説明

プレス装置及びスライドの下死点変動の補正方法

【課題】 周囲環境温度が変化した場合であっても、スライドの下死点変動を容易に抑制することができるプレス装置を提供すること。
【解決手段】 潤滑油をプレス装置本体4を通して循環させるための潤滑油循環手段34と、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油を冷却するための冷却手段44と、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油を加温するための加温手段46と、冷却手段44及び加温手段46を制御するための制御手段と、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度を検出するための潤滑油温度検出手段52と、を備えている。制御手段は、プレス加工運転開始後の潤滑油温度検出手段52の検出温度に基づいて、冷却手段44及び/又は加温手段46を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物をプレス加工するためのプレス装置及びスライドの下死点変動の補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工物をプレス加工する際にはプレス装置が用いられている。このプレス装置は、プレス装置本体と、プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、潤滑油をプレス装置本体を通して循環させるための潤滑油循環手段と、潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却するためのクーラと、潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温するためのヒータと、クーラ及びヒータを制御するための制御手段と、を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
プレス加工運転中において、クランク軸の回転によって発生する熱により加温された潤滑油がプレス装置本体を通して循環されると、プレス装置本体が加温されてその熱変位量が変動し、スライドの下死点が変動してしまう。そこで、このようなプレス装置では、スライドの下死点変動を抑制するために、次のようにして潤滑油の温度を制御している。プレス加工運転前にはプレヒート運転が行われ、このプレヒート運転では、ヒータによって潤滑油の温度が第1温度に調節され、この第1温度に調節された潤滑油を循環させることにより、プレス装置本体が第1温度付近まで加温される。また、プレス加工運転では、クーラによって潤滑油の温度が第1温度よりも低い第2温度に調節され、この第2温度に調節された潤滑油が循環される。
【0004】
【特許文献1】特開2000−313000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のプレス装置では、次のような問題がある。プレス装置の周囲環境温度が変化すると、プレヒート運転における潤滑油の温度が上記第1温度より変化するとともに、プレス加工運転における潤滑油の温度が上記第2温度より変化してしまう。このようにプレス加工運転開始後における潤滑油の温度が変化すると、プレス装置本体の熱変位量が大きくなり、スライドの下死点変動が大きくなるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、周囲環境温度が変化した場合であっても、スライドの下死点変動を容易に抑制することができるプレス装置及びスライドの下死点変動の補正方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載のプレス装置では、プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置であって、
潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させるための潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却するための冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温するための加温手段と、前記冷却手段及び前記加温手段を制御するための制御手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を検出するための潤滑油温度検出手段と、を備えており、
前記制御手段は、プレス加工運転開始後の前記潤滑油温度検出手段の検出温度に基づいて、前記冷却手段及び/又は前記加温手段を制御することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置では、前記制御手段は、プレス加工運転開始後の前記潤滑油温度検出手段の検出温度が上限設定値を超えると、前記冷却手段による潤滑油の冷却温度を低下させ又は前記加温手段による潤滑油の加温温度を上昇させ、また、プレス加工運転開始後の前記潤滑油温度検出手段の検出温度が下限設定値よりも低下すると、前記冷却手段による潤滑油の冷却温度を上昇させ又は前記加温手段による潤滑油の加温温度を低下させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に記載のスライドの下死点変動の補正方法では、プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置の前記スライドの下死点変動の補正方法であって、
