ヘッドホンの製造方法
【課題】耳介内面形状の個体差によらず良好に装着可能なヘッドホン(50)の製造方法を提供する。
【解決手段】スピーカ(7)とこれを収納すると共に周部に孔(8b1)を有するハウジング(8)とハウジングと一体形成された柔軟な環状の外ハウジング(9)とその周部にハウジングの孔と対応して形成された突出部(9b)と、突出部内部に形成され孔に連通した空隙部(9c)とを備えたヘッドホン(50)を、予め形成されたハウジングの孔(8b1)に柔軟な置き駒(13)を一部が孔から突出するように嵌着する置き駒嵌着工程と、置き駒を嵌着したハウジングを外ハウジングの外形に対応したキャビティを有する金型内に装着し、射出成形により外ハウジングをハウジング部と一体となるように形成する外ハウジング形成工程と、外ハウジング形成工程後に、嵌着した置き駒を、孔を通してハウジングの内側から抜き取る置き駒抜去工程と、を有する方法で製造する。
【解決手段】スピーカ(7)とこれを収納すると共に周部に孔(8b1)を有するハウジング(8)とハウジングと一体形成された柔軟な環状の外ハウジング(9)とその周部にハウジングの孔と対応して形成された突出部(9b)と、突出部内部に形成され孔に連通した空隙部(9c)とを備えたヘッドホン(50)を、予め形成されたハウジングの孔(8b1)に柔軟な置き駒(13)を一部が孔から突出するように嵌着する置き駒嵌着工程と、置き駒を嵌着したハウジングを外ハウジングの外形に対応したキャビティを有する金型内に装着し、射出成形により外ハウジングをハウジング部と一体となるように形成する外ハウジング形成工程と、外ハウジング形成工程後に、嵌着した置き駒を、孔を通してハウジングの内側から抜き取る置き駒抜去工程と、を有する方法で製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドホンの製造方法に係り、特に、本体を耳介の内側に装着するタイプのヘッドホンであって、良好な装着感が得られ装着した耳介から脱落し難い構造を有するヘッドホンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯音楽プレーヤの普及に伴い、そのプレーヤに接続されて音楽などを再生するヘッドホンの市場も急速に拡大している。
このヘッドホンとしては、軽量であって可搬性に優れることから、耳介の内側に装着するいわゆるインナーイヤータイプが広く普及している。
また、インナーイヤータイプには、外耳道内にイヤーピースを挿入して使用するカナルタイプがあり、このカナルタイプのヘッドホンは、電気信号を音声に変換するスピーカユニットを収納したハウジングと、ハウジングから突出して音を放出する放音筒と、この放音筒に取り付けられたイヤーピースと、ハウジングから延出し外部機器からの音声信号をスピーカユニットに供給するコードと、を備え、イヤーピース付き放音筒を外耳道内に挿入すると共に、ハウジングを耳介の内側に保持させるように装着して使用するように構成されるのが一般的である。
【0003】
そして、このようなヘッドホンは、主に、外耳道内に挿入されたイヤーピースの弾性反発力及び外耳道との間の摩擦力によって耳介内に保持される。
そのため、保持力はそれほど高くなく、コードが引っ張られた際に容易に外れてしまう場合があり、これを改善するために、ハウジングの形状を、耳介の内面に係止され得るように工夫したヘッドホンが種々提案されている。
その一例が特許文献1にイヤホンとして記載されている。
【0004】
この特許文献1に記載されたイヤホンは、耳介支持部材を具備したハウジングを有している。そして、この耳介支持部材は、ループ状であって耳介の内側面に弾接するように形成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−203420号公報
【特許文献2】実開平5−29564号公報(「発明を実施するための最良の形態」欄で説明)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1に記載されたイヤホンは、上述したように、耳介の内側壁面(具体的な弾接位置は、耳介の内部における耳甲介側と対輪側とを仕切る側壁面とされている)に弾接する耳介支持部材を有し、その耳介支持部材がループ状である。
従って、そのループ(耳介支持部材)が延在する平面に沿う内側方向への変形は柔軟になされるものの、その平面に沿わない方向への変形(例えば、その平面に直交する方向への変形)は、柔軟性が十分ではなく、耳介内面形状の個体差により、人により必ずしも良好な装着が行われない可能性があった。
【0007】
この変形の特性を換言するならば、2次元的変形は柔軟で良好に行われるものの、3次元的変形においては柔軟性の点で十分ではない、というものであり、特許文献1に記載されたイヤホンは、3次元的に形状の個体差がある耳介内形状への適合に改善の余地が十分にあるものであった。
【0008】
また、装着する耳介が小さい程、耳介支持部材を大きく変形させて装着しなければならないが、その変形が上述した平面内で行われるために、変形量が大きくなるほど弾性反発力が強くなる。
そのため、このイヤホンを特に耳介が小さい人が装着する際に、良好な装着感が得られない、という状況が起こりえるものであり、また、場合によっては、装着自体が難しい、という状況が起こり得るものであった。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、耳介内面形状の個体差によらず、良好に装着が可能なヘッドホンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本願発明は手段として次の1)及び2)の手順を有する。
1) スピーカユニット(7)と、該スピーカユニット(7)を収納すると共に周部に孔(8b1)を有するハウジング部(8)と、前記ハウジング部(8)の所定領域に該ハウジング部(8)と一体的に形成され該ハウジング部(8)より柔軟なる環状の外ハウジング(9)と、該外ハウジング(9)の周部において前記ハウジング部(8)の孔(8b1)と対応した位置に形成された突出部(9b)と、該突出部(9b)の内部に形成され前記孔(8b1)に連通した空隙部(9c)と、を備えたヘッドホン(50)を製造するヘッドホンの製造方法において、
予め形成されたハウジング部(8)における前記孔(8b1)に、柔軟性を有する置き駒(13)をその一部が前記孔(8b1)から突出するように嵌着する置き駒嵌着工程と、
前記置き駒(13)を嵌着したハウジング部(8)を前記外ハウジング(9)の外形に対応したキャビティを有する金型内に装着し、射出成形により外ハウジング(9)を前記ハウジング部(8)と一体となるように形成する外ハウジング形成工程と、
該外ハウジング形成工程後に、前記嵌着した置き駒(13)を、前記孔(8b1)を通してハウジング部(8)の内側から抜き取って前記空隙部(9c)を形成する置き駒抜去工程と、を有することを特徴とするヘッドホンの製造方法。
2) 前記置き駒(13)を、液状シリコーン材または熱可塑性エラストマー材で形成したことを特徴とする1)に記載のヘッドホンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耳介内面形状の個体差によらず良好に装着が可能なヘッドホンを製造するヘッドホンの製造方法を提供することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図12を用いて説明する。
【0013】
図1は、本発明のヘッドホンの製造方法の実施例で製造するヘッドホンを示す外観図である。
【0014】
このヘッドホン50は、図1(a)に示すように、左スピーカ部1Lと、右スピーカ部1Rと、左右のスピーカ部1L,2Rのそれぞれから延出するコード2L,2Rと、各コード2L,2Rを連結する連結部3と、外部の音響機器に接続するためのプラグ5と、連結部3とプラグ部5とをつなぐメインコード4と、を有している。
そして、プラグ5が接続された外部機器からの音声信号は、プラグ5,メインコード4,及び連結部3を介し、Lチャネルの音声信号はコード2Lを介して左スピーカ部1Lに供給され、Rチャネルの音声信号はコード2Rを介して右スピーカ部1Rに供給させ、各スピーカ部1L,2Rから音声として放出される。
【0015】
本発明を用いて製造するヘッドホンとしては、このヘッドホン50のようないわゆるステレオタイプに限らず、図1(b)に示すように、スピーカ部1と、スピーカ部1から延出するコード2と、外部の音響機器に接続するためのプラグ5と、を有するいわゆるモノラルタイプのヘッドホン50Aであってもよい。また、コード2Lやプラグ5などを備えず、無線通信手段を備えて音声信号が外部から無線で供給され得るワイヤレスタイプであってもよい。
【0016】
以下、ステレオタイプのヘッドホン50について説明する。
また、このヘッドホン50においては、左スピーカ部1Lと右スピーカ部1Rとは左右対称構造であり、代表として左スピーカ部1Lについて詳述する。
【0017】
まず、左スピーカ部1Lの外観を図1(c)に示す。この外観図は、この左スピーカ部1Lを左耳に装着した際の、頭部斜め左前方のやや上方から見た状態を示している。
【0018】
