説明

ヘッドジンバルアセンブリ及び該ヘッドジンバルアセンブリを備えた磁気ディスク装置

【課題】 最内周又は最外周に隣接する環状の書き込み不可能領域を狭小にして、磁気ディスクが小径化しても、書き込み可能領域の割合を増加させるHGA、及びこのHGAを備えたHDDを提供する。
【解決手段】 下底面である浮上面と後側面である素子形成面とを有しておりこの素子形成面上に少なくとも1つの磁気ヘッド素子が形成されたスライダと、端部にこのスライダが固着されており弾性を有するフレクシャを含むサスペンションとを備えたHGAであって、サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、真上から見て、スライダを固着している最も後方の位置において、スライダの外形からなる領域内に位置しているHGAが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ヘッド素子を有するスライダとサスペンションとを備えたヘッドジンバルアセンブリ(HGA)及びこのHGAを備えた磁気ディスク装置(HDD)に関する。
【背景技術】
【0002】
HDD内において、スライダは、サスペンションの一部であって弾性を有するフレクシャの端部に取り付けられており、磁気ディスク方向への押し付け荷重を受けながら、回転する磁気ディスク上において流体力学的に所定の間隙(浮上量)をもって浮上する。スライダは、この浮上状態において磁気ヘッド素子によって信号の書き込み及び/又は読み出しを行う。サスペンションは、ボイスコイルモータ(VCM)によって駆動アームを介してピボットベアリング軸を中心にして角揺動し、これにより、スライダが磁気ディスク上の所望の位置に移動させられる。
【0003】
近年、ノート型パソコン、携帯電話、携帯音楽プレーヤ等のモバイル用途の情報機器において、取り扱う情報量の増大に対応すべくHDDの搭載が進められている。この際、HDDの大容量小型化が不可避であるため、搭載される磁気ディスクは2インチ以下に小径化されており、現在最小の規格であるフェムト(Femto)スライダが採用されるに至っている。さらに、高記録密度化のためのスライダの極低浮上化も進んでいる。
【0004】
この際、磁気ディスクのできるだけ広い範囲で書き込み及び読み出しを行うことができるように、微小値である浮上量の外周側及び内周側での差をより小さくして安定した浮上状態を確保する技術が、例えば特許文献1及び2に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平06−215516号公報
【特許文献2】特開平05―334828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、小径化した磁気ディスクを備えたHDDにおいては、上記の従来技術を用いてスライダの浮上状態を安定させることにより、内外周にわたっての書き込み及び読み出しに対応したとしても、磁気ディスクの最内周及び最外周付近に発生する書き込み不可能領域の割合が増大するという問題が生じていた。
【0007】
一般に、スライダが、上述したような角揺動によって、磁気ディスクの最内周に接近する際、書き込み可能な位置の限界は、サスペンションのトレーリング側であって内周側の端が、スピンドルモータのハブに接触する直前の位置となる。従って、サスペンション自身の有する幅によって、最内周に隣接する一定の環状領域が書き込み不能となる。一方、スライダが、磁気ディスクの最外周に接近する際、書き込み可能な位置の限界は、磁気ディスクと磁気ディスクを取り囲む筐体との間隙が非常に狭い場合、サスペンションのトレーリング側であって外周側の端が筐体に接触する直前の位置となる。従って、内周側での場合と同じく、最外周に隣接する一定の環状領域が書き込み不能となる。
【0008】
これらの環状の書き込み不可能領域は、サスペンションの現行の幅によってほぼ決定されるため、磁気ディスクが小径化するに従って、この書き込み不可能領域の割合は増大してしまう。その結果、記録容量向上の障害となる。
【0009】
ここで、この環状の書き込み不可能領域を狭小にして書き込み可能領域の割合を増加させるために、磁気ディスクにおける内径及び外形等のサイズを変更することが考えられる。例えば、内径を小さくしたり、さらにはゼロにすることによって記録容量を大きくすることも1つの方法である。しかしながら、実際には磁気ディスクのサイズは、各規格ごとに公差も含めて全て統一されているので、このようなサイズを変更する対策はとり得ない。
【0010】
従って、本発明の目的は、最内周又は最外周に隣接する環状の書き込み不可能領域を狭小にして、磁気ディスクが小径化しても、書き込み可能領域の割合を増加させるHGA、及びこのHGAを備えたHDDを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明について説明する前に、明細書において用いられる用語の定義を行う。浮上面(ABS)と磁気ヘッド素子が形成された素子形成面とを有するスライダ、及びこのスライダが固着されたサスペンションにおいて、磁気ディスクの回転の下流側、すなわちABSの空気流出端側であるトレーリング側を「後ろ」側又は「後方」とし、反対のリーディング側を「前」側又は「前方」とする。さらに、ABSを底面として置いたスライダと、このスライダが固着されたサスペンションとを素子形成面側から前方に向かって見た場合に、スライダ及びサスペンションの上側を「上(側)」又は「上方」、下側を「下(側)」又は「下方」、左側を「左(側)」、右側を「右(側)」とする。この場合、上下方向は、磁気ディスクに概ね垂直な方向となり、磁気ディスクはスライダ及びサスペンションの下方に位置することになる。また、左右方向は、概ね、いわゆるトラック幅方向となる。
【0012】
ただし、後述するフレクシャの構成において、「フレクシャ基板上」及び「ベース樹脂層上」とは、フレクシャ基板及びベース樹脂層のそれぞれにおいて、スライダが固着されている側の表面上を指すものとする。
【0013】
さらに、スライダのABSとは垂直な外面を「側(端)面」とする。従って、例えば素子形成面は、スライダの「後側面」に相当する。さらにまた、スライダを真上から見た場合の外形の1つとなる台形又は略台形の切り出し角とは、矩形スライダから台形スライダを切り出すことを想定した場合に、矩形の辺と台形の脚とのなす角度のことであり、(90度−底角)に相当する。なお、上述した前後左右の方向は、後に示す図2において実施形態との関係で明示されており、切り出し角は、後に示す図4(A)において明示されている。
