説明

プロセス監視装置およびプロセス監視方法

【課題】プロセスデータの予測値を精度高く行うことができるプロセス監視装置およびプロセス監視方法を提供すること。
【解決手段】取得されたプロセスデータDVのうち、現時点から一定時間前のプロセスデータ群をもとに近似式を最小二乗法によって算出する近似式算出部5と、この近似式をもとに所定時間後のプロセスデータの予測値を算出する予測値算出部6と、この予測値および傾向予測を出力するとともに、この予測値が所定範囲を越えた場合に警報を出力する出力処理部を備える。なお、近似式のもとになる基準式は、1次式に限らず、高次式が適用可能であり、プロセスデータに応じて最適なものを適用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力されたプロセスデータをもとに精度の高いプロセスデータの予測値あるいはプロセスデータの傾向を容易に予測して監視するプロセス監視装置およびプロセス監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、温度、圧力、あるいは流量などのプロセスを制御するプロセス制御器では、プロセス値あるいはその変化量の一定時間後の予測を行い、その予測結果をもとにプロセスを同定したり、PIDなどの制御演算定数をチューニングしたり、オーバーシュートを制御したりして、プロセス応答を改善するようにしていた。
【0003】
たとえば、特許文献1では、現在時刻でのプロセス量の変化量と、一定時刻前のプロセス量の変化量との比を求め、この比を用いて一定時間後のプロセス量を予測するようにしていた。また、特許文献2では、さらに、現在時刻から一定時間前の操作量の変化を用いて、操作量が急変する場合であっても正確なプロセス値の予測を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−113602号公報
【特許文献1】特開平4−123112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のプロセスデータの予測では、現時点のプロセスデータと過去の1点のプロセスデータとをもとに現時点以降のプロセスデータの予測を行っていたため、正確な傾向予測を行うことができない場合が多かった。また、複数の過去のプロセスデータを用いる場合であっても、過去の個々のプロセスデータそのものを取り扱って、現時点以降のプロセスデータ全体の傾向を予測しているため、予測精度が低い場合があった。特に、個々のプロセスデータが振動的に変化する場合、精度の高いプロセスデータの傾向予測をすることが困難であった。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、プロセスデータの予測値を精度高く行うことができるプロセス監視装置およびプロセス監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるプロセス監視装置は、取得されたプロセスデータのうち、現時点から一定時間前のプロセスデータ群をもとに近似式を最小二乗法によって算出する近似式算出部と、前記近似式をもとに所定時間後のプロセスデータの予測値を算出する予測値算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかるプロセス監視装置は、上記の発明において、前記プロセスデータの期間的出力状態に応じて前記近似式の元になる異なる基準式を変更設定する近似式変更設定部を備え、前記近似式算出部は、前記近似式変更設定部によって変更設定された基準式をもとに前記近似式を算出することを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるプロセス監視装置は、上記の発明において、前記予測値が所定範囲を越えた場合に警報を出力する出力処理部を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかるプロセス監視装置は、上記の発明において、前記出力処理部は、前記予測値を出力するとともに、前記近似式をもとに現時点以降におけるプロセスデータの出力傾向を出力することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるプロセス監視方法は、取得されたプロセスデータのうち、現時点から一定時間前のプロセスデータ群をもとに近似式を最小二乗法によって算出する近似式算出ステップと、前記近似式をもとに所定時間後のプロセスデータの予測値を算出する予測値算出ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるプロセス監視方法は、上記の発明において、前記プロセスデータの期間的出力状態に応じて前記近似式の元になる異なる基準式を変更設定する近似式変更設定ステップを含み、前記近似式算出ステップは、前記近似式変更設定ステップによって変更設定された基準式をもとに前記近似式を算出することを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるプロセス監視方法は、上記の発明において、前記予測値が所定範囲を越えた場合に警報を出力する出力処理ステップを含むことを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるプロセス監視方法は、上記の発明において、前記出力処理ステップは、前記予測値を出力するとともに、前記近似式をもとに現時点以降におけるプロセスデータの出力傾向を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、近似算出部が、取得されたプロセスデータのうち、現時点から一定時間前のプロセスデータ群をもとに近似式を最小二乗法によって算出し、予測値算出部が、前記近似式をもとに所定時間後のプロセスデータの予測値を算出するという近似式を用いた処理を行っているので、プロセスデータの予測値を精度高く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1にかかるプロセス監視装置の概要構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示したプロセス監視装置によるプロセス監視処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、プロセスデータが上昇傾向である場合のプロセスデータの予測を説明する模式図である。