この左スピーカ部1Lは、スピーカユニット7と、このスピーカユニット7をユニットホルダ6(この図では図示せず)と共に収納するインナーハウジング8(以下、内ハウジング8と称する)と、内ハウジングの周囲にインサート成形により一体形成されたアウターハウジング9(以下、外ハウジング9と称する)と、内ハウジング8の外側面に装着されたオーナメント10と、スピーカユニット7に外部からの信号を供給するコード2Lと、を有して構成されている。
以下、ユニットホルダ6と内ハウジング8とを合わせてハウジング部16とも称する。
【0019】
ユニットホルダ6には、外耳道内に挿入できるよう傾斜して突出し、スピーカユニット7の音を先端から放出する筒状の放音部6aが形成され、その放音部6aには、外耳道内に挿入された際に、その内壁に密着するイヤーピース14が装着されている。
また、外ハウジング9は、左耳に装着した際に後頭部側のやや上方に向けて突出した突出部9bを有している。
突出部9bの内部には、空隙部9cが形成されている。
【0020】
図2は、このヘッドホン50の左スピーカ部1Lの組み立て図である。この図2において、コード2L及びイヤーピース14は表示していない。
【0021】
左スピーカ部1Lは、放音部6aを有するユニットホルダ6と、このユニットホルダ6に内装されて放音部6aに向けて音声を放出するスピーカユニット7と、ユニットホルダ6に内装されたスピーカユニット7を囲ってユニットホルダ6に取り付けられる内ハウジング8と、内ハウジング8の周囲に取り付けられ概ねリング状に形成された外ハウジング9と、外ハウジング9に対してその一方側の開口部9aを塞ぐように取り付けられるオーナメント10と、オーナメント10に係合して取り付けられ図示しないコード2Lを保護しつつその外部への延出を誘導するコードブッシュ11と、を有して構成されている。
【0022】
このヘッドホン50の製造手順は以下の通りである、図4を用いて説明する。
ここで、内ハウジング8と外ハウジング9とは、後述するような一体成形により形成される一体の部材であるが、この図2においては、理解容易のため、両者を別体として記載している。
【0023】
まず、成形部品であるユニットホルダ6,内ハウジング8,オーナメント10,及びコードブッシュ11を予め後述する材料で射出成形等により形成しておく。
また、後述するインサート成形で用いる置き駒13も成形しておく。
成形した内ハウジング8に対して置き駒13を用いたインサート成形により外ハウジング9を一体的に成形し、一体ハウジング12を形成する。このインサート成形については特に詳細に後述する。
スピーカユニット7をユニットホルダ6に嵌着する。接着剤を併用してもよい。
スピーカユニット7を取り付けたユニットホルダ6に一体ハウジング12を超音波容着により固定する。接着剤を用いて接着固定してもよい。
オーナメント10にコードブッシュ11を係合固定し、そのオーナメント10を一体ハウジング12にいわゆるスナップフィットにより固定する。スナップ委フィット構造については周知の爪係合構造を採用することができ、図2においては省略してある。もちろん接着剤を用いて接着固定してもよい。
スピーカユニット7から延出したリード線(図示せず)は、内部の開口部を挿通してコードブッシュ11から外部にコード1L(図示せず)として引き出す。
コード1L,2Lは、予め連結部3及びメインコード4を介してプラグ5と接続しておく。
右スピーカ部1Rも同様に組み立ててコード2Rと接続する。
このようにしてヘッドホン10を製造する。
【0024】
次に、各部材の詳細について説明する。
ユニットホルダ6は、熱可塑性樹脂により射出成形により形成される。用いる樹脂材料として、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)がある。
【0025】
図2とは異なる角度から見た外観図である図3(a),図3(b)に示すように、このユニットホルダ6は、概ね扁平で外形が楕円形状の椀状に形成された基部6cと、その椀の底面に相当する基面6c1から傾斜して突出する放音部6aと、を有して形成されている。
この放音部6aの傾斜方向は、基部6cの楕円形状の長軸CLnに沿う方向とされ、その傾斜角度、すなわち、放音部6aの軸CL6と長軸CLnとのなす角度はθ(例えばθ=60°)で設定されている。
この傾斜角度θ(=60°)を設定している理由は、外耳道が頭側面に対して概ね60°に傾斜しているためであり、その外耳道の傾斜角度に合うように放音部6aの傾斜角度を設定することで、放音部6aがイヤーピース14と共に外耳道に自然に挿入でき、極めて良好な装着感が得られる。
【0026】
また、放音部6aは一部が細径部6a1とされた筒状に形成されている。この細径部6a1には、図示しないイヤーピースの凸部が係合してそのイヤーピースの抜けを防止する。
【0027】
基部6cの内側には、スピーカユニット7が隙間なく嵌着して収納される収納部6bが形成されている。
また、基面6c1には、収納部6bにスピーカユニット7が嵌着した際に、その振動板の前方側空間と外部空間とを連通する連通孔6c2が形成されている。
この実施例においては、連通孔6c2は円弧状に3ヶ所設けられている。
【0028】
外ハウジング9は、内ハウジング8に対して一体的にいわゆるインサート成形により形成される。
インサート成形に際しては、まず、内ハウジング8が形成される。
この内ハウジング8は、図2に対して別の角度から見た組み立て図である図4に示すように、円形の開口部8aを有し概ねリング状を呈しており、熱可塑性樹脂の射出成形により形成される。
【0029】
この熱可塑性樹脂として好適に用いることのできるものとして、PC(ポリカーボネート),PA(ポリアミド),またはPBT(ポリブチレンテレフタレート)があり、材料選定についての詳細は後述する。
【0030】
図4には、ユニットホルダ6を合わせて記載しているが、内ハウジング8は、リング形状の一方の開口端部8a側にこのユニットホルダ6が取り付けられる(図2も参照)。
その際、ユニットホルダ6に取り付けられたスピーカユニット7の一部がこの開口部8aに収められる。この状態で、開口部8aの中心C8はスピーカユニット7の中心と一致する。また、放音部6aの軸CL6はこの中心C8の軸C8zと交わるように設定されている。軸C8zは、スピーカユニット7の駆動軸と一致している。
【0031】
一方、内ハウジング8は、ユニットホルダ6が取り付けられた際に、その長軸CLnと平行になる長軸CLn8に沿って突出する突出部8bを有している。
この突出部8bの先端面には、内ハウジング8の内部と外部とを連通する貫通孔8b1が形成されている。
この実施例においては、貫通孔8b1は基面6c1に沿う方向を長手として開口する長孔とされている。
【0032】
外ハウジング9は、熱硬化性の液状シリコーン材を用いていわゆるLIM(Liquid Injection Molding)のインサート成形により形成される。
具体的には、予め射出成形で形成された内ハウジング8を、外ハウジング9のLIM成形用の金型内に装填し、この内ハウジング8を外周面の一部を包みこむように外ハウジング9をLIM成形により形成する。
【0033】
液状シリコーン材は、硬化後に高い柔軟性を有するシリコーンゴムが得られるような比較的低硬度の材料を選択する。例えば、硬化後の硬度が13(ショアA)となる材料である。
この硬化後の硬度については、10〜20(ショアA)の材料を用いると、いわゆる腰を有しつつ軟らかく耳介へフィットするようになるので、装着感が特に良好である。
この外ハウジング9の材料はシリコーンゴム材に限るものではないが、耐候性,耐熱性に優れ、人体への影響が無いこと、などからシリコーンゴム材が最も好ましい。
【0034】
このインサート成形において、外ハウジング9は、内ハウジング8に密着して成形される。
そのため、内ハウジング8は、プライマ処理を施すことにより液状シリコーン材が硬化してなる外ハウジング9に対して良好に密着する材料で形成されることが望まれる。
上述したPC(ポリカーボネート),PA(ポリアミド),またはPBT(ポリブチレンテレフタレート)の中では、特に、PA及びPBTが硬化した液状シリコーン材との密着性に優れるので好ましい。
【0035】
図5は、このようなインサート成形により得られた、内ハウジング8と外ハウジング9とが一体となった一体ハウジング12の三面図(一部断面)である。
【0036】
図5(a)は、オーナメント10が装着される側(左耳介装着時の外方側)から見た平面図であり、当図の上側及び下側が、スピーカ部1Lを左耳介に装着した際のそれぞれ頭頂側及び首側となる。また、図の左側が頭部前方側であり、右側が頭部後方側である。
この図5(a)において、外ハウジング9の外形は、非対称形状とされている。
【0037】
具体的には、内ハウジング8の突出部8bに概ね対応して外ハウジング9も突出部9bを有しており、その突出部9bは、頭頂側に偏るように突出している。
この偏った突出をさらに具体的に説明すると、外ハウジング9の外形について、内ハウジング8の開口部8aの中心C8に対して、当図右側の範囲(頭部後方側)における中心C8から最も遠い部位の位置MR(以下、最大径位置MRとも称する)は、長軸CLn上にはなく、長軸CLn8に対して上方側(頭頂側)に位置する。ここで、中心C8から最大径位置MRまでの距離はRmaxとする。
【0038】
