説明

プロモーターおよび該プロモーターを用いた遺伝子発現方法

【課題】有用遺伝子を動物細胞において効率よく発現させるプロモーター、及び該プロモーターを用いた遺伝子発現方法を提供する。
【解決手段】特定な配列又はその一部を含むDNAであって、かつ、動物細胞においてプロモーター活性を有するDNA、該DNAと有用遺伝子とを発現可能な状態で連結したことを特徴とする組換えDNA、該組換えDNAを含有するベクター、該組換えDNAを導入してなる動物細胞、該ベクターで形質転換されてなる動物細胞、該動物細胞を有する動物、該DNAを用いた動物細胞によるタンパク質の製造方法、有用遺伝子の発現方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なプロモーターおよび該プロモーターを用いた遺伝子発現方法に関する。更に詳しくは、動物細胞中で働き得る新規なプロモーターを含むDNA、該プロモーターの下流にタンパク質をコードする核酸を連結して得られるDNAを含有するベクターを用いるタンパク質の製造方法、及び該プロモーターの下流に有用遺伝子を連結して得られたDNAあるいは該DNAを含有するベクターを動物細胞に導入することによる有用遺伝子の発現方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物由来の有用遺伝子産物を遺伝子工学的に製造する場合、大腸菌、枯草菌、酵母等の微生物宿主を用いると遺伝子産物が発現されなかったり、遺伝子産物である蛋白が正しい立体構造をとらない、翻訳後修飾が正しくなされない等の理由で活性を持たなかったりすることがしばしば起こる。その問題の解決のために動物細胞が宿主として用いられることが多く、この場合プロモーターの選択が発現効率に大きな影響を与える。従来、頻繁に用いられてきた動物細胞用プロモーターとしては、SV40プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、アクチンプロモーター等がある。
ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT−III)遺伝子のプロモーターとしては、H204プロモーター(例えば、特許文献1および非特許文献1)およびH15プロモーター(非特許文献1)が知られている。
【特許文献1】特開平9−107977号公報
【非特許文献1】ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Eur. J. Biochem.)、第238巻、第853〜861頁(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
動物細胞を宿主として有用遺伝子産物を大量に生産する場合、従来用いられてきた動物細胞用プロモーターは宿主細胞の種類によっては転写活性の点で必ずしも満足のいくものではなく、新規プロモーターの開発が待ち望まれている。したがって、本発明の第1の目的は、動物細胞においてプロモーター活性を有する新規DNAを提供することにある。本発明の第2の目的は、本発明のプロモーター活性を有するDNAと有用遺伝子とを発現可能な状態で連結した組換えDNAを提供することにある。本発明の第3の目的は、本発明の組換えDNA又は該組換えDNAに対応する配列を有する組換えRNAを含有するベクターを提供することにある。本発明の第4の目的は、本発明の組換えDNAを有する動物細胞および該動物細胞を有する動物を提供することにある。本発明の第5の目的は、該プロモーターを用いるタンパク質の製造方法を提供することにある。本発明の第6の目的は、該プロモーターを用いる有用遺伝子の発現方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、動物細胞で転写活性を示す新規プロモーターを得る目的で鋭意研究を続けたところ、ヒトGnT−III遺伝子の上流に新規プロモーターが存在することを見出した。このプロモーターを含むDNAの塩基配列を決定し、該DNAを西洋ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結してルシフェラーゼ遺伝子の発現を行わしめたところ、該プロモーターが新規プロモーターであることを確認した。本発明はかかる発見に基づきさらに研究を進めて完成するに至ったものである。
【0005】
即ち、本発明の要旨は、(1) 配列表の配列番号4で示される配列又はその一部を含むDNAであって、かつ、動物細胞においてプロモーター活性を有するDNA、(2) 配列表の配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群より選択される配列又はその一部を含む(1)記載のDNA、(3) 前記(1)又は(2)に記載のDNAとハイブリダイズすることができるDNAであって、かつ、動物細胞においてプロモーター活性を有するDNA、(4) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のDNAと有用遺伝子とを発現可能な状態で連結したことを特徴とする組換えDNA、(5) 有用遺伝子がタンパク質をコードする核酸、アンチセンスRNAをコードする核酸、デコイをコードする核酸、リボザイムをコードする核酸、siRNAをコードする核酸、shRNAをコードする核酸、及びアプタマーをコードする核酸からなる群より選択される核酸であることを特徴とする前記(4)記載の組換えDNA、(6) 前記(4)又は(5)に記載の組換えDNA又は該組換えDNAに対応する配列を有する組換えRNAを含有するベクター、(7) ベクターがプラスミドベクター又はウイルスベクターであることを特徴とする前記(6)記載のベクター、(8) 前記(4)又は(5)に記載の組換えDNAを導入してなる動物細胞、(9) 前記(6)又は(7)に記載のベクターで形質転換されてなる動物細胞、(10) 前記(8)又は(9)に記載の動物細胞を有する動物、(11) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のDNAの下流にタンパク質をコードする核酸を発現可能に連結し、得られる組換えDNAを含有するベクターで形質転換された動物細胞を培養し、次いで培養物から該タンパク質を採取することを特徴とする動物細胞によるタンパク質の製造方法、(12) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のDNAの下流に有用遺伝子を発現可能に連結し、得られる組換えDNAを動物細胞に導入し、次いでその動物細胞を培養することを特徴とする動物細胞による有用遺伝子の発現方法、(13) 