説明

プリン様食品

【課題】 本発明は,ウ蝕を効果的に防止でき,しかも間食やデザートなどとして摂取されることで満足感を与えることができる,プリン様食品を提供することを目的とする。
【解決手段】 上記の課題は,甘味料として実質的に糖アルコールのみを,1重量%以上70重量%以下含有するプリン様食品,及び前記糖アルコールは,“キシリトール,エリストール,及びマルチトール”のうちいずれか1種又は2種以上の混合物である上記のプリン様食品などにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ウ蝕になりにくいという実験結果が得られた他,食することで満足感を得ることができ,間食に適するばかりでなく,ローカロリーで肥満症・糖尿病などの治療・予防食としても有効なプリン様食品などに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイエットや虫歯予防という効果を有する食品として,キシリトールを含有する食品が,知られている。例えば,特開2003−250493号公報(下記,特許文献1)には,虫歯を予防する成分として乳酸菌またはキシリトールを含有する虫歯予防食品が開示されている。しかしながら,この文献には,「結合剤としては,天然の素材が好ましく,糊剤として作用するα化デンプン,難消化性デキストリン,オリゴ糖,糖アルコールなどが好ましく用いられる。」と記載される(同文献の段落[0030])。すなわち,この文献においては,キシリトールを添加するだけで,虫歯予防に良いと考えられており,デンプンやオリゴ糖などが混入されていても虫歯予防に有効であると考えられている。
【0003】
特開平6−70704号公報(下記,特許文献2)の請求項1には,「固形分中に,マルチトール,ラクチトール,ソルビトール,マンニトール,キシリトール,エリスリトール,還元澱粉加水分解物,還元キシロオリゴ糖,パラチニット,還元分岐オリゴ糖から成る群から選ばれる1種又は2種以上の糖アルコール80〜96重量%,ゼラチン3〜19重量%・・・を含有することを特徴とする無糖グミゼリー」が開示されている。
【0004】
この文献では,キシリトールやエリスリトールなどが甘味料としてあげられているものの,この文献はテクスチャの良好なグミゼリーを製造することを目的とするものであって,虫歯防止などを目的とするものではない。また,同文献に記載されるグミゼリーは糖アルコールの比率が極めて高く,ほぼ糖アルコールをゼラチンにより固めた食品であるから,摂取することにより満足感を得ることができない。
【0005】
特開平11−127786号公報(下記,特許文献3)の実施例には,ショ糖,水あめ及びエリスリトール(日研化学)を用いたゼリー菓子が開示されている。そして,そのゼリー菓子は,低カロリー,低ウ蝕性であるとされる(段落[0028])。すなわち,この文献においては,糖アルコールを添加するだけで,虫歯予防に良いと考えられており,ショ糖や水あめなどが混入されていても虫歯予防に有効であると考えられている。
【0006】
しかしながら,単に,砂糖の代わりに糖アルコールを使用するというだけでは,必ずしも効果的にウ蝕を防止することはできない。
【0007】
一方,虫歯予防のためにキシリトールを配合した飴やガムなどが知られている。しかしながら,これら飴やガムでは,摂取をした場合に,満足感が得られにくい。
【特許文献1】特開2003−250493号公報
【特許文献2】特開平6−70704号公報
【特許文献3】特開平11−127786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は,ウ蝕を効果的に防止でき,しかも間食やデザートなどとして摂取されることで満足感を与えることができる,プリン様食品を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は,上記の課題に加え,肥満症,糖尿病,ダイエット,介護食などにふさわしいプリン様食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は,基本的には,単糖類,二糖類,多糖類を用いないのみならず,デンプンといった口腔内において,酸を産生する成分を含まないことで,歯面の脱灰が起こる値(pH5.5以下)になることを効果的に防止できるという知見に基づくものである。すなわち,本発明は,基本的には,甘味料として実質的に糖アルコールのみを,1重量%以上70重量%以下含有するプリン様食品に関する。
