説明

ヘモグロビン類分離用カラム充填剤、ヘモグロビンA1cの測定方法、ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法、並びに、ヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法

【課題】ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を向上させることのできるヘモグロビン分離用カラム充填剤を提供する。また、該ヘモグロビン分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1cの測定方法、並びに、該ヘモグロビン分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法を提供する。更に、該ヘモグロビン分離用カラム充填剤の製造方法を提供する。
【解決手段】非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子と、前記架橋重合体粒子の表面に形成したカチオン交換基を有するアクリル系重合体層とからなるヘモグロビン分離用カラム充填剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビン類分離用カラム充填剤及び該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法に関する。また、本発明は、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1cの測定方法、並びに、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査の分野においては、糖尿病診断の指標としてヘモグロビンA1cの測定が汎用的に行なわれている。ヘモグロビンA1cは、液体クロマトグラフィー(以下、HPLCともいう)、免疫法、酵素法等により測定されているが、なかでもHPLCは精度が良く、短時間に測定できるため、特に糖尿病患者のヘモグロビンA1c値の管理に用いられている。
【0003】
HPLCでヘモグロビンA1cを測定する際、ヘモグロビンA1cを短時間かつ高精度に測定でき、しかもカラム耐久性を高くする(カラム寿命を長くする)ために、カラム充填剤に必要な要件の1つは、測定対象試料中の成分の非特異吸着が生じ難いことである。カラム充填剤に試料中の成分が非特異吸着すると、得られるクロマトグラムが変形してヘモグロビンA1c値の測定精度が低下する。その結果、カラム耐久性が低くなり、カラム寿命が短くなる。
【0004】
このような非特異吸着を抑制する方法としては、カラム充填剤に用いられる重合体粒子を親水性材料により調製する方法が考えられる。しかしながら、重合体粒子を親水性にするほど、カラム充填剤の耐圧性、耐膨潤性が低下するため、迅速な分析がし難くなる。
カラム充填剤の耐圧性等を低下させずにカラム充填剤を親水化させる手段として、耐圧性に優れた重合体粒子の表面を親水性高分子で被覆し、カラム充填剤を二層構造とする方法が公知である。例えば、特許文献1には、重合体粒子の表面を親水性高分子であるポリビニルアルコールで被覆し、重合体粒子表面にイオン交換基を導入したカラム充填剤が開示されている。しかしながら、このような親水性高分子の被覆は、高分子鎖の疎水性に依存した物理的な吸着によるものであるため、多数の試料を測定する場合には、測定を繰り返すことで被覆した親水性高分子が剥離し、測定精度が低下する可能性が大きい。
【0005】
また、より強固に親水性高分子を架橋重合体粒子の表面に被覆して二層構造とする方法としては、架橋重合体粒子の表面で親水性単量体を重合させることにより、架橋重合体粒子の表面を親水性高分子で被覆する方法が挙げられる。特許文献2には、架橋重合体粒子の表面に親水性重合体の層を形成する方法が開示されており、親水性重合体として、カチオン交換性重合体を用いることにより、ヘモグロビンA1cを高精度に分離することができるカラム充填剤が得られるとしている。しかしながら、測定のより高速化、高精度化が要望される最近では、特許文献2のカラム充填剤でも分離性能が不充分なことが多い。また、特許文献2では、架橋重合体粒子を調製する際に、架橋性単量体を多く含む単量体混合物を重合して調製するため、未反応の不飽和二重結合が多く残存する。この二重結合は疎水性が強いため、非特異吸着を起こしやすいという問題がある。
【0006】
臨床検査の現場においては、ヘモグロビンA1c等のヘモグロビン類を、短時間で高精度に測定したいという強い要望があり、HPLCに用いられるカラム充填剤に対しては、より高い分離性能が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−183460号公報
【特許文献2】特開平03−73848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を向上させることのできるヘモグロビン類分離用カラム充填剤を提供することを目的とする。また、本発明は、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1cの測定方法、並びに、ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子と、上記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる、カチオン交換基を有するアクリル系重合体層とからなるヘモグロビン類分離用カラム充填剤である。
また、上記ヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA1cの測定方法、又は、ヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法も本発明の1つである。
更に、非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して架橋重合体粒子を形成する工程1、及び、上記架橋重合体粒子と、カチオン交換基を有するアクリル系単量体を重合開始剤の存在下で重合し、上記架橋重合体粒子の表面にカチオン交換基を有するアクリル系重合体層を形成する工程2を有するヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法も本発明の1つである。