前記(1)〜(3)のいずれかに記載のDNAの下流に有用遺伝子を発現可能に連結し、得られる組換えDNA又は該組換えDNAに対応する配列を有する組換えRNAを含有するベクターで動物細胞を形質転換し、次いでその動物細胞を培養することを特徴とする動物細胞による有用遺伝子の発現方法、に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のDNA断片をプロモーターとして用いることにより、目的の有用遺伝子を動物細胞において効率よく発現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明について詳細に説明する。本明細書で言う「プロモーター」とは、特定の転写開始点(+1)からRNAポリメラーゼに転写を開始させる機能を担っているDNA配列を意味する。プロモーターの構成要素として、転写開始点から20〜30塩基対上流のTATAボックスがよく知られているが、これを持たないプロモーターも多く存在するので、本明細書ではTATAボックスの有無に関係なく上記機能を有するDNA配列をプロモーターと呼ぶ。また、この領域以外に、発現調節のためにRNAポリメラーゼ以外のタンパク質が会合するために必要な領域を含んでいてもよい。また本明細書中で「プロモーター領域」と記載する場合があるが、これは本明細書で言うプロモーターを含む領域のことを示す。
【0008】
本明細書で言う「プロモーター活性」とは、プロモーターの下流に発現可能な状態でDNAを連結し、宿主(動物細胞)に導入した際、宿主内において該DNAからのRNAの転写を開始させる能力および機能を有することを示す。一般的に、プロモーターの下流に、定量が容易に行えるタンパク質をコードする遺伝子(レポーター遺伝子)を発現可能な状態で連結し、これを宿主に導入し、発現されるタンパク質の量を測定することでプロモーター活性の有無や強弱を知ることができる。これと同様に、プロモーターの下流に発現可能な状態で有用遺伝子を連結し、宿主に導入した際、宿主内または宿主外において有用遺伝子の遺伝子産物の発現が確認された場合、そのプロモーターは導入した宿主においてプロモーター活性を有することになる。
【0009】
本明細書で言う「動物細胞」の例としてはヒト由来の細胞が挙げられるが、本発明のプロモーターがその動物細胞内においてプロモーター活性を有するものであれば特に限定されるものではない。ヒト由来の細胞の他に、例えば、ヒト以外の哺乳類(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル、チンパンジー等)、鳥類(例えば、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、アヒル、カモ等)、爬虫類(例えば、ヘビ、ワニ、カメ等)、両生類(例えば、カエル、サンショウウオ、イモリ等)、魚類(例えば、アジ、サバ、スズキ、タイ、ハタ、ブリ、マグロ、サケ、マス、コイ、アユ、ウナギ、ヒラメ、サメ、エイ、チョウザメ等)、及び昆虫類(ショウジョウバエ、カイコ、ヨトウガ等)由来の細胞が挙げられる。
【0010】
本明細書で言う「有用遺伝子」としては、動物細胞において発現可能なタンパク質をコードする核酸、動物細胞由来の遺伝子のアンチセンスDNA、アンチセンスRNAをコードする核酸、動物細胞由来の転写因子の結合タンパク質をコードする遺伝子あるいは転写因子の結合部位の配列または類似の配列を持つデコイをコードする核酸、動物細胞由来のmRNAを切断するリボザイムをコードする核酸、siRNAをコードする核酸、及びshRNAをコードする核酸が挙げられる。ここで、動物細胞において発現可能なタンパク質としては、ヒトGnT−III以外のタンパク質が例示される。
【0011】
動物細胞において発現可能なタンパク質をコードする核酸としては脊椎動物由来のものが挙げられるが、本発明においてこれは限定されるものではなく、動物細胞において発現可能であれば、細菌類、放線菌類、古細菌類、酵母類、糸状菌類、子嚢菌類、担子菌類等の微生物由来のもの、植物、昆虫等の生物由来のもの、あるいはウイルス由来のもの、ウイロイド由来のもの、及びバクテリオファージ由来のものも本明細書で言う有用遺伝子に含まれる。
【0012】
本明細書で言う「デコイ」とは、動物細胞由来の転写因子の結合タンパク質をコードする遺伝子あるいは転写因子の結合部位の配列または類似の配列を持つ核酸を示し、これらを「おとり」として細胞内に導入することで転写因子の作用を抑制するものを言う。本明細書において「リボザイム」とは、特定の配列を持つRNAを切断する活性を持ったRNAをいい、標的となるRNAがタンパク質をコードする場合には当該タンパク質の翻訳を阻害する。リボザイムは標的とするRNAの塩基配列に基づいて設計可能であり、例えば、ハンマーヘッド型リボザイムとしては、フェブス レター(FEBS Letter)、第228巻、第228〜230頁(1988)に記載の方法を用いることができる。また、ハンマ−ヘッド型リボザイムだけでなく、ヘアピン型リボザイム、デルタ型リボザイムなどのリボザイムの種類に関わらず、特定の配列を持つRNAを切断するものであれば本明細書で言うリボザイムに含まれる。本明細書において「siRNA」および「shRNA」とはRNA干渉〔例えば、ネイチャー(Nature)、第411巻、第6836号、第494〜498頁(2001)およびプロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・USA(Proc Natl Acad Sci USA)、第98巻、第17号、9742〜9747頁(2001)〕を惹起しうる核酸をいい、標的となるRNAがタンパク質をコードする場合には当該タンパク質の翻訳を阻害する。siRNAおよびshRNAは標的とするRNAの塩基配列に基づいて設計可能であり、動物細胞内においてRNA干渉を惹起しうるRNAであれば本明細書で言うsiRNA又はshRNAに含まれる。
【0013】
