説明

ヘモグロビン類の測定方法

【課題】ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を向上させることのできるヘモグロビン類の測定方法を提供する。
【解決手段】カラム充填剤を充填したカラムに溶離液を送液する液体クロマトグラフィーによってヘモグロビン類を測定する方法において、測定系に生じる圧力値を9.8×10Pa以上、9.8×10Pa未満に設定し、前記カラム充填剤は、有機合成高分子からなる架橋重合体粒子の表面部分に、有機合成高分子からなるカチオン交換基を有する親水性重合体の層が形成された重合体粒子からなり、かつ、前記親水性重合体は、カチオン交換基及び重合性二重結合を有する単量体に由来するセグメントと、下記式(1)に示す官能基及び重合性二重結合を有する単量体に由来するセグメントとを有する共重合体からなるヘモグロビン類の測定方法。
[化1]


式(1)中、xは1〜10の整数であり、yは1〜30の整数であり、Rは水素原子、メチル基、又は、エチル基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィーを用いた、ヘモグロビン類の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野においては、糖尿病の診断を目的としてヘモグロビンA1cの測定が汎用的に行なわれている。ヘモグロビンA1cは、液体クロマトグラフィー、免疫法、酵素法等により測定されているが、なかでも液体クロマトグラフィーは精度が良く、短時間で測定できるため、特に糖尿病患者のヘモグロビンA1c値の管理に用いられている。この用途では、測定値のCV値(%)が1%以下程度の精度が要求される。
【0003】
液体クロマトグラフィーによりヘモグロビンA1cを測定する際、ヘモグロビンA1cを短時間で高精度に測定するための、カラム充填剤に必要な要件の1つは、ヘモグロビンA1cと他のヘモグロビン類との分離性能が良いことである。
分離性能が悪いと、他のヘモグロビン類の影響を受けやすいため、クロマトグラムの形状が変化しやすく、ヘモグロビンA1c値の測定精度が低下する。
【0004】
高い分離性能を得るための一般的な手段は、カラム充填剤粒子の粒径を小さくし、より均一にすることである。例えば特許文献1には、粒径が3〜4μmの微小な充填剤を用いてヘモグロビン類を測定する方法が開示されている。しかしその結果、測定系にかかる圧力は5MPa以上と大きくなる。
【0005】
そのため、使用する液体クロマトグラフは高い耐圧性能が必要になり、高価で複雑な機構となる。また、測定系に常時高圧がかかる場合、長期間使用した場合の配管系の詰まりや劣化、カラム寿命の短縮などの弊害をもたらす。ヘモグロビンA1cの測定のような多数の検体を測定する項目においては、カラム寿命はコストに直接影響を及ぼすため、短期間で測定精度が低下するカラムは実用上使用できない。
【0006】
また測定系に生じる圧力は低いほど有利であると考えられるが、低すぎる場合においても、送液が不安定になり、測定時間が延長するなどの欠点が生じる。測定系に生じる圧力値と、分離性能やカラム寿命の詳細な関係はほとんど検討されていない。
【0007】
一般に、測定系に生じる圧力値を小さくするためには、(1)カラムの長さを短くする、(2)カラムの内径を大きくする、(3)溶離液の流速を小さくする、(4)カラム充填剤粒子の粒子径を大きくする等の方法が行われる。しかしながら、(1)、(2)、(4)の方法では分離性能が低下し、(3)の方法では、測定時間が長くなる欠点がある。特に、従来のカラム充填剤は、低圧状態において高い分離性能を維持することができなかった。
【0008】
臨床検査の現場においては、より安価なシステムで、ヘモグロビンA1c等のヘモグロビン類を、短時間で高精度に測定したいという強い要望がある。またヘモグロビン類を測定するための、液体クロマトグラフィーに用いられるカラム充填剤に対しては、より高い分離性能とより長いカラム寿命が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05−005730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を向上させることのできるヘモグロビン類の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、カラム充填剤を充填したカラムに溶離液を送液する液体クロマトグラフィーによってヘモグロビン類を測定する方法において、測定系に生じる圧力値を9.8×10Pa以上、9.8×10Pa未満に設定し、上記カラム充填剤は、有機合成高分子からなる架橋重合体粒子の表面部分に、有機合成高分子からなるカチオン交換基を有する親水性重合体の層が形成された重合体粒子からなり、かつ、上記親水性重合体は、カチオン交換基及び重合性二重結合を有する単量体に由来するセグメントと、下記式(1)に示す官能基及び重合性二重結合を有する単量体に由来するセグメントとを有する共重合体からなるヘモグロビン類の測定方法である。
【0012】
【化1】

【0013】
式(1)中、xは1〜10の整数であり、yは1〜30の整数であり、Rは水素原子、メチル基、又は、エチル基を表す。
以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明者は、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定において、測定精度が最も向上する圧力範囲を見出し、かつ、該圧力範囲における測定を安定して維持することにより、カラム寿命を延長させることができることを見出した。
