プレスベルト及びシュープレスロール並びにプレスベルトの製造方法
【課題】プレスロールや加圧シューなどの加圧部材の幅方向における両端部に対応して位置する両端部対応領域でのクラックの発生を効果的に抑制することのできるプレスベルトを提供する。
【解決手段】プレスベルト2は、プレスロール1または加圧シュー3の幅方向における両端部に対応して位置する両端部対応領域Bの厚みが中央領域Aの厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差が形成される。両端部対応領域Bの外周面は、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されている。
【解決手段】プレスベルト2は、プレスロール1または加圧シュー3の幅方向における両端部に対応して位置する両端部対応領域Bの厚みが中央領域Aの厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差が形成される。両端部対応領域Bの外周面は、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、製紙工業、磁気記録媒体製造工業、繊維工業等の各種工業において、プレス対象物を加圧処理するために用いられるプレスベルトおよびシュープレスロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種工業において、プレスベルト上に帯状のプレス対象物を載せ、プレスベルトの周内部に位置する一方の加圧部材とプレスベルトの周外部に位置する他方の加圧部材との間でプレス対象物を加圧処理するベルトプレスが使用されている。ここでいう加圧部材とは、プレスロールや加圧シューなどである。ベルトプレスの一例として、製紙工業における脱水プレスとしてのシュープレスを挙げることができる。
【0003】
シュープレスとは、製紙工業を例に簡単に説明すると、プレスベルトの周外部に位置する外部加圧手段としてのプレスロールと、プレスベルトの周内部に位置する内部加圧手段としての加圧シューとの間で、プレスベルトの外周面上に載せたプレス対象物(湿紙)にプレスベルトを介して面圧力をかけ、加圧処理(脱水処理)する方法である。2本のロールでプレスを行なうロールプレスはプレス対象物に線圧力を加えるのに対し、シュープレスでは走行方向に所定の幅を持つ加圧シューを用いることにより、プレス対象物に面圧力を加えることができる。このため、シュープレスによって脱水プレスを行なった場合、ニップ幅を大きくすることができ、脱水効率を高めることができるという利点がある。
【0004】
シュープレスをコンパクトにするため、例えば特開昭61−179359号公報(特許文献1)に開示されるように、内部加圧手段としての加圧シューを、可撓性のある筒状のプレスベルト(プレスジャケット)で覆い、ロール状に組み立てたシュープレスロールが普及している。
【0005】
上記のような脱水工程の他にも、例えば製紙工業、磁気記録媒体製造工業、繊維工業等において、プレス対象物の表面を平滑化し、光沢を付与するために行なわれるカレンダー工程等、プレス対象物の品質を向上させるために、ロールプレスに代えて、あるいはロールプレスと併用して、シュープレスが行なわれる場合がある。プレスベルトに対する一般的な要求特性としては、強度、耐摩耗性、可撓性および水、油、ガス等に対する非透過性が挙げられる。プレスベルトには、これらの諸特性を備えた材料として、ウレタンプレポリマーと硬化剤とを反応させて得られるポリウレタンが一般的に使用されている。しかし、プレスベルト、特にシュープレス用ベルトには、過酷な屈曲や加圧が繰り返されるため、外周面にクラックの発生しやすいことが耐久性の点で大きな問題となっている。特にシュー等の加圧手段の端部では加圧が開放される変曲点にもなっていて、この部分に位置するプレスベルト部分に屈曲や応力が集中し易く、クラックの発生し易い場所となっている。
【0006】
本願出願人は、上記の問題点に着目し、特開2005−97806号公報(特許文献2)において、形状を工夫したプレスベルトを提案した。このプレスベルトは、加圧手段の幅方向における両端部に対応して位置し厚みが小さい両端部対応領域と、両端部対応領域の間に位置しこの両端部対応領域の厚みよりも大きな厚みを有する中央領域とを含む。プレスベルトの両端部対応領域には、使用時に縦および幅方向に向く応力が作用し、結果的にねじり応力が作用する。上記の改良されたプレスベルトによれば、両端部対応領域の厚みを小さくすることにより、この領域の可撓性が高まっている。従って、両端部対応領域にねじり応力が作用した場合に、両端部対応領域は撓み変形によってねじり応力を吸収するので、クラックの発生を効果的に抑制し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−179359号公報
【特許文献2】特開2005−97806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2005−97806号公報に開示されたプレスベルトでは、クラックの発生を遅らせることができるなど、一定の成果を上げているが、更なる改良が望まれる。
【0009】
均一な厚み精度を得るために、プレスベルトは、通常、成形後の最終表面仕上げとして、砥石による湿式研磨加工が施される。上記の特開2005−97806号公報に開示されたプレスベルトにおいても、厚みの大きい中央領域の表面および厚みの小さい両端部対応領域の表面が、最終的に砥石による湿式研磨加工によって仕上げられている。
【0010】
本願発明者は、特開2005−97806号公報に開示された形状のプレスベルトにおける使用後のクラックの発生状況を調べた。その結果、多くの場合、クラックの発生起点が、砥石を用いた研磨加工によって発生した周方向(ベルト走行方向)に延びる深い研磨傷や、スクラッチであることがわかった。このクラックは、厚みの小さい両端部対応領域に集中的に発生していることも認められた。
【0011】
この発明の目的は、プレスベルトの両端部対応領域の厚みを減ずることに加えて、両端部対応領域の表面の研磨傷やスクラッチを無くすことによって、より耐久性に優れたプレスベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプレスベルトは、回転走行するエンドレス形状のプレスベルトと、プレスベルトの周内部及び/または周外部に位置する加圧手段とを備えたプレス装置に使用されるものであって、加圧手段の幅方向両端部に対応して位置する両端部対応領域と、両端部対応領域の間に位置する中央領域とを含む。両端部対応領域の厚みが中央領域の厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差が形成されている。特徴的な点は、両端部対応領域の外周面が、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されていることである。本発明では、走査型レーザー顕微鏡の測定視野の範囲で測定した高度差を加工傷の深さと定義する。加工傷の深さが10μm以下であれば、良好な破断強度を示し、屈曲試験においても良好な結果を示した。