また、外ハウジング9の外形について、中心C8を通り内ハウジング8の長軸CLn8に直交する短軸CLt8との距離が最大になる最大水平位置Mxも、長軸CLn上にはなく、長軸CLn8に対して上方側(頭頂側)にある。ここで、中心C8から最大水平位置Mxまでの距離をXmaxとする。
【0039】
すなわち、この図5(a)において、外ハウジング9は、スピーカユニット7の中心でもある開口部8aの中心C8から、放音部6aが傾斜する側(図の左側)とは逆側(頭部後方側)において、その中心C8からの距離が最大となる部位MRと、短軸CLt8からの距離が最大となる部位Mxとが、長軸CLn8に対して図の上側(頭頂部側)に位置するように設定されている。
【0040】
また、一体ハウジング12は、外ハウジング9における突出部9bの内部に空隙部9cを有している。
この空隙部9cは、液状シリコーン材を用いたインサート成形において以下のように形成できる。
【0041】
すなわち、図2に示すような、空隙部9cの空間形状に対応した形状の置き駒13を、予め形成された内ハウジング8における貫通孔8b1に、その外側から嵌着しておく。従って、空隙部9cの位置と貫通孔8b1の位置とは互いに対応している。
この置き駒13を嵌着した内ハウジング8を、一体ハウジング12の外形に対応したキャビティを有するインサート金型内に装填した後、金型を所定温度域に昇温し、そのキャビティ内に液状シリコーン材を射出して、外ハウジング9を成形する。
内ハウジング8における液状シリコーン材が接触する範囲には、両者の密着性を向上させるために予めプライマ処理を施しておく。
そして、一体ハウジング12をインサート金型から離型して取り出した後、置き駒13を内ハウジング9から抜去する。
【0042】
ここで、置き駒13は、外ハウジング9と同じ熱硬化性の液状シリコーン材を用いて形成されているので、高い柔軟性を有しており、これを変形させながら内ハウジング9の内側から容易に抜き取ることができる。
【0043】
一体ハウジング12は、このような置き駒13を用いてインサート成形により形成されているので、空隙部9cと内ハウジング8の内部とは連通した空間を形成する。
【0044】
置き駒13は、その材料を、熱硬化性であって硬化後の耐熱特性に優れる液状シリコーン材としているので、高温で行われるLIM成形に耐え、繰り返しの使用も可能となる。
また、外ハウジング9と同一材料で形成しているので、成形による互いの食いつきもほとんどなく、容易に、また、良好に内ハウジング8から外へ、すなわち金型外へ抜き取ることができる。
また、液状シリコーン材以外の材料としては、TPE(Thermo Plastic Elastomer:熱可塑性エラストマー)用いることができる。
TPEは、液状シリコーン材との親和性は低く柔軟性を有するので、インサート成形後に外ハウジング9と結合することがなく容易に金型から外すことができる。
このTPEは熱可塑性であるから、繰り返し使用には不向きであるが、材料コストとして液状シリコーン材より優位にあるので目的に応じて選択するのがよい。
【0045】
置き駒13を、外ハウジング9の材料と異なる材料(例えば、熱硬化性で耐熱性に優れるフェノール樹脂など)で形成した場合は、内ハウジング8から抜去する際に、ストレートに抜くための抜去空間を設ける必要があり、ヘッドホンのスピーカ部に適用する場合には、レイアウト的にその抜去空間を設けることが難しいので、実施例のように変形可能な材料を用いて狭い抜去空間で抜き取れるようにするのがよい。
【0046】
上述したように、空隙部9cは、一体ハウジング12の内側方向が開口して内ハウジング8の貫通孔8b1を介してその内部と連通した空間を形成しているが、これは、一体ハウジング12の射出成形において、いわゆる順抜きでは形成できないアンダーカットとなる部分である。
【0047】
このようなアンダーカット形状の部材を射出成形で形成する場合には、金型に対して工夫が必要である。
特に、このような外側方向が壁により塞がれ、内側に向けて解放する空隙部を形成する場合、従来、内スライド構造や、特許文献2(実開平5−29564号公報)に記載されたような駒式中子構造をとる必要があった。
【0048】
しかしながら、このヘッドホン50のスピーカ部1Lは、耳介の内側に装着できる程の極めて小さな部品であるため、内スライド構造や駒式中子構造をとることが極めて困難である、という課題があった。
【0049】
本願発明においては、上述したような、柔軟性を有する置き駒を用い、インサート成形後に、内ハウジング8に設けられたわずかな抜去空間を利用して置き駒を変形させて抜き取る、という方法をとることにより、空隙部9cを形成することができている。
この方法について一部繰り返しとなるが、以下に詳述する。
【0050】
図8は、予め成形された内ハウジング8と、これに装着する置き駒13と、を示した図である。
置き駒13は、例えば液状シリコーン材をLIM成形して形成される。
【0051】
この図8において、内ハウジング8は、軸C8zを中心とする略円形の開口部8aを有している。この軸C8zはスピーカユニット7の駆動軸と同軸である。
また、内ハウジング8における、オーナメント10が装着される側には、内ハウジング8の外形に合わせて一段凹んだ棚部8cが形成されている。
図5(b)も参照すると、この棚部8cにおける突出部8bの先端側には、貫通孔8b1と連通した抜取孔8dが形成されている。
【0052】
ここで、スピーカ部1Lの内部レイアウトを考えるに、スピーカ部1Lの外形サイズは、耳介内への装着が前提であるからある程度以下に限定される。
逆に、用いるスピーカユニット7は、高音質とするために大径のものを採用することが望まれる。
また、開口部8aにはこのような可及的大径なるスピーカユニット7が嵌着するが、スピーカユニット7の少なくとも側面は、優れた再生音を提供するために内ハウジング8の壁で塞がれていることが必要である。
【0053】
すなわち、開口部8aと抜取孔8dとを隔てる隔壁8eは、スピーカ部1Lの性能維持のため削除ことができず、抜取孔8dのサイズや容量は、自ずと小さく少ないものとなる。
【0054】
一方、空隙部9cを形成するためインサート成形前に貫通孔8b1へ装着される置き駒13は、その装着の際に、内ハウジング8の外方側から矢印D1の方向に装着される。そして、外ハウジング9が成形される。この状態を図9に示す。
この図9においては、置き駒13を抜去した後に内ハウジング8に取り付けられるユニットホルダ6を合わせて図示し、スピーカユニット7は不図示としている。
【0055】
そして、成形後の抜去において、この置き駒13は、貫通孔8b1の外方側が外ハウジング9で塞がれているために内側から抜去するしかない。
しかしながら、上述したように、抜取孔8dは小さく、また、隔壁8dが存在していることにより、矢印D1方向にてそのまま抜き取るのは困難となる。
【0056】
そこで、実施例においては、置き駒13を、柔軟性を有して容易に変形可能なものとしており、これにより、極めて僅かなスペースとなっている抜取孔8dから、変形させながら抜去することができる。
【0057】
図10は、置き駒13を、ピンセット状の治具15を用いて抜取る抜去過程を示している。この作業時点で既に外ハウジング9は一体形成されているが、当図10においては、理解容易のため記載していない。
ピンセット状の治具15で置き駒13をつまむ位置は図10の態様に限らない。置き駒13は柔軟性を有しているので、先端が鋭利な治具であれば容易につまむことが可能である。
【0058】
置き駒13を取り外した後の状態を図11に示す。この図11は、ユニットホルダ6を合わせて図示し、スピーカユニット7は不図示としている。
この図11において、外ハウジング9の突出部9bの内部には、抜き取った置き駒13の形状に応じた空隙部9cが形成されている。
【0059】
置き駒13の抜き取りをより容易に行うため、図12(a)に示すように、予め置き駒13につまむための凹部13aを形成しておいてもよい。
また、図12(b)に示すように、抜去孔8d側に治具の先端が挿入でき置き駒13を容易につまめるようにする凹部8fを形成しておいてもよい。
治具はピンセット状に限定されない。
また、置き駒13を直接挟んで取り出す方法でなくてもよく、例えば、置き駒13が極めて柔らかい材料で形成されていることを利用して吸引により取り出すようにしてもよい。
【0060】
上述のように空隙部9cは形成されるが、この空隙部9cは、外ハウジング9の突出部9bの内部において偏った位置に形成されるので、これについて以下に詳述する。
【0061】
図5(a)において、外ハウジング9の短手長Hは12mmであり、距離Xmaxは11mmである。
また、突出部9bの外形形状における長軸CLnより下側の曲率半径R91に対して、空隙部9cにおける長軸CLnより下側の曲率半径R9c1が小さく設定されている。
また、突出部9bの外形形状における長軸CLnより上側の曲率半径R92に対して、空隙部9cにおける長軸CLnより上側の曲率半径R9c2が小さく設定されている。
【0062】
そして、これらの設定を基に、突出部9bにおいて、中心C8に対する径方向断面でみたときの空隙部9cと外ハウジング9の外形との間の肉厚は、最大水平位置Mxから最大径位置MRまでの範囲が最薄となっており、そこから上方及び下方に向かうに従って徐々に厚くなるように形成されている。
【0063】
従って、突出部9bは、長軸CLn上ではなく、それより上方の最大水平位置Mxから最大径位置MRまでの範囲の部位が最も変形しやすくなっている。
