説明

プロテインAに対する結合が変化した免疫グロブリン変異体

黄色ブドウ球菌プロテインAに対して変化した結合を有する、VH領域内に一又は複数のアミノ酸修飾を持つ変異体免疫グロブリンと、その使用方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国特許法規則1.53(b)に基づき出願した非仮出願であり、米国特許法119(e)に基づき、2008年12月23日に出願の仮出願第61/140565号の優先権を主張し、出典明記によりその内容全体を援用するものである。
【0002】
(技術分野)
本発明は一般に分子生物学の分野に関する。特に、本発明は、生物学的性質が変化したIgG免疫グロブリン変異体及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ここ数年にわたって、治療薬としての免疫グロブリンの使用は、劇的に増加した。免疫系の重要な部分を構成する免疫グロブリン(Ig)分子は大きな関心となっている。その理由は、この分子は、(1)リガンドの多様なファミリと反応する、(2)異なるエフェクター機能を有する、そして(3)大きな生物学的重要性があるためである。今日、抗体ベースの薬剤の使用には、癌、自己免疫性疾患並びに様々な全身性及び感染性の疾患の治療が含まれる。また、免疫グロブリンは、例えば、画像診断手順におけるインビボ診断ツールとして有用である。
IgGは、ヒト及び他の哺乳動物において最も一般的な免疫グロブリンクラスであり、様々なタイプの免疫療法及び診断法で利用される。ヒトIgG1は、治療的目的のために最も一般的に用いられる抗体である。活動中の研究のある領域は、黄色ブドウ球菌を含む病原体に対する抗体である。その可能性にもかかわらず、黄色ブドウ球菌を標的とする免疫グロブリン療法に関する問題の一つは、黄色ブドウ球菌プロテインAに対する抗体の結合であった。プロテインAに対するIgGの結合が研究されており、プロテインA及びFcRnへの結合に関与する位置が同定された(例として、Riechmann & Davies, J. Biomolecular NMR 6:141-52 (1995)、Artandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:94-98 (1992)、国際公開93/22332を参照)。プロテインAに対して変更した結合を表す変性免疫グロブリンを有することは有益であろう。本発明はこれら及び他の必要性に対処するものであり、以下の開示の概要により明らかであろう。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、新規のIgG変異体及びその使用を提供する。多くのIgG変異体が本発明で提供される。
一態様では、本発明は、野生型ヒトIgG VH領域と比較して、カバットにあるEUインデックスに従って番号付けした一又は複数のアミノ酸残基17、19、57、66、70、79、81、82a、82bに一又は複数のアミノ酸置換を含むヒトIgG VH領域を含む変異体IgGであって、このとき変異体IgGが黄色ブドウ球菌プロテインAに対する変更した結合を有する変異体IgGを提供する。いくつかの実施態様では、変異体IgGはプロテインAに対して増加した結合を有しており、例えば野生型IgG VH領域と比較して、アミノ酸残基70、79及び82b(例えばS70A、Y79A又はS82bA)の一又は複数に一又は複数のアミノ酸置換を含むヒトIgG VH領域を有するものである。いくつかの実施態様では、変異体IgGはプロテインAに対して低減した結合を有しており、例えば野生型IgG VH領域と比較して、アミノ酸残基17、19、57、66、81及び82a(例えばS17A、R19A、T57A、T57K、R66A、Q81A又はN82aA)の一又は複数に一又は複数のアミノ酸置換を含むヒトIgG VH領域を有するものである。いくつかの実施態様では、変異体IgGはヒト又はヒト化のIgGである。いくつかの実施態様では、変異体IgGはIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4である。いくつかの実施態様では、変異体IgGは、プロテインA以外の黄色ブドウ球菌タンパク質と結合する。いくつかの実施態様では、本発明は、本発明の変異体IgGと薬学的に許容可能な担体とを含有してなる薬学的組成物を提供する。いくつかの実施態様では、本発明は、容器に本発明の変異体IgGと使用のための指示書とを具備するキットを提供する。
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明、図面及び特許請求の範囲から明らかである。
本明細書において記載される任意の実施態様又はその何かの組合せは、本明細書に記載の本発明の何れか及びすべての変異型IgG及び方法に適用する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】Her2に対する変異体抗Her2 Fabの結合のELISAを示す。
【図2】Her2に対する変異体抗Her2 Fabの結合のELISAを示す。
【図3】プロテインAに対する変異体抗Her2 Fabの結合のELISAを示す。
【図4】プロテインAに対する変異体抗Her2 Fabの結合のELISAを示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(発明の詳細な説明)
本発明は、抗体及び融合タンパク質に見られるものを含め、黄色ブドウ球菌プロテインAに対して変更した結合を有する、IgGドメインの新規の変異体に関する。これら変異体は、野生型ヒトVH領域と比較して、修飾がプロテインAに対するその親和性を変更する一又は複数のアミノ酸修飾を含む、プロテインAに結合するヒトIgG VH領域ないしはその断片を含む。
本明細書中に記載又は参照される技術及び手順は、当業者に一般に十分理解され、従来の方法論を用いて共通して実施される。例えばその例は以下に記載される方法論を広く利用したものである。Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3rd. edition (2001) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel, et al. eds., (2003));the series METHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.): PCR 2: A PRACTICAL APPROACH (M. J. MacPherson, B. D. Hames and G. R. Taylor eds. (1995))、Harlow and Lane, eds. (1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL, and ANIMAL CELL CULTURE (R. I. Freshney, ed. (1987));Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait, ed., 1984); Methods in Molecular Biology, Humana Press;Cell Biology: A Laboratory Notebook (J. E. Cellis, ed., 1998) Academic Press;Animal Cell Culture (R. I. Freshney), ed., 1987);Introduction to Cell and Tissue Culture (J. P. Mather and P. E. Roberts, 1998) Plenum Press;Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures (A. Doyle, J. B. Griffiths, and D. G. Newell, eds., 1993-8) J. Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells (J. M. Miller and M. P. Calos, eds., 1987);PCR: The Polymerase Chain Reaction, (Mullis et al., eds., 1994);Current Protocols in Immunology (J. E. Coligan et al., eds., 1991);Short Protocols in Molecular Biology (Wiley and Sons, 1999);Immunobiology (C. A. Janeway and P. Travers, 1997);Antibodies (P. Finch, 1997);Antibodies: A Practical Approach (D. Catty., ed., IRL Press, 1988-1989);Monoclonal Antibodies: A Practical Approach (P. Shepherd and C. Dean, eds., Oxford University Press, 2000);Using Antibodies: A Laboratory Manual (E. Harlow and D. Lane (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999);The Antibodies (M. Zanetti and J. D. Capra, eds., Harwood Academic Publishers, 1995);及び、Cancer: Principles and Practice of Oncology (V. T. DeVita et al., eds., J.B. Lippincott Company, 1993)。
【0007】
特段の定義のない限り、本明細書中で用いる技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の技術者によって共通して理解されるのと同じ意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, N.Y. 1994), and March, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 4th ed., John Wiley & Sons (New York, N.Y. 1992)は、本出願において使用する多くの用語についての一般的な指針を当業者に提供する。特許出願及び出版物を含む本明細書中で引用されるすべての文献は、出典明記によってその全体が援用される。
【0008】
定義
本出願を理解するために、以下の定義を適用し、必要な場合はいつでも、単数で使用した用語には複数形も含まれ、その逆もそうである。ここで用いた用語は特定の実施態様のみを表すためのものであり、限定されるものではないと解すべきである。以下に示すいずれかの定義が出典明記によって本明細書中に援用されるいずれかの文献と矛盾する場合、以下の定義を調節してもよい。
【0009】
本明細書と特許請求の範囲の全体にわたって、免疫グロブリン重鎖の残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)にあるEUインデックスのものである。「カバットに記載のEUインデックス」は、ヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを指す。
【0010】
本明細書中で用いる「親ポリペプチド」又は「野生型ポリペプチド」とは、非修飾ポリペプチド、天然に生じるポリペプチド、又はここで開示されるアミノ酸修飾の一又は複数を欠き、ここで開示される変異体タンパク質と比較してプロテインA結合が異なる、天然に生じるポリペプチドの操作した修飾型を意味する。親ポリペプチドは、天然配列VH領域又は、既存のアミノ酸配列修飾(例えば付加、欠失及び/又は置換)を有するVH領域を含んでよい。また、親ポリペプチドは、後述するように非天然のアミノ酸を含んでよい。親ポリペプチドは、ポリペプチド自体、親ポリペプチドを含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を指しうる。親ポリペプチドには、限定するものではないが、親免疫グロブリン、野生型免疫グロブリン、親抗体及び野生型抗体が含まれる。
したがって、ここで使用する「親免疫グロブリン」、「親IgG」、「野生型免疫グロブリン」又は「野生型IgG」とは、無修飾免疫グロブリン、天然に生じる免疫グロブリン、又はここで開示するアミノ酸修飾の一又は複数を欠き、ここで開示する変異体IgGと比較してプロテインA結合が異なる天然に生じる免疫グロブリンの操作した修飾型を意味する。親免疫グロブリンは、天然配列VH領域又は、既存のアミノ酸配列修飾(例えば付加、欠失及び/又は置換)を有するVH領域を含んでよい。また、親免疫グロブリンは、後述する非天然のアミノ酸を含んでよい。親免疫グロブリンは、免疫グロブリン自体、親免疫グロブリンを含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を指しうる。
ここで使用する「親抗体」又は「野生型抗体」とは、無修飾抗体、天然に生じる抗体、又はここで開示するアミノ酸修飾の一又は複数を欠き、ここで開示する変異体IgGと比較してプロテインA結合が異なる天然に生じる免疫グロブリンの操作した修飾型を意味する。親抗体は、天然配列VH領域又は、既存のアミノ酸配列修飾(例えば付加、欠失及び/又は置換)を有するVH領域を含んでよい。また、親抗体は、後述する非天然のアミノ酸を含んでよい。親抗体は、抗体自体、親抗体を含む組成物、又はそれをコードするアミノ酸配列を指しうる。
【0011】
ここで用いる「変異体」、「抗体タンパク質」又は「タンパク質変異体」とは、少なくとも一のアミノ酸修飾により、親タンパク質のアミノ酸配列とは異なるタンパク質を意味する。タンパク質変異体は、タンパク質自体、タンパク質を含む組成物又はそれをコードするアミノ配列を指しうる。ある実施態様では、タンパク質変異体は、親ポリペプチドと比較して少なくとも一のアミノ酸修飾、例えばおよそ1からおよそ10のアミノ酸修飾を有する。ここでタンパク質変異体配列は、親タンパク質配列と好ましくは少なくともおよそ80%の相同性、最も好ましくは少なくともおよそ90%の相同性、より好ましくは少なくともおよそ95%の相同性を有するであろう。以下に示すように、タンパク質変異体も非天然のアミノ酸を含みうる。「タンパク質変異体」なる用語は、ここに記載の免疫グロブリン変異体及び抗体変異体を包含する。
ここで使用する「免疫グロブリン変異体」、「変異免疫グロブリン」、「変異体IgG」又は「IgG変異体」なる用語は、少なくとも一のアミノ酸修飾により、親又は野生型の免疫グロブリン配列のアミノ酸と異なる免疫グロブリン配列を意味する。
ここで使用する「抗体変異体」又は「変異抗体」とは、少なくとも一のアミノ酸修飾により、親抗体と異なる抗体を意味する。ある実施態様では、変異抗体は、野生型抗体と比較してVH領域に一又は複数のアミノ酸修飾を有する。ある実施態様では、変異抗体は変異体IgGである。
【0012】
ここで用いる「位置」とはタンパク質の配列内の場所を意味する。位置は、順次、又は、確立された様式、例えばカバットのEUインデックスに従って番号付けされてよい。
「アミノ酸修飾」とは、すでに決定されているアミノ酸配列のアミノ酸配列における変化のことを指す。典型的な修飾には、アミノ酸の置換、挿入及び/もしくは欠失が含まれる。ある実施態様では、アミノ酸修飾は置換である。
特定位置、例えば、Fc領域「におけるアミノ酸修飾」とは、特定された残基の置換もしくは欠失、又は特定され残基に隣接する少なくとも一つのアミノ酸残基の挿入を指す。特定された残基に「隣接する」挿入とは、1又は2残基以内の挿入を意味する。その挿入は、特定された残基のN末端側、もしくはC末端側の場合があり得る。
「アミノ酸置換」とは、すでに決定されているアミノ酸配列に存在する少なくとも一のアミノ酸残基を他の異なる「置換」アミノ酸残基で置き換えることを指す。置換残基もしくは残基群は「天然に生じるアミノ酸残基」(即ち、遺伝コードでコードされるもの)でよく、アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile);ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);及びバリン(Val)からなる群から選択されてよい。ここでのアミノ酸置換の定義には、一又は複数の非天然型アミノ酸残基の置換も包含される。
【0013】
「非天然のアミノ酸残基」とは、上述した天然に生じるアミノ酸残基以外の残基で、ポリペプチド鎖においてアミノ酸残基(一又は複数)に隣接して共有結合し得るものを指す。非天然のアミノ酸残基の例には、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン、及びその他Ellman et al. Meth,Enzym. 202:301-336 (1991);米国特許第6586207号;国際公開98/48032;国際公開03/073238;米国公開特許2004-0214988A1;国際公開05135727A2;国際公開05/74524A2;J. W. Chin et al., (2002), Journal of the American Chemical Society 124:9026-9027;J. W. Chin, & P. G. Schultz, (2002), ChemBioChem 11:1135-1137;及び、J. W. Chin, et al., (2002), PICAS United States of America 99:11020-11024に記載されているようなアミノ酸残基アナログが含まれる。
【0014】