【0013】
砥石による湿式研磨加工の場合には、プレスベルトの表面の所々に深くて鋭利な研磨傷が発生する。一方、鋭利な切削工具を用いた切削加工や、軟らかい素材(布、皮等)を用いたバフ加工であれば、プレスベルト表面に深い加工傷は発生し難い。そこで、本発明では、好ましくはクラックが発生し易い厚みの小さい両端部対応領域の表面を切削加工および/またはバフ加工によって仕上げ加工することによって、クラックの発生起点となる深くて鋭利な加工傷を無くすようにしている。なお、切削加工やバフ加工以外に、乾式研磨加工やフィルム研磨による精密加工によっても加工傷の深さを10μm以下とすることが可能である。
【0014】
両端部対応領域の表面を砥石で研磨加工した後に、切削加工またはバフ加工してもよい。研磨加工後に深くて鋭利な研磨傷が発生したとしても、その研磨傷の深さに達する程度までの切削加工およびバフ加工をすれば良い。
【0015】
切削加工は、好ましくは、リング形状のバイトを用いて行なう。リング形状のバイトであれば、幅方向の削り代が比較的大きいので加工時間を短縮でき、刃の切れ味も長続きさせることができる。
【0016】
好ましい実施形態では、プレスベルトは、補強層と上部弾性層とを備える。この場合、上部弾性層の外周面が前述の段差形状を有している。
【0017】
好ましい実施形態では、プレスベルトの中央領域の外周面にはベルト走行方向に沿って延びる多数の排水溝が形成されている。しかしながら、両端部対応領域の外周面には排水溝が形成されていない。その理由は、排水溝の底端はクラックの発生起点となるおそれがあるので、クラックが発生し易い両端部対応領域には排水溝を設けない方が好ましいからである。
【0018】
本発明に従ったシュープレスロールは、前述した特徴を有するエンドレス形状のプレスベルトからなる外筒と、この外筒の周内部に位置する加圧手段としての加圧シューとを備える。
【0019】
本発明に従ったプレスベルトの製造方法は、両端部対応領域の厚みが中央領域の厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差を形成する工程と、段差を形成した後に、両端部対応領域の外周面を、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工する工程とを備える。
【0020】
上記方法によれば、両端部対応領域の表面に深くて鋭利な加工傷が残らないようになる。仕上げ加工としては、切削工具を用いた切削加工であっても良いし、布や皮等からなるバフを用いたバフ加工であっても良い。あるいは、切削加工およびバフ加工の両者を行っても良い。また、乾式研磨加工やフィルム研磨による精密加工であってもよい。例えば、切削加工後にバフ加工をすることも考えられる。両端部対応領域の厚みを減ずるための加工としては、砥石による研磨加工であっても良いし、切削工具を用いた切削加工であってもよい。
【0021】
なお、本明細書において使用する「走行方向」および「幅方向」という用語は、特記がない限り、それぞれプレス対象物の走行方向および幅方向を指すものとする。また、プレス対象物は、湿紙、磁気テープ、織物などの帯状材料であって特に限定はない。また、加圧手段は、プレスロールや加圧シューなどである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】抄紙機のプレス工程で用いられるシュープレス装置の走行方向断面を示す図である。
【図2】図1における加圧脱水部Pの幅方向断面を示す要部断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るプレスベルトを示す図解的断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシュープレスロールの幅方向断面を示す図である。
【図5】リングバイトを示す斜視図である。
【図6】リングバイトによってプレスベルトの表面を切削加工している状態を図解的に示す図である。
【図7】使用後のプレスベルトの両端部対応領域の上部弾性層の表面にクラックが発生している状況を示す写真である。
【図8】プレスベルトの上部弾性層の表面を湿式研磨加工した後の状態を示す写真である。
【図9】プレスベルトの上部弾性層の表面を切削加工した後の状態を示す写真である。
【図10】プレスベルトの上部弾性層の表面をバフ加工した後の状態を示す写真である。
【図11】デマッチャ式屈曲試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態について具体的に説明する。
【0024】
図1は、抄紙機のプレス工程で用いられるシュープレス装置の走行方向断面を示す図である。シュープレス装置は、加圧手段1としてのプレスロールと、プレスロール1に対向するプレスベルト2と、プレスベルト2の周内部に位置する加圧手段3としての加圧シューとを備えている。なお、図1の装置においては、加圧シュー3をプレスベルト2で覆い、プレスベルト2を外筒としてロール状に組立て、シュープレスロール30を構成しているが、プレスベルト2はロール状に組み立てることなく、エンドレスベルトのまま使用することもできる。この種のプレスベルト2のサイズは、一般的には、その幅が2〜15m、周長が1〜30m、厚みが2〜10mmである。
【0025】
プレスロール1は、プレスベルト2の周外部に位置し、一方の加圧手段として機能する。加圧シュー3は、プレスベルト2の周内部に位置し、他方の加圧手段として機能する。プレスベルト2とプレスロール1との間には、フェルト4に重ねられてプレス対象物としての湿紙5が通される。プレスベルト2の外周面とフェルト4とは、直接接触している。
【0026】
プレスベルト2と加圧シュー3との間には潤滑油が供給され、プレスベルト2は加圧シュー3の上を滑ることができる。プレスロール1は駆動回転し、プレスベルト2は走行するフェルト4との摩擦力によって加圧シュー3の上を滑りながら従動回転する。
【0027】
加圧シュー3は、プレスベルト2の周内部からプレスロール1に向けて押し付けられており、この押し付け力によって湿紙5はプレスされ、脱水される。加圧シュー3の表面は、プレスロール1の表面に対応した凹状となっている。このため、プレスロール1とプレスベルト2との間には、走行方向に広い幅を持った加圧脱水部Pが形成されている。
【0028】
図2は、図1における加圧脱水部Pの幅方向断面を示す要部断面図である。図2に示すように、プレスロール1および加圧シュー3は、幅方向に一定の長さを有している。プレスベルト2は、中央領域Aと、両端部対応領域Bと、最端領域Cとを含む。両端部対応領域Bは、プレスロール1の加圧面6の両端部7および加圧シュー3の加圧面8の両端部9を含む部位に対応する領域である。加圧シュー3の幅は、図2に示すようにプレスロール1の幅と等しいか、またはプレスロール1の幅よりも小さいのが一般的である。加圧シュー3の幅がプレスロール1の幅よりも小さい場合、両端部対応領域Bは、加圧シュー3の加圧面8の両端部9を含む部位に対応する領域である。最端領域Cは、両端部対応領域Bの外側に位置する。