【0011】
本明細書において,「甘味料として実質的に糖アルコールのみを含有」するとは,原材料における糖分のほぼ全てが糖アルコールであることを意味する。最も好ましいものは,糖アルコールのみが甘味料として用いられ,他の原料としてデンプン等が含まれないものであるが,例えば,1重量%未満(好ましくは0.1重量%未満)の量であれば,糖アルコール以外の糖類が添加されても構わない。
【0012】
本明細書において,「プリン様食品」とは,プリンのような概観及び硬さを有する食品であり,固形形状で経口摂取されうる食品を意味する。すなわち,ガムは,通常経口摂取されないので,プリン様食品ではなく,飴も口腔内で溶解させて溶液を摂取するものなので,プリン様食品ではない。プリン様食品は,透明であっても良いが,通常は透明ではない。
【0013】
また,砂糖の代わりに,糖アルコールを用いるとしても,最もウ蝕防止効果がある糖アルコールの組合せは必ずしも明らかではない。
【0014】
よって,本発明の好ましい態様は,前記糖アルコールは,“キシリトール,エリストール,及びマルチトール”のうちいずれか1種又は2種以上の混合物である。後述の実施例において実証したとおり,様々な糖アルコールのうち,
“キシリトール,エリストール,及びマルチトール”のうちいずれか1種又は2種以上の混合物を用いた場合に,優れた虫歯予防効果を得ることができた。また,本発明の好ましい態様は,前記糖アルコールが,糖アルコール全体を100重量部とした場合に,キシリトールを40重量部以上80重量部以下含有し,エリスリトールを1重量部以上40重量部以下含有し,マルチトールを全く含まないか,40重量部以下含有する,上記に記載のプリン様食品に関する。
【0015】
特にゼラチンが含有される菓子において,糖アルコールとしてキシリトールのみを配合するものよりも,あえてエリスリトールなどを配合したものが,歯垢中の酸性度を下げず,歯垢形成も抑制され,抗菌試験においても良好な結果を示すことがわかった。よって,上記のような組成の糖アルコールを用いたプリン様食品は,極めて良好な虫歯予防効果を有するといえる。
【0016】
砂糖の代わりに,糖アルコールを用いるとしても,他の素材との関係で最もウ蝕防止効果がある組成は必ずしも明らかではない。
【0017】
よって,本発明の好ましい態様は,前記食品は,さらに抹茶成分を含有し,前記糖アルコールは,キシリトールとエリスリトールからなる上記いずれかに記載のプリン様食品に関する。
【0018】
後述する実施例により示されたとおり,抹茶や緑茶成分(抹茶、緑茶粉末など)を混合して製造される抹茶プリンにおいては,キシリトール,エリスリトール及びマルチトールを含有するよりも,キシリトール及びエリスリトールのみからなる糖アルコールを用いたものが,歯垢の酸性度を下げず,抗菌試験においても良好な結果を示すことがわかった。よって,上記のような組成の糖アルコールを用いたプリン様食品は,極めて良好な虫歯予防効果を有するといえる。なお,例えば,抹茶や緑茶以外の成分を添加したところ,成分によっては,キシリトール,エリスリトール及びマルチトールの3種類を混合したものや,キシリトールのみを用いたものが優れた虫歯予防に有効であった。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,口腔内で糖になる成分を含まず,甘味料として実質的に糖アルコールのみを用いることにより,ウ蝕を効果的に防止できるプリン様食品を提供することができる。本発明によれば,プリン様食品という形態を採用するので,固形分を間食やデザートなどとして経口摂取されることで満足感を与えることができる,食品を提供できる。
【0020】
本発明によれば,糖類を実質的に含まないので,上記の効果に加え,小児の間食,肥満症,糖尿病,ダイエット,介護食などにふさわしいプリン様食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下,本発明の実施の形態について説明する。本発明は,基本的には,甘味料として実質的に糖アルコールのみを,1重量%以上70重量%以下含有するプリン様食品に関する。