【0014】
本発明によれば、下底面である浮上面と後側面である素子形成面とを有しておりこの素子形成面上に少なくとも1つの磁気ヘッド素子が形成されたスライダと、端部にこのスライダが固着されており弾性を有するフレクシャを含むサスペンションとを備えたHGAであって、サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、真上から見て、スライダを固着している最も後方の位置において、スライダの外形からなる領域内に位置しているHGAが提供される。この場合、サスペンションの左右方向の幅が、スライダを固着している最も後方の位置において、スライダのこの位置における左右方向の幅以下であることが好ましい。
【0015】
サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、スライダを固着している最も後方の位置において、スライダの外形からなる領域内に位置している場合、この左右の両端のうち少なくとも1つが、固着位置の後端をなす線分内の点を横切っているか、又はこの点に達している。この場合、サスペンション及びスライダを、従来のサスペンションに比べて、最内周又は最外周に向かって、所定量だけさらに接近させるように設置することができる。従って、従来、磁気ディスクの最内周又は最外周に隣接して存在する環状の書き込み不可能領域を、より狭小にすることができる。その結果、磁気ディスク内における書き込み可能領域の割合を増大させて、小径化した磁気ディスクにおいても記録容量を向上させることができる。この場合、この所定量の幅を持った、最内周又は最外周に近接した環状の領域が、本発明による書き込み可能領域の増加分となる。なお、サスペンションの左右の両端が共に上述した条件を満たす場合、最内周及び最外周に隣接して存在する書き込み不可能領域を共に、より狭小にすることができる。ここで、スライダを固着している最も後方の位置でのサスペンションの左右方向の幅が、スライダの同位置での左右方向の幅以下であれば、このような条件を満たすように、スライダをサスペンション上に固着することが可能となる。
【0016】
本発明によれば、下底面である浮上面と後側面である素子形成面とを有しておりこの素子形成面上に少なくとも1つの磁気ヘッド素子が形成されたスライダと、端部にこのスライダが固着されており弾性を有するフレクシャを含むサスペンションとを備えたヘッドジンバルアセンブリであって、サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、真上から見て、前記スライダの外形における後端辺に達しているか、又は該後端辺を横切っているHGAが提供される。この場合、サスペンションの左右方向の幅が、スライダの後端において、スライダの後端における左右方向の幅以下であることが好ましい。
【0017】
サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、スライダの後端辺に達しているか、又はこの後端辺を横切っている場合においても、サスペンション及びスライダを、従来のサスペンションに比べて、最内周又は最外周に向かって、所定量だけさらに接近させるように設置することができる。その結果、上述したように、磁気ディスク内における書き込み可能領域の割合を増大させて、小径化した磁気ディスクにおいても記録容量を向上させることができる。なお、サスペンションの左右の両端が共に上述した条件を満たす場合、最内周及び最外周に隣接して存在する書き込み不可能領域を共に、より狭小にすることができる。ここで、スライダの後端において、サスペンションの左右方向の幅が、スライダの左右方向の幅以下であれば、このような条件を満たすように、スライダをサスペンション上に固着することが可能となる。
【0018】
サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、真上から見て、前後方向におけるスライダ固着位置のいずれにおいても、スライダの外形からなる領域内に位置していることが好ましい。さらに、サスペンションの左右の両端が、真上から見て、前後方向におけるスライダ固着位置のいずれにおいても、この固着位置におけるスライダの左右の両端とそれぞれ重なっており、又は共にこの両端の間に位置していることがより好ましい。この場合、サスペンションの左右方向の幅が、前後方向におけるスライダ固着位置のいずれにおいても、この固着位置におけるスライダの左右方向の幅以下であることが好ましい。
【0019】
サスペンションの左右の両端が、又はそのうち少なくとも1つが、上記のような条件を満たしている場合、この左右の両端又はその一方において、従来のようにサスペンションがスライダよりも出っ張ることはない。従って、サスペンション及びスライダを、最内周又は最外周に向かってより多く接近させるように設置することが確実にできる。ここで、サスペンションの左右方向の幅が、スライダ固着位置におけるスライダの左右方向の幅以下であれば、両端共にこのような条件を満たすように、スライダをサスペンション上に固着することが可能となる。
【0020】
サスペンションの後方部における左右方向の幅が、後端に向かって単調減少していることが好ましい。さらに、サスペンションの後方部の左右の両端がそれぞれ、真上から見て、後端に向かって互いの間隔が狭くなる直線又は曲線の線分となっていることがより好ましい。ここで、スライダの左右方向の幅が、前端から後端に向かって単調減少していることが好ましい。さらに、スライダが、真上から見て、後端に向かって幅が狭くなる台形状又は略台形状であることがより好ましい。
【0021】
上記のような形状を有するサスペンションに固着されたスライダの外形が、上記のような形状、特に台形である場合、スライダは、自身の外形である台形の脚に当たる部分がスピンドルモータのハブ又は磁気ディスクを取り囲む筐体に接触する直前の位置まで、すなわち従来よりもより内周側又は外周側の位置まで移動可能となる。その結果、最内周に隣接して存在する環状の書き込み不可能領域をより狭小にすることができる。
【0022】
