説明

プレス用パッドの改善

積層プレス機において使用するためのプレス用パッドが提供される。パッドが、耐熱性の素線からなる織物を含んでおり、少なくとも縦糸(14)または横糸(10)のいずれかが、複数の素線(12)で構成されたコア(11)をエラストマ材料からなる鞘(13)の内部に備えており、他方が、金属製の素線を備えている。プレス用パッドの尺度において、コアを構成している素線(12)は、お互いに対して実質的に平行かつコア(11)の長手軸に対して実質的に平行に位置している。したがって、使用時に積層プレス機において加圧されるとき、コアの構造が、コアを構成している素線がお互いに対して動くことによって崩れ、コアが平たくなろうとする。これにより、プレス用パッドの弾力性および補償能力が、熱伝達能力を決して損なうことなく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧および高圧の一段または多段プレスを使用して化粧板、積層床板、および印刷回路基板などといった積層板を製造すべく積層プレス機において使用するためのプレス用パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
プレス用パッドの目的は、プレス対象の積層板の密度のばらつきを補償して、積層板のすべての部分に等しい圧力が加わるように保証することにある。さらに、プレス用パッドは、プレス機の圧盤そのものの表面の不整ならびに圧力が加わったときの圧盤のひずみまたはたわみを補償する。やはりこれも、平坦で一様な密度の積層板の製造に役立つ。このように、プレス用パッドは、上述の密度のばらつきおよびプレス圧盤の表面の不整を補償することができる一方で、毎回のプレス作業の後に緩和して、再使用を可能にすべく形態を回復することができるよう、弾性的であって、自然な弾力性を有することが重要である。各回のプレスの後に自身の形態を回復するというプレス用パッドの能力が、妥当な使用可能時間を保証して、プレス用パッドの交換の際のプレスの不必要な休止時間を避けるために、重要な特性である。
【0003】
したがって、典型的には、従来からのプレス用パッドは、高温に耐える非アスベスト糸および金属ワイヤの密に織られた組み合わせである。金属ワイヤは、パッドを通って積層板へと良好な熱伝達をもたらすために導入されている。対照的に、非金属の糸は、各回のプレス作業後にパッドの緩和を可能にするために必要な弾力性および弾性をパッドに付与するために必要とされる。これら2種類の材料の相対割合は、プレス用パッドを特定の目的に合わせて工夫するときの考慮事項である。通常は、それぞれの場合において必要とされる熱の移動と弾性または弾力性との間の妥協に、到達しなければならない。
【0004】
従来からのプレス用パッドが、EP 0 735 949 A1に記載されている。このパッドは、銅線などの耐熱性の素線からなる織物を備えており、縦糸または横糸のいずれかの大部分が、シリコーン・エラストマを備えている。実際には、図1に示されているように、縦糸1が、通常は同心撚りまたは集合撚りの真ちゅう線または銅線を有しており、横糸2が、通常はシリコーンで覆われた金属線、とくには押し出しによるシリコーンの鞘4で覆われた同心撚りまたは集合撚りの銅線3を有している。このプレス用パッドは、シリコーン4の存在の結果として、大きな弾性および弾力性を有する一方で、金属線が、圧盤からプレス対象の材料への良好な熱の移動の達成を保証している。
【0005】
これまでのところ、シリコーン鞘によって覆われる銅線は、直径0.2mmの7本の個々の素線を同心撚りまたは集合撚りにして備えている銅線である。同心撚り線は、素線に積極的かつ制御されたねじりを加えてなるワイヤを備えており、7本の素線のうちの1本が芯を構成し、その周囲に残りの6本の素線が巻き付けられている。そのようなワイヤ5が図2に示されており、中央の芯6を形成している素線が、この素線の周囲に撚り合わせられた6本の素線7によって囲まれて示されている。素線6、7のそれぞれが0.2mmの直径を有する場合、全体としての線径d1(図1を参照)が0.6mmとなることを見て取ることができる。対照的に、集合撚り線は、素線がより無作為な様相でねじられてなるワイヤを備えており、素線のいずれかが中央の位置を有するわけではない。このような集合撚り線も、0.2mmの7本の素線が使用される場合、全体として約0.6mmの直径を有する。縦糸1および横糸2の両者の同心撚りまたは集合撚り線において使用されるねじりの程度は、典型的には「15mm撚り」程度である。これは、仕上がりのワイヤにおいて素線が360°ねじられるために必要な長さである。