また、低い圧力で精度の高い測定を行うためには、低い圧力で高い分離性能を有するカラム充填剤を用いる必要がある。更に、測定系に生じる圧力を特定の低く狭い範囲で維持するためには、カラムの圧力を安定化させる必要がある。本発明者は、特定の組成及び構成を有する膨潤や収縮の少ないカラム充填剤を用いることにより、高い分離性能を維持したまま、測定系の圧力値を上記圧力範囲内に安定させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明のヘモグロビン類の測定方法(以下、本発明方法ともいう)では、測定系に生じる圧力値を9.8×10Pa以上、9.8×10Pa未満となるように設定する。
なお、本発明でいう「測定系に生じる圧力値(以下、単に圧力値ともいう)」とは、クロマトグラフィーの流路系において、カラムを含む、送液ポンプ以降の配管系流路全体により発生する圧力値を意味する。具体的には例えば、送液ポンプとカラムとの間に接続した圧力計から上記圧力値を読み取ることにより測定できる。
【0016】
上記圧力値が9.8×10Pa未満になるように設定した場合は、ヘモグロビン類の測定値の精度が低下したり、測定時間が長くなったりする。また、圧力値が非常に小さいため、圧力値の制御が困難となる。上記圧力値が9.8×10Pa以上になるように設定した場合は、測定精度が低下し、カラム寿命が短くなる。
本発明方法では、以下のカラム充填剤を用いることにより、分離性能を悪くしたり、測定時間を長くしたりすることなく、上記圧力値を9.8×10Pa未満と極めて小さな値にできる。
【0017】
上記カラム充填剤は、有機合成高分子からなる架橋重合体粒子の表面部分に、有機合成高分子からなるカチオン交換基を有する親水性重合体の層が形成された重合体粒子からなる。上記カラム充填剤のコア部分が架橋重合体粒子であることにより、粒子全体の膨潤収縮の度合いを小さくすることができる。
【0018】
上記架橋重合体粒子の素材(架橋重合体)は特に限定されないが、有機系の架橋性単量体を重合して得られる有機合成高分子であることが好ましく、アクリル系の架橋重合体、即ち、架橋性アクリル系単量体、又は、架橋性アクリル系単量体を主成分とする単量体の混合物を重合して得られる架橋重合体であることがより好ましい。また、上記架橋重合体は、イオン交換基を有さないものであることが好ましい。
なお、本明細書において「アクリル系」とは、アクリル基又はメタクリル基を有することを意味する。また、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸又はメタクリル酸」であることを示す。
【0019】
上記架橋性アクリル系単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリル基を有するアルキロールアルカン(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)−ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリエチレングリコール−ジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ウレタン(メタ)ジアクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−5−メチル−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,11−ジ(メタ)アクリロキシ−4,8−ジオキサウンデガン−2,6,10−トリオール等が挙げられる。
上記分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリル基を有するアルキロールアルカン(メタ)アクリレート類としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの架橋性のアクリル系単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。また、上記架橋性のアクリル系単量体は、イオン交換基を有さない構造であることが好ましい。
【0020】
上記架橋重合体を構成する単量体類として、上記架橋性単量体に加えて、必要に応じてその他の非架橋性単量体を含有してもよい。上記非架橋性単量体もアクリル系単量体であることが好ましい。
上記非架橋性アクリル系単量体としては、親水性の非架橋性アクリル系単量体が好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル類、水酸基を有する非架橋性アクリル系単量体等が挙げられる。
【0021】
上記(メタ)アクリル酸アルキル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0022】
上記水酸基を有する非架橋性アクリル系単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、その他の水酸基を有する(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
