説明

プレス装置及びプレス装置の温度制御方法

【課題】 省エネルギー化を図ることができるプレス装置を提供する。
【解決手段】 プレス加工運転の待機状態において、潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度t1以下であるときには、制御手段は加温手段48を作動状態に保持する。潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度t1よりも高い第2の温度t2以上であるときには、制御手段は冷却手段46を作動状態に保持する。また、潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度t1と第2の温度t2との間にあるときには、制御手段は、冷却手段46及び加温手段48をともに作動停止状態に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物をプレス加工するためのプレス装置及びプレス装置の温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工物をプレス加工する際にはプレス装置が用いられている。このプレス装置は、プレス装置本体と、プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、潤滑油をプレス装置本体を通して循環させる潤滑油循環手段と、循環される潤滑油を冷却するクーラと、循環される潤滑油を加温するヒータと、循環される潤滑油の温度を検出する温度検出センサと、温度検出センサの検出温度に基づいてクーラ及びヒータを制御するコントローラと、を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
運転停止状態からプレス加工運転を開始すると、クランク軸の回転によって発生する熱によりプレス装置本体が加温されてその温度が変動し、スライドの下死点が変動してしまう。そこで、このようなプレス装置では、スライドの下死点変動を抑制するために、プレス加工運転前に潤滑油の温度を制御することによりプレヒート循環が行われている。
【0004】
このプレヒート循環では、ヒータ及びクーラによって潤滑油の温度が所定温度(例えば約30℃)に調節され、このように調節された潤滑油がプレス装置本体を通して循環される。これにより、プレス装置本体が上記所定温度付近まで加温されるようになり、プレス装置本体の温度が変動するのが抑制され、スライドの下死点変動を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−272421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6を参照して、上述したプレヒート循環における潤滑油の温度制御は、次のようにして行われる。図6は、従来のプレス装置によるプレヒート循環における潤滑油の温度制御を説明するための図である。温度検出センサの検出温度が所定温度t(例えば約30℃)以下であるときには、コントローラはヒータを作動させるとともにクーラを作動停止させる。これにより、ヒータによって潤滑油が加温され、潤滑油の温度が上昇する。また、温度検出センサの検出温度が上記所定温度t以上であるときには、コントローラはクーラを作動させるとともにヒータを作動停止させる。これにより、クーラによって潤滑油が冷却され、潤滑油の温度が低下する。このようにして、潤滑油の温度が上記所定温度tに調節される。
【0007】
しかしながら、このような温度制御方法では、常時ヒータ又はクーラが作動するようになるので、プレヒート循環におけるヒータ及びクーラの消費電力量が増大してしまい、省エネルギー化を図ることができないという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、省エネルギー化を図ることができるプレス装置及びプレス装置の温度制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載のプレス装置では、プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置であって、
潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させる潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却する冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温する加温手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を検出する潤滑油温度検出手段と、前記潤滑油温度検出手段の検出温度に基づいて前記冷却手段及び前記加温手段を制御する制御手段と、を備えており、
プレス加工運転の待機状態において、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度以下であるときには、前記制御手段は前記加温手段を作動状態に保持し、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が前記第1の温度よりも高い第2の温度以上であるときには、前記制御手段は前記冷却手段を作動状態に保持し、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が前記第1の温度と前記第2の温度との間にあるときには、前記制御手段は、前記冷却手段及び前記加温手段をともに作動停止状態に保持することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置では、前記第1の温度と前記第2の温度との温度差は、1〜6℃であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項3に記載のプレス装置の温度制御方法では、プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置の温度制御方法であって、