【0006】
シリコーンで被覆されたとき、シリコーンで覆われた横糸2の外径d2は、典型的には1.4mmであり、したがってシリコーンの肉厚d3は0.4mmとなる。典型的には、このようなシリコーン被覆のワイヤを使用する織成によるプレス用マットは、2.5mmの初期厚さT1(図1を参照)を有するが、比較的短い使用の後に、約2.0mmの厚さに落ち着く。これは、縦糸のワイヤが横糸のシリコーンへと押し込まれるためである。この状態において、プレス用パッドは、消尽までに典型的には200,000回のプレス・サイクルを達成できる。パッドは、使用において織物構造が最終的に、プレス用パッドが各回のプレス作業の後に緩和することができず、パッドが弾性および弾力性を失ってしまう程度まで平たくなるために、使用できなくなる。
【0007】
プレス用パッドは、約35kg/cmの平均指定圧力を作用させるプレス機において使用され、したがって1平方メートルのプレス用パッド材料に加わる総荷重は、350,000kgである。典型的なプレス用パッドにおいては、長さ1メートルについて約550本の横糸が導入され、幅1メートルについて900本の縦糸が導入されている。これは、典型的にはプレス用パッドに1平方メートル当たり550×900=495,000個の交差点が存在することを意味し、そのそれぞれに、使用時に、プレス機のそれぞれの圧縮サイクルの際に、約0.707kgの荷重が加わることを意味する。使用時に、交差点において、縦糸1がかなり早期に横糸2のシリコーン被覆4へと食い込み、交差しているワイヤが圧力が加えられることによって変形するよりも前に、それぞれ0.6mmである2本のワイヤ1、3が互いに接触する。これが、シリコーンの図示を省略して、図3に概略的に示されている。プレス用パッドを継続して使用する際に、時間とともに、交差している2本のワイヤ1、3がお互いへと押し込まれ、それらの0.6mm+0.6mm=1.2mmという合計の厚さが、約0.8mmへと減少しうる。これが、使い尽くされて、柔軟な補償マットとしての機能が終わった後のプレス用パッドの典型的な最終厚さである。シリコーンは、この時までに、ワイヤ1、3の交差によって形成されるワイヤ・メッシュ間のすき間へと押し込まれ、ワイヤの交差点が全荷重を支持する。
【0008】
上述と同様の従来からのパッドが使い尽くされるまでに生じなければならないプレス・サイクルの数は、プレス対象の積層板の性質にきわめて大きく依存する。化粧板は、固有の弾力性および弾性を有しているため、プレス作業の際に、自身も必要とされる補償をもたらすうえで役に立つ。しかしながら、中程度および高い密度のファイバーボードから製作される積層床板は、自然の弾力性をきわめてわずかしか持たず、上述のような従来からのプレス用パッドが、この種の積層体のプレスに使用された場合に、比較的早期に疲労してしまうことが明らかになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱伝達の能力を損なうことなく、従来からのプレス用パッドよりも多数のプレス・サイクルにわたって、弾力性および補償能力を維持するプレス用パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、積層プレス機において使用するためのプレス用パッドであって、耐熱性の素線からなる織物を含んでおり、少なくとも縦糸および/または横糸が、複数の素線で構成されたコアをエラストマ材料からなる鞘の内部に備えており、少なくとも縦糸または横糸の他方が、金属製の素線を備えているプレス用パッドが提供され、そのようなプレス用パッドは、コアを構成している素線が、お互いに対して実質的に平行かつコアの長手軸に対して実質的に平行に位置していることを特徴としている。
【0011】