上記ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記その他の水酸基を有する(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
上記架橋重合体を構成する単量体類として上記非架橋性単量体を含有する場合、上記架橋性単量体と上記非架橋性単量体の混合物(以下、単に単量体混合物ともいう)中における上記非架橋性単量体の含有量の上限は30重量%である。上記非架橋性単量体の含有量が30重量%を超えると、得られるカラム充填剤の耐圧性、耐膨潤性が低下し、ヘモグロビン類の正確な測定ができなくなることがある。
【0024】
上記親水性重合体は、カチオン交換基及び重合性二重結合を有する単量体(以下、カチオン交換性単量体ともいう)に由来するセグメントと、上記式(1)に示す官能基及び重合性二重結合を有する単量体(以下、エチレングリコール基含有単量体ともいう)に由来するセグメントとを有する共重合体からなる。
【0025】
上記カチオン交換性単量体は、1分子中にカチオン交換基及び重合性二重結合を1個以上有する単量体である。
上記カチオン交換基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基であることが好適であり、スルホン酸基であることがより好適である。
なお、本発明方法でいうカチオン交換基には、カチオン交換基に付随する構造は問わないため、カチオン交換基を末端に有する全ての官能基を含む。例えば、本発明方法でいう「カルボキシル基」とは、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基等、カルボキシル基が結合する官能基類全てを含む。
また、カチオン交換基は、複数種の異なるカチオン交換基を有していてもよい。
【0026】
上記カチオン交換性単量体のうち、カルボキシル基を有するカチオン交換性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、マレイン酸、フマル酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。
リン酸基を有するカチオン交換性単量体としては、例えば、((メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等の(メタ)アクリル酸誘導体類等が挙げられる。
スルホン酸基を有するカチオン交換性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類等、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、(3−スルホプロピル)−イタコン酸、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
上記カチオン交換性単量体は、アクリル系単量体であることがより好ましい。また、これらのカチオン交換性単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記エチレングリコール基含有単量体において、上記式(1)中のxは1〜10の整数である。上記xが10を超えると、上記エチレングリコール基含有単量体の疎水性が強まり、充分な親水性を有する重合体層が形成できなくなる。上記xの好ましい下限は2、好ましい上限は3である。
また、上記式(1)中のyは1〜30である。上記yが30を超えると、上記エチレングリコール基含有単量体の親水性が強まり、形成された親水性重合体層が膨潤して機械的強度が低下する。上記yの好ましい上限は20である。
更に、上記式(1)中のRは、水素原子、メチル基、又は、エチル基を表す。
【0028】
上記エチレングリコール基含有単量体としては、例えば、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコール−テトラメチレングリコールメタクリレート等の(メタ)アクリレートの誘導体が挙げられる。
上記エチレングリコール基含有単量体は、アクリル系単量体であることがより好ましい。なお、これらのエチレングリコール基含有単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記カラム充填剤を製造する方法は特に限定されず、上記架橋性単量体又は上記架橋性単量体を主成分とする単量体混合物(以下、単に単量体混合物ともいう)を用いて、架橋重合体粒子を調製した後、得られた架橋重合体粒子の表面部分において上記カチオン交換性単量体と、上記エチレングリコール基含有単量体とを重合させ、親水性重合体層を形成する方法を用いることができる。
【0030】
上記架橋重合体粒子を調製する方法としては、例えば、上記単量体混合物を重合開始剤の存在下において、乳化重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法等の公知の重合方法により重合反応を行なう方法が挙げられる。なかでも、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法が好ましい。
上記懸濁重合法の場合、単量体混合物に重合開始剤を溶解し、適当な分散媒中に分散させた後、必要に応じて窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下にて攪拌しながら加温することにより、カラム充填剤として適当な、架橋重合体粒子を真球状粒子として得ることができる。
【0031】