そのため、このスピーカ部1Lを左耳介に装着した際に、突出部9bが耳介の内側壁に弾接して変形することで得られる中心C8に向かう力(弾性反発力)としては、長軸CLn方向の力FCLnに加えて、やや上方側からの力FMxも生じる。
この力FMxは、スピーカ部1Lを耳珠と対珠との間に押し込むように作用するので、このスピーカ部1Lは耳介内により良好に保持される。この押し込み作用(第1の押し込み作用とも称する)については図6を用いて後述する。
【0064】
一方、図5(a)での長軸CLnにおける断面を示した図5(b)(スピーカ部1Lを左耳に装着した場合において地面側から見た図)によれば、
空隙部9cと外ハウジング9の外形との間の肉厚において、当図の下側となるこのスピーカ部1Lを左耳の耳介に装着した際の頭部側の肉厚d92よりも、当図の上方側となる頭部から遠い側の肉厚d91の方が薄く形成されている。すなわち、d91<d92とされている。
従って、突出部9bは、放音部6から遠い側の方が近い側よりも変形し易くなっている。
【0065】
そのため、このスピーカ部1Lを耳介に装着した際に、突出部9bが耳介内の側壁に弾接して変形することで得られる中心C8の軸C8zに向かう力(弾性反発力)としては、軸C8zに直交する方向の力Fpに加えて、当図における上方側からの力Finも生じる。
この力Finは、放音部6を外耳道内に押し込むように作用するので、このスピーカ部1Lは耳介内により良好に保持されると共に、外耳道から抜けにくくなっている。この押し込み作用(第2の押し込み作用とも称する)についても図6を用いて次述する。
【0066】
上述した効果について、一部繰り返しとなるが、図6を用いて具体的に説明する。
図6は、左耳の耳介の平面的外観図であり、この耳介内に装着したスピーカ部1Lを一点鎖線で示している。
【0067】
外耳道の内部には、放音部6がイヤーピース14と共に挿入されている(共に図示せず)。
外ハウジング9の突出部9は、個人差があっても大人の耳介内面の側壁部E1に必ず当接する程度に大きい形状で形成してあるので、突出部9をつぶすように変形させることでスピーカ部1Lを装着することができる。そして、この装着により、突出部9は、変形しつつ側壁部E1に弾性的に当接する。
この変形は、突出部9の内部に空隙部9cを有し、外ハウジング9自体が高い柔軟性を有する材料で形成されていることから容易に行われる。
【0068】
また、上述したように、空隙部9cの位置を長軸CLnよりも頭頂側に偏倚させたことで得られる、スピーカ部1Lを上方側から外耳道に向けて付勢する弾性反発力FMxにより、このスピーカ部1Lは、図6に示すように、耳珠と対珠との間に押し込められて良好に保持される。これが上述した第1の押し込み作用である。
【0069】
一方、図7は、図6におけるS1−S1断面であり、スピーカ部1Lについては一部を模式的に示している。
【0070】
この図7において、外ハウジング9の、空隙部9cに対する頭部側の肉厚d92よりも、頭部とは反対側(外側)の肉厚d91の方を薄くしていることから得られる、スピーカ部1Lを外側から頭部側に向けて付勢する弾性反発力Finにより、イヤーピース14と共に放音部6が外耳道の内部に押し込まれるので、このスピーカ部1Lは耳介内に、より良好に保持されると共に、外耳道から容易には抜けにくくなっている。これが上述した第2の押し込み作用である。
【0071】
ところで、外ハウジング9の材料として不透明のものを用いると、空隙部9cは外部から視認されないが、透明性を有する材料を用いると、外部から空隙部9cを視認でき、突出部9bの柔軟性を使用者等に視覚的により強くアピールすることができる。
ヘッドホン50の優れた装着性は、この空隙部9cを形成したことが一つの要因であるから、商品の特徴を視覚的に訴えるセールス戦略とした場合には、このように空隙部9cを外部から視認できるようにするとよい。
【0072】
以上、詳述したヘッドホン50は、耳介の内壁に弾性的に当接する当接部(突出部9)が3次元的に変形できるよう構成されているので、耳介内面形状や大きさの個体差を吸収して、何人においても良好な装着が可能となるものである。
また、その3次元的変形が極めて柔軟に行われるので、装着感に秀でるものである。
また、装着において、外耳道内への押し付け力が付与されるので、コードが引っ張られた場合においても簡単に外れることがなく、使い勝手に極めて優れるものである。
【0073】
実施例で製造するヘッドホンは、上述した構成及び手順に限定されるものではない。
実施例により形成した空隙部9cは、内部に空気が充填されなくてもよい。突出部9bの柔軟な変形を妨げない材料であれば、空隙部9cを形成後にその内部に気体以外の物質を充填してもよい。
【0074】
例えば、外ハウジング9を、透明性を有する材料で形成し、空隙部9cの内部に着色したゲルなどを充填すると、良好な装着感に加えて外部からそのゲルの色がアクセントカラーとして認識され、デザイン上の訴求ポイントとなり得る。
【0075】
また、空隙部9cの奥方にLEDなどの発光体を配設し、この発光体を、任意のパターンで、あるいは、スピーカユニット7に供給される音声信号に基づくパターンなどで発光させてもよい。
この場合、その発光が外部から視認でき、商品の特徴としてアピールすることができる。これは特に、夜間での装着において他人へのアピール度が高い。
【0076】
また、空隙部9cを密閉空間として形成してもよい。具体的には、上述した製造方法により空隙部9cを形成後、内部に密閉空間が残るように内ハウジング8の内方側をシール材などで封止する。
この場合、スピーカ部1L,1Rを耳介に装着した際の突出部9bの変形により、外ハウジング9自体の弾性反発力に加えて、内部に封止された気体(空気など)が圧縮されることで反発力が生じるので、外ハウジング9をより薄肉化しても良好な装着感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンを説明するための外観図である。
【図2】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの要部を説明するための組み立て図である。
【図3】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンに用いる一部材を説明するための図である。
【図4】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの要部を説明するための他の組み立て図である。
【図5】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの要部を説明するための図である。
【図6】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの作用を説明するための第1の図である。
【図7】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの作用を説明するための第2の図である。
【図8】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例の一工程を説明する図である。
【図9】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例の製造過程を説明する図である。
【図10】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例の他の工程を説明する図である。
【図11】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例の別の工程を説明する図である。
【図12】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの要部変形例を説明する図である。
【符号の説明】
【0078】
1 スピーカ部
1L 左スピーカ部
1R 右スピーカ部
2L,2R コード
3 連結部
4 メインコード
5 プラグ
6 ユニットホルダ
6a 放音部
6a1 細径部
6b 収納部
6c 基部
6c2 連通孔
6c1 基面
7 スピーカユニット
8 インナーハウジング(内ハウジング)
8a 開口部
8b 突出部
8b1 貫通孔
8c 棚部
8d 抜取孔
8e 隔壁
9 アウターハウジング(外ハウジング)
9a 開口部
9b 突出部
9c 空隙部
10 オーナメント
11 コードブッシュ
12 一体ハウジング
13 置き駒
14 イヤーピース
15 治具
16 ハウジング部
50,50A ヘッドホン
CLn 長軸
Fin,FMx 力
MR 最大径位置
Mx 最大水平位置
θ 角度
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドホンの製造方法に係り、特に、本体を耳介の内側に装着するタイプのヘッドホンであって、良好な装着感が得られ装着した耳介から脱落し難い構造を有するヘッドホンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯音楽プレーヤの普及に伴い、そのプレーヤに接続されて音楽などを再生するヘッドホンの市場も急速に拡大している。
このヘッドホンとしては、軽量であって可搬性に優れることから、耳介の内側に装着するいわゆるインナーイヤータイプが広く普及している。