コアを構成している素線が、お互いに対して実質的に平行かつコアの長手軸に対して実質的に平行に位置しているという上記要件を、プレス用パッドの尺度において理解すべきであることを、理解すべきである。すなわち、コアが、緩く同心撚りまたは集合撚りされた素線の束を備えてもよい。
【0012】
本発明の好ましいさらなる特徴が、添付の従属請求項に記載される。
【0013】
次に、本発明を、添付の図面を参照しつつ例として説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明によるプレス用パッドは、耐熱性の素線からなる織物であって、少なくとも縦糸または横糸のいずれかが複数の素線で形成されたコアをエラストマ材料の鞘の内部に有している織物を備えている点で、従来技術に類似している。従来技術と本発明との間の相違は、弾性鞘に覆われている素線の構造にある。以下の説明においては、弾性鞘に覆われた素線を横糸として説明し、残りの素線を縦糸として説明するが、エラストマ材料に覆われた素線が縦糸に使用される反対の場合もありうることを、理解すべきである。また、そのような素線を、縦糸および横糸の両方に使用することも可能である。これらの素線の他に、例えば芳香族ポリアミド糸、ポリエステル糸、およびガラス線などといった非金属の素線、ならびにワイヤを包んだポリアミド糸など、他の種類の素線もプレス用パッドへと取り入れることが可能である。さらに、従来からのやり方で芳香族ポリアミド糸によって包まれた銅またはステンレス鋼の素線など、混成糸も使用可能である。
【0015】
また、弾性鞘が、必ずしもEP 0 735 949 A1に記載のようにシリコーンで作られる必要はなく、ゴムなどの任意のエラストマ材料を備えることができることを、理解すべきである。しかしながら、好ましくは、鞘がシリコーンまたはフルオロシリコーンなどといったシロキサンを含んでいる。鞘を、任意の適切なプロセスを使用してコアへと適用することができる。多くの場合、鞘は、従来からのやり方でコアを覆ってエラストマ材料を押し出すことによって形成される。
【0016】
コアの素線は、好ましくは金属製の素線であるが、以下、すなわち銅線、真ちゅう線、ステンレス鋼線、銅合金線、アラミド糸、ガラス線またはガラス繊維、ならびに芳香族ポリアミド糸のうちのいずれかを含むことができる。使用される素線の選択は、プレス用パッドの目的、所望される熱移動の程度、ならびに必要とされる弾性または弾力性に依存して決まる。縦糸も、プレス用パッドの意図される目的を念頭に選択されなければならない。縦糸が、パッドの上側から下側へと横糸の周囲を曲がりくねって進む。したがって、縦糸が、パッドを貫く熱伝達のための主たる経路を形成する。この理由で、縦糸は、通常は金属製の素線を有しており、金属ワイヤ、とくにはいずれも高い熱伝導率を有している銅、真ちゅう、または他の銅合金製のワイヤの形態をとることができる。
【0017】
本発明によるプレス用パッドの実施形態は、縦糸1が金属ワイヤを有しており、横糸2が、個々の素線からなるコア3をエラストマ材料の鞘4で囲んでなる糸を含んでいる図1に示した断面と同様の断面を呈することができる。しかしながら、すでに述べたとおり、横糸の構造が、従来技術の横糸の構造と相違しており、その種々の実施形態を、図5〜9を参照して以下でさらに詳しく説明する。
【0018】
図5および6を参照すると、第1の実施形態においては、横糸10が、複数の実質的に平行な金属製の素線12から製作される金属ワイヤのコア11を、エラストマ材料からなる鞘13の内部に有しており、金属製の素線12は、大きくは撚り合わせられていない。コア11の構造は、図5に示すとおりである。ここに見て取ることができるとおり、コアを構成している素線12が、それら素線12のすべてがお互いに対して実質的に平行でありかつコア11の長手軸の両方に対して実質的に平行である束を形成している。好ましくは、素線12には同心撚りも集合撚りも施されていないが、撚りがプレス用パッドの幅に比べて充分に長いのであれば、素線12が緩く同心撚りまたは集合撚りされている(しかしながら、プレス用パッドの尺度においては互いに実質的に平行であるように見える)コア11を使用することも可能であることを、理解できるであろう。
【0019】