上記架橋重合体粒子の表面において、効率よく上記カチオン交換性単量体、及び、上記エチレングリコール基含有単量体を重合して親水性重合体層を形成するには、上記架橋重合体粒子が分散された分散媒中に上記カチオン交換性単量体、及び、上記エチレングリコール基含有単量体を添加して、重合開始剤の存在下で重合する方法が好ましい。なお、上記カチオン交換性単量体、及び、上記エチレングリコール基含有単量体は、上記架橋重合体粒子の表面部分において各々別個に重合してもよく、これらの単量体を混合した後、同時に重合してもよい。
【0032】
上記重合開始剤は、予め上記架橋重合体粒子の内部に含有させておくことが好ましい。
上記架橋重合体粒子に重合開始剤を含有させる方法としては、例えば、上記架橋重合体粒子を膨潤させることができ、かつ、重合開始剤を溶解できる有機溶媒に重合開始剤を溶解し、上記架橋重合体粒子を該有機溶媒に含浸させる方法が挙げられる。
なお、上記架橋重合体粒子表面以外の部分で行われた反応による生成物、即ち、カチオン交換性単量体、及び/又は、エチレングリコール基含有単量体のみからなる重合体は、重合反応後に洗浄することで除去される。
【0033】
また、上記架橋重合体粒子を調製する際の重合反応において、該重合反応が完了する前、即ち、重合開始剤が完全に消費される前に、上記カチオン交換性単量体、及び、上記エチレングリコール基含有単量体を反応系に添加する方法により、上記架橋重合体粒子内に残存する、最初に添加した重合開始剤を利用して、架橋重合体粒子の表面に効率よくカチオン交換性単量体、及び、エチレングリコール基含有単量体を重合させることもできる。
【0034】
上記カチオン交換性単量体に由来するセグメントと、上記エチレングリコール基含有単量体に由来するセグメントとを有する共重合体を重合する際の上記カチオン交換性単量体の添加量の好ましい下限は、上記単量体混合物100重量部に対して5重量部、好ましい上限は200重量部である。上記カチオン交換性単量体の添加量が5重量部未満の場合、充分なイオン交換反応が行われず、得られるカラム充填剤を用いたカラムの分離性能が悪くなることがある。上記カチオン交換性単量体の添加量が200重量部を超えると、重合中に凝集が起こりやすくなり、粒子状の重合体が得られにくくなったり、架橋重合体粒子の表面の親水性重合体層が厚くなり、膨潤や収縮が起きやすくなるため、測定系の圧力が変動し、本発明方法の圧力範囲を逸脱したりする。上記カチオン交換性単量体の添加量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は150重量部である。
【0035】
上記カチオン交換性単量体に由来するセグメントと、上記エチレングリコール基含有単量体に由来するセグメントとを有する共重合体を重合する際の上記エチレングリコール基含有単量体の添加量は、用いる単量体の種類によって異なるが、上記カチオン交換性単量体100重量部に対して、好ましい下限は5重量部、好ましい上限は100重量部である。上記エチレングリコール基含有単量体の添加量が5重量部未満であると、エチレングリコール基含有単量体を添加する効果が得られないことがある。上記エチレングリコール基含有単量体の添加量が100重量部を超えると、得られる液体クロマトグラフィー用充填剤同士が吸着し、凝集物が発生することがある。上記エチレングリコール基含有単量体の添加量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は80重量部である。
【0036】
上記カラム充填剤は、上記重合を行った後に、公知の技術による親水化処理を表面に行ってもよい。上記親水化処理としては、例えば、特開2001−91505号公報に開示されている、ヘモグロビン、アルブミン、グロブリン等の蛋白質、糖類、ノニオン系界面活性剤等の親水基を有する化合物を吸着させる方法、特開2004−295368号公報に記載の方法によるオゾン処理を行う方法等を好適に用いることができる。
【0037】
本発明方法に用いる上記カラム充填剤の平均粒子径の好ましい下限は3μm、好ましい上限は40μmである。上記カラム充填剤の平均粒子径が3μm未満であると、溶離液をカラムに流すために必要となる圧力が増大し、本発明方法が規定する圧力範囲を逸脱しやすくなる。また、液体クロマトグラフに、耐圧性付与のための特殊な部品等が必要となることがある。上記カラム充填剤の平均粒子径が40μmを超えると、カラム内の空隙率が増大し、試料が拡散しやすくなり、ピークのブロード化等により測定精度が低下する場合がある。上記カラム充填剤の平均粒子径のより好ましい下限は5μm、より好ましい上限は35μmである。
【0038】
本発明方法に用いる液体クロマトグラフは、溶離液送液用のポンプ、検出器等を備えた公知の液体クロマトグラフに、上記カラム充填剤を充填したカラムを接続することにより構成することができる。
送液用ポンプによる溶離液の送液速度の好ましい下限は0.1mL/分、好ましい上限は2.5mL/分である。上記溶離液の送液速度が0.1mL/分未満であると、流速が遅いために測定時間が長くなることがある。上記溶離液の送液速度が2.5mL/分を超えると、測定系に生じる圧力値が大きくなり、本発明で規定する圧力範囲を逸脱することがある。上記溶離液の送液速度のより好ましい下限は0.2mL/分、より好ましい上限は2.0mL/分である。
【0039】