この場合、スライダの真上から見た場合の外形である台形又は略台形の切り出し角αが、5度以上であって30度以下であることが好ましい。ここで、切り出し角が5度以上であれば、記録容量の増加の効果を実質的に得ることができる。また、切り出し角を30度以下とすることにより、現状の磁気ヘッド素子を形成するための素子形成面の面積を確保することができる。
【0023】
本発明によればさらに、少なくとも1つの磁気ディスクと、この少なくとも1つの磁気ディスクにスライダの浮上面が対向するように設置された、少なくとも1つの上述したHGAとを備えたHDDが提供される。この場合、少なくとも1つの磁気ディスクのディスク径が、1.8インチ以下であることが好ましい。さらに、ディスク径が、1.0インチ以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明によるHGAを用いたHDDにおいて、従来形態の記録容量に対する記録容量増加率は、ディスク径が小さくなるほど増加するが、特に、ディスク径が1.8インチ以下において顕著に増大し、さらに、1.0インチ以下ではより顕著に増大する。すなわち、本発明のHDDを用いることによって記録容量の向上効果を得ることが可能となるが、ディスク径が1.8インチ以下の場合に顕著な向上効果を得ることが可能となり、さらに、ディスク径が1.0インチ以下の場合により格別顕著な効果が得られる。
【0025】
スライダの真上から見た場合の外形が矩形であって、サスペンションの前方部における左右の両端の延長線とこの矩形の左右の両端との距離を、それぞれΔWSUSとした場合に、記録容量が、ΔWSUSに比例する増加分をもって増大することが好ましい。また、台形状又は略台形状のスライダを有する少なくとも1つのHGAを備えており、このスライダの前後方向の長さがLSLであって切り出し角がαである場合、記録容量が、LSL・tanαに比例する増加分をもって増大することも好ましい。
【0026】
サスペンションの幅、又は台形状又は略台形状のスライダの寸法が上記のような設定である場合においては、サスペンション及びスライダを、従来のサスペンションに比べて、磁気ディスクの最内周又は最外周に向かってΔWSUS又はLSL・tanαだけさらに接近させることができる。ここで、磁気ディスクの表面のほぼ全領域において書き込み可能になっている場合、記録容量は、ΔWSUS又はLSL・tanαに比例する増加分をもって増大することになる。すなわち、ΔWSUS、又はLSL若しくはαをできるだけ大きく取ることによってより大きな記録容量の向上をはかることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によるHGA及びこのHGAを備えたHDDによれば、最内周又は最外周に隣接する環状の書き込み不可能領域を狭小にして、磁気ディスクが小径化しても書き込み可能領域の割合を増加させることができる。その結果、小径化された磁気ディスクを用いたHDDにおいても、さらなる記録容量の向上を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0029】
図1は、本発明によるHDDの一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図であり、図2は、本発明によるHGAの一実施形態を示す斜視図である。
【0030】
図1において、10は、中心部がハブ18に取り付けられておりスピンドルモータ11の回転軸の回りを回転する複数の磁気ディスク、12は、スライダ(薄膜磁気ヘッド)21をトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置、13、は薄膜磁気ヘッドの書き込み及び読み出し動作を制御するための記録再生制御回路、19は、主に磁気ディスク10を取り囲んでおり装置全体を保護するための筐体をそれぞれ示している。
【0031】
アセンブリキャリッジ装置12には、複数の駆動アーム14が設けられている。これらの駆動アーム14は、ボイスコイルモータ(VCM)15によってピボットベアリング軸16を中心にして角揺動可能であり、この軸16に沿った方向にスタックされている。各駆動アーム14の先端部には、HGA17が取り付けられている。各HGA17には、スライダ21が、各磁気ディスク10の表面に対向するように設けられている。磁気ディスク10、駆動アーム14、HGA17及びスライダ21は、単数であってもよい。
【0032】
図2(A)に示すように、HGAは、サスペンション20と、このサスペンション20の先端部に固着されており、その素子形成面21cに磁気ヘッド素子210及び端子電極211が主に形成されたスライダ21と、後述する導体ライン層24を介して端子電極211に電気的に接続された配線部材26とから主として構成される。なお、スライダ21において、21bがABSとなる。サスペンション20は、ロードビーム22と、このロードビーム22上に固着され支持された弾性を有するフレクシャ23と、ロードビーム22の基部に設けられたベースプレート27とから主として構成される。なお、図2(B)に、HGAにおける上述した「上」、「下」、「左」及び「右」の方向を明示した。ここで、図2(A)においては、スライダを見易くするために、HGAを下方から俯瞰しているが、図(B)では、上方から俯瞰しているので、スライダの浮上面が直接見えない構図となっている。
【0033】
フレクシャ23は、その内部に前後方向(長手方向)に伸長して埋め込まれている導体ライン層24を含む。この導体ライン層24は、スライダ21の固着面とフレクシャ23のフレクシャ基板との間を通り抜ける形で配線されており、導体ライン層24の一端に形成された配線電極30は、後述するようにボールのみを用いたボンディングによって、スライダ21の端子電極211と電気的に接続されている。また、導体ライン層24の他端に形成された配線電極は、配線部材26と電気的に接続されている。このように、従来、スライダの側面21aに隣接して出っ張る形で配線部材が配置されていたのに対して、導体ライン層24によれば、スライダ21の端子電極211からの配線の引き回しを、側面21aから一切出っ張らずに行うことができる。この配線については後に詳述する。
【0034】
スライダ21は、真上から見た場合に、自身の前端から後端に向かって幅が狭くなる台形状となっている。さらに、サスペンション20のベースプレート27とは反対側の後方部も、自身の後端に向かって幅が狭くなっており、サスペンション20の左右の両端が、真上から見た場合に、スライダ21の左右の両端とそれぞれ揃って重なっている。