素線12が実質的に平行に位置するように保証する主旨は、プレス用パッドの使用時に、積層プレス機において図7に示されているように矢印Pの方向に加えられる圧力によって加圧されたときに、コア11内の素線12がお互いに対して移動し、図8に示されているように平坦になろうとすることから明らかになる。対照的に、従来技術においては、ねじられているという素線12の性状および撚りの短さゆえに、圧力が加わったときにコア6が平坦になることができない。初期の変形後の厚さが、たとえ積層プレス機の大きな圧力にさらされたときでも、同じままである。
【0020】
従来技術のプレス用パッドにおいて使用されているような7本のねじられた素線の代わりに、7本の平行な素線12がコア11において使用される場合、名目上の圧力を加えることで、コア11の全体の厚さが0.2mmまで平坦化される。同様に、さらに縦糸14が複数の実質的に平行な金属製の素線15(例えば、7本の平行な素線)を備える場合、それらも使用時の圧力のもとで0.2mmという総厚さまで平坦化される。エラストマ材料を省略して図8に概略的に示されているように、縦糸14と横糸10との間のそれぞれの交差点は、それぞれ0.2mmの厚さを有するワイヤを寄せ集めており、したがって、交差点における全体としてのワイヤの厚さは、従来技術の約1.2mmと比べ、わずかに約0.4mmである。また、パッドにおいて使用されている金属製の素線の間の交差点の総数も、大きく増加している。長さ1メートルについて550本の横糸が導入され、幅1メートルについて900本の縦糸が導入されているプレス用パッドにおいては、今や(550×7)×(900×7)=24,255,000個の交差点が、1平方メートル当たりに存在している。これは、典型的なプレス機において、使用時の各交差点における荷重を、0.01443kg(すなわち、350,000/24,255,000)まで98%も減少させる。他の見方をすれば、これまでは1×1のワイヤを有していたそれぞれの交差点が、今や7×7のワイヤ、すなわち49個の交差点を有している。これは、98%の増加である。
【0021】
それぞれの縦糸14が複数の実質的に平行な金属製の素線15を備えている上述の構造を有する縦糸は、取り扱いが困難である可能性がある。したがって、好ましくは、縦糸は、それぞれが0.2mm程度の直径を有している金属製の素線15を少なくとも25mmの撚りにて備える。このような撚りは、15mmという従来の撚りに対する改善であるが、撚りが長いほど、したがって金属製の素線15のねじりの量が少ないほど、より良好である。
【0022】
実際には、織成によるプレス用パッドにおいては、縦糸が横糸の上側および下側を通過する。縦糸14が7本の実質的に平行な金属製の素線15を有しているプレス用パッドにおいては、プレス用パッドへの圧力の作用によって、平行な縦糸14が、縦糸の表面が横糸の表面と同じ高さになるまで、0.2mmである縦糸の個々の直径に等しい距離だけ、弾性鞘13へと押し込まれる。これは、約0.4mmという従来からの肉厚が使用される場合、利用可能な鞘の肉厚の半分に相当し、したがって約0.2mmがクッションとして縦糸と横糸との間に残される。このクッションにより、0.2mmの直径を有する個々の縦糸14が鞘へと快適に横たわることができ、縦糸14に保護がもたらされる。従来技術においては、全体としての直径が0.6mmであるねじられた縦糸が、およそ0.6mmの距離だけ鞘へと押し込まれようとするが、鞘の肉厚が約0.4mmでしかないため、鞘が容易に切り裂かれ、縦糸および横糸の金属ワイヤ線が、プレス用パッドが使用されるときにほぼ瞬時に互いに接触することになる。
【0023】
従来技術に比べ、圧縮の際の金属コア11の厚さの低減は、2つの好都合な効果を有している。第1に、圧縮時のパッドそのものの厚さが、従来技術のパッドよりも大幅に小さくなり、結果として、積層プレス機の加熱された圧盤の表面が、積層プレス機のコールプレートにわずかに近付く。これにより、プレス対象の積層体への熱の伝達が向上する。第2に、上述のエラストマ材料のクッションが、圧縮の後のプレス用パッドの回復を改善し、したがってパッドの補償能力が改善される。しかしながら、パッドにおいて、パッドの上面から下面へと通過する縦糸の数は同じであるため、パッドの生来の熱伝達能力に影響はない。これらの好都合な効果を、以下でさらに詳しく検討する。