ある実施態様では、「低減する」、「プロテインA結合を低減する」、「減少する」又は「プロテインA結合を減少させる」なる用語は、野生型IgG又は野生型ヒトIgG Fc領域を有するIgGと比較して、本明細書に記載するものなどの標準的な当分野で公知の方法によって検出される本発明の変異体IgGのプロテインA結合における25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、97%又は99%の全体の減少を指す。ある実施態様では、これらの用語は、10倍(すなわち1ログ)、100倍(2ログ)、1000倍(又は3ログ)、10000倍(又は、4ログ)、又は100000倍(又は5ログ)の全体の減少を指しうる。同様に、「増加する」、「プロテインA結合を増やす」などの用語は、野生型IgG又は野生型ヒトIgG Fc領域を有するIgGと比較して、本明細書に記載するものなどの標準的な当分野で公知の方法によって検出される本発明の変異体IgGのプロテインA結合における2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、100倍、又は1000倍の全体の増加を指す。
【0015】
本明細書中の「抗体」は最も広義に用いられ、具体的にはモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び所望の生物学的活性を表す限りにおける抗体断片を包含する。
「単離された」抗体又は他のポリペプチドとは、その自然環境の成分から同定され分離され及び/又は回収されたものである。その自然環境の汚染成分とは、抗体の研究、診断又は治療的な使用を妨害する物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質が含まれる。ある実施態様では、抗体又は他のポリペプチドは、(1)例えばローリー法で測定した場合95%を超える抗体又は他のポリペプチド、ある実施態様では99重量%を超えるまで、(2)例えばスピニングカップシークエネーターを使用することにより、少なくとも15のN末端あるいは内部アミノ酸配列の残基を得るのに十分なほど、あるいは、(3)例えばクーマシーブルーあるいは銀染色を用いた非還元あるいは還元条件下でのSDS-PAGEにより均一になるまで十分なほど精製される。その自然環境の少なくとも一の成分が存在しないため、単離された抗体又は他のポリペプチドには、組換え細胞内のインサイツでの抗体又は他のポリペプチドが含まれる。しかしながら、通常は、単離された抗体又は他のポリペプチドは少なくとも一の精製工程により調製される。
【0016】
「天然抗体」は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の中で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド結合を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(V)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を、他端に定常ドメインを有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間のインターフェイスを形成すると考えられている。
「定常ドメイン」なる用語は、抗原結合部位を含有する免疫グロブリンの他の部分、可変ドメインと比較して、より保存されたアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子の部分を指す。定常ドメインは、重鎖のCH1、CH2及びCH3ドメイン、及び軽鎖のCHLドメインを含有する。
【0017】
抗体の「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体の重鎖又は軽鎖のアミノ末端ドメインを意味する。重鎖の可変ドメインは「VH」と称されうる。軽鎖の可変ドメインは「VL」と称されうる。これらのドメインは一般に抗体の最も可変の部分であり、抗原結合部位を含む。
「可変」という用語は、可変ドメインのある部位が、抗体の中で配列が広範囲に異なっており、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合性及び特異性に使用されているという事実を意味する。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメインにわたって一様には分布していない。軽鎖及び重鎖の可変ドメインの両方の高頻度可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保持された部分はフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、βシート構造を結合し、ある場合にはその一部を形成するループ結合を形成する、3つのHVRにより連結されたβシート配置を主にとる4つのFR領域をそれぞれ含んでいる。各鎖のHVRは、FRによって近接して結合され、他の鎖のHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabatら, Sequence of Proteins ofImmunological Interest, 5th Ed. National Institutes of Health, BEthesda, MD. (1991))。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関連しているものではないが、種々のエフェクター機能、例えばADCCへの抗体の関与を示す。
【0018】
任意の脊椎動物種からの抗体(イムノグロブリン)の「軽鎖」には、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確に区別される型の一つが割り当てられる。
ここで使用するIgG「アイソタイプ」又は「サブクラス」は、その定常領域の化学的及び抗原的特徴によって定義される免疫グロブリンの何れかのサブクラスを意味する。
その重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、抗体(免疫グロブリン)は異なるクラスが割り当てられる。免疫グロブリンには5つの主なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、更にそれらは、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgA等のサブクラス(アイソタイプ)に分かれる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元立体配位はよく知られており、例えば、Abbas等.Cellular and Mol. Immunology, 第4版(2000)(W.B. Saunders, Co., 2000)に概説されている。抗体は、抗体と1以上の他のタンパク質又はペプチドとの共有結合性又は非共有結合性の会合により形成された融合大分子の一部であり得る。
【0019】
ここで使用する「IgGサブクラス修飾」なる用語は、一のIgGアイソタイプの一アミノ酸を、異なる、整列配置したIgGアイソタイプ内の対応するアミノ酸に変換するアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgG1がチロシンを含み、IgG2がEU位置296にフェニルアラニンを含むので、IgG2のF296Y置換はIgGサブクラス修飾とみなす。
ここで使用する「非天然の修飾」は、アイソタイプでないアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgGのいずれもが位置332にグルタミン酸を含んでいないので、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の位置332でのグルタミン酸による置換(332E)は非天然の修飾とみなす。
【0020】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、ほぼインタクトな形態の抗体を指す。この用語は、特にFc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。 抗体のC末端リジン(EU番号付けシステムによれば残基447)は、例えば、抗体の精製中に、又は抗体をコードする核酸の組換え操作によって取り除かれてもよい。これらの用語はここで使用されるので、このC末端リジンを有する又は有さない抗体は「完全長」、「インタクト」又は「全」である。
本明細書中の「ネイキッド抗体」は、細胞障害性部分又は放射性標識にコンジュゲートしていない抗体である。
「抗体断片」は、好ましくは抗原結合領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。ある実施態様では、抗体断片は、Fc領域、又はここで開示される一又は複数のFc領域修飾を含むFc領域の一部を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab'、F(ab')及びFv断片;ダイアボディ;線形抗体;単鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多特異性抗体が含まれる。
【0021】
抗体のパパイン消化は、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗体結合断片を生成し、その各々は単一の抗原結合部位を持ち、残りは容易に結晶化する能力を反映して「Fc」断片と命名される。ペプシン処理はF(ab')断片を生じ、それは2つの抗原結合部位を持ち、抗原を交差結合することができる。
「Fv」は、完全な抗原結合部位を含む最小抗体断片である。ある実施態様では、二本鎖Fv種は、堅固な非共有結合をなした一つの重鎖及び一つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。一本鎖Fv(scFv)種では、柔軟なペプチドリンカーによって1の重鎖及び1の軽鎖可変ドメインは共有結合性に連鎖することができ、よって軽鎖及び重鎖は、二本鎖Fv種におけるものと類似の「二量体」構造に連結することができる。この配置において、各可変ドメインの3つのHVRは相互に作用してVH-VL二量体表面に抗原結合部位を形成する。集合的に、6つのHVRが抗体に抗原結合特異性を付与する。しかし、単一の可変ドメイン(又は抗原に対して特異的な3つのHVRのみを含むFvの半分)でさえ、全結合部位よりも親和性が低くなるが、抗原を認識して結合する能力を有している。
【0022】
またFab断片は、重鎖及び軽鎖の可変ドメインを含み、軽鎖の定常ドメインと重鎖の第一定常領域(CH1)を有する。Fab'断片は、抗体ヒンジ領域からの一又は複数のシステインを含む重鎖CH1領域のカルボキシ末端に数個の残基が付加している点でFab断片とは異なる。Fab'-SHは、定常ドメインのシステイン残基が一つの遊離チオール基を担持しているFab'に対するここでの命名である。F(ab')抗体断片は、間にヒンジシステインを有するFab'断片の対として生産された。また、抗体断片の他の化学結合も知られている。
「一本鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含み、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。通常、scFvポリペプチドはVH及びVLドメイン間にポリペプチドリンカーを更に含み、それはscFvが抗原結合に望まれる構造を形成するのを可能にする。scFvの概説については、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg及びMoore編, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)のPluckthunを参照のこと。
【0023】
「ダイアボディ」なる用語は、2つの抗原結合部位を持つ抗体断片を指し、その断片は同一のポリペプチド鎖(VH−VL)内で軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)が結合してなる。非常に短いために同一鎖上で2つのドメインの対形成が可能であるリンカーを使用して、ドメインを他の鎖の相補ドメインと強制的に対形成させ、2つの抗原結合部位を創製する。ダイアボディは二価でも二特異性であってもよい。ダイアボディは、例えば、欧州特許第404097号;国際公開第93/11161号;Hudson等 (2003) Nat. Med. 9:129-134;及びHollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA 90:6444-6448 (1993)に更に詳細に記載されている。トリアボディ及びテトラボディもまたHudson等 (2003) Nat. Med. 9:129-134に記載されている。
【0024】
ここで使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団に含まれる個々の抗体は、少量で存在しうる可能性がある突然変異、例えば自然に生じる突然変異を除いて同一である。従って、「モノクローナル」との形容は、個別の抗体の混合物ではないという抗体の性質を示す。ある実施態様では、このようなモノクローナル抗体は、通常、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、この場合、標的に結合するポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列から単一の標的結合ポリペプチド配列を選択することを含むプロセスにより得られる。例えば、この選択プロセスは、雑種細胞クローン、ファージクローン又は組換えDNAクローンのプールのような複数のクローンからの、唯一のクローンの選択とすることができる。重要なのは、選択された標的結合配列を更に変化させることにより、例えば標的への親和性の向上、標的結合配列のヒト化、細胞培養液中におけるその産生の向上、インビボでの免疫原性の低減、多選択性抗体の生成等が可能になること、並びに、変化させた標的結合配列を含む抗体も、本発明のモノクローナル抗体であることである。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体の調製物とは異なり、モノクローナル抗体の調製物の各モノクローナル抗体は、抗原の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体の調製物は、それらが他の免疫グロブリンで通常汚染されていないという点で有利である。
「モノクローナル」との形容は、抗体の、実質的に均一な抗体の集団から得られたものであるという特性を示し、抗体を何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は様々な技術によって作製することができ、それらの技術には、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler and Milstein, Nature, 256:495-97 (1975);Hongo等, Hybridoma, 14 (3): 253-260 (1995);Harlow等, Antibodies: A Laboratory Manual, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2nd ed. 1988);Hammerling等: Monoclonal Antibodies and T-Cell hybridomas 563-681 (Elsevier, N. Y., 1981))、組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号参照)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991);Marks等, J. Mol. Biol. 222:581-597 (1992);Sidhu等, J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004);Lee等, J. Mol. Biol. 340(5);1073-1093 (2004);Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);及びLee等, J. Immounol. Methods 284(1-2): 119-132 (2004))、並びに、ヒト免疫グロブリン座位の一部又は全部、或るいはヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子を有する動物にヒト又はヒト様抗体を生成する技術(例えば、国際公開第98/24893号;国際公開第96/34096号;国際公開第96/33735号;国際公開第91/10741号;Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362: 255-258 (1993);Bruggemann等, Year in Immunol. 7:33 (1993);米国特許第5545807号;同第5545806号;同第5569825号;同第5625126号;同第5633425号;同第5661016号; Marks等, Bio.Technology 10: 779-783 (1992);Lonberg等, Nature 368: 856-859 (1994);Morrison, Nature 368: 812-813 (1994);Fishwild等, Nature Biotechnol. 14: 845-851 (1996);Neuberger, Nature Biotechnol. 14: 826 (1996)及びLonberg及びHuszar, Intern. Rev. Immunol. 13: 65-93 (1995)参照)が含まれる。
【0025】