【図4】図4は、プロセスデータが下降傾向である場合のプロセスデータの予測を説明する模式図である。
【図5】図5は、汚泥焼却炉の温度プロセスデータに本プロセス監視処理を適用した結果を示す図である。
【図6】図6は、水処理装置の流量プロセスデータに本プロセス監視処理を適用した結果を示す図である。
【図7】図7は、この発明の実施の形態2にかかるプロセス監視装置の概要構成を示すブロック図である。
【図8】図8は、図7に示したプロセス監視装置による基準近似式の変更状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、この発明を実施するための形態であるプロセス監視装置およびプロセス監視方法について説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1にかかるプロセス監視装置の概要構成を示すブロック図である。図1に示すように、このプロセス監視装置1は、監視制御部2と、入出力部9とを有する。監視制御部2は、プロセスデータPVを受け付ける入力I/F3と、監視制御部2による予測結果である予測値D1、傾向D2、警報D3などの出力データDを外部に出力する出力I/F4とを有する。
【0019】
監視制御部2は、記憶部8を有し、記憶部8は、少なくとも過去のプロセスデータPVを記憶する。監視制御部3の近似式算出部5は、現時点から過去の一定時間ΔPtまでのプロセスデータを記憶部8から取得し、このプロセスデータ群PVGを、最小二乗法によって近似式、たとえば1次近似式を求める。監視制御部2の予測値算出部6は、近似式算出部5が算出した近似式をもとに、現時点から所定時間Δt後の予測値を算出する。また、監視制御部2は、出力処理部7を有し、出力処理部7は、予測値が予め設定された上限値と下限値とによって決まる所定範囲を超えたか否かを判断し、越えた場合に、警報D3を出力I/F4を介して出力するとともに、予測値D1、および近似式から求められる傾向D2を出力I/F4を介して出力する。
【0020】
一方、入出力部9は、たとえばタッチパネルなどによって実現され、監視制御部2に対する各種設定指示を入力し、また各種設定状態を出力する。この各種設定指示とは、たとえば、近似式算出部5が求める近似式のもとになる式が1次式である場合には、1次式の設定であり、上述した一定時間ΔPtの設定である。また、各種設定指示には、予測値算出部6が予測値D1を算出する場合に必要な所定時間Δtの設定である。
【0021】
ここで、図2に示すフローチャートを参照して、プロセス監視処理手順について説明する。まず、近似式算出部5は、記憶部8から、現時点から一定時間ΔPt前までの間のプロセスデータ群PVGを取得する(ステップS101)。その後、近似式算出部5は、取得したプロセスデータ群PVGに対して、予め指示された基準式、たとえば1次式をもとに1次近似式を最小二乗法によって求める(ステップS102)。
【0022】
その後、予測値算出部6は、求めた近似式をもとに、現時点から一定時間Δt後の予測値D1を求めるとともに、傾向D2を求める(ステップS103)。その後、出力処理部7は、予測値D1は、上限値yまたは下限値yを超えたか否か、すなわち、予測値D1が上限値yおよび下限値yに囲まれる所定範囲を超えたか否かを判断する(ステップS104)。
【0023】
出力処理部7は、予測値D1が、上限値yまたは下限値yを超える場合(ステップS104,Yes)には、警報D3を出力する処理を行い(ステップS105)、さらに予測値D1および傾向D2を出力する処理を行う(ステップS106)。一方、予測値D1が、上限値yまたは下限値yを超えない場合(ステップS104,No)には、ステップS105による警報の出力処理を行わず、そのままステップS106に移行し、予測値D1および傾向D2を出力する処理を行う。
【0024】
その後、本処理を終了する指示があるか否かを判断し(ステップS107)、本処理を終了する指示がない場合(ステップS107,No)には、ステップS101に移行し、上述した処理を繰り返し、本処理を終了する指示がある場合(ステップS107,Yes)には、本処理を終了する。
【0025】
たとえば、図3に示すように、現時点から一定時間ΔPtまでの間に、サンプリングされた10個のプロセスデータDVからなるプロセスデータ群DVGがある場合、近似式算出部5は、この10個のプロセスデータDVに対して、最小二乗法を適用して1次近似式Lとしてy=at+bを求める。そして、この1次近似式のt=Δtの予測値D1=y(Δt)を求める。そして、このy(Δt)の値が、上限値yを超えている場合、警報D3を出力する。また、1次近似式の傾きaが正である場合、傾向D2は、上昇傾向であるとして出力する。
【0026】
また、図4に示すように、求めた1次近似式Lによって、一定時間Δt後の予測値D1=y(Δt)を求め、このy(Δt)が、下限値yを超えている場合、傾向D3を出力し、求めた1次近似式Lの傾きaが負である場合に、傾向D2は、下降傾向であるとして出力する。
【0027】