【0035】
このように、導体ライン層24により配線の引き回しを側面21aから一切出っ張らずに行った上で、サスペンション20の左右の両端を台形状のスライダ21の左右の両端と揃えることによって、以下に説明するように、磁気ディスク10の最内周又は最外周に隣接して存在する環状の書き込み不可能領域をより狭小にすることができる。その結果、磁気ディスク内における書き込み可能領域の割合を増大させて、小径化した磁気ディスクにおいても記録容量を向上させることができる。
【0036】
上述した環状の書き込み不可能領域を狭小にできることを以下に説明する。ディスク内周側において書き込み可能な位置の限界は、サスペンションのトレーリング側であって内周側の端が、スピンドルモータのハブ18(図1)に接触する直前の位置となる。従って、従来のサスペンション及び矩形のスライダの組み合わせにおいては、サスペンションの左右方向(概ねトラック幅方向)の幅によって、最内周に隣接する一定の環状領域が書き込み不能となる。これに対して、本発明による上述した構成によれば、スライダ21は、自身の外形である台形の脚に当たる部分がハブ18に接触する直前の位置、すなわちより内周側の位置まで移動することができる。その結果、最内周に隣接して存在する環状の書き込み不可能領域をより狭小にすることができる。
【0037】
一方、ディスク外周側において書き込み可能な位置の限界は、サスペンションのトレーリング側であって外周側の端が、磁気ディスクを取り囲む筐体19(図1)に接触する直前の位置となる。なお、ここでは、高精度な製造公差によって磁気ディスクと筐体との間隙が非常に狭い場合を想定している。この場合においても、本発明による上述した構成によれば、スライダ21は、自身の外形である台形の脚に当たる部分が筐体19に接触する直前の位置、すなわちより外周側の位置まで移動することができる。その結果、最外周に隣接して存在する環状の書き込み不可能領域をより狭小にすることができる。
【0038】
このように、本発明においては、公差を含めたサイズが規格ごとに統一されていて設計の融通性がない磁気ディスク側において対策を施すのではなく、HGA側の外形及びサイズにおいて解決手段を講じている。これによって初めて、小径化した磁気ディスクにおいても記録容量が向上するという効果が実現されることになる。
【0039】
ここで、サスペンション20の左右の両端が、真上から見て、スライダ21の固着位置において、スライダ21の左右の両端の内側に、すなわちスライダ21の外形である台形の領域内に位置していても、書き込み不可能領域を狭小化することができる。さらに、少なくとも、サスペンション20の左右の両端がそれぞれ、真上から見て、スライダ21を固着している最も後方の位置において、スライダ21の台形領域内に位置していれば、狭小化することができる。なお、本実施形態においては、スライダ21を固着している最も後方の位置が、スライダ21の後端の位置と一致している。この場合、サスペンション20の左右の両端が、真上から見て、スライダ21の外形における後端辺に達しているか、又はこの後端辺を横切っていれば、狭小化することができる。また、サスペンション20及びスライダ21の右側のみ又は左側のみが上述したような形状を有していても、最内周又は最外周に隣接する環状の書き込み不可能領域のいずれか1つを狭小にすることが可能となる。
【0040】
なお、本発明によるHGAのサスペンション及びスライダの構造は、以上に説明した実施形態及び変更態様に限定されるものではないことは明らかである。サスペンション20及びスライダ21の本実施態様、及びそれぞれの変更態様については後に詳述する。また、図示されていないが、サスペンションの途中にヘッド駆動用ICチップを装着してもよい。
【0041】
図3(A)〜(C)は、スライダ21の実装の態様を説明するための、サスペンション20におけるスライダ21が固着されている後方部を示す概略図である。ここで、図3(A)は、この後方部の、真下(浮上面側)から見た平面図、図3(B)は、図3(A)におけるA−A線断面図、図3(C)は、この後方部の側面図である。なお、図3(A)及び(B)においては、図面の見易さのため、図3(C)に記載されたボンディングボール35は省略されている。
【0042】
図3(A)及び(B)によれば、サスペンション20のフレクシャ23は、フレクシャ基板31上に積層されたベース樹脂層32と、ベース樹脂層32上に形成された導体ライン層24と、導体ライン層24を覆うようにベース樹脂層32上に形成された被覆樹脂層33と、導体ライン層24の一方の端部上に形成されており導体ライン層24と電気的に接続され、しかもその上面が被覆樹脂層33から露出している配線電極30とを含む。導体ライン層24は、被覆樹脂層33とベース樹脂層32との間を通ってスライダ21の下をくぐり抜けているので、スライダ21のスライダ基板とは被覆樹脂層33によって電気的に絶縁されている。
【0043】
図3(C)によれば、スライダ21の端子電極211と導体ライン層24の端部に設けられた配線電極30とは、ボンディングボール35を介して電気的に接続されている。このボンディングボール35は、フレクシャ23上にスライダ21が固着された後、Auボール、又は半田ボールを端子電極211及び配線電極30にボンディングすることによって形成される。なお、半田ボールの材料である半田は、Pbを含む半田であってもよく、又はPbを含まないPbフリー半田であってもよい。
【0044】
ここで、図3(A)〜(C)を用いて、より詳細に構成を説明する。スライダ21は、例えばアルティック(Al−TiC)等のバルクを加工することによって形成される。フレクシャ基板31は、例えば厚さ約15μm〜約30μmのステンレス板からなる。ベース樹脂層32は、例えば厚さ約10μm〜約20μmのポリイミド等から形成されている。導体ライン層24は、例えば厚さ約10μm〜約20μm、幅約20μm〜約50μmのCu等から形成されている。被覆樹脂層33は、例えば厚さ約2μm〜約20μmのポリイミド等から形成されている。配線電極30は、例えば厚さ約0.2μm〜約5.0μm、幅約20μm〜約100μmのAu又はAuを含む合金等から形成されている。また、ボンディングボール35及びスライダ21の端子電極211も、配線電極30と同じくAu又はAuを含む合金等から形成されている。