加えて、非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して架橋重合体粒子を形成する工程1、及び、上記架橋重合体粒子と、カチオン交換基に変換可能な官能基を有するアクリル系単量体とを重合開始剤の存在下で重合し、上記架橋重合体粒子の表面にカチオン交換基に変換可能な官能基を有するアクリル系重合体層を形成させ、上記カチオン交換基に変換可能な官能基をカチオン交換基に変換する工程2を有するヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法も本発明の1つである。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤は、非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子を基材とする。
なお、本明細書において「アクリル系」とは、アクリル基又はメタクリル基を有することを意味する。また、本明細書において「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸又はメタクリル酸」であることを示す。
【0011】
上記非架橋性の親水性アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル類、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、水酸基又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸アルキル類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。
上記ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリ(エチレングリコール・プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール・テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記水酸基又はグリシジル基を有する(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの非架橋性の親水性アクリル系単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
また、上記非架橋性の親水性アクリル系単量体は、イオン交換基を有さない構造であることが好ましい。
【0012】
上記単量体混合物を100重量%とした場合の上記非架橋性の親水性アクリル系単量体の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は20重量%、好ましい上限は80重量%である。非架橋性の親水性アクリル系単量体の含有量が20重量%未満であると、後述するカチオン交換基を有するアクリル系重合体の重合率が低下し、ヘモグロビン類の正確な測定ができなくなることがある。非架橋性の親水性アクリル系単量体の含有量が80重量%を超えると、後述するポリグリシジルエーテル類の架橋剤としての効果が充分に発揮されないことがある。上記非架橋性の親水性アクリル系単量体の含有量のより好ましい下限は25重量%、より好ましい上限は75重量%である。
【0013】
上記ポリグリシジルエーテル類は、架橋剤としての役割を有する。上記非架橋性の親水性アクリル系単量体と上記ポリグリシジルエーテル類とを用いて、基材となる架橋重合体粒子を作製することにより、未反応の不飽和二重結合が残存することによる非特異吸着を抑制することができ、長期間に亘って高い精度の分離性能を維持できる。
上記ポリグリシジルエーテル類は、1分子内にグリシジル基を複数有するものであり、具体的には例えば、ジグリシジルエーテル類、トリグリシジルエーテル類等が挙げられる。また、上記ポリグリシジルエーテル類としては、親水性が大きく、かつ、イオン交換基を有さないことが好ましい。
上記ジグリシジルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、グリセリン−エピクロルヒドリンジグリシジルエーテル、エチレングリコール−エピクロルヒドリンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
上記トリグリシジルエーテル類としては、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセリン−エピクロルヒドリントリグリシジルエーテル、エチレングリコール−エピクロルヒドリントリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0014】
上記単量体混合物を100重量%とした場合の上記ポリグリシジルエーテル類の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は20重量%、好ましい上限は80重量%である。ポリグリシジルエーテル類の含有量が20重量%未満であると、ポリグリシジルエーテル類の架橋剤としての効果が充分に発揮されないことがある。ポリグリシジルエーテル類の含有量が80重量%を超えると、上記非架橋性の親水性アクリル系単量体の含有量が低下することにより、後述するカチオン交換基を有するアクリル系重合体の重合率が低下し、ヘモグロビン類の正確な測定ができなくなることがある。上記ポリグリシジルエーテル類の含有量のより好ましい下限は25重量%、より好ましい上限は75重量%である。
【0015】
上記単量体混合物は、上記非架橋性の親水性アクリル系単量体及び上記ポリグリシジルエーテル類に加えて、必要に応じて、架橋性のアクリル系単量体を少量添加することもできる。上記架橋性のアクリル系単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類、分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリル基を有するアルキロールアルカン(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)−ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールポリエチレングリコール−ジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ヒドロキシアルキルジ(メタ)アクリレート類としては、例えば、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1−(メタ)アクリロキシ−3−(メタ)アクリロキシプロパン、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールアクリレートメタクリレート、ウレタン(メタ)ジアクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,10−ジ(メタ)アクリロキシ−5−メチル−4,7−ジオキサデカン−2,9−ジオール、1,11−ジ(メタ)アクリロキシ−4,8−ジオキサウンデガン−2,6,10−トリオール等が挙げられる。
