工程における銅めっきのつきまわりが向上し、銅めっきの粗雑析出(褐色皮膜)も防止でき、スルホール内面の全域に平滑性、光沢性に優れためっきを設けることができる。
【0007】また、弱電解時の電流は10mA/dm2 以下では顕著な効果が認められず、逆に、300mA/dm2 以上では基板の銅箔表面からの水素ガスの発生が著しく、さらに、パラジウム分の脱落が原因と推測される電気抵抗が増大する現象が見られる。
【0008】
【実施例】以下、この発明の実施例を図面を参照して説明する。図1から図5はこの発明の一実施例にかかるプリント基板のめっき方法を示し、図1が同方法を実施する前段の工程の装置模式図、図2が同中段の工程の装置模式図、図3が同後段の工程の装置模式図、図4が同方法の要部の工程の装置の模式平面図、図5が同工程の装置の模式正面図である。
【0009】図1,2,3に示すように、この実施例においては、ロード・ステーション、コンディショナー・ステーション、水洗ステーション、マイクロエッチ・ステーション、水洗ステーション、プレディップ・ステーション、アクチベータ・ステーション、水洗ステーション、アクセラレータ・ステーション、水洗ステーション、スタビライザ・ステーション、水洗ステーション、銅めっきステーション、水洗ステーションおよびアンロード・ステーションを有し、ロード・ステーションからアンロード・ステーションまで各ステーションを通ってコンベア70が延設されている。
【0010】コンベア70は、回路基板(プリント基板)Pを各ステーション間を連続して搬送する。このコンベア70は、ロードステーションでプリント回路基板Pを受け入れ、このプリント回路基板Pをその延在方向と移送方向が一致する水平状態で搬送(移送)し、アンロード・ステーションでプリント回路基板Pを受け渡す。なお、図示は省略するが、プリント回路基板Pは、表裏の少なくとも一面に銅箔を有し、表裏を貫通する周知のスルホールが形成されている。
【0011】コンディショナー・ステーションにおいては、処理槽20が配置され、この処理槽20内を上記コンベア70が通る。処理槽20内には、コンベア70によるプリント基板Pの移送路の上下に吐出配管21と接続した複数の噴射ノズル22が配置され、また、所定の貯留レベルを越える処理液を排出するための戻り配管23が接続される。吐出配管21はクッション槽24内に貯留された処理液を吐出する循環ポンプ25に連絡され、戻り配管22がクッション槽24と接続されて処理液を導く。このコンディショナー・ステーションにおいては、プリント回路基板Pの表裏両面に噴射ノズル22から処理液を噴射し、スルホール内の洗浄と気泡の追出しを行う。
【0012】水洗ステーションにおいては、水洗槽30が配設され、この水洗槽30内を上記コンベア70が通る。水洗槽30内にはコンベア70によるプリント基板Pの移送路の上下にそれぞれ複数の噴射ノズル31が配置され、これら噴射ノズル31がポンプ32に連絡される。ポンプ32は、吸込ポートが水洗槽30の下部および供給源に並列に連絡され、洗浄水を圧送する。この水洗ステーションにおいては、プリント回路基板Pの表裏に洗浄水を噴射し、コンディショナー工程で付着した処理液等を洗い流す。なお、図1,2,3における各水洗ステーションは共通した構成であり、また、その構成は周知の水洗設備を用いることができるため、以下の各水洗ステーションの説明は割愛する。
【0013】マイクロエッチ(ソフトエッチング)・ステーション、プレディップ・ステーションおよびアクチベータ・ステーションは、図1,2,3の模式図では上述したコンディショナー・ステーションと同一の構成を有する。すなわち、同一の構成に同一の符号を付し共通して説明すれば、処理槽20からオーバーフローする処理液をクッション槽24に貯留し、このクッション槽24内の処理液をポンプ25で圧送して基板Pの移送路に沿って上下に配置された噴射ノズル22から基板Pの表裏面に噴射する。