前記プレス装置は、潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させるための潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却するための冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温するための加温手段と、前記冷却手段による潤滑油の冷却温度及び前記加温手段による潤滑油の加温温度を設定するための潤滑油温度設定手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を表示するための表示手段と、を更に備え、
前記表示手段に表示されたプレス加工運転開始後の潤滑油の温度が上限設定値を超えたときには、前記潤滑油温度設定手段を用いて前記冷却手段による潤滑油の冷却温度を低下させ又は前記加温手段による潤滑油の加温温度を上昇させ、また、前記表示手段に表示されたプレス加工運転開始後の潤滑油の温度が下限設定値よりも低下すると、前記潤滑油温度設定手段を用いて前記冷却手段による潤滑油の冷却温度を上昇させ又は前記加温手段による潤滑油の加温温度を低下させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に記載のプレス装置によれば、制御手段は、プレス加工運転開始後の潤滑油温度検出手段の検出温度に基づいて、冷却手段及び/又は加温手段を制御するので、プレス装置の周囲環境温度が変化した場合において、スライドの下死点変動を容易に抑制することができる。例えば、プレス装置の周囲環境温度が上昇した場合には、これに伴ってプレス加工運転開始後の潤滑油の温度が上昇する。このように潤滑油の温度が上昇すると、スライドの下死点が負方向に変位する傾向となるので、冷却手段による潤滑油の冷却温度又は加温手段による潤滑油の加温温度を低下させることにより、プレス加工運転開始後における潤滑油の温度を低下させることができ、スライドの下死点変動を抑制することができる。また、プレス装置の周囲環境温度が低下した場合には、これに伴ってプレス加工運転開始後の潤滑油の温度が低下する。このように潤滑油の温度が低下すると、スライドの下死点が正方向に変位する傾向となるので、冷却手段による潤滑油の冷却温度又は加温手段による潤滑油の加温温度を上昇させることにより、プレス加工運転開始後における潤滑油の温度を上昇させることができ、スライドの下死点変動を抑制することができる。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置によれば、制御手段は、プレス加工運転開始後の潤滑油温度検出手段の検出温度が上限設定値を超えると、冷却手段による潤滑油の冷却温度を低下させるので、プレス加工運転開始後における潤滑油の温度を上限設定値よりも低下させることができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができる。あるいは、加温手段による潤滑油の加温温度を上昇させるので、プレヒート運転における潤滑油の温度を上昇させることによって、プレス加工運転開始前後における潤滑油の温度変化を小さくすることができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができる。また、プレス加工運転開始後の潤滑油温度検出手段の検出温度が下限設定値よりも低下すると、冷却手段による潤滑油の冷却温度を上昇させるので、プレス加工運転開始後における潤滑油の温度を下限設定値よりも上昇させることができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができる。あるいは、加温手段による潤滑油の加温温度を低下させるので、プレヒート運転における潤滑油の温度を低下させることによって、プレス加工運転開始前後における潤滑油の温度変化を小さくすることができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができる。
【0012】
