説明

プロジェクタ

【課題】天吊据付用の取付金具を取り付ける取付ねじ締結部の強度及び安全性を向上させたプロジェクタを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るプロジェクタは、筐体の底壁31に設けられた複数の、貫通状のねじ穴を有するインサートナット35に対し、天吊設置用の取付部材40が取り付けられる。外側では天吊設置用の取付部材40を取り付ける取付ねじ55が締結され、内側では内部機器に形成された板部を結合する固定ねじ74が締結される。これにより、取付ねじ55締結部の強度向上が図られている。また、インサートナット35は、円筒状ねじ部35aの長さ方向中間に底壁31のボス部34に当接する鍔部35bを有し、この強度を弱くしている。これにより設定ミスにより高トルクで取付ねじ55が締結された場合に、鍔部35bの基部35cが破断され、インサートナット35の円筒状ねじ部35aの破断が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像を投写レンズを通して投写画面に拡大投写するプロジェクタに関し、特に、プロジェクタにおける天吊設置用の取付部材を取り付けるための取付ねじ部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクタは、プロジェクタを机上などの載置面に載置して使用する据置設置や、プロジェクタを天井に吊り下げるように設置する天吊設置などで使用される。
また、このプロジェクタにおける外装ケースを形成する筐体外表面の呼称は、通常、この据置設置の場合における下面が底面、上面が天面とされ、さらに、投写レンズが配置されている面が正面又は前面とされている。そこで、本明細書におけるこれら面の呼称も従前に従うものとする。また、この明細書においては、左右方向及び前後方向は据置設置の場合において正面から見た方向をいうものとする。
【0003】
また、このようなプロジェクタが天吊設置される場合は、筐体の天面を下側、底面を上側にし、筐体の底面に取付部材が取り付けられ、この取付部材を介してプロジェクタが天井から吊り下げられて使用されている。本発明は、この取付部材を筐体の底面に取り付ける取付ねじ部の構造に係るものである。
【0004】
そこで、このような取付ねじ部の構造に関する従来例を図9に示す。この例は、特許文献1に記載されているものである。
プロジェクタを天吊設置するための取付部材101は、図9(a)の分解斜視図に示されているように、プロジェクタの筐体102の底面103上に取り付けられる。具体的には、天吊設置用の取付部材101は、図9(b)に示されるように、取付ねじ104が、取付部材101に形成された孔105を介して、筐体102の底面103を形成する底壁106に形成されたねじ孔107に直接締結されている。特許文献1においては、このようにして天吊設置用の取付部材101が筐体102の底面103上に取り付けられている。
【0005】
次に、特許文献2に記載されている他の従来例を図10に示す。
この例においても、先の従来例と同様に、天吊設置用の取付部材201がプロジェクタの筐体202の底面203上に取り付けられる。具体的には、天吊設置用の取付部材201は、図10に示されるように、取付部材201に形成された貫通孔205を介して、取付ねじ204が筐体202の底面203を形成する底壁206に設けられたナット207に締結されている。また、ナット207は、底壁206に形成された円筒部208の内部に、軸方向に対し抜け止め状態となるような形態でインサートされている。さらに、この円筒部208の内側からキャップ209が被せられている。なお、キャップ209は、底壁206の内面側に形成された係止突起210により固定されている。特許文献2においては、このようにして天吊設置用の取付部材201が筐体202の底面203上に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−197389号公報