本発明で言う「アプタマー」とは、特定の物質に特異的に結合するオリゴヌクレオチド、オリゴペプチド又はこれらの複合体を意味する。
【0014】
本発明で言う「組換えDNAに対応する配列を有する組換えRNA」とは、組換えDNAに相同な配列を有する組換えRNA、すなわち、組換えDNA配列中のチミン(T)をウラシル(U)で置換した配列を持つ組換えRNAのこと、又は組換えDNAと相補的な配列を有する組換えRNAのことを示す。
【0015】
本発明のプロモーター活性を有するDNA断片の下流に有用遺伝子を発現可能な状態で連結することにより、該遺伝子の発現を可能とすること、又は該遺伝子の発現を増強することができる。即ち、本発明のプロモーター活性を有するDNAと有用遺伝子とを発現可能な状態で連結してなる組換えDNAがベクターを介してまたはベクターを用いずに導入された動物細胞において、有用遺伝子が発現する。ベクターとしては、プラスミドベクターまたはウイルスベクターが好ましく使用される。ベクターを使用しない場合には、DNA断片を公知の方法、例えば以下の文献記載の方法で導入できる〔ビロロジー(Virology)、第52巻、第456〜467頁(1973)、モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Molecular and Cellular Biology)、第7巻、第2745〜2752頁(1987)、ジャーナル・オブ・ザ・ナショナル・カンサー・インスティチュート(Journal of the National Cancer Institute)、第41巻、第351〜357頁(1968)、ジ・エンボ・ジャーナル(The EMBO Journal)、第1巻、第841〜845頁(1982)〕。
【0016】
本発明のこのような組換えDNA断片を持つ動物細胞およびこのような動物細胞を持つ動物も本発明の範囲に含まれる。このような動物としてはヒト以外の動物が例示され、例えば、ヒト以外の哺乳類(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル、チンパンジー等)、鳥類(例えば、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、アヒル、カモ等)、爬虫類(例えば、ヘビ、ワニ、カメ等)、両生類(例えば、カエル、サンショウウオ、イモリ等)、魚類(例えば、アジ、サバ、スズキ、タイ、ハタ、ブリ、マグロ、サケ、マス、コイ、アユ、ウナギ、ヒラメ、サメ、エイ、チョウザメ等)、及び昆虫類(ショウジョウバエ、カイコ、ヨトウガ等)が挙げられる。本発明により発現させることができる有用遺伝子としては、前記のように例えばタンパク質をコードする核酸、アンチセンスRNAをコードする核酸、デコイをコードする核酸、リボザイムをコードする核酸、siRNAをコードする核酸、shRNAをコードする核酸、及びアプタマーをコードする核酸などが挙げられる。
【0017】
また、本発明は目的のタンパク質を生産する方法、本発明のプロモーター活性を有するDNA断片を使用する有用遺伝子の発現方法を開示している。即ち、本発明のプロモーター活性を有するDNAの下流にタンパク質をコードする核酸を発現可能に連結し、得られる組換えDNAをベクターを介して又はベクターを用いずに動物細胞に導入し、該動物細胞を培養し、培養物から該タンパク質を採取することによるタンパク質の製造方法も本発明の範囲に含まれる。同様に、本発明のプロモーター活性を有するDNAの下流に有用遺伝子を発現可能に連結し、得られる組換えDNAを動物細胞に導入し、培養することによる有用遺伝子の発現方法、あるいは該組換えDNAを含有するベクターで動物細胞を形質転換し、その動物細胞を培養することによる動物細胞による有用遺伝子の発現方法も本発明の範囲に含まれる。
【0018】
本発明のDNAは、動物細胞において機能するプロモーター活性を有するものであり、配列表の配列番号4で示されるDNA配列の全部又はその一部を含むものである。即ち、本発明のDNA断片は、新規なプロモーターを含むDNA断片であり、該プロモーターを含む限り、配列番号4で示されるDNA配列の中のいかなるDNA断片であってもよく、あるいは、配列番号4で示されるDNA配列の一部を含むいかなるDNA断片であってもよい。例えば、特に限定されるものではないが、配列番号1で示されるDNA断片、配列番号2で示されるDNA断片、及び配列番号3で示されるDNA断片の全部又は一部、もしくはそれらを含有するDNA断片等が挙げられる。
【0019】
また、本発明のDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって、動物細胞においてプロモーター活性を有するものも、本発明に包含される。
【0020】
ここで「ストリンジェントな条件」とは、例えば、モレキュラー クローニング ア ラボラトリー マニュアル、第2版、J.サムブルック他著(第1章、第62頁、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー社、1989年発行)等の文献に記載の条件が挙げられ、6×SSC(1×SSCは、0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5%SDSと5×デンハルト〔Denhardt’s、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコール400〕と100μg/mlサケ精子DNAとを含む溶液中、用いるプローブのTm−25℃の温度で一晩保温する条件等が挙げられる。
【0021】
また、上記のハイブリダイゼーションには、配列番号1〜4に示される塩基配列をもとに作製されたオリゴヌクレオチドプローブを使用してもよい。
オリゴヌクレオチドプローブのTmは、例えば、下記式:
Tm=81.5−16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)−(600/N)
(式中、Nはオリゴヌクレオチドプローブの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチドプローブ中のグアニン及びシトシン残基の含有量である)
により求められる。
【0022】