【0014】そして、マイクロエッチ・ステーションにおいては基板Pの銅箔表面をエッチングし、洗浄とともに活性化を行う。プレディップ・ステーションにおいては次のアクチベータ浴の汚染を防止し、アクチベータ・ステーションにおいてはパラジウムが含まれるコロイド微粒子あるいは金属イオンをプリント基板Pのスルホール内面等に吸着させる。
【0015】アクセラレータ・ステーションにおいては、図4および図5に示すように、外槽80内上部に処理液を貯留した処理槽(アクセラレータ槽)20が設けられ、外槽80に処理槽20をオーバーフローした処理液が貯留される。これら外槽80と処理槽20とは循環ポンプ32が介設された送り配管21と戻り配管23とで連絡する。処理槽20には上記コンベア70が通り、このコンベア70の上下にそれぞれ複数の不溶性陽極(電極部材)82が処理液中に浸漬するようにコンベア70の搬送方向に沿って配置され、また、複数の噴射ノズル22が配置される。噴射ノズル22は循環ポンプ32と連絡されて循環ポンプ32が吐出する外槽80内の処理液を基板Pに向けて噴射し、処理槽20からオーバーフローした処理液が戻り配管23を経て外槽80に還流する。
【0016】コンベア70は、処理槽20において、プラスチック製のロールリング71が取り付けられた回転軸を基板Pを挟持可能に上下一対と、また同様に、ステンレス製のロールリング72が取り付けられた回転軸を上下一対として搬送方向に間隔を隔て複数を回転自在に支持し、これら各対の回転軸をそれぞれ回転駆動可能に駆動機構に連結して構成される。ステンレス製のロールリング72は、搬送方向に2対のプラスチック製のロールリング71を隔て間欠的に配置され、搬送する基板Pの表面(裏面)銅箔と電気的に導通する。このステンレス製のロールリング72は、整流器(直流電源)83の陰極(−)に接続される。整流器83は、その陽極(+)に上記不溶性陽極82が接続され、不溶性陽極82とロールリング72との間に所定の電圧、電流を印加通電して後述する弱電解を行う。
【0017】このアクセラレータ・ステーションにおいては、炭酸塩、カセイソーダ、銅イオンおよびキレート剤を含む処理液を用い、アクチベータ・ステーションから搬入されたPd−Snコロイド粒子がスルホール内壁面等に吸着した基板Pを化学的に還元するとともに、不溶性陽極82とロールリング72との間に電圧、電流を印加通電して弱電解し、スルホール内壁面等に吸着したコロイド粒子を還元して導電性皮膜を形成する。
【0018】また、スタビライザ・ステーションも、上記アクセラレータ・ステーションと同様の設備を有する(その説明は上記図4,5と同一の番号を用い、割愛する)。このスタビライザ・ステーションにおいては、硫酸を10〜200g/l含む処理液を処理槽20に貯留し、処理液を複数の噴射ノズル22から基板Pに向けて噴射して基板Pのスルホール内壁面の導電性皮膜を安定化するとともに、不溶性陽極82とロールリング72との間に整流器83により電圧、電流を印加通電して弱電解を行う。
【0019】なお、上記アクセラレータ・ステーションおよびスタビライザ・ステーションにおいては、無端チェーン機構等によって導電性の材料からなる複数のクリップをコンベア70と同一速度で走行可能に設け、上記ステンレス製のロールリング72を廃止することも可能である。この場合、クリップは、基板Pを挟着可能に構成され、無端チェーン等を介して整流器83の陰極に接続される。このクリップは、槽の入口および出口でカム機構等と係合し、槽の入口で基板Pを挟着して基板Pの銅箔と電気的に導通し、また、槽の出口で基板Pを開放するように構成される。