【特許文献2】特開2000−122180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1のものは、取付部材101を取り付けるための取付ねじ104が、筐体の底壁106に直接ねじ切りしたねじ孔107に直接締結されているため、ねじ孔107の強度が弱く、取付ねじ104が底壁106から外れ易いという問題がある。また、特許文献2のものは、底壁206にインサートされたナット207に取付ねじ204が締結されるため、ねじ部の強度は十分なものとすることができる。しかし、プロジェクタの重量或いはこのプロジェクタに加えられた力が、ナット207と底壁206との密着結合部に大きく作用するため、長期使用の場合にはこの密着結合部における底壁206の磨耗や部分損壊が進み、ナット207の取付強度が劣化するという問題があった。また、電動ドライバーの設定ミスにより密着結合部の取付強度を超える高トルクが作用した場合の対策については触れられていない。
【0008】
本発明は、従来技術におけるこのような問題点に鑑み成されたものであって、天吊据付用の取付金具を取り付ける取付ねじの取付部の強度及び安全性を向上させたプロジェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明に係るプロジェクタは、天吊設置用の取付部材を固定する取付ねじが筐体の底壁の外側から締結される、複数のインサートナットが前記底壁に埋め込まれたプロジェクタにおいて、前記底壁は、インサートナットを埋め込むための複数の円筒部を有し、前記インサートナットは、内部に雌ねじが貫通状に形成された円筒状ねじ部の軸方向中間部の外周に鍔部が一体的に形成されるとともに、鍔部が前記円筒部の端部に当接するように前記円筒状ねじ部における筐体外部側が前記円筒部に埋め込まれて固定され、さらに、前記鍔部の基部の強度が、前記円筒状ねじ部の強度より小さくなるように設定され、また、前記複数のインサートナットの内の少なくとも一部において、筐体内部側の端部には、固定ねじにより前記底壁に固定される内部機器に形成された板部が結合されていることを特徴とする。ここで、「鍔部の基部」とは、鍔部と円筒状ねじ部との接合部をいう。
【0010】
このように構成された本発明によれば、貫通状にねじ孔が形成されたインサートナットに対し、筐体内部側の端部には、固定ねじにより底壁に固定される内部機器に形成された板部が結合され、筐体外部側の端部には、取付ねじにより筐体の外部に天吊設置用の取付部材が取り付けられる。これにより、取付ねじの取付部においては、天吊設置用の取付部材、内部機器、インサートナット及び底壁が一体的に固定されるので、プロジェクタの重量やプロジェクタに加えられた力がインサートナットと底壁との密着結合部に大きく作用することがない。
【0011】
また、取付ねじの締結を行う際に、仮に電動ドライバーの設定ミスにより高トルクで締結された場合には、鍔部が筐体の円筒部に当接して固定されているため、インサートナットが円筒部で空転するとともに、インサートナットの円筒状ねじ部及び鍔部の基部に大きな力が作用する。しかしながら、鍔部の基部の強度が、インサートナットの円筒状ねじ部の強度よりも小さくなるように設定されているので、円筒状ねじ部に大きな力が作用する前に鍔部の基部が破断され、インサートナットの円筒状ねじ部の破断が防止される。また、鍔部の破断に伴い、天吊設置用の取付部材、内部機器、インサートナット及び底壁の一体性が損なわれて、プロジェクタの底壁が取付部材から離間するため、作業者は異常が発生したことを認識することができ、この事態に対処することができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のプロジェクタにおいて、前記インサートナットは、円筒状ねじ部における鍔部から筐体外部側の端部までの寸法が、円筒状ねじ部における鍔部から筐体内部側の端部までの寸法より大きく形成されていることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、インサートナットの円筒状ねじ部のうち円筒部に埋め込まれる部分を大きく採ることができ、インサートナットの固定強度を大きくすることができる。なお、インサートナットの円筒状ねじ部における鍔部から筐体内部側の端部までの寸法は、インサートナットの筐体外部から天吊設置用の取付部材を取り付ける取付ねじが過剰なトルクで締結されたときに、鍔部の基部に応力集中させることを許容するとともに、鍔部の基部が破断されたときに天吊設置用の取付部材、内部機器、インサートナット及び底壁の一体性が損なわれて、底壁が取付部材の取付辺部から認識できる程度に離間することを誘発する程度の大きさであればよい。