説明

プロテアーゼ活性を有する抽出物

本発明は、ペプチド結合の加水分解によってタンパクを分解するプロテアーゼ活性を実質的に有するストレブラスアスパー(Streblus asper)のタンパク様抽出物を含む組成物を開示する。本発明によるストレブラスアスパーのタンパク様抽出物は、食品加工業界で食肉改質剤及び凝乳剤として、並びに、洗剤の製造時に添加剤としての使用に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、タンパク様組成物に関する。更に詳細には、本発明は、プロテアーゼ活性を実質的に有するストレブラスアスパー(Streblus asper)のタンパク様抽出物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解によってタンパクを分解する酵素である。タンパク分解性酵素は、医薬、皮革の軟化、洗濯用洗剤、及び食品加工の分野で実用されている。食品業界では、プロテアーゼは、焼いた食品、ビール及びワイン、シリアル、乳、肉の軟化、魚加工品、及び豆で用いられていると共に、タンパク加水分解物及びフレーバー抽出物の製造に用いられている。
【0003】
食品加工で用いられているプロテアーゼには、チーズ製造用の凝乳酵素がある。乳を凝固させてチーズにするためには、凝乳酵素を加えて乳を液状に保つタンパクを分解しなければならない。更に詳細には、タンパクが変性又は改質されると乳はその液体構造を失って凝固し始める。
【0004】
レンネットという皺胃(仔ウシの第四胃)から得られる凝乳酵素が長年、チーズの製造に用いられている。仔ウシのレンネットから抽出される主な酵素はキモシンである。しかし、仔ウシのレンネットは高価であると共に、キモシンの原料をもたらす仔ウシの慢性的な不足が原因となって入手が困難である。
【0005】
動物、植物、及び微生物起源の様々な凝乳酵素が、キモシンの代替物として同定されており、チーズ製造における試験が行われている。それでも今なおキモシンの代替物として実際に用いられる凝乳酵素は、ペプシン(動物由来)と、各種糸状菌、例えばクリ胴枯病菌(Endothia parasitica)、ムコールプシルス(Mucor pusillus)、及びムコールミエヘイ(Mucor miehei)由来の微生物レンネットのみである。
【0006】
米国特許第4,526,792号には、チーズの製造にR.ミエヘイ(R. miehei)を微生物レンネットとして用いることが開示されている。R.ミエヘイはキモシンを含有していないが、その代わりに、機能の面でキモシンと似ている酸性プロテアーゼを含有している。
【0007】
凝乳酵素を抽出及び精製する方法が数多く知られており、その一例としてアフィニティゲルクロマトグラフィーを行った後に吸着した酵素を溶出するものが挙げられる。例えば、Kobayashiらの“Rapid isolation of microbial milk−clotting enzymes by N−acetyl−(or N−isobutyryl)−pepstatin−aminohexylagarose” Anal, Biochem., 122: 308−312 (1982)には、N−アセチルペプスタチンを親和性リガンドとして用いるアフィニティゲルカラムを利用して、R.ミエヘイから微生物レンネットを精製することが教示されている。また、Deadらの“Protein purification using immobilized triazine dyes,” J. Chromatogr., 165: 301−319 (1979)、及びBurgettらの“Cibacron Blue F3GA affinity chromatography”, Am. Lab., 9(5): 74, 78−83 (1977)に開示されているように、酵素はCibacron Blue F3GA(「CB」)を用いるアフィニティゲルカラムで分離することもできる。いずれの文献にも、例えばキナーゼやヌクレアーゼなどの酵素をCBカラムで分離することが説明されている。米国特許第4,743,551号には、青色色素の親和性リガンドを用いると共に、吸着したレンネットを溶出して、精製R.ミエヘイレンネットを生成することが記載されている。
【0008】
近年の研究では、植物誘導体であると共に、環境に優しい新たな凝乳酵素の発見に焦点が当てられている。ストレブラスアスパー(Kesinai)の葉の抽出物はプロテアーゼ、すなわち凝乳因子を含有することが分かっており、レンネットの代替物となる可能性がある。
【0009】
したがって、プロテアーゼ活性を実質的に有するストレブラスアスパーの抽出物を含む組成物を提供することは有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,526,792号
【特許文献2】米国特許第4,743,551号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kobayashiら、“Rapid isolation of microbial milk−clotting enzymes by N−acetyl−(or N−isobutyryl)−pepstatin−aminohexylagarose” Anal, Biochem., 122: 308−312 (1982)