【0024】
図4に示されているとおり、従来からの積層プレス機においては、プレス機の2つの圧盤21の間でプレスされる板20が、2枚の金属製のコールプレート22および2枚のプレス用パッド23の間に位置している。プレス用パッド23のそれぞれが、一方のコールプレート22と一方の圧盤21との間に位置している。コールプレート22およびプレス用パッド23の幅および長さは、通常はプレス対象の板よりも大きい。このため、プレス用パッド23を介して伝達されるプレス圧盤21からの圧力を受ける非支持のコールプレート22の縁領域mが生じる。板20の縁の周囲においては、コールプレート22に支持が存在しないため、コールプレート22は、矢印fによって示されているとおり、板20の縁を支点として曲がろうとする。この影響で、支点として機能する板の縁に沿った異常に大きな圧力、ならびにコールプレート22が板20から離れるように湾曲することによって典型的には板20の縁の5cmの範囲において生じる低い圧力ゆえに、板上に「白点」と呼ばれる欠陥が生じる。この問題は、長さ方向の縁と幅方向の縁とが出会う板20の角において顕著になる。これにより、板20の角に大きな圧力が生じるとともに、板20の角の小さな領域(典型的には、5cm〜10cmの範囲)に、対応する圧力の低下が生じる。「白点」は、板20が受ける圧力がプレスのプロセスを充分に完了させるためには不充分である場所で生じる。
【0025】
それぞれの非支持のコールプレート22へと加わる曲げモーメントが、板30の上方および下方でプレスされるプレス用パッド23と縁領域mに敷かれて軽くプレスされるプレス用パッド23との間の厚さの差に比例することを、理解できるであろう。一般に、この厚さの差は、尺度として、使用されるプレス用パッド23の厚さに直接に比例して変化する。したがって、厚さの小さいプレス用パッドにおいては、プレスされる領域と縁領域mとの間の「厚さの差」が小さくなり、したがって非支持のコールプレートの領域への曲げの作用も小さくなる。したがって、マットの補償能力が減少しない限りにおいて、従来からのパッドと比べて厚さが小さい本発明によるプレス用パッドのようなプレス用パッドを製造することが、好都合である。しかしながら、本発明のプレス用パッドは、圧縮の後のプレス用パッドの回復も改善し、したがってパッドの補償能力が改善されている。この利点を、以下でさらに詳しく検討する。
【0026】
上述のように、通常は、任意の所与のプレス用パッドについて、その必要とされる用途に応じて、熱の移動と弾性または弾力性との間の妥協に到達しなければならない。しかしながら、本発明のプレス用パッドにおいては、圧縮後の回復が大きいため、弾性鞘の外径を従来の1.4mmから例えば1.15mmへと減少させる新たな妥協を考えることができる。同時に、コア11の7本の平行な素線12が3本の平行な素線(後述)で置き換えられるならば、横糸1本当たりの鞘材料の体積の低減は、約27%に相当する。これは、とくにはフルオロシリコーンなどの高価な材料が使用される場合に、鞘材料のコストの大幅な削減につながる。
【0027】
しかしながら、横糸10の厚さの低減は、1メートル当たりの横糸の挿入数を、約600から約710へと増やすことができることを意味し、これは18%の増加である。これは、2つの有益な効果を有している。第1に、縦糸が、横糸の周囲を曲がりくねって進んで「パッド貫通」熱導体を形成するため、同じ比において「パッド貫通」導体の総数が増加する。これは、結果として、パッドの熱伝達能力を改善し、プレスのサイクル時間の短縮を可能にする。第2に、横糸の挿入の数が18%増加することで、弾性鞘の直径の縮小によって引き起こされるパッドの弾力性の低下が相殺される。パッドにおけるエラストマ材料の正味の総量は、依然として14%だけ少なくなっているが、横糸の新規な構造の結果として、パッドが、以前と同じ水準の弾力性を呈し、同じ補償能力を有しており、それでいて熱伝達は改善されている。
【0028】