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のプロジェクタにおいて、前記インサートナットの筐体内部側の端部に結合される前記板部は、底壁内面に対面して取り付けられている電磁波用のシールド板であるシールドボトムから切り起こされた折曲部であることを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、シールドボトムは筐体の底壁には通常大きな面積にシールドボトムが取り付けられているので、適宜の取付場所に容易に折曲部を形成することができる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載のプロジェクタにおいて、前記インサートナットの筐体内部側の端部に結合される前記板部には、底壁内面に対面して取り付けられているシールド機能を有するシールドボトムから切り起こされた折曲部と、筐体内部に取り付けられる他の内部機器に形成された板部とが含まれることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、前記板部として、筐体内部に取り付けられる他の内部機器に形成された板部が含まれているので、この他の内部機器を取り付けるための専用の取付ねじ及びねじ孔を省略することが可能となり、コスト軽減に寄与することができる。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロジェクタにおいて、前記インサートナットの筐体内部側の端部に結合される前記板部は、複数のインサートナットにおいて、底壁内面に対面して取り付けられるシールド機能を有するシールドボトムから切り起こされた折曲部が含まれることを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、インサートナットの筐体内部側の端部に結合される板部として、複数のインサートナットにおいてシールドボトムから切り起こされた折曲部が含まれるので、天吊設置用の取付部材、内部機器であるシールドボトム、複数のインサートナット及び底壁が一体的に固定される。これにより、複数のインサートナットを利用したプロジェクタの吊り下げ強度が向上する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプロジェクタによれば、天吊設置用の取付部材の取付ねじの取付部においては、天吊設置用の取付部材、内部機器、インサートナット及び底壁が一体的に固定されるので、プロジェクタの重量やプロジェクタに加えられた力がインサートナットと底壁との密着結合部に大きく作用することがない。また、取付ねじを締結する際に、電動ドライバーの設定ミスにより高トルクで締結された場合、鍔部の基部が破断されることにより、インサートナットの円筒状ねじ部の破断が防止される。また、鍔部の破断に伴い、天吊設置用の取付部材、内部機器、インサートナット及び底壁の一体性が損なわれて、プロジェクタが取付部材から離間するため、作業者は異常が発生したことを認識することができ、この事態に対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る3板式液晶プロジェクタの外観斜視図である。
【図2】同プロジェクタの底面を上側にしてその底面に天吊設置用の取付部材を取り付けた状態の外観斜視図である。
【図3】同プロジェクタの天吊設置状態図である。
【図4】同プロジェクタにおける天吊設置用の取付部材の取付ねじ部の構造図である。
【図5】同プロジェクタにおける天吊設置用の取付部材の、他の取付ねじ部の構造図である。
【図6】同プロジェクタにおいて、アッパーケース、光学系部品等を取り外した状態の内部斜視図である。
【図7】図4の取付部において、電動ドライバーの設定ミスにより高トルクで締結された場合の状態図である。
【図8】図5の取付部において、電動ドライバーの設定ミスにより高トルクで締結された場合の状態図である。
【図9】従来例に係るプロジェクタにおける天吊設置用の取付部材の取付状態を説明する図面であって、(a)は同取付部材の取付説明図であり、(b)は同取付部材の取付ねじ部の構造図である。
【図10】他の従来例に係るプロジェクタにおける天吊設置用の取付部材の取付ねじ部の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した実施の形態に係る3板式液晶プロジェクタについて、図面を参照して詳細に説明する。