上記分子内に少なくとも2個の(メタ)アクリル基を有するアルキロールアルカン(メタ)アクリレート類としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの架橋性のアクリル系単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
また、上記架橋性のアクリル系単量体は、イオン交換基を有さない構造であることが好ましい。
【0016】
上記単量体混合物を100重量%とした場合の上記架橋性のアクリル系単量体の含有量の好ましい上限は30重量%である。架橋性のアクリル系単量体の含有量が30重量%を超えると、得られる架橋重合体粒子に上記架橋性のアクリル系単量体の有する二重結合が残存し、この二重結合が有する疎水性により非特異吸着が誘発される。上記架橋性のアクリル系単量体の含有量のより好ましい上限は20重量%である。
【0017】
上記架橋重合体粒子の形状は特に限定されないが、球状であることが好ましく、真球状であることがより好ましい。
上記架橋重合体粒子の粒子径は特に限定されないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は50μmである。架橋重合体粒子の粒子径が0.1μm未満であると、溶離液をカラムに流すために必要となる圧力が増大し、HPLCの装置に耐圧性付与のための特殊な部品等が必要となる。架橋重合体粒子の粒子径が50μmを超えると、カラム内の空隙率が増大し、試料が拡散しやすくなり、ピークのブロード化等により測定精度が低下する場合がある。上記架橋重合体粒子の粒子径のより好ましい下限は0.5μm、より好ましい上限は30μmである。
【0018】
本発明のヘモグロビン分離用カラム充填剤は、上記単量体混合物より調製された架橋重合体粒子と、上記架橋重合体粒子の表面に形成した、カチオン交換基を有するアクリル系重合体(以下、単にカチオン交換性重合体ともいう)層により構成される。
上記カチオン交換性重合体の有する「カチオン交換基」とは、公知のカチオン交換性を有する官能基を指し、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられ、特にスルホン酸基が好ましい。
なお、本発明でいうカチオン交換基は、カチオン交換基に付随する構造は問わず、上記カチオン交換基を末端に有する全ての官能基を含む。例えば、本発明でいう「カルボキシル基」とは、カルボキシルエチル基、カルボキシルプロピル基等、カルボキシル基が結合する官能基類全てを含む。
また、上記カチオン交換性重合体は、複数種のイオン交換基を有していてもよい。
【0019】
上記カチオン交換性重合体は、(1)カチオン交換基を有するアクリル系単量体を重合して得られた重合体、又は、(2)カチオン交換基に変換可能な官能基を有するアクリル系単量体を重合し、後に当該官能基をカチオン交換基に変換して得られる重合体である。
【0020】
上記(1)のカチオン交換性重合体を構成する「カチオン交換基を有するアクリル系単量体」としては、カチオン交換基、即ち、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等の上記カチオン交換基を有するアクリル系単量体類が挙げられる。
【0021】
上記カルボキシル基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類が挙げられる。
【0022】
上記リン酸基を有するアクリル系単量体としては、例えば、((メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アシッドホスフェート等の(メタ)アクリル酸誘導体類等が挙げられる。
【0023】
上記スルホン酸基を有するアクリル系単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸等の(メタ)アクリル酸誘導体類等が挙げられる。
【0024】
一方、上記(2)のカチオン交換性重合体を構成する、「カチオン交換基に変換可能な官能基を有するアクリル系単量体」とは、化学反応等によりカチオン交換基に変換可能な官能基、又は、後述するカチオン交換基を有する化合物と反応可能な官能基(以下、反応性官能基ともいう)を有するアクリル系単量体である。
ここでいう反応性官能基とは、非イオン交換性であり、かつ、後述するカチオン交換基を有する化合物と反応することができる官能基であり、例えば、水酸基、グリコール基、エポキシ基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基、シアノ基、アルデヒド基等が挙げられ、好ましくは水酸基、エポキシ基、グリシジル基、1級アミノ基、2級アミノ基であり、より好ましくは、水酸基、エポキシ基、グリシジル基である。
【0025】
上記反応性官能基を有するアクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、例えば、エポキシ化(メタ)アクリレート類、ヒドロキシル化(メタ)アクリレート類、アミノ化(メタ)アクリレート類、アルデヒド化(メタ)アクリレート類、シアノ化(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
上記エポキシ化(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記ヒドロキシル化(メタ)アクリレート類としては、例えば、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシルプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記アミノ化(メタ)アクリレート類としては、例えば、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