ここでモノクローナル抗体は、特に「キメラ」抗体を含み、それは特定の種由来又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致する又は類似する重鎖及び/又は軽鎖の一部であり、残りの鎖は、所望の生物学的活性を表す限り、抗体断片のように他の種由来又は他の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体において、対応する配列に一致するか又は類似するものである(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855(1984))。キメラ抗体には、抗体の抗原結合領域が例えば対象の抗原をマカクザルに免疫投与することによって作製される抗体に由来している、PRIMATIZED(登録商標)抗体が含まれる。
【0026】
非ヒト(例えばマウス)の抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。一実施態様では、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の特異性、親和性及び/又は能力を有する非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)からの高頻度可変領域の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。例として、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、もしくはドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の特性をさらに洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいは実質的に全てのFRが、ヒト免疫グロブリン配列のものである少なくとも一又は典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むであろう。また、ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、例えばJones等, Nature 321:522-525(1986);Riechmann等, Nature 332:323-329(1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596(1992)を参照のこと。また例としてVaswani及びHamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998);Harris, Biochem. Soc. Transactions 23:1035-1038 (1995);Hurle及びGross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433 (1994);米国特許第6982321号及び同第7087409号も参照のこと。
【0027】
「ヒト抗体」は、ヒトによって生産される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するもの、及び/又はここで開示されたヒト抗体を製造するための何れかの技術を使用して製造されたものである。ヒト抗体のこの定義は、特に非ヒト抗原結合残基を含んでなるヒト化抗体を除く。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリを含む、当該分野で知られている様々な技術を使用して生産することが可能である。Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581 (1991)。また、Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);Boerner et al., J. Immunol., 147(1): 86-95 (1991)において記述される方法は、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用できる。van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol., 5: 368-74 (2001)も参照のこと。抗原刺激に応答して抗体を産生するように修飾されているが、その内在性遺伝子座が無効になっているトランスジェニック動物、例えば免疫化ゼノマウスに抗原を投与することによってヒト抗体を調製することができる(例として、XENOMOUSETM技術に関する米国特許第6075181号及び同第6150584号を参照)。また、例えば、ヒトのB細胞ハイブリドーマ技術によって生成されるヒト抗体に関するLi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006)も参照のこと。
【0028】
ここで使用される「高頻度可変領域」、「HVR」又は「HV」なる用語は、配列において高頻度可変であり、及び/又は構造的に定まったループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、抗体は6つのHVRを含み;VHに3つ(H1、H2、H3)、VLに3つ(L1、L2、L3)である。天然の抗体では、H3及びL3は6つのHVRのうちで最も高い多様性を示す、特にH3は抗体に良好な特異性を与える際に特有の役割を果たすように思われる。例として、Xu等 (2000) Immunity 13:37-45;Methods in Molecular Biology 248:1-25 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ)のJohnson and Wu (2003)を参照。実際、重鎖のみからなる天然に生じるラクダ科の抗体は機能的であり、軽鎖が無い状態で安定である。Hamers-Casterman等 (1993) Nature 363:446-448;Sheriff等 (1996) Nature Struct. Biol. 3:733-736。
多数のHVRの描写が使用され、ここに含まれる。カバット相補性決定領域(CDR)は配列変化に基づいており、最も一般的に使用されている(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))。Chothiaは、代わりに構造的ループの位置に言及している(Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbM HVRは、カバットHVRとChothia構造的ループの間の妥協を表し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される。「接触」HVRは、利用できる複合体結晶構造の分析に基づく。これらHVRのそれぞれからの残基を以下に示す。
【0029】

【0030】
HVRは、次のような「拡大HVR」を含むことができる、即ち、VLの24−36又は24−34(L1)、46−56又は50−56(L2)及び89−97又は89−96(L3)と、VHの26−35(H1)、50−65又は49−65(H2)及び93−102、94−102、又は95−102(H3)である。可変ドメイン残基には、これら各々を規定するために、上掲のKabat等に従って番号を付した。
「フレームワーク」又は「FR」残基は、ここで定義する高頻度可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0031】
「カバット(Kabat)による可変ドメイン残基番号付け」又は「カバットに記載のアミノ酸位番号付け」なる用語及びその異なる言い回しは、上掲のKabat 等の抗体の編集の軽鎖可変ドメイン又は重鎖可変ドメインに用いられる番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを用いると、実際の線形アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はHVR内の短縮又は挿入に相当する2、3のアミノ酸又は付加的なアミノ酸を含みうる。例えば、重鎖可変ドメインには、重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えばカバットによる残基82a、82b及び82cなど)と、H2の残基52の後に単一アミノ酸の挿入(Kabatによる残基52a)を含んでもよい。残基のKabat番号は、「標準の」カバット番号付け配列によって抗体の配列の相同領域でアライメントすることによって与えられる抗体について決定してもよい。
カバット番号付けシステムは一般に、可変ドメイン内の残基を指す場合に用いられる(軽鎖のおよそ残基1−107及び重鎖の残基1−113)(例えばKabat et al., Sequences of Immunological Interest. 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。「EU番号付けシステム」又は「EUインデックス」は一般に、イムノグロブリン重鎖定常領域を指す場合に用いられる(例えば上掲のKabat et al.において報告されたEUインデックス)。「カバットにおけるEUインデックス」はヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを指す。本明細書中で特に明記しない限り、抗体の可変ドメイン内の残基番号の参照は、カバット番号付けシステムによって番号付けする残基を意味する。本明細書中で特に明記しない限り、抗体の定常ドメイン内の残基番号の参照は、EU番号付けシステムによる残基番号付けを意味する(例えば国際公開WO2006073941を参照のこと)。
【0032】
「親和性成熟」抗体とは、その改変を有していない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性に改良を生じせしめる、その一又は複数のHVRにおいて一又は複数の改変を持つものである。一実施態様では、親和成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル又はピコモルの親和性を有する。親和成熟抗体は、当該分野において知られているある手順を用いて生産されてよい。例えば、Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和成熟について記載している。HVR及び/又はフレームワーク残基のランダム突然変異誘導は、例としてBarbas等, Proc Nat Acad. Sci, USA 91:3809-3813(1994);Schier等, Gene, 169:147-155(1995);Yelton等, J. Immunol.155:1994-2004(1995);Jackson等, J. Immunol.154(7):3310-9(1995);及びHawkins等, J. Mol. Biol.226:889-896(1992)に記載されている。
【0033】
抗体の「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に帰する生物学的活性を意味し、抗体のアイソタイプにより変わる。抗体のエフェクター機能の例には、C1q結合及び補体依存性細胞障害;Fcレセプター結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC);貪食作用;細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化が含まれる。
「Fc領域」なる用語は、天然配列Fc領域及び変異形Fc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は変化するかも知れないが、通常、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226の位置又はPro230からの位置のアミノ酸残基からFc領域のカルボキシル末端まで伸長すると定義される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによれば残基447)は、例えば、抗体の産生又は精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組み換え遺伝子操作することによって取り除かれてもよい。したがって、インタクト抗体の組成物は、すべてのK447残基が除去された抗体群、K447残基が除去されていない抗体群、及びK447残基を有する抗体と有さない抗体の混合を含む抗体群を含みうる。ある実施態様では、免疫グロブリンのFc領域は、2つの定常ドメイン、CH2及びCH3を含む。
【0034】
ヒトIgGの「VHドメイン」は、通常およそアミノ酸1からおよそアミノ酸113に伸展する。
ヒトのIgG Fc領域の「CH2ドメイン」(「Cγ2」ドメインとも称する)は、通常およそアミノ酸231からおよそアミノ酸340に伸展する。CH2ドメインは、他のドメインと密接には対にならない点で固有である。むしろ、2つのN連結分岐型糖鎖は、完全な天然のIgG分子の2つのCH2ドメイン間に配置する。糖質はドメイン−ドメイン対形成のための置換を提供し、CH2ドメインの安定を促しうることが推測されている。Burton, Molec. Immunol. 22:161-206 (1985)。
「CH3ドメイン」は、Fc領域のCH2ドメインのC末端に残基の伸展を含む(すなわちIgGのおよそアミノ酸残基341からおよそアミノ酸残基447まで)。
【0035】
「機能的Fc領域」は、天然配列Fc領域の「エフェクター機能」を有する。例示的「エフェクター機能」には、C1q結合、補体依存性細胞障害作用(CDC)、Fcレセプター結合、抗体依存性細胞媒介性細胞障害作用(ADCC)、食作用、細胞表面レセプター(例えばB細胞レセプター;BCR)の下方制御などが含まれる。そのようなエフェクター機能は、通常、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わさることを必要とし、様々なアッセイを使用して評価される。
「変異体Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾により、天然配列のFc領域とは異なるアミノ酸配列を含むものである。
【0036】
「Fcレセプター」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合するレセプターを記載するものである。ある実施態様では、FcRは天然のヒトFcRである。ある実施態様では、FcRはIgG抗体(ガンマレセプター)を結合するもので、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスのレセプターを含み、これらのレセプターの対立遺伝子変異体、選択的にスプライシングされた形態のものも含まれる。FcγRIIレセプターには、FcγRIIA(「活性型レセプター」)及びFcγRIIB(「阻害型レセプター」)が含まれ、主としてその細胞質ドメインは異なるが、類似のアミノ酸配列を有するものである。活性型レセプターFcγRIIAは、細胞質ドメインにチロシン依存性免疫レセプター活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activation motif ;ITAM)を含んでいる。阻害型レセプターFcγRIIBは、細胞質ドメインにチロシン依存性免疫レセプター阻害性モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif;ITIM)を含んでいる(例としてDaeron, Annu. Rev. immunol. 15:203-234 (1997)を参照)。FcRに関しては、 例としてRavetch and Kinet, Annu.Rev. Immunol. 9:457-492 (1991);Capel等, Immunomethods 4:25-34 (1994);及びde Haas等, J.Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995) に概説されている。今後同定されるものも含め、他のFcRも本明細書中の「FcR」なる用語に包含される。
【0037】
「補体依存性細胞障害」もしくは「CDC」は、補体の存在下で標的を溶解することを意味する。典型的な補体経路の活性化は補体系(Clq)の第1補体が、同族抗原と結合した(適切なサブクラスの)抗体に結合することにより開始される。補体の活性化を評価するために、CDCアッセイを、例えばGazzano-Santoro等, J. Immunol. Methods 202:163 (1996)に記載されているように実施することができる。Fc領域アミノ酸配列を変更して(変異体Fc領域を有するポリペプチド)C1q結合能力が増大又は減少したポリペプチド変異体は、例として米特許第6194551号B1及び国際公開公報99/51642に記述される。また例としてIdusogie 等 J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000)を参照のこと。
【0038】
一般的に「結合親和性」は、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合的な相互作用の総合的な強度を意味する。特に明記しない限り、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば抗体と抗原)間の1:1相互作用を反映する内因性結合親和性を意味する。一般的に、分子XのそのパートナーYに対する親和性は、解離定数(Kd)、会合定数の回帰(Ka)として表される。親和性は、本明細書中に記載のものを含む当業者に公知の共通した方法によって測定することができる。低親和性抗体は抗原にゆっくり結合して及び/又は素早く解離する傾向があるのに対し、高親和性抗体は抗原により早く及び/又はより長く結合したままとなる。結合親和性の様々な測定方法が当分野で公知であり、それらの何れかを本発明のために用いることができる。以下に結合親和性を測定するための具体的な例示的実施態様を記載する。
【0039】
