説明

プロカルシトニンのレベルを測定することによる原発性非感染症疾患に罹患している患者における抗生物質処置のためのリスク評価

本発明は、対象由来の体液のサンプル中の少なくとも12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片のレベルを測定、及び抗生物質の投与により誘発された潜在的なリスクに前記の測定されたレベルを関連付けること、を含む、前記対象への抗生物質の投与により潜在的に誘発された有害予後の上昇したリスクを有する原発性非感染症疾患に罹患している対象の識別のための診断方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は臨床診断の分野である。特に、本発明は、患者のサンプル中のプロカルシトニン(PCT)のレベルを測定することによる原発性非感染症疾患に罹患している患者における抗生物質処置のためのリスク評価に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
プロカルシトニン(PCT)は、細菌感染及び敗血症のためのバイオマーカーとして知られている。このペプチドプロホルモンの高い血液又は血清のレベルは、重度感染症の指標である。
【0003】
臨床背景において、原発性非感染症疾患に罹患している患者は、しばしば予防策として、細菌感染の存在が実際に診断されるかどうかとは関係なく、現れるかもしれない、又は未だ現われないかもしれない潜在的な感染症を予防又は治療するために、抗生物質で処置される。
【0004】
本発明は、潜在的な細菌感染を治療又は予防するための、原発性非感染症疾患に罹患している患者の抗生物質による処置は、有害予後の増大したリスクに関連した患者の特定の群にある、という驚くべき発明者らの発見に基づく。特に、低い血液のPCTレベルを有する患者は、抗生物質に供されると、リスクの上昇を受ける。本発明によれば、潜在的に有害な抗生物質処置を始める前に、原発性非感染症疾患に罹患している患者由来の体液のサンプル中のPCTを測定することが望ましい。高い血液又は血清のPCTレベルは、重度の細菌感染症又は敗血症さえの存在を示し、抗生物質によるそれぞれの患者の治療を必要とする。しかしながら、原発性非感染症疾患に罹患している患者は、これまで、抗生物質処置を始める前に、低いPCTレベルにより習慣的には選抜されていない。
【発明の概要】
【0005】
発明の説明
したがって、本発明は、対象への抗生物質の投与により潜在的に誘発された有害予後の増大したリスクを有する原発性非感染症疾患に罹患している対象の識別のための診断方法であって、以下のステップ:
(i) 原発性非感染症疾患に罹患している前記対象からの体液のサンプル提供し、
(ii) 少なくとも12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の前記サンプルのレベルを測定し、
(iii) 抗生物質の投与により誘発された有害予後を有する潜在的なリスクに、少なくとも12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の測定したレベルを、関連付けること、
を含む、診断方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図面の説明
【図1】図1は、実施例1の臨床試験の患者の概要である。
【図2】図2は、投与から90日まで渡る(週)、実施例1の試験においてAHFと診断された患者の生存(%)をしめす。実線は、抗生物質処置を受けていない患者の群に関し、一方破線は抗生物質処置を受けた患者に関する。A:AHF(n=561)と診断された全ての患者、抗生物質処置:n=104(90日後死亡18)、非抗生物質処置:n=457 (90日後死亡46)、p=0.03011;B:AHFと診断され、血漿PCTレベル0.0207〜0.0511 pg/mLを有する患者(n=112)、抗生物質処置:n=17 (90日後死亡4)、非抗生物質処置:n=95 (90日後死亡5)、p=0.00632;C:AHFと診断され、血漿PCTレベル0.0511〜0.205 pg/mLを有する患者(n=336)、抗生物質処置:n=55 (90日後死亡9)、 非抗生物質処置:n=281 (90日後死亡24)、p=0.06328;D:AHFと診断され、血漿PCTレベル0.205〜230 pg/mLを有する患者(n=113)、抗生物質処置:n=32 (90日後死亡5)、非抗生物質処置:n=81 (90日後死亡17)、p=0.06328。
