説明

プール貯留水の再生方法

【課題】シーズンオフ中に貯留されたプール水をプール再開前に廃棄せずに再生・再利用することを可能にする。
【解決手段】季節利用のプール施設において、使用されない期間中に貯留されたプール貯留水に、全銅濃度0.4〜1.0mg/Lになるよう銅塩を添加する工程と、
前記プール貯留水の水面の1/3以上を遮光する工程と、
前記プール貯留水に、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩と、アンモニアまたはアンモニウム塩とを添加することによって、0.4mg/L以上のモノクロラミンを生成させてこれを維持する工程と、
前記プール貯留水の一部を間欠的に循環させる間欠循環工程とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用されない期間中に貯留されたプール水を浄化して再生するプール貯留水の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、季節利用の遊泳用のプール施設等においては、シーズンオフの期間中プール水を貯留しておき、シーズン再開の前にその貯留水を廃棄し、清掃・洗浄後に新鮮水と交換する施設整備方法を実施する場合が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この場合、シーズンオフ中に貯留されたプール水には通常なんらの処理も施されないので、藻の大量増殖と死滅の繰り返しで濁り、その濁度は10度以上になって底面の透視ができないほどになる。また、水槽の接水面や水際の壁面には粘液が付着し、いわゆるヌメリ(又は、「ヌルヌル」、「スライム」、もしくは「バイオフィルム(生物膜)」とも呼ばれる)もみられるため「プール貯留水は腐っている」とみなされ、水抜きをして全量廃棄する必要があった。
【0004】
さらに、上記水抜き廃棄後も水槽内に残った汚泥物やヌメリは、デッキ・ブラシやポリッシャー等で機械的に落とし、水道水等で洗い流す必要もあり、汚れの程度に応じて洗浄水の使用量も多くなりがちであった。その結果、プール再開準備のための清掃を非常に煩雑にし、また清掃コストも嵩むので、施設運営上の難題の1つとなっていた。
【0005】
本発明は、季節利用のプール施設等において、シーズンオフ中に貯留されたプール水をプール再開前に廃棄せずに再生・再利用することを可能にすると共にプール再開前の煩雑な清掃・洗浄等の必要性をなくし、経費を大幅に削減することを可能にしたプール貯留水の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するための手段は以下の通りである。
(1)季節利用のプール施設において、使用されない期間中に貯留されたプール貯留水に、全銅濃度0.4〜1.0mg/Lになるよう銅塩を添加する工程と、
前記プール貯留水の水面の1/3以上を遮光する工程と、
前記プール貯留水に、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩と、アンモニアまたはアンモニウム塩とを添加することによって、0.4mg/L以上のモノクロラミンを生成させてこれを維持する工程と、
前記プール貯留水の一部を間欠的に循環させる間欠循環工程とを有することを特徴とするプール貯留水の再生方法。
(2)前記間欠循環工程は、前記プール貯留水を一週闇に一時間以上の頻度で間欠的に循環させて、非遮光部分の貯留水を遮光下部に移動させる工程であることを特徴とする(1)に記載のプール貯留水の再生方法。
【発明の効果】
【0007】