上記アルデヒド化(メタ)アクリレート類としては、例えば、(メタ)アクロレイン等が挙げられる。
上記シアノ化(メタ)アクリレート類としては、例えば、シアノ(メタ)アクリレート、エチル−2−シアノアクリレート等が挙げられる。
これらの反応性官能基を有する単量体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0026】
上記(2)のカチオン交換性重合体を調製するためのカチオン交換基への変換は、上記反応性官能基を有するアクリル系単量体を重合して得られた、反応性官能基を有するアクリル系重合体の当該反応性官能基に、カチオン交換基を有する化合物を反応させることにより行われる。
【0027】
上記反応性官能基を有するアクリル系重合体に、カチオン交換基を導入する方法としては、公知の化学反応による技術を用いることができる。下記に例示する方法は全て公知の化学反応であり、上記架橋重合体粒子や上記反応性官能基を有するアクリル系重合体層の分解等の反応を伴わない条件であれば、公知の反応を限定なく用いることができる。
【0028】
上記反応性官能基を有するアクリル系重合体が有する水酸基を介して、カチオン交換基を導入する場合、例えば、ブロムエタンスルホン酸ナトリウム等のハロゲン化エタンスルホン酸類やクロロ酢酸ナトリウム等のハロゲン化酢酸類を、カチオン交換基を有する化合物として用い、これらの化合物を水酸化アルカリ水溶液中で反応させることにより、上記アクリル系重合体にカチオン交換基を導入することができる。
また、カチオン交換基を有するアルデヒド化合物を、酸触媒下にてアセタール反応により水酸基と反応させることにより、同様にカチオン交換基を導入することができる。
更に、例えば、トリカルバニル酸、ブタンテトラカルボン酸等の多官能カルボン酸化合物と水酸基の脱水反応によるエステル化により、カルボキシル基を導入することができる。
加えて、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン等を水酸化アルカリ水溶液中又は水酸化アルカリの有機溶媒溶液中で反応させることによってもスルホン酸基を導入することができる。
【0029】
また、エポキシ基、グリシジル基、又は、アミノ基を介してカチオン交換基を導入する場合、例えば、反応性官能基を有するアクリル系重合体に、エピクロルヒドリンやトリグリシジルエーテルのようなエポキシ化合物を水酸化アルカリ水溶液中又は水酸化アルカリの有機溶媒溶液中で反応させてエポキシ化した後、硫酸ナトリウムやタウリン、グリコール酸等のカチオン交換基含有化合物を反応させる方法、三フッ化ホウ素エーテラートを結合した後、亜硫酸ナトリウム水溶液中で加熱処理する方法等が挙げられる。上記反応性官能基がエポキシ基やグリシジル基の場合には、そのまま上記処理に供してもよい。
【0030】
本発明のヘモグロビン分離用カラム充填剤は、上記非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して得られた架橋重合体粒子、及び、重合開始剤の存在下において、上記カチオン交換基を有するアクリル系単量体を重合し、上記架橋重合体粒子の表面にカチオン交換性重合体層を形成させることにより得ることができる。このような製造方法もまた、本発明の一つである。
【0031】
本発明のヘモグロビン分離用カラム充填剤の製造方法においては、まず、架橋重合体粒子を調製する。この架橋重合体粒子は、上記非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を用いて、重合開始剤の存在下で重合反応を行うことにより調製される。上記重合反応の方法としては、例えば、乳化重合法、ソープフリー重合法、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法等の公知の重合反応を適用することができる。なかでも、分散重合法、懸濁重合法、シード重合法等を用いることが好適である。
具体的には例えば、懸濁重合法の場合、上記単量体混合物に重合開始剤を溶解し、適当な分散媒中に分散させた後、必要に応じて窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下にて攪拌しながら加温することにより、カラム充填剤として適当な、真球状の架橋重合体粒子を得ることができる。
【0032】
上記重合開始剤としては、水溶性又は油溶性の公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過硫酸塩としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
上記有機過酸化物としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
上記アゾ化合物としては、例えば、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等が挙げられる。
【0033】
上記単量体混合物100重量部に対する上記重合開始剤の配合量の好ましい下限は0.05重量部、好ましい上限は5重量部である。重合開始剤の配合量が0.05重量部未満であると、重合反応が不充分となったり、重合反応に長時間要したりすることがある。重合開始剤の配合量が5重量部を超えると、急激な反応の進行により凝集物が発生することがある。
なお、上記重合開始剤は、上記単量体混合物に溶解させて用いることが好ましい。
【0034】
また、重合に際しては、公知の重合方法において用いられる各種の添加剤等を添加してもよい。
上記添加剤としては、例えば、架橋重合体粒子にマクロポアを形成するための多孔質化剤、重合反応を制御するための各種連鎖移動剤、懸濁粒子を安定化されるための分散剤等が挙げられる。
【0035】
具体的には例えば、多孔質化剤として上記単量体混合物を溶解するが重合体を溶解しない有機溶媒を上記単量体混合物に添加して重合反応を行い、重合反応後に上記多孔質剤を除去することにより、得られる架橋重合体粒子にマクロポアを形成することができる。このような有機溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素類、飽和炭化水素類、アルコール類等が挙げられる。
上記芳香族炭化水素類としては、例えば、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、ドデシルベンゼン等が挙げられる。
上記飽和炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等が挙げられる。