【図3】図3は、投与から90日まで経過後(日)の、実施例1の試験においてAHFと診断された患者の生存(%)をしめす。実線は、抗生物質処置を受けていない患者の群に関し、一方点線は抗生物質処置を受けた患者に関する。図3A〜Dは、図2A〜Dと同じ患者群にそれぞれ該当する。図3のデータは、抗生物質処置を受けた群と受けていない群の可能性のある違いの原因となる患者における喘息の発生、脳卒中の既往歴、及び好中性顆粒球の血中濃度で調整された。
【図4】図4は、プロカルシトニン(PCT)のアミノ酸配列、配列番号1である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の診断方法は、インビトロ方法である。
【0008】
原発性非感染症疾患に罹患している前記対象は、細菌感染を患っておらず、特に重度な細菌感染を患っておらず、好ましくは、いずれの細菌感染の兆候も示していないことが望ましい。本発明による本明細書で記述する方法は、原発性非感染症疾患に罹患している対象の抗生物質により誘発された有害予後の予測を可能にする。それゆえ、本発明による本明細書に記述された方法は、同様に、原発性非感染症疾患を患っている対象について抗生物質によって誘発された有害予後を予測する方法である。
【0009】
極めて低いPCTレベルが、抗生物質が原発性非感染症疾患に罹患している対象に投与された時に、前記対象の有害予後を誘発する増大したリスクを示すことが初めて思い出された。
それゆえ、好ましい実施形態では、少なくとも12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の測定されたレベルが、特定の閾値を下回る場合には、前記対象が、抗生物質を投与されたときに、有害予後を有する増大したリスクを有すると予測される。それに対して、先行技術の方法によれば、少なくとも12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の特定の閾値以下では、抗生物質による処置は必要とされないであろうことは知られていたが、12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の測定されたレベルと、前記対象への抗生物質処置により誘発された有害予後の増大したリスクとの間に相関関係があることは知られていなかった。
【0010】
先行技術によれば、疑わしい細菌感染は、臨床的に関連のある細菌性疾患の証拠なしに、しばしば抗生物質で処置された。費用を節約し、副作用を避け、又は抗生物質耐性細菌の蔓延をさけるためには、臨床的に関連した細菌性疾患の証拠を有する場合のみ抗生物質を投与することが推奨された。12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の測定されたレベルと前記リスクを関連付けることにより、重度の副作用を有する、抗生物質により誘発された、又は有害予後を有する増大したリスクを予測することは、本発明の成果である。
【0011】
それゆえ、原発性非感染症疾患に罹患している対象の抗生物質による治療の前の、少なくとも12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片のレベルの測定は、抗生物質に誘発された有害予後を有する増大したリスクを有するそれらの対象を識別するために、全く避けられない手段である。
【0012】
前記予後は、好ましくは有害事象である。有害事象は、個人の健康を損なう事象と定義される。前記有害事象は、限定されないが、冠動脈イベント、心血管系イベント、死亡、心不全、糖尿病、高血圧を含む群から選択されてよい。冠動脈イベントは、心筋梗塞を含む致命的若しくは非致命的な急性冠症候群、又は虚血性心疾患による死亡と定義される。心血管系イベントは、心筋梗塞を含む致命的若しくは非致命的な急性冠症候群、致命的若しくは非致命的な脳卒中、又は心臓血管疾患による死亡と定義される。
【0013】
前記有害事象は、抗生物質処置により誘発された副作用によるかもしれず、特に抗生物質処置により誘発された重度の副作用にかもしれない。前記副作用は、胃もたれ、下痢、及び女性の膣内イースト菌感染症などを含んでよい。一部の対象は、抗生物質に対するアレルギーがあるかもしれない。
【0014】
前記予後又は前記リスクは例えば、生存及び/又は機能予後と考えられるかもしれない。本明細書では、用語「予後」は、例えば、定義された時間後、例えば3日、5日、10日、14日、20日、3週間、4週間、30日、45日、60日、90日、3月、6月、一年、好ましくは30日後の患者の生存に関する。
【0015】
本発明の関連において、用語「機能予後」は、疾患の重症度の程度すなわち、定義された時間後、例えば3日、5日、10日、14日、20日、3週間、4週間、30日、45日、60日、90日、3ヶ月、6ヶ月、一年、好ましくは30日後の患者の健康の状態に関する。