上述の手段によれば、何らの手段も講じることなく8〜10ヵ月貯留したままのプール水と比較して、沈殿物量、浮遊物量、濁度および壁面のヌメリをはるかに低減できる。この事実は、例えば、容量約1,200mの公営プールにおける実験で証明された。とくにヌメリに関しては、慣例となっているデッキ・ブラシ等による水掛け清掃をまったく要しない状態に長期間維持でき、ワイパー型清掃用具さえ必要としない。食器等の洗剤による洗浄後と同等といえるほど、ヌメリはまったくない。また、循環処理によって透視度が高められ(濁度が低下し)、実施例ではついに50mプールの対角線の対面にある水槽の角や送水口金物の形状を明瞭に認識できる透視度約70mを実現できた。さらに、プールサイド片側に立ち、50m前方の水深がほとんどなくなって見える観察所見が得られ、観察者全員から驚嘆の声が出たほどであった。このため、プール貯留水を捨てることなく再利用が可能になり、かつ、プール再開時の清掃も著しく簡単なものですむようになった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態にかかるプール貯留水の再生方法を実施するための屋外プール施設の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の実施形態にかかるプール貯留水の再生方法を実施するための屋外プール施設の概略図であり、図1に示される屋外プール施設自体は、循環浄化設備を備えた一般的な施設である。以下、図1を参照にしながら本願発明の実施の形態にかかるプール貯留水の再生方法について説明する。なお、この実施の形態で用いたプール施設は、容量約1,200mの50mプールである。
【0010】
図1において、屋外に設置されたプールのプール水槽6は、上部の周囲近傍にオーバーフロー水の排出溝61が設けられ、底部に排水ます7が設けられ、さらに、内壁部に吐出口(菊型送水口金物)11が設けられたものである。前記排水ます7は配管71を通じて循環ポンプ8に接続され、前記循環ポンプ8は配管91を通じて五方切替弁9の第1ポートp1に接続されている。また、前記吐出口11は配管92を通じて前記五方弁9の第2ポートp2に接続されている。
【0011】
前記五方切替弁9の第3ポートp3は、配管93を通じてろ過機10の入口ポートpiに接続され、また前記ろ過機10の出口ポートpdは配管94を通じて前記五方切替弁9の第4ポートp4に接続されている。そして前記五方切替弁9の第5ポートp5には配管95の一方の端部が接続され、前記配管95の他端部は排水溝30に向けて開放されている。
【0012】
前記五方切替弁9は、ろ過時は第1ポートp1と第3ポートp3とが接続され、同時に、第2ポートp2と第4ポートp4とが接続されるようになっている。また、逆洗時には、切り換えによって、第1ポートp1と第4ポートp4とが接続され、同時に、第3ポートp3と第5ポートp5とが接続されるようになっている。そして、逆洗時の後の洗浄時には、切り換えによって、第1ポートp1と第3ポートp3とが接続され、同時に、第4ポートp4と第5ポートp5とが接続されるようになっている。
【0013】
すなわち、前記五方切替弁9によって、常時は、前記循環ポンプ8と前記ろ過機10の入口ポートpiとが接続され、同時に、前記ろ過機10の出口ポートpdと前記プール水槽6の内壁部の吐出口11とが接続されるようになっている。これにより、常時は、前記循環ポンプ8によって、前記プール水槽6の底部の排水ます7からプール貯留水20の一部をろ過機10に導き、ろ過した後、前記吐出口11を通じてプール水槽6内に戻す循環経路を形成するようになっている。一方、前記五方切替弁9の切り換えによって、ろ過機10の逆洗及び洗浄を行う流路を形成できるようになっており、逆洗及び洗浄の排出液は排水溝30を通じ排水されるようになっている。なお、図示しないが、排水ます7−循環ポンプ8−五方切替弁9−ろ過機10−吐出口11からなる循環ろ過流路が実際には3流路設けられており、それぞれの循環ろ過流路の循環ろ過能力は、130m/h、90m/h、90m/hであり、合計の循環ろ過能力は310m/hである。
【0014】
本願発明の実施形態にかかるプール貯留水の再生方法は、上記屋外プール施設を用いて以下のようにして実施する。図1に示されるように、まず、シーズンオフを迎えた屋外プールのプール水槽6に貯留されたプール貯留水20に、全銅濃度0.4〜1.0mg/Lになるよう銅塩1を添加する。これにより、藻の芽胞を死滅させる。また、同時にプール貯留水20の水面の全面積の約1/3を遮光シート2で覆う。なお、この遮光シート2としては、プール水面遮光率が30%以上でかつ水面に浮上できるものを用いる。具体的には、例えば、市販のプール用保温シートや農業用黒色フィルム(黒マルチ)等の低コストのものを用いることができる。さらに、循環ポンプ8を一週間に一時間以上の頻度で間欠運転して循環浄化を行うことで非遮光部分の貯留水を遮光下部に移動させる。これにより、残存する藻の発芽を抑止する。