【0045】
なお、本実施形態において、導体ライン層24及び配線電極30は、それぞれ4つ設けられているが、この数は、ボンディングされるべきスライダ21の端子電極211の数によって決められる。ここで、端子電極211の数も、同図の形態に限定されるものではない。同図においてスライダ21の端子電極211は4つであるが、例えば、電極を3つとした上でグランドをスライダ基板に接地した形態でもよい。その際には、導体ライン層24及び配線電極30は、それぞれ3つ設けられることになる。さらに、スライダの実装の態様は、上述したものに限定されるものではないことは明らかである。すなわち、配線の引き回しを、スライダの側面から出っ張らずに行うことができればよい。
【0046】
図4(A)〜(G)は、サスペンション及びスライダの図2の実施形態及び種々の変更態様を説明するための、サスペンションにおけるスライダが固着されている後方部を示す、真上から見た概略図である。
【0047】
図4(A)は、サスペンション及びスライダにおける図2の実施形態を示す。ここで、スライダ21の外形である台形の切り出し角α´(=90度−底角)は、5度以上であって30度以下である。ここで、α´が5度未満では上述した環状の記録不可能領域の狭小化による記録容量の増加が実質的にほとんど見込めない。すなわち、α´が5度以上において初めて記録容量の増加の効果が実質的に認められる。また、α´が30度を超えて大きくなると、素子形成面の面積が、現状の磁気ヘッド素子を形成するための下限を下回ってしまう。従って、製造上必然的に、α´は30度以下であることが必要となる。
【0048】
ここで、サスペンション20において、左右方向の幅が狭くなっていない部分の左右の両端の一方を含む延長線と、スライダ21の外形である台形の頂点のうち、後ろ側であってこの延長線と同じ側にある頂点との距離をΔWSUS´とする。この場合、サスペンション20及びスライダ21を、従来のサスペンションに比べて、最内周又は最外周に向かってΔWSUS´だけさらに接近させるように設置することができる。このように設置すれば、ΔWSUS´の幅を持った、最内周又は最外周に近接した環状の領域が、この実施形態における書き込み可能領域の増加分となる。
【0049】
図4(A)においては、サスペンション20の左右方向の最大幅が、スライダ21の最大幅よりも大きくなっているが、図4(B)のように逆に小さくなっている場合、又は同一である場合も本発明の一変更態様である。同図に示すように、スライダ21´の外形である台形の頂点のうち、それぞれ前側及び後ろ側であって左右に関して同じ側にある2つの頂点の間の左右方向における距離をΔWSL´とする。この場合、サスペンション20´及びスライダ21´を、従来のサスペンションに比べて、最内周又は最外周に向かってΔWSL´だけさらに接近させるように設置することができる。このように設置すれば、ΔWSL´の幅を持った、最内周又は最外周に近接した環状の領域が、この変更態様における書き込み可能領域の増加分となる。なお、スライダ21´の前後方向の長さをLSL´とし、切り出し角をα´とすると、ΔWSL´=LSL´・tanα´となる。
【0050】
図4(C)によれば、スライダ41の外形は、従来と同じく矩形であるが、サスペンション40の左右方向の幅が、スライダ41の固着位置を含む後方部において、スライダ41の同方向の幅と同一になっている。さらに、サスペンション40の左右の両端が、直上から見て、スライダ41の固着位置において、スライダ41の左右の両端と揃って重なっている。ここで、サスペンション40において、幅が狭くなっていない部分の左右の両端の一方を含む延長線と、スライダ41の外形である台形の頂点のうち、後ろ側であってこの延長線と同じ側にある頂点との距離をΔWSUS´´とする。この場合、このようなサスペンション40及びスライダ41を、従来のサスペンションに比べて、最内周又は最外周に向かってΔWSUS´´だけさらに接近させるように設置することができる。このように設置すれば、ΔWSUS´´の幅を持った、最内周又は最外周に近接した環状の領域が、この変更態様における書き込み可能領域の増加分となる。
【0051】
図4(D)によれば、スライダ43の外形は、従来と同じく矩形となっているが、サスペンション42の左右方向の幅が、後方部において後端に向かって狭くなっている。さらに、この狭くなっている部分の左右の両端をなす線分が、真上から見て、スライダ43の外形である矩形における後方の頂点をそれぞれ横切っている。なお、サスペンション42の左右の両端が、真上から見て、スライダ43を固着している最も後方の位置において、スライダ43の外形である矩形の領域内に位置していればよい。さらにまた、サスペンション42の左右方向の幅が、スライダ43を固着している最も後方の位置において、スライダ43の同位置における左右方向の幅以下であってもよい。なお、本変更態様においては、スライダ43を固着している最も後方の位置が、スライダ43の後端の位置と一致している。この場合、サスペンション42の左右の両端が、真上から見て、スライダ43の外形における後端辺に達しているか、又はこの後端辺を横切っていればよい。このような態様においても、サスペンション42及びスライダ43を、従来のサスペンションに比べて、最内周又は最外周に向かって同図に示したΔWSUS´´´だけさらに接近させるように設置することができる。この場合、ΔWSUS´´´の幅を持った、最内周又は最外周に近接した環状の領域が、この変更態様における書き込み可能領域の増加分となる。
【0052】
図4(E)によれば、スライダ45は、真上から見て後端に向かって幅が狭くなる台形状となっており、サスペンション44の後方部も、スライダ45の固着位置において、スライダ45と全く同じ大きさ及び形状となっている。その結果、サスペンション44とスライダ45とは、直上から見て、左右の両端が揃って重なっている。なお、同位置におけるサスペンション44の左右の両端が、真上から見て、スライダ45の左右の両端の内側にあってもよい。このような態様においても、サスペンション44及びスライダ45を、従来のサスペンションに比べて、最内周又は最外周に向かって同図に示したΔWSL´´だけさらに接近するように設置することができる。ここで、スライダ45の前後方向の長さをLSL´´、切り出し角をα´´とすると、ΔWSL´´=LSL´´・tanα´´となる。このΔWSL´´の幅を持った、最内周又は最外周に近接した環状の領域が、この変更態様における書き込み可能領域の増加分となる。