また、本発明の請求項3に記載のスライドの下死点変動の補正方法によれば、表示手段に表示されたプレス加工運転開始後の潤滑油の温度が上限設定値を超えたときには、潤滑油温度設定手段を用いて冷却手段による潤滑油の冷却温度を低下させるので、プレス加工運転開始後における潤滑油の温度を上限設定値よりも低下させることができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができる。あるいは、潤滑油温度設定手段を用いて加温手段による潤滑油の加温温度を上昇させるので、プレヒート運転における潤滑油の温度を上昇させることによって、プレス加工運転開始前後における潤滑油の温度変化を小さくすることができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができる。また、表示手段に表示されたプレス加工運転開始後の潤滑油の温度が下限設定値よりも低下すると、潤滑油温度設定手段を用いて冷却手段による潤滑油の冷却温度を上昇させるので、プレス加工運転開始後における潤滑油の温度を下限設定値よりも上昇させることができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができる。あるいは、潤滑油温度設定手段を用いて加温手段による潤滑油の加温温度を低下させるので、プレヒート運転における潤滑油の温度を低下させることによって、プレス加工運転開始前後における潤滑油の温度変化を小さくすることができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明に従うプレス装置及びスライドの下死点変動の補正方法の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態によるプレス装置を示す概略断面図であり、図2(a)は、潤滑油の温度が正常値である場合における、潤滑油の温度の時間変化を示すグラフであり、図2(b)は、潤滑油の温度が正常値である場合における、スライドの下死点変位の時間変化を示すグラフであり、図3(a)は、潤滑油の温度が上限設定値を超えた場合における、潤滑油の温度の時間変化を示すグラフであり、図3(b)は、潤滑油の温度が上限設定値を超えた場合における、スライドの下死点変位の時間変化を示すグラフであり、図4(a)は、潤滑油の温度が下限設定値よりも低下した場合における、潤滑油の温度の時間変化を示すグラフであり、図4(b)は、潤滑油の温度が下限設定値よりも低下した場合における、スライドの下死点変位の時間変化を示すグラフである。
【0014】
図1を参照して、図示のプレス装置2は、プレス装置本体4、制御装置6及び潤滑油温度調節装置8を備えている。以下、プレス装置2の構成について詳細に説明する。
プレス装置本体4は、ベッド部10と、ベッド部10の上方に設けられたクラウン部12と、ベッド部10とクラウン部12との間に設けられた一対のコラム部14と、を備えている。クラウン部12の内部にはクランク軸16が回転自在に支持され、このクランク軸16は、一対のコネクティングロッド18及び一対のプランジャ20を介してスライド22と連結されている。スライド22は一対のコラム部14で囲まれた空間に移動自在に配設され、その下端部には可動金型24が取り付けられている。ベッド部10にはボルスタ26が取り付けられ、このボルスタ26の上端部には静止金型28が取り付けられている。また、各コラム部14の内部にはそれぞれ上下方向に延びる潤滑油流路30が形成され、またベッド部10の内部には、潤滑油が貯められる潤滑油貯め空間32が形成されている。
【0015】
このプレス装置本体4に関連して、潤滑油をプレス装置本体4を通して循環させるための潤滑油循環手段34が設けられている。潤滑油循環手段34は、潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油をクラウン部12のクランク軸16の各摺動部分に送給するための第1送給ライン36と、クランク軸16の各摺動部分から排出された潤滑油を各コラム部14の潤滑油流路30の上端部へ導くための第2送給ライン38と、潤滑油流路30の下端部から排出された潤滑油を潤滑油貯め空間32へ戻すための戻しライン40と、第1送給ライン36に配設された第1循環ポンプ42とから構成されている。
【0016】
潤滑油温度調節装置8には、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度を冷却するためのクーラ44(冷却手段を構成する)と、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度を加温するためのヒータ46(加温手段を構成する)とが設けられている。これらクーラ44及びヒータ46は、第1及び第2接続ライン48,50を介して潤滑油貯め空間32と連通され、第1接続ライン48には第2循環ポンプ(図示せず)が配設されている。潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油は、第2循環ポンプの作用によって第1接続ライン48を通してクーラ44及びヒータ46に送給されて冷却又は加温された後に、第2接続ライン50を通して潤滑油貯め空間32に戻され、このようにして潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度が調節される。また、第1接続ライン48には、この第1接続ライン48を通してクーラ44及びヒータ46に送給される潤滑油の温度を検出するための温度検出センサ52(潤滑油温度検出手段を構成する)が設けられている。
【0017】