また、インナーイヤータイプには、外耳道内にイヤーピースを挿入して使用するカナルタイプがあり、このカナルタイプのヘッドホンは、電気信号を音声に変換するスピーカユニットを収納したハウジングと、ハウジングから突出して音を放出する放音筒と、この放音筒に取り付けられたイヤーピースと、ハウジングから延出し外部機器からの音声信号をスピーカユニットに供給するコードと、を備え、イヤーピース付き放音筒を外耳道内に挿入すると共に、ハウジングを耳介の内側に保持させるように装着して使用するように構成されるのが一般的である。
【0003】
そして、このようなヘッドホンは、主に、外耳道内に挿入されたイヤーピースの弾性反発力及び外耳道との間の摩擦力によって耳介内に保持される。
そのため、保持力はそれほど高くなく、コードが引っ張られた際に容易に外れてしまう場合があり、これを改善するために、ハウジングの形状を、耳介の内面に係止され得るように工夫したヘッドホンが種々提案されている。
その一例が特許文献1にイヤホンとして記載されている。
【0004】
この特許文献1に記載されたイヤホンは、耳介支持部材を具備したハウジングを有している。そして、この耳介支持部材は、ループ状であって耳介の内側面に弾接するように形成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−203420号公報
【特許文献2】実開平5−29564号公報(「発明を実施するための最良の形態」欄で説明)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献1に記載されたイヤホンは、上述したように、耳介の内側壁面(具体的な弾接位置は、耳介の内部における耳甲介側と対輪側とを仕切る側壁面とされている)に弾接する耳介支持部材を有し、その耳介支持部材がループ状である。
従って、そのループ(耳介支持部材)が延在する平面に沿う内側方向への変形は柔軟になされるものの、その平面に沿わない方向への変形(例えば、その平面に直交する方向への変形)は、柔軟性が十分ではなく、耳介内面形状の個体差により、人により必ずしも良好な装着が行われない可能性があった。
【0007】
この変形の特性を換言するならば、2次元的変形は柔軟で良好に行われるものの、3次元的変形においては柔軟性の点で十分ではない、というものであり、特許文献1に記載されたイヤホンは、3次元的に形状の個体差がある耳介内形状への適合に改善の余地が十分にあるものであった。
【0008】
また、装着する耳介が小さい程、耳介支持部材を大きく変形させて装着しなければならないが、その変形が上述した平面内で行われるために、変形量が大きくなるほど弾性反発力が強くなる。
そのため、このイヤホンを特に耳介が小さい人が装着する際に、良好な装着感が得られない、という状況が起こりえるものであり、また、場合によっては、装着自体が難しい、という状況が起こり得るものであった。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、耳介内面形状の個体差によらず、良好に装着が可能なヘッドホンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本願発明は手段として次の1)及び2)の手順を有する。
1) スピーカユニット(7)と、該スピーカユニット(7)を収納すると共に周部に孔(8b1)を有するハウジング部(8)と、前記ハウジング部(8)の所定領域に該ハウジング部(8)と一体的に形成され該ハウジング部(8)より柔軟なる環状の外ハウジング(9)と、該外ハウジング(9)の周部において前記ハウジング部(8)の孔(8b1)と対応した位置に形成された突出部(9b)と、該突出部(9b)の内部に形成され前記孔(8b1)に連通した空隙部(9c)と、を備えたヘッドホン(50)を製造するヘッドホンの製造方法において、
予め形成されたハウジング部(8)における前記孔(8b1)に、柔軟性を有する置き駒(13)をその一部が前記孔(8b1)から突出するように嵌着する置き駒嵌着工程と、
前記置き駒(13)を嵌着したハウジング部(8)を前記外ハウジング(9)の外形に対応したキャビティを有する金型内に装着し、射出成形により外ハウジング(9)を前記ハウジング部(8)と一体となるように形成する外ハウジング形成工程と、
該外ハウジング形成工程後に、前記嵌着した置き駒(13)を、前記孔(8b1)を通してハウジング部(8)の内側から抜き取って前記空隙部(9c)を形成する置き駒抜去工程と、を有することを特徴とするヘッドホンの製造方法。
2) 前記置き駒(13)を、液状シリコーン材または熱可塑性エラストマー材で形成したことを特徴とする1)に記載のヘッドホンの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耳介内面形状の個体差によらず良好に装着が可能なヘッドホンを製造するヘッドホンの製造方法を提供することができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図12を用いて説明する。
【0013】
図1は、本発明のヘッドホンの製造方法の実施例で製造するヘッドホンを示す外観図である。
【0014】
このヘッドホン50は、図1(a)に示すように、左スピーカ部1Lと、右スピーカ部1Rと、左右のスピーカ部1L,2Rのそれぞれから延出するコード2L,2Rと、各コード2L,2Rを連結する連結部3と、外部の音響機器に接続するためのプラグ5と、連結部3とプラグ部5とをつなぐメインコード4と、を有している。
そして、プラグ5が接続された外部機器からの音声信号は、プラグ5,メインコード4,及び連結部3を介し、Lチャネルの音声信号はコード2Lを介して左スピーカ部1Lに供給され、Rチャネルの音声信号はコード2Rを介して右スピーカ部1Rに供給させ、各スピーカ部1L,2Rから音声として放出される。
【0015】
本発明を用いて製造するヘッドホンとしては、このヘッドホン50のようないわゆるステレオタイプに限らず、図1(b)に示すように、スピーカ部1と、スピーカ部1から延出するコード2と、外部の音響機器に接続するためのプラグ5と、を有するいわゆるモノラルタイプのヘッドホン50Aであってもよい。また、コード2Lやプラグ5などを備えず、無線通信手段を備えて音声信号が外部から無線で供給され得るワイヤレスタイプであってもよい。
【0016】
以下、ステレオタイプのヘッドホン50について説明する。
また、このヘッドホン50においては、左スピーカ部1Lと右スピーカ部1Rとは左右対称構造であり、代表として左スピーカ部1Lについて詳述する。
【0017】
まず、左スピーカ部1Lの外観を図1(c)に示す。この外観図は、この左スピーカ部1Lを左耳に装着した際の、頭部斜め左前方のやや上方から見た状態を示している。
【0018】
この左スピーカ部1Lは、スピーカユニット7と、このスピーカユニット7をユニットホルダ6(この図では図示せず)と共に収納するインナーハウジング8(以下、内ハウジング8と称する)と、内ハウジングの周囲にインサート成形により一体形成されたアウターハウジング9(以下、外ハウジング9と称する)と、内ハウジング8の外側面に装着されたオーナメント10と、スピーカユニット7に外部からの信号を供給するコード2Lと、を有して構成されている。
以下、ユニットホルダ6と内ハウジング8とを合わせてハウジング部16とも称する。
【0019】
ユニットホルダ6には、外耳道内に挿入できるよう傾斜して突出し、スピーカユニット7の音を先端から放出する筒状の放音部6aが形成され、その放音部6aには、外耳道内に挿入された際に、その内壁に密着するイヤーピース14が装着されている。
また、外ハウジング9は、左耳に装着した際に後頭部側のやや上方に向けて突出した突出部9bを有している。
突出部9bの内部には、空隙部9cが形成されている。
【0020】
図2は、このヘッドホン50の左スピーカ部1Lの組み立て図である。この図2において、コード2L及びイヤーピース14は表示していない。
【0021】
左スピーカ部1Lは、放音部6aを有するユニットホルダ6と、このユニットホルダ6に内装されて放音部6aに向けて音声を放出するスピーカユニット7と、ユニットホルダ6に内装されたスピーカユニット7を囲ってユニットホルダ6に取り付けられる内ハウジング8と、内ハウジング8の周囲に取り付けられ概ねリング状に形成された外ハウジング9と、外ハウジング9に対してその一方側の開口部9aを塞ぐように取り付けられるオーナメント10と、オーナメント10に係合して取り付けられ図示しないコード2Lを保護しつつその外部への延出を誘導するコードブッシュ11と、を有して構成されている。
【0022】
このヘッドホン50の製造手順は以下の通りである、図4を用いて説明する。
ここで、内ハウジング8と外ハウジング9とは、後述するような一体成形により形成される一体の部材であるが、この図2においては、理解容易のため、両者を別体として記載している。
【0023】
まず、成形部品であるユニットホルダ6,内ハウジング8,オーナメント10,及びコードブッシュ11を予め後述する材料で射出成形等により形成しておく。
また、後述するインサート成形で用いる置き駒13も成形しておく。
成形した内ハウジング8に対して置き駒13を用いたインサート成形により外ハウジング9を一体的に成形し、一体ハウジング12を形成する。このインサート成形については特に詳細に後述する。