また、オリゴヌクレオチドプローブの鎖長が18塩基より短い場合、Tmは、例えばA+T(アデニン+チミン)残基の含有量と2℃との積と、G+C残基の含有量と4℃との積との和〔(A+T)×2+(G+C)×4〕により推定することができる。
【0023】
前記オリゴヌクレオチドプローブの鎖長は、特に限定されないが、非特異的なハイブリダイゼーション及び非特異的なアニーリングを防止する観点から、好ましくは6塩基以上、更に好ましくは10塩基以上であることが望ましい。また、オリゴヌクレオチドの合成の観点から、好ましくは100塩基以下であり、更に好ましくは30塩基以下であることが望ましい。
【0024】
オリゴヌクレオチドの設計は当業者に公知であり、例えば、ラボマニュアルPCR、第13〜16頁、1996年宝酒造社発行を参考に設計することができる。また市販のソフト、例えば、OLIGOTM Primer Analysis software(タカラバイオ社製)を使用することができる。こうして設計されたオリゴヌクレオチドは公知の方法、例えば、ホスホアミダイト法、リン酸トリエステル法、H−ホスホネート法、チオホスホネート法等を用いて合成することができる。
【0025】
本発明の動物細胞用のプロモーターは次のようにして発見されたものである。ヒトGnT−III遺伝子は、井原ら〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)、第113巻、第692〜698頁(1993)〕によって、胎児肝臓cDNAライブラリー及びゲノムコスミドライブラリーから単離されている。ヒト胎盤由来mRNAを鋳型とし、配列表の配列番号5および配列番号6で示されるGnT−III遺伝子特異的な合成DNAをアンチセンスプライマーとして用いてネスティッドPCR法により5’−ラピッド アンプリフィケーション オブ cDNA エンド(5’−RACE)を行ったところ、配列表の配列番号7で示されるcDNAが得られた。以下、この転写産物をF2−1と呼ぶ。この結果から、F2−1の転写開始点の上流に相当するヒトゲノム配列がプロモーター活性を有すると予想された。ヒトゲノムDNA配列に対してホモロジーサーチを行ったところ、F2−1の転写開始点はGnT−III開始コドンの約15kb上流に位置することが明らかになった。以下、F2−1の転写開始点を含むエキソンをF2−1エキソン−1と呼ぶ。
【0026】
ヒトゲノムDNAを鋳型とし、配列表の配列番号8で示される合成DNAと配列番号9で示される合成DNAをプライマーに用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、F2−1エキソン−1およびその上流域を含む約6kbの領域を増幅した。この増幅産物をプラスミドベクターにクローニングし(このプラスミドをGNT3−PCR5と呼ぶ)、F2−1エキソン−1の上流から該エキソンの3’末端付近までを含む約3.2kbのDNA断片(断片Aと呼ぶ)を西洋ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結し、Huh7細胞(理研バイオリソースセンター、RCB1366)に導入した。細胞を破砕した後、ルシフェラーゼ活性を測定したところ、この断片がプロモーター活性を有することが明らかになった。
【0027】
更に、断片Aの上流部分を欠失させた約0.6kbの領域(断片Bと呼ぶ)、約0.3kbの領域(断片Cと呼ぶ)及び約0.2kbの領域(断片Dと呼ぶ)もプロモーター活性を有し、特に断片Bは断片Aよりも強いプロモーター活性を有することが分かった。このようにして、本発明者らは、ヒトGnT−III遺伝子のコード域上流約15kbに位置する約0.2〜約3.2kbを含むDNA断片が強いプロモーター活性を持つことを明らかにし、本発明に到達するに至った。以下に本発明のDNA断片の取得方法について詳細に説明する。なお、特許請求の範囲に含まれるものであれば、下記の方法以外の方法により取得されたDNA断片も本発明のDNA断片である。
【0028】
(1)本発明のプロモーター活性を有するDNA断片の塩基配列
適宜設計したプライマーを用い、ヒトゲノムDNAを鋳型として、ヒトGnT−III遺伝子の上流部をPCRにより増幅する。例えば配列表の配列番号8および配列番号9により示されるプライマーを用いた場合、約6kbのDNA断片が増幅する。この断片を有用遺伝子との連結、該断片の部分配列の切り出し、塩基配列の決定等の目的に使用しやすいようにプラスミドベクター、たとえば、pGEM(登録商標)−Tベクターシステム(プロメガ社製)にクローニングしてGNT3−PCR5を得る。
【0029】
GNT3−PCR5にクローニングされた約6kbの断片の塩基配列は、例えばジデオキシ法〔Proc Natl Acad Sci USA、第74巻、第5463〜5467頁(1977)〕によって決定可能である。本発明では、公開されているヒトゲノムDNA配列(http://www.genome.ucsc.edu/index.html)をもとに約300塩基間隔にプライマーを設計し、ジデオキシ反応を行うことによってGNT3−PCR5の塩基配列を決定した。その部分配列である断片Aの配列は、配列表の配列番号1に示すとおりである。「(2)本発明のプロモーターを含むDNA断片の調製」に記載する方法により調整された断片B、断片Cおよび断片Dの配列は、配列表の配列番号2〜4に示すとおりである。
【0030】
(2)本発明のプロモーターを含むDNA断片の調製
GNT3−PCR5に挿入されているDNAを鋳型、配列表の配列番号10および配列番号11で示される合成DNAをプライマーとしてPCRを行うことにより、約0.6kbの断片Bを増幅することができる。配列表の配列番号10で示されるプライマーはゲノムDNA配列とミスマッチを有しており、NheI認識配列を含む。また、配列番号11で示されるプライマーの5’末端にはBglII認識配列が付加されている。したがって、増幅産物はこれらの制限酵素認識配列を両端付近に持つので、適当なベクター、たとえばルシフェラーゼアッセイ用のベクターであるpGL3−Enhancer Vector(プロメガ社製)に容易に連結することができる。こうして作製したプラスミドをp(F2−1)−4Eと呼ぶ。