上記アルコール類としては、例えば、イソアミルアルコール、オクチルアルコール等のアルコール等が挙げられる。
上記単量体混合物100重量部に対する上記多孔質化剤の配合量の好ましい上限は100重量部である。
【0036】
本発明のヘモグロビン分離用カラム充填剤の製造方法における次の工程は、得られた上記架橋重合体粒子の表面において上記カチオン交換基を有するアクリル系単量体を重合する工程である。本工程は、上記カチオン交換基を有するアクリル系単量体を、上記架橋重合体粒子、及び、上記重合開始剤の存在下で重合反応を行うことにより、上記架橋重合体粒子表面での重合反応が行われる。上記架橋重合体粒子の表面以外の部分で行われた反応、即ち、上記カチオン交換基を有するアクリル系単量体のみからなる重合体粒子は、重合反応後に洗浄することで除去される。
【0037】
上記架橋重合体粒子の表面で効率よく上記カチオン交換基を有するアクリル系単量体を重合させるには、上記架橋重合体粒子内に上記重合開始剤を含有させた状態で、上記カチオン交換基を有するアクリル系単量体を重合する方法を用いることが好ましい。上記架橋重合体粒子に上記重合開始剤を含有させる方法としては、例えば、上記架橋重合体粒子を膨潤させることができ、かつ、上記重合開始剤を溶解できる有機溶媒に上記重合開始剤を溶解し、更に、上記架橋重合体粒子をこの有機溶媒に含浸させる方法が挙げられる。この方法により上記重合開始剤を上記架橋重合体粒子の内部に含有させることができる。上記重合開始剤を含有する架橋重合体粒子を、上述した適当な分散媒中に分散し、上記カチオン交換基を有する単量体を添加して重合反応を行う。
【0038】
また、上記架橋重合体粒子を調製する際の重合反応において、この重合反応が完了する前、即ち、上記重合開始剤が完全に消費される前に、上記カチオン交換基を有するアクリル系単量体を反応系に添加することで、最初に添加した重合開始剤を利用して、上記架橋重合体粒子の表面に効率よくカチオン交換基を有する単量体を重合させることができる。
【0039】
また、本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤は、上記非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して得られた架橋重合体粒子、及び、上記重合開始剤の存在下において、上記反応性官能基を有するアクリル系単量体を重合し、上記架橋重合体粒子の表面に、反応性官能基を有するアクリル系重合体層を形成させ、更にこの反応性官能基に上記カチオン交換基を有する化合物を反応させて、上記反応性官能基を有するアクリル系重合体をカチオン交換性重合体に変換することにより得ることができる。このような製造方法もまた、本発明の一つである。
【0040】
反応性官能基を有する単量体を用いた場合の本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法も、上述したカチオン交換基を有する単量体を用いた場合と同様に行うことができる。即ち、上記反応性官能基を有するアクリル系重合体層を、上記架橋重合体粒子の表面に形成させた後、上述した方法によりカチオン交換性重合体に変換する。
【0041】
本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いた液体クロマトグラフィー(HPLC)により、ヘモグロビンA1c等の種々の蛋白質等の試料を測定することができる。本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたHPLCによるヘモグロビンA1cの測定方法もまた、本発明の一つである。
本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いてHPLCによりヘモグロビンA1c等のヘモグロビン類の測定を行なう場合には、溶離液送液用のポンプ、サンプラ、検出器等を備えた公知のHPLCシステムに、本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を充填したカラムを接続し、血液試料中のヘモグロビン類の測定を行なうことができる。
【0042】
本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたHPLCに用いられる溶離液としては、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、有機酸、無機酸、及び、これらの塩類、アミノ酸類、グッドの緩衝液等が挙げられる。
上記有機酸としては、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。
上記無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等が挙げられる。
上記アミノ酸類としては、例えば、グリシン、タウリン、アルギニン等が挙げられる。
また、上記緩衝液には、他に一般に添加される物質、例えば、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物等を適宜添加してもよい。
ヘモグロビンA1cの測定を行う際の上記緩衝液の塩濃度の好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は1000mmol/Lである。上記緩衝液の塩濃度が10mmol/L未満であると、イオン交換反応が行なわれず、ヘモグロビンを分離することができなくなることがある。上記緩衝液の塩濃度が1000mmol/Lを超えると、塩が析出しシステムに悪影響を及ぼすことがある。
【0043】
本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用い、HPLCにより、上記ヘモグロビンA1cに加えて、異常ヘモグロビン類を測定することができる。
このような測定方法もまた、本発明の一つである。
本発明の測定方法により測定できる異常ヘモグロビン類としては、例えば、ヘモグロビンS、ヘモグロビンC等が挙げられる。また、ヘモグロビンF(胎児性ヘモグロビン)やヘモグロビンA2を測定することもできる。
【発明の効果】
【0044】
本発明のヘモグロビン類分離用カラム充填剤は、非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を素材とした架橋重合体粒子と、その表面に形成したカチオン交換性アクリル系重合体層により構成される。架橋重合体粒子内にポリグリシジルエーテル類を有することにより、非特異吸着が抑制され、従来のカラム充填剤を用いた測定よりも短時間での高分離性能が得られ、その結果、高精度な測定及びカラム耐久性能の向上が図られる。特にヘモグロビンA1cの測定において、高精度測定及びカラム耐久性の向上が達成される。