前記プレス装置は、潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させる潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却する冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温する加温手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を検出する潤滑油温度検出手段と、前記潤滑油温度検出手段の検出温度に基づいて前記冷却手段及び前記加温手段を制御する制御手段と、を更に備えており、
プレス加工運転の待機状態において、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度以下であるときには、前記制御手段によって前記加温手段を作動状態に保持し、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が前記第1の温度よりも高い第2の温度以上であるときには、前記制御手段によって前記冷却手段を作動状態に保持し、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が前記第1の温度と前記第2の温度との間にあるときには、前記制御手段によって前記加温手段及び前記冷却手段をともに作動停止状態に保持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載のプレス装置によれば、潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度と第2の温度との間にあるときには、制御手段は、冷却手段及び加温手段をともに作動停止状態に保持する。これにより、従来のプレス装置のように、プレス加工運転の待機状態において常時冷却手段又は加温手段が作動することがない。従って、冷却手段及び加温手段の消費電力量を抑えることができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置によれば、第1の温度と第2の温度との温度差が1〜6℃であるので、潤滑油の温度の変動幅を小さく抑えることができ、潤滑油の温度を精度良く調節することができる。また、冷却手段及び加温手段がともに作動停止状態に保持される期間を十分に確保することができ、省エネルギー化を効果的に図ることができる。
【0014】
また、本発明の請求項3に記載のプレス装置の温度制御方法によれば、潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度と第2の温度との間にあるときには、制御手段によって冷却手段及び加温手段をともに作動停止状態に保持する。これにより、従来のプレス装置の温度制御方法のように、プレス加工運転の待機状態において常時冷却手段又は加温手段が作動することがない。従って、冷却手段及び加温手段の消費電力量を抑えることができ、省エネルギー化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態によるプレス装置を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるプレヒート循環における潤滑油の温度制御を説明するための図である。
【図3】プレヒート循環における潤滑油の温度制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】他の実施条件によるプレヒート循環における潤滑油の温度制御を説明するための図である。
【図5】更に他の実施条件によるプレヒート循環における潤滑油の温度制御を説明するための図である。
【図6】従来のプレス装置によるプレヒート循環における潤滑油の温度制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に従うプレス装置及びプレス装置の温度制御方法の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態によるプレス装置を示す断面図であり、図2(a)は、プレヒート循環におけるヒータの作動及び作動停止のタイミングを示すタイミングチャートであり、図2(b)は、プレヒート循環におけるクーラの作動及び作動停止のタイミングを示すタイミングチャートであり、図2(c)は、プレヒート循環における潤滑油の温度の時間変化を示すグラフであり、図3は、プレヒート循環における潤滑油の温度制御の流れを示すフローチャートである。
【0017】
図1を参照して、本実施形態のプレス装置2は、プレス装置本体4、潤滑油温度調節装置6及び制御装置8を備えている。以下、プレス装置2の構成について詳細に説明する。
【0018】
プレス装置本体4は、ベッド部10と、ベッド部10の上側に設けられたクラウン部12と、ベッド部10とクラウン部12との間に設けられた一対のコラム部14と、を備えている。クラウン部12の内部にはクランク軸16が回転自在に支持され、このクランク軸16は、一対のコネクティングロッド18及び一対のプランジャ20を介してスライド22と連結されている。スライド22は一対のコラム部14で囲まれた空間に往復移動自在に配設され、その下面には可動金型24が取り付けられている。ベッド部10にはボルスタ26が取り付けられ、このボルスタ26の上面には静止金型28が取り付けられている。また、各コラム部14の内部にはそれぞれ上下方向に延びる潤滑油流路30が形成され、またベッド部10の内部には、潤滑油が貯められる潤滑油貯め空間32が形成されている。