【0015】
当初の透視度(濁度)を維持するには、この発藻対策をシーズンオフに入った直後(プール閉場から一週間以内)に行うのが望ましい。これは、シーズンオフを迎えた屋外プールのプール水槽6に貯留されたプール貯留水20は、何らの処理もせずに自然光の下に放置した場合、一週間も経ると藻の増殖が始まり、二週間後には底面のコースラインが霞んで見える程度になり、三週間後には底面が透視できない程度まで藻の増殖細胞によって濁ってしまうのが普通であるからである。
【0016】
ここで、銅塩1としては、具体的には硫酸銅・5水塩を2.5kg用いる。これにより、貯水量が1200mの場合、全銅濃度が約0.5mg/Lとなる。補水や溢水が無ければイオン濃度に変化が生じないのでこの投入は1回でよい。この場合、無水塩でないのは、結晶水を持っていた方が溶解が容易だからである。このとき、循環ポンプ8を駆動して均一拡散させてもよいが、自然現象による濃度拡散を期待できるから特にポンプ駆動を必須とはしない。この処理では水道水中の残留塩素濃度でもなお細胞が破壊されていなかった藻の発芽も防止することができる。
【0017】
上記処理によって、完全に死滅していなかった藻の芽胞は銅イオンによってほとんど死滅し、遮光によって光合成もできないからなお耐性を有している芽胞があったとしても発芽できずに増殖しない。なお、循環ポンプ8を一週間に一時間以上の頻度で間欠運転して循環浄化を行うことは、「非遮光部分の貯留水を遮光下部に移動させる」という本来の効果のほかに、休場期間中、ろ過機の水抜きを行って浄化システム設備の防錆を行う必要をなくすという副次的効果も得られる。勿論、前記間欠運転と別途の防錆策を実施すれば、老朽化の防止と同時に再開時の準備作業も省力化も可能となる。
【0018】
さらに、プール貯留水20に、アンモニアまたはアンモニウム塩3と、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩4を分散して添加し、0.4mg/L〜2.0mg/Lのモノクロラミンを生成させるようにする。具体的には、塩化アンモニウム2kgと、12%次亜塩素酸ナトリウム液を20kgとを投入する。なお、プール貯留水20中のモノクロラミンの濃度は、0.4mg/L以上が確保されることが重要であり、その濃度の上限値はそれほど厳密に管理されていなくともよい。さらに、pHが約9になるようにアルカリ剤(粉末・炭酸ナトリウム)を添加して調節する。この処理で、モノクロラミンのみが急速に生成し、長時間の濃度維持が可能になる。なお、モノクロラミンが逆反応でアンモニアに戻る場合もあり、次亜塩素酸塩を追加して濃度維持することが必要な場合もあるが、これは発藻の様子をみて行う。pHを変動因子とするモノクロラミンの安定性については、文献;用水と排水,Vol.50,No.5(2008)「貯水槽・浴槽における抜本的レジオネラ対策」関秀行他著、に詳細に記載されている。
【0019】
モノクロラミンを所定濃度以上に長時間維持することによって、粘液を分泌して細菌叢をつくり種の保存を図ろうとする細菌類の増殖を完全に阻止できる。加えて、モノクロラミンは藻より小さい細菌に対してより効果を発揮するから、藻の死骸や土砂・塵埃で構成される沈殿物の相互凝集を阻害することなく、粘着力を弱めることができた。
【0020】
なお、以上の処理を施した場合、プール水槽6の底部には、沈殿濁質5が形成されてくるが、この沈殿濁質5は、例えば、風によって運ばれてきた土砂、塵埃、野焼きの煤、野鳥の羽、水生動物の卵や幼虫、藻の死骸などが沈殿したものであり、沈殿によって濁質が徐々に相互凝集し比重が高まっていったものである。それゆえ、循環ポンプ8を駆動してもこの沈殿濁質5自体が排水ますに吸引されることはほとんどない。この沈殿濁質5を掃除機型の機器により底層の水とともに吸引して外部に廃棄すれば、貯留水の損失を10%以下におさえつつプール再開が可能となる。この沈殿濁質の吸引排出作業は、後述する本格的な凝集ろ過前に1〜2日を掛けて行っておく。