断片Bの内部にはSacI認識部位が存在する。該SacI部位から下流の約0.5kbの断片と、GNT3−PCR5をSmaIおよびSacIにより消化して得られる約2.7kbの断片をSacI部位にて連結することにより、断片Aが得られる。具体的には、たとえば次の方法により断片Bを含むプラスミドが構築可能である。p(F2−1)−4EをSacIで消化して約0.2kbの断片を除去し、そこにGNT3−PCR5からSacIで切り出した約4.4kbの断片を、ヒトゲノム配列と一致する向きに挿入することによりp(F2−1)−1Eを得る。pGL3−Enhancer Vectorのマルチプルクローニングサイトを切断するKpnIおよび挿入されたヒトゲノムDNAを切断するSmaIによりp(F2−1)−1Eを消化した後、末端を平滑化し、セルフライゲーションさせることにより断片Aを含むp(F2−1)−2Eを得る。
p(F2−1)−1Eの挿入配列の下流側の末端から約0.3kbの位置にBlnI認識部位が、約0.2kbの位置にBstPI認識部位が存在する。p(F2−1)−1EをBlnI若しくはBstPIおよびKpnIで消化し、末端を平滑化した後にセルフライゲーションを行うことにより、断片Cを含むp(F2−1)−5Eおよび断片Dを含むp(F2−1)−8Eを作製できる。
これ以外にも、他の制限酵素で消化する方法、超音波処理によりDNAを断片化する方法、ホスホアミダイト法で化学合成する方法、ポリメラーゼ連鎖反応法等を利用して調製する方法等も利用できる。例えば、配列番号1等のDNA配列から適宜プライマーを調製し、ポリメラーゼ連鎖反応法により所望のDNA断片を容易に調製することができる。
【0031】
本発明のプロモーターの塩基配列を利用するハイブリダイゼーション法により、他の細胞由来の遺伝子から本発明のプロモーターを得ることもできる。この場合は、例えば以下の方法が適用できる。まず他の細胞の遺伝子源から得た染色体DNAのライブラリーを作製する。次にそのライブラリー中のDNAを膜に固定し、この膜をあらかじめ適切な標識を付したプローブ(プローブとしては、配列表の配列番号1に記載したDNA断片(断片A)、またはその一部、例えば断片B(配列番号2)、断片C(配列番号3)、または断片D(配列番号4)等が使用できる)を含む溶液中で保温し、膜上のDNAとプローブとの間でハイブリッドを形成させる。
【0032】
例えばDNAを固定化した膜を、6×SSC、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、100μg/mlのサケ精子DNA、5×デンハルツを含む溶液中、65℃で20時間、プローブとハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーション後、0.2×SSC及び0.1%SDSを含む溶液中、65℃で30分間洗浄することによって非特異的に吸着したプローブを洗い流し、プローブとハイブリッド形成したクローンを同定する。この操作をハイブリッド形成したクローンが単一になるまで繰り返す。こうして得られたクローンの中には、目的のプロモーター又はその一部を含むDNAが挿入されている。
【0033】
得られたDNAの塩基配列を決定し、本発明のプロモーターの塩基配列と比較して、その相同性から前記のDNAがプロモーターであるかどうかを推定することができる。得られた遺伝子がプロモーターの全てを含まないと考えられる場合には、得られた遺伝子を基にして合成DNAプライマーを作製し、PCRにより足りない領域を増幅したり、得られた遺伝子の断片をプローブとして、更にDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーのスクリーニング等を行ったりすることにより、本発明のプロモーターにハイブリダイズするプロモーターの全域の塩基配列を決定することができる。こうして得られるプロモーターと推定されるDNAを、レポーター遺伝子、例えば西洋ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結し、動物細胞に導入した後に、該細胞のルシフェラーゼ活性を測定することにより、本発明のプロモーターであるか否かを確認できる。
【0034】
(3)本発明の有用遺伝子の発現方法
本発明の有用遺伝子の発現方法は、このようにして得られる本発明のプロモーターの下流に有用遺伝子を発現可能に連結して得られる本発明の組換えDNAを動物細胞に導入し、得られた細胞を培養することを特徴とするものである。上記のようにして調製された本発明のプロモーターを含むDNA断片の下流に目的の有用遺伝子を発現可能に連結するには、DNAリガーゼやホモポリマー法〔Proc Natl Acad Sci USA、第75巻、第3727〜3731頁(1978)〕を利用することができる。
【0035】
本発明に使用できる有用遺伝子としては、例えばインターロイキン1〜12遺伝子、インターフェロンα、β、γ遺伝子、腫瘍壊死因子遺伝子、コロニー刺激因子遺伝子、エリスロポエチン遺伝子、形質転換増殖因子−β遺伝子、免疫グロブリン遺伝子、組織プラスミノーゲン活性化因子遺伝子、ウロキナーゼ遺伝子、西洋ホタルルシフェラーゼ遺伝子等の動物細胞において発現可能なタンパク質をコードする核酸、動物細胞由来の遺伝子のアンチセンスRNAをコードする核酸、動物細胞由来の転写因子の結合タンパク質をコードする遺伝子あるいは転写因子結合するデコイをコードする核酸、動物細胞由来のmRNAを切断するリボザイムをコードする核酸、siRNA若しくはshRNAをコードする核酸、及びアプタマーをコードする核酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
上記のようにして得られる本発明の組換えDNAを動物細胞用の適当なベクターに組み込んで本発明のベクターを得ることができる。かかるベクターは非ウイルスベクターであってもよく、ウイルスベクターであってもよい。例えば、RNAウイルスベクターの場合、当該ウイルスベクターのゲノムには、前記組換えDNAに対応するRNAが含有されている。非ウイルスベクターの例としてはプラスミドベクター、例えばpTM〔ヌクレイック アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)、第10巻、6715〜6732頁(1982)〕、cos202〔ジ エンボ ジャーナル(The EMBO Journal)、第6巻、第355〜361頁(1987)〕、p91203(B)〔サイエンス(Science)、第228巻、第810〜815頁(1985)〕、BCMGSNeo〔ザ・ジャーナル オブ エクスペリメンタル メディシン(The Journal of Experimental Medicine)、第172巻、第969〜972頁(1990)〕等が挙げられる。