【0019】
クランク軸16が回転することによって、スライド22が加工領域(即ち、一対のコラム部14で囲まれた領域)に向けて往復移動される。これにより、加工領域に配設された被加工物(図示せず)が可動金型24と静止金型28との間にプレスされ、被加工物に対してプレス加工が施される。
【0020】
このプレス装置本体4に関連して、潤滑油をプレス装置本体4を通して循環させるための潤滑油循環手段34が設けられている。潤滑油循環手段34は、潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油をクラウン部12のクランク軸16の各摺動部分(図示せず)に送給するための第1送給ライン36と、クランク軸16の各摺動部分から排出された潤滑油を各コラム部14の潤滑油流路30の上端部へ導くための一対の第2送給ライン38と、潤滑油流路30の下端部から排出された潤滑油を潤滑油貯め空間32へ戻すための一対の戻しライン40と、第1送給ライン36に配設された第1循環ポンプ42と、を有している。
【0021】
潤滑油温度調節装置6は装置ハウジング44を有し、この装置ハウジング44には、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度を冷却するためのクーラ46(冷却手段を構成する)と、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度を加温するためのヒータ48(加温手段を構成する)とが内蔵されている。これらクーラ46及びヒータ48は、第1及び第2接続ライン50,52を介して潤滑油貯め空間32と連通され、第1接続ライン50には第2循環ポンプ54が配設されている。潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油は、第2循環ポンプ54の作用によって第1接続ライン50を通してクーラ46及びヒータ48に送給されて冷却又は加温された後に、第2接続ライン52を通して潤滑油貯め空間32に戻される。このようにして、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度が調節される。また、装置ハウジング44には、第1接続ライン50を通してクーラ46及びヒータ48に送給される潤滑油の温度(換言すると、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度)を検出するための温度検出センサ56(潤滑油温度検出手段を構成する)が内蔵されている。更に、クーラ46及びヒータ48には、コントローラ60(制御手段を構成する)が内蔵されている。コントローラ60は、温度検出センサ56の検出温度に基づいて、後述するようにしてクーラ46及びヒータ48をそれぞれ制御する。
【0022】
制御装置8は装置ハウジング58を有し、この装置ハウジング58の前面パネルには、第1温度調節ボリューム62及び第2温度調節ボリューム64が設けられている。第1温度調節ボリューム62を手動で調節することにより、クーラ46及びヒータ48の制御を行う際の基準となる潤滑油の第1の温度t1(第1の閾値)が設定される。また、第2温度調節ボリューム64を手動で調節することにより、クーラ46及びヒータ48の制御を行う際の基準となる潤滑油の第2の温度t2(第2の閾値)が設定される。
【0023】
プレヒート循環時には、コントローラ60によってクーラ46及びヒータ48が次のようにして制御される(図2参照)。プレヒート循環前には、予め、第1温度調節ボリューム62及び第2温度調節ボリューム64をそれぞれ調節することにより、第1の温度t1及び第2の温度t2をそれぞれ例えば30℃、33℃に設定しておく。温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1以下であるとき(図2における期間TL)には、コントローラ60によってヒータ48が作動状態、クーラ46が作動停止状態に保持される。また、温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1を超えた場合において、温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1と第2の温度t2との間にあるとき(図2における期間TM1)には、コントローラ60によってクーラ46及びヒータ48がともに作動停止状態に保持される。また、温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1よりも高い第2の温度t2以上であるとき(図2における期間TH)及び温度検出センサ56の検出温度が第2の温度t2よりも低下した場合において、温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1と第2の温度t2との間にあるとき(図2における期間TM2)には、コントローラ60によってクーラ46が作動状態、ヒータ48が作動停止状態に保持される。
【0024】
なお、上述した第1の温度t1及び第2の温度t2はそれぞれ、プレス加工運転条件(例えばプレス加工速度)に応じて適宜設定することができる。また、第1の温度t1及び第2の温度t2は、それらの温度差が1〜6℃となるように設定することが好ましく、それらの温度差が2〜5℃となるように設定するのがより好ましい。上記温度差が6℃よりも大きいと、潤滑油の温度の変動幅が大きくなり、潤滑油の温度を精度良く調節することが難しい。また、上記温度差が1℃よりも小さいと、クーラ46及びヒータ48がともに作動停止状態に保持される期間が短くなり、省エネルギー化を十分に図ることが難しい。