ある実施態様では、本発明による「K」、「K」、「Kd」又は「Kd値」は、〜10反応単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃のBIAcore(登録商標)-2000又はBIAcore(登録商標)-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)にて表面プラズモン共鳴アッセイを行って測定される。簡単に言うと、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5, BIAcore Inc.)を、提供者の指示書に従ってN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシニミド(NHS)で活性化した。抗原を10mM 酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(〜0.2μM)に希釈し、結合したタンパク質の反応単位(RU)がおよそ10になるように5μl/分の流速で注入した。抗原の注入後、反応しない群をブロックするために1Mのエタノールアミンを注入した。動力学的な測定のために、段階希釈したポリペプチド、例えば完全長抗体を25℃、およそ25μl/分の流速で0.05%Tween20TM界面活性剤(PBST)を含むPBSに注入した。会合及び解離のセンサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model) (BIAcore Evaluationソフトウェアバージョン3.2)を用いて、会合速度(kon)と解離速度(koff)を算出した。平衡解離定数(Kd)をkoff/kon比として算出した。例として、Chen, Y.,等, (1999) J. Mol Biol 293:865-881を参照。上記の表面プラスモン共鳴アッセイによる結合速度が10−1−1を上回る場合、分光計、例えば、流動停止を備えた分光光度計(stop-flow equipped spectrophometer)(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-AmincoTM分光光度計(ThermoSpectronic)で測定される、漸増濃度の抗原の存在下にて、PBS(pH7.2)、25℃の、20nMの抗抗原抗体の蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、帯域通過=16nm)における増加又は減少を測定する蛍光消光技術を用いて結合速度を測定することができる。
また、本発明の「結合速度」又は「会合の速度」又は「会合速度」又は「kon」は、〜10反応単位(RU)の固定した抗原CM5チップを用いて25℃のBIAcore(登録商標)-2000又はBIAcore(登録商標)-3000(BIAcore, Inc., Piscataway, NJ)を用いた前述と同じ表面プラズモン共鳴アッセイにて測定される。
【0040】
ここで用いる「実質的に類似」、「実質的に同じ」なる用語は、当業者が2つの数値の差異に、該値(例えばKd値)によって測定される生物学的性質上わずかに又は全く生物学的及び/又は統計学的有意差がないと認められるほど、2つの数値が有意に類似していることを意味する。ある実施態様では、前記2つの値間の差異は、参照/比較値の例えば約50%以下、約40%以下、約30%以下、約20%以下、及び/又は約10%以下である。
ここで用いる「実質的に低減する」又は「実質的に異なる」という句は、当業者が2つの数値の差異に、該値(例えばKd値)によって測定される生物学的性質上統計学的に有意であると認められるほど、2つの数値が有意に異なっていることを意味する。ある実施態様では、前記2つの値間の差異は、参照/比較分子の値の、例えば約10%より大きく、約20%より大きく、約30%より大きく、約40%より大きく、及び/又は約50%より大きい。
【0041】
「精製」とは、分子が、含まれる試料中の重量にして少なくとも95%、又は重量にして少なくとも98%の濃度で試料中に存在することを意味する。
「単離された」核酸分子は、例えば天然の環境に通常付随している少なくとも一の他の核酸分子から分離された核酸分子である。さらに、単離された核酸分子は、例えば、核酸分子を通常発現するが、その核酸分子がその天然の染色体位置と異なる染色体位置にあるか又は染色体外に存在する、細胞に含まれる核酸分子を含む。
【0042】
ここで使用される「ベクター」という用語は、それが結合している他の核酸を輸送することのできる核酸分子を意味するものである。一つのタイプのベクターは「プラスミド」であり、これは付加的なDNAセグメントが結合されうる円形の二本鎖DNAを意味する。他の型のベクターはファージベクターである。他の型のベクターはウイルスベクターであり、付加的なDNAセグメントをウイルスゲノムへ結合させうる。所定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内において自己複製することができる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクターとエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、宿主ゲノムと共に複製する。更に、所定のベクターは、それらが作用可能に結合している遺伝子の発現を指令し得る。このようなベクターはここでは「組換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と呼ぶ。一般に、組換えDNA技術で有用な発現ベクターはしばしばプラスミドの形をとる。本明細書では、プラスミドが最も広く使用されているベクターの形態であるので、「プラスミド」と「ベクター」を相互交換可能に使用する場合が多い。
【0043】
ここで使用される「ポリヌクレオチド」又は「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを意味し、DNA及びRNAが含まれる。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド又は塩基、及び/又はそれらの類似体(アナログ)、又はDNAもしくはRNAポリメラーゼにより、もしくは合成反応によりポリマー中に取り込み可能な任意の基質とすることができる。ポリヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びそれらの類似体を含み得る。存在するならば、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリマーの組み立ての前又は後になされ得る。ヌクレオチドの配列は非ヌクレオチド成分により中断されてもよい。ポリヌクレオチドは合成後になされる修飾(一又は複数)、例えば標識との結合を含みうる。他のタイプの修飾には、例えば「キャップ(caps)」、類似体との自然に生じたヌクレオチドの一又は複数の置換、ヌクレオチド間修飾、例えば非荷電連結(例えばホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミダート、カルバマート等)及び荷電連結(ホスホロチオアート、ホスホロジチオアート等)を有するもの、ペンダント部分、例えばタンパク質(例えばヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ply-L-リジン等)を含むもの、インターカレータ(intercalators)を有するもの(例えばアクリジン、ソラレン等)、キレート剤(例えば金属、放射性金属、ホウ素、酸化的金属等)を含むもの、アルキル化剤を含むもの、修飾された連結を含むもの(例えばアルファアノマー核酸等)、並びにポリヌクレオチド(類)の未修飾形態が含まれる。更に、糖類中に通常存在する任意のヒドロキシル基は、例えばホスホナート基、ホスファート基で置き換えられてもよく、標準的な保護基で保護されてもよく、又は付加的なヌクレオチドへのさらなる連結を調製するように活性化されてもよく、もしくは固体又は半固体担体に結合していてもよい。5'及び3'末端のOHはホスホリル化可能であり、又は1〜20の炭素原子を有する有機キャップ基部分又はアミンで置換することもできる。また他のヒドロキシルは標準的な保護基に誘導体化されてもよい。またポリヌクレオチドは当該分野で一般的に知られているリボース又はデオキシリボース糖類の類似形態のものをさらに含み得、これらには例えば2'-O-メチル-、2'-O-アリル、2'-フルオロ又は2'-アジド-リボース、炭素環式糖の類似体、アルファ-アノマー糖、エピマー糖、例えばアラビノース、キシロース類又はリキソース類、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式類似体、及び非塩基性ヌクレオシド類似体、例えばメチルリボシドが含まれる。一又は複数のホスホジエステル連結は代替の連結基で置き換えてもよい。これらの代替の連結基には、限定されるものではないが、ホスファートがP(O)S(「チオアート」)、P(S)S(「ジチオアート」)、「(O)NR(「アミダート」)、P(O)R、P(O)OR'、CO又はCH(「ホルムアセタール」)と置き換えられた実施態様のものが含まれ、ここでそれぞれのR及びR'は独立して、H又は、エーテル(-O-)結合を含んでいてもよい置換もしくは未置換のアルキル(1-20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル又はアラルジル(araldyl)である。ポリヌクレオチド中の全ての結合が同一である必要はない。先の記述は、RNA及びDNAを含むここで引用される全てのポリヌクレオチドに適用される。
ここで使用される「オリゴヌクレオチド」とは、短く、一般的に単鎖であり、また必ずしもそうではないが、一般的に約200未満のヌクレオチド長さの、一般的に合成のポリヌクレオチドを意味する。「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」なる用語は、相互に排他的なものではない。ポリヌクレオチドについての上述した記載はオリゴヌクレオチドと等しく、十分に適用可能である。
【0044】
「コントロール配列」という表現は、特定の宿主生物において作用可能に結合したコード配列を発現するために必要なDNA配列を指す。例えば原核生物に好適なコントロール配列は、プロモーター、場合によってはオペレータ配列と、リボソーム結合部位を含む。真核生物の細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを利用することが知られている。
核酸は、他の核酸配列と機能的な関係にあるときに「作用可能に結合し」ている。例えば、プレ配列或いは分泌リーダーのDNAは、ポリペプチドの分泌に参画するプレタンパク質として発現されているなら、そのポリペプチドのDNAに作用可能に結合しているか、プロモーター又はエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼすならば、コード配列に作用可能に結合しているか、又はリボソーム結合部位は、もしそれが翻訳を容易にするような位置にあるなら、コード配列と作用可能に結合している。一般的に、「作用可能に結合している」とは、結合したDNA配列が近接しており、分泌リーダーの場合には近接していて読みフェーズにあることを意味する。しかし、エンハンサーは必ずしも近接している必要はない。結合は簡便な制限部位でのライゲーションにより達成される。そのような部位が存在しない場合は、従来の手法に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプター或いはリンカーが使用される。
【0045】
本明細書中で用いる「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養物」なる表現は相互に交換可能に用いられ、かかる標記は子孫を含む。よって、「形質転換体」や「形質転換細胞」のような用語には、初代対象細胞と何世代経たかを問わずそれから由来した培養物とを含む。全ての子孫が、意図的な突然変異あるいは意図せざる突然変異のため、正確に同一のDNA内容であるわけではないことも理解される。最初に形質転換された細胞に対してスクリーニングされたものと同じ機能あるいは生物的活性を有する突然変異子孫も含まれる。異なる表記であっても、文脈から明らかであろう。
【0046】
本明細書で使われるように、「コドンセット」は所望の変異体アミノ酸をコードするのに用いられる、一組の異なるヌクレオチドトリプレット配列を指す。一組のオリゴヌクレオチドは、コドンセットによって提供されるヌクレオチドトリプレットの可能な組合せのすべてを表す配列であって所望のアミノ酸群をコードする配列を含み、例えば固相法によって合成することができる。標準的なコドン指定形式はIUBコードのものであり、このコードは当技術分野で公知であり本明細書で記載されている。コドンセットは、一般的に、イタリック体の3文字、例えばNNK、NNS、XYZ、DVKなどで表される。ゆえに、本明細書中で用いられる「非ランダムコドンセット」とは、ここに記載のアミノ酸選別の基準を部分的、好ましくは完全に満たす選択アミノ酸をコードするコドンセットを指す。ある位置の選択されたヌクレオチド「縮重」によるオリゴヌクレオチドの合成は当技術分野で公知であり、例えば、TRIM手法が知られている(Knappek et al., J. Mol. Biol. 296:57-86, 1999);Garrard and Henner, Gene 128:103, 1993)。そのようなある種のコドンセットを有するオリゴヌクレオチドのセットは、市販の核酸シンセサイザー(Applied Biosystems, Foster City, CAなどから入手可能)を使って合成することができ、又は市販品を入手することができる(例えば、Life Technologies, Rockville, MDから)。したがって、特定のコドンセットを有する合成オリゴヌクレオチドセットは、一般的に異なる配列の複数のオリゴヌクレオチドを含み、この相違は配列全体の中のコドンセットによるものである。本発明で使用されるように、オリゴヌクレオチドは可変ドメイン核酸テンプレートへのハイブリダイゼーションを可能にする配列を有し、また、そうするとは限らないが、例えばクローニングに役立つ制限酵素部位を含むこともできる。
【0047】
「線形抗体」という表現は、Zapata等, Protein Eng. 8(10):1057-1062 (1995)に記載された抗体を意味する。簡単に言えば、これら抗体は、相補的な軽鎖ポリペプチドと共に抗原結合領域の対を形成する一対の直列のFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。直鎖状抗体は二重特異性であっても単一特異性であってもよい。
ここで用いる「ライブラリ」は、本発明の方法によって配列内に導入する変異アミノ酸の組合せが異なっている配列をコードする核酸、又は抗体ないしは抗体断片配列(例えば、本発明の変異型IgG)の複数を指す。
【0048】
ここで同定した参照ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」とは、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入し、如何なる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした後の、特定の参照ポリペプチド配列のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を測定する目的のためのアラインメントは、当業者の技量の範囲にある種々の方法、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウエアのような公に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用することにより達成可能である。当業者であれば、比較される配列の完全長に対して最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインメントするための適切なパラメータを決定することができる。しかし、ここでの目的のためには、%アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用することによって得られる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはジェネンテック社によって作製され、ソースコードは米国著作権庁, ワシントンD.C., 20559に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087で登録されている。ALIGN-2プログラムはジェネンテック社、サウス サン フランシスコ, カリフォルニアから公的に入手可能であり、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、UNIX(登録商標)オペレーティングシステム、好ましくはデジタルUNIX(登録商標)V4.0Dでの使用のためにコンパイルされる。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定され変動しない。
【0049】
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、与えられたアミノ酸配列Aの、与えられたアミノ酸配列Bとの、又はそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、与えられたアミノ酸配列Bと、又はそれに対して或る程度の%アミノ酸配列同一性を持つ又は含む与えられたアミノ酸配列Aと言うこともできる)は次のように計算される:
分率X/Yの100倍
ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2のA及びBのプログラムアラインメントによって同一であると一致したスコアのアミノ酸残基の数であり、YはBの全アミノ酸残基数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。特に断らない限りは、ここでの全ての%アミノ酸配列同一性値は、直ぐ上のパラグラフに示したようにALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られる。