【0016】
有害予後は、例えば死亡となり得る。これは、本発明の方法を用いて、対象が、抗生物質の投与が、一定の期間内、例えば、抗生物質による処置の開始から例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、14、15、20、21、30、60、又は90日後以内の、致命的予後の増大したリスクを導くと同定され得ることを意味する。
【0017】
対象が患っている原発性非感染症疾患は、心臓血管疾患、心疾患、癌、中枢神経系(CNS)疾患、糖尿病、自己免疫疾患、及び炎症に関連した疾患の群から好ましくは選択される。
【0018】
具体的な例では、前記原発性疾患は、心不全でよい。好ましい実施形態では、対象は、心不全及び/又は息切れを罹患している。本明細書では、心不全は、好ましくは鬱血性心不全(CHF)に関する。心不全は、好ましくは、急性心不全(AHF)又は慢性心不全である。
【0019】
心不全は、心臓の構造又は機能に伴う問題が身体の要求に応じた十分な血流を供給する能力を損なったときに生じる心臓の疾患である。それは多種多様の症状、具体的には息切れ、及びくるぶし腫脹、を起こすが、一部の患者には全く症状がない。心不全は、広く認められた定義、及び確定診断におけるチャレンジがないため、特に初期段階において、しばしば診断されない。好適な治療法によって、心不全は、大多数の患者の中で扱うことができるが、それは潜在的に命にかかわる症状であり、進行性疾患は10%の年間死亡率に関連する。それは65歳以上の人における入院の主な原因である。息切れ(SoB;呼吸困難(dyspnea)又は呼吸困難(difficulty breathing)としても知られる)は、対象の呼吸の困難な感覚、又は不快感、又は十分な空気を得られない感覚に関連する。SoBは、例えば心臓麻痺、鬱血性心不全、及び肺高血圧などの心臓疾患に様々な原因をもつ。
【0020】
特に好ましい本発明の実施形態では、対象は、息切れを起こし、続いて心不全と診断される。
【0021】
本発明の関連において、サンプル中のPCT若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の200 pg/mL未満、好ましくは150 pg/mL未満、より好ましくは100 pg/mL未満、より好ましくは50 pg/mL未満の濃度は、抗生物質の潜在的投与により誘発された増大したリスクと相互に関連する。これらの値は、PCT試験形式(BRAHMS KRYPTOR PCT sensitive)を用いて測定され、それは、より高感度なPCTアッセイ(BRAHMS PCT LIA sensitive)と、定量的な測定範囲中に同じ較正を有し、後者は標準の正常集団中のPCTレベルを定量的に測定することが可能であり、EP 09011073.5 (「無症候性の集団における有害事象の予後のためのプロカルシトニン」)に記載されているように中央値PCTレベルが与えられる。これらはBRAHMS KRYPTOR PCT sensitiveとは異なって較正が行われる場合、上述の値は、他のPCTアッセイと異なるかもしれない。上述の値は、較正における違いを考慮に入れて、適宜そのように異なって較正されたPCTアッセイに適用されるとする。較正における違いを定量化することの一つの可能性は、双方の方法を用いたサンプル中のPCTを測定することにより、BRAHMS KRYPTOR PCT sensitiveに伴う課題となっているPCTアッセイの比較分析する(相関関係)方法である。他の可能性は、その試験が十分な分析的高感度を有している場合に、課題となっているPCTアッセイとともに測定することであり、代表的な標準的集団のPCTレベルの中間値は、EP 09011073.5 (「無症候性の集団における有害事象の予後のためのプロカルシトニン」)に記載された中央値PCTレベルの結果と比較し、この比較により得られる違いに基づく較正を再計算する。
【0022】
具体的な実施形態では、さらに少なくとも一つの臨床的パラメータは、以下:年齢、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、降圧治療、脳卒中の病歴、喘息、体格指数、心拍数、体温、糖尿病の病歴、及び最近の喫煙習慣、を含む群から選択され、より好ましくは、心拍数、体温、体格指数、収縮期血圧、及び拡張期血圧、からなる群から選択され、決定される。
【0023】
ある実施形態では、他の検査的パラメータは、さらに測定されるかもしれない。例えば、好中性顆粒球のレベル、又は他のさらなる予後マーカー、特に他のペプチドホルモン若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片である。