制御装置6には、制御手段(図示せず)、潤滑油温度設定手段54及び表示手段56が設けられている。制御手段はクーラ44及びヒータ46をそれぞれ制御し、後述するようにして、プレヒート運転におけるヒータ46による潤滑油の加温温度を第1設定温度に調節し、またプレス加工運転におけるクーラ44による潤滑油の冷却温度を第2設定温度に調節する。潤滑油温度設定手段54は、ヒータ用調節ボリューム58及びクーラ用調節ボリューム60から構成され、ヒータ用調節ボリューム58を手動で操作することにより、ヒータ46による潤滑油の加温温度が設定され、またクーラ用調節ボリューム60を手動で操作することにより、クーラ44による潤滑油の冷却温度が設定される。また、表示手段56は液晶表示パネルなどから構成され、この表示手段56には、温度検出センサ52により検出された潤滑油の温度の時間変化を示すグラフが表示される(図2(a)、図3(a)及び図4(a)参照)。
【0018】
次に、上述したプレス装置2の運転の流れについて説明する。プレス加工運転前には、クランク軸16やコラム部14などを予め所定温度まで加温するプレヒート運転が次のようにして行われる。プレヒート運転が開始されると、潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油は、第2循環ポンプの作用によって第1接続ライン48を通して潤滑油温度調節装置8に送給される。制御手段によりヒータ46が制御されることによって、潤滑油温度調節装置8に送給された潤滑油が加温され、その温度が第1設定温度(例えば30℃)に調節される。このように加温された潤滑油は、第2接続ライン50を通して潤滑油貯め空間32に戻され、これにより潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油の温度が第1設定温度に調節される。また、潤滑油温度調節装置8に送給される潤滑油の温度は温度検出センサ52により検出され、検出された潤滑油の温度のグラフが制御装置6の表示手段56にリアルタイムに表示される。
【0019】
潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油は、第1循環ポンプ42の作用により第1送給ライン36を通してクラウン部12のクランク軸16の各摺動部分に送給され、クランク軸16を加温した潤滑油はクラウン部12より排出され、第2送給ライン38、潤滑油流路30及び戻しライン40を通して潤滑油貯め空間32に戻される。このように第1設定温度に設定された潤滑油が、クランク軸16の各摺動部分及びコラム部14の潤滑油流路30にそれぞれ送給されることにより、クランク軸16及びコラム部14がそれぞれ第1設定温度付近まで加温される。このようにプレヒート運転を行うことにより、プレヒート運転後のプレス加工運転において安定したプレス加工を行うことができる。
【0020】
このプレヒート運転は所定時間行われ、このプレヒート運転後に、例えば作業員などが運転開始ボタン(図示せず)を操作するとプレス加工運転が開始される。このようにプレス加工運転が開始されると同時に、潤滑油の設定温度が次のようにして第1設定温度から第2設定温度に切り替わる。
【0021】
制御手段によりクーラ44が制御されることによって、潤滑油温度調節装置8に送給された潤滑油の温度が第2設定温度(例えば20℃)に調節される。潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油は、上述と同様にしてプレス装置本体4を通して循環される。この状態でプレス加工が行われると、クランク軸16の回転により発生する熱によってクランク軸16の各摺動部分を潤滑する潤滑油が加温され、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度は第1設定温度付近、例えば29℃まで上昇される(図2(a)参照)。従って、上述のように潤滑油が循環されることにより、クランク軸16及びコラム部14がそれぞれ第1設定温度付近まで加温され、プレス加工運転開始後の潤滑油の温度が正常値範囲(即ち、上限設定値と下限設定値との間の温度範囲)内に入るようになる。これにより、プレヒート運転からプレス加工運転に移行した際におけるコラム部14の熱変位量の変動が抑制され、スライド22の下死点変動が抑制される(図2(b)参照)。
【0022】
次に、図2〜図4をも参照して、上述したプレス装置2によるスライド22の下死点変動の補正方法について説明する。プレス装置2の周囲環境温度が上昇すると、これに伴ってプレヒート運転における潤滑油の温度が第1設定温度より上昇するとともに、プレス加工運転における潤滑油の温度が第1設定温度より上昇する。これにより、プレス加工運転開始後の潤滑油の温度が正常値範囲から逸脱して上限設定値(例えば33℃)を超えるようになり(図3(a)参照)、この状態が継続すると、スライド22の下死点が負方向に大きく変動する(図3(b)参照)。
【0023】
このようなスライド22の下死点変動を補正するために、プレス加工運転開始後の潤滑油の温度が上限設定値を超えたときには、作業員などは表示手段56に表示された潤滑油の温度のグラフを見ながら、クーラ用調節ボリューム60を手動で操作することによって、潤滑油の温度が上限設定値よりも低下するまでクーラ44による潤滑油の冷却温度(即ち、第2設定温度)を例えば2℃ずつ低下させる。これにより、潤滑油の温度が正常値範囲内に入るようになり、スライド22の下死点変動を小さく抑えることができる。あるいは、ヒータ用調節ボリューム58を手動で操作することによって、ヒータ46による潤滑油の加温温度(即ち、第1設定温度)を例えば2℃ずつ上昇させるようにしてもよい。