【非特許文献2】Deadら、“Protein purification using immobilized triazine dyes,” J. Chromatogr., 165: 301−319 (1979)
【非特許文献3】Burgettら、“Cibacron Blue F3GA affinity chromatography”, Am. Lab., 9(5): 74, 78−83 (1977)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ペプチド結合の加水分解によってタンパクを分解するプロテアーゼ活性を実質的に有するストレブラスアスパーのタンパク様抽出物を含む組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果は、食品加工業界で食肉改質剤及び凝乳剤として、並びに、洗剤の製造時に添加剤として用いるのに好適なストレブラスアスパーのタンパク様抽出物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】ストレブラスアスパー(Kesinai)のタンパク様抽出物の7000倍の走査電子顕微鏡写真(SEM)である。
【図1B】ストレブラスアスパー(Kesinai)のタンパク様抽出物の30,000倍の透過電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図2】精製プロテアーゼのドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動像(SDS−PAGE)である。
【図3A】精製プロテアーゼのタンパク分解活性の最適温度を示すグラフである。
【図3B】精製プロテアーゼの温度安定性を示しているグラフである。
【図4】添加された塩化カルシウムの濃度がストレブラスアスパー(Kesinai)のタンパク様抽出物による凝乳時間に及ぼす作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、プロテアーゼ活性を実質的に有するKesinai、すなわちストレブラスアスパーのタンパク様葉抽出物に関する。
【0016】
未精製の葉抽出物を調製すると望ましくない非常に濃い褐色となるため、この褐変を防止すれば、本発明の葉抽出物の有用性を高めることができる。褐変を防止し、かつ、許容可能な色の粗抽出物を得るために、クエン酸、L−システイン、及びメタ重亜硫酸ナトリウムのような褐変防止剤が用いられる。これによって葉抽出物の主な問題が解決されたと共に、その凝乳剤、食肉改質剤、及び洗剤業界用の添加剤としての潜在的な有用性が高まった。
【0017】
メタ重亜硫酸塩は、本発明の葉抽出物の酵素による褐変に対する有効な防止剤であることが分かった。メタ重亜硫酸塩は、2mMの濃度で褐変を防止し、得られた抽出物は褐色抽出物の褐色凝固体と比べると白い凝乳であった。得られた抽出物は、85℃まで熱安定性があり(最適温度は70℃)、その最適pHは7.2である。6mMの添加塩化カルシウムは、凝乳活性に最適であった。
【0018】
酵素による褐変の防止と、粗抽出物の特性評価がうまくいくことにより、凝乳の生理化学的特性、凝乳プロテアーゼの精製及び特性評価を検証する基礎が形成される。凝乳プロテアーゼの使用は、チーズ製造に不可欠な工程である。凝乳の強度、シネレシス及び収率は、用いるレンネットの種類によって大きく左右される。テクスチャーはチーズの最も重要な特徴の1つであり、凝乳の種類によって影響を受けることがある。テクスチャーの相違は、凝乳の網構造に関連している。テクスチャー特性を調べるには粗抽出物の微細構造とシネレシスが、レンネット代替物としての凝乳プロテアーゼの潜在的適合性の評価に有用である。このために、走査電子顕微鏡(SEM)及び透過電子顕微鏡(TEM)での検査用にストレブラスアスパー(Kesinai)を用いて新鮮な牛乳から凝乳を調製した。これらの検査により、凝乳の有孔度、テクスチャー及びシネレシスを定量化した。
【0019】
最後に、Superose 6、MONOQ HR 5/5を用いたFPLCイオン交換、及びRotofor Systemを用いた等電点電気泳動法(IEF)による限外ろ過(UF)、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)ゲルろ過によって、Kesinaiから得られた粗酵素抽出物を精製した(精製倍率25、回収率18%)。
【0020】
図2によると、精製されたプロテアーゼはSDS−PAGE上で一つのバンドとして現れ、分子量は31.3kDaであった。この精製プロテアーゼの特性評価を行ったところ、最適pHが7.2であるセリンプロテアーゼであり、pH5.0〜9.5の範囲で安定的であり、等電点(Pl)が5.2であり得ることが示された。この精製プロテアーゼは85℃まで熱安定性があり、最適温度は70℃である。電気泳動像解析によって、プロテアーゼ活性が凝乳活性と関連することが示された。Kesinaiプロテアーゼは、短期熟成チーズ類の製造に用いることができる。