【0050】
「薬学的製剤」なる用語は、有効である活性成分の生物学的活性を許容するような形態で存在し、製剤を投与する被検体にとって許容できない毒性がある他の成分を含まない調製物を指す。このような製剤は無菌であってよい。
「無菌の」製剤は、防腐性であるか、又は生きているすべての微生物及びそれらの胞子を含まない。
ここで用いられる「担体」は、製薬的に許容されうる担体、賦形剤、又は安定化剤を含み、用いられる服用量及び濃度でそれらに曝露される細胞又は哺乳動物に対して非毒性である。生理学的に許容されうる担体は、水性pH緩衝溶液であることが多い。生理学的に許容されうる担体の例には、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸塩等のバッファー;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン;疎水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン;グルコース、マンノース又はデキストランを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;及び/又は非イオン性界面活性剤、例えば、TWEENTM、ポリエチレングリコール(PEG)、及びPLURONICSTMを含む。
【0051】
抗体
本出願は、IgGの生物学的性質を変えるアミノ酸修飾を含む変異体IgG免疫グロブリンに関する。本出願の変異体免疫グロブリンには、野生型抗体と比較してプロテインAに対して変化した結合を表す抗体が含まれる。
抗体は、特定の抗原に対して結合特異性を表すタンパク質である。天然抗体は、通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖からなる、約150000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は一つの共有ジスルフィド結合により重鎖に結合しており、ジスルフィド結合の数は、異なった免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の中で変化する。また各重鎖と軽鎖は、規則的に離間した鎖間ジスルフィド結合を有している。各重鎖は、多くの定常ドメインが続く可変ドメイン(VH)を一端に有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(VL)を、他端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が、軽鎖及び重鎖可変ドメイン間の界面を形成すると考えられている。
それらの重鎖の定常領域のアミノ酸配列に応じて、抗体又は免疫グロブリンは異なるクラスに割り当てられてよい。免疫グロブリンにはIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMの5つの主なクラスがあり、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4;IgA1及びIgA2にさらに分類されうる。様々なヒトのIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のアロタイプが記載されている(M.-P. LeFranc and G. LeFranc in: "The Human IgG Subclasses," F. Shakib (ed.), pp. 43-78, Pergamon Press, Oxford (1990)によって概説される)。IgG1、IgG2s、IgG3及びIgG4を含むIgGクラスの異なるアイソタイプは、固有の物理的、生物学的、及び臨床上の性質を有する。ヒトIgG1は治療目的のために最も一般的に用いられる抗体であり、これに関連して大多数の工学研究がなされてきた。
【0052】
抗体断片
本発明は抗体断片を包含する。重鎖及び軽鎖の可変領域を含む抗体に特に関心がある。ある実施態様では、抗体断片は、Fc領域を含む変異体免疫グロブリン(IgG)の断片である。抗体断片は、酵素消化等の従来の手段によって、又は、組換え技術によって生成されてよい。
抗体断片を産生するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化によって誘導された(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照のこと)。しかし、これらの断片は、現在は組換え宿主細胞により直接産生することができる。Fab、Fv及びScFv抗体断片は全て、大腸菌で発現させ分泌させることができ、従って、大量のこれら断片の産生が容易となった。抗体断片は、抗体ファージライブラリーから単離することができる。ある実施態様では、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収することができ、化学的に結合させてF(ab')断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片を生成するのための他の方法は、当業者には明らかであろう。また、抗体断片は、例えば米国特許第5641870号に記載されているような「線状抗体」であってもよい。そのような線状抗体断片は単一特異性又は二重特異性であってもよい。
【0053】
ヒト化抗体
本発明はヒト化抗体を包含する。ある実施態様では、ヒト化抗体は、野生型IgGと比較してFc領域内に一又は複数のアミノ酸修飾を有するヒト化変異体IgGである。非ヒト抗体をヒト化するための様々な方法が従来技術に既知である。例えば、ヒト化抗体は、非ヒトのソースからそれに導入された一以上のアミノ酸残基を有することができる。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「移入」残基と呼ばれ、一般に「移入」可変ドメインに由来する。ヒト化は、基本的にヒト抗体の該当する配列を高頻度可変領域配列で置換することにより、Winter及び共同研究者(Jones等(1986)Nature 321:522-525;Riechmann等(1988)Nature, 332:323-327;Verhoeyen等(1988)Science 239:1534-1536)の方法に従って実施される。よって、このような「ヒト化」抗体は、インタクトなヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は典型的には幾つかの高頻度可変領域残基が、及び場合によっては幾つかのFR残基が齧歯類抗体の類似する部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。
【0054】
ヒト化抗体の作製に使用されるヒト可変ドメインの選択は、軽鎖及び重鎖いずれも、抗原性を減らすために重要である。いわゆる「最良に適合する(ベストフィット)」方法によれば、齧歯類抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。ついで、齧歯類の配列に最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワークとして受け入れる(例としてSims等(1993)J. Immunol. 151:2296;Chothia等(1987)J. Mol. Biol. 196:901を参照)。別の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全ヒト抗体のコンセンサス配列から得られた特定のフレームワークを使用する。同じフレームワークを数種の異なるヒト化抗体に使用することができる。例としてCarter等(1992)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285;Presta等(1993)J. Immunol., 151:2623を参照。
【0055】
更には、抗体は、抗原に対する高い親和性及びその他の望ましい生物学的特性を保持してヒト化されることが一般に好ましい。この目的を達成するために、一方法では、親の配列及びヒト化配列の三次元モデルを用いて、親配列及び様々な概念上のヒト化産物を分析するプロセスにより、ヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般に利用可能であり、当業者に周知である。選択された候補免疫グロブリン配列の、ありそうな三次元立体配置的構造を図解し表示するコンピュータプログラムが利用可能である。このような表示を検査することにより、候補免疫グロブリン配列が機能する際に残基が果たすと思われる役割を分析することができ、つまり候補免疫グロブリンの、その抗原に対する結合能に影響する残基を分析することができる。このように、レシピエント及び重要な配列からFR残基を選択して組み合わせることにより、所望の抗体特性、例えば標的とする抗原に対する親和性の増大を達成することができる。一般に、高頻度可変領域残基は、抗原の結合に対する影響に、直接的に且つ最も実質的に関わっている。
【0056】
ヒト抗体
ある実施態様では、本発明のヒト抗体は、野生型IgGと比較してVH領域内に一又は複数のアミノ酸修飾を有するヒト変異体IgGである。ヒト抗体は、上記のように、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択したFvクローン可変ドメイン配列を既知のヒト定常ドメイン配列と組み合わせることによって構築することができる。あるいは、ヒトモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法によって作製することができる。ヒトモノクローナル抗体の生産のためのヒトミエローマ及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株は、例えば、Kozbor, J. Immunol. 133, 3001(1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);及びBoerner 等, J. Immunol., 147: 86 (1991)に記載されている。
【0057】
免疫化することで、内因性免疫グロブリンの生産なしに、ヒト抗体の完全なレパートリーを生産することが可能なトランスジェニック動物(例えばマウス)を生産することが現在は可能である。例えば、キメラ及び生殖細胞系変異体マウスでの抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合体欠失は、内因性抗体の生産の完全な阻害をもたらすことが記載されている。そのような生殖細胞系変異体マウスでのヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子配列の転移は、抗原の投与によってヒト抗体の生産を引き起こす。例えば、Jakobovits等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 2551-255(1993);Jakobovits等, Nature 362, 255-258(1993);Bruggermann等, Year in Immunol., 7: 33 (1993)を参照のこと。
【0058】
また、遺伝子シャフリングは、ヒト抗体が開始非ヒト、例えば齧歯類の抗体と類似した親和性及び特性を有している場合、非ヒト、例えば齧歯類の抗体からヒト抗体を得るために使用することもできる。「エピトープインプリンティング」とも呼ばれるこの方法により、上記のファージディスプレイ技術により得られた非ヒト抗体断片の重鎖又は軽鎖可変領域の何れかをヒトVドメイン遺伝子のレパートリーで置換し、非ヒト鎖/ヒト鎖scFvないしFabキメラの集団を作成する。抗原を選択することにより、ヒト鎖が初めのファージディスプレイクローンにおいて一致した非ヒト鎖の除去により破壊された抗原結合部位を回復する、非ヒト鎖/ヒト鎖キメラscFvないしFabが単離される、つまり、エピトープがヒト鎖パートナーの選択をつかさどる(インプリントする)。残りの非ヒト鎖を置換するためにこの工程を繰り返すと、ヒト抗体が得られる(1993年4月1日公開のPCT特許出願WO93/06213を参照)。伝統的なCDR移植による非ヒト抗体のヒト化と異なり、この技術により、非ヒト起源のFR又はCDR残基を全く持たない完全なヒト抗体が得られる。
【0059】
二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある実施態様では、二重特異性抗体は、野生型抗体と比較してVH領域に一又は複数のアミノ酸修飾を有する二重特異性抗体である。ある実施態様では、二重特異性抗体はヒト又はヒト化の抗体である。また、二重特異性抗体は、標的抗原を発現する細胞に細胞障害性薬剤を局所化するために用いられうる。これらの抗体は標的抗原結合アーム及び細胞傷害剤、例えば、サポリン(saporin)、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキセート又は放射性同位体ハプテンを結合するアームを有する。ある抗体では、結合特異性はIL−4及びIL−13に対するものである。二重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片として調製されてもよい。
二重特異性抗体を作製する方法は当該分野において既知である。二重特異性抗体の伝統的な組換え産生は二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の同時発現に基づき、ここで二つの重鎖は異なる特異性を持っている(Millstein及びCuello, Nature, 305:537-539(1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖が無作為に取り揃えられているため、これらのハイブリドーマ(四部雑種)は10個の異なる抗体分子の可能性ある混合物を産生し、そのうちただ一つが正しい二重特異性構造を有する。通常、アフィニティークロマトグラフィー工程により行われる正しい分子の精製は、かなり煩わしく、生成物収率は低い。同様の方法が1993年5月13日に公開の国際公開第93/08829号及びTraunecker等, EMBO J. 10:3655-3659(1991)に開示されている。
【0060】
異なったアプローチ法では、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗原−抗体結合部位)を免疫グロブリン定常ドメイン配列と融合させる。該融合は例えば、少なくともヒンジの一部、CH2及びCH3領域を含む免疫グロブリン重鎖定常ドメインとの融合である。ある実施態様では、軽鎖の結合に必要な部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を、融合の少なくとも一つに存在させる。免疫グロブリン重鎖の融合体と、望まれるならば免疫グロブリン軽鎖をコードしているDNAを、別個の発現ベクター中に挿入し、適当な宿主生物に同時形質移入する。これにより、コンストラクトに使用される三つのポリペプチド鎖の等しくない比率が最適な収率をもたらす態様において、三つのポリペプチド断片の相互の割合の調節に大きな融通性が与えられる。しかし、少なくとも二つのポリペプチド鎖の等しい比率での発現が高収率をもたらすとき、又はその比率が特に重要性を持たないときは、2又は3個全てのポリペプチド鎖のためのコード化配列を一つの発現ベクターに挿入することが可能である。
このアプローチ法の一実施態様では、二重特異性抗体は、第一の結合特異性を有する一方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖と他方のアームのハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第二の結合特異性を提供する)とからなる。二重特異性分子の半分にしか免疫グロブリン軽鎖がないと容易な分離法が提供されるため、この非対称的構造は、所望の二重特異性化合物を不要な免疫グロブリン鎖の組み合わせから分離することを容易にすることが分かった。このアプローチ法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を産生する更なる詳細については、例えばSuresh等, Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照されたい。
【0061】
他のアプローチ法によれば、一対の抗体分子間の界面を操作して組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーのパーセントを最大にすることができる。好適な界面は抗体定常ドメインのC3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法では、第1抗体分子の界面からの一又は複数の小さいアミノ酸側鎖がより大きな側鎖(例えばチロシン又はトリプトファン)と置き換えられる。大きな側鎖と同じ又は類似のサイズの相補的「キャビティ」を、大きなアミノ酸側鎖を小さいもの(例えばアラニン又はスレオニン)と置き換えることにより第2の抗体分子の界面に作り出す。これにより、ホモダイマーのような不要の他の最終産物に対してヘテロダイマーの収量を増大させるメカニズムが提供される。
【0062】
二特異性抗体は架橋又は「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートの一方の抗体がアビジンと結合し、他方はビオチンと結合しうる。このような抗体は、例えば、免疫系細胞を不要な細胞に対してターゲティングさせること(米国特許第4676980号)及びHIV感染の治療(国際公開第91/00360号、国際公開第92/00373号及び欧州特許出願公開第03089号)への用途が提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は任意の簡便な架橋方法によって作製できる。適切な架橋剤は当該分野において周知であり、多くの架橋法と共に米国特許第4676980号に記されている。