【0037】
得られた遺伝子発現用のプラスミドは、リン酸カルシウム法〔Molecular and Cellular Biology、第7巻、第2745〜2752頁(1987)〕、電気穿孔法〔Proc Natl Acad Sci USA、第81巻、第7161〜7165頁(1984)〕、DEAE−デキストラン法〔メソッズ イン ヌクレイック アシッズ リサーチ(Methods in Nucleic Acids Research)、第283頁、カラムら編、CRCプレス、1991年発行〕、リポソーム法〔バイオテクニークス(BioTechniques)、第6巻、第682〜690頁(1988)〕等によって適当な宿主細胞に導入することができる。ウイルスベクターとしては、例えばレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。ウイルスベクターは、使用する宿主細胞の種類、必要とする発現量や導入遺伝子の安定性等を考慮して適宜選択すればよい。宿主細胞としては、例えばCOS1細胞、HELA細胞、CHO−21細胞、BHK−21細胞等が挙げられる。得られた形質転換細胞を適当な培地で培養することにより、目的の有用遺伝子産物を効率よく製造することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0039】
実施例1
1μgのヒト胎盤由来ポリA RNA(クロンテック社製)を鋳型とし、SMART RACE cDNA Amplification Kit(クロンテック社製)を用いて5’−RACEを下記のとおり行った。なお、特記した以外の試薬類はキット付属のものを用いた。
【0040】
まず、1stストランドcDNAを合成した。1μlのヒト胎盤由来ポリA RNA(1μg/μl)、1μlの5’−CDSプライマー(10μM、配列表の配列番号12で示される)、1μlのSMART IIAオリゴヌクレオチド(10μM、配列表の配列番号13で示される)および2μlの精製水を混合し、70℃で2分間インキュベートした後、氷上で冷却した。ここに2μlの5×First−Strand buffer〔250mM Tris−HCl(pH8.3)、375mM KCl、30mM MgCl〕、1μlのジチオスレイトール(20mM)、1μlのdNTPs Mix(各10mM)および1μlのPowerScript Reverse Transcriptaseを加えて混合し、42℃で1.5時間反応させた。反応後、250μlのTricine−EDTA Buffer〔10mM Tricine−KOH(pH8.5)、1mM EDTA〕を添加し、72℃で7分間インキュベートすることにより、1stストランドcDNA合成反応液を得た。
【0041】
次に、ネスティッドPCRによりGnT−III cDNAの5’末端付近を増幅した。1μlの上記1stストランドcDNA合成反応液、2μlの10×ExTaq buffer(タカラバイオ社製)、1.6μlのdNTP Mixture(各2.5mM、タカラバイオ社製)、0.4μlの10×Universal Primer Mix(配列表の配列番号14で示されるロングが0.4μM、配列表の配列番号15で示されるショートが2μM)、0.4μlのhG3 GSP2 プライマー(10μM、配列表の配列番号6で示される;GnT−III遺伝子の配列に基づき合成)、0.1μlのExTaq(タカラバイオ社製)および14.5μlの精製水を混合し、94℃で30秒、55℃で30秒、72℃で3分間のサイクルを40回繰り返した後、72℃で10分間反応させた。
【0042】
1μlの上記PCR反応液、2μlの10×ExTaq buffer、1.6μlのdNTP Mixture(各2.5mM)、0.4μlのNested Universal Primer A(10μM、配列表の配列番号16で示される)、0.4μlのhG3 GSP1 プライマー(10μM、配列表の配列番号5で示される;GnT−III遺伝子の配列に基づき合成)、0.1μlのExTaqおよび14.5μlの精製水を混合し、94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で3分間のサイクルを30回繰り返した後、72℃で10分間反応させた。
【0043】
上記のネスティッドPCRにより得られた増幅産物をpT7Blue T−Vector(ノバジェン社製)にライゲーションし、大腸菌JM109を形質転換した。得られた形質転換体のうち1クローンからプラスミドを調製し、挿入DNAの塩基配列を決定した。この結果、本プラスミドには配列表の配列番号7で示されるDNAが挿入されていた。この配列を持つ転写産物をF2−1と名付けた。
【0044】
実施例2
健常人末梢血単核球から常法によりゲノムDNAを調製した。これを鋳型、配列表の配列番号8及び配列番号9で示される合成DNAをプライマーとし、ExTaq(タカラバイオ社製)を用いてPCRを行った。この増幅産物をpGEM(登録商標)−T Vector System Iと連結し、大腸菌DH5αを形質転換した。形質転換体から1個のクローンを選択し、ここからプラスミドGNT3−PCR5を得た。公開されているヒトゲノムDNA配列をもとに約300塩基間隔に設計したプライマーを用いてジデオキシ法によりGNT3−PCR5の挿入配列の塩基配列を決定した。
【0045】
実施例3
以下のようにしてルシフェラーゼアッセイ用のベクターを構築した。各ベクターに含まれるGnT−IIIプロモーター領域を図1に示す。
【0046】
GNT3−PCR5の挿入配列を鋳型、配列表の配列番号10及び配列番号11で示される合成DNAをプライマーとし、ExTaqを用いてPCRを行った。増幅産物をNheIとBglIIにより消化し、同じ制限酵素で消化したpGL3−Enhancer Vectorと連結し、大腸菌JM109を形質転換した。形質転換体から1個のクローンを選択し、ここからプラスミドp(F2−1)−4Eを得た。挿入配列の塩基配列を決定したところ、GNT3−PCR5の挿入配列の塩基配列とプライマー配列から予測される配列と一致しており、p(F2−1)−4Eは断片Bを含むことが明らかになった。