つまり、本発明によれば、ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を向上させることのできるヘモグロビン類分離用カラム充填剤を提供することができる。また、本発明によれば、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1cの測定方法、並びに、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法を提供することができる。更に、本発明によれば、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1のカラム充填剤を用いてヘモグロビンA1cの測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図2】比較例2のカラム充填剤を用いてヘモグロビンA1cの測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図3】実施例1のカラム充填剤を用いて異常ヘモグロビン類の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図4】実施例1のカラム充填剤を用いてヘモグロビンA2の測定を行なった際に得られたクロマトグラムである。
【図5】実施例1、2、及び、比較例1のカラム充填剤の耐久性評価の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
(実施例1)
非架橋性の親水性アクリル系単量体としてテトラエチレングリコールモノメタクリレート(日油社製)200g、及び、ポリグリシジルエーテル類としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(日油社製)200gを混合した単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(ナカライテスク社製)1.0gを溶解した。得られた混合物を、4重量%のポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製、「ゴーセノールGH−20」)水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、1時間重合反応を行なった。温度を30℃に冷却した後、カチオン交換基を有するアクリル系単量体として2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成社製)100gを反応系に添加し、再び80℃に加温して1時間重合反応を行なった。得られた架橋重合体粒子をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、スルホン酸基が導入された架橋重合体粒子(ヘモグロビン分離用カラム充填剤)を得た。
得られたヘモグロビン分離用カラム充填剤を、内径3mm、長さ30mmのステンレス製カラムに充填し、ヘモグロビン分離用カラムを調製した。
【0047】
上記ヘモグロビン分離用カラムを、HPLCシステム(島津製作所社製、「LC−10A」)に接続した。測定試料として、フッ化ナトリウム採血したヒト健常人血液を、0.05%のTritonX−100(Sigma−Aldrich社製)を含むリン酸緩衝液(pH6.8)により200倍に溶血希釈したものを用いた。溶離液Aとして200mmol/Lのリン酸緩衝液(pH5.3)、及び、溶離液Bとして400mmol/Lのリン酸緩衝液(pH7.5)の2種の溶離液を用い、流速1.0mLで送液して溶離液Aから溶離液Bへのステップワイズグラジエント法により分離し、415nmの吸光度を測定した結果、図1のクロマトグラムを得た。図1中、ピーク1がヘモグロビンA1c、ピーク2がヘモグロビンA0である。ヘモグロビンA1cと他のヘモグロビン分画とが短時間内に良好に分離された。
【0048】
(実施例2)
非架橋性の親水性アクリル系単量体としてテトラエチレングリコールモノメタクリレート160g、及び、ポリグリシジルエーテル類としてグリセリンジグリシジルエーテル(日油社製)240gを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い、ヘモグロビン分離用カラムを調製した。
実施例1と同様の方法により、ヒト健常人血液を用いて測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0049】
(実施例3)
非架橋性の親水性アクリル系単量体としてトリエチレングリコールモノメタクリレート(日油社製)120g、及び、ポリグリシジルエーテル類としてトリメチロールプロパンジグリシジルエーテル(日油社製)280gを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い、ヘモグロビン分離用カラムを調製した。
実施例1と同様の方法により、ヒト健常人血液を用いて測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0050】
(実施例4)
非架橋性の親水性アクリル系単量体としてトリエチレングリコールモノメタクリレート240g、及び、ポリグリシジルエーテル類としてグリセリントリグリシジルエーテル(日油社製)160gを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い、ヘモグロビン分離用カラムを調製した。
実施例1と同様の方法により、ヒト健常人血液を用いて測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0051】
(実施例5)
非架橋性の親水性アクリル系単量体としてトリエチレングリコールモノメタクリレート280g、及び、ポリグリシジルエーテル類としてトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(日油社製)120gを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い、ヘモグロビン分離用カラムを調製した。
実施例1と同様の方法により、ヒト健常人血液を用いて測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0052】