本実施の形態に係るプロジェクタは、光源ランプから出射された光束が赤、緑、青の3原色に分離され、分離された各色光束が、液晶ライトバルブを通して画像情報に対応して変調される。また、変調された後の各色の変調光束は、ダイクロイックプリズムにより合成され、投写レンズを介して拡大表示されるものである。そして、このような機能を備えたプロジェクタは、略直方体形状の、外装ケースを構成する筐体の内部に光源ランプ、画像表示ユニット、電源部、駆動回路等が収納されている。
【0023】
また、このようなプロジェクタは、据置設置の場合、図1の外傾斜視図に示すように筐体1の天面2が上側にされ、底面3が下側にされている。そして、投写レンズ13が配置されている正面4がスクリーンの方向に向くように設置される。なお、据置設置の場合のプロジェクタの設置位置の高さは、スクリーンの中央部の高さより低く設置されている。
【0024】
筐体1は、上下に分割された樹脂成形品であって、液晶プロジェクタの上方部を覆うアッパーケース10と、下方部を覆うボトムケース30とから構成されている。また、アッパーケース10は、天面2、正面4及び左右側面5、6の前部とからなる前アッパーケース11と、後面7と、天面2、左右側面5、6の後部とからなる後アッパーケース12とに分割されている。これら前アッパーケース11及び後アッパーケース12はボトムケース30に固定されている構造部材(不図示)に対しねじ止めされて固定されている。ボトムケース30は、底面3を構成する底壁31と、この底壁31の周辺にアッパーケース10との接合部を形成する小寸法の高さからなる立上部32(図6参照)とから構成されている。
【0025】
筐体1の正面4には、投写レンズ13が前方に臨むように取り付けられている。また、天面2には光源ランプを交換するための扉14が形成されるとともに、プロジェクタの画質、ピント等を調節するための操作スイッチ類15が設けられている。後面にはスピーカが内蔵された音声発生部17や、画像入力用の機器接続用配線コネクタ等が配置された接続端子部18や、電源端子部19などが配置されている。左側面5には吸気口21が形成されている。
【0026】
そして、このような外観を有するプロジェクタを天吊設置する場合は、図2の外観斜視図に示すように、ボトムケース30の底面3を上側にし、この底面3の上に天吊設置用の取付部材40が取り付けられる。なお、底面3の前部には、図2に示されるように、据付設置の場合に利用されるレベル調整可能な脚部33が取り付けられたままとされている。
【0027】
取付部材40は、図2及び図3に示すように、底面3から天井側に向かって一段高くなるように形成された平面視四角形の平坦部41と、この平坦部41の周囲に形成された鉛直方向の立上げ壁42と、この立上げ壁42に連続して形成されている側方及び後方の取付辺部43、44とが設けられている。また、平坦部41の中央左側面よりには、下方に折り曲げされて形成された中央取付辺部45が設けられている。さらに、平坦部41の中央部には、一対の立上り壁46が設けられ、この立上り壁46の上端には水平部47が形成されている。
【0028】
この水平部47は、図3に示すように、天井60に取り付けられている天吊部材61のスライド面部62に対し、前後方向からスライド式に係合されるように構成されている。天井60に取り付けられる天吊部材61は、樹脂一体成形された部材であって天井60に対し、締結ねじ63により固定される取付辺部64と、高さ方向中央部が括れた形を成す支柱部65とからなり、この支柱部65の括れ部66に前記スライド面部62が形成されている。
【0029】
天吊設置用の取付部材40の底面3への取付は、図2に示すように、4本の取付ねじ55により行われている。取付ねじ55は、側方の取付辺部43に2箇所、後方の取付辺部44に1箇所、中央の中央取付辺部45に1箇所それぞれ設けられている。これを右側面6側から左側面5に向かって第一締結部51、第二締結部52、第三締結部53、第四締結部54と称する。
【0030】
ここで、これら四つの締結部のうち本発明の特徴を最も良く備えた第一締結部51の詳細構造を図4に基づき説明する。