横糸の別の実施形態においては、7本の平行な素線12をコア11を形成するために使用する代わりに、3本の平行な素線12を代わりに使用することができる。多くの場合、7本の平行な素線12は、銅線を含むと予想される。しかしながら、そのような多数の素線からなるコア11と同様の強度を、3本のステンレス鋼の素線12を使用してコア11を形成することによって達成できる。このやり方でのステンレス鋼の使用は、パッドの弾力性に起因する金属疲労によって直面しうるあらゆる問題を克服するという利点を有している。
【0029】
上述のような本発明による横糸の実施形態は、とりわけ、図6に示したとおりの実質的に平行な素線の束を有するコア11であって、圧力が加わったときに崩れて、素線12がお互いに対して移動して図7に示されているとおりに平坦になるコア11を有している。横糸の別の実施形態においては、図9に示されているように、素線12が、いかなる圧力も加えられていないときに、コア11の実質的に同じ平面内でお互いに対して実質的に平行かつ長手軸に対して実質的に平行に位置するように配置される。これは、弾性鞘13を非円形の断面形状にて押し出すことを必要とする。そのような押し出しは、適切な形状の金型(好ましくは、図9に示したような楕円形の金型)の使用を必要とするが、例えば正方形または矩形など、他の形状を使用することも可能であると考えられる。また、素線12を、単一の平面にではなく、行列内の複数の列にて配置することも可能である。
【0030】
以上から、本発明が、熱伝達の能力を決して損なうことなく、従来からのプレス用パッドよりも多数のプレス・サイクルにわたって、弾力性および補償能力を維持するプレス用パッドを提供することを、理解できるであろう。また、パッドを、エラストマ材料の量を増やして製造することも可能であり、結果として、補償能力の向上を、やはりパッドの熱伝達能力を決して低下させることなくもたらすことができる。一般に、プレス用パッドは、使用の最中に、エラストマ材料が回復できなくなることで補償の特性を失ったときに交換される。本発明のパッドによって達成されるより大きな補償の程度は、それ自身が好都合であるが、さらには、以下の理由でパッドの寿命も長くする。
1.縦糸の金属製の素線がエラストマ材料へと食い込むことがないため、エラストマ材料がより長期間にわたって損なわれない。
2.パッドに使用される金属ワイヤの量は従来技術と同じであってよいが、使用の際にもたらされる金属ワイヤの全体としての厚さが、大幅に小さくなる。これは、エラストマ材料が、パッド全体の厚さのうちのより多くの割合を形成することを意味し、したがって「ばね」効果の向上がもたらされることを意味する。
3.パッドの基礎をなしている金属メッシュ骨格が、圧力が緩められるときのプレス機内での各サイクルの際のエラストマ材料の回復を妨げうる。本発明は、直径0.6mmのワイヤを使用するのではなく、直径0.2mmのワイヤを使用してメッシュ骨格を効果的に形成し、そのようなメッシュは、より良好な柔軟性を有し、エラストマ材料の回復に対する妨げが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】使用前の従来からのプレス用パッドの拡大断面図である。
【図2】図1に示したプレス用パッドの一部を形成する横糸素線の金属コアの斜視図である。
【図3】図1に示したプレス用パッドの横糸素線の金属コアと縦糸素線との間の交差点の概略の斜視図であり、プレス用パッドのシリコーンは省略されている。
【図4】積層プレス機の概略の縦断面であり、従来からのプレス用パッドが使用されるときのプレス機内でのコールプレートのたわみを示している。
【図5】本発明によるプレス用パッドの一部を形成する横糸素線の金属コアの斜視図である。
【図6】本発明によるプレス用パッドの一部を形成する横糸素線の第1の実施形態の使用前の断面図であり、図5に示した金属コアを含んでいる。
【図7】図6と同様の図であるが、使用時に圧力が加えられたときの横糸素線を示している。
【図8】図3と同様の図であるが、本発明によるプレス用パッドの図である。
【図9】図6と同様の図であるが、横糸素線の別の実施形態の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層プレス機において使用するためのプレス用パッドであって、
耐熱性の素線からなる織物を含んでおり、少なくとも縦糸(14)および/または横糸(10)が、複数の素線(15)で構成されたコア(11)をエラストマ材料からなる鞘(13)の内部に備えており、少なくとも縦糸または横糸の他方が、金属製の素線を備えているプレス用パッドであり、