(実施例6)
非架橋性の親水性アクリル系単量体としてトリエチレングリコールモノメタクリレート120g、架橋性のアクリル系単量体としてテトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)80g、及び、ポリグリシジルエーテル類としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル200gを用いた以外は、実施例1と同様に操作を行い、ヘモグロビン分離用カラムを調製した。
実施例1と同様の方法により、ヒト健常人血液を用いて測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0053】
(実施例7)
非架橋性の親水性アクリル系単量体としてテトラエチレングリコールモノメタクリレート200g、及び、ポリグリシジルエーテル類としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル200gを混合した単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(ナカライテスク社製)1.0gを溶解した。得られた混合物を、4重量%のポリビニルアルコール(日本合成化学工業社製、「ゴーセノールGH−20」)水溶液5Lに分散させ、攪拌しながら窒素雰囲気下で80℃に加温し、1時間重合反応を行なった。温度を30℃に冷却した後、イオン交換基に変換可能な官能基を有するアクリル系単量体として2,3−ジヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート(和光純薬工業社製)100gを反応系に添加し、再び80℃に加温して1時間重合反応を行なった。得られた架橋重合体粒子をイオン交換水及びアセトンで洗浄することにより、カチオン交換基に変換可能な水酸基が導入された架橋重合体粒子を得た。
得られた架橋重合体粒子50gを、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液100mLに分散させ、室温で40gのエピクロルヒドリンを添加し、5時間反応させた。得られたエポキシ化重合体粒子40gを20重量%の硫酸ナトリウム水溶液に分散させ、80℃で20時間反応させた。得られた反応物をイオン交換水で洗浄し、スルホン酸基が導入された架橋重合体粒子(ヘモグロビン分離用カラム充填剤)を得た。
得られたヘモグロビン分離用カラム充填剤を、内径3mm、長さ30mmのステンレス製カラムに充填し、ヘモグロビン類分離用カラムを調製した。
実施例1と同様の方法により、ヒト健常人血液を用いて測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0054】
(比較例1)
本比較例では、ポリグリシジルエーテル類を用いずに、架橋性のアクリル系単量体を用いて架橋重合体粒子を調製した例を示す。
非架橋性の親水性アクリル系単量体としてテトラエチレングリコールモノメタクリレート200g、及び、架橋性のアクリル系単量体としてテトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業社製)200gを混合した単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(ナカライテスク社製)1.0gを溶解した。得られた混合物を、実施例1と同様に処理して、ヘモグロビン分離用カラムを調製した。
実施例1と同様の方法により、ヒト健常人血液を用いて測定したところ、図1と同様のクロマトグラムを得た。
【0055】
(比較例2)
本比較例では、非架橋性の親水性アクリル系単量体を用いずに、架橋重合体粒子を調製した例を示す。
スチレン(キシダ化学社製)200g、及び、ポリグリシジルエーテル類としてポリエチレングリコールジグリシジルエーテル200gを混合した単量体混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル(ナカライテスク社製)1.0gを溶解した。得られた混合物を、実施例1と同様に処理して、ヘモグロビン分離用カラムを調製した。
実施例1と同様の方法により、ヒト健常人血液を用いて測定したところ、図2のクロマトグラムを得た。図2中、ピーク1がヘモグロビンA1c、ピーク2がヘモグロビンA0である。実施例1のカラム充填剤により得られたクロマトグラム(図1)よりも測定時間を延長したにも関わらず、ヘモグロビンA1cの分離が不良であった。
【0056】
更に、実施例及び比較例で得られたヘモグロビン類分離用カラムを用いて、以下の評価を行った。
【0057】
(1)回収率試験
実施例及び比較例で調製したヘモグロビン類分離用カラムを用いて、回収率試験を実施した。回収率は、カラムの代わりに内径0.25mm、長さ1000mmのPEEK製配管をHPLCに取り付け、実施例及び比較例で用いた試料を測定したときのピーク総面積に対する調製したヘモグロビン類分離用カラムを取り付けて測定したときのピーク総面積の比率(%)により求めた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例で調製したヘモグロビン類分離用カラムにおいては、ほぼ100%の回収率が得られた。
一方、比較例1で調製したヘモグロビン類分離用カラムでは回収率が約85%、比較例2のカラムでは25%と低かった。これは、測定対象であるヘモグロビンがカラム充填剤に非特異的に吸着して溶出してこなかったためであると考えられる。
【0060】
(2)修飾ヘモグロビン類の分離性能評価
実施例に用いたヒト健常人血液の代わりに、修飾ヘモグロビン類を含む試料を人為的に調製して測定し、そのヘモグロビンA1cピークとの分離性能を評価した。
修飾ヘモグロビン類を含む試料としては、レイバイルヘモグロビンA1c含有試料(試料L)、アセチル化ヘモグロビン含有試料(試料A)、カルバミル化ヘモグロビン含有試料(試料C)の3種類を、公知の方法により調製した。
即ち、試料Lは、ヒト健常人血液に、グルコースを2000mg/dLとなるように添加し、37℃で3時間加温することにより調製した。試料Aは、ヒト健常人血液に、アセトアルデヒドを50mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温することにより調製した。試料Cは、ヒト健常人血液に、シアン酸ナトリウムを50mg/dLとなるように添加し、37℃で2時間加温することにより調製した。