第一締結部51の詳細構造は、図4に示すように、底面3を構成する底壁31に円筒部34が形成され、その内部にインサートナット35が部分的に埋め込まれている。インサートナット35は、内部に雌ねじが貫通状に形成された円筒状ねじ部35aの軸方向中間部の外周に鍔部35bが一体的に形成されている。そして、鍔部35bが円筒部34の端部に当接するように、円筒状ねじ部35aにおける筐体外部側が円筒部34に埋め込まれ、これによりインサートナット35が固定されている。
【0031】
また、インサートナット35は、円筒状ねじ部35aにおける鍔部35bから筐体外部側の端部までの寸法L1が、円筒状ねじ部35aにおける鍔部35bから筐体内部側の端部までの寸法L2より大きくなるように形成されている。さらに、鍔部35bの基部35cにおける軸方向の引張強度が、円筒状ねじ部35aの軸方向の引張強度よりも小さくなるように、鍔部35bの厚さが薄く設定されている。
【0032】
このような構造の第一締結部51に対し、底壁31の外側からは取付部材40の取付辺部43が底面3に当接され、この取付辺部43に設けられた締結用孔43aを介して取付ねじ55がインサートナット35に対して締結されている。なお、取付ねじ55と取付辺部43との間には座金55aが取り付けられている。また、インサートナット35の筐体内部側端部には、底壁31に固定される内部機器に形成された板部を結合するように固定ねじ74が螺合されている。
【0033】
この第一締結部51における内部機器は、電磁波用のシールド板であるシールドボトム71であり、内部機器に形成された板部は、シールドボトム71から切り起こされた折曲部71aである。このシールドボトム71は、図6に示すように、底壁31の大部分に面して取り付けられている。
【0034】
さらに、このシールドボトム71の下側(内部側)には、内部機器に形成された板部として図4及び図6に示すように、電源部72用のシールド板であるシールドパワー73の取付板部73aが当接されている。そして、シールドボトム71の折曲部71a及びシールドパワー73の取付板部73aが固定ねじ74によりインサートナット35の筐体内部側の端部に対し共締めされて結合されている。なお、電源部72は、図6に示されるように、筐体1内部の右側面6よりかつ正面4よりに配置されており、その周囲にシールドパワー73が被せられている。
【0035】
また、第二締結部52は、第一締結部51と略同一の構造であり、第一締結部51におけるシールドパワー73の取付板部73aに代わり、光源ランプ部75の右方位置に設けられた電磁波用のシールド板であるシールドランプ76の取付板部76aが固定ねじ74により共締めされて結合されたものである。なお、光源ランプ部75は、図6から分かるように、筐体1の内部において電源部72の後方に設けられている。
【0036】
また、第三締結部53は、図6に示されるように、後面中央部付近に設けられたもので、底壁31の外側から取付部材40の取付辺部44が底面3に当接され、この取付辺部44に設けられた締結用孔44aを介して取付ねじ55がインサートナット35に対して締結されている。また、この第三締結部53においては、図5及び図6に示されるように、内部機器に形成された板部としてはシールドボトム71の折曲部71aのみが、インサートナット35の筐体内部側端部に当接され、固定ねじ74によりインサートナット35の筐体内部側端部に結合されている。なお、この第三締結部53においては、他の内部機器に形成された板部は結合されていない。
【0037】
また、第四締結部54は、図6に示されるように、正面中央のやや左よりの底壁31に設けられた吸気口36の後方に設けられたものである。第四締結部54は、特に詳細図面は図示はしないが、インサートナット35の筐体内部側端部には内部機器に形成された板部は何も結合されていない。この点において、第四締結部54は前述の特許文献2に記載のものと同一である。
【0038】
本実施の形態においては、上記のように天吊設置用の取付部材40は、筐体1の底面に対し第一締結部51〜第四締結部54の4箇所の締結部において取付ねじ55により固定されている。また、このうちの第一締結部51〜第三締結部53の3箇所の締結部においては、インサートナット35の筐体内部側の端部に対し固定ねじ74により内部機器の一つであるシールドボトム71から切り起こされた折曲部71aが取り付けられて結合されている。また、これら3箇所の締結部のうちの第一締結部51においては、シールドボトム71の折曲部71aの内部側にシールドパワー73の取付板部73aが固定ねじ74により共締めされている。また、第二締結部52においては、シールドボトム71の折曲部71aの内部側にシールドランプ76の取付板部76aが固定ねじ74により共締めされている。