本発明方法に用いるカラムのカラム長の好ましい下限は1mm、好ましい上限は100mmである。上記カラム長が1mm未満であると、測定対象との相互作用が不充分となり、分離性能が悪くなって測定精度が低下することがある。上記カラム長が100mmを超えると、測定時間が長くなり、測定系に生じる圧力値が大きくなり、本発明で規定する圧力範囲を逸脱することがある。上記カラム長のより好ましい下限は5mm、より好ましい上限は70mmである。
【0040】
本発明方法に用いるカラムの内径の好ましい下限は0.5mm、好ましい上限は10mmである。上記カラムの内径が0.5mm未満であると、測定系に生じる圧力値が大きくなり、本発明で規定する圧力範囲を逸脱することがある。上記カラムの内径が10mmを超えると、カラム内で試料の拡散しやすくなり、測定精度が低下することがある。上記カラムの内径のより好ましい下限は1mm、より好ましい上限は8mmである。
【0041】
本発明方法の液体クロマトグラフィーに用いる溶離液としては、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、有機酸、無機酸、及び、これらの塩類、アミノ酸類、グッドの緩衝液等が挙げられる。
上記有機酸は特に限定されず、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。
上記無機酸は特に限定されず、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等が挙げられる。
上記アミノ酸類は特に限定されず、例えば、グリシン、タウリン、アルギニン等が挙げられる。
また、上記緩衝液には、他に一般に添加される物質、例えば、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物、カオトロピックイオン類等を適宜添加してもよい。
ヘモグロビンA1cの測定を行う際の上記緩衝液の塩濃度の好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は1000mmol/Lである。上記緩衝液の塩濃度が10mmol/L未満であると、イオン交換反応が行なわれず、ヘモグロビン類を分離することができなくなることがある。上記緩衝液の塩濃度が1000mmol/Lを超えると、塩が析出しシステムに悪影響を及ぼすことがある。
【0042】
本発明方法の液体クロマトグラフィーにより、種々のヘモグロビン類を測定することができる。具体的には例えば、本発明方法により、ヘモグロビンA0、ヘモグロビンA1c、ヘモグロビンF(胎児性ヘモグロビン)やヘモグロビンA2を測定することができる。
更に、一般に異常ヘモグロビンと呼ばれるヘモグロビン類の一部をも測定することができる。本発明方法により測定できる異常ヘモグロビン類としては、例えば、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC、ヘモグロビンD、ヘモグロビンE等が挙げられる。
【発明の効果】
【0043】
本発明方法は、測定系に生じる圧力値が9.8×10〜9.8×10Paとなるように設定して実施する、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法である。圧力値を上記範囲に設定することで、従来よりも高精度でヘモグロビン類を測定でき、かつ、長期間に亙って精度を維持することができる。
また本発明方法では、架橋重合体粒子の表面に、カチオン交換性単量体に由来するセグメントと、エチレングリコール基含有単量体に由来するセグメントとを有する共重合体からなる親水性重合体の層を有するカラム充填剤を用いるため、分離性能を損なうことなく、上記範囲内の圧力を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1のカラム及び測定条件を用いて、健常人血のヘモグロビンA1cの測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図2】比較例1のカラム及び測定条件を用いて、健常人血のヘモグロビンA1cの測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図3】実施例1のカラム及び測定条件を用いて、異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図4】比較例1のカラム及び測定条件を用いて、異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図5】実施例1のカラム及び測定条件を用いて、ヘモグロビンA2の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図6】比較例1のカラム及び測定条件を用いて、ヘモグロビンA2の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図7】実施例1、実施例2、及び、実施例4の測定条件を用いた耐久性評価におけるヘモグロビンA1c値の推移である。
【図8】比較例2、比較例4、比較例7、及び、比較例8の測定条件を用いた耐久性評価におけるヘモグロビンA1c値の推移である。
【図9】実施例1、及び、比較例7の測定条件を用いた膨潤度試験における圧力値の推移である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
(製造例1)
テトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)150g、トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)150g、及び、テトラメチロールメタントリアクリレート(新中村化学工業社製)50gの単量体混合物に、過酸化ベンゾイル(キシダ化学社製)1.0gを溶解した。得られた溶解物を、5重量%のポリビニルアルコール(日本合成化学社製、「ゴーセノールGH−20」)水溶液1500mLに分散させ、回転数200rpmで撹拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加熱し1時間重合反応を行った。
次に、カチオン交換性単量体として2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成社製)200gと、エチレングリコール基含有単量体としてポリエチレングリコールメタクリレート(日油社製、上記式(1)中のx=2、y=4、R=H)40gとを、メタノール100g及びイオン交換水200mLの混合液に溶解した。得られた混合物を上記の反応系に添加して、窒素雰囲気下において、撹拌しながら80℃で2時間重合反応を行った。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
粒度分布測定装置(ナイコンプ社製、「アキュサイザー780」)により、平均粒子径を測定した結果、20.3μmであった。
【0046】
(製造例2)
エチレングリコール基含有単量体として、ポリエチレングリコールメタクリレート(上記式(1)中のx=2、y=8、R=H)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、カラム充填剤を得た。
製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、17.6μmであった。
【0047】
(製造例3)
エチレングリコール基含有単量体として、ポリエチレングリコールメタクリレート(上記式(1)中のx=5、y=15、R=H)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、カラム充填剤を得た。
製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、12.9μmであった。
【0048】
(製造例4)
エチレングリコール基含有単量体として、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(上記式(1)中のx=2、y=4、R=CH)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、カラム充填剤を得た。
製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、31.1μmであった。
【0049】
(製造例5)
エチレングリコール基含有単量体として、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(上記式(1)中のx=2、y=9、R=CH)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、カラム充填剤を得た。
製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、25.1μmであった。
【0050】
(製造例6)
エチレングリコール基含有単量体として、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(上記式(1)中のx=6、y=16、R=CH)を用いたこと以外は製造例1と同様にして、カラム充填剤を得た。
製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、17.8μmであった。
【0051】
(製造例7)
本製造例では、本発明方法に好適なカラム充填剤の粒子径を逸脱したものを製造した。
製造例1における5重量%のポリビニルアルコール水溶液を、8重量%のポリビニルアルコール水溶液に変更し、撹拌時の回転数200rpmを400rpmに変更した。上記以外の条件は製造例1と同様に設定して重合を行った。製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、2.7μmであった。
【0052】
(製造例8)
本製造例では、本発明方法に好適なカラム充填剤の粒子径を逸脱したものを製造した。
製造例1における5重量%のポリビニルアルコール水溶液を、2重量%のポリビニルアルコール水溶液に変更し、撹拌時の回転数200rpmを80rpmに変更した。上記以外の条件は製造例1と同様に設定して重合を行った。製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、47.2μmであった。
【0053】
(製造例9)
本製造例は、本発明方法に用いるカラム充填剤を構成する成分のうち、エチレングリコール基含有単量体を用いない場合を示す。
エチレングリコール基含有単量体であるポリエチレングリコールメタクリレート20gを添加しなかった以外は製造例1と同様にして、カラム充填剤を得た。
製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、17.8μmであった。
【0054】
(製造例10)
本製造例は、本発明方法に用いるカラム充填剤を構成する単量体を用いた上で、架橋重合体の表面に親水性重合体層が形成されておらず、カチオン交換性単量体、及び、エチレングリコール基含有単量体が架橋重合体粒子内部に存在する場合を示す。
