説明

プロピレン生成触媒

【課題】エチレン又はエタノールからプロピレンへの転換の選択率が高い触媒を提供する。
【解決手段】粒径が10μm以下のリン酸塩系ゼオライト固体酸からなるプロピレン生成触媒、又はSAPO−34からなる固体酸触媒であって、触媒成分の組成比:Si/(Si+Al+P)(但し、モル比)が0.1以下を満足するプロピレン生成触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エタノール又はエチレンを含有する供給原料を固体酸触媒に接触転化させてプロピレンを生成する際に用いる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレンはアクリロニトリル、ポリプロピレン、エチレンプロピレンゴム、酸化プロピレン、オクタノールなどの原料として大量に生産され使用されている重要な合成原料である。
そして、プロピレンは石油分解ガス中から濃縮分離し、低温分留法などによって精製したものが使用されている。
【0003】
一方、近年の石油の値段の高騰、将来の資源枯渇の問題もあり、原燃料を石油からバイオエタノールやバイオメタノールに転換する試みがなされている。
これに伴い、アルコール類からプロピレンを製造する反応の研究が重要になってきており、エタノールやメタノールを出発原料とするプロピレンの製造法について種々の提案がされている(特許文献1〜3)。
【0004】
【特許文献1】特公平6−99328号公報
【特許文献2】特公平7−45015号公報
【特許文献3】特開2006−89300号公報
【0005】
上記の特公平6−99328号公報には、SAPO−34などの固体酸触媒を用いるアルコール及びエーテルを含有する供給原料を軟質オレフィンを含有する生成物に転化する化学転化方法が記載されている。しかし、具体的に開示されている供給原料はメタノールであり、プロピレンの選択率は52%以下であり、触媒の粒径又は触媒中のSi成分の割合を特定の範囲とすることによるプロピレン選択率への影響については記載がない。
【0006】
上記の特公平7−45015号公報には、SAPO−34などの固体酸触媒を用いるアルコールやエーテルなどの供給原料を軟質オレフィンを含有する生成物に転化する流動床を用いた化学転化方法が記載されている。しかし、具体的に開示されている供給原料はメタノールであり、プロピレンの選択率は52%以下であり、触媒の粒径又は触媒中のSi成分の割合を特定の範囲とすることによるプロピレン選択率への影響については記載がない。
【0007】
上記の特開2006−89300号公報には、メタノール及びジメチルエーテルの少なくとも1つから主成分がプロピレンであるオレフィン類を含むオレフィン含有ガスへの転換反応に用いるSAPO−34の製造方法が記載されている。そして、触媒中の各成分の割合としてSi:Al:P=0.05〜1.8:1:0.6〜0.9(モル比)が記載されている。しかし、具体的に開示されている供給原料はメタノールであり、プロパンとプロピレンとの合計の選択率は53%であり、触媒の粒径を特定の範囲とすることによるプロピレン選択率への影響については記載がない。
【0008】
一方、エタノールからプロピレンを製造する反応には、1)エタノールからエチレンへの転換、2)エチレンからプロピレンへの転換の逐次的反応によって行うことが有利であることが明らかになっている。
そして、この1)エタノールからエチレンへの転換は、固体酸触媒を使用することによって比較的容易に達成されることが明らかになっている。
【0009】
このため、エタノールからプロピレンを製造する反応においては、2)エチレンからプロピレンへの転換の選択率を高めることが重要である。
しかし、従来公知の触媒によっては、前記のエチレンからプロピレンへの転換の選択率が充分高くなく、改良が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、この発明の目的は、エチレン又はエタノールからプロピレンへの転換の選択率が高い触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、粒径が10μm以下のリン酸塩系ゼオライト固体酸からなるプロピレン生成触媒に関する。
また、この発明は、SAPO−34からなる固体酸触媒であって、触媒成分の組成比が下記の条件
0.1≧Si/(Si+Al+P)
(但し、モル比)
を満足するプロピレン生成触媒に関する。
【0012】
この発明において、固体酸触媒の粒径とは、平均粒径のことを意味する。
そして、一般的に固体酸触媒は、反応に使用するために適当な大きさに成型され、高温で焼成して使用されるが、固体酸触媒においては乾燥後の粉末の粒径が重要であり、この発明における粒径とは焼成前の粉末の平均粒径のことを意味する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、エチレンからプロピレンへの転換の選択率が高い触媒を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明における好適な態様を次に示す。
1)粒径が1〜10μmである前記のプロピレン生成触媒。
2)触媒成分の組成比が下記の条件
0.1≧Si/(Si+Al+P)≧0.01
(但し、モル比)
を満足する前記のプロピレン生成触媒。
【0015】
この発明におけるプロピレン生成触媒は、リン酸塩系ゼオライト固体酸触媒であって粒径が10μm以下のものである。