【0039】
次に、以上のように構成された実施の形態に係るプロジェクタについて、その作用を説明する。
このような第一締結部51〜第三締結部53における内部機器に形成された板部材との結合は、筐体1内に内部機器が組み込まれる際に行われる。したがって、前述の取付部材40が取り付けられることにより、これら締結部の取付ねじ55の取付部においては、天吊設置用の取付部材40、シールドボトム71、シールドランプ76等の内部機器、インサートナット35及び底壁31が一体的に固定される。この結果、プロジェクタの重量や、取付部材40に加えられる外部からの力がインサートナット35と底壁31との密着結合部に大きく作用することがなくなり、インサートナット35周辺の底壁31の磨耗や部分損壊が抑制され、これにより取付ねじ55の取付部の強度が向上する。
【0040】
また、電動ドライバーの設定ミスにより高トルク設定で取付ねじ55が締結される場合には、鍔部35bが筐体1の円筒部34に当接して固定されているため、インサートナット35が円筒部34内で空転し始める。そして、取付ねじ55が締付されるに従いインサートナット35の円筒状ねじ部35a及び鍔部35bの基部35cに大きな引張力が作用する。ところが、鍔部35bが薄く形成され、その基部35cの引張強度が、インサートナット35の円筒状ねじ部35aの引張強度よりも小さくなるように形成されているので、円筒状ねじ部35aに大きな力が作用する前に、鍔部35bの基部35cが破断される。また、このときの引張力は、円筒部34に埋め込まれたインサートナット35の固定力を上回るため、インサートナット35が円筒部34内で空転する。
【0041】
これにより、第一締結部51では、図7に示すように、鍔部35bが破断して離散する。また、取付ねじ55の締め付け力によりインサートナット35が回転して固定ねじ74がさらに締め付けられるとともに、折曲部71a及び取付板部73aにおける固定ねじの貫通孔が変形拡大される。そして、シールドボトム71の折曲部71a及びシールドパワー73の取付板部73aが変形し、鍔部35bの破断に伴い天吊設置用の取付部材40、内部機器であるシールドボトム71、インサートナット35及び底壁31の一体性が損なわれ、底壁31が取付部材40の取付辺部43から離れる。図7におけるC1は、この離間寸法を示す。作業者は、この離間寸法C1を認識することにより容易に異常であると判断することができ、直ちに締結作業を停止することができる。この結果、インサートナット35の破断が防止され、インサートナット35の筐体内部側の端部とシールドボトム71やシールドパワー73との結合が維持される。これによりプロジェクタの落下が防止される。
【0042】
したがって、インサートナット35の円筒状ねじ部35aにおける鍔部35bから筐体内部側の端部までの寸法L2は、インサートナット35の筐体外部から天吊設置用の取付部材40を取り付ける取付ねじ55が過剰なトルクで締結されたときに、鍔部35bの基部35cに応力集中させることを許容する機能を有する。また、この円筒状ねじ部35aにおける鍔部35bから筐体内部側の端部までの寸法L2は、鍔部35bの基部35cが破断されたときに天吊設置用の取付部材40、内部機器、インサートナット35及び底壁31の一体性が損なわれて、底壁31が取付部材40の取付辺部43から認識できる程度に離間させることを許容する程度の大きさであればよい。
【0043】
また、第二締結部52において、電動ドライバーの設定ミスにより高トルクで締結された場合は、第一締結部51の場合と比較して、内部機器に形成された板部がシールドボトム71の折曲部71aとシールドランプ76の取付板部76aである点で相違する。しかしながら、二つの板部を共締めする点において両者同一であるため、電動ドライバーの設定ミスにより高トルクで締結された場合も、図7に示すものと基本的に同様になる。
【0044】
また、第三締結部53において、電動ドライバーの設定ミスにより高トルクで締結された場合は、内部機器に形成された板部がシールドボトム71の折曲部71aのみとなる点で第一締結部51の場合と相違する。この場合は、図8に示すように、インサートナット35に筐体内部側端部に固定される板部が1個であるため、第一締結部51や第二締結部52の場合に比較して、シールドボトム71の折曲部71aの変形量が大きくなりまた、固定ねじ74もさらに締め付けられ、底壁31と取付部材40の取付辺部44との離間寸法C2が大きくなりやすい。