【0029】
図3は、プレスベルト2の一例を示す断面図である。一つの実施形態では、プレスベルト2は、エンドレスの補強基材中に弾性材料が含浸された補強層10と、補強層10の外周面側に位置し、補強層10の補強基材中に含浸された弾性材料と一体化した上部弾性層11と、補強層10の内周面側に位置し、補強層10の補強基材中に含浸された弾性材料と一体化した下部弾性層12とで構成されている。他の実施形態として、補強層を有さずに樹脂だけでプレスベルトを形成するものであっても良い。
【0030】
補強層10を構成する補強基材としては、ポリアミド、ポリエステルなどの有機繊維で構成された織布などが使用される。ベルト2の全体は熱硬化性ポリウレタンなどの弾性材料で一体的に形成され、ベルト2中に、補強基材が埋設された構造となっている。
【0031】
図3に示すように、中央領域Aに位置する上部弾性層11の外周面には、ベルトの走行方向に沿って延びる多数の排水溝13があらわれている。排水溝13は、プレスベルト2の幅方向全体に亘ってらせん状に延びている。一方、両端部対応領域Bおよび最端領域Cに位置する上部弾性層11の外周面には、排水溝が形成されていない。
【0032】
図3に示すように、プレスベルト2の両端部対応領域Bの厚みが中央領域Aの厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域Bの外周面と中央領域Aの外周面との間に段差が形成される。図示した実施形態では、最端領域Cの厚みが両端部対応領域Bの厚みと同じになっているが、他の実施形態として、最端領域Cの厚みが中央領域Aの厚みと同じであっても良い。
【0033】
ここで具体的な寸法を例示的に記載する。前述したように、プレスベルト2は、一般的には、その幅寸法が2〜15m、周長が1〜30m、厚みが2〜10mmである。このようなプレスベルト2において、両端部対応領域Bの幅寸法は、加圧シュー3の加圧面8の端部9に対応する部分を含んで5〜20cm程度、上部弾性層11の厚みは1.2〜3mm程度、排水溝13の底端の深さd1は0.5〜1.5mm程度、段差の高さは1.2〜3mm程度である。また、排水溝13の溝幅は0.6〜1.2mm程度であり、隣接する排水溝13間に位置するランド部の幅は0.9〜3.6mm程度である。
【0034】
図3に示した実施形態において重要な特徴は、プレスベルト2の両端部対応領域Bの外周面が、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されている点である。加工傷の深さが5μm以下となるように仕上げ加工されるのがより好ましい。なお、加工傷とは、表面研磨等の加工時に生じる鋭利な傷のことで、通常は幅よりも長さ方向に長い傷となって現われる。仕上げ加工は、好ましくは切削加工またはバフ加工によって行われる。プレスベルト2を製造するに際しては、まず、両端部対応領域Bの厚みが中央領域Aの厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域Bの外周面と中央領域Aの外周面との間に段差を形成する。両端部対応領域Bの厚みを減ずる加工法としては、砥石を用いた研磨加工であっても良いし、切削工具を用いた切削加工であってもよい。図示した実施形態では、両端部対応領域Bおよび最端領域Cを同時に加工してそれらの領域の厚みを減じている。表面仕上げ加工すべき領域はプレスベルト2の両端部対応領域Bであるが、中央領域Aおよび最端領域Cについても同様に仕上げ加工しても良い。
【0035】
走査型レーザー顕微鏡の測定視野の範囲で測定した高度差を加工傷の深さと定義すると、上記の仕上げ加工は、両端部対応領域Bの外周面の加工傷の深さが10μm以下となるまで行なう。本願発明者が使用した走査型レーザー顕微鏡は、レーザーテック株式会社製のSLM700である。
【0036】
プレスベルト2の両端部対応領域Bには屈曲応力またはねじり応力が繰り返して作用するが、本発明の実施形態によれば、以下の理由により、両端部対応領域Bでのクラックの発生を効果的に抑制することができる。先ず第1に、両端部対応領域Bの厚みを小さくして中央領域Aの外周面と両端部対応領域Bの外周面との間に段差を形成するようにしているので、両端部対応領域Bへの過大な応力の集中を避けるとともに、両端部対応領域Bの可撓性を高めることができる。したがって、両端部対応領域Bにねじり応力や屈曲応力等が作用しても、撓み変形によってそのねじり応力等をある程度吸収できるので、クラックの発生を抑制し得る。
【0037】
第2に、両端部対応領域Bに位置するプレスベルト2の外周面は、鋭利な切削工具を用いた切削加工や、または軟らかい布や皮等を用いたバフ加工等によって加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されているので、両端部対応領域Bにクラックの発生起点となるような深くて鋭利な加工傷は残らない。
【0038】
次に、図4を参照して、本発明によるシュープレスロール30の実施形態について説明する。図4は、シュープレスロールの幅方向断面を示す図である。シュープレスロール30は、加圧手段としての加圧シュー3をプレスベルト2で覆い、プレスベルト2を外筒としてロール状に組み立てられている。
【0039】
加圧シュー3は、支持軸31上で油圧シリンダ32によって支持されており、上方向にプレスベルト2を押し付けることができる。支持軸31の両端部上には、端部ディスク33がベアリング34を介して回転自在に支持されている。プレスベルト2の端縁は、端部ディスク33の外周36上で半径方向内側に折り曲げられている。プレスベルト2端縁の折り曲げ部は、端部ディスク33の外周部と、リング状の固定プレート35とに挟まれ、ボルト等で締め付けられて固定されている。プレスベルト2と加圧シュー3との間には潤滑油が供給される。このようにして、端部ディスク33に固定されたプレスベルト2は、加圧シュー3の上を滑りながら回転することができる。
【0040】
プレスベルト2の両端部対応領域Bの外周面の仕上げ加工のための切削加工は、好ましくは、図5に示したようなリング形状のリングバイト40を用いて行なう。使用するリングバイト40の直径は5mm〜100mm程度のものであり、好ましくは10mm〜50mmの直径である。また、リングバイト40のすくい角は5〜45°であり、好ましくは10〜30°である。リングバイト40の材質としては超硬や高速度鋼を使用することができるが、超硬の方が長寿命を期待できる。図6は、回転するプレスベルト2の外周面をリングバイト40によって切削加工している状態を図解的に示している。リングバイト40であれば、幅方向の削り代が比較的大きいので加工時間を短縮でき、刃の切れ味も長続きさせることができる。
【0041】
バフ加工は、布や皮等からなるバフに研磨材をつけてプレスベルトの表面を磨く加工法であり、バフ加工後の表面は梨地面となる。プレスベルトを砥石で研磨加工した後に0.2mm程度の厚み分をバフ加工すれば、研磨加工によって生じた傷やスクラッチが消え、クラックの起点となる部分がなくなる。