【0020】また、上記ステンレス製のロールリング72は、ステンレスや銅等からなる治具で代替し、この治具上に1乃至複数枚の基板Pを表面銅箔との導電状態を保持して載置することができ、さらに、ステンレス等のバスケットで代替し、このバスケットに複数の基板Pを間隔(例えば、10mm程度)を隔て銅箔が電気的に導通した状態で収容することも可能である。
【0021】銅めっきステーションにおいては、上記コンベア70が通る外槽1内の上部に電解槽2が、下部に受槽91が銅金属塩を投入可能に区画され、コンベア70による基板P搬送路の上下に複数の噴射ノズル10が配設される。電解槽2および受槽91にはめっき液が貯留され、電解槽2でオーバーフローしためっき液が受槽91に流入し、受槽91内のめっき液がカートリッジフィルタを付設した循環ポンプ3により電解槽2に送出される。循環ポンプ3は、吐出ポートが吐出配管11を介して噴射ノズル10に連絡され、これら噴射ノズル10に受槽91内のめっき液を圧送する。噴射ノズル10は、コンベア70の基板移送路の上下に配置され、循環ポンプ3から供給されるめっき液を電解層2内で基板Pに向けて噴射する。
【0022】また、図示しないが、電解槽2には水洗槽との間で無端チェーンがコンベア70と並行に設けられ、この無端チェーンに整流器の陰極と電気的に導通した複数のクリップが所定間隔で取り付けられる。無端チェーンは電解槽2と水洗槽内を連続して走行し、クリップは電解槽の入口および出口でカム機構等と係合し、槽の入口で基板Pを挟着して基板Pの銅箔と電気的に導通し、また、槽の出口で基板Pを開放する。
【0023】さらに、電解槽2内には、基板Pの移送方向に沿って所定の幅、長さの不溶性陽極板7がコンベア70による搬送路の上下に一定間隔を保って1対となるように水平に設けられ、その複数対が並列に配置されている。これら不溶性陽極板は、隣合った上下1対の不溶性陽極板7とは互いに電気的に絶縁され、各対が整流器の陽極と接続されている。この不溶性陽極板7は、白金、カーボン、フェライトあるいはイリジウムなどの白金族元素の酸化物を金属基体上にコーティングして構成される。
【0024】この銅めっきステーションでは、各ステーションにおける処理が施された基板Pが搬入され、この基板Pの水平進行方向の側縁部の一方を無端チェーンのクリップで挟んで整流器の陰極と接続し、基板Pを電解槽2内のめっき液中を水平状態で移送して基板Pにめっきを施す。なお、詳細な説明と図示は省略するが、この銅めっきステーションにおいては、基板Pの大きさに対応して基板Pの上下方向の投影面内に含まれる不溶性陽極板7の各対が選択的に通電される。また、銅めっきにおいては、前記の水平装置に限定されること無く、通常広く使用されている垂直方式のめっき装置で処理することもでき、さらに、不溶性陽極のみでなく可溶性の銅陽極を使用することもできる。
【0025】この実施例にあっては、スルホールを形成されたプリント回路基板Pがデスミア処理された後にロード・ステーションに搬入され、このプリント回路基板Pをコンベア70により搬送してコンディショナー・ステーション、マイクロエッチ・ステーションおよびプレディップ・ステーションにおいてそれぞれ周知の処理を施し、アクチベータ・ステーションにおいてパラジウムを含むコロイド微粒子あるいは金属イオンを基板Pのスルホール内面等に吸着させる。
【0026】次いで、アクセラレータ・ステーションで基板Pをアルカリ性還元浴に浸漬させ、続くスタビライザ・ステーションで酸性浴に基板Pを浸漬させる。そして、アクセラレータ・ステーションとスタビライザ・ステーションにおいては、それぞれ、基板Pをステンレス製のロールリング72により整流器83の陰極に、各ステーションの槽20の搬送路の上下に配置された不溶性アノード82を整流器83の陽極に接続し、両極間に3ボルト以下の低電圧を印加して基板Pの銅箔面積に対し5〜500mA/dm2 の電流を30秒から8分の間、望ましくは、下記の表1の条件で通電する。