【0022】
多くの先行特許文献によれば,キシリトールが,ウ蝕予防の有効成分であるかのように考えられている。しかしながら,キシリトールを有効量含有する食品であっても,実際はウ蝕防止効果が低い。すなわち,キシリトールを含有する食品において,1重量%程度の糖類が存在しているだけでも,口腔内の酸性度が5.5以下に低下して,歯面の脱灰をおこしウ蝕が誘発される。よって,ウ蝕を効果的に防止するためには,甘味料として糖アルコールを用いるだけではなく,実質的に糖アルコール以外の原料を含まないことが望ましい。
【0023】
プリン様食品に含まれる糖アルコールの量は,1重量%以上70重量%以下であるが,食品に甘さを与える観点とウ蝕防止という観点から,好ましくは5重量%以上40重量%以下であり,より好ましい量は5重量%以上20重量%以下である。
【0024】
糖アルコールとして,公知の糖アルコールを用いることができる。具体的な糖アルコールとして,“キシリトール,エリスリトール,マルチトール,ラクチトール,ソルビトール,及びマンニトール”からなる群から選ばれる1種又は2種以上の混合物をあげることができる。実施例により実証したとおり,これらの中では,キシリトール,エリスリトール及びマルチトールのうちいずれか又は2種以上の混合物が好ましく,糖アルコールとしてキシリトールを主成分として,他の糖アルコールを10重量%以上50重量%以下含有するものであっても良い。後述する実施例においてさまざまな糖アルコールの組合せを実証した結果,本発明のプリン様食品においては,キシリトール,エリスリトール及びマルチトールの3種類を全て配合した場合や,キシリトール及びエリスリトールを配合した場合に,特に虫歯予防に有効なプリン様食品を得ることができることが判明した。よって,本発明のプリン様食品においては,キシリトール,エリスリトール及びマルチトールを適宜含有するものが好ましい。
【0025】
具体的には,糖アルコール全体を100重量部とした場合に,キシリトールを40重量部以上80重量部以下含有し,エリスリトールを1重量部以上40重量部以下(好ましくは5重量部以上35重量部以下)含有し,マルチトールを全く含まないか,40重量部以下含有するものが好ましい。ただし,キシリトールが主成分であることが好ましいので,キシリトールの含有量として,好ましくは,50重量%以上80重量%以下である。
【0026】
本発明の,プリン様食品を製造するために用いられる糖アルコール以外の原材料としては,プリン,ゼリー,ババロア,グミ,キャンディー,飴,飲料,ゼリー,ヨーグルトなどの菓子類を製造するために用いることができる公知の材料を適宜使用することができる。
【0027】
ただし,本発明は,単糖類,二糖類,多糖類を用いないのみならず,デンプンといった口腔内において,糖になる成分を含まないことで,歯垢内の酸性度がウ蝕になりやすい値になることを効果的に防止できるという知見に基づくものである。よって,原材料として,単糖類,二糖類,多糖類,小麦粉,片栗粉,コーンスターチ,デンプンなどを全く使わないことが好ましい。また,これらの材料を用いる場合は,原料全体の1重量%以下であることが好ましく,より好ましくは0.1重量%以下である。
【0028】
また,先に説明したとおり,キシリトールだけでは,ウ蝕予防に有効とは限らない。また,キシリトールなどの糖アルコールの有効性は,製品を構成するほかの素材によっても大きく影響される。すなわち,低ウ蝕なプリン様食品を得るためには,更に,甘味料以外のほかの成分についても吟味することが望ましい。一方,プリン様食品は,商品として運搬中に崩れない程度の硬さを有すると共に,スプーンなどを容易に差し込むことができるやわらかさを有しており,かつ好ましい食感を有することが望ましい。これらの要求を満足させるため,本発明のプリン様食品は,糖アルコール以外に,好ましくは以下の原料を用いる。
【0029】
本発明のプリン様食品は,プリンの様な食感を得るために,ゼラチン又は寒天を含有することが好ましい。そして,ゼラチン又は寒天の含有量は,得られる製品の用途などに応じて適宜調整すればよいが,プリン様食品全体の0.5重量%以上10重量%以下があげられ,好ましくは1重量%以上3重量%以下である。本発明は,糖尿病の予防や,ダイエットに用いられることを,副次的な課題としているので,プリン様食品を製造するに当たり,卵を用いないことが好ましい。卵を用いなくても,ゼラチンなどを用いることで,適切な硬度を有するプリン様食品をえることができる。