テトラエチレングリコールジメタクリレート100g、トリエチレングリコールジメタクリレート100g、及び、テトラメチロールメタントリアクリレート30g、カチオン交換性単量体として2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸100g、及び、エチレングリコール基含有単量体としてポリエチレングリコールメタクリレート(上記式(1)中のx=2、y=4、R=H)20gの単量体混合物に、過酸化ベンゾイル1.0gを溶解した。得られた溶解物を、5重量%のポリビニルアルコール水溶液1500mLに分散させ、回転数200rpmで撹拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加熱し12時間重合反応を行った。得られた重合物を洗浄して、カラム充填剤を得た。
製造例1と同様にして平均粒子径を測定した結果、15.4μmであった。
【0055】
(実施例1〜9及び比較例1〜7)
製造例1〜10で得られたカラム充填剤を種々のサイズのカラムに充填し、液体クロマトグラフ(島津製作所社製、「LC−10Aシステム」)に接続した。送液ポンプとカラムの間に、デジタル圧力計(長野計器社製、GC61)を接続し、溶離液として200mmol/Lのリン酸緩衝液(pH5.3)を様々な流速で送液して圧力表示値を読み取った。測定条件及び結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
<評価>
実施例及び比較例のカラム及び測定条件を用いて、以下の評価を行った
【0058】
(1)健常人血試料の測定
実施例1のカラム及び測定条件を用いて、健常人血試料の測定を行った。
測定試料として、フッ化ナトリウム採血したヒト健常人血液を、0.05%のTritonX−100(Sigma−Aldrich社製)を含むリン酸緩衝液(pH6.8)により200倍に溶血希釈したものを用いた。溶離液Aとして200mmol/Lのリン酸緩衝液(pH5.3)、及び、溶離液Bとして400mmol/Lのリン酸緩衝液(pH8.0)の2種の溶離液を用い、流速1.0mL/分で送液して溶離液Aから溶離液Bへのステップワイズグラジエント法により分離し、415nmの吸光度を測定した結果、図1のクロマトグラムを得た。図1中、1がヘモグロビンA1c、2がヘモグロビンA0である。ヘモグロビンA1cと他のヘモグロビン分画とが短時間内に良好に分離された。他の実施例の測定条件でも同様の良好なクロマトグラムが得られた。一方、比較例の測定条件では図2のように分離が悪かった。
【0059】
(2)同時再現性評価
得られた健常人血試料を用いて、ヘモグロビンA1cの測定を10回連続で行い、同時再現性の比較を行った。A1c値とA1c成分の保持時間のCV値(%)の結果を表2に示す。
各実施例の測定条件においては、各CV値は1%未満であり、糖尿病患者のA1c値の管理を行うための充分な測定精度を示した。一方各比較例の測定条件では、CV値が約3〜14%と悪く、実用上問題のあるレベルであった。
【0060】
(3)修飾ヘモグロビン類の測定
上記(1)における健常人血試料の代わりに、修飾ヘモグロビン類を含む試料を人為的に調製して測定し、修飾ヘモグロビン類とヘモグロビンA1cとの分離性能を評価した。
修飾ヘモグロビン類を含む試料としては、レイバイルヘモグロビンA1c含有試料(試料L)、アセチル化ヘモグロビン含有試料(試料A)、カルバミル化ヘモグロビン含有試料(試料C)の3種類を、公知の方法により調製した。
即ち、試料Lは、健常人血試料に、グルコースを2500mg/dLとなるように添加し、37℃で3時間加温することにより調製した。試料Aは、健常人血試料に、アセトアルデヒドを60mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温することにより調製した。試料Cは、健常人血試料に、シアン酸ナトリウムを60mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温することにより調製した。
得られた修飾ヘモグロビン類を含む試料(試料L、試料A、試料C)と、修飾ヘモグロビン類を含む試料の調製に用いた健常人血試料(非修飾品)とを、実施例及び比較例で調製した充填剤を用いて、上記(2)の方法によって測定し、ヘモグロビンA1cの測定値を比較した。分離性能は、修飾ヘモグロビン類を含む試料のヘモグロビンA1c値から非修飾品のヘモグロビンA1c値を差し引いた値(Δ値)を算出して比較することにより評価した。結果を表2に示す。
各実施例の測定条件においては、Δ値は0.2%未満であり、修飾ヘモグロビン類が含まれる試料においても、正確にヘモグロビンA1cが測定できることがわかった。一方各比較例の測定条件では、Δ値が約0.3〜2.3%と悪く、ヘモグロビンA1cの測定時において、修飾ヘモグロビン類の影響を受けることが確認された。
【0061】
【表2】

【0062】
(4)異常ヘモグロビン類の測定
実施例及び比較例の測定条件を用いて、異常ヘモグロビンとしてヘモグロビンS及びヘモグロビンCを含む試料(ヘレナ研究所社製、「AFSCヘモコントロール」)の測定を行った。