【0025】
また、プレヒート循環後のプレス加工運転時には、コントローラ60によってクーラ46が次のようにして制御される。なお、本実施形態では、プレス加工運転において、クーラ46の制御を行う際の基準として第1の温度t1が用いられる。プレス加工運転前には、第1温度調節ボリューム62を調節することにより、第1の温度t1を例えば20℃に設定しておく。温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1以上であるときには、コントローラ60によってクーラ46が作動状態に保持される。また、温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1以下であるときには、コントローラ60によってクーラ46が作動停止状態に保持される。このように、プレス加工運転時では、クーラ46は作動及び作動停止を交互に繰り返し、ヒータ48は常時作動停止されるようになる。
【0026】
次に、本実施形態のプレス装置2における潤滑油の温度制御について説明する。まず、図3を参照して、プレヒート循環における潤滑油の温度制御の流れについて説明する。上述したように、プレヒート循環の開始前には、予め、第1温度調節ボリューム62及び第2温度調節ボリューム64をそれぞれ調節することにより、第1の温度t1及び第2の温度t2をそれぞれ例えば30℃、33℃に設定しておく。
【0027】
プレヒート循環が開始されると、潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油は、第1循環ポンプ42の作用によって第1送給ライン36を通してクランク軸16の各摺動部分に送給される。クランク軸16の各摺動部分から排出された潤滑油は、一対の第2送給ライン38、一対の潤滑油流路30及び一対の戻しライン40を通して潤滑油貯め空間32に戻される。
【0028】
また、潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油は、第2循環ポンプ54の作用によって第1接続ライン50を通して潤滑油温度調節装置6に送給される。コントローラ60によりクーラ46及びヒータ48が後述するように制御されることによって、潤滑油温度調節装置6に送給された潤滑油が加温される。このように加温された潤滑油は、第2接続ライン52を通して潤滑油貯め空間32に戻され、これにより潤滑油貯め空間32に貯められた潤滑油の温度が所定温度(例えば約30〜33℃)に調節される。このように所定温度に調節された潤滑油が、上述したようにクランク軸16の各摺動部分及び一対のコラム部14の各潤滑油流路30にそれぞれ送給されることにより、クランク軸16及び一対のコラム部14がそれぞれ加温されるようになる。
【0029】
コントローラ60によるクーラ46及びヒータ48の制御は、次のようにして行われる。なお、プレヒート循環の開始時には、クーラ46及びヒータ48はともに作動停止されている。通常、プレヒート循環の開始時には、潤滑油は外気によって自然冷却されている。このため、プレヒート循環の開始時における温度検出センサ56の検出温度は第1の温度t1以下となり(図2における期間TL)、コントローラ60はヒータ48を作動させる(ステップS1)。これにより潤滑油がヒータ48によって加温され、潤滑油の温度が上昇するようになる。温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1を超えると、ステップS2からステップS3に進み、コントローラ60はヒータ48を作動停止させる。温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1と第2の温度t2との間にあるとき(図2における期間TM1)には、クーラ46及びヒータ48はともに作動停止状態に保持される。このようにクーラ46及びヒータ48がともに作動停止されている状態では、第1循環ポンプ42及び第2循環ポンプ54の攪拌作用によって、潤滑油の温度が緩やかに上昇するようになる。なお、本実施形態では、第1及び第2循環ポンプ42,54の攪拌作用による潤滑油の温度上昇は、潤滑油の自然放熱による温度低下よりも大きい場合について説明する。
【0030】
その後、温度検出センサ56の検出温度が第2の温度t2を超えると(図2における期間TH)、ステップS4からステップS5に進み、コントローラ60はクーラ46を作動させる。これにより潤滑油がクーラ46によって冷却され、潤滑油の温度が低下するようになる。更にその後、温度検出センサ56の検出温度が第2の温度t2よりも低下し、温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1と第2の温度t2との間にあるとき(図2における期間TM2)には、コントローラ60はクーラ46を作動状態に保持させる。温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1よりも低下すると(図2における期間TL)、ステップS6からステップS7に進み、コントローラ60はクーラ46を作動停止させるとともにヒータ48を作動させる。その後、ステップS2に戻り、上述したステップS2〜ステップS7が繰り返し行われる。このようにして潤滑油が加温され、その温度が所定温度(例えば約30〜33℃)に調節される。
【0031】