【0030】
本発明のプリン様食品は,特に卵を用いない場合,牛乳などの乳を用いることが好ましい。乳を用いる場合の乳の含有量は,得られる製品の用途などに応じて適宜調整すればよいが,プリン様食品全体の10重量%以上90重量%以下があげられ,好ましくは20重量%以上85重量%以下である。なお,牛乳及びゼラチンを用いて,プリンの硬さを表現したい場合は,乳の含有量として,プリン様食品全体の40重量%以上90重量%以下があげられ,好ましくは50重量%以上85重量%以下である。
【0031】
本発明のプリン様食品は,特に卵を用いない場合,油脂由来の食感を表現するために生クリームを用いることが好ましい。生クリームを用いる場合の生クリームの含有量は,得られる製品の用途などに応じて適宜調整すればよいが,プリン様食品全体の5重量%以上35重量%以下があげられ,好ましくは10重量%以上30重量%以下である。また,生クリームの代わりに,バター,マーガリンなどの脂,又はオリーブオイル,サラダ油,米油,コーン油などの油を適宜用いてもよい。
【0032】
更に,本発明は,糖尿病の予防や,ダイエットに用いられることを,副次的な課題としているので,プリン様食品を製造するに当たり,卵を用いないことが好ましい。本発明においては,卵を用いなくても,牛乳などの乳成分,ゼラチン,及び生クリームを用いることで,プリンに類似した食感を与えることができる。卵を用いないことで,プリン様食品のカロリーを低減できる。また,卵を用いないことで,卵アレルギーの人にも摂取することができるプリン様食品を提供できる。
【0033】
繰り返しになるが,本発明では,プリン様食品を製造するために用いられる糖アルコール以外の原材料として,プリン,ゼリー,ババロア,グミ,キャンディーなどの菓子類,又はスープ類を製造するために用いることができる公知の材料を適宜用いることができる。このような材料として,香料,pH調整剤,酸化防止剤,調味料,保存料などがあげられる。また,本発明においては,特に非齲蝕誘発性である素材を適宜添加することが好ましい。このような素材として,抹茶緑茶粉末の他にブルーベリー,クランベリー,ココア,杏仁,黒ゴマ,紅茶,コーヒーなどがあげられる。本発明のプリン様食品が,抹茶成分を含有する場合,前記糖アルコールは,キシリトールとエリスリトールからなるものが好ましく,様々な組成において実験を行った結果,糖アルコール全体を100重量部とした場合に,キシリトールを40重量部以上90重量部以下含有し,エリスリトールを10重量部以上60重量部以下含有するものが好ましく,特にキシリトールが60重量部以上80重量部以下であり,エリスリトールを20重量以上40重量部以下含有するものが好ましいことがわかった。
【0034】
先に説明したとおり,キシリトールなどの糖アルコールの有効性は,製品を構成するほかの素材によっても大きく影響される。具体的には,抹茶風味のプリン様食品を製造した場合,糖アルコールとして,キシリトールのみを配合した場合や,キシリトール,エリスリトール及びマルチトールを配合した場合に比べて,キシリトールとエリスリトールのみを配合した場合に,ウ蝕防止効果が最も高かった。よって,プリン様食品が抹茶や緑茶成分を含有する場合,糖アルコールとして,実質的に,キシリトールとエリスリトールのみを含有するものが好ましい。そして,この場合においても,キシリトールが主成分であることが好ましく,糖アルコール全体を100重量部とした場合に,キシリトールを60重量部以上80重量部以下含有し,エリスリトールを10重量以上40重量部以下含有するものが好ましい。
【0035】
本発明のプリン様食品は,公知の製造方法に従って製造すればよい。具体的には,牛乳や生クリームなどの液体成分を50℃以上110℃以下の温度にて10秒以上1時間以下加熱する。加熱後,糖アルコール,香料などを適宜加え,よく攪拌し,1分から1時間静かに置いておく。液温が,例えば,60℃以下になった場合に,ゼラチンを添加して,冷却する。60℃以下に冷却した後にゼラチンを添加することで適切な硬さを有するプリン様食品を得ることができる。ゼラチンを添加した後の冷却は,冷蔵庫内などで行っても良い。このようにして,プリン様食品を製造できる。冷却時間は例えば,6時間以上があげられ,このような時間であれば夏場や冬場のように季節による温度差によらず好ましい硬度を有するプリン様食品を得ることができる。