【0024】
また、プレス装置2の周囲環境温度が低下すると、これに伴ってプレヒート運転における潤滑油の温度が第1設定温度より低下するとともに、プレス加工運転における潤滑油の温度が第1設定温度より低下する。これにより、プレス加工運転開始後の潤滑油の温度が正常値範囲から逸脱して下限設定値(例えば27℃)よりも低下するようになり(図4(a)参照)、この状態が継続すると、スライド22の下死点が正方向に大きく変動する(図4(b)参照)。
【0025】
このようなスライド22の下死点変動を補正するために、プレス加工運転開始後の潤滑油の温度が下限設定値よりも低下したときには、作業員などは表示手段56に表示された潤滑油の温度のグラフを見ながら、クーラ用調節ボリューム60を手動で操作することによって、潤滑油の温度が下限設定値よりも上昇するまでクーラ44による潤滑油の冷却温度(即ち、第2設定温度)を例えば2℃ずつ上昇させる。これにより、潤滑油の温度が正常値範囲内に入るようになり、スライド22の下死点変動を小さく抑えることができる。あるいは、ヒータ用調節ボリューム58を手動で操作することによって、ヒータ46による潤滑油の加温温度(即ち、第1設定温度)を例えば2℃ずつ低下させるようにしてもよい。
【0026】
従って、本実施形態のプレス装置2では、プレス装置2の周囲環境温度が変化した場合であっても、表示手段56に表示された潤滑油の温度のグラフを見ながら、クーラ用調節ボリューム60又はヒータ用調節ボリューム58を手動で操作することによって、スライド22の下死点変動を容易に補正することができる。
【0027】
なお、本実施形態では、制御装置6には表示手段56、ヒータ用調節ボリューム58及びクーラ用調節ボリューム60を設けるように構成したが、表示機能及び入力機能を有する液晶タッチパネルを設けるように構成してもよい。
【0028】
次に、図5を参照して、他の実施形態のプレス装置及びスライドの下死点変動の補正方法について説明する。図5は、本発明の他の実施形態によるプレス装置の制御系を示すブロック図である。なお、本実施形態において、上記実施形態と実質上同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0029】
本実施形態のプレス装置2Aでは、クーラ44及びヒータ46を制御するための制御手段62が設けられている。この制御手段62は、記憶手段64、比較手段66及び作動制御手段68を含んでいる。記憶手段64には上限設定値データ(例えば33℃)、下限設定値データ(例えば27℃)、第1設定温度データ(例えば30℃)及び第2設定温度データ(例えば20℃)が記憶されている。比較手段66は、記憶手段64に記憶された上限設定値データ及び下限設定値データと、温度検出センサ52により検出された潤滑油の温度とを比較する。作動制御手段68は、上記実施形態と同様に、プレヒート運転におけるヒータ46による潤滑油の加温温度を第1設定温度に調節し、またプレス加工運転におけるクーラ44による潤滑油の冷却温度を第2設定温度に調節する。また、作動制御手段68は、プレス加工運転開始後においては、比較手段66による比較結果に基づいて、クーラ44及びヒータ46をそれぞれ後述するように作動制御する。
【0030】
本実施形態のプレス装置2Aによるスライド(図示せず)の下死点変動の補正方法について説明すると、次の通りである。プレス装置2Aの周囲環境温度が上昇すると、これに伴ってプレヒート運転における潤滑油の温度が第1設定温度より上昇するとともに、プレス加工運転における潤滑油の温度が第1設定温度より上昇する。これにより、プレス加工運転開始後の潤滑油の温度が上限設定値を超えたときには、作動制御手段68は、比較手段66による比較結果に基づいて、クーラ44による潤滑油の冷却温度(即ち、第2設定温度)を例えば2℃ずつ低下させる。潤滑油の温度が上限設定値よりも低下すると、作動制御手段68はクーラ44による潤滑油の冷却温度の低下を停止させ、このようにしてスライドの下死点変動を小さく抑えることができる。あるいは、作動制御手段68によってヒータ46による潤滑油の加温温度(即ち、第1設定温度)を例えば2℃ずつ上昇させるようにしてもよい。
【0031】
また、プレス装置2Aの周囲環境温度が低下すると、これに伴ってプレヒート運転における潤滑油の温度が第1設定温度より低下するとともに、プレス加工運転における潤滑油の温度が第1設定温度より低下する。これにより、プレス加工運転開始後の潤滑油の温度が下限設定値よりも低下したときには、作動制御手段68は、比較手段66による比較結果に基づいて、クーラ44による潤滑油の冷却温度を例えば2℃ずつ上昇させる。潤滑油の温度が下限設定値よりも上昇すると、作動制御手段68はクーラ44による潤滑油の冷却温度の上昇を停止させ、このようにしてスライドの下死点変動を小さく抑えることができる。あるいは、作動制御手段68によってヒータ46による潤滑油の加温温度を例えば2℃ずつ低下させるようにしてもよい。
【0032】