【0021】
なお、沈殿濁質5には比較的粒子の小さいいわゆる懸濁物が少し含まれている場合があり、循環ポンプ8を駆動した場合や、沈殿濁質5を掃除機型の機器により吸引・廃棄する場合等に貯留水中に舞い上がる場合がある。循環ポンプ8を駆動した場合に舞い上がった懸濁物の多くは、ろ過機10によって除去できる。また、吸引・廃棄の際に舞い上がり、吸引されずに貯留水中に残った懸濁物については、本願発明者の発明にかかる特許第2032782号明細書に記載された発明(以下、凝集ろ過処理という)を実施することで、極限まで静電気吸着捕捉でき、透視度を画期的に高めることができる。本実施の形態では、沈殿濁質の吸引排出作業後、プール再開日まで通常の循環ろ過を継続し、濁度5度程度になってから、12%次亜塩素酸ナトリウム液を4日間、毎回約30kgで合計120kgを添加し、脱色消毒を行う。その結果、プール再開日の前日には透視度50m以上(濁度0.1度未満)が得られた。
【0022】
【表1】

【0023】
表1は、上述の実施形態にかかるプール貯留水再生方法によって処理した貯留水、並びに、この処理後の貯留水にさらに凝集ろ過処理を施したプール貯留水の水質を調査した結果を示すものである。表1において、検査項目は、東京都が定める条例および厚生労働省が通知しているプール水質基準並びに水道水質基準(省令)の項目に準拠したものである。また、プール再開基準日はプール再開日の18日前の日であり、8日後、18日後とは、プール再開基準日から8日後、18日後のことであり、18日後がプール再開日である。
【0024】
表1から明らかなように、プール再開基準日においては、濁度、一般細菌数、及び過マンガン酸カリウム消費量(TOC測定値)がプール水質基準に不適合であったが、プール再開日においては、全水質検査項目が東京都が定める条例および厚生労働省が通知している水質基準に適合していることがわかる。しかも、上記項目のほとんどが「水道水」の水質基準に照らしても適合するもので、特に、濁度を0.1度未満にできたことは、当業者においては驚異的数値である。なお、プール再開の準備作業直前に、貯留水中に水生昆虫の一匹でも生存確認できれば、それは毒性面で貯留水の安全性に関する証左となるが、アキアカネ系の水生昆虫(ヤゴ)の生存を確認し、試飲もして問題ないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、循環浄化を長期間停止するあらゆる種類の貯水槽に対して利用できる。藻の発生は、季節利用のプール施設における貯留水に限った現象ではないが、複数種の薬剤と遮光物の設置および清掃機器を必要とするため、水槽の規模が大きくなればなるほど得られる効果も大きくなる。
【符号の説明】
【0026】
1 銅塩(硫酸銅・5水塩)
2 遮光シート(人工遮光物)
3 アンモニア水又はアンモニウム塩
4 次亜塩素酸塩(固形または水溶液)
5 沈殿濁質
6 プール水槽
7 排水ます
8 循環ポンプ
9 五方弁
10 ろ過機
11 吐出口(菊型送水口金物)
20 プール貯留水
30 排水溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
季節利用のプール施設においてシーズンオフ中に貯留されたプール貯留水に、全銅濃度0.4〜1.0mg/Lになるよう銅塩を添加する工程と、
前記プール貯留水の水面の1/3以上を遮光する工程と、
前記プール貯留水に、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩と、アンモニアまたはアンモニウム塩を添加して、0.4mg/L以上のモノクロラミンを生成させる工程と、
前記プール貯留水の一部を間欠的に循環させる間欠循環工程とを有することを特徴とするプール貯留水の再生方法。
【請求項2】
前記間欠循環工程は、前記プール貯留水を一週闇に一時間以上の頻度で間欠的に循環させて、非遮光部分の貯留水を遮光下部に移動させる工程であることを特徴とする請求項1に記載のプール貯留水の再生方法。

【図1】
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