【0036】
本発明のプリン様食品は,食品であるから,通常のプリンなどと同様にデザートや菓子などとして食すればよい。また,表面を焼くことで,ブリュレとして食しても良い。通常であれば,プリンの表面に存在するグラニュウ糖などの糖がこげることで表面に飴の膜が形成されるが,本発明ではゼラチンや乳成分に含まれる炭水化物が凝固することで飴状の膜が形成される。なお,ブリュレの膜の代わりに,糖アルコールで製造した飴の膜をプリン様食品の上表面にひいてもよい。そのようにすることで,あたかもブリュレのような形状となり,糖分が含まれている通常のブリュレと同様の満足感を与えることができる。
【実施例1】
【0037】
原料として,牛乳100g,生クリーム50g,糖アルコール適量(下記表1を参照),及びゼラチン10gを用意した。牛乳,生クリームを100℃3分間加熱した後,糖アルコールを加えよく攪拌した。その後,杏仁,抹茶や緑茶,黒ゴマ,ココア,紅茶,ストロベリーなどの香料,風味添加物または粉末原料を加えよく攪拌した。攪拌後,60℃以下まで冷却し,ゼラチンを加えてゼラチンを溶融させ,再び冷却した。このようにしてプリン様食品を得た。
【0038】
【表1】

【実施例2】
【0039】
S.mutansを用いた非水溶性グルカン形成量の測定
S. mutansが,粘着性の強い非水溶性グルカンを産生し,そこへ口腔内細菌の共生が加わりデンタルプラーク(歯垢)となる。そこで,以下の組成を有するプリン様食品1〜5を用いて,非水溶性グルカン量の生成について検討した。なお,コントロールとして,5%スクロースを用いた。得られた結果を図1に示す。
【0040】
図1は,S.mutansを用いた非水溶性グルカン形成量の測定結果を示すグラフである。Kruskal−Wallis検定(SPSS14,0J)の結果,実施例のプリン様食品とコントロールの間には統計学的有意差が認められた(P<0.05)。
【実施例3】
【0041】
S.mutansを用いたバイオフィルム形成量の測定
バイオフィルムは,細菌集団を含んだマトリックスで,互いにそしてあるいは表面または境界面に付着しているものである。そこで,プリン様食品1〜5を用いて,バイオフィルムの形成量について検討した。なお,コントロールとして,5%スクロースを用いた。また,各社製品もあわせて検討した。他社製品1は江崎グリコ社製プッチンプリンであり,他社製品2はパステル(登録商標)製なめらかプリンであり,他社製品3はパステル(登録商標)製抹茶プリンであり,他社製品4はパステル(登録商標)製紅茶プリンであり,他社製品5はコカ・コーラ(登録商標)であり,他社製品6はダイエット・コーラ(登録商標)であり,他社製品7はハーゲンダッツ(登録商標)製バニラアイスクリームである。得られた結果を図2に示す。
【0042】
図2は,S.mutansを用いたバイオフィルム形成量を示すグラフである。Kruskal−Wallis検定(SPSS14,0J)の結果,実施例のプリン様食品と,コントロール又は他社製品との間には統計学的有意差が認められた(P<0.05)。
【実施例4】
【0043】
非接種群と,S.mutansを植菌し18時間後嫌気培養後のpHの変化の測定
口腔内のpHが5.5より下がると,歯の表面において脱灰が生じてウ蝕の原因となる。そこで,プリン様食品1〜5を用いて,非接種群と,S.mutansを植菌し18時間後嫌気培養後のpHの変化について検討した。なお,プリン様食品1の糖アルコールをスクロースに置換したものもあわせて検討した。なお,コントロールとして,5%スクロースを用いた。また,各社製品もあわせて検討した。他社製品1は江崎グリコ社製プッチンプリンであり,他社製品2はパステル(登録商標)製なめらかプリンであり,他社製品3はパステル(登録商標)製抹茶プリンであり,他社製品4はパステル(登録商標)製紅茶プリンであり,他社製品5はコカ・コーラ(登録商標)であり,他社製品6はカルピス(登録商標)であり,他社製品7はハーゲンダッツ(登録商標)製バニラアイスクリームである。得られた結果を図3に示す。