前記コア(11)を構成している素線(15)が、お互いに対して実質的に平行かつコア(11)の長手軸に対して実質的に平行に位置していることを特徴とするプレス用パッド。
【請求項2】
前記コア(11)が、緩く同心撚りまたは集合撚りされているが、プレス用パッドの尺度においては互いに実質的に平行であるように見える素線(15)の束を備えていることを特徴とする請求項1に記載のプレス用パッド。
【請求項3】
前記コア(11)が、実質的に同じ平面に位置するように配置された複数の平行な素線(15)を備えていることを特徴とする請求項1に記載のプレス用パッド。
【請求項4】
前記コア(11)が、複数の列に配置された複数の平行な素線(15)を備えていることを特徴とする請求項1に記載のプレス用パッド。
【請求項5】
前記弾性鞘(13)が、非円形の断面形状を有していることを特徴とする請求項3または4に記載のプレス用パッド。
【請求項6】
前記弾性鞘(13)が、楕円形の断面形状を有していることを特徴とする請求項5に記載のプレス用パッド。
【請求項7】
前記コア(11)が、以下、すなわち銅線、真ちゅう線、ステンレス鋼線、銅合金線、アラミド糸、ガラス糸またはガラス繊維、芳香族ポリアミド糸のうちのいずれかから選択される複数の素線(15)を備えていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のプレス用パッド。
【請求項8】
前記コア(11)が、最大7本の金属製の素線を備えていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のプレス用パッド。
【請求項9】
前記金属製の素線のそれぞれが、0.2mm程度の直径を有していることを特徴とする請求項8に記載のプレス用パッド。
【請求項10】
前記エラストマ材料からなる鞘(13)が、少なくとも0.2mmの厚さを有していることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のプレス用パッド。
【請求項11】
前記エラストマ材料からなる鞘(13)の外径が、少なくとも1.15mmであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のプレス用パッド。
【請求項12】
前記エラストマ材料が、シロキサンを含んでいることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のプレス用パッド。
【請求項13】
前記縦糸(14)および前記横糸(10)の他方が、複数の金属製の素線を互いに実質的に平行に位置させて有している金属ワイヤを備えていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載のプレス用パッド。
【請求項14】
前記ワイヤが、それぞれが0.2mm程度の直径を有している複数の金属製の素線を少なくとも25mmの撚りにて有していることを特徴とする請求項13に記載のプレス用パッド。
【請求項15】
縦糸(14)が、金属ワイヤを備えており、横糸(10)が、複数の素線で構成されたコア(11)をエラストマ材料からなる鞘(13)の内部に備えていることを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載のプレス用パッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−535221(P2009−535221A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508456(P2009−508456)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001597
【国際公開番号】WO2007/129041
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(505069269)マラソン ベルティング リミテッド (1)
【Fターム(参考)】