以上、本発明に従うプレス装置及びスライドの下死点変動の補正方法の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、表示手段56には潤滑油の温度のグラフが表示されるように構成したが、温度の数値データが表示されるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態によるプレス装置を示す概略断面図である。
【図2】(a)は、潤滑油の温度が正常値である場合における、潤滑油の温度の時間変化を示すグラフであり、(b)は、潤滑油の温度が正常値である場合における、スライドの下死点変位の時間変化を示すグラフである。
【図3】(a)は、潤滑油の温度が上限設定値を超えた場合における、潤滑油の温度の時間変化を示すグラフであり、(b)は、潤滑油の温度が上限設定値を超えた場合における、スライドの下死点変位の時間変化を示すグラフである。
【図4】(a)は、潤滑油の温度が下限設定値よりも低下した場合における、潤滑油の温度の時間変化を示すグラフであり、(b)は、潤滑油の温度が下限設定値よりも低下した場合における、スライドの下死点変位の時間変化を示すグラフである。
【図5】本発明の他の実施形態によるプレス装置の制御系を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0035】
2,2A プレス装置
4 プレス装置本体
16 クランク軸
22 スライド
34 潤滑油循環手段
44 クーラ
46 ヒータ
52 温度検出センサ
54 潤滑油温度設定手段
56 表示手段
58 ヒータ用調節ボリューム
60 クーラ用調節ボリューム
62 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置であって、
潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させるための潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却するための冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温するための加温手段と、前記冷却手段及び前記加温手段を制御するための制御手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を検出するための潤滑油温度検出手段と、を備えており、
前記制御手段は、プレス加工運転開始後の前記潤滑油温度検出手段の検出温度に基づいて、前記冷却手段及び/又は前記加温手段を制御することを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記制御手段は、プレス加工運転開始後の前記潤滑油温度検出手段の検出温度が上限設定値を超えると、前記冷却手段による潤滑油の冷却温度を低下させ又は前記加温手段による潤滑油の加温温度を上昇させ、また、プレス加工運転開始後の前記潤滑油温度検出手段の検出温度が下限設定値よりも低下すると、前記冷却手段による潤滑油の冷却温度を上昇させ又は前記加温手段による潤滑油の加温温度を低下させることを特徴とする請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置の前記スライドの下死点変動の補正方法であって、
前記プレス装置は、潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させるための潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却するための冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温するための加温手段と、前記冷却手段による潤滑油の冷却温度及び前記加温手段による潤滑油の加温温度を設定するための潤滑油温度設定手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を表示するための表示手段と、を更に備え、
前記表示手段に表示されたプレス加工運転開始後の潤滑油の温度が上限設定値を超えたときには、前記潤滑油温度設定手段を用いて前記冷却手段による潤滑油の冷却温度を低下させ又は前記加温手段による潤滑油の加温温度を上昇させ、また、前記表示手段に表示されたプレス加工運転開始後の潤滑油の温度が下限設定値よりも低下すると、前記潤滑油温度設定手段を用いて前記冷却手段による潤滑油の冷却温度を上昇させ又は前記加温手段による潤滑油の加温温度を低下させることを特徴とするスライドの下死点変動の補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−64118(P2010−64118A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234185(P2008−234185)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(591041749)日本電産キョーリ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】