【0047】
GNT3−PCR5をSacIで消化して約4.4kbの断片を精製した。この断片をSacIで消化したp(F2−1)−4Eと連結し、大腸菌JM109を形質転換した。複数クローンの形質転換体からプラスミドを調製し、制限酵素解析により4.4kb SacI断片の向きを決定した。ヒトゲノムDNAと同じ向きにSacI断片が挿入されているクローンをこの中から選択し、p(F2−1)−1Eを得た。p(F2−1)−1Eは約5.0kbのヒトゲノムDNAを含む。
【0048】
p(F2−1)−1EをKpnIで消化した後、DNA Blunting Kit(タカラバイオ社製)を用いて末端を平滑化した。さらにSmaIで消化した後、ライゲーションを行い、大腸菌JM109を形質転換した。p(F2−1)−1Eから1.7kb KpnI−SmaI断片を欠失し、断片Aを含むプラスミドであるp(F2−1)−2Eを形質転換体から得た。
【0049】
p(F2−1)−1EをKpnIとBlnIで消化し、DNA Blunting Kitを用いて末端を平滑化した後、ライゲーションを行い、大腸菌JM109を形質転換した。p(F2−1)−1Eから4.7kb KpnI−BlnI断片を欠失し、断片Cを含むプラスミドであるp(F2−1)−5Eを形質転換体から得た。
【0050】
p(F2−1)−1EをKpnIとBstPIで消化し、DNA Blunting Kitを用いて末端を平滑化した後、ライゲーションを行い、大腸菌JM109を形質転換した。p(F2−1)−1Eから4.8kb KpnI−BstPI断片を欠失し、断片Dを含むプラスミドであるp(F2−1)−8Eを形質転換体から得た。
【0051】
実施例4
ヒト肝がん細胞株Huh7(理研バイオリソースセンター、RCB1366)を1×10個/mlとなるように10%ウシ胎児血清(FBS)含有RPMI1640培地に懸濁し、24穴プレートのウェルに0.5mlずつ加えて5%CO存在下、37℃で24時間培養した。
【0052】
1.2μgのp(F2−1)−2E、p(F2−1)−4E、p(F2−1)−5E、p(F2−1)−8Eもしくは陰性対照のpGL3−Enhancer Vector、および0.4μlの補正用プラスミドpRL−TK(プロメガ社製)を、50μlのOpti−MEM I培地(インビトロジェン社製)に溶解した。一方、50μlのOpti−MEM I培地に2μlのリポフェクトアミン2000(インビトロジェン社製)を加えて室温で5分間放置した。ここに上記プラスミド溶液を添加し、さらに20分間室温で放置した後、上記Huh7細胞培養液に添加した。5%CO存在下、37℃で48時間培養した。
【0053】
培地を除去したあとリン酸緩衝食塩水(PBS)を加えて軽く振盪してウェルの内側を洗浄し、はがれた細胞とともにPBSを除去した。1ウェルあたり100μlの、蒸留水で5倍希釈した5×Passive Lysis Buffer(プロメガ社製)を添加し、室温で15分間緩やかに振盪して細胞溶解液を調製した。
【0054】
Mithras LB940 Multilabel Reader(ベルトールド社製)を用いてホタルルシフェラーゼ活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。なお、1回の測定あたり、10μlの細胞溶解液と50μlのLuciferase Assay Reagent II〔1バイアルのLuciferase Assay Substrate(プロメガ社製)を10mlのLuciferase Assay Buffer II(プロメガ社製)に懸濁する〕および50μlのStop & Glo Reagent〔50×Stop & Glo Substrate(プロメガ社製)に50倍量のStop & Glo Buffer(プロメガ社製)を加える〕を使用した。ホタルルシフェラーゼによる発光強度をウミシイタケルシフェラーゼによる発光強度で除することにより、プロモーター活性を算出した。
【0055】
この結果、p(F2−1)−2E、p(F2−1)−4E、p(F2−1)−5Eおよびp(F2−1)−8EをトランスフェクトしたHuh7細胞において高いホタルルシフェラーゼ活性が見られた。すなわち、断片A、断片B、断片Cおよび断片DはHuh7細胞においてプロモーター活性を示した。その結果を図2に示す。図2は各ルシフェラーゼアッセイ用ベクターをトランスフェクトしたHuh7細胞のルシフェラーゼ活性を表すものであり、横軸はホタルルシフェラーゼによる発光強度を内部標準であるウミシイタケルシフェラーゼによる発光強度で除したものである。
【0056】
実施例5
ヒト胃がん細胞株KATOIII(JCRB細胞バンク、JCRB0611)、Huh7細胞およびヒト肝がん細胞株HepG2細胞(ATCC HB−8065)を、それぞれ2.2×10個/ml、1.6×10個/mlおよび1.2×10個/mlとなるように10% FBS含有RPMI1640培地に懸濁し、24穴プレートのウェルに0.5mlずつ加えて5%CO存在下、37℃で24時間培養した。
【0057】
0.6μgのp(F2−1)−5Eもしくは陰性対照のpGL3−Enhancer Vector、および0.2μgの補正用プラスミドpRL−TKを、50μlのOpti−MEM I培地に溶解した。一方、50μlのOpti−MEM I培地に0.6μlのリポフェクトアミン2000(インビトロジェン社製)を加えて室温で5分間放置した。ここに上記プラスミド溶液を添加し、さらに20分間室温で放置した後、上記細胞培養液に添加した。5%CO存在下、37℃で24時間培養した。
【0058】
培地を除去したあとPBSを加えて軽く振盪してウェルの内側を洗浄し、はがれた細胞とともにPBSを除去した。1ウェルあたり100μlの、蒸留水で5倍希釈した5×Passive Lysis Bufferを添加し、室温で15分間緩やかに振盪したあと15000rpm、1分間の遠心分離により得た上清を細胞溶解液とした。
【0059】