【0021】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例1】
【0022】
葉抽出物の調製
新鮮なストレブラスアスパーの葉を洗浄し、室温にて0.5〜10mMのメタ重亜硫酸ナトリウムを含む200mlの100mMトリス−HCLバッファー(pH6〜9)中でホモジナイズした。このホモジネートをろ過し、10,000rpmで30分間、4℃で遠心分離した。その上清を粗酵素抽出物として回収した。粗酵素抽出物を限外ろ過し、室温にて、43mmの円形膜によって、攪拌セルAmicon 8050を用いて濃縮した。濃縮物およびろ液を別々に回収した。続いて、基質として100mMのトリス−HCL(pH7.2)中のアゾカゼイン(0.05%(重量/体積))を用いて、プロテアーゼ活性を特定した。100μlの酵素を1mlの基質で1時間、室温にてインキュベートした。300μlのトリクロロ酢酸を加えることによって反応を停止させた。続いて、この混合物を遠心分離し、上清を回収し、その吸光度をブランクとしての基質とバッファーとの混合物に対して測定した。410ナノメートルで吸光度の変化を測定し、1.0単位=0.01の吸光度単位の変化として酵素活性を表した。
【0023】
塩化カルシウムを新鮮な乳に溶解させて1〜10mMの塩化カルシウム濃度とすることにより、塩化カルシウムが凝乳時間に及ぼす作用を調べた。塩化カルシウムを加えなかった新鮮な乳をコントロールとして用いた。乳(2ml)を5分間、65℃のウォーターバス中で粘度調節してから、200μlの粗葉抽出物を加えた。ウォーターバスを振盪することなく、この乳と酵素との混合物を上記の設定温度にてインキュベートした。図4を参照すると、塩化カルシウムを1mM、2mM、4mM、6mM、8mM、及び10mMの濃度で新鮮な乳に加えたところ、凝乳活性が向上した。凝乳活性は、加えた塩化カルシウムの濃度が6mMになるまでは塩化カルシウム濃度の上昇と共に向上し、6mMを超えた濃度では、凝乳活性の向上度は小さかった。
【0024】
この実施例では、メタ重亜硫酸ナトリウムが粗葉抽出物の酵素による褐変を防止する作用を調べた。このため、上記の方法によって調製した粗抽出物の色を(分光光度計で吸光度単位を測定することによって)測定するとともに、凝乳活性を測定した。
【実施例2】
【0025】
凝乳活性の決定
本発明の葉抽出物が12.5%の還元乳を凝固させるのに要する時間を測定することによって、凝乳活性を決定した。サンプルを予め65℃で5分間インキュベートしてから、200μlの当該葉抽出物を加え、この混合物を65℃でインキュベートした。15秒毎にチューブを約45°傾けた。凝乳の最初の可視的兆候が見えるまでに要した時間を凝乳時間として記録した。凝乳活性の1単位は、上記の測定条件下で1分間に1mlの乳を凝固させることであり、比凝乳活性は、1mgのタンパク当たりの活性単位である。沸騰させた酵素をコントロールとして用いた。
【0026】
表1に示される測定結果より、抽出バッファー中で10mMのメタ重亜硫酸ナトリウムを用いることにより許容可能な色の粗抽出物が得られた。メタ重亜硫酸塩を用いて調製した抽出物では、プロテアーゼ活性を保持する高い凝乳活性が示された。メタ重亜硫酸ナトリウムは、食品業界において多機能性添加剤として広く用いられていると共に、化学保存料として用いても安全なもの(GRAS)として認識されている。葉抽出物の褐変を防止する目的でこの調査で用いる亜硫酸塩のレベルは低く、乳と葉抽出物との混合物の官能検査では検出されないであろう(前記混合物における亜硫酸塩のレベルは38ppm(パーツパーミリオン)であり、官能検査における亜硫酸塩の最小閾値は約50ppm(パーツパーミリオン)である)。
【0027】
得られた粗葉抽出物の最適pHは7.2であり、この粗葉抽出物は広範なpHで安定である。この粗葉抽出物は熱的に安定であり、最適温度は70℃である。
【0028】
表1 各種濃度のメタ重亜硫酸ナトリウムが粗葉抽出物の褐変に及ぼす作用
【表1】



【実施例3】
【0029】
凝乳の調製
凝乳の調製のために、0.2mMの塩化カルシウムと、2mgの脱色したストレブラスアスパー(kesinai)抽出物を100mlの新鮮な牛乳に加えた。続いて、凝乳が形成されるまで、この混合物をインキュベートした。調製した凝乳を小片にカットし、走査電子顕微鏡(SEM)と透過電子顕微鏡(TEM)で観察した。SEM写真及びTEM写真の分割区域の孔を定量化することによって、上記の凝乳の有孔度を決定した。テクスチャーについては、テクスチャーアナライザーを用いることによって凝乳強度を決定した。
【0030】
サンプルの体積を測定してから、ろ過によって凝乳から分離できた乳清の体積を測定することによって、シネレシスの程度を決定した。
【0031】
上記の凝乳をドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にかけた。その結果は、以下のように観察された。