【0045】
また、この実施の形態においては、第一締結部51〜第三締結部53において、内部機器に形成された板部と結合されているので、1箇所の取付部に支障が生じても他の取付部における内部機器との結合によりプロジェクタ落下が防止される。特に、底壁31の内面大部分と対面するシールドボトム71の複数個所において、シールドボトム71とインサートナット35の筐体内部側の端部において結合されているので、天吊設置用の取付部材40、シールドボトム71、複数のインサートナット35及び底壁31が一体的に固定され、プロジェクタの吊り下げ強度が向上する。
【0046】
以上のように構成された実施の形態に係るプロジェクタによれば、次の効果を奏することができる。
(1)貫通状にねじ孔が形成された同一のインサートナット35に対し、筐体内部側の端部には、底壁31に固定される内部機器に形成された板部と結合するように固定ねじ74が螺合され、筐体外部側の端部には、筐体1の外部に天吊設置用の取付部材40を取り付ける取付ねじ55が螺合される。これにより、取付ねじ55の取付部においては、天吊設置用の取付部材40、内部機器、インサートナット35及び底壁31が一体的に固定されるので、プロジェクタの重量やプロジェクタに加えられた力がインサートナット35と底壁31との密着結合部に大きく作用することがない。
【0047】
(2)電動ドライバーの設定ミスにより高トルクで締結されるようなことがあっても、インサートナット35の鍔部35bの基部35cの引張強度が円筒状ねじ部35aの引張強度よりも小さくなるように形成されているので、円筒状ねじ部35aの破断が防止される。
【0048】
(3)また、この場合には鍔部35bの破断に伴い、天吊設置用の取付部材40、内部機器、インサートナット35及び底壁31の一体性が損なわれて、プロジェクタの底壁31が取付部材から離間するため、作業者はこれにより異常が発生したことを直ちに認識することができ、この事態に対処することができる。
【0049】
(4)インサートナット35は、円筒状ねじ部35aにおける鍔部35bの筐体外部側の端部までの寸法L1が、円筒状ねじ部35aにおける鍔部35bから筐体内部側の端部までの寸法L2より短く形成されている。したがって、インサートナット35の円筒状ねじ部35aのうち筐体1の円筒部34に埋め込まれる部分を大きく採ることができ、インサートナット35の固定強度を大きくすることができる。
【0050】
(5)インサートナット35の筐体内部側の端部に結合される内部機器に形成された板部としてシールドボトム71から切り起こされた折曲部71aを利用している。ところで、シールドボトム71は、通常底壁31の広範囲の部分に対面して取り付けられているので、適宜の場所で、シールドボトム71に折曲部71aを形成し、この折曲部71aをインサートナット35と結合することができる。
【0051】
(6)また、取付ねじ55による一部の締結部においては、固定ねじ74によりインサートナット35の筐体内部側の端部に結合される内部機器に形成された板部として、シールドボトム71から切り起こされた折曲部71a、筐体内部に取り付けられる他の内部機器に形成された板部が含まれている。したがって、これら締結部においては固定ねじ74を、内部機器を取り付けるための取付ねじに¥兼用することができる。これによりコスト軽減に寄与することができる。
【0052】
(7)また、取付ねじ55による複数の締結部においては、インサートナット35の筐体内部側の端部に結合される板部としてシールドボトム71から切り起こされた折曲部71aが含まれているので、天吊設置用の取付部材40、内部機器であるシールドボトム71、複数のインサートナット35及び底壁31が一体的に固定される。これにより、プロジェクタの吊り下げ強度が向上する。
【0053】
(変形例)
・上記実施の形態において、筐体1の内側からインサートナット35に対して取り付けられる内部機器に形成された板部は、上記のようなシールドボトム71の折曲部71aや、シールドパワー73の取付板部73aや、シールドランプ76の取付板部76aなどに限られることはなく他の機器のシールド部材としてもよい。また、シールド部材以外の内部機器に形成された板部、例えば、スピーカや制御基板のような部品の取付板部を単独又は共締めにより取り付けることもできる。