【0027】
【表1】


【0028】すなわち、アクセラレータ・ステーションにおいてはアルカリ性還元浴による化学的還元に加えて電気的な還元も行い、また、続くスタビライザ・ステーションにおいても電気的な還元を行って導電性皮膜を得る。このため、スルホール内面に付着したパラジウムコロイドイオンを確実に金属化することができ、また、皮膜中への銅の析出も増加し、高い導電性(電気抵抗の小さな)の導電性皮膜が得られる。このスルホール内導電性皮膜の電気抵抗(基板Pの表裏の銅箔間の電気抵抗)は弱電解時の電流密度に対して図6に示すような特性を呈する。
【0029】次に、導電性皮膜が形成されたプリント回路基板Pはスタビライザ・ステーションから銅めっきステーションの電解槽2内に導電性皮膜が濡れ性を維持した状態で電解槽2内に連続的に移送され、電解槽2内において基板Pに銅めっきが施される。すなわち、整流器により不溶性陽極板と基板Pとの間に所定電圧、所定電流を通電し、基板Pのスルホール内面等に銅めっきを施す。
【0030】ここで、上述したように、基板Pのスルホール内面等に形成された導電性皮膜は十分に還元されて金属化され電気抵抗が小さいため、銅めっきはその初期から微細結晶として良好なつきまわり性と密着性をもってスルホールの全内面に析出し、平滑性、光沢性に優れた高品質のめっきが得られる。
【0031】次に、上記実施例の実験例を述べる。
A.実験例11.使用した基板・材料;FR−4、CEM−3、変性ポリイミド、BTレジンの各種・寸法;250mm×250mm×1.6mm(t)・スルホール;直径1.0、0.6、0.4、0.3mmの穴が600穴合計2400空けられた基板2.使用されたプロセスおよび各工程の処理条件・プロセスおよび処理条件は表2に示すものを採用した。
【0032】
【表2】


ただし、各工程間では1〜3分間の水洗が行われ、前段の工程の薬液は洗浄される。
【0033】そして、基板をステンレス製の治具に固定し、下記のaの条件で比較例1aを、また、bの条件で実験例1bを、cの条件で実験例1cを作製した。
条件a;従来の方法にて処理し、弱電解処理を行わない。
条件b;上記aと同様の処理を行い、かつ、アクセラレータ工程とスタビライザ工程の双方で弱電解処理を行った。具体的には、アクセラレータ工程の浴中において、基板を陰極、処理槽内に浸漬されたステンレス製の板を陽極として、電圧1.0〜1.5ボルト、電流600mA(基板の銅箔面積当たり、約50mA/dm2 )で弱電解を各工程の処理時間に併せて5分間行った。また、次のスタビライザ工程では、酸性浴中において、基板を陰極、浴中のチタン平板上に酸化イリジウムをコーティング焼き付けした電極を陽極として、電圧1.0〜2.0ボルト、電流600mA(基板の銅箔面積当たり、約50mA/dm2 )で弱電解を工程の処理時間に併せて3分間行った。
条件c;上記aと同様の処理を行い、かつ、スタビライザ工程のみで上記bと同一の条件で弱電解処理を行った。
【0034】上記比較例1aおよび実験例1b,1cの基板を水洗後、乾燥し、それぞれ両面の電気抵抗を測定したところ、下記の表3に示す結果が得られ、実験例1b,1cでは電気抵抗が大幅に低下し、スルホール内面に高い導電性の皮膜が形成されていることが分かる。
【表3】


【0035】また、上記各基板1a,1b,1cを5体積%の硫酸に25°Cで1分間浸漬した後に硫酸銅めっき(荏原ユージライト(株)製 CuBrite THプロセス)を電流密度1A/dm2 および3A/dm2 で5分間および30分間めっきしたところ、下記の表4に示す結果が得られた。すなわち、比較例1aには褐色の析出が見られたが、実験例1b,1cは明るい銅色で、実験例1b,1cは高品質のめっきが得られた。
【表4】