【0053】
また、図4(F)に示したサスペンション46のように、サスペンションの左右の端部のうち一方のみが切り欠けた形となっている場合も本発明における変更態様である。さらに、スライダ47のように、スライダの外形が、等脚台形ではなく、例えば矩形の左右の端部のうち一方のみが切り欠けた台形となっている場合も本発明における変更態様である。この際、サスペンション46の切り欠けた端部が、真上から見て、同図のようにスライダ47の台形の切りかけた脚と揃って重なっていてもよいし、又は、前後方向におけるスライダ47の固着位置において、スライダ47の外形からなる領域内に位置していてもよい。サスペンション46とスライダ47とがこのような形状及び位置関係にある場合、同図に示したΔWSUS´´´´の幅を持った、最内周又は最外周のどちらか一方に近接した環状の領域のみを、この変更態様における書き込み可能領域の増加分とすることができる。
【0054】
さらにまた、図4(G)に示したように、サスペンション48の後方部における左右の両端が、真上から見た場合に、例えば凹曲線状となっていて、互いの間隔が前端から後端に向かって単調減少しているような場合も本発明における変更態様である。さらに、スライダ49の左右の両端が、真上から見た場合に、例えば凹曲線状となっていて、互いの間隔が前端から後端に向かって単調減少しているような場合も本発明における変更態様である。この際、サスペンション48の曲線状の両端が、真上から見て、スライダ49の曲線状の両端と揃って重なっていてもよいし、又は同図のように、スライダ49の曲線状の両端の内側にあってもよい。サスペンション48とスライダ49とがこのような形状及び位置関係にある場合、同図に示したΔWSUS´´´´´の幅を持った、最内周又は最外周に近接した環状の領域を、この変更態様における書き込み可能領域の増加分とすることができる。
【0055】
なお、以上の実施形態及び変更態様とは異なり、スライダが前後方向のすべてにおいて固着されておらず、スライダの後端が、真上から見て、スライダを固着している最も後方の位置よりも若干出っ張って前方に位置する場合も、本発明の範囲内である。この場合においても、サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、真上から見て、スライダを固着している最も後方の位置において、スライダの外形からなる領域内に位置していれば、サスペンション及びスライダを、最内周又は最外周に向かってさらに接近させるように設置可能となる。
【0056】
図5は、本発明のサスペンションにおける幅の縮小分ΔWSUSによる書き込み可能領域の増加分を示す説明図である。
【0057】
図5(A)に示すように、サスペンション幅の縮小分をΔWSUSとし、図5(B)に示すように、サスペンション52及びスライダ53は、従来のサスペンションを用いた場合に比べて、磁気ディスク51の最内周に隣接するハブ56又は最外周に隣接する筐体57に向かってΔWSUSだけさらに接近することができるものとする。さらに、その結果、磁気ディスク51の表面のほぼ全領域において書き込み可能になっているとする。この場合、ΔWSUSの幅を持った、最内周に隣接した環状領域54、及び最外周に隣接した環状領域55が、この実施形態による書き込み可能領域の増加分となる。
【0058】
環状領域54の面積ΔSは、磁気ディスク51の外径の半分である外径半径をrとし、磁気ディスク51の内径の半分である内径半径をrとすると、ΔS=π(r+ΔWSUS―πr=π(2r・ΔWSUS+(ΔWSUS)となる。一方、環状領域55の面積ΔSは、ΔS=πr―π(r−ΔWSUS=π(2r・ΔWSUS−(ΔWSUS)となる。従って、この実施形態による書き込み可能領域の増加分ΔSは、ΔS=ΔS+ΔS=2π・ΔWSUS・(r+r)となる。すなわち、書き込み可能領域の増加分ΔSは、ΔWSUSに比例して増大する。
【0059】
図6は、種々のΔWSUS値を有するサスペンションの実施形態において、大きさの異なる各磁気ディスクにおける、磁気ディスクの外径(ディスク径)と従来形態(ΔWSUS=0)の記録容量に対する記録容量増加率ISUSとの関係を示した特性図である。
【0060】
同図によれば、いずれのΔWSUS値の実施形態においても、ディスク径が小さくなるほど増加率ISUSは増加するが、特に、ディスク径が1.8インチ以下において顕著に増大し、さらに、1.0インチ以下ではより顕著に増大することがわかる。従って、本発明によるサスペンションを用いた実施形態において、顕著な記録容量の向上効果が現れるのは、ディスク径が1.8インチ以下の場合であり、ディスク径が1.0インチ以下の場合、より格別顕著な効果が得られることが理解される。また、所定のディスク径を有する磁気ディスクにおいて、増加率ISUSは、上述した書き込み可能領域の増加分ΔSと同様に、ΔWSUS値に比例して増加していることもわかる。
【0061】
ここで、ディスク径が所定の規格値以下に小さくなると増加率ISUSが顕著な増加を示す理由を説明する。一般に、サスペンションの寸法については、スライダを磁気ディスク方向に押し付けるのに要する力を確保する必要から一定の剛性が要求されること、及びサスペンションの加工精度の限界から寸法に下限が存在することによって、ディスク径に単純に比例して縮小させることができない。従って、規格化されているサスペンションの全体の寸法が、同じく規格化されているディスク径の縮小率に追いついていかないため、ディスク径が小さくなるほど、サスペンション幅による書き込み不可能領域の割合が増大する。このような状況下においては、上述したように本発明のごとくサスペンション幅を縮小することが、記録容量の回復増大に大きく寄与することになる。さらに、本発明による同じ縮小分ΔWSUSにおいても、より小さなディスク径になるほど、より大きな記録容量の増加分、すなわち記録容量増加率の向上をもたらすことになる。
【0062】
図7は、本発明の台形状のスライダにおける幅の縮小分ΔWSLによる書き込み可能領域の増加分を示す説明図である。
【0063】