【0042】
本願発明者は、本発明の効果を確認するために、種々の観察、実験または試験を行なった。以下にその結果を記載する。
【0043】
[仕上げ加工後の表面状態の比較]
図7は、使用後のプレスベルトの両端部対応領域の上部弾性層(熱硬化性ポリウレタン)の表面にクラックが発生している状況を示す写真である。この両端部対応領域の上部弾性層の表面の仕上げ加工は、砥石を用いた湿式研磨加工であった。(a)で示す部分および(b)で示す部分の両者とも、深くて鋭利な研磨スクラッチが起点となってクラックが発生していた。
【0044】
図8は、プレスベルトの上部弾性層(熱硬化性ポリウレタン)の表面を、従来と同様に、砥石を用いて湿式研磨加工した後の状態を示す写真である。レーザーテック株式会社製の走査型レーザー顕微鏡(SLM700)を用いて計測したデータは、以下の通りであった。
倍率:20倍
測定視野:0.65mm×0.65mm
*最大加工傷部分
高度差:20.860μm(加工傷の深さが20μm)
平面距離:77.250μm
空間距離:80.017μm
角度:−15.111deg
砥石を用いて研磨加工した場合、測定場所によっては高度差(加工傷の深さ)が40μmのもの、100μmのものもあった。
【0045】
図9は、プレスベルトの上部弾性層(熱硬化性ポリウレタン)の表面を、リングバイトを用いて切削加工した後の状態を示す写真である。レーザーテック株式会社製の走査型レーザー顕微鏡(SLM700)を用いて計測したデータは、以下の通りであった。
倍率:20倍
測定視野:0.65mm×1.30mm
*最大加工傷部分
高度差:4.745μm(加工傷の深さが5μm)
平面距離:25.500μm
空間距離:25.938μm
角度:−10.541deg
図10は、プレスベルトの上部弾性層(熱硬化性ポリウレタン)の表面を、バフ加工によって仕上た後の状態を示す写真である。レーザーテック株式会社製の走査型レーザー顕微鏡(SLM700)を用いて計測した高度差(傷深さ)は数μmであった。
【0046】
[デマッチャ式屈曲試験]
上部弾性層表面の仕上げ加工方法を変えた6種の試料に対して、デマッチャ式屈曲試験を行なった。3個の試料は砥石による湿式研磨加工をしたものであり、それぞれの試料の加工傷の深さは20μm、40μmおよび100μmであった。1個の試料はリングバイトを用いて切削加工したものであり、加工傷の深さは5μmであった。2個の試料はバフ加工をしたものであり、それぞれの加工傷の深さは2μmおよび10μmであった。使用したデマッチャ屈曲試験機は、JIS K6260の図1に示されているものであるが、試験片はJISの規定通りのものではなく、実際のプレスベルトの両端部対応領域から矩形シートを切り抜いた。試験片の構造および寸法は、次の通りである。
【0047】
a)構造:上部弾性層(表面硬度がA95のポリウレタン)、補強層(基布)、下部弾性層(表面硬度がA90のポリウレタン)の3層構造
b)寸法:プレスベルトの幅方向の長さが150mm、ベルト走行方向の長さが20mm、厚みが4.1mm
c)各層の厚み:上部弾性層が0.7mm、補強層(基布)が2.3mm、下部弾性層が1.1mm
なお、JIS K6260に規定されているような試験片中心部の溝は設けなかった。屈曲試験の結果を図11に示す。
【0048】
加工傷の深さが100μmおよび40μmである湿式研磨加工後の試料片の場合、200万回の屈曲でクラックが発生した。加工傷の深さが20μmである湿式研磨加工後の試料片の場合、400万回の屈曲でクラックが発生した。それに対して、リングバイトで切削加工した加工傷の深さ5μmの試料片の場合、800万回の屈曲でもクラックが発生しなかった。同様に、バフ加工した加工傷の深さ2μmおよび10μmの試料片の場合、800万回の屈曲でもクラックが発生しなかった。
【0049】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によるプレスベルトは、従来クラックが発生しやすかった両端部対応領域においてクラックが起こりにくいものとなるので、長期に亘って使用することが可能になる。したがって、製紙工業、磁気記録媒体製造工業、繊維工業等の各種工業において、プレス対象物を加圧処理するために用いられるプレスベルトおよびシュープレスロールに有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0051】
1 プレスロール、2 プレスベルト、3 加圧シュー、4 フェルト、5 湿紙、6 加圧面、7 両端部、8 加圧面、9 両端部、10 補強層、11 上部弾性層、12 下部弾性層、13 排水溝、30 シュープレスロール、31 支持軸、32 油圧シリンダ、33 端部ディスク、34 ベアリング、35 固定プレート、36 外周、40 リングバイト、A 中央領域、B 両端部対応領域、C 最端領域。
【技術分野】
【0001】
この発明は、製紙工業、磁気記録媒体製造工業、繊維工業等の各種工業において、プレス対象物を加圧処理するために用いられるプレスベルトおよびシュープレスロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種工業において、プレスベルト上に帯状のプレス対象物を載せ、プレスベルトの周内部に位置する一方の加圧部材とプレスベルトの周外部に位置する他方の加圧部材との間でプレス対象物を加圧処理するベルトプレスが使用されている。ここでいう加圧部材とは、プレスロールや加圧シューなどである。ベルトプレスの一例として、製紙工業における脱水プレスとしてのシュープレスを挙げることができる。
【0003】
シュープレスとは、製紙工業を例に簡単に説明すると、プレスベルトの周外部に位置する外部加圧手段としてのプレスロールと、プレスベルトの周内部に位置する内部加圧手段としての加圧シューとの間で、プレスベルトの外周面上に載せたプレス対象物(湿紙)にプレスベルトを介して面圧力をかけ、加圧処理(脱水処理)する方法である。2本のロールでプレスを行なうロールプレスはプレス対象物に線圧力を加えるのに対し、シュープレスでは走行方向に所定の幅を持つ加圧シューを用いることにより、プレス対象物に面圧力を加えることができる。このため、シュープレスによって脱水プレスを行なった場合、ニップ幅を大きくすることができ、脱水効率を高めることができるという利点がある。
【0004】
シュープレスをコンパクトにするため、例えば特開昭61−179359号公報(特許文献1)に開示されるように、内部加圧手段としての加圧シューを、可撓性のある筒状のプレスベルト(プレスジャケット)で覆い、ロール状に組み立てたシュープレスロールが普及している。
【0005】