スピーカユニット7をユニットホルダ6に嵌着する。接着剤を併用してもよい。
スピーカユニット7を取り付けたユニットホルダ6に一体ハウジング12を超音波容着により固定する。接着剤を用いて接着固定してもよい。
オーナメント10にコードブッシュ11を係合固定し、そのオーナメント10を一体ハウジング12にいわゆるスナップフィットにより固定する。スナップ委フィット構造については周知の爪係合構造を採用することができ、図2においては省略してある。もちろん接着剤を用いて接着固定してもよい。
スピーカユニット7から延出したリード線(図示せず)は、内部の開口部を挿通してコードブッシュ11から外部にコード1L(図示せず)として引き出す。
コード1L,2Lは、予め連結部3及びメインコード4を介してプラグ5と接続しておく。
右スピーカ部1Rも同様に組み立ててコード2Rと接続する。
このようにしてヘッドホン10を製造する。
【0024】
次に、各部材の詳細について説明する。
ユニットホルダ6は、熱可塑性樹脂により射出成形により形成される。用いる樹脂材料として、例えばABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)がある。
【0025】
図2とは異なる角度から見た外観図である図3(a),図3(b)に示すように、このユニットホルダ6は、概ね扁平で外形が楕円形状の椀状に形成された基部6cと、その椀の底面に相当する基面6c1から傾斜して突出する放音部6aと、を有して形成されている。
この放音部6aの傾斜方向は、基部6cの楕円形状の長軸CLnに沿う方向とされ、その傾斜角度、すなわち、放音部6aの軸CL6と長軸CLnとのなす角度はθ(例えばθ=60°)で設定されている。
この傾斜角度θ(=60°)を設定している理由は、外耳道が頭側面に対して概ね60°に傾斜しているためであり、その外耳道の傾斜角度に合うように放音部6aの傾斜角度を設定することで、放音部6aがイヤーピース14と共に外耳道に自然に挿入でき、極めて良好な装着感が得られる。
【0026】
また、放音部6aは一部が細径部6a1とされた筒状に形成されている。この細径部6a1には、図示しないイヤーピースの凸部が係合してそのイヤーピースの抜けを防止する。
【0027】
基部6cの内側には、スピーカユニット7が隙間なく嵌着して収納される収納部6bが形成されている。
また、基面6c1には、収納部6bにスピーカユニット7が嵌着した際に、その振動板の前方側空間と外部空間とを連通する連通孔6c2が形成されている。
この実施例においては、連通孔6c2は円弧状に3ヶ所設けられている。
【0028】
外ハウジング9は、内ハウジング8に対して一体的にいわゆるインサート成形により形成される。
インサート成形に際しては、まず、内ハウジング8が形成される。
この内ハウジング8は、図2に対して別の角度から見た組み立て図である図4に示すように、円形の開口部8aを有し概ねリング状を呈しており、熱可塑性樹脂の射出成形により形成される。
【0029】
この熱可塑性樹脂として好適に用いることのできるものとして、PC(ポリカーボネート),PA(ポリアミド),またはPBT(ポリブチレンテレフタレート)があり、材料選定についての詳細は後述する。
【0030】
図4には、ユニットホルダ6を合わせて記載しているが、内ハウジング8は、リング形状の一方の開口端部8a側にこのユニットホルダ6が取り付けられる(図2も参照)。
その際、ユニットホルダ6に取り付けられたスピーカユニット7の一部がこの開口部8aに収められる。この状態で、開口部8aの中心C8はスピーカユニット7の中心と一致する。また、放音部6aの軸CL6はこの中心C8の軸C8zと交わるように設定されている。軸C8zは、スピーカユニット7の駆動軸と一致している。
【0031】
一方、内ハウジング8は、ユニットホルダ6が取り付けられた際に、その長軸CLnと平行になる長軸CLn8に沿って突出する突出部8bを有している。
この突出部8bの先端面には、内ハウジング8の内部と外部とを連通する貫通孔8b1が形成されている。
この実施例においては、貫通孔8b1は基面6c1に沿う方向を長手として開口する長孔とされている。
【0032】
外ハウジング9は、熱硬化性の液状シリコーン材を用いていわゆるLIM(Liquid Injection Molding)のインサート成形により形成される。
具体的には、予め射出成形で形成された内ハウジング8を、外ハウジング9のLIM成形用の金型内に装填し、この内ハウジング8を外周面の一部を包みこむように外ハウジング9をLIM成形により形成する。
【0033】
液状シリコーン材は、硬化後に高い柔軟性を有するシリコーンゴムが得られるような比較的低硬度の材料を選択する。例えば、硬化後の硬度が13(ショアA)となる材料である。
この硬化後の硬度については、10〜20(ショアA)の材料を用いると、いわゆる腰を有しつつ軟らかく耳介へフィットするようになるので、装着感が特に良好である。
この外ハウジング9の材料はシリコーンゴム材に限るものではないが、耐候性,耐熱性に優れ、人体への影響が無いこと、などからシリコーンゴム材が最も好ましい。
【0034】
このインサート成形において、外ハウジング9は、内ハウジング8に密着して成形される。
そのため、内ハウジング8は、プライマ処理を施すことにより液状シリコーン材が硬化してなる外ハウジング9に対して良好に密着する材料で形成されることが望まれる。
上述したPC(ポリカーボネート),PA(ポリアミド),またはPBT(ポリブチレンテレフタレート)の中では、特に、PA及びPBTが硬化した液状シリコーン材との密着性に優れるので好ましい。
【0035】
図5は、このようなインサート成形により得られた、内ハウジング8と外ハウジング9とが一体となった一体ハウジング12の三面図(一部断面)である。
【0036】
図5(a)は、オーナメント10が装着される側(左耳介装着時の外方側)から見た平面図であり、当図の上側及び下側が、スピーカ部1Lを左耳介に装着した際のそれぞれ頭頂側及び首側となる。また、図の左側が頭部前方側であり、右側が頭部後方側である。
この図5(a)において、外ハウジング9の外形は、非対称形状とされている。
【0037】
具体的には、内ハウジング8の突出部8bに概ね対応して外ハウジング9も突出部9bを有しており、その突出部9bは、頭頂側に偏るように突出している。
この偏った突出をさらに具体的に説明すると、外ハウジング9の外形について、内ハウジング8の開口部8aの中心C8に対して、当図右側の範囲(頭部後方側)における中心C8から最も遠い部位の位置MR(以下、最大径位置MRとも称する)は、長軸CLn上にはなく、長軸CLn8に対して上方側(頭頂側)に位置する。ここで、中心C8から最大径位置MRまでの距離はRmaxとする。
【0038】
また、外ハウジング9の外形について、中心C8を通り内ハウジング8の長軸CLn8に直交する短軸CLt8との距離が最大になる最大水平位置Mxも、長軸CLn上にはなく、長軸CLn8に対して上方側(頭頂側)にある。ここで、中心C8から最大水平位置Mxまでの距離をXmaxとする。
【0039】
すなわち、この図5(a)において、外ハウジング9は、スピーカユニット7の中心でもある開口部8aの中心C8から、放音部6aが傾斜する側(図の左側)とは逆側(頭部後方側)において、その中心C8からの距離が最大となる部位MRと、短軸CLt8からの距離が最大となる部位Mxとが、長軸CLn8に対して図の上側(頭頂部側)に位置するように設定されている。
【0040】
また、一体ハウジング12は、外ハウジング9における突出部9bの内部に空隙部9cを有している。
この空隙部9cは、液状シリコーン材を用いたインサート成形において以下のように形成できる。
【0041】
すなわち、図2に示すような、空隙部9cの空間形状に対応した形状の置き駒13を、予め形成された内ハウジング8における貫通孔8b1に、その外側から嵌着しておく。従って、空隙部9cの位置と貫通孔8b1の位置とは互いに対応している。
この置き駒13を嵌着した内ハウジング8を、一体ハウジング12の外形に対応したキャビティを有するインサート金型内に装填した後、金型を所定温度域に昇温し、そのキャビティ内に液状シリコーン材を射出して、外ハウジング9を成形する。
内ハウジング8における液状シリコーン材が接触する範囲には、両者の密着性を向上させるために予めプライマ処理を施しておく。
そして、一体ハウジング12をインサート金型から離型して取り出した後、置き駒13を内ハウジング9から抜去する。
【0042】
ここで、置き駒13は、外ハウジング9と同じ熱硬化性の液状シリコーン材を用いて形成されているので、高い柔軟性を有しており、これを変形させながら内ハウジング9の内側から容易に抜き取ることができる。
【0043】
一体ハウジング12は、このような置き駒13を用いてインサート成形により形成されているので、空隙部9cと内ハウジング8の内部とは連通した空間を形成する。
【0044】
置き駒13は、その材料を、熱硬化性であって硬化後の耐熱特性に優れる液状シリコーン材としているので、高温で行われるLIM成形に耐え、繰り返しの使用も可能となる。
また、外ハウジング9と同一材料で形成しているので、成形による互いの食いつきもほとんどなく、容易に、また、良好に内ハウジング8から外へ、すなわち金型外へ抜き取ることができる。