【0024】
本明細書で用いられる用語「サンプル」は、診断、予後診断、又は患者などの興味の対象の評価の目的のために得られた体液サンプルをいう。好ましくは、試験サンプルは、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、痰、胸水を含む。加えて、当業者は、試験サンプルによっては、分画又は精製手順、例えば、全血の血清又は血漿成分への分離、に続いてより容易に分析されると理解される。
【0025】
それゆえ、本発明の好ましい実施形態では、サンプルは、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、脳脊髄液サンプル、唾液サンプル、尿サンプル、又は任意の上述のサンプルの抽出物からなる群から選択される。好ましくは、サンプルは、血液サンプルであり、より好ましくは、血清サンプル又は血漿サンプルである。
【0026】
本明細書で用いられる「対象」は、ヒト(living human)又はヒトでない有機体、好ましくは、医療を受けている又は、原発性非感染症疾患のために医療を受けるべき患者をいう。これは、病理の兆候の調査を受けている、定義された疾患を伴わない人も含む。それゆえ、本明細書で記述される本方法及びアッセイは、ヒト及び動物の疾患の双方に適用できる。
【0027】
PCT又はその前駆体の「断片」は、少なくとも12のアミノ酸残基長の断片に関する。本発明に関連おけるPCTは、好ましくは1〜116、2〜116又は3〜116のアミノ酸残基にまたがるペプチド又はその断片に関連する。プロカルシトニンは、例えばグリコシル化、リポキシ化(liposidation)、又は誘導体化などの翻訳後修飾を含む。PCTそれ自体は、カルシトニン又はカタカルシンの前駆体である。PCTのアミノ酸配列は配列1に与えられる(図4)
【0028】
本発明に関連する用語「レベル」は、対象から得られるサンプル中のPCT(又は断片/前駆体)の濃度(好ましくは重量/容量;w/vとして表現される)に関する。
【0029】
PCT若しくは断片、又は前駆体若しくはその断片のレベルの決定(又は測定又は検出)は、本明細書では、下記に説明する検出方法及び/又は診断的アッセイを用いて行われる。
【0030】
本明細書で述べたとおり、「アッセイ」、又は「診断的アッセイ」は、診断の分野で適用される任意の種類でよい。そのようなアッセイは、特定の親和性を有する、一つ又はそれ以上の捕捉プローブ(捕捉分子)への検出されるべき検体の結合に基づく。捕捉分子と標的分子、又は対象の分子との相互作用に関しては、親和定数は、好ましくは108M-1超である。
【0031】
本明細書に関連して、「捕捉分子」は、標的分子、または対象の分子、すなわち、サンプルからの検体(すなわち、本発明に関連して心臓血管のペプチド(複数))に結合するために用いられる分子である。従って、捕捉分子は、標的分子又は対象の分子に特異的に結合するために、空間的に、及び表面電荷、疎水性、親水性、ルイスドナーの存在又は非存在、及び/又は受容体などの表面特徴の点から、適切に形づくられなければならない。これによって、結合は、例えば、イオンの、ファンデルワールス、π-π、σ-π、疎水性の又は水素結合相互作用又は捕捉分子及び標的分子又は対象の分子の間の前述の相互作用の二つ又はそれ以上の組み合わせにより介在されてよい。本発明に関連して、捕捉分子は、例えば、核酸分子、炭水化物分子、RNA分子、タンパク質、抗体、ペプチド又は糖タンパク質を含む群から選択される。好ましくは、捕捉分子は抗体であり、標的分子又は対象の分子に十分に親和性を有するその断片を含み、組み換え抗体、又は組み換え抗体断片、及び少なくともその12のアミノ酸残基長を有する可変鎖由来の前記抗体又は断片の化学的に及び/又は生物学的に修飾された誘導体を含む。
【0032】
好ましい検出方法は、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光‐及び蛍光イムノアッセイ、酵素免疫測定法(ELISA)、ルミネックス(Luminex)に基づいたビーズアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、及び例えばイムノクロマトグラフィー試験紙などの迅速試験形式などの様々な形式のイムノアッセイを含む。
【0033】