図7(A)に示すように、台形状のスライダにおける幅の縮小分をΔWSLとし、図7(B)に示すように、サスペンション72及びスライダ73は、従来のサスペンションを用いた場合に比べて、磁気ディスク71の最内周に隣接するハブ76又は最外周に隣接する筐体77に向かってΔWSLだけさらに接近することができるものとする。さらに、その結果、磁気ディスク71の表面のほぼ全領域において書き込み可能になっているとする。ここで、ΔWSLは、スライダ73の前後方向の長さをLSLとし、切り出し角をαとすると、ΔWSL=LSL・tanαとなる。この場合、ΔWSLの幅を持った、最内周に隣接した環状領域74、及び最外周に隣接した環状領域75が、この実施形態による書き込み可能領域の増加分となる。
【0064】
環状領域74の面積ΔSは、磁気ディスク71の外径の半分である外径半径をrとし、磁気ディスク71の内径の半分である内径半径をrとすると、ΔS=π(r+ΔWSL―πr=π(2r・ΔWSL+(ΔWSL)となる。一方、環状領域75の面積ΔSは、ΔS=πr―π(r−ΔWSL=π(2r・ΔWSL−(ΔWSL)となる。従って、この実施形態による書き込み可能領域の増加分ΔSは、ΔS=ΔS+ΔS=2π・ΔWSL・(r+r)=2π・LSL・tanα・(r+r)となる。すなわち、書き込み可能領域の増加分ΔSは、LSL・tanαに比例して増大する。
【0065】
図8は、種々のα値(すなわち種々のΔWSL値)を有する台形状のスライダの実施形態において、大きさの異なる各磁気ディスクにおける、ディスク径と従来形態(α=0、すなわちΔWSL=0)の記録容量に対する記録容量増加率ISLとの関係を示した特性図である。
【0066】
同図によれば、いずれのα値の実施形態においても、ディスク径が小さくなるほど増加率ISLは増加するが、特に、ディスク径が1.8インチ以下において顕著に増大し、さらに、1.0インチ以下ではより顕著に増大することがわかる。従って、本発明による台形状のスライダを用いた実施形態において、顕著な記録容量の向上効果が現れるのは、ディスク径が1.8インチ以下の場合であり、ディスク径が1.0インチ以下の場合、より格別顕著な効果が得られることが理解される。また、所定のディスク径を有する磁気ディスクにおいて、増加率ISLは、上述した書き込み可能領域の増加分ΔSと同様に、tanα値に比例して増加している。
【0067】
ここで、ディスク径が所定の規格値以下に小さくなると増加率ISLが顕著な増加を示す理由を説明する。一般に、スライダの寸法については、その素子形成面上に磁気ヘッド素子及び端子電極を形成する際に一定の面積が必要になること、及び基板としての一定の強度が要求されることによって、ディスク径に単純に比例して縮小させることができない。さらに、所定の浮上量を確保するためにABSが一定の面積を保持する必要があること、及びスライダの加工精度の限界から寸法に下限が存在することによっても、ディスク径に単純に比例して縮小させることができない。特に、1.0インチ以下では、現在最小の規格であるフェムトスライダが、ディスク径の縮小率に追いついていない。従って、規格化されているスライダの全体の寸法が、同じく規格化されているディスク径の縮小率に追いついていかないため、ディスク径が小さくなるほど、スライダ幅による書き込み不可能領域の割合が増大する。このような状況下においては、上述したように本発明のごとくスライダを台形状にしてスライダ幅を縮小することが、記録容量の回復増大に大きく寄与することになる。さらに、本発明による同じ縮小分ΔWSLにおいても、より小さなディスク径になるほど、より大きな記録容量の増加分、すなわち記録容量増加率の向上をもたらすことになる。
【0068】
なお、図4(C)及び(E)、並びに図5(A)において、サスペンションの外形における角、特に首の付け根となっている270度の角が丸くなっていてもよい。実際に、サスペンションの加工工程においては、直線によって形作られた270度の角を形成しようとすると相当の時間及び工数を費すことになり、さらには、ほとんど形成が不可能な場合も多い。このような角が丸くなっている態様も、サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、スライダを固着している最も後方の位置においてスライダの外形からなる領域内に位置していれば、本発明の範囲内である。
【0069】
さらに、以上に述べた実施形態及び変更態様は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明によるHDDの一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明によるHGAの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明によるスライダの実装の態様を説明するための、サスペンションにおけるスライダが固着されている後方部を示す概略図である。
【図4】サスペンション及びスライダの図2の実施形態及び種々の変更態様を説明するための、サスペンションにおけるスライダが固着されている後方部を示す概略図である
【図5】本発明のサスペンションにおける幅の縮小分ΔWSUSによる書き込み可能領域の増加分を示す説明図である。
【図6】種々のΔWSUS値を有するサスペンションの実施形態において、ディスク径と従来形態の記録容量に対する記録容量増加率ISUSとの関係を示した特性図である。
【図7】本発明の台形状のスライダにおける幅の縮小分ΔWSLによる書き込み可能領域の増加分を示す説明図である。
【図8】種々のα値を有する台形状のスライダの実施形態において、ディスク径と従来形態の記録容量に対する記録容量増加率ISLとの関係を示した特性図である。
【符号の説明】
【0071】
10、51、71 磁気ディスク
11 スピンドルモータ
12 アセンブリキャリッジ装置
13 記録再生制御回路
14 駆動アーム
15 ボイスコイルモータ(VCM)
16 ピボットベアリング軸
17 HGA
18、56、76 ハブ
19、57、77 筐体
20、20´、40、42、44、46、48、52、72 サスペンション
21、21´、41、43、45、47、49、53、73 スライダ
210 磁気ヘッド素子
211 端子電極
21a スライダの側面
21b 浮上面(ABS)
21c 素子形成面
22 ロードビーム
23 フレクシャ
24 導体ライン層
26 配線部材
27 ベースプレート
30 配線電極
31 フレクシャ基板
32 ベース樹脂層
33 被覆樹脂層
35 ボンディングボール