Hollinger等, Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)により記述された「ダイアボディ」技術は二重特異性抗体断片を作製する別のメカニズムを提供した。断片は、同一鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能にするのに十分に短いリンカーにより軽鎖可変ドメイン(VL)に重鎖可変ドメイン(VH)を結合してなる。従って、一つの断片のVH及びVLドメインは他の断片の相補的VL及びVHドメインと強制的に対形成させられ、2つの抗原結合部位を形成する。単鎖Fv(sFv)ダイマーを使用する他の二重特異性抗体断片の製造方策もまた報告されている。Gruber等, J.Immunol., 152:5368 (1994)を参照のこと。
【0063】
二価より多い抗体も考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製することができる。Tutt等 J.Immunol. 147:60(1991)。
【0064】
多価抗体
多価抗体は、抗体が結合する抗原を発現する細胞により、二価抗体よりも早くインターナリゼーション(及び/又は異化)されうる。本発明の抗体は、3又はそれ以上の結合部位を有する多価抗体(IgMクラス以外のもの)であり得(例えば四価抗体)、抗体のポリペプチド鎖をコードする核酸の組換え発現により容易に生成することができる。多価抗体は二量化ドメインと3又はそれ以上の抗原結合部位を有する。ある実施態様では、二量化ドメインはFc領域又はヒンジ領域を有する(又はそれらからなる)。このシナリオでは、抗体はFc領域と、Fc領域のアミノ末端に3又はそれ以上の抗原結合部位を有しているであろう。ある実施態様では、多価抗体は3から約8の抗原結合部位を有する(又はそれらからなる)。かかる一実施態様では、多価抗体は4つの抗原結合部位を有する(又はそれらからなる)。多価抗体は少なくとも1つのポリペプチド鎖(例えば2つのポリペプチド鎖)を有し、ポリペプチド鎖は2又はそれ以上の可変ドメインを有する。例えば、ポリペプチド鎖はVD1-(X1)n-VD2-(X2)n-Fcを有し、ここでVD1は第1の可変ドメインであり、VD2は第2の可変ドメインであり、FcはFc領域のポリペプチド鎖の一つであり、X1及びX2はアミノ酸又はポリペプチドを表し、nは0又は1である。例えば、ポリペプチド鎖は、VH-CH1-可動性リンカー-VH-CH1-Fc領域鎖;又はVH-CH1-VH-CH1-Fc領域鎖を有し得る。ここでの多価抗体は、少なくとも2つ(例えば4つ)の軽鎖可変ドメインポリペプチドをさらに有する。ここでの多価抗体は、例えば約2から約8の軽鎖可変ドメインポリペプチドを含む。ここで考えられる軽鎖可変ドメインポリペプチドは軽鎖可変ドメインを含み、場合によってはCLドメインを更に含む。
【0065】
単一ドメイン抗体
ある実施態様では、本発明の抗体はFc領域を含む単一ドメイン抗体である。ある実施態様では、単一ドメイン抗体は、野生型IgGと比較してFc領域内に一又は複数のアミノ酸修飾を有する。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部又は軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む単一ポリペプチド鎖である。
【0066】
抗体修飾
ある実施態様では、ここに記載する免疫グロブリンのアミノ酸配列修飾(一又は複数)が考慮される。ある実施態様では、修飾は、本発明の変異体IgGへの一又は複数のアミノ酸修飾を含む。ある実施態様では、本発明の変異体IgGの結合親和性、インビボ半減期及び/又は他の生物学的性質をさらに変えることが望ましい。ある実施態様では、アミノ酸修飾は、本明細書中に記載されないFc領域内の一又は複数のアミノ酸修飾を含む。変異体IgGの修飾したアミノ酸配列は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な変化を導入して、又はペプチド合成により調製されうる。そのような修飾には、抗体のアミノ酸配列内の残基の、例えば、欠失型、及び/又は挿入及び/又は置換が含まれる。最終コンストラクトが所望する特徴を有していれば、欠失、挿入及び置換をどのように組合せてもよい。アミノ酸変化は、配列ができるときに被検体の抗体アミノ酸配列中に導入されうる。
【0067】
突然変異誘発に好ましい位置である抗体の特定の残基又は領域の同定に有益な方法は、Cunningham及びWells (1989) Science, 244:1081-1085に開示されているように「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。ここで、標的となる残基又は残基の組が同定され(例えば、Arg、Asp、His、Lys、及びGluなどの荷電した残基)、中性の、又は負に荷電したアミノ酸(例えばアラニン又はポリアラニン)で置換され、アミノ酸の抗原との相互作用に影響を与える。ついで、置換に対する機能的感受性を示しているそれらアミノ酸位置を、置換の部位において、又は置換の部位のために、更なる又は他の修飾を導入することにより精製する。このように、アミノ酸配列修飾を導入する部位は予め決定されるが、突然変異自体の性質は予め決定される必要はない。例えば、与えられた部位における突然変異のパーフォーマンスを分析するために、標的コドン又は領域においてalaスキャンニング又はランダム突然変異誘発を実施し、発現した免疫グロブリンを所望の活性についてスクリーニングする。
【0068】
アミノ酸配列挿入には、1残基から100以上の残基を有するポリペプチドまでの長さに亘るアミノ末端融合及び/又はカルボキシ末端融合、並びに単一又は複数アミノ酸残基の配列内挿入を含む。端末挿入の例には、N末端メチオニル残基を持つ抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入修飾には、抗体の血清半減期を増加させるポリペプチド又は(例えばADEPTのための)酵素への抗体のN末端又はC末端の融合が含まれる。
【0069】
ある実施態様では、本発明の変異体IgGは、抗体がグリコシル化される度合いを増加又は減少させるために改変される。ポリペプチドのグリコシル化は、典型的には、N結合又はO結合の何れかである。N結合とは、アスパラギン残基の側鎖への炭水化物部分の結合を意味する。アスパラギン-X-セリン及びアスパラギン-X-スレオニン(ここでXはプロリンを除く任意のアミノ酸)のトリペプチド配列は、アスパラギン側鎖への糖鎖部分の酵素的結合のための認識配列である。従って、ポリペプチド中にこれらのトリペプチド配列の何れかが存在すると、潜在的なグリコシル化部位が作出される。O結合グリコシル化は、ヒドロキシアミノ酸、最も一般的にはセリン又はスレオニンに、糖類N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、又はキシロースの一つが結合することを意味するが、5-ヒドロキシプロリン又は5-ヒドロキシリジンもまた用いることができる。
【0070】
抗体へのグリコシル化部位の付加又は欠失は、アミノ酸配列を、上述のトリペプチド配列(N結合グリコシル化部位のもの)の一又は複数が作製され又は取り除かれるように変化させることによって簡便に達成される。該変化はまた元の抗体の配列への一又は複数のセリン又はスレオニン残基の付加、欠失、又は置換によってなされる(O-結合グリコシル化部位の場合)。
【0071】
変異体IgGのFc領域に接着した炭水化物は変更しうる。哺乳動物細胞によって生産される天然の抗体は典型的にはFc領域のCH2ドメインのAsn297へのN結合によって一般に結合させられる分岐した二分岐オリゴ糖を含む。例えばWright等 (1997) TIBTECH 15:26-32を参照。オリゴ糖は様々な炭水化物、例えばマンノース、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸、並びに二分岐オリゴ糖構造の「ステム部」としてGlcNAcに結合したフコースを含みうる。ある実施態様では、本発明の変異体IgGにおけるオリゴ糖の修飾を、ある種のさらに改善された性質を有する変異体IgGを作り出すためになしてもよい。
【0072】
例えば、Fc領域に(直接的に又は間接的に)結合したフコースを欠く糖鎖構造を有する抗体修飾が提供される。かかる修飾は改善されたADCC機能を有しうる。例えば米国特許出願公開第2003/0157108号 (Presta, L.);米国特許出願公開第2004/0093621号(協和発酵工業)を参照のこと。「脱フコース化」又は「フコース欠失」抗体修飾に関する文献の例には以下のものが含まれる:米国特許出願公開第2003/0157108号;国際公開第2000/61739号;国際公開第2001/29246号;米国特許出願公開第2003/0115614号;米国特許出願公開第2002/0164328号;米国特許出願公開第2004/0093621号;米国特許出願公開第2004/0132140号;米国特許出願公開第2004/0110704号;米国特許出願公開第2004/0110282号;米国特許出願公開第2004/0109865号;国際公開第2003/085119;国際公開第2003/084570号;国際公開第2005/035586号;国際公開第2005/035778号;国際公開第2005/053742号;国際公開第2002/031140号;Okazaki 等 J. Mol. Biol. 336:1239-1249 (2004);Yamane-Ohnuki 等 Biotech. Bioeng.87: 614 (2004)。脱フコース化抗体を産生する細胞株の例として、タンパク質フコシル化欠損Lec13 CHO細胞 (Ripka 等 Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許出願番号2003/0157108号, Presta, L;及び国際公開第2004/056312号, Adams 等, 特に実施例11)、及びノックアウト細胞株、例としてα−1,6−フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8,ノックアウトCHO細胞 (Yamane-Ohnuki 等 Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004); Kanda, Y. 等, Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);及び国際公開第2003/085107号)などがある。
【0073】
例えば抗体のFc領域に結合した二分岐オリゴ糖がGlcNAcによって二分された二分オリゴ糖を有する抗体修飾が更に提供される。かかる抗体変異体は低減したフコシル化及び/又は改善されたADCC機能を有しうる。かかる抗体修飾の例は、例えば、国際公開第2003/011878号(Jean-Mairet等);米国特許第6602684号(Umana等);及び米国特許出願公開第2005/0123546号(Umana等)に記載されている。Fc領域に結合したオリゴ糖内の少なくとも一のガラクトース残基を有する抗体修飾もまた提供される。かかる抗体修飾は改善したCDC機能を有しうる。かかる抗体修飾は、例えば国際公開第97/30087号(Patel等);国際公開第98/58964号(Raju, S.);及び国際公開第99/22764号(Raju, S.)に記載されている。
【0074】
ある実施態様では、本発明は、これをインビボでの抗体の半減期が重要であるがある種のエフェクター機能(例えば補体及びADCC)が不必要であるか有害である多くの用途のための望ましい候補にする、エフェクター機能の全てではないが幾らかを有する抗体修飾を考慮する。ある実施態様では、所望の性質のみが維持されるようにする抗体のFc活性が測定される。インビトロ及び/又はインビボ細胞傷害性アッセイを実施して、CDC及び/又はADCC活性の減少/枯渇を確認できる。例えば、Fcレセプター(FcR)結合アッセイを実施して、抗体がFcγR結合を欠く(よってADCC活性を欠く可能性がある)が、FcRn結合能を保持していることを確認する。ADCCを媒介する一次細胞のNK細胞はFcγRIIIのみを発現する一方、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現がRavetch及びKinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-92 (1991)の464頁の表3にまとめられている。興味ある分子のADCC活性を評価するためのインビトロアッセイの非限定的な例は、米国特許第5500362号(例えばHellstrom, I.等 Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986)を参照)及び Hellstrom, I 等, Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985);第5821337号(Bruggemann, M. 等, J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987)を参照)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法を用いることができる(例えばフローサイトメトリーのためのACTITM非放射性細胞傷害性アッセイ(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA;及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害性アッセイ (Promega, Madison, WI)。このようなアッセイのために有用なエフェクター細胞は末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。あるいは、又は加えて、興味ある分子のADCC活性はインビボで、例えばClynes等 Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 95:652-656 (1998)に開示されているもののような動物モデルにおいて評価することができる。C1q結合アッセイをまた実施して、抗体がC1qに結合できず、よってCDC活性を欠くことを確認することができる。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを実施してもよい(例えばGazzano-Santoro等, J. Immunol. Methods 202:163 (1996);Cragg, M.S. 等, Blood 101:1045-1052 (2003);及びCragg, M.S.及びM.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004)を参照のこと)。FcRn結合及びインビボクリアランス/半減期決定はまた当該分野で知られている方法を使用して実施することもできる(例えばPetkova, S.B. 等, Int’l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006)を参照)。
【0075】
一又は複数のアミノ酸置換を有する他の抗体修飾が提供される。置換突然変異について関心ある部位は高度可変領域を含むが、FR改変もまた考慮される。保存的置換は、「好ましい置換」と題して表1に示す。「例示的置換」と名前を付けたより実質的な変化が表1に提供され、又はアミノ酸クラスに関連して以下に更に記載される。アミノ酸置換を、興味有る抗体中に導入し、例えば所望される活性、例えば改善された抗原結合性、免疫原性の低減、改善されたADCC又はCDC等について生成物をスクリーニングできる。
【0076】

【0077】
抗体の生物学的性質における修飾は、(a)置換領域のポリペプチド骨格の構造、例えばシート又は螺旋配置、(b)標的部位の分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の嵩に影響を及ぼす置換を選択することにより達成されうる。アミノ酸は、その側鎖の特性の類似性に従ってグループ化することができる(A. L. Lehninger, in Biochemistry, 2版, pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975)):
(1)無極性:Ala(A),Val(V),Leu(L),Ile(I),Pro(P),Phe(F),Trp(W),Met(M)
(2)無電荷極性:Gly(G),Ser(S),Thr(T),Cys(C),Tyr(Y),Asn(N),Gln(Q)
(3)酸性:Asp(D),Glu(E)
(4)塩基性:Lys(K),Arg(R),His(H)
別法では、天然に生じる残基は共通の側鎖特性に基づいて群に分けることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性の親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響する残基:Gly、Pro;及び
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0078】
非保存的置換は、これらの分類の一つのメンバーを他の分類に交換することを必要とするであろう。このような置換された残基も、保存的置換部位か、更に好ましくは残存する(非保存的)部位に、導入することができる。