【0036】さらに、弱電解による導電性皮膜の改質を確認するため、FR−4材基板の表面の銅箔を通電用の周辺部1cmを残してエッチング剤により剥離・溶解し、前述の各条件a,b,cで処理して樹脂表面積が1dm2 サンプルa’,b’,c’を作製した。次いで、これらサンプルa’,b’,c’をそれぞれ通電用の周辺部の銅箔部分を切断機で切断した後、30容量%の硝酸水溶液に浸漬して表面に生成された導電性皮膜を溶解した。そして、原子吸光分析装置を用いて、溶液中のパラジウム、スズおよび銅を定量したところ、各サンプルa’,b’,c’導電性皮膜中の各成分量は表5の通りであった。
【0037】
【表4】
【0038】上記表4から明らかなように、アクセラレータ工程およびスタビライザ工程で基板を陰極として弱電解を行うと、アクチベータ工程において付着したパラジウム/スズ・コロイドの金属条体への還元が促進されるとともに微量の銅分が導電性皮膜中に共析し、皮膜の抵抗値が大幅に低下し、その後の電気銅めっき工程において、低電流密度での粗雑析出を防ぐとともに付き廻りの改善に役立つことが明らかである。
【0039】なお、実験により、アクセラレータ工程およびスタビライザ工程のいずれにおいても弱電解の電流が5mA/dm2 以下では効果がほとんど認められず、また、300mA/dm2 以上では水素ガスの発生が著しく処理後の電気抵抗が高くなる傾向が見られ、好ましくないことが判定された。
【0040】B.実験例2前記実験例1と同類の基板10枚をステンレス製のバスケットに1cmの間隔で垂直に隣合わせて全てを挿入し、実験例1と同一の条件a、下記の条件b2および条件3bで処理し、比較例2a、実験例2bを得た。
b2;アクセラレータ工程の浴中において、バスケットを陰極、処理槽内にバスケットの両側で浸漬配置されたステンレス製の板を陽極として、電圧1.5〜2.0ボルト、電流8A(基板の銅箔面積当たり、約50mA/dm2 )で弱電解を各工程の処理時間に併せて5分間行った。次に、酸性浴浸漬工程の浴中においても、同様に、電圧1.5〜2.0ボルト、電流4Aで弱電解を工程の処理時間に併せて3分間行った。
【0041】そして、水洗・乾燥後に、上記比較例2a、実験例2bの内のバスケット内の最も外側に配置したもの(実験例2b−1)と中心に配置したもの(実験例2b−2)についてそれぞれ電気抵抗を測定したところ、表6に示すような結果が得られた。この結果から、バスケットの隣合うように複数枚の基板を挿入して弱電解処理を行っても、中心に位置した基板も従来に比較して効果が認められることが実証された。
【0042】
【表6】


【0043】C.実施例3上記実験例1,2と同類の基板を水平処理装置で処理した。水平処理装置は、前述した図1,2,3に示すように、各処理工程のユニットが水平式水洗ユニットを介して一列に連結されており、各工程とも薬液が満たされている槽内に上下2段にコンベアロールが約8cmの間隔で多数取り付けられ、基板は各ユニットのコンベアロールの間を水平状態で移送される間に処理と水洗が行われる。
【0044】そして、薬液を実験例1と同一として基板を水平状態で移送しつつ、実験例1の条件aと同一の条件で処理して比較例3aを、また、実験例1と同様にアクセラレータ工程およびスタビライザ工程でそれぞれ基板の銅箔面積当たり50mA/dm2 の電流を5分間、3分間通電して実験例3bを得、これらの比較例3aと実験例3bとについて電気抵抗を測定した。この結果は、下記の表7に示すようなもので、水平装置における処理の場合も、弱電解の効果が顕著に見られることが判った。
【0045】
【表7】


【0046】なお、述べるまでもないが、本発明は、アクセラレータ工程とスタビライザ工程のいずれか一方で弱電解処理を行うことで達成でき、また、アクセラレータ工程の後スタビライザ工程の前、あるいは、スタビライザ工程の後に弱電解処理を行う工程を別個独立に設けることも可能である。