【0044】
図3は,非接種群と,S.mutansを植菌し18時間後嫌気培養後のpHの変化の測定を示すグラフである。Kruskal−Wallis検定(SPSS14,0J)の結果,実施例のプリン様食品と,コントロール又は他社製品との間には統計学的有意差が認められた(P<0.01)。また,糖アルコールをスクロースに変換した場合は,pHが低下し虫歯の予防には必ずしも有効ではないことが分かった。
【実施例5】
【0045】
S.mutans接種後の生菌数
S.mutans接種後4,6,8,及び10時間後の生菌数を測定した。その結果を図4に示す。すなわち,図4は,S.mutans接種後4,6,8,及び10時間後の生菌数の測定結果を示すグラフである。図4中,黒塗り四角はコントロール(5%スクロース),黒塗り丸は他社製品1,中抜き丸は他社製品2,黒塗り三角はプリン様食品1,中抜き三角はプリン様食品2を示す。図4から,本発明のプリン様食品は,S.mutansの増加を抑えることができることがわかる。また,図5は,S.mutans接種し4,6,8,及び10時間嫌気培養後,TSA培地にプレーティングしたコロニーの様子を示す図面に代わる写真である。図5(a)は4時間嫌気培養後のものを示し,図5(b)は6時間嫌気培養後のものを示し,図5(c)は8時間嫌気培養後のものを示し,図5(d)は10時間嫌気培養後のものを示す。一方,図6は本発明のプリン様食品の代わりに江崎グリコ社製プッチンプリンを用いた場合のコロニーの様子を示す図面に代わる写真である。図6(a)はは4時間嫌気培養後のものを示し,図6(b)は6時間嫌気培養後のものを示し,図6(c)は8時間嫌気培養後のものを示し,図6(d)は10時間嫌気培養後のものを示す。図5と図6とを比較すると,本発明のプリン様食品では,明らかにS.mutansの増殖を抑えることができることがわかる。
【実施例6】
【0046】
S.mutans接種後の生菌数
本発明のプリン様食品3,プリン用食品の糖類を5%スクロースとしたもの,プリン用食品の糖類を5%キシリトールとしたものを用い,S.mutans接種後4,6,8,10,及び24時間後の生菌数を測定した。その結果を図7に示す。すなわち,図7は,S.mutans接種後4,6,8,及び10時間後の生菌数の測定結果を示すグラフである。図7中,黒塗り四角はコントロール(5%スクロース),中抜き丸は5%キシリトールとしたもの,下方に存在する黒塗りの丸はプリン様食品3を示す。図7から,本発明のプリン様食品は,S.mutansの増加を抑えることができることがわかる。また,図8は,本発明のプリン様食品3を用い,S.mutans接種し4,6,8,10及び24時間嫌気培養後,TSA培地にプレーティングしたコロニーの様子を示す図面に代わる写真である。図8(a)は4時間嫌気培養後のものを示し,図8(b)は6時間嫌気培養後のものを示し,図8(c)は8時間嫌気培養後のものを示し,図8(d)は10時間嫌気培養後のものを示し,図8(e)は24時間嫌気培養後のものを示す。一方,図9は,本発明のプリン様食品の糖アルコールをキシリトールのみとしたものを用い,S.mutans接種し4,6,8,10及び24時間嫌気培養後,TSA培地にプレーティングしたコロニーの様子を示す図面に代わる写真である。図9(a)は4時間嫌気培養後のものを示し,図9(b)は6時間嫌気培養後のものを示し,図9(c)は8時間嫌気培養後のものを示し,図9(d)は10時間嫌気培養後のものを示し,図9(e)は24時間嫌気培養後のものを示す。図8と図9とを比べると,キシリトールのみを配合した場合に比べ,マルチトール及びエリスリトールを含有するものが,菌の増殖を抑え,より虫歯予防効果を有することが分かった。
【実施例7】
【0047】
素材として抹茶,緑茶を用いた場合