一つの種類の置換による修飾は、親抗体(例えばヒト化抗体又はヒト抗体)の一又は複数の高頻度可変領域残基を置換することを含む。ある実施態様では、親抗体は、野生型相対物変異体IgG(例えばそのアミノ酸配列内に任意の他の変更を持たない本発明の変異体IgG)である。一般に、更なる開発用に選択される得られた抗体は、それらが生産された親抗体に対して変更された(例えば改善された)生物学的特性を有しているであろう。例示的な置換修飾は、ファージディスプレイを用いた親和性成熟法を使用して簡便に生産されうる親和性成熟抗体である。簡単に述べると、幾つかの高頻度可変領域部位(例えば6〜7の部位)を変異させることにより、各部位に可能な全てのアミノ酸置換を生じさせる。このようにして生成された抗体は、各粒子内にパッケージされたファージコートタンパク質(例えば、M13の遺伝子III産物)の少なくとも一部への融合物として、糸状のファージ粒子から表示される。ついで、ファージディスプレイされた抗体は、その生物的活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングされる。修飾のための候補高頻度可変領域部位を同定するために、系統的変異導入法(例えばアラニンスキャニング)を行って、抗原結合に有意に貢献する高頻度可変領域残基を同定することができる。別法として、又は付加的に、抗原抗体複合体の結晶構造を分析することにより、抗体と抗原との接触点を同定することが有効である。このような接触残基及び隣接残基は、ここに説明するものを含む当該分野で知られている技術による置換の候補である。そのような修飾した抗体がひとたび生成されたら、ここに記載のものを含む当該分野で知られている技術を用いて抗体のパネルのスクリーニングを行い、更なる開発のために一又は複数の関連アッセイで優れた特性を有する抗体を選択することができる。
【0079】
修飾した抗体(例えば修飾した変異体IgG)のアミノ酸配列をコードする核酸分子は当該分野で知られている様々な方法により調製される。これらの方法は、天然源からの単離(天然に生じるアミノ酸配列修飾の場合)又はオリゴヌクレオチド媒介性(又は部位特異的)突然変異による調製、PCR突然変異誘発、及び前もって調製された修飾した抗体又は抗体の非修飾型のカセット変異導入法を含むが、これらに限定されない。
本明細書及び従来技術の教示によれば、ある実施態様では、本発明の抗体修飾は、対応する野生型の変異体IgGと比較して、一又は複数の変更を有する(例えばそのアミノ酸配列内に任意の他の変更を持たない本発明の変異体IgG)と考えられる。更なる変更を含むこれらの抗体修飾は、それにもかかわらず、対応する野生型の変異体IgGと比較して、治療的有用性のために必要な実質的に同じ特徴を保持する。
【0080】
他の態様では、本発明は、Fc領域を含むFcポリペプチドの界面に修飾を含み、該修飾がヘテロ二量体化を容易にし及び/又は促進するむ抗体修飾を提供する。これらの修飾は、第一のFcポリペプチド内に突部を、第二のFcポリペプチド内にキャビティを導入することを含み、ここで、第一及び第二Fcポリペプチドの複合体化を促進するように突部がキャビティに位置させ得る。これらの修飾を有する抗体の生産方法は当該分野で知られており、例えば米国特許第5731168号に記載されている。
【0081】
また他の態様では、抗体の一又は複数の残基がシステイン残基で置換されているシステイン操作抗体、例えば「thioMAbs」を作製することが望ましい場合がある。ある実施態様では、置換される残基は抗体の接近可能部位で生じる。その残基をシステインで置換することによって、反応性チオール基が抗体の接近可能部位に位置させられ、ここで更に記載されるように、薬剤部分又はリンカー-薬剤部分のような他の部分に抗体をコンジュゲートさせるために使用されうる。ある実施態様では、次の残基の何れか一又は複数がシステインで置換されうる:軽鎖のV205(カバット番号付け);重鎖のA118(EU番号付け);及び重鎖Fc領域のS400(EU番号付け)。
【0082】
抗体誘導体
ある実施態様では、本発明の変異体IgGは、当分野で公知で、すぐに利用できる更なる非タンパク部分を含むようにさらに修飾されうる。ある実施態様では、変異体IgGは細胞障害性剤とコンジュゲートされうる。ある実施態様では、細胞障害性剤が結合している変異体IgGは細胞によって内部移行され、その結果、結合する細胞を殺傷する際の該コンジュゲートの治療上の有効性が高まる。
ある実施態様では、抗体の誘導体化に適した部分は水溶性ポリマーである。水溶性ポリマーの非限定的な例には、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーかランダムコポリマー)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、プロリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチレン化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、及びそれらの混合物が含まれる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは水中におけるその安定性のために製造の際に有利であろう。ポリマーは任意の分子量であってよく、分枝状でも非分枝状でもよい。抗体に結合するポリマーの数は変化してもよく、一を超えるポリマーが結合する場合、それらは同じでも異なった分子でもよい。一般に、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又はタイプは、限定されるものではないが、その抗体誘導体が定まった条件下での治療に使用されるかどうか、改善される抗体の特定の性質又は機能を含む考慮事項に基づいて決定することができる。
【0083】
他の実施態様では、放射線への暴露によって選択的に加熱されうる非タンパク質様部分及び抗体のコンジュゲートが提供される。一実施態様では、非タンパク質様部分はカーボンナノチューブである(Kam等 , Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線は任意の波長のものであってよく、限定するものではないが、通常の細胞に害を与えないが、抗体-非タンパク質様部分に近位の細胞が死滅させられる温度まで非タンパク質様部分を加熱する波長が含まれる。
【0084】
変異体IgGの作製
変異体IgGは、当分野で公知の任意の方法によって作製されうる。ある実施態様では、変異体IgG配列を用いて、メンバー配列をコードする核酸を作製し、必要に応じて、その後宿主細胞にクローニングし、発現させ、アッセイする。これらの実務は周知の手順を使用して実施され、ここで利用されうる様々な方法は、Molecular Cloning--A Laboratory Manual, 3rd Ed. (Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001)及びCurrent Protocols in Molecular Biology (John Wiley & Sons)に記述される。変異体IgGをコードする核酸は、タンパク質を発現させるために、発現ベクターに組み込まれてよい。発現ベクターには、一般的に、作用可能なように連結、すなわち機能的に関連するように配置されたタンパク質を、コントロール又は調節配列、選択マーカー、任意の融合パートナー及び/又は他の要素が含まれる。変異体IgGは、変異体IgGをコードする核酸を含む核酸、好ましくは発現ベクターにて形質転換した宿主細胞を、タンパク質の発現を誘導又は引き起こすために適切な条件下で培養することによって、製造されうる。哺乳動物細胞、細菌、昆虫細胞及び酵母を含むがこれらに限らず、多種多様な適切な宿主細胞が使われてよい。例えば、利用法を見つけうる様々な細胞株は、ATCC細胞株カタログに記載されており、アメリカ培養細胞系統保存機関から入手可能である。外因性核酸を宿主細胞に導入する方法は、当分野で周知であり、使用する宿主細胞によって異なるであろう。
【0085】
ある実施態様では、変異体IgGは、発現後に精製されるか又は単離される。抗体は、当業者に公知の様々な方法で単離又は精製されてよい。標準的な精製方法には、クロマトグラフィ技術、電気泳動、免疫学的、沈殿、透析、濾過、濃縮、及び等電点電気泳動技術が含まれる。当分野で周知のように、様々な天然のタンパク質は抗体、例えば特定の細菌性タンパク質を結合し、これらのタンパク質は精製にも利用されうる。しばしば、精製は特定の融合パートナーによって可能になりうる。例えば、GST融合を使用する場合にはグルタチオン樹脂を用いて、His−tagを使用する場合にはNi+2アフィニティクロマトグラフィを用いて、又はflag−tagを使用する場合には固定した抗flag抗体を用いて、タンパク質が精製されてよい。適切な精製技術の一般的な手引きについては、Antibody Purification: Principles and Practice, 3rd Ed., Scopes, Springer-Verlag, NY, 1994を参照のこと。
【0086】
変異体IgGのスクリーニング
本発明の変異体IgGは、インビトロアッセイ、インビボ及び細胞ベースのアッセイ、及び選別技術を用いるものを含むがこれらに限定されず様々な方法を用いてスクリーニングされうる。オートメーション及びハイスループットのスクリーニング技術がスクリーニング手順において利用されてよい。スクリーニングは、融合パートナー又は標識、例えば免疫標識、同位体標識、又は小分子標識、例えば蛍光又は熱量測定色素を使用してよい。
ある実施態様では、変異体IgGの機能的及び/又は生物物理学的な性質は、インビトロアッセイにおいてスクリーニングされる。ある実施態様では、タンパク質は、機能性、例えば反応を触媒する能力又はその標的に対する結合親和性についてスクリーニングされる。
【0087】
スクリーニング法のサブセットは、ライブラリの有益なメンバーについて選択するものである。この方法は本明細書中で「選別法」と称され、これらの方法は変異体IgGをスクリーニングするための本発明に利用される。タンパク質ライブラリが選別法を用いてスクリーニングされる場合、有益であるライブラリのメンバーだけ、つまりいくらかの選別基準を満たすものを増やし、単離し、及び/又は観察する。タンパク質ライブラリをスクリーニングするために本発明で利用されうる様々な選別法は、当分野で公知である。本発明に利用されうる他の選別法には、インビボ方法などのディスプレイに依存しない方法が含まれる。「定方向進化」方法と称される選別方法のサブセットは、選別の間での有益な配列の交配又は交雑、ときに新規の突然変異の組み込みを有するものを含むものである。
【0088】
ある実施態様では、変異体IgGは、一又は複数の細胞ベース又はインビボのアッセイを使用してスクリーニングされる。このようなアッセイのために、細胞がライブラリに属する個々の変異体又は変異体のプールに曝されるように、精製された又は精製されていないタンパク質を外因的に添加する。これらのアッセイは、一般的であるが常にというわけでなく、変異体IgGの機能、つまり、その標的と結合して、いくつかの生化学現象、例えばエフェクター機能、リガンド/レセプター結合阻害、アポトーシスなどを媒介する変異体IgGの能力に基づく。このようなアッセイは、しばしば、IgGへの細胞の応答、例えば細胞増殖、細胞移動、脈管形成、細胞生存、細胞死、細胞性形態の変化、又は天然の遺伝子又はリポーター遺伝子の細胞性発現といった転写活性化をモニターすることを伴う。例えば、このようなアッセイは、ADCC、ADCP又はCDCを誘発するIgG変異体の能力を測定してよい。いくつかのアッセイのために、標的細胞に加えて、更なる細胞や構成成分、例えば血清補体又はエフェクター細胞、例えば末梢血単球(PBMC)、NK細胞、マクロファージなどが必要に応じて添加されてよい。このような更なる細胞は、任意の有機体、好ましくはヒト、マウス、ラット、ウサギ及びサルのものでよい。ある実施態様では、抗体は脈管形成を阻害してもよく、このような活性をモニターする方法は当分野で公知である。さらに他の実施態様では、抗体によって、標的を発現する特定の細胞株のアポトーシスが生じてもよいし、アッセイに加えられた免疫細胞による標的細胞への攻撃を媒介してもよい。細胞死又は生存度をモニターする方法は、当分野で公知であり、色素、免疫化学、細胞化学及び放射性試薬の使用が含まれる。また、転写活性化は、細胞ベースのアッセイにおける機能をアッセイするための方法として役立つ。あるいは、細胞ベースの選別は、変異体をコードする核酸にて形質転換又は形質移入された細胞を用いて実行される。つまり、変異体IgGは外因的に細胞に添加されない。
【0089】
変異体IgGの生物学的性質は、細胞、組織及び生物体の実験において特徴付けされうる。疾患又は疾患モデルに対する治療のための薬剤の有効性を測定するため、又は薬剤の動態、毒性及び他の性質を測定するために、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ及びサルを含むがこれらに限らず動物において薬剤が試験されることが多い。動物は疾患モデルと称されてよい。治療法は、ヌードマウス、SCIDマウス、異種移植片マウス及びトランスジェニックマウス(ノックイン及びノックアウトを含む)を含むがこれらに限らずマウスにおいて試験されることが多い。このような実験は、治療として使用されるタンパク質の可能性の決定について意味のあるデータを提供しうる。任意の生物体、好ましくは哺乳動物が試験に使用されてよい。例えば、サルは、遺伝的にヒトと類似しているために、治療上のモデルに適しており、よって、変異体IgGの有効性、毒性、薬物動態又は他の性質を試験するために用られうる。最終的にヒトにおける試験が薬剤の承認のために必要であるので、もちろんこれらの実験は考慮される。ゆえに、変異体IgGは、それらの治療有効性、毒性、免疫原性、薬物動態学及び/又は他の臨床性質を決定するために、ヒトにおいて試験されてよい。
【0090】
変異体IgGの治療上の使用
変異体IgGは幅広い生成物に利用されうる。ある実施態様では、IgG変異体は治療用、診断用、又は研究用の試薬である。変異体IgGは、モノクローナル又はポリクローナルである抗体組成物に利用されうる。
黄色ブドウ球菌に感染した患者の治療を含むがこれに限らず、変異体IgGは、様々な治療的目的のために使われてよい。
【0091】
用量、製剤及び継続期間
変異体IgG組成物は、医学的実用性に合わせた様式で調製し、投薬され、投与される。ここで考慮する要因には、治療する特定の疾患、治療する特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、疾患の原因、薬剤の運搬部位、投与の方法、投与の日程計画、及び医師が知る他の因子が含まれる。疾患の予防又は治療のために、本発明の変異体IgG、例えば抗体の適切な投薬量(単独で使用される場合、又は一又は複数の他の治療薬と併用される場合)は、治療する疾患のタイプ、抗体の種類、疾患の重篤度と経過、抗体が予防目的か又は治療目的で投与されるかどうか、過去の治療、患者の臨床歴、抗体に対する応答性、及び担当医の裁量に依存する。変異体IgGは、一度に又は一連の処置にわたって患者に適切に投与される。
また、本明細書中の薬学的製剤は、治療する特定の症状に必要とされる、好ましくは互いに悪影響を与えない補完的活性を有する二以上の活性な化合物を含んでよい。このような分子は、意図する目的のために有効である量で組み合わせて好適に存在する。
【0092】
疾患の予防又は治療のために、本発明の変異体IgGの適切な投薬量(単独で使用される場合、又は一又は複数の他の治療薬と併用される場合)は、治療する疾患のタイプ、抗体の種類、疾患の重篤度と経過、変異体IgGが予防目的か又は治療目的で投与されるかどうか、過去の治療、患者の臨床歴、変異体IgGに対する応答性、及び担当医の裁量に依存するであろう。ある実施態様では、変異体IgGは、一度に又は一連の処置にわたって患者に適切に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、例えば一又は複数の別個の投与又は連続注入のいずれであれ、約1μg/kgから20mg/kg(例えば0.1mg/kg−15mg/kg)の変異体IgGを患者への最初の候補投与量とすることができる。上述した因子に応じて、典型的な一日の投与量は約1μg/kgから100mg/kgあるいはそれ以上の範囲である。症状に応じて数日又は更に長い間にわたって繰り返して投与される場合、疾患症状の所望の抑制が得られるまで、治療が持続される。一実施態様では、症状に応じて、本明細書中に記載の方法又は当分野で公知の方法によって測定して、疾患が治療されるまで治療は持続される。変異体IgGの1つの例示的な用量は、およそ0.05mg/kgからおよそ20mg/kgである。ゆえに、およそ0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、7.5mg/kg、10mg/kg又は15mg/kg(又はその何かの組合せ)の一又は複数の用量が患者に投与されてよい。このような用量が、間欠的、例えば3週間ごと、8週間ごと又は12週間ごとに(例えば患者がおよそ2からおよそ20、又は例えばおよそ6用量の抗体を摂取するように)投与されてよい。ある実施態様では、初期の高い負荷用量の後に一又は複数の低用量が投与されてよい。ある実施態様では、用量投薬計画は、およそ4mg/kgの初回負荷用量の後、およそ2mg/kgの毎週の維持用量の投与を含む。しかしながら、他の用量投薬計画が有用でもよい。この治療の経過は、従来の技術及びアッセイにより容易にモニターされる。
【0093】
ある実施態様では、患者は、変異体IgGと一又は複数の他の治療薬(一又は複数)の組合せで治療される。併用投与には、異なる製剤又は単一の薬学的製剤を用いた同時ないし同時的投与、及び何れかの順序での連続投与が含まれ、このとき、場合によって両方(又はすべて)の活性薬剤が同時にそれらの生物活性を示す期間がある。変異体IgGと併用して投与される治療薬の有効量は、医師又は獣医の裁量である。用量の投与と調整は、治療する症状の最大限の管理が達成されるようになされる。加えて、用量は、使用する治療薬の種類及び治療する特定の患者等の因子に依存するであろう。ある実施態様では、インヒビターの組合せは単一のインヒビターの有効性を増強する。この「増強する」なる用語は、その一般的かつ認可された用量での治療薬の有効性の改善を指す。
【0094】