上記のような脱水工程の他にも、例えば製紙工業、磁気記録媒体製造工業、繊維工業等において、プレス対象物の表面を平滑化し、光沢を付与するために行なわれるカレンダー工程等、プレス対象物の品質を向上させるために、ロールプレスに代えて、あるいはロールプレスと併用して、シュープレスが行なわれる場合がある。プレスベルトに対する一般的な要求特性としては、強度、耐摩耗性、可撓性および水、油、ガス等に対する非透過性が挙げられる。プレスベルトには、これらの諸特性を備えた材料として、ウレタンプレポリマーと硬化剤とを反応させて得られるポリウレタンが一般的に使用されている。しかし、プレスベルト、特にシュープレス用ベルトには、過酷な屈曲や加圧が繰り返されるため、外周面にクラックの発生しやすいことが耐久性の点で大きな問題となっている。特にシュー等の加圧手段の端部では加圧が開放される変曲点にもなっていて、この部分に位置するプレスベルト部分に屈曲や応力が集中し易く、クラックの発生し易い場所となっている。
【0006】
本願出願人は、上記の問題点に着目し、特開2005−97806号公報(特許文献2)において、形状を工夫したプレスベルトを提案した。このプレスベルトは、加圧手段の幅方向における両端部に対応して位置し厚みが小さい両端部対応領域と、両端部対応領域の間に位置しこの両端部対応領域の厚みよりも大きな厚みを有する中央領域とを含む。プレスベルトの両端部対応領域には、使用時に縦および幅方向に向く応力が作用し、結果的にねじり応力が作用する。上記の改良されたプレスベルトによれば、両端部対応領域の厚みを小さくすることにより、この領域の可撓性が高まっている。従って、両端部対応領域にねじり応力が作用した場合に、両端部対応領域は撓み変形によってねじり応力を吸収するので、クラックの発生を効果的に抑制し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−179359号公報
【特許文献2】特開2005−97806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特開2005−97806号公報に開示されたプレスベルトでは、クラックの発生を遅らせることができるなど、一定の成果を上げているが、更なる改良が望まれる。
【0009】
均一な厚み精度を得るために、プレスベルトは、通常、成形後の最終表面仕上げとして、砥石による湿式研磨加工が施される。上記の特開2005−97806号公報に開示されたプレスベルトにおいても、厚みの大きい中央領域の表面および厚みの小さい両端部対応領域の表面が、最終的に砥石による湿式研磨加工によって仕上げられている。
【0010】
本願発明者は、特開2005−97806号公報に開示された形状のプレスベルトにおける使用後のクラックの発生状況を調べた。その結果、多くの場合、クラックの発生起点が、砥石を用いた研磨加工によって発生した周方向(ベルト走行方向)に延びる深い研磨傷や、スクラッチであることがわかった。このクラックは、厚みの小さい両端部対応領域に集中的に発生していることも認められた。
【0011】
この発明の目的は、プレスベルトの両端部対応領域の厚みを減ずることに加えて、両端部対応領域の表面の研磨傷やスクラッチを無くすことによって、より耐久性に優れたプレスベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプレスベルトは、回転走行するエンドレス形状のプレスベルトと、プレスベルトの周内部及び/または周外部に位置する加圧手段とを備えたプレス装置に使用されるものであって、加圧手段の幅方向両端部に対応して位置する両端部対応領域と、両端部対応領域の間に位置する中央領域とを含む。両端部対応領域の厚みが中央領域の厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差が形成されている。特徴的な点は、両端部対応領域の外周面が、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されていることである。本発明では、走査型レーザー顕微鏡の測定視野の範囲で測定した高度差を加工傷の深さと定義する。加工傷の深さが10μm以下であれば、良好な破断強度を示し、屈曲試験においても良好な結果を示した。
【0013】
砥石による湿式研磨加工の場合には、プレスベルトの表面の所々に深くて鋭利な研磨傷が発生する。一方、鋭利な切削工具を用いた切削加工や、軟らかい素材(布、皮等)を用いたバフ加工であれば、プレスベルト表面に深い加工傷は発生し難い。そこで、本発明では、好ましくはクラックが発生し易い厚みの小さい両端部対応領域の表面を切削加工および/またはバフ加工によって仕上げ加工することによって、クラックの発生起点となる深くて鋭利な加工傷を無くすようにしている。なお、切削加工やバフ加工以外に、乾式研磨加工やフィルム研磨による精密加工によっても加工傷の深さを10μm以下とすることが可能である。
【0014】
両端部対応領域の表面を砥石で研磨加工した後に、切削加工またはバフ加工してもよい。研磨加工後に深くて鋭利な研磨傷が発生したとしても、その研磨傷の深さに達する程度までの切削加工およびバフ加工をすれば良い。
【0015】
切削加工は、好ましくは、リング形状のバイトを用いて行なう。リング形状のバイトであれば、幅方向の削り代が比較的大きいので加工時間を短縮でき、刃の切れ味も長続きさせることができる。
【0016】
好ましい実施形態では、プレスベルトは、補強層と上部弾性層とを備える。この場合、上部弾性層の外周面が前述の段差形状を有している。
【0017】
好ましい実施形態では、プレスベルトの中央領域の外周面にはベルト走行方向に沿って延びる多数の排水溝が形成されている。しかしながら、両端部対応領域の外周面には排水溝が形成されていない。その理由は、排水溝の底端はクラックの発生起点となるおそれがあるので、クラックが発生し易い両端部対応領域には排水溝を設けない方が好ましいからである。
【0018】
本発明に従ったシュープレスロールは、前述した特徴を有するエンドレス形状のプレスベルトからなる外筒と、この外筒の周内部に位置する加圧手段としての加圧シューとを備える。
【0019】
本発明に従ったプレスベルトの製造方法は、両端部対応領域の厚みが中央領域の厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差を形成する工程と、段差を形成した後に、両端部対応領域の外周面を、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工する工程とを備える。
【0020】
上記方法によれば、両端部対応領域の表面に深くて鋭利な加工傷が残らないようになる。仕上げ加工としては、切削工具を用いた切削加工であっても良いし、布や皮等からなるバフを用いたバフ加工であっても良い。あるいは、切削加工およびバフ加工の両者を行っても良い。また、乾式研磨加工やフィルム研磨による精密加工であってもよい。例えば、切削加工後にバフ加工をすることも考えられる。両端部対応領域の厚みを減ずるための加工としては、砥石による研磨加工であっても良いし、切削工具を用いた切削加工であってもよい。
【0021】