なお、上述したステップS4において、後述するように、潤滑油の自然放熱による潤滑油の温度低下が第1及び第2循環ポンプ42,54の攪拌作用による潤滑油の温度上昇よりも大きくなった場合には、潤滑油の温度が第1の温度t1を超えた後は、第2の温度t2まで上昇する前に低下し始め、ステップS4からステップS8に進む。その後、潤滑油の温度が第1の温度t1よりも低下すると、ステップS8からステップS1に進み、コントローラ60はヒータ48を作動させる。また、上述したステップS4において、後述するように、第1及び第2循環ポンプ42,54の攪拌作用による潤滑油の温度上昇と潤滑油の自然放熱による潤滑油の温度低下とが釣り合った場合には、潤滑油の温度が第1の温度t1を超えた後は、第2の温度t2まで上昇することなく、第1の温度t1と第2の温度t2との間に保たれ、ステップS4からステップS8を経てステップS4に戻る。
【0032】
このプレヒート循環は所定時間(例えば30分〜1時間程度)行われ、このプレヒート循環後に、例えば作業員が運転開始ボタン(図示せず)を操作するとプレス加工運転が開始される。
【0033】
次に、プレス加工運転における潤滑油の温度制御の流れについて説明する。プレス加工運転の開始前には、予め、第1温度調節ボリューム62を調節することにより、第1の温度t1を例えば20℃に設定しておく。プレス加工運転の開始時には、上述したプレヒート循環によって潤滑油が加温されている。このため、温度検出センサ56の検出温度は第1の温度t1以上となり、コントローラ60はクーラ46を作動させる。これにより潤滑油はクーラ46によって冷却され、潤滑油の温度が低下するようになる。温度検出センサ60の検出温度が第1の温度t1よりも低下すると、コントローラ60はクーラ46を作動停止させる。これにより潤滑油は、クランク軸16の回転によって発生する熱によって加温され、温度検出センサ56の検出温度が第1の温度t1を超えると、上述と同様にコントローラ60はクーラ46を作動させる。このようにして第1の温度t1に調節された潤滑油は、潤滑油循環手段34によってプレス装置本体4を通して循環され、クランク軸16等の発熱部位が冷却される。
【0034】
なお、本実施形態では、第1及び第2循環ポンプ42,54の攪拌作用による潤滑油の温度上昇が潤滑油の自然放熱による温度低下よりも大きく、潤滑油の温度が第1の温度t1から第2の温度t2まで上昇し続ける場合について説明したが、プレス装置2の外気温が低いときには、潤滑油の温度変化は例えば次のようになる。第1及び第2循環ポンプ42,54の攪拌作用による潤滑油の温度上昇と潤滑油の自然放熱による潤滑油の温度低下とが釣り合っている場合には、図4に示すように、潤滑油の温度が第1の温度t1を超えた後は、第2の温度t2まで上昇することなく、第1の温度t1と第2の温度t2との間に保たれる。この場合には、潤滑油の温度が第1の温度t1を超えた際にヒータ48が作動停止した後は、クーラ46及びヒータ48はともに作動停止状態に保持される。
【0035】
また、潤滑油の自然放熱による潤滑油の温度低下が第1及び第2循環ポンプ42,54の攪拌作用による潤滑油の温度上昇よりも大きい場合には、図5に示すように、潤滑油の温度が第1の温度t1を超えた後は、第2の温度t2まで上昇する前に低下し始め、第1の温度t1よりも低下するようになる。この場合には、ヒータ48は作動及び作動停止を交互に繰り返すが、クーラ46は作動することなく作動停止状態に保持される。
[実施例及び比較例]
図1に示すプレス装置を用い、第1の温度と第2の温度との温度差を変更し、プレヒート循環時のクーラ及びヒータの平均消費電力を測定して比較する実験を行った。実施例1として、第1の温度t1を27.5℃、第2の温度t2を30.8℃に設定し、第1の温度t1と第2の温度t2との温度差を3.3℃に設定した。クーラの設定温度を25℃、ヒータの設定温度を27.5℃とした。また、測定時間は1.5時間であり、プレス装置の周囲温度は22℃であった。潤滑油の温度は、図2に示すような変化をした。比較例1として、従来のプレス装置による潤滑油の温度制御に近似させるために、第1の温度t1を27.5℃、第2の温度t2を27.8℃に設定し、第1の温度t1と第2の温度t2との温度差を0.3℃に設定した。他の実験条件は、実施例1と同様である。
【0036】
【表1】

表1に示すように、実施例1では平均消費電力は1.0kWとなり、比較例1では平均消費電力は2.2kWとなった。このことから、実施例1では、比較例1に対してクーラ及びヒータの平均消費電力を約55%削減することができることが確認された。
【0037】
実施例2として、第1の温度t1を32.5℃、第2の温度t2を35.8℃に設定し、第1の温度t1と第2の温度t2との温度差を3.3℃に設定した。クーラの設定温度を30℃、ヒータの設定温度を32.5℃とした。また、測定時間は1.5時間であり、プレス装置の周囲温度は20℃であった。潤滑油の温度は、図4に示すような変化をした。比較例2として、従来のプレス装置による潤滑油の温度制御に近似させるために、第1の温度t1を32.5℃、第2の温度t2を32.8℃に設定し、第1の温度t1と第2の温度t2との温度差を0.3℃に設定した。他の実験条件は、実施例2と同様である。
【0038】
【表2】

表2に示すように、実施例2では平均消費電力は0.4kWとなり、比較例
2では平均消費電力は2.3kWとなった。このことから、実施例2では、比
較例2に対してクーラ及びヒータの平均消費電力を約81%削減することができることが確認された。
【0039】
実施例3として、第1の温度t1を37.5℃、第2の温度t2を40.8℃に設定し、第1の温度t1と第2の温度t2との温度差を3.3℃に設定した。クーラの設定温度を35℃、ヒータの設定温度を37.5℃とした。また、測定時間は1.0時間であり、プレス装置の周囲温度は20℃であった。潤滑油の温度は、図5に示すような変化をした。比較例3として、従来のプレス装置による潤滑油の温度制御に近似させるために、第1の温度t1を37.5℃、第2の温度t2を37.8℃に設定し、第1の温度t1と第2の温度t2との温度差を0.3℃に設定した。他の実験条件は、実施例3と同様である。