【0032】
走査電子顕微鏡(SEM)で調べたところ、本発明の葉抽出物の凝乳の微細構造は、スポンジ様であった。本発明の葉抽出物によるスポンジ様構造網の形成は、葉抽出物中のフェノール化合物に起因するカゼインミセル間の新たな架橋結合に加えて、本発明の葉抽出物の性質及びタンパク分解特性によるものであった。
【0033】
本発明の葉抽出物は、有孔度が低く、カゼイン網の密度が高い凝乳を生成させることが分かった。図1a及び図1bを参照すると、走査電子顕微鏡(SEM)による有孔度定量結果においても、透過電子顕微鏡(TEM)による有孔度定量結果においても、Kesinaiの凝乳の有孔度が低いことが示された。カゼインのシーズ収率への寄与には、それ自体の重量に加えて付随する水分とミネラルが含まれるので、これは、チーズの製造において望ましい特性である。また、放出される乳清(乳の血清相)も少なくなる。
【0034】
凝乳と乳清の硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動像(SDS−PAGE)によって、本発明の葉抽出物のタンパク分解活性が高いことが示された。
【実施例4】
【0035】
kesinaiの凝乳プロテアーゼの精製及び特性評価
(i)高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)ゲルろ過クロマトグラフィー
メタ重亜硫酸ナトリウムを用いてKesinaiの葉から調製した粗酵素抽出物をベッドボリューム20mlの高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)カラムSuperpose−6(ろ過の前に、100mMのトリス−HCL(pH7.2)で平衡化した)に充填した。
【0036】
平衡化バッファーによって毎分3mlの流速でタンパクを溶出した。ろ過によって、4.26倍に精製された(収率69.84%)。画分を含むプロテアーゼをプールし、Mono Q HR 5/5カラムによる高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)イオン交換クロマトグラフィーによって更に精製した。0.35〜0.40Mの塩濃度でカラムから酵素を溶出した。イオン交換精製工程によって、23.76倍に精製された(収率24.34%)。イオン交換クロマトグラフィー工程から溶出したプロテアーゼ活性画分をプールし、蒸留水で透析し、Rotofor装置を用いた等電点電気泳動法によって精製した。最終収率18%で25.10倍に精製された。
【0037】
タンパクベースで、タンパクが140倍に回収された。
【0038】
(ii)Kesinaiプロテアーゼの特性評価
硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動像(SDS−PAGE)を用いて分子質量を推測した。標準的タンパクのlog分子質量対相対移動度の標準曲線をプロットしてから、精製プロテアーゼの相対移動度を用いて、上記の標準曲線から精製プロテアーゼの分子質量を推測した。
【0039】
この結果は、精製プロテアーゼがおそらく単一のサブユニットからなるモノマーであることを示唆している。図2を参照すると、精製プロテアーゼ(レーン6及び7)の分子質量を決定する電気泳動実験によって、約31.3kDAに相当する分子量を有する単一のバンドが示された。このように低いプロテアーゼの分子量は、セリンプロテアーゼの分子量に類似する(セリンプロテアーゼは一般に低分子量であり、通常は15,000〜30,000である)。
【0040】
精製プロテアーゼの等電点電気泳動像から精製プロテアーゼの等電点を決定した(プロテアーゼはpH5.2における単一ピークとして溶出され、これに基づき、その等電点(pi)をpH5.2と推測した)。また、pH8.3及び室温での電気泳動後でも、Kesinai由来の精製プロテアーゼが乳を凝固できることも結果により示された。
【0041】
5〜9の範囲のpH値、1時間のインキュベーション時間、37℃における精製プロテアーゼのタンパク分解活性の最適活性pHによって、アゾカゼインの加水分解に最適なpHが7.2であることが示された。これらの条件下において、前記酵素のpH6.2における最大活性は60%であり、当該pHはスターターカルチャーによってチーズ乳が酸性化されるpHであると考えられる。
【0042】
Kesinai由来の精製プロテアーゼのpH安定性を決定するため、Kesinai由来の酵素を4.5〜9.5の間で変化させたpHにて1時間、室温でインキュベートした。その後、残留プロテアーゼの活性を決定した。その結果、室温で1時間インキュベートした場合のプロテアーゼは5〜8.5のpH範囲で安定的であることが示された。この条件では、プロテアーゼは、pH5において活性の10%を維持した。
【0043】
温度がプロテアーゼ活性に及ぼす作用を決定するため、精製プロテアーゼを5分間、5〜95℃の範囲の温度で平衡化した。続いて、基質(トリス−HCLバッファー(pH=7.2)中のアゾカゼイン、0.05%w/v)を加えて得た混合物を試験温度で1時間インキュベートし、標準的な測定方法に従って、タンパク分解活性を測定した。図3Aに示される結果によって、精製プロテアーゼの最適温度が約70℃であることが明らかになった。