なお、本明細書において使用する「走行方向」および「幅方向」という用語は、特記がない限り、それぞれプレス対象物の走行方向および幅方向を指すものとする。また、プレス対象物は、湿紙、磁気テープ、織物などの帯状材料であって特に限定はない。また、加圧手段は、プレスロールや加圧シューなどである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】抄紙機のプレス工程で用いられるシュープレス装置の走行方向断面を示す図である。
【図2】図1における加圧脱水部Pの幅方向断面を示す要部断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るプレスベルトを示す図解的断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るシュープレスロールの幅方向断面を示す図である。
【図5】リングバイトを示す斜視図である。
【図6】リングバイトによってプレスベルトの表面を切削加工している状態を図解的に示す図である。
【図7】使用後のプレスベルトの両端部対応領域の上部弾性層の表面にクラックが発生している状況を示す写真である。
【図8】プレスベルトの上部弾性層の表面を湿式研磨加工した後の状態を示す写真である。
【図9】プレスベルトの上部弾性層の表面を切削加工した後の状態を示す写真である。
【図10】プレスベルトの上部弾性層の表面をバフ加工した後の状態を示す写真である。
【図11】デマッチャ式屈曲試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施の形態について具体的に説明する。
【0024】
図1は、抄紙機のプレス工程で用いられるシュープレス装置の走行方向断面を示す図である。シュープレス装置は、加圧手段1としてのプレスロールと、プレスロール1に対向するプレスベルト2と、プレスベルト2の周内部に位置する加圧手段3としての加圧シューとを備えている。なお、図1の装置においては、加圧シュー3をプレスベルト2で覆い、プレスベルト2を外筒としてロール状に組立て、シュープレスロール30を構成しているが、プレスベルト2はロール状に組み立てることなく、エンドレスベルトのまま使用することもできる。この種のプレスベルト2のサイズは、一般的には、その幅が2〜15m、周長が1〜30m、厚みが2〜10mmである。
【0025】
プレスロール1は、プレスベルト2の周外部に位置し、一方の加圧手段として機能する。加圧シュー3は、プレスベルト2の周内部に位置し、他方の加圧手段として機能する。プレスベルト2とプレスロール1との間には、フェルト4に重ねられてプレス対象物としての湿紙5が通される。プレスベルト2の外周面とフェルト4とは、直接接触している。
【0026】
プレスベルト2と加圧シュー3との間には潤滑油が供給され、プレスベルト2は加圧シュー3の上を滑ることができる。プレスロール1は駆動回転し、プレスベルト2は走行するフェルト4との摩擦力によって加圧シュー3の上を滑りながら従動回転する。
【0027】
加圧シュー3は、プレスベルト2の周内部からプレスロール1に向けて押し付けられており、この押し付け力によって湿紙5はプレスされ、脱水される。加圧シュー3の表面は、プレスロール1の表面に対応した凹状となっている。このため、プレスロール1とプレスベルト2との間には、走行方向に広い幅を持った加圧脱水部Pが形成されている。
【0028】
図2は、図1における加圧脱水部Pの幅方向断面を示す要部断面図である。図2に示すように、プレスロール1および加圧シュー3は、幅方向に一定の長さを有している。プレスベルト2は、中央領域Aと、両端部対応領域Bと、最端領域Cとを含む。両端部対応領域Bは、プレスロール1の加圧面6の両端部7および加圧シュー3の加圧面8の両端部9を含む部位に対応する領域である。加圧シュー3の幅は、図2に示すようにプレスロール1の幅と等しいか、またはプレスロール1の幅よりも小さいのが一般的である。加圧シュー3の幅がプレスロール1の幅よりも小さい場合、両端部対応領域Bは、加圧シュー3の加圧面8の両端部9を含む部位に対応する領域である。最端領域Cは、両端部対応領域Bの外側に位置する。
【0029】
図3は、プレスベルト2の一例を示す断面図である。一つの実施形態では、プレスベルト2は、エンドレスの補強基材中に弾性材料が含浸された補強層10と、補強層10の外周面側に位置し、補強層10の補強基材中に含浸された弾性材料と一体化した上部弾性層11と、補強層10の内周面側に位置し、補強層10の補強基材中に含浸された弾性材料と一体化した下部弾性層12とで構成されている。他の実施形態として、補強層を有さずに樹脂だけでプレスベルトを形成するものであっても良い。
【0030】
補強層10を構成する補強基材としては、ポリアミド、ポリエステルなどの有機繊維で構成された織布などが使用される。ベルト2の全体は熱硬化性ポリウレタンなどの弾性材料で一体的に形成され、ベルト2中に、補強基材が埋設された構造となっている。
【0031】
図3に示すように、中央領域Aに位置する上部弾性層11の外周面には、ベルトの走行方向に沿って延びる多数の排水溝13があらわれている。排水溝13は、プレスベルト2の幅方向全体に亘ってらせん状に延びている。一方、両端部対応領域Bおよび最端領域Cに位置する上部弾性層11の外周面には、排水溝が形成されていない。
【0032】
図3に示すように、プレスベルト2の両端部対応領域Bの厚みが中央領域Aの厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域Bの外周面と中央領域Aの外周面との間に段差が形成される。図示した実施形態では、最端領域Cの厚みが両端部対応領域Bの厚みと同じになっているが、他の実施形態として、最端領域Cの厚みが中央領域Aの厚みと同じであっても良い。
【0033】
ここで具体的な寸法を例示的に記載する。前述したように、プレスベルト2は、一般的には、その幅寸法が2〜15m、周長が1〜30m、厚みが2〜10mmである。このようなプレスベルト2において、両端部対応領域Bの幅寸法は、加圧シュー3の加圧面8の端部9に対応する部分を含んで5〜20cm程度、上部弾性層11の厚みは1.2〜3mm程度、排水溝13の底端の深さd1は0.5〜1.5mm程度、段差の高さは1.2〜3mm程度である。また、排水溝13の溝幅は0.6〜1.2mm程度であり、隣接する排水溝13間に位置するランド部の幅は0.9〜3.6mm程度である。
【0034】
図3に示した実施形態において重要な特徴は、プレスベルト2の両端部対応領域Bの外周面が、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されている点である。加工傷の深さが5μm以下となるように仕上げ加工されるのがより好ましい。なお、加工傷とは、表面研磨等の加工時に生じる鋭利な傷のことで、通常は幅よりも長さ方向に長い傷となって現われる。仕上げ加工は、好ましくは切削加工またはバフ加工によって行われる。プレスベルト2を製造するに際しては、まず、両端部対応領域Bの厚みが中央領域Aの厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域Bの外周面と中央領域Aの外周面との間に段差を形成する。両端部対応領域Bの厚みを減ずる加工法としては、砥石を用いた研磨加工であっても良いし、切削工具を用いた切削加工であってもよい。図示した実施形態では、両端部対応領域Bおよび最端領域Cを同時に加工してそれらの領域の厚みを減じている。表面仕上げ加工すべき領域はプレスベルト2の両端部対応領域Bであるが、中央領域Aおよび最端領域Cについても同様に仕上げ加工しても良い。