54、55、74、75 環状の書き込み可能領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下底面である浮上面と後側面である素子形成面とを有しており該素子形成面上に少なくとも1つの磁気ヘッド素子が形成されたスライダと、端部に該スライダが固着されており弾性を有するフレクシャを含むサスペンションとを備えたヘッドジンバルアセンブリであって、前記サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、真上から見て、前記スライダを固着している最も後方の位置において、該スライダの外形からなる領域内に位置していることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項2】
前記サスペンションの左右方向の幅が、前記スライダを固着している最も後方の位置において、該スライダの該位置における左右方向の幅以下であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項3】
下底面である浮上面と後側面である素子形成面とを有しており該素子形成面上に少なくとも1つの磁気ヘッド素子が形成されたスライダと、端部に該スライダが固着されており弾性を有するフレクシャを含むサスペンションとを備えたヘッドジンバルアセンブリであって、前記サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、真上から見て、前記スライダの外形における後端辺に達しているか、又は該後端辺を横切っていることを特徴とするヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項4】
前記サスペンションの左右方向の幅が、前記スライダの後端において、該スライダの後端における左右方向の幅以下であることを特徴とする請求項3に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項5】
前記サスペンションの左右の両端のうち少なくとも1つが、真上から見て、前記スライダを固着している前後方向における位置のいずれにおいても、該スライダの外形からなる領域内に位置していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項にヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項6】
前記サスペンションの左右の両端が、真上から見て、前記スライダを固着している前後方向における位置のいずれにおいても、該スライダの該位置における左右の両端とそれぞれ重なっており、又は共に該両端の間に位置していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項7】
前記サスペンションの左右方向の幅が、前記スライダを固着している前後方向における位置のいずれにおいても、該スライダの該位置における左右方向の幅以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項8】
前記サスペンションの後方部における左右方向の幅が、後端に向かって単調減少していることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項9】
前記サスペンションの後方部の左右の両端がそれぞれ、真上から見て、後端に向かって互いの間隔が狭くなる直線又は曲線の線分となっていることを特徴とする請求項8に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項10】
前記スライダの左右方向の幅が、前端から後端に向かって単調減少していることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項11】
前記スライダが、真上から見て、後端に向かって幅が狭くなる台形状又は略台形状であることを特徴とする請求項10に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項12】
前記スライダの真上から見た場合の外形である台形又は略台形の切り出し角が、5度以上であって30度以下であることを特徴とする請求項11に記載のヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項13】
少なくとも1つの磁気ディスクと、該少なくとも1つの磁気ディスクに前記スライダの浮上面が対向するように設置された請求項1から12のいずれか1項に記載の少なくとも1つのヘッドジンバルアセンブリとを備えていることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項14】
前記スライダの真上から見た場合の外形が矩形であって、前記サスペンションの前方部における左右の両端の延長線と該矩形の左右の両端との距離を、それぞれΔWSUSとした場合に、記録容量が、ΔWSUSに比例する増加分をもって増大することを特徴とする請求項13に記載の磁気ディスク装置。
【請求項15】
請求項11又は12に記載の少なくとも1つのヘッドジンバルアセンブリを備えており、前記スライダの前後方向の長さがLSLであって該スライダの真上から見た場合の外形である台形又は略台形の切り出し角がαである場合、記録容量が、LSL・tanαに比例する増加分をもって増大することを特徴とする請求項13に記載の磁気ディスク装置。
【請求項16】
前記少なくとも1つの磁気ディスクのディスク径が、1.8インチ以下であることを特徴とする請求項13から15のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置。
【請求項17】
前記少なくとも1つの磁気ディスクのディスク径が、1.0インチ以下であることを特徴とする請求項13から15のいずれか1項に記載の磁気ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−196045(P2006−196045A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3931(P2005−3931)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)