さらに、実プラントに適用した場合について説明する。図5は、汚泥焼却炉のフリーボード温度をプロセスデータDVとし、10個のプロセスデータDVをもとに、最小二乗法によって、現時点以降の各時点(サンプリング間隔と同じ)での予測値を算出した結果を示している。なお、図5では、近似式として、1次式、2次式、3次式を適用した場合を示している。図5に示すように、一定温度に制御すべきプロセスデータDVである場合、1次近似式を用いる方が、2次近似式および3次近似式を用いる場合に比して、精度の高い予測が可能となっている。特に、予測値Δtの時点が現時点から離れるにしたがって、その誤差が大きくなっている。したがって、一定温度に制御するフリーボード温度のプロセスデータの場合、最小二乗法によって1次近似式を求めて予測値を予測することが好ましい。
【0028】
また、図6は、水処理装置の流量をプロセスデータとし、10個のプロセスデータDVをもとに、最小二乗法によって、現時点以降の各時点での予測値を算出した結果を示している。この場合も、近似式として、1次式、2次式、3次式を適用した場合を示している。この図6では、最小二乗法による2次近似が最も精度の高い予測値を得ている。
【0029】
したがって、近似式算出部5が最小二乗法によって求める近似式のもとになる基準式は、適用するプロセスデータの傾向を加味して、1次式、2次式、3次式以上の高次式の適用を設定することが好ましい。また、プロセスデータによっては、三角関数や指数関数などを組み合わせた基準式を用いるとさらに精度の高い予測が可能になる。
【0030】
(実施の形態2)
つぎに、この発明の実施の形態2について説明する。上述した実施の形態1では、近似式算出部5が1つの近似式を算出するものであったが、この実施の形態2では、プロセスデータの時間的出力状態に応じて、それぞれ適合する近似式の元になる基準式を替えるようにしている。
【0031】
図7は、この発明の実施の形態2にかかるプロセス監視装置の概要構成を示すブロック図である。図7に示したいプロセス監視装置は、図1に示したプロセス監視装置に、さらに近似式切替部10を設けている。その他の構成は、実施の形態2と同じである。入出力部9は、近似式算出部5が用いる複数の近似式のもとになる複数の基準式を近似式算出部5に設定するとともに、近似式切替部10にこの基準式の切替タイミングを設定する。
【0032】
近似式切替部10は、たとえば、図8に示すように、予め設定された周期TA,TBで基準式fA,fBに変更する制御を行う。この周期TA,TBは、たとえば、昼間と夜間とであり、それぞれ異なる傾向を示すプロセスデータを生成する場合があるからである。
【0033】
この実施の形態2では、プロセスデータの時間的出力状態に応じて、それぞれ最適な異なる基準式を用いて最小二乗法によって近似式を求めているので、一層精度の高い予測値を得ることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 プロセス監視装置
2 監視制御部
3 入力I/F
4 出力I/F
5 近似式算出部
6 予測値算出部
7 出力処理部
8 記憶部
9 入出力部
10 近似式切替部
PV プロセスデータ
PVG プロセスデータ群
D 出力データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取得されたプロセスデータのうち、現時点から一定時間前のプロセスデータ群をもとに近似式を最小二乗法によって算出する近似式算出部と、
前記近似式をもとに所定時間後のプロセスデータの予測値を算出する予測値算出部と、
を備えたことを特徴とするプロセス監視装置。
【請求項2】
前記プロセスデータの期間的出力状態に応じて前記近似式の元になる異なる基準式を変更設定する近似式変更設定部を備え、
前記近似式算出部は、前記近似式変更設定部によって変更設定された基準式をもとに前記近似式を算出することを特徴とする請求項1に記載のプロセス監視装置。
【請求項3】
前記予測値が所定範囲を越えた場合に警報を出力する出力処理部を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載のプロセス監視装置。
【請求項4】
前記出力処理部は、前記予測値を出力するとともに、前記近似式をもとに現時点以降におけるプロセスデータの出力傾向を出力することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のプロセス監視装置。
【請求項5】
取得されたプロセスデータのうち、現時点から一定時間前のプロセスデータ群をもとに近似式を最小二乗法によって算出する近似式算出ステップと、
前記近似式をもとに所定時間後のプロセスデータの予測値を算出する予測値算出ステップと、
を含むことを特徴とするプロセス監視方法。
【請求項6】
前記プロセスデータの期間的出力状態に応じて前記近似式の元になる異なる基準式を変更設定する近似式変更設定ステップを含み、
前記近似式算出ステップは、前記近似式変更設定ステップによって変更設定された基準式をもとに前記近似式を算出することを特徴とする請求項5に記載のプロセス監視方法。
【請求項7】
前記予測値が所定範囲を越えた場合に警報を出力する出力処理ステップを含むことを特徴とする請求項5または6に記載のプロセス監視方法。
【請求項8】
前記出力処理ステップは、前記予測値を出力するとともに、前記近似式をもとに現時点以降におけるプロセスデータの出力傾向を出力することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一つに記載のプロセス監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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