【0054】
・天吊設置用の取付部材40の取付ねじ55の個数及び位置は、前記実施の形態のものに限らない。個数について云えば、例えば5個以上であってもよいし、また、他の係合手段との併用により3個以下としてもよい。
【0055】
・上記実施の形態においては、一部の取付ねじ55の取付部において、筐体1の内側から内部機器の有する板部と結合されていたが、全部の取付ねじ55の取付部においてシールドボトム71の折曲部71aと結合されるようにしたものでもよい。
【0056】
・また、共締めされる内部機器の個数は最大2個の場合しか掲げられていないが、3個以上としてもよい。
・また、全ての取付ねじ55の締結部において、インサートナット35に対し内部機器に形成された板部が結合されるようにしてもよい。また、全ての取付ねじ55の締結部において、インサートナット35に対し2個以上の内部機器に形成された板部が共締めにより結合されるものとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るプロジェクタは、ホームシアター、会議室、研修室、教室、娯楽場、各種展示室、スタジオなど多方面の施設における画像表示システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
L1,L2…寸法、1…筐体、3…(筐体の)底面、31…底壁、34…円筒部、35…インサートナット、35a…円筒状ねじ部、35b…鍔部、35c…(鍔部の)基部、40…取付部材、55…取付ねじ、71…シールドボトム、71a…(シールドボトムの)折曲部、74…固定ねじ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天吊設置用の取付部材を固定する取付ねじが筐体の底壁の外側から締結される、複数のインサートナットが前記底壁に埋め込まれたプロジェクタにおいて、
前記底壁は、インサートナットを埋め込むための複数の円筒部を有し、
前記インサートナットは、内部に雌ねじが貫通状に形成された円筒状ねじ部の軸方向中間部の外周に鍔部が一体的に形成されるとともに、鍔部が前記円筒部の端部に当接するように前記円筒状ねじ部における筐体外部側が前記円筒部に埋め込まれて固定され、さらに、前記鍔部の基部の強度が、前記円筒状ねじ部の強度より小さくなるように設定され、
また、前記複数のインサートナットの内の少なくとも一部において、筐体内部側の端部には、固定ねじにより前記底壁に固定される内部機器に形成された板部が結合されている
ことを特徴とするプロジェクタ。
【請求項2】
請求項1記載のプロジェクタにおいて、
前記インサートナットは、円筒状ねじ部における鍔部から筐体外部側の端部までの寸法が、円筒状ねじ部における鍔部から筐体内部側の端部までの寸法より大きく形成されている
ことを特徴とするプロジェクタ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のプロジェクタにおいて、
前記インサートナットの筐体内部側の端部に結合される前記板部は、底壁内面に対面して取り付けられている電磁波用のシールド板であるシールドボトムから切り起こされた折曲部である
ことを特徴とするプロジェクタ。
【請求項4】
請求項1又は2記載のプロジェクタにおいて、
前記インサートナットの筐体内部側の端部に結合される前記板部には、底壁内面に対面して取り付けられているシールド機能を有するシールドボトムから切り起こされた折曲部と、筐体内部に取り付けられる他の内部機器に形成された板部とが含まれる
ことを特徴とするプロジェクタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロジェクタにおいて、
前記インサートナットの筐体内部側の端部に結合される前記板部は、複数のインサートナットにおいて、底壁内面に対面して取り付けられるシールド機能を有するシールドボトムから切り起こされた折曲部が含まれる
ことを特徴とするプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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