また、液状シリコーン材以外の材料としては、TPE(Thermo Plastic Elastomer:熱可塑性エラストマー)用いることができる。
TPEは、液状シリコーン材との親和性は低く柔軟性を有するので、インサート成形後に外ハウジング9と結合することがなく容易に金型から外すことができる。
このTPEは熱可塑性であるから、繰り返し使用には不向きであるが、材料コストとして液状シリコーン材より優位にあるので目的に応じて選択するのがよい。
【0045】
置き駒13を、外ハウジング9の材料と異なる材料(例えば、熱硬化性で耐熱性に優れるフェノール樹脂など)で形成した場合は、内ハウジング8から抜去する際に、ストレートに抜くための抜去空間を設ける必要があり、ヘッドホンのスピーカ部に適用する場合には、レイアウト的にその抜去空間を設けることが難しいので、実施例のように変形可能な材料を用いて狭い抜去空間で抜き取れるようにするのがよい。
【0046】
上述したように、空隙部9cは、一体ハウジング12の内側方向が開口して内ハウジング8の貫通孔8b1を介してその内部と連通した空間を形成しているが、これは、一体ハウジング12の射出成形において、いわゆる順抜きでは形成できないアンダーカットとなる部分である。
【0047】
このようなアンダーカット形状の部材を射出成形で形成する場合には、金型に対して工夫が必要である。
特に、このような外側方向が壁により塞がれ、内側に向けて解放する空隙部を形成する場合、従来、内スライド構造や、特許文献2(実開平5−29564号公報)に記載されたような駒式中子構造をとる必要があった。
【0048】
しかしながら、このヘッドホン50のスピーカ部1Lは、耳介の内側に装着できる程の極めて小さな部品であるため、内スライド構造や駒式中子構造をとることが極めて困難である、という課題があった。
【0049】
本願発明においては、上述したような、柔軟性を有する置き駒を用い、インサート成形後に、内ハウジング8に設けられたわずかな抜去空間を利用して置き駒を変形させて抜き取る、という方法をとることにより、空隙部9cを形成することができている。
この方法について一部繰り返しとなるが、以下に詳述する。
【0050】
図8は、予め成形された内ハウジング8と、これに装着する置き駒13と、を示した図である。
置き駒13は、例えば液状シリコーン材をLIM成形して形成される。
【0051】
この図8において、内ハウジング8は、軸C8zを中心とする略円形の開口部8aを有している。この軸C8zはスピーカユニット7の駆動軸と同軸である。
また、内ハウジング8における、オーナメント10が装着される側には、内ハウジング8の外形に合わせて一段凹んだ棚部8cが形成されている。
図5(b)も参照すると、この棚部8cにおける突出部8bの先端側には、貫通孔8b1と連通した抜取孔8dが形成されている。
【0052】
ここで、スピーカ部1Lの内部レイアウトを考えるに、スピーカ部1Lの外形サイズは、耳介内への装着が前提であるからある程度以下に限定される。
逆に、用いるスピーカユニット7は、高音質とするために大径のものを採用することが望まれる。
また、開口部8aにはこのような可及的大径なるスピーカユニット7が嵌着するが、スピーカユニット7の少なくとも側面は、優れた再生音を提供するために内ハウジング8の壁で塞がれていることが必要である。
【0053】
すなわち、開口部8aと抜取孔8dとを隔てる隔壁8eは、スピーカ部1Lの性能維持のため削除ことができず、抜取孔8dのサイズや容量は、自ずと小さく少ないものとなる。
【0054】
一方、空隙部9cを形成するためインサート成形前に貫通孔8b1へ装着される置き駒13は、その装着の際に、内ハウジング8の外方側から矢印D1の方向に装着される。そして、外ハウジング9が成形される。この状態を図9に示す。
この図9においては、置き駒13を抜去した後に内ハウジング8に取り付けられるユニットホルダ6を合わせて図示し、スピーカユニット7は不図示としている。
【0055】
そして、成形後の抜去において、この置き駒13は、貫通孔8b1の外方側が外ハウジング9で塞がれているために内側から抜去するしかない。
しかしながら、上述したように、抜取孔8dは小さく、また、隔壁8dが存在していることにより、矢印D1方向にてそのまま抜き取るのは困難となる。
【0056】
そこで、実施例においては、置き駒13を、柔軟性を有して容易に変形可能なものとしており、これにより、極めて僅かなスペースとなっている抜取孔8dから、変形させながら抜去することができる。
【0057】
図10は、置き駒13を、ピンセット状の治具15を用いて抜取る抜去過程を示している。この作業時点で既に外ハウジング9は一体形成されているが、当図10においては、理解容易のため記載していない。
ピンセット状の治具15で置き駒13をつまむ位置は図10の態様に限らない。置き駒13は柔軟性を有しているので、先端が鋭利な治具であれば容易につまむことが可能である。
【0058】
置き駒13を取り外した後の状態を図11に示す。この図11は、ユニットホルダ6を合わせて図示し、スピーカユニット7は不図示としている。
この図11において、外ハウジング9の突出部9bの内部には、抜き取った置き駒13の形状に応じた空隙部9cが形成されている。
【0059】
置き駒13の抜き取りをより容易に行うため、図12(a)に示すように、予め置き駒13につまむための凹部13aを形成しておいてもよい。
また、図12(b)に示すように、抜去孔8d側に治具の先端が挿入でき置き駒13を容易につまめるようにする凹部8fを形成しておいてもよい。
治具はピンセット状に限定されない。
また、置き駒13を直接挟んで取り出す方法でなくてもよく、例えば、置き駒13が極めて柔らかい材料で形成されていることを利用して吸引により取り出すようにしてもよい。
【0060】
上述のように空隙部9cは形成されるが、この空隙部9cは、外ハウジング9の突出部9bの内部において偏った位置に形成されるので、これについて以下に詳述する。
【0061】
図5(a)において、外ハウジング9の短手長Hは12mmであり、距離Xmaxは11mmである。
また、突出部9bの外形形状における長軸CLnより下側の曲率半径R91に対して、空隙部9cにおける長軸CLnより下側の曲率半径R9c1が小さく設定されている。
また、突出部9bの外形形状における長軸CLnより上側の曲率半径R92に対して、空隙部9cにおける長軸CLnより上側の曲率半径R9c2が小さく設定されている。
【0062】
そして、これらの設定を基に、突出部9bにおいて、中心C8に対する径方向断面でみたときの空隙部9cと外ハウジング9の外形との間の肉厚は、最大水平位置Mxから最大径位置MRまでの範囲が最薄となっており、そこから上方及び下方に向かうに従って徐々に厚くなるように形成されている。
【0063】
従って、突出部9bは、長軸CLn上ではなく、それより上方の最大水平位置Mxから最大径位置MRまでの範囲の部位が最も変形しやすくなっている。
そのため、このスピーカ部1Lを左耳介に装着した際に、突出部9bが耳介の内側壁に弾接して変形することで得られる中心C8に向かう力(弾性反発力)としては、長軸CLn方向の力FCLnに加えて、やや上方側からの力FMxも生じる。
この力FMxは、スピーカ部1Lを耳珠と対珠との間に押し込むように作用するので、このスピーカ部1Lは耳介内により良好に保持される。この押し込み作用(第1の押し込み作用とも称する)については図6を用いて後述する。
【0064】
一方、図5(a)での長軸CLnにおける断面を示した図5(b)(スピーカ部1Lを左耳に装着した場合において地面側から見た図)によれば、
空隙部9cと外ハウジング9の外形との間の肉厚において、当図の下側となるこのスピーカ部1Lを左耳の耳介に装着した際の頭部側の肉厚d92よりも、当図の上方側となる頭部から遠い側の肉厚d91の方が薄く形成されている。すなわち、d91<d92とされている。
従って、突出部9bは、放音部6から遠い側の方が近い側よりも変形し易くなっている。
【0065】
そのため、このスピーカ部1Lを耳介に装着した際に、突出部9bが耳介内の側壁に弾接して変形することで得られる中心C8の軸C8zに向かう力(弾性反発力)としては、軸C8zに直交する方向の力Fpに加えて、当図における上方側からの力Finも生じる。
この力Finは、放音部6を外耳道内に押し込むように作用するので、このスピーカ部1Lは耳介内により良好に保持されると共に、外耳道から抜けにくくなっている。この押し込み作用(第2の押し込み作用とも称する)についても図6を用いて次述する。
【0066】
上述した効果について、一部繰り返しとなるが、図6を用いて具体的に説明する。
図6は、左耳の耳介の平面的外観図であり、この耳介内に装着したスピーカ部1Lを一点鎖線で示している。
【0067】
外耳道の内部には、放音部6がイヤーピース14と共に挿入されている(共に図示せず)。
外ハウジング9の突出部9は、個人差があっても大人の耳介内面の側壁部E1に必ず当接する程度に大きい形状で形成してあるので、突出部9をつぶすように変形させることでスピーカ部1Lを装着することができる。そして、この装着により、突出部9は、変形しつつ側壁部E1に弾性的に当接する。
この変形は、突出部9の内部に空隙部9cを有し、外ハウジング9自体が高い柔軟性を有する材料で形成されていることから容易に行われる。