本発明の変異体IgG(及び任意の更なる治療薬)は、非経口的、皮下、腹膜内、脳脊髄内、肺内、鼻腔内、そして、必要に応じて局所の治療のために、病巣内投与を含む任意の好適な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹膜内、又は皮下的な投与が含まれる。ある実施態様では、変異体IgG、例えば抗体を、特に抗体の用量を減少して、パルス注入によって好適に投与する。投与が短期のものであるか長期のものであるかにある程度依存して、任意の好適な経路で、例えば、静脈内又は皮下注射などの注射によって投薬されうる。ある実施態様では、変異体IgGは、例えばボーラスとして、又は、一定期間にわたる連続的な注入によって被検体に静脈内投与される。
【0095】
本発明の変異体IgG、例えば抗体の結合標的の位置は、変異体IgGの調製及び投与において考慮される。変異体IgGの結合標的が脳に位置する場合、本発明のある実施態様は血液−脳関門を越える変異体IgGを提供する。物理的な方法、脂質ベースの方法、幹細胞ベースの方法、及びレセプターとチャネルベースの方法を含むがこれらに限らず、血液−脳関門を越えて分子を輸送するための様々な当分野で公知の手法が存在する。
【0096】
血液脳関門に変異体IgG、例えば抗体を搬送する物理的方法には、限定するものではないが、血液脳関門を完全に包囲すること、又は血液脳関門に開口部を形成することが含まれる。包囲法には、限定するものではないが、脳への直接注入(例えば、Papanastassiou等, Gene Therapy 9: 398-406 (2002))、間質性注入/対流強化送達(例えば、Bobo等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 2076-2080 (1994)参照)、及び脳への送達装置の移植(例えば、Gill等, Nature Med. 9: 589-595 (2003);及びGliadel WafersTM, Guildford Pharmaceutical参照)が含まれる。関門に開口を形成する方法には、限定するものではないが、超音波(例えば、米国特許出願公開第2004/0038086号参照)、浸透圧(例えば、高浸透圧性マンニトールの投与による(Neuwelt, E. A., Implication of the Blood-Brain Barrier and its Manipulation, Vols 1 & 2, Plenum Press, N.Y. (1989)))、例えば、ブラジキニン又はパーミアライザーA−7による透過性化(例えば、米国特許第5112596号、同第5268164号、同第5506206号、及び同第5686416号参照)、及び変異体IgGをコードする遺伝子を含むベクターによる血液脳関門にまたがるニューロンの形質移入(例えば、米国特許出願公開第2003/0083299号)が含まれる。
【0097】
血液脳関門を越えて変異体IgG、例えば抗体を搬送する脂質に基づく方法には、限定されるものではないが、血液脳関門の血液内皮上のレセプターに結合する抗体結合断片にカップリングされるリポソームに変異体IgGを封入すること(例えば、米国特許出願公開第2002/0025313号参照)、及び低密度リポプロテイン粒子(例えば、米国特許出願公開第2004/0204354号参照)、又はアポリポタンパク質E(例えば、米国特許出願公開第2004/0131692号参照)中の変異体IgGをコーティングすることが含まれる。
血液脳関門を越えて変異体IgG、例えば抗体を搬送する幹細胞に基づく方法は、対象の抗体を発現するように神経前駆細胞(NPC)を遺伝的に操作し、次いで、治療する個体の脳に幹細胞を移植することを伴う。詳細なオンライン文献であるBehrstock等 (2005) Gene Ther. 15 Dec. 2005(神経栄養因子GDNFを発現するように遺伝子操作したNPCが齧歯類及び霊長類のモデルの脳に移植した場合にパーキンソン病の症状を低減したことを報告している)を参照。
【0098】
血液脳関門を越えて変異体IgG、例えば抗体を搬送するレセプター及びチャネルに基づく方法には、限定するものではないが、グリココルチコイド遮断薬を用いて血液脳関門の透過性を増大させること(例えば、米国特許出願公開第2002/0065259号、同第2003/0162695号、及び同第2005/0124533号参照)、カリウムチャネルを活性化させること(例えば、米国特許出願公開第2005/0089473号参照)、ABC薬の搬送を抑制すること(例えば、米国特許出願公開第2003/0073713号参照)、抗体をトランスフェリンでコーティングし、一以上のトランスフェリンレセプターの活性を調節すること(例えば、米国特許出願公開第2003/0129186号参照)、及び抗体のカチオン化(例えば、米国特許第5004697号参照)が含まれる。
【0099】
変異体IgG、例えば本発明の抗体を含んでなる治療用製剤は、所望の純度を持つ変異体IgGと、場合によっては生理学的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤を混合することにより(Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th edition (2000))、水溶液、凍結乾燥又は他の乾燥製剤の形態に調製されて保存される。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、用いられる用量と濃度でレシピエントに非毒性であり、ホスフェート、シトレート、ヒスチジン及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;保存料(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンズエトニウムクロリド;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;EDTA等のキレート化剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0100】
また活性成分は、例えばコアセルベーション技術あるいは界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)マイクロカプセルに、コロイド状ドラッグデリバリー系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ-粒子及びナノカプセル)に、あるいはマクロエマルションに捕捉させてもよい。このような技術は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 20th edition (2000)に開示されている。
インビボ投与に使用される製剤は無菌でなければならない。これは、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。
【0101】
徐放性調合物を調製してもよい。徐放性調合物の好ましい例は、本発明の免疫グロブリンを含む疎水性固体ポリマーの半透性マトリクスを含み、そのマトリクスは成形物、例えばフィルム又はマイクロカプセルの形態である。徐放性マトリクスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシブチル酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸等のポリマーは、分子を100日以上かけて放出することを可能にするが、ある種のヒドロゲルはタンパク質をより短い時間で放出する。カプセル化された免疫グロブリンが体内に長時間残ると、37℃の水分に暴露された結果として変性又は凝集し、生物活性を喪失させ免疫原性を変化させるおそれがある。合理的な戦略を、関与するメカニズムに応じて安定化のために案出することができる。例えば、凝集機構がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが見いだされた場合、安定化はスルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥させ、水分含有量を制御し、適当な添加剤を使用し、また特定のポリマーマトリクス組成物を開発することによって達成されうる。
【0102】
併用療法
本明細書において記述される治療法は、他の治療法と同時に投与されてよく、すなわち、ここに記載の治療法は、例えば小分子、他の生物製剤、放射線療法、手術などを含む他の治療法(一又は複数)と同時に投与されてよい。
【0103】
製造品
本発明の他の態様では、上記の疾患の治療、予防及び/又は診断に有用な物質を含む製造品が提供される。該製造品は容器と該容器上又は該容器に付随するラベル又はパッケージ挿入物を具備する。好適な容器には、例えば、ビン、バイアル、シリンジ等々が含まれる。容器は、様々な材料、例えばガラス又はプラスチックから形成されうる。容器は、症状を治療、予防及び/又は診断するために有効な組成物単独又は他の組成物と組み合わせる組成物を収容し、滅菌アクセスポートを有しうる(例えば、容器は皮下注射針が貫通可能なストッパーを有するバイアル又は静脈内投与溶液バッグでありうる)。ラベル又はパッケージ挿入物は、組成物が選択された症状の治療に使用されることを示す。ある実施態様では、製造品は、(a)本発明の変異体IgGを含有する組成物を中に収容する第一の容器と、(b)更なる治療薬を含有する組成物を中に収容する第二の容器とを具備しうる。製造品はさらに、組成物を特定の症状の治療に使用することができることを示しているパッケージ挿入物を具備しうる。あるいは、もしくは付加的に、製造品は、薬学的に許容されるバッファー、例えば注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー液及びデキストロース溶液を含む第二の(又は第三の)容器を更に具備してよい。更に、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含む、商業上及び使用者の見地から望ましい他の材料を含んでもよい。
ある実施態様では、変異体IgGは、単独で、又は、他の治療的化合物と組み合わせて、キットとして包装されてよい。キットは、単位用量の患者への投与を補助する任意の構成成分、例えば粉末形態を再構成するためのバイアル、注入用のシリンジ、カスタマイズされたIV運搬システム、吸入器などを具備しうる。加えて、単位用量キットは、組成物の調製及び投与のための指示を具備してよい。キットは、一患者のための使い捨て単位用量、(一定用量で、又は、個々の化合物が療法経過につれて作用強度が異なるように)特定の患者のための複数回使用として製造されてもよいし、キットは、複数の患者への投与に適した複数用量を含んでいてもよい(「大量包装」)。キット構成成分は、カートン、ブリスター包装、瓶、チューブなどに組み立てられてよい。
【実施例】
【0104】
以降は、本発明の方法及び組成物の例示である。上記の一般的な記載により、他の様々な実施態様が実施されうることが理解される。
【0105】
実施例1:抗Her2変異体の製造
ヒト化抗Her2(米国特許第5821337号に記載される4D5又はhuMAb4D5-8)IgG1重鎖及び軽鎖のFab領域を、ヒトIgG1定常ドメインを含む2つのpRKベースの一過性形質移入プラスミドに別々にクローニングした。次いで、キュンケルベースの部位特異的突然変異誘発を用いて、VHドメイン内の残基を変異させた抗Her2 IgG1変異体を生成した。この試験で生成した抗Her2変異体は、S17A、R19A、S21A、T57A、T57K、R66A、T68A、S70A、Y79A、Q81A、N82aA及びS82bAであった(すべてカバットのEUインデックスに従って番号付けした)。
変異体の重鎖及び野生型軽鎖を含有しているプラスミドを、製造プロトコールに従ってFUGENE(登録商標)(Roche, Basel, Switzerland)を使用して、アデノウイルス形質移入ヒト胚腎臓細胞株293に、同時形質移入した。形質移入複合体と共に24時間インキュベートした後に、形質移入した細胞を、5mM グルタミンを有する無血清培地1.3×GEM N培地にて培養した。上清を回収し、1M トリスpH8.0及び5M 塩化ナトリウム(NaCl)にて調整し、終濃度30mM トリス及び50mM NaClとした。次いで、調整した上清を、プロテインL樹脂-充填カラム(Thermo scientific, Rockford, IL)に流し込んだ。流した後、カラムを、30mM トリス及び150mM NaCl pH8を含むバッファにて洗浄した。結合したFabを、0.1M グリシンバッファpH3.0にて溶出させた。次に、精製したFabを濃縮し、Superdex(登録商標)-200のサイズ排除クロマトグラフィカラム(GE healthcare, Chalfont St. Giles, United Kingdom)に投入し、任意の凝集塊を取り除いた。単量体分画を合わせてプールし、結合試験に使用した。抗HER2野生型及び抗HER2変異体Fab濃度は、280nMの吸光度読み取り値を用いて算出し、1.5の吸光度を1mg/mlのFabと推測した。
【0106】
実施例2:プロテインA結合試験
プロテインAへの抗Her2変異体の結合をELISAにより試験した。MaxiSorpTMELISAプレート(Thermo scientific, Rockford, IL)は、1μg/mlのプロテインA(Thermo scientific, Rockford, IL)又はHer2の細胞外ドメイン(Genentech, South San Francisco, CA)にて終夜コートした。プレートは、PBS、0.5%BSA、10ppm Proclin、pH7.2にて室温で1時間かけてブロックし、次いで、洗浄バッファ(PBS/0.05%TweenTM20/pH7.2)にて洗浄した。野生型Fab及び変異体の段階的な4倍希釈物(1000nMから始まる)を含むアッセイバッファ(PBS、pH7.4、0.5%BSA、0.05%Tween20、10ppm Proclin)を、プロテインAにてコートした96ウェルのプレートに添加した。一方、野生型Fab及び変異体の段階的4倍希釈物(50nMから始まる)を含むアッセイバッファを、Her2にてコートした96ウェルのプレートに添加した。振盪しながら室温で3時間インキュベートした後、プレートを4回洗浄し、結合した抗体を、アッセイバッファにて1:10000に希釈したヤギ抗ヒトIgG(F(ab')特異的)-HRP(Jackson ImmunoResearch, West Grove, PA)にて、振盪しながら室温で0.5時間かけて検出した。次いで、プレートを更に4回洗浄し、その後発色させるためにテトラメチルベンジジン基質(Moss, Pasadena, MD)を添加した。1M リン酸(HPO)の添加によって反応は2分後に停止した。プレートは、Molecularデバイスマイクロプレート読み取り機にて450−620nmの波長を読み取った。
【0107】
結果は、変異体のすべてが、野生型と同じHer2への結合親和性を保持していたことを示す(図1及び2)。図3−4の結果は、特定の変異体が野生型[S17A、R19A、T57A、T57K、R66A、Q81A及びN82aA]と比較してプロテインAへの結合の減少を示すのに対して、他の変異体は基本的に同じレベルの結合[S21A及びT68A]を示し、さらに、他の変異体は結合の増加を示した[S70A、Y79A及びS82bA]を示す。WT FabのEC50は、およそ15nMであると推定された。各々のこれら変異体の推定を表2に示す。

【0108】
前述の本発明は、理解を明確にするための図示及び例示によりいくらか詳細に記載されているが、これら記載や例示は本発明の権利を限定して解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型ヒトIgG VH領域と比較して、カバットにあるEUインデックスに従って番号付けしたアミノ酸残基17、19、57、66、70、79、81、82a、82bの一又は複数に一又は複数のアミノ酸置換を含むヒトIgG VH領域を含んでなる変異体IgGであって、このとき変異体IgGが黄色ブドウ球菌プロテインAに対する変更した結合を有する変異体IgG。
【請求項2】
プロテインAに対して増加した結合を有する、請求項1に記載の変異体IgG。
【請求項3】
変異体IgGが、野生型IgG VH領域と比較して、アミノ酸残基70、79及び82bの一又は複数に一又は複数のアミノ酸置換を含むヒトIgG VH領域を含んでなる、請求項2に記載の変異体IgG。
【請求項4】
前記の一又は複数のアミノ酸置換がS70A、Y79A及びS82bAからなる群から選択される、請求項3に記載の変異体IgG。
【請求項5】
プロテインAに対して減少した結合を有する、請求項1に記載の変異体IgG。
【請求項6】
変異体IgGが、野生型IgG VH領域と比較して、アミノ酸残基17、19、57、66、81及び82aの一又は複数に、一又は複数のアミノ酸置換を含むヒトIgG VH領域を含んでなる、請求項5に記載の変異体IgG。
【請求項7】
前記の一又は複数アミノ酸置換がS17A、R19A、T57A、T57K、R66A、Q81A及びN82aAからなる群から選択される、請求項6に記載の変異体IgG。
【請求項8】
ヒト又はヒト化のIgGである、請求項1に記載の変異体IgG。
【請求項9】
IgG、IgG、IgG又はIgGである、請求項8に記載の変異体IgG。
【請求項10】
変異体IgGがプロテインA以外の黄色ブドウ球菌タンパク質と結合する、請求項1に記載の変異体IgG。
【請求項11】
請求項1又は10に記載の変異体IgGと薬学的に許容可能な担体とを含有してなる薬学的組成物。
【請求項12】
請求項1又は10に記載の変異体IgGを、使用説明書と共に容器に具備するキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−513414(P2012−513414A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542591(P2011−542591)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/069468
【国際公開番号】WO2010/075548
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(509012625)ジェネンテック, インコーポレイテッド (357)
【Fターム(参考)】