【0047】
【発明の効果】以上説明したように、この発明にかかるプリント基板のめっき方法によれば、アクセラレータ工程またはスタビライザ工程の少なくとも一方で薬品による化学的還元に加えて弱電解処理を行うため、スルホール内面の導電性皮膜の金属化が促進されるとともに皮膜中への銅の析出も増加し、高い導電性が得られ電気抵抗が減少し、めっき工程における銅めっきのつきまわりが向上し、スルホール内面の全域に平滑性、光沢性に優れためっきを設けることができるという顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例にかかるプリント基板の電気めっき方法を実施する工程の前部分の装置の模式図である。
【図2】同電気めっき方法を実施する工程の中間部分の装置の模式図である。
【図3】同電気めっき方法を実施する工程の後部分の装置の模式図である。
【図4】同電気めっき方法を実施する工程におけるアクセラレータ・ステーションの設備の模式平面図である。
【図5】同電気めっき方法を実施する工程におけるアクセラレータ・ステーションの設備の模式正面図である。
【図6】弱電解を施した基板のスルホール内導電皮膜の電気抵抗と弱電解時の電流密度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 外槽
2 電解槽
3 循環ポンプ
5 無端導電チェーン
7 不溶性陽極板
9 電圧・電流調節器
10 噴流ノズル
20 処理槽
21 吐出配管
22 噴射ノズル
23 戻り配管
24 クッション槽
25 循環ポンプ
30 水洗槽
31 噴射ノズル
32 ポンプ
70 コンベア
72 ステンレス製ロールリング
82 不溶性電極(電極部材)
83 整流器
91 受槽
P 基板
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一面に銅箔が設けられたプリント基板のスルホール内面にパラジウムが含まれるコロイド微粒子あるいは金属イオンを吸着させるアクチベータ工程と、該アクチベータ工程でコロイド微粒子あるいは金属イオンがスルホール内面に吸着されたプリント基板をアルカリ性還元浴に浸漬させて導電化皮膜を形成するアクセラレータ工程と、該アクセラレータ工程で導電化皮膜が形成されたプリント基板を酸性浴に浸漬させて導電化皮膜を安定化するスタビライザ工程と、該スタビライザ工程から移送されるプリント基板に電気めっきを施す電気めっき工程とを備えるプリント基板のめっき方法において、前記アクセラレータ工程のアルカリ性還元浴および/または前記スタビライザ工程の酸性浴に電極部材を配置し、該電極部材を整流器の陽極に、前記プリント基板を整流器の陰極に接続し、該陰極と前記陽極との間に所定の低電圧を印加して所定の電流を通電する弱電解処理を行うことを特徴とするプリント基板のめっき方法。
【請求項2】 前記弱電解処理は、印加電圧を3ボルト以下に、前記通電電流をプリント基板の銅の表面積に対して5〜500mA/dm2 に、かつ、通電時間を30秒〜8分間とした請求項1記載のプリント基板のめっき方法。
【請求項3】 前記弱電解処理に用いる電極部材が白金、カーボン、ステンレスあるいはチタンからなる不溶性アノード、または、金属基材の表面に酸化イリジウムをコーティングしてなる不溶性アノードである請求項1記載のプリント基板のめっき方法。
【請求項4】 前記アルカリ性還元浴が炭酸塩、カセイソーダ、銅イオンおよびキレート剤を含み、前記酸性浴が硫酸を10〜200g/l含む請求項1記載のプリント基板のめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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