【0035】
走査型レーザー顕微鏡の測定視野の範囲で測定した高度差を加工傷の深さと定義すると、上記の仕上げ加工は、両端部対応領域Bの外周面の加工傷の深さが10μm以下となるまで行なう。本願発明者が使用した走査型レーザー顕微鏡は、レーザーテック株式会社製のSLM700である。
【0036】
プレスベルト2の両端部対応領域Bには屈曲応力またはねじり応力が繰り返して作用するが、本発明の実施形態によれば、以下の理由により、両端部対応領域Bでのクラックの発生を効果的に抑制することができる。先ず第1に、両端部対応領域Bの厚みを小さくして中央領域Aの外周面と両端部対応領域Bの外周面との間に段差を形成するようにしているので、両端部対応領域Bへの過大な応力の集中を避けるとともに、両端部対応領域Bの可撓性を高めることができる。したがって、両端部対応領域Bにねじり応力や屈曲応力等が作用しても、撓み変形によってそのねじり応力等をある程度吸収できるので、クラックの発生を抑制し得る。
【0037】
第2に、両端部対応領域Bに位置するプレスベルト2の外周面は、鋭利な切削工具を用いた切削加工や、または軟らかい布や皮等を用いたバフ加工等によって加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されているので、両端部対応領域Bにクラックの発生起点となるような深くて鋭利な加工傷は残らない。
【0038】
次に、図4を参照して、本発明によるシュープレスロール30の実施形態について説明する。図4は、シュープレスロールの幅方向断面を示す図である。シュープレスロール30は、加圧手段としての加圧シュー3をプレスベルト2で覆い、プレスベルト2を外筒としてロール状に組み立てられている。
【0039】
加圧シュー3は、支持軸31上で油圧シリンダ32によって支持されており、上方向にプレスベルト2を押し付けることができる。支持軸31の両端部上には、端部ディスク33がベアリング34を介して回転自在に支持されている。プレスベルト2の端縁は、端部ディスク33の外周36上で半径方向内側に折り曲げられている。プレスベルト2端縁の折り曲げ部は、端部ディスク33の外周部と、リング状の固定プレート35とに挟まれ、ボルト等で締め付けられて固定されている。プレスベルト2と加圧シュー3との間には潤滑油が供給される。このようにして、端部ディスク33に固定されたプレスベルト2は、加圧シュー3の上を滑りながら回転することができる。
【0040】
プレスベルト2の両端部対応領域Bの外周面の仕上げ加工のための切削加工は、好ましくは、図5に示したようなリング形状のリングバイト40を用いて行なう。使用するリングバイト40の直径は5mm〜100mm程度のものであり、好ましくは10mm〜50mmの直径である。また、リングバイト40のすくい角は5〜45°であり、好ましくは10〜30°である。リングバイト40の材質としては超硬や高速度鋼を使用することができるが、超硬の方が長寿命を期待できる。図6は、回転するプレスベルト2の外周面をリングバイト40によって切削加工している状態を図解的に示している。リングバイト40であれば、幅方向の削り代が比較的大きいので加工時間を短縮でき、刃の切れ味も長続きさせることができる。
【0041】
バフ加工は、布や皮等からなるバフに研磨材をつけてプレスベルトの表面を磨く加工法であり、バフ加工後の表面は梨地面となる。プレスベルトを砥石で研磨加工した後に0.2mm程度の厚み分をバフ加工すれば、研磨加工によって生じた傷やスクラッチが消え、クラックの起点となる部分がなくなる。
【0042】
本願発明者は、本発明の効果を確認するために、種々の観察、実験または試験を行なった。以下にその結果を記載する。
【0043】
[仕上げ加工後の表面状態の比較]
図7は、使用後のプレスベルトの両端部対応領域の上部弾性層(熱硬化性ポリウレタン)の表面にクラックが発生している状況を示す写真である。この両端部対応領域の上部弾性層の表面の仕上げ加工は、砥石を用いた湿式研磨加工であった。(a)で示す部分および(b)で示す部分の両者とも、深くて鋭利な研磨スクラッチが起点となってクラックが発生していた。
【0044】
図8は、プレスベルトの上部弾性層(熱硬化性ポリウレタン)の表面を、従来と同様に、砥石を用いて湿式研磨加工した後の状態を示す写真である。レーザーテック株式会社製の走査型レーザー顕微鏡(SLM700)を用いて計測したデータは、以下の通りであった。
倍率:20倍
測定視野:0.65mm×0.65mm
*最大加工傷部分
高度差:20.860μm(加工傷の深さが20μm)
平面距離:77.250μm
空間距離:80.017μm
角度:−15.111deg
砥石を用いて研磨加工した場合、測定場所によっては高度差(加工傷の深さ)が40μmのもの、100μmのものもあった。
【0045】
図9は、プレスベルトの上部弾性層(熱硬化性ポリウレタン)の表面を、リングバイトを用いて切削加工した後の状態を示す写真である。レーザーテック株式会社製の走査型レーザー顕微鏡(SLM700)を用いて計測したデータは、以下の通りであった。
倍率:20倍
測定視野:0.65mm×1.30mm
*最大加工傷部分
高度差:4.745μm(加工傷の深さが5μm)
平面距離:25.500μm
空間距離:25.938μm
角度:−10.541deg
図10は、プレスベルトの上部弾性層(熱硬化性ポリウレタン)の表面を、バフ加工によって仕上た後の状態を示す写真である。レーザーテック株式会社製の走査型レーザー顕微鏡(SLM700)を用いて計測した高度差(傷深さ)は数μmであった。
【0046】
[デマッチャ式屈曲試験]
上部弾性層表面の仕上げ加工方法を変えた6種の試料に対して、デマッチャ式屈曲試験を行なった。3個の試料は砥石による湿式研磨加工をしたものであり、それぞれの試料の加工傷の深さは20μm、40μmおよび100μmであった。1個の試料はリングバイトを用いて切削加工したものであり、加工傷の深さは5μmであった。2個の試料はバフ加工をしたものであり、それぞれの加工傷の深さは2μmおよび10μmであった。使用したデマッチャ屈曲試験機は、JIS K6260の図1に示されているものであるが、試験片はJISの規定通りのものではなく、実際のプレスベルトの両端部対応領域から矩形シートを切り抜いた。試験片の構造および寸法は、次の通りである。
【0047】
a)構造:上部弾性層(表面硬度がA95のポリウレタン)、補強層(基布)、下部弾性層(表面硬度がA90のポリウレタン)の3層構造
b)寸法:プレスベルトの幅方向の長さが150mm、ベルト走行方向の長さが20mm、厚みが4.1mm
c)各層の厚み:上部弾性層が0.7mm、補強層(基布)が2.3mm、下部弾性層が1.1mm