【0040】
【表3】

表3に示すように、実施例3では平均消費電力は0.6kWとなり、比較例3では平均消費電力は2.3kWとなった。このことから、実施例3では、比較例3に対してクーラ及びヒータの平均消費電力を約73%削減することができることが確認された。
【0041】
以上、本発明に従うプレス装置及びプレス装置の温度制御方法の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0042】
上記実施形態で説明した潤滑油の温度制御は、プレス加工運転の待機状態、即ち、プレス加工運転前のプレヒート循環や、プレス加工運転後のプレヒート循環等において適用することができる。
【0043】
また、上記実施形態では、温度検出センサ56を1つのみ設けるように構成したが、第1温度調節ボリューム62及び第2温度調節ボリューム64の種類等に応じて、温度検出センサ56を2つ設けるように構成してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、潤滑油の第1の温度t1及び第2の温度t2をそれぞれ第1温度調節ボリューム62及び第2温度調節ボリューム64で設定するように構成したが、これらに代えて、例えば制御装置8の装置ハウジング58に設けられたタッチパネルやテンキー等により第1の温度t1及び第2の温度t2の各数値を入力することにより設定するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0045】
2 プレス装置
4 プレス装置本体
16 クランク軸
22 スライド
34 潤滑油循環手段
46 クーラ
48 ヒータ
56 温度検出センサ
60 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置であって、
潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させる潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却する冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温する加温手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を検出する潤滑油温度検出手段と、前記潤滑油温度検出手段の検出温度に基づいて前記冷却手段及び前記加温手段を制御する制御手段と、を備えており、
プレス加工運転の待機状態において、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度以下であるときには、前記制御手段は前記加温手段を作動状態に保持し、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が前記第1の温度よりも高い第2の温度以上であるときには、前記制御手段は前記冷却手段を作動状態に保持し、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が前記第1の温度と前記第2の温度との間にあるときには、前記制御手段は、前記冷却手段及び前記加温手段をともに作動停止状態に保持することを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記第1の温度と前記第2の温度との温度差は、1〜6℃であることを特徴とする請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
プレス装置本体と、前記プレス装置本体に回転自在に支持されるクランク軸と、前記クランク軸の回転によって加工領域に向けて往復移動されるスライドと、を備えたプレス装置の温度制御方法であって、
前記プレス装置は、潤滑油を前記プレス装置本体を通して循環させる潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を冷却する冷却手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油を加温する加温手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を検出する潤滑油温度検出手段と、前記潤滑油温度検出手段の検出温度に基づいて前記冷却手段及び前記加温手段を制御する制御手段と、を更に備えており、
プレス加工運転の待機状態において、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が第1の温度以下であるときには、前記制御手段によって前記加温手段を作動状態に保持し、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が前記第1の温度よりも高い第2の温度以上であるときには、前記制御手段によって前記冷却手段を作動状態に保持し、前記潤滑油温度検出手段の検出温度が前記第1の温度と前記第2の温度との間にあるときには、前記制御手段によって前記加温手段及び前記冷却手段をともに作動停止状態に保持することを特徴とするプレス装置の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152812(P2012−152812A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16144(P2011−16144)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(591041749)日本電産キョーリ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】