前記の「ゼオライト」とは、一般的には分子レベルの細孔を内包した含水アルミノ系ケイ酸塩であり、一般式M2/nO・Al・xSiO・yHOで表される。
そして、リン酸塩系ゼオライトとは、ゼオライトのSiO四面体のSiの一部を、3価のAlと5価のPとで置き換えた構造であり、固体での酸性を付与するために、P又はAlの一部を異なる価数の金属カチオンで置換させたものであってよい。
【0016】
前記のリン酸塩系ゼオライトとして、例えば、Pの一部をSiに置換させたシリコンアルミノリン酸塩、Alを異なる価数の金属カチオンで置換させたメタルアルミノリン酸塩、これらの中間組成体などが挙げられる。
前記のリン酸塩系ゼオライトとして、具体的にはSAPO−5、SAPO−11、SAPO−18、SAPO−34、CoAPO−5、CoAPO−34、BeAPO−5、BeAPO−34、BeAPSO、MnAPO−34、MnAPO−36などの「*APO−n(*は金属元素)」で表されるメタルアルミノリン酸塩が挙げられる。
【0017】
この発明における第1の触媒は、前記のリン酸塩系ゼオライトであって粒径が10μm以下、好適には1〜10μmである固体酸触媒である。
前記の固体酸触媒は、例えば水にリン酸源、アルミナ源およびシリカ源、場合によりさらにコバルト源、ベリリウム源又はマンガン源等の金属源を加えて均一なゲルを生成させ、これに構造規定剤としてテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)を加えて攪拌し、ヒドロゲルのpHを約6〜6.9に調整し、得られたヒドロゲルを加圧加熱容器中で約200℃まで徐々に昇温した後10〜240時間この温度に保持して結晶化させ、次いで放冷して固体を取り出し、この固体を水で洗浄した後、固形分を100〜200℃で乾燥することによって、粒径が10μm以下、好適には1〜10μmである目的の固体酸粉末として得ることができる。
【0018】
また、この発明における第2の触媒は、SAPO−34からなる固体酸触媒であって、触媒成分の組成比が下記の条件
0.1≧Si/(Si+Al+P)(但し、モル比)、
好適には下記の条件
0.1≧Si/(Si+Al+P)≧0.01(但し、モル比)
を満足する固体酸触媒である。
【0019】
前記の固体酸触媒は、例えば水にリン酸源、アルミナ源およびシリカ源を、各成分をモル比でSiO:Alが0.05:1〜0.1:1、Al:Pが1:1となる割合で加えて均一なゲルを生成させ、これに構造規定剤、好適にはテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)を加えて攪拌し、ヒドロゲルのpHを約6〜6.9に調整し、得られたヒドロゲルを加圧加熱容器中で約200℃まで徐々に昇温した後10〜240時間この温度に保持して結晶化させ、次いで放令して固体を取り出し、この固体を水で洗浄した後、固形分を100〜200℃で乾燥することによって、粒径が10μm以下、好適には1〜10μmである固体酸粉末として得ることができる。
【0020】
前記の固体酸粉末は、16〜32メッシュに成型し、例えば石英製反応管に充填し、好適には10〜500ml/分の空気流通下、500〜650℃で1〜10時間程度保持して焼成して使用する。
前記の焼成によって細孔内に残存している構造安定剤は除かれる。
【0021】
この発明の前記の固体酸触媒を使用することによって、エタノール又はエチレンを含有する供給原料から高選択率でプロピレンに接触転化させることができる。
この発明の前記の固体酸触媒を使用してエタノール又はエチレンを含有する供給原料からプロピレンを製造する方法としては、供給原料がエタノールである場合は予め任意の脱水触媒を充填した反応層にエタノールを供給しエチレンを生成するエチレン化工程後、この発明の固体酸触媒を充填した反応層に供給して連続的にプロピレンを製造する第1の方法、又は直接にエタノール又はエチレンを含有する供給原料をこの発明の固体酸触媒を充填した反応層に供給して連続的にプロピレンを製造する第2の方法が挙げられる。
前記の第2の方法においては固体酸触媒を充填した反応層を2つの反応ゾーンに分けて、第1の反応ゾーンにおいてエタノールを脱水してエチレン化工程、第2の反応ゾーンにおいてエチレンからのプロピレン化工程とすることが好ましい。
【0022】
前記の反応層の形態としては、反応容器内に充填したこの発明の固体酸触媒が原料供給時に固定されたままである固定層タイプでも、原料供給時に原料の流動によって動く流動層タイプでもよい。
また、前記のエタノールを予めエチレンに転化するエチレン化工程では、エタノールの脱水反応で生じた水を除去することが好ましい。
【0023】
この発明の固体酸触媒を用いてエタノール又はエチレンを含有する供給原料からプロピレンを製造する方法における、下記の態様
1)エタノールからプロピレンを直接製造する方法
2)エタノールからエチレンを生成する方法
3)エチレンからプロピレンを生成する方法
において、1)および3)においては反応温度は300〜500℃であることが好ましく、2)においては230〜270℃であることが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、この発明の実施例を示す。
以下の各例において、固体酸触媒の測定および固体酸触媒を用いたエチレンからプロピレンの製造試験における反応条件は、下記の通りである。
1)固体酸触媒の測定
触媒の粒径はSEM撮影より平均値を求めた。
固体酸触媒およびゲル中のSi、Al、Pの元素分析は電子線マイクロアナライザー(EPMA)で行い、誘導結合プラズマ(ICP)で確認した。