なお、JIS K6260に規定されているような試験片中心部の溝は設けなかった。屈曲試験の結果を図11に示す。
【0048】
加工傷の深さが100μmおよび40μmである湿式研磨加工後の試料片の場合、200万回の屈曲でクラックが発生した。加工傷の深さが20μmである湿式研磨加工後の試料片の場合、400万回の屈曲でクラックが発生した。それに対して、リングバイトで切削加工した加工傷の深さ5μmの試料片の場合、800万回の屈曲でもクラックが発生しなかった。同様に、バフ加工した加工傷の深さ2μmおよび10μmの試料片の場合、800万回の屈曲でもクラックが発生しなかった。
【0049】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によるプレスベルトは、従来クラックが発生しやすかった両端部対応領域においてクラックが起こりにくいものとなるので、長期に亘って使用することが可能になる。したがって、製紙工業、磁気記録媒体製造工業、繊維工業等の各種工業において、プレス対象物を加圧処理するために用いられるプレスベルトおよびシュープレスロールに有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0051】
1 プレスロール、2 プレスベルト、3 加圧シュー、4 フェルト、5 湿紙、6 加圧面、7 両端部、8 加圧面、9 両端部、10 補強層、11 上部弾性層、12 下部弾性層、13 排水溝、30 シュープレスロール、31 支持軸、32 油圧シリンダ、33 端部ディスク、34 ベアリング、35 固定プレート、36 外周、40 リングバイト、A 中央領域、B 両端部対応領域、C 最端領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転走行するエンドレス形状のプレスベルトと、前記プレスベルトの周内部及び/または周外部に位置する加圧手段とを備えたプレス装置に使用されるプレスベルトであって、
前記加圧手段の幅方向両端部に対応して位置する両端部対応領域と、前記両端部対応領域の間に位置する中央領域とを含み、
前記両端部対応領域の厚みが前記中央領域の厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差が形成され、
前記両端部対応領域の外周面は、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されている、プレスベルト。
【請求項2】
前記仕上げ加工は、切削加工およびバフ加工のうちの少なくともいずれか一方によって行なわれている、請求項1に記載のプレスベルト。
【請求項3】
前記切削加工は、リング形状のバイトを用いて行なわれている、請求項1または2に記載のプレスベルト。
【請求項4】
補強層と上部弾性層とを備え、
前記上部弾性層の外周面が前記段差形状を有している、請求項1〜3のいずれかに記載のプレスベルト。
【請求項5】
前記中央領域の外周面にはベルト走行方向に沿って延びる多数の排水溝が形成され、前記両端部対応領域の外周面には排水溝が形成されていない、請求項1〜4のいずれかに記載のプレスベルト。
【請求項6】
エンドレス形状のプレスベルトからなる外筒と、前記外筒の周内部に位置する加圧手段としての加圧シューとを備えたシュープレスロールであって、
前記外筒は、請求項1〜5のいずれかに記載のプレスベルトである、シュープレスロール。
【請求項7】
プレス装置の加圧手段の幅方向両端部に対応して位置する両端部対応領域と、前記両端部対応領域の間に位置する中央領域とを含むプレスベルトの製造方法であって、
前記両端部対応領域の厚みが前記中央領域の厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差を形成する工程と、
前記段差を形成した後に、前記両端部対応領域の外周面を、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工する工程とを備える、プレスベルトの製造方法。
【請求項8】
前記仕上げ加工は、切削加工およびバフ加工のうちの少なくともいずれか一方によって行なう、請求項7に記載のプレスベルトの製造方法。
【請求項1】
回転走行するエンドレス形状のプレスベルトと、前記プレスベルトの周内部及び/または周外部に位置する加圧手段とを備えたプレス装置に使用されるプレスベルトであって、
前記加圧手段の幅方向両端部に対応して位置する両端部対応領域と、前記両端部対応領域の間に位置する中央領域とを含み、
前記両端部対応領域の厚みが前記中央領域の厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差が形成され、
前記両端部対応領域の外周面は、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工されている、プレスベルト。
【請求項2】
前記仕上げ加工は、切削加工およびバフ加工のうちの少なくともいずれか一方によって行なわれている、請求項1に記載のプレスベルト。
【請求項3】
前記切削加工は、リング形状のバイトを用いて行なわれている、請求項1または2に記載のプレスベルト。
【請求項4】
補強層と上部弾性層とを備え、
前記上部弾性層の外周面が前記段差形状を有している、請求項1〜3のいずれかに記載のプレスベルト。
【請求項5】
前記中央領域の外周面にはベルト走行方向に沿って延びる多数の排水溝が形成され、前記両端部対応領域の外周面には排水溝が形成されていない、請求項1〜4のいずれかに記載のプレスベルト。
【請求項6】
エンドレス形状のプレスベルトからなる外筒と、前記外筒の周内部に位置する加圧手段としての加圧シューとを備えたシュープレスロールであって、
前記外筒は、請求項1〜5のいずれかに記載のプレスベルトである、シュープレスロール。
【請求項7】
プレス装置の加圧手段の幅方向両端部に対応して位置する両端部対応領域と、前記両端部対応領域の間に位置する中央領域とを含むプレスベルトの製造方法であって、
前記両端部対応領域の厚みが前記中央領域の厚みよりも小さくなるように、両端部対応領域の外周面と中央領域の外周面との間に段差を形成する工程と、
前記段差を形成した後に、前記両端部対応領域の外周面を、加工傷の深さが10μm以下となるように仕上げ加工する工程とを備える、プレスベルトの製造方法。
【請求項8】
前記仕上げ加工は、切削加工およびバフ加工のうちの少なくともいずれか一方によって行なう、請求項7に記載のプレスベルトの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−52269(P2012−52269A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196510(P2010−196510)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)
【Fターム(参考)】
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