上記分析は、均質的な又は不均質な測定、競合的及び非競合的なサンドイッチアッセイでよい。とくに好ましい実施形態では、分析は、サンドイッチアッセイの形式であり、それは非競合的なイムノアッセイであって、検出される及び/又は定量されるべきPCT又はその断片は、第一抗体及び第二抗体に結合される。第一抗体は固相、例えばビーズ、ウェル又は他の容器の表面、チップ又はストリップに結合され、第二抗体は、例えば色素、放射性同位体、又は反応性若しくは触媒活性部分で標識された抗体である。次いで、検体と結合した標識された抗体の量は、好適な方法により測定される。サンドイッチイムノアッセイに関連した一般的な組成物及び手順は、当業者にとって確立され、知られている(The Immunoassay Handbook、David Wild著、Elsevier LTD、Oxford;第3版 (May 2005)、ISBN- 13:978-0080445267; Hultschig Cらによる、Curr Opin Chem Biol. 2006 Feb;10(l):4-10. PMID:16376134)、参考のため本明細書に引用する)。
【0034】
特に好ましい実施形態では、アッセイは、二つの捕捉分子、好ましくは液体反応混合物中に双方ともに分散物として存在する抗体を含み、ここで第一の標識成分が第一抗体に結合され、前記第一の標識成分が、蛍光−又は化学発光−消光又は増幅に基づく標識系の一部であり、前記標識系の第二の標識成分が第二抗体と結合し、検体に双方の抗体が結合すると、それによってサンプルを含む溶液中の形成されたサンドイッチ複合体の検出を可能にする測定可能な信号が生成される。
【0035】
さらに好ましくは、前記標識系は蛍光色素又は化学発光色素、特にシアニン型色素と組み合わせた希土類クリプテート又は希土類キレートを含む。
【0036】
本発明との関連において、蛍光型分析は色素の使用を含み、それは例えば、FAM(5-又は6-カルボキシフルオレセイン)、VIC、NED、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、IRD- 700/800、CY3、CY5、CY3.5、CY5.5、Cy7などのシアニン色素、キサンテン、6-カルボキシ-2’,4’,7’,4,7-ヘキサクロロフクロレセイン(HEX)、TET、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン(dimethodyfluorescein)(JOE)、N、N、N’、N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン、ローダミングリーン、ローダミンレッド、ローダミン110、BODIPY TMR5などのBODIPY色素、オレゴングリーン、ウンベリフェロンなどのクマリン、Hoechst 33258などのベンズイミド、テキサスレッドなどのフェナントリジン、ヤキマイエロー、アレクサフルオル、PET、エチジウムブロマイド、アクリジニウム色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素などを含む群から選択される。
【0037】
本発明の関連において、化学発光に基づく分析は色素の使用を含み、参考のため本明細書に引用される、Kirk-Othmer, Encyclopedia of chemical technology, 第4版, 編集責任者J. I. Kroschwitz; 編集者M. Howe-Grant, John Wiely & Sons, 1993, vol.15, p518-562、そして551-562頁における化学発光材料について記載された物理的原理に基づく。好ましい化学発光色素は、アクリジニウムエステルである。
【0038】
本発明はまた、原発性非感染症疾患に罹患している対象を、抗生物質の投与によって誘発された有害予後の増大したリスクを有する対象の群、及び抗生物質の投与によって誘発されたリスクを有していない対象の群への層別化のための、本発明による方法の使用に関する。
【0039】
さらに、本発明は、原発性非感染症疾患に罹患している対象を、抗生物質の投与によって誘発された有害予後の増大したリスクを有する対象の群、及び抗生物質の投与によって誘発されたリスクを有していない対象の群への層別化のための、PCT若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片に対する一つ又はそれ以上の抗体を含むキットの使用に関する。
【0040】
【表1】

【実施例1】
【0041】
実施例
実施例1:臨床試験:15登録センター―息切れ(SoB)、及び急性心不全(AHF)の1641人の患者を募集した。
【0042】