また、X線回折(XRD)の構造パターンより、文献:USP4440871(1983)に示されている構造パターンと比較してSAPO−34が生成していることを確認した。
2)触媒性能評価
エチレン供給ガス圧力0.33atm、Heキャリアガス、反応温度350℃、W/F=8.7ghmol−1で各触媒を用いて、エチレン転化率を変化させたときの個々のプロピレン選択率を求め、エチレン転化率を0%に外挿したときのプロピレン選択率にて評価を行った。
【0025】
実施例1〜3
水にリン酸源としてオルトリン酸85%水溶液(和光純薬工業株式会社製)を加え、この水溶液にアルミナ源として擬ベーマイト(CATAPAL−C、Sasol製)を少量ずつ加え、モーター式の攪拌器で90分間攪拌した。このとき粘性の高いゲルが生成した。次に、このゲルにシリカ源としてフュームドシリカ(AEROSIL−200、日本アエロジル株式会社)を水と共に加えて15分ほど攪拌した。さらに構造規定剤として、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)20%水溶液(和光純薬工業株式会社製)をTEAOH/Al=1.0(モル比)の割合で加えて60分間攪拌した。この攪拌の途中にヒドロゲルのpHを調べ、構造規定剤によってpHを6.5付近に調整した。
【0026】
このヒドロゲルをテフロン(登録商標)製の容器に移し、これをステンレス製のオートクレーブに入れた。モーターを備えた電気炉にオートクレーブを設置し、オートクレーブを攪拌速度15rpmで回転させながら加熱した。室温から190〜195℃まで5時間かけて昇温し、この温度で120時間保持することにより結晶化させた。次いで、オートクレーブを室温付近まで放冷し、得られた固体を取り出した。これに水を加えて攪拌し、固体が沈澱したら上澄み液を捨てた。この操作を上澄み液が透明になるまで繰り返した。このようにして得られた固体を120℃で乾燥させて、目的の固体酸触媒粉末(SAPO−34)を得た。さらにSAPO−34を石英製反応管に充填して空気流通下(酸素含有気体)、600℃、6時間保持することによりSAPO−34細孔内に残存している構造安定剤を燃焼除去した。
この固体酸触媒粉末について、粒径を測定した。結果を表2に示す。
また、添加成分組成および固体酸触媒粉末中のSi、Al、Pの割合(モル比)をまとめて表1に示す。実施例3においては市販品のため、合成後の組成分析値のみ記載した。
【0027】
また、この粉末を16〜32メッシュに成型し、石英管に充填して粉末1g当たり100ml/分の空気流通下、600℃で6時間保持して焼成して、反応用の固体酸触媒を得た。
この固体酸触媒を用いて性能評価を行った。
固体酸触媒の粒径と性能との関係をまとめた結果および固体酸触媒の組成と性能との関係をまとめた結果を各々表2、図1および図2に各々示す。
【0028】
比較例1〜4
リン酸源としてのオルトリン酸85%水溶液の量、アルミナ源としての擬ベーマイトの量、シリカ源としてのフュームドシリカの量を変え、構造規定剤としてモルホリン(M)をM/Al=2.0(モル比)の割合で用いた他は実施例1と同様にして、固体酸触媒粉末を得た。
この固体酸触媒粉末について、各成分組成、粒径を測定した。添加組成および固体酸触媒粉末中のSi、Al、Pの割合(モル比)をまとめて表1および表2に示す。
また、この粉末を用いて、実施例1と同様にして反応用の固体酸触媒を得た。
固体酸触媒の粒径と性能との関係をまとめた結果および固体酸触媒の組成と性能との関係をまとめた結果を各々表2、図1および図2に各々示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
以上より、表2および図1に基いて、粒径が10μm以下、特に1〜10μmであると、エチレンからプロピレンを製造する選択率が特異的に高いことがわかる。
また、表2および図2に基いて、SAPO−34からなる固体酸触媒であって、触媒成分の組成比Si/(Si+Al+P)が0.1以下、特に0.01〜0.1であると、エチレンからプロピレンを製造する選択率が特異的に高いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、実施例および比較例で得られた固体酸触媒の粒径と性能との関係を示す。
【図2】図2は、実施例および比較例で得られた固体酸触媒の組成と性能との関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が10μm以下のリン酸塩系ゼオライト固体酸からなるプロピレン生成触媒。
【請求項2】
粒径が1〜10μmである請求項1に記載のプロピレン生成触媒。
【請求項3】
SAPO−34からなる固体酸触媒であって、触媒成分の組成比が下記の条件
0.1≧Si/(Si+Al+P)
(但し、モル比)
を満足するプロピレン生成触媒。
【請求項4】
触媒成分の組成比が下記の条件
0.1≧Si/(Si+Al+P)≧0.01
(但し、モル比)
を満足する請求項3に記載のプロピレン生成触媒。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−18247(P2009−18247A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182433(P2007−182433)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【Fターム(参考)】