水80ml,牛乳30ml,緑茶10g〜15g(10g以上15g以下を意味する。以下同様),糖アルコール,及びゼラチンを用いてプリン様食品を製造した。糖アルコールとして,表1に記載されるもの及び表1に示されるものから適宜修正したものを用いた。その結果,緑茶を用いでプリン様食品を製造する場合は, 糖アルコール全体を100重量部としたときに,キシリトールを40重量部以上90重量部以下含有し,エリスリトールを10重量部以上60重量部以下含有するものが好ましく,特にキシリトールが60重量部以上80重量部以下であり,エリスリトールを20重量以上40重量部以下含有するものが好ましいことがわかった。特にキシリトール:マルチトールの重量比を,3:7〜8:2とすることで,黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌,腸炎ビブリオに対する抗菌効果が増強されたため,齲蝕予防を含めた口腔環境の改善や血中コレステロールの上昇抑制効果を得ることができた。
【実施例8】
【0048】
素材として果汁を用いた場合
牛乳30ml,100%クランベリージュース80ml,糖アルコール,及びゼラチンを用いてプリン様食品を製造した。糖アルコールとして,表1に記載されるもの及び表1に示されるものから適宜修正したものを用いた。その結果,クランベリーを用いた場合はキシリトール:マルチトール:エリスリトールの重量比を,8:1:1〜1:8:8(糖アルコールがキシリトール,マルチトール及びエリスリトールの組合せからなり,キシリトールが全体の1/17以上8/10以下(特に好ましくはキシリトールが1/2以上8/10以下含まれるもの)とすることで,クランベリーに含まれるプロアントシアニジンの抗菌作用(歯周病菌やピロリ菌)が増強され極めて良好な歯周病予防効果を得ることができ,また歯垢内の酸性度が低下しないため,虫歯予防効果を得ることができた。
【実施例9】
【0049】
素材としてココアを用いた場合
牛乳110ml,純ココア5〜20g,糖アルコール,及びゼラチンを用いてプリン様食品を製造した。糖アルコールとして,表1に記載されるもの及び表1に示されるものから適宜修正したものを用いた。その結果,ココア粉末を用いた場合は,キシリトール:エリスリトールの重量比を,8:1〜2:5(好ましくは8:1〜1:1)とすることで,ココアに含まれるポリフェノールの抗酸化作用が増強され,歯周病原菌であるジンジバーリス菌を減らし,また歯垢内の酸性度が低下しないため,歯周病予防や齲蝕予防に極めて有効であった。
【実施例10】
【0050】
素材として紅茶を用いた場合
水40g,牛乳70ml,紅茶5〜10g,糖アルコール,及びゼラチンを用いてプリン様食品を製造した。糖アルコールとして,表1に記載されるもの及び表1に示されるものから適宜修正したものを用いた。その結果,紅茶粉末を用いた場合は,キシリトール:エリスリトールの重量比を,1:8〜10:2とすることで,紅茶に含まれるポリフェノールの抗酸化作用が増強され,歯周病原菌であるジンジバーリス菌を減らし, また歯垢内の酸性度が低下しないため,歯周病予防や齲蝕予防に極めて有効であることがわかった。
【実施例11】
【0051】
素材としてゴマを用いた場合
牛乳120ml,黒ゴマ5〜10g,糖アルコール,及びゼラチンを用いてプリン様食品を製造した。糖アルコールとして,表1に記載されるもの及び表1に示されるものから適宜修正したものを用いた。その結果,黒ゴマを用いた場合は, キシリトール:マルチトール:エリスリトールの重量比を,10:5:2〜1:9:8(糖アルコールがキシリトール,マルチトール及びエリスリトールの組合せからなり,キシリトールが全体の1/18以上10/17以下(特に好ましくはキシリトールが1/2以上8/10以下含まれるものであり,さらに好ましくはマルチトールの含有量がエリスリトールの含有量の1.1倍以上4倍以下であるもの)とすることで,セサミンの持つ優れた抗酸化作用が増強され,また歯垢内の酸性度が低下しないため,歯周病予防や齲蝕予防に極めて有効であることがわかった。
【実施例12】
【0052】
素材として豆乳を用いた場合
牛乳120ml,黒ゴマ5〜10g,糖アルコール,及びゼラチンを用いてプリン様食品を製造した。糖アルコールとして,表1に記載されるもの及び表1に示されるものから適宜修正したものを用いた。その結果,豆乳を用いた場合は, キシリトール:マルチトール:エリスリトールの重量比を,3:4:7〜7:8:1(糖アルコールがキシリトール,マルチトール及びエリスリトールの組合せからなり,キシリトールが全体の3/14以上7/16以下(特に好ましくはキシリトールが1/4以上2/5以下含まれるものであり,さらに好ましくはマルチトールの含有量がキシリトールの含有量の1.1倍以上1.5倍以下であるもの)とすることで,歯垢内の酸性度が低下しないため,齲蝕予防に極めて有効であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のプリン様食品は,食品産業において利用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は,S.mutansを用いた非水溶性グルカン形成量の測定結果を示すグラフである。