当該研究は、8の施設の施設内審査委員会に認可された。8のアメリカ合衆国の、6のヨーロッパの、及び1のニュージーランドのセンターを含む、15のセンターから1641人の患者は、2007年3月から2008年2月に登録された。適格であるために、患者は、救急科へ来院の際に彼らの原発性症状として、息切れを報告しなければならなかった。18歳以下又は同意の提供が得られなかった患者は除かれた。急性ST上昇型の心筋梗塞又は血液透析を受けている患者は、また除かれた。抗生物質は、治療医師の判断で一部の患者に与えられた。本研究に登録されたそれぞれの患者のために、救急医は、調査マーカーの結果に盲目にさせ、患者が急性HF又は肺炎である可能性を、二つの分かれたリッカート尺度の質問を介して評価し、0〜100%臨床的確実性の値を割り当てた。
【0043】
研究項目の概要:
-外傷、又は明らかな心筋梗塞(MI) によるものでない、及び透析を受けていない、SoBを伴って救急科(ED)に来院した患者を含んだ。
-同意後、心不全及び/又は肺炎の可能性のMD評価。
-二人の別個の心臓専門医が退院後の最終診断に同意した。
-生存の90日後の追跡;予後「全ては90日以内に死を引き起こす」
【0044】
表1及び図1は、本試験の患者の詳細を要約する。
【0045】
診断の確認
究極の判断基準を決めるために、二人の心臓専門医は、患者に関連する全ての医療記録を独立に見直し、心不全、肺炎の原因による、又は他の根底にある原因による呼吸困難としての診断を独立して分類した。双方の心臓専門医は、お互いの評価、調査マーカー、及び救急医の予備診断について盲目にさせられた。彼らは、胸部X線、放射性核種血管造影、心エコー検査、及び可能であれば心臓カテーテル、及び認められた患者の入院中の経過のデータを付け加えた病歴含むED症例報告書を入手した。心臓学の考察者の間で診断的不一致の場合には、彼らは共通の結論に至るよう求められる。彼らが共通の結論を出すことが不可能な場合には、最終的な診断を決定する最終委員会により、3人目の心臓学の審査員が割り当てられる。肺炎の診断をするためには、Fineらによって1990年、及びLeroyらによって1995年に修正された基準は、満たされなければならない(LeroyらによるIntensive Care Med (1995) 21:24-31;Fineらによる Am J Med 1990;89:713-721)。
【0046】
バイオマーカーの測定
全ての血液サンプルは、EDTAを含むプラスチックチューブに回収され、血漿は−70℃で、プラスチック凍結バイアル中で保管された。PCTはKRYPTOR System (B.R.A.H.M.S AG, Hennigsdorf, Germany)上で、自動的にサンドイッチ化学発光イムノアッセイで測定された。アッセイは、詳細は他のところに記述されているサンドイッチ化学発光アッセイに基づく(MorgenthalerらによるClin Chem 2002;48:788-790)。
【0047】
統計的分析
値は、平均及び標準偏差、又は総数及び好適な百分率で示される。診断群は、必要に応じて、独立したt-検定及びカイニ乗検定で比較された。二つの主な目的は、それぞれの有意な基準として0.0125のp値を用いて評価された。全ての他の分析は、予備的であり、有意性として0.05のp値を用いられた。第二の分析は、ロジスティック回帰、スピアマンの相関、ROC曲線分析を用いた。予後予測は、コックス比例ハザード回帰モデルを用いて評価された。それぞれのモデルの予測値は、尤度比カイニ乗統計量モデルにより評価される。カプラン・マイヤー法により描かれた生存曲線は、説明の目的のために用いられ、対数順位検定は、生存率の差異の検定に適用された。
【0048】
結果
生存率の観点からの90日間の予後は、急性心不全(AHF)と診断された息切れを罹患している患者が評価された。AHFと診断された457人の患者は、調査開始後抗生物質の処置を受けず、104人は抗生物質を受けた。研究中において、入院から90日後、46人の抗生物質の処置を受けなかった患者は死亡した(10.1%)。抗生物質の処置を受けた患者のうち、18人の患者は90日までに死亡した(17.3%)。
【0049】
AHFと診断された患者の予後(生存率)は、図2A〜Dに示される。抗生物質処置を受けなかった患者の群は、実線で示され、抗生物質処置を受けた患者の群は破線で示される。図2Aは、それらの血漿PCTレベルに関係のない患者の予後を示し、図2Bは、血漿PCTレベル0.0207〜0.0511 pg/mL (n=112)を有する患者をまとめ、図2Cは、血漿PCTレベル0.0511〜0.205 pg/mL (n=336)を有する患者をまとめ、図2Dは、血漿PCTレベル0.205 pg/mL超(n=113)を有する患者をまとめる。本結果は、低いPCTレベルすなわち0.205 pg/mL未満、及び特に0.0511 pg/mLを有する患者について、生存率は、非処置の群よりも抗生物質で処置をした群において、低いことを示す。