Mithras LB940 Multilabel Readerを用いてホタルルシフェラーゼ活性およびウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。なお、1回の測定あたり、10μlの細胞溶解液と50μlのLuciferase Assay Reagent IIおよび50μlのStop & Glo Reagentを使用した。ホタルルシフェラーゼによる発光強度をウミシイタケルシフェラーゼによる発光強度で除することにより、プロモーター活性を算出した。
【0060】
この結果、p(F2−1)−5EをトランスフェクトしたKATOIII細胞、Huh7細胞およびHepG2細胞において高いホタルルシフェラーゼ活性が見られた。すなわち、断片Cはこれら3種類の細胞においてプロモーター活性を示した。その結果を図3に示す。図3はp(F2−1)−5Eをトランスフェクトした細胞のルシフェラーゼ活性を表すものであり、縦軸はホタルルシフェラーゼによる発光強度を内部標準であるウミシイタケルシフェラーゼによる発光強度で除したものである。図3において、白い棒グラフは陰性対照であるpGL3−Enhancer Vectorをトランスフェクトした細胞におけるルシフェラーゼ活性を、黒い棒グラフはp(F2−1)−5Eをトランスフェクトした細胞におけるルシフェラーゼ活性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、各ルシフェラーゼアッセイ用ベクターに含まれるプロモーター領域を示す図である。
【図2】図2は、各ルシフェラーゼアッセイ用ベクターをトランスフェクトしたHuh7細胞のルシフェラーゼ活性を表す図である。
【図3】図3は、p(F2−1)−5Eをトランスフェクトした細胞株のルシフェラーゼ活性を表す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0062】
SEQ ID NO:5; PCR primer hG3 GSP1.
SEQ ID NO:6; PCR primer hG3 GSP2.
SEQ ID NO:8; PCR primer to amplify a F2-1 exon and upstream region thereof.
SEQ ID NO:9; PCR primer to amplify a F2-1 exon and upstream region thereof.
SEQ ID NO:10; PCR primer to anplify a fragment B.
SEQ ID NO:11; PCR primer to amplify a fragment B.
SEQ ID NO:12; 5'-CDS primer.
SEQ ID NO:13; SMART IIA oligonucleotide.
SEQ ID NO:14; PCR primer UPM long.
SEQ ID NO:15; PCR primer UPM short.
SEQ ID NO:16; Nested universal primer A.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号4で示される配列又はその一部を含むDNAであって、かつ、動物細胞においてプロモーター活性を有するDNA。
【請求項2】
配列表の配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群より選択される配列又はその一部を含む請求項1記載のDNA
【請求項3】
請求項1又は2記載のDNAとハイブリダイズすることができるDNAであって、かつ、動物細胞においてプロモーター活性を有するDNA。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか一項に記載のDNAと有用遺伝子とを発現可能な状態で連結したことを特徴とする組換えDNA。
【請求項5】
有用遺伝子がタンパク質をコードする核酸、アンチセンスRNAをコードする核酸、デコイをコードする核酸、リボザイムをコードする核酸、siRNAをコードする核酸、shRNAをコードする核酸、及びアプタマーをコードする核酸からなる群より選択される核酸であることを特徴とする請求項4記載の組換えDNA。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の組換えDNA又は該組換えDNAに対応する配列を有する組換えRNAを含有するベクター。
【請求項7】
ベクターがプラスミドベクター又はウイルスベクターであることを特徴とする請求項6記載のベクター。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の組換えDNAを導入してなる動物細胞。
【請求項9】
請求項6又は7に記載のベクターで形質転換されてなる動物細胞。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の動物細胞を有する動物。
【請求項11】
請求項1〜3いずれか一項に記載のDNAの下流にタンパク質をコードする核酸を発現可能に連結し、得られる組換えDNA又は該組換えDNAに対応する配列を有する組換えRNAを含有するベクターで形質転換された動物細胞を培養し、次いで培養物から該タンパク質を採取することを特徴とする動物細胞によるタンパク質の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜3いずれか一項に記載のDNAの下流に有用遺伝子を発現可能に連結し、得られる組換えDNAを動物細胞に導入し、次いでその動物細胞を培養することを特徴とする動物細胞による有用遺伝子の発現方法。
【請求項13】
請求項1〜3いずれか一項に記載のDNAの下流に有用遺伝子を発現可能に連結し、得られる組換えDNA又は該組換えDNAに対応する配列を有する組換えRNAを含有するベクターで動物細胞を形質転換し、次いでその動物細胞を培養することを特徴とする動物細胞による有用遺伝子の発現方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−159568(P2007−159568A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307113(P2006−307113)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】