【0068】
また、上述したように、空隙部9cの位置を長軸CLnよりも頭頂側に偏倚させたことで得られる、スピーカ部1Lを上方側から外耳道に向けて付勢する弾性反発力FMxにより、このスピーカ部1Lは、図6に示すように、耳珠と対珠との間に押し込められて良好に保持される。これが上述した第1の押し込み作用である。
【0069】
一方、図7は、図6におけるS1−S1断面であり、スピーカ部1Lについては一部を模式的に示している。
【0070】
この図7において、外ハウジング9の、空隙部9cに対する頭部側の肉厚d92よりも、頭部とは反対側(外側)の肉厚d91の方を薄くしていることから得られる、スピーカ部1Lを外側から頭部側に向けて付勢する弾性反発力Finにより、イヤーピース14と共に放音部6が外耳道の内部に押し込まれるので、このスピーカ部1Lは耳介内に、より良好に保持されると共に、外耳道から容易には抜けにくくなっている。これが上述した第2の押し込み作用である。
【0071】
ところで、外ハウジング9の材料として不透明のものを用いると、空隙部9cは外部から視認されないが、透明性を有する材料を用いると、外部から空隙部9cを視認でき、突出部9bの柔軟性を使用者等に視覚的により強くアピールすることができる。
ヘッドホン50の優れた装着性は、この空隙部9cを形成したことが一つの要因であるから、商品の特徴を視覚的に訴えるセールス戦略とした場合には、このように空隙部9cを外部から視認できるようにするとよい。
【0072】
以上、詳述したヘッドホン50は、耳介の内壁に弾性的に当接する当接部(突出部9)が3次元的に変形できるよう構成されているので、耳介内面形状や大きさの個体差を吸収して、何人においても良好な装着が可能となるものである。
また、その3次元的変形が極めて柔軟に行われるので、装着感に秀でるものである。
また、装着において、外耳道内への押し付け力が付与されるので、コードが引っ張られた場合においても簡単に外れることがなく、使い勝手に極めて優れるものである。
【0073】
実施例で製造するヘッドホンは、上述した構成及び手順に限定されるものではない。
実施例により形成した空隙部9cは、内部に空気が充填されなくてもよい。突出部9bの柔軟な変形を妨げない材料であれば、空隙部9cを形成後にその内部に気体以外の物質を充填してもよい。
【0074】
例えば、外ハウジング9を、透明性を有する材料で形成し、空隙部9cの内部に着色したゲルなどを充填すると、良好な装着感に加えて外部からそのゲルの色がアクセントカラーとして認識され、デザイン上の訴求ポイントとなり得る。
【0075】
また、空隙部9cの奥方にLEDなどの発光体を配設し、この発光体を、任意のパターンで、あるいは、スピーカユニット7に供給される音声信号に基づくパターンなどで発光させてもよい。
この場合、その発光が外部から視認でき、商品の特徴としてアピールすることができる。これは特に、夜間での装着において他人へのアピール度が高い。
【0076】
また、空隙部9cを密閉空間として形成してもよい。具体的には、上述した製造方法により空隙部9cを形成後、内部に密閉空間が残るように内ハウジング8の内方側をシール材などで封止する。
この場合、スピーカ部1L,1Rを耳介に装着した際の突出部9bの変形により、外ハウジング9自体の弾性反発力に加えて、内部に封止された気体(空気など)が圧縮されることで反発力が生じるので、外ハウジング9をより薄肉化しても良好な装着感を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンを説明するための外観図である。
【図2】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの要部を説明するための組み立て図である。
【図3】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンに用いる一部材を説明するための図である。
【図4】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの要部を説明するための他の組み立て図である。
【図5】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの要部を説明するための図である。
【図6】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの作用を説明するための第1の図である。
【図7】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの作用を説明するための第2の図である。
【図8】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例の一工程を説明する図である。
【図9】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例の製造過程を説明する図である。
【図10】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例の他の工程を説明する図である。
【図11】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例の別の工程を説明する図である。
【図12】本発明のヘッドホンの製造方法における実施例で製造するヘッドホンの要部変形例を説明する図である。
【符号の説明】
【0078】
1 スピーカ部
1L 左スピーカ部
1R 右スピーカ部
2L,2R コード
3 連結部
4 メインコード
5 プラグ
6 ユニットホルダ
6a 放音部
6a1 細径部
6b 収納部
6c 基部
6c2 連通孔
6c1 基面
7 スピーカユニット
8 インナーハウジング(内ハウジング)
8a 開口部
8b 突出部
8b1 貫通孔
8c 棚部
8d 抜取孔
8e 隔壁
9 アウターハウジング(外ハウジング)
9a 開口部
9b 突出部
9c 空隙部
10 オーナメント
11 コードブッシュ
12 一体ハウジング
13 置き駒
14 イヤーピース
15 治具
16 ハウジング部
50,50A ヘッドホン
CLn 長軸
Fin,FMx 力
MR 最大径位置
Mx 最大水平位置
θ 角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカユニットと、該スピーカユニットを収納すると共に周部に孔を有するハウジング部と、前記ハウジング部の所定領域に該ハウジング部と一体的に形成され該ハウジング部より柔軟なる環状の外ハウジングと、該外ハウジングの周部において前記ハウジング部の孔と対応した位置に形成された突出部と、該突出部の内部に形成され前記孔に連通した空隙部と、を備えたヘッドホンを製造する、ヘッドホンの製造方法において、
予め形成されたハウジング部における前記孔に、柔軟性を有する置き駒をその一部が前記孔から突出するように嵌着する置き駒嵌着工程と、
前記置き駒を嵌着したハウジング部を前記外ハウジングの外形に対応したキャビティを有する金型内に装着し、射出成形により外ハウジングを前記ハウジング部と一体となるように形成する外ハウジング形成工程と、
該外ハウジング形成工程後に、前記嵌着した置き駒を、前記孔を通してハウジング部の内側から抜き取って前記空隙部を形成する置き駒抜去工程と、を有することを特徴とするヘッドホンの製造方法。
【請求項2】
前記置き駒を、液状シリコーン材または熱可塑性エラストマー材で形成したことを特徴とする請求項1記載のヘッドホンの製造方法。
【請求項1】
スピーカユニットと、該スピーカユニットを収納すると共に周部に孔を有するハウジング部と、前記ハウジング部の所定領域に該ハウジング部と一体的に形成され該ハウジング部より柔軟なる環状の外ハウジングと、該外ハウジングの周部において前記ハウジング部の孔と対応した位置に形成された突出部と、該突出部の内部に形成され前記孔に連通した空隙部と、を備えたヘッドホンを製造する、ヘッドホンの製造方法において、
予め形成されたハウジング部における前記孔に、柔軟性を有する置き駒をその一部が前記孔から突出するように嵌着する置き駒嵌着工程と、
前記置き駒を嵌着したハウジング部を前記外ハウジングの外形に対応したキャビティを有する金型内に装着し、射出成形により外ハウジングを前記ハウジング部と一体となるように形成する外ハウジング形成工程と、
該外ハウジング形成工程後に、前記嵌着した置き駒を、前記孔を通してハウジング部の内側から抜き取って前記空隙部を形成する置き駒抜去工程と、を有することを特徴とするヘッドホンの製造方法。
【請求項2】
前記置き駒を、液状シリコーン材または熱可塑性エラストマー材で形成したことを特徴とする請求項1記載のヘッドホンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−60157(P2009−60157A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214908(P2007−214908)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】
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