【0050】
図3A〜Dは、抗生物質処置と非処置の患者群の間の相違を説明するために、結果が、患者において共変の「喘息の発症」、「脳卒中の既往歴」、及び「好中性顆粒球(granulozytes)の血中レベル」で調整されることを除いて、図2A〜Dにそれぞれ相当する。図3の結果は、血漿PCTレベルが0.0511 pg/mL未満である患者において、死亡率は、抗生物質の処置を受けていない患者においてよりも、抗生物質処置を受けた患者の群においての方が高いことを示す。
【0051】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象への抗生物質の投与により潜在的に誘発された有害予後の増大したリスクを有する原発性非感染症疾患に罹患している対象の識別のための診断方法であって、以下のステップ:
(i) 原発性非感染症疾患に罹患している前記対象から体液のサンプルを提供し、
(ii) 少なくとも12のアミノ酸残基長を有するプロカルシトニン(PCT)若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の前記サンプルのレベルを測定し、
(iii) 抗生物質の投与により誘発された潜在的なリスクに前記の測定されたレベルを関連付けること、
を含む、診断方法。
【請求項2】
前記結果が有害事象である、請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記結果が死亡である、請求項1又は2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記対象が、循環器疾患、心疾患、癌、CNS疾患、糖尿病、自己免疫疾患、及び炎症関連疾患からなる群から選択される原発性非感染症疾患を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項5】
前記原発性疾患が、鬱血性心不全である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項6】
前記原発性疾患が、急性心不全である、請求項5に記載の診断方法。
【請求項7】
前記原発性疾患が、慢性心不全である、請求項5に記載の診断方法。
【請求項8】
前記サンプル中の200 pg/mL未満のPCT若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の濃度が、抗生物質の潜在的投与により誘発された増大したリスクと相関する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項9】
前記サンプル中の50 pg/mL未満のPCT若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片の濃度が、抗生物質の潜在的投与により誘発された増大したリスクと相関する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の診断方法。
【請求項10】
原発性非感染症疾患に罹患している対象の、抗生物質の投与により誘発された有害予後の増大したリスクを有する対象の群、及び抗生物質の投与により誘発されたリスクを有しない対象の群への層別化のための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項11】
原発性非感染症疾患に罹患している対象の、抗生物質の投与により誘発された有害予後の増大したリスクを有する対象の群、及び抗生物質の投与により誘発されたリスクのない対象の群への層別化のための、PCT若しくはその断片、又は前駆体若しくはその断片に対する一つ又はそれ以上の抗体を含むキットの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−523573(P2012−523573A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505086(P2012−505086)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002279
【国際公開番号】WO2010/118855
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(508093584)ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (27)