【0044】
Kesinai由来の精製プロテアーゼの温度安定性を決定するため、酵素を5〜95℃の間で変化させた温度で1時間インキュベートしてから氷中で急冷した。アゾカゼイン(0.05%w/v)を基質として用いて、残留タンパク分解活性を37℃で測定した。プロテアーゼの温度安定性を図3Bに示す。図3Bを参照すると、酵素を1時間インキュベートした場合、75℃まで安定的であった。80℃で1時間インキュベートした後の酵素活性は最大活性の44%、85℃でインキュベートした後は26%、90℃でインキュベートした後では14%であった。
【0045】
精製プロテアーゼの温度安定性は、前記精製プロテアーゼが従来の乳及び乳清の低温殺菌条件に耐えられることを示している。これは、レンネット代替物として望ましくない特性である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に従ってKesinaiから得た粗抽出物は、食肉を適度な軟らかさに改質する食肉改質剤として好適に利用でき、処置した食肉に望ましくない後味を付与することもない。更に、食肉改質剤として用いたときのこの酵素は酵素不活化温度が比較的低いので、家庭用及び産業用として非常に有用であると同時に、温度管理又は不活化が容易である。
【0047】
また、前記粗抽出物の温度安定性と高いタンパク分解活性は、洗剤業界でも望ましい特性であり、その精製酵素は、洗剤業界のプロセスで有用であり得る。この酵素を洗剤製品で用いると、洗浄温度を低くすることができてエネルギーを節約することができると共に、生体分解性であるために有害な残留物を出さない。この酵素は、汚水処理プロセスに環境的な悪影響を及ぼさず、また、水生生物に対するリスクももたらさない。
【0048】
ストレブラスアスパーの葉抽出物の褐変は、フェノール化合物とポリフェノールオキシダーゼ(PPO)(いずれも潜在的な産業用途がある)が豊富であることを示している。ポリフェノールオキシダーゼは、抗酸化剤としてのフラボノイド由来着色剤の製造、及び水域環境からのエストロゲン物質の除去を含む多くの更なる産業用途において潜在的に有用である。フェノール化合物が豊富な植物抽出物は乳の熱安定性とコロイド安定性を大きく向上させることが新たな証拠により示されていることから、フェノール化合物の豊富な供給源であるストレブラスアスパーの葉抽出物は、濃縮乳の温度安定性とコロイド安定性を向上させるのに有用であり得る。
【0049】
本発明の実例的な実施形態について詳細に説明してきたが、当業者には、様々な他の修正が明らかであると共に、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、このような修正を容易に行うことができることが分かる。したがって、添付の特許請求の範囲を上記の実施例及び説明に限定することは意図しておらず、むしろ、特許請求の範囲は、本発明に関連する当業者から本発明の同等物として扱われるすべての特徴を含め、本発明に属するすべての特許性のある新規性の特徴を網羅するものと解釈するように意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ活性を実質的に有するストレブラスアスパーのタンパク様抽出物を含む組成物。
【請求項2】
前記ストレブラスアスパーのタンパク様抽出物の分子量が31.3kDAである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ストレブラスアスパーのタンパク様抽出物の等電点がpH5.2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ストレブラスアスパーのタンパク様抽出物が、pH5〜9の範囲内でプロテアーゼ活性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ストレブラスアスパーのタンパク様抽出物が、pH5〜8.5の範囲内でプロテアーゼ安定性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ストレブラスアスパーのタンパク様抽出物の活性の最適温度が70℃である、請求項1に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−508572(P2012−508572A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536268(P2011−536268)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【国際出願番号】PCT/MY2009/000195
【国際公開番号】WO2010/056108
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(505291413)ユニバーシティー プトラ マレーシア (11)
【Fターム(参考)】