実施例1の測定条件を用いて測定した結果、得られたクロマトグラムを図3に示す。図3中、1はヘモグロビンA1c、2はヘモグロビンA0、3はヘモグロビンF(胎児性Hb)、4はヘモグロビンS、5はヘモグロビンCを示す。実施例1の測定条件においては、異常ヘモグロビン類であるヘモグロビンS及びヘモグロビンCを良好に分離することができた。他の実施例の測定条件においても、ほぼ同様の分離性能を示した。
一方、比較例1の測定条件を用いて測定した場合は、図4に示すように異常ヘモグロビン類を分離することはできなかった。他の比較例の測定条件においても、同様に異常ヘモグロビン類を分離することはできなかった。
【0063】
(5)ヘモグロビンA2の測定
実施例及び比較例の測定条件を用いて、ヘモグロビンA2を含む試料として、A2コントロール(レベル2)(バイオラッド社製)を測定した。
実施例1の充填剤を用いて測定して得られたクロマトグラムを図5に示す。図5中、1はヘモグロビンA1c、2はヘモグロビンA0、3はヘモグロビンF(胎児性Hb)、6はヘモグロビンA2を示す。実施例1の測定条件において、ヘモグロビンA2を良好に分離することができた。他の実施例の測定条件においても、ほぼ同様の分離性能を示した。
一方、比較例1の測定条件を用いて測定した場合は、図6に示すようにヘモグロビンA2を分離することはできなかった。他の比較例の測定条件においても、同様にヘモグロビンA2を分離することはできなかった。
【0064】
(6)カラム耐久性の評価
実施例1、2、4、及び、比較例2、4、7、8の測定条件を用いて、上記(1)の健常人血試料を繰り返し測定し、ヘモグロビンA1c値の推移を確認した。それぞれの結果を図7、及び、図8に示す。
ヘモグロビンA1c値(HbA1c(%))の推移は、各実施例の測定条件では、2000回測定まで安定していた。一方、各比較例の測定条件では、HbA1c値が大きく低下し、カラム寿命が短いことが確認された。
【0065】
(7)膨潤度試験
実施例1及び比較例7の測定条件を用いて、2種類の溶離液を送液した場合の、カラム圧力値の変動を確認した。
上記の溶離液Aを、流速1.0mL/分で5分間送液した後、溶離液Bを5分間送液し、再び溶離液Aを10分間送液した。その間の圧力値をデジタル圧力計(長野計器社製、GC61)により測定した。測定結果を図9に示す。
実施例1の測定条件では、溶離液の変更による圧力変動はほとんど認められず、カラム充填剤の膨潤がほとんど起こらないことが確認された。
一方比較例7の測定条件では、溶離液Bへの変更により圧力が上昇し、カラム充填剤の膨潤挙動が確認された。また、該圧力の上昇は溶離液の切り替わりから時間差があり、カラム充填剤の溶離液への平衡化が非常に遅いことが確認された。このような現象は、カラム充填剤のカチオン交換基が表面層に限定されない構成のためによるものと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を向上させることのできるヘモグロビン類の測定方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 ヘモグロビンA1c
2 ヘモグロビンA0
3 ヘモグロビンF(胎児性Hb)
4 ヘモグロビンS
5 ヘモグロビンC
6 ヘモグロビンA2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム充填剤を充填したカラムに溶離液を送液する液体クロマトグラフィーによってヘモグロビン類を測定する方法において、
測定系に生じる圧力値を9.8×10Pa以上、9.8×10Pa未満に設定し、
前記カラム充填剤は、有機合成高分子からなる架橋重合体粒子の表面部分に、有機合成高分子からなるカチオン交換基を有する親水性重合体の層が形成された重合体粒子からなり、かつ、
前記親水性重合体の層は、カチオン交換基及び重合性二重結合を有する単量体に由来するセグメントと、下記式(1)に示す官能基及び重合性二重結合を有する単量体に由来するセグメントとを有する共重合体からなる
ことを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
【化1】

式(1)中、xは1〜10の整数であり、yは1〜30の整数であり、Rは水素原子、メチル基、又は、エチル基を表す。
【請求項2】
カチオン交換基を有する単量体、並びに、式(1)に示す官能基及び重合性二重結合を有する単量体は、アクリル系単量体であることを特徴とする請求項1記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項3】
カラム充填剤の平均粒子径が3〜40μmであることを特徴とする請求項1又は2記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項4】
溶離液の流速が0.1〜2.5mL/分であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のヘモグロビン類の測定方法。
【請求項5】
カラムの長さが1〜100mm、カラムの内径が0.5〜10mmであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のヘモグロビン類の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−73184(P2012−73184A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219701(P2010−219701)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)