【図2】図2は,S.mutansを用いたバイオフィルム形成量を示すグラフである。
【図3】図3は,非接種群と,S.mutansを植菌し18時間後嫌気培養後のpHの変化の測定を示すグラフである。
【図4】図4は,S.mutans接種後4,6,8,及び10時間後の生菌数の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は,S.mutans接種し4,6,8,及び10時間嫌気培養後,TSA培地にプレーティングしたコロニーの様子を示す図面に代わる写真である。図5(a)は4時間嫌気培養後のものを示し,図5(b)は6時間嫌気培養後のものを示し,図5(c)は8時間嫌気培養後のものを示し,図5(d)は10時間嫌気培養後のものを示す。
【図6】図6は本発明のプリン様食品の代わりに江崎グリコ社製プッチンプリンを用いた場合のコロニーの様子を示す図面に代わる写真である。図6(a)はは4時間嫌気培養後のものを示し,図6(b)は6時間嫌気培養後のものを示し,図6(c)は8時間嫌気培養後のものを示し,図6(d)は10時間嫌気培養後のものを示す。
【図7】図7は,S.mutans接種後4,6,8,及び10時間後の生菌数の測定結果を示すグラフである。
【図8】図8は,本発明のプリン様食品3を用い,S.mutans接種し4,6,8,10及び24時間嫌気培養後,TSA培地にプレーティングしたコロニーの様子を示す図面に代わる写真である。図8(a)は4時間嫌気培養後のものを示し,図8(b)は6時間嫌気培養後のものを示し,図8(c)は8時間嫌気培養後のものを示し,図8(d)は10時間嫌気培養後のものを示し,図8(e)は24時間嫌気培養後のものを示す。
【図9】図9は,本発明のプリン様食品の糖アルコールをキシリトールのみとしたものを用い,S.mutans接種し4,6,8,10及び24時間嫌気培養後,TSA培地にプレーティングしたコロニーの様子を示す図面に代わる写真である。図9(a)は4時間嫌気培養後のものを示し,図9(b)は6時間嫌気培養後のものを示し,図9(c)は8時間嫌気培養後のものを示し,図9(d)は10時間嫌気培養後のものを示し,図9(e)は24時間嫌気培養後のものを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘味料として実質的に糖アルコールのみを,1重量%以上70重量%以下含有するプリン様食品。
【請求項2】
前記糖アルコールは,“キシリトール,エリストール,及びマルチトール”のうちいずれか1種又は2種以上の混合物である請求項1に記載のプリン様食品。
【請求項3】
前記糖アルコールは,
糖アルコール全体を100重量部とした場合に,
キシリトールを40重量部以上80重量部以下含有し,
エリスリトールを1重量部以上40重量部以下含有し,
マルチトールを全く含まないか,40重量部以下含有する,
請求項1に記載のプリン様食品。
【請求項4】
前記食品は,さらに抹茶,緑茶成分を含有し,前記糖アルコールは,キシリトールとエリスリトールからなる請求項1に記載のプリン様食品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−148614(P2008−148614A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339281(P2006−339281)
【出願日】平成18年12月17日(2006.12.17)
【特許番号】特許第4060346号(P4060346)
【特許公報発行日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(505396660)
【Fターム(参考)】