得られた修飾ヘモグロビン類を含む試料(試料L、試料A、試料C)と、修飾ヘモグロビン類を含む試料の調製に用いたヒト健常人血液(非修飾品)とを、実施例及び比較例で調製したヘモグロビン類分離用カラムを用いて測定し、ヘモグロビンA1cの測定値を比較した。分離性能は、修飾ヘモグロビン類を含む試料のヘモグロビンA1c値から非修飾品のヘモグロビンA1c値を差し引いた値(Δ値)を算出して比較することにより評価した。結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示した実施例のΔ値は0.2%以下であり、修飾ヘモグロビン類が含まれる試料においても、正確にヘモグロビンA1cが測定できることがわかる。一方、比較例1のヘモグロビン類分離用カラムを用いた場合では、修飾ヘモグロビンが存在すると、ヘモグロビンA1c値が大きく変動し、ヘモグロビンA1c値を正確に測定することができなかった。また、比較例2のヘモグロビン類分離用カラムでは、ヘモグロビン類のピークが検出されなかったため、Δ値は算出できなかった。
【0063】
(3)異常ヘモグロビン類の分離性能評価
実施例及び比較例で調製したヘモグロビン類分離用カラムを用いて、異常ヘモグロビンとしてヘモグロビンS及びヘモグロビンCを含む試料(ヘレナ研究所社製、「AFSCヘモコントロール」)の測定を行った。
実施例1のヘモグロビン類分離用カラムを用いて測定した結果、得られたクロマトグラムを図3に示す。図3中、ピーク1はヘモグロビンA1c、ピーク2はヘモグロビンA0、ピーク3はヘモグロビンF(胎児性Hb)、ピーク4はヘモグロビンS、ピーク5はヘモグロビンCを示す。実施例1のヘモグロビン類分離用カラムにおいては、異常ヘモグロビン類であるヘモグロビンS及びヘモグロビンCを良好に分離することができた。他の実施例のカラム充填剤を用いた場合でも、ほぼ同様の分離性能を示した。
一方、比較例のヘモグロビン類分離用カラムを用いて測定した場合、異常ヘモグロビン類であるヘモグロビンS及びヘモグロビンCを分離することはできなかった。
【0064】
(4)ヘモグロビンA2の分離性能評価
実施例及び比較例で調製したヘモグロビン類分離用カラムを用いて、ヘモグロビンA2を含む試料として、A2コントロール(レベル2)(バイオラッド社製)を測定した。
実施例1のカラム充填剤を用いて測定して得られたクロマトグラムを図4に示す。図4中、ピーク1はヘモグロビンA1c、ピーク2はヘモグロビンA0、ピーク3はヘモグロビンF(胎児性Hb)、ピーク6はヘモグロビンA2を示す。実施例1のヘモグロビン類分離用カラムにおいて、ヘモグロビンA2を良好に分離することができた。他の実施例のカラム充填剤を用いた場合でも、ほぼ同様の分離性能を示した。
一方、比較例のカラム充填剤を用いて測定した場合、ヘモグロビンA2を分離することはできなかった。
【0065】
(5)カラム耐久性の評価
実施例1、2及び比較例1で調製したヘモグロビン類分離用カラムを用いて、同一のヒト健常人血液試料を連続測定し、ヘモグロビンA1c値の推移を確認した。結果を図5に示す。
実施例1、2で調製したヘモグロビン類分離用カラムでは、3000回測定においても測定値が変化しなかったが、比較例1で調製したヘモグロビン類分離用カラムを用いた場合は、測定値が低下し、カラム寿命が短いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、ヘモグロビン類を短時間で高精度に測定することができ、かつ、カラム寿命を向上させることのできるヘモグロビン類分離用カラム充填剤を提供することができる。また、本発明によれば、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1cの測定方法、並びに、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いたヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法を提供することができる。更に、本発明によれば、該ヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 ヘモグロビンA1c
2 ヘモグロビンA0
3 ヘモグロビンF(胎児性Hb)
4 ヘモグロビンS
5 ヘモグロビンC
6 ヘモグロビンA2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して得られる架橋重合体粒子と、
前記架橋重合体粒子の表面において重合されてなる、カチオン交換基を有するアクリル系重合体層とからなる
ことを特徴とするヘモグロビン類分離用カラム充填剤。
【請求項2】
単量体混合物が、非架橋性の親水性アクリル系単量体を20〜80重量%、及び、ポリグリシジルエーテル類を80〜20重量%含有することを特徴とする請求項1記載のヘモグロビン類分離用カラム充填剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いることを特徴とする液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA1cの測定方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を用いることを特徴とする液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA1c及び異常ヘモグロビン類の測定方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を製造する方法であって、
非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して架橋重合体粒子を形成する工程1、及び、
前記架橋重合体粒子と、カチオン交換基を有するアクリル系単量体を重合開始剤の存在下で重合し、前記架橋重合体粒子の表面にカチオン交換基を有するアクリル系重合体層を形成する工程2を有する
ことを特徴とするヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載のヘモグロビン類分離用カラム充填剤を製造する方法であって、
非架橋性の親水性アクリル系単量体及びポリグリシジルエーテル類を含有する単量体混合物を重合して架橋重合体粒子を形成する工程1、及び、
前記架橋重合体粒子と、カチオン交換基に変換可能な官能基を有するアクリル系単量体とを重合開始剤の存在下で重合し、前記架橋重合体粒子の表面にカチオン交換基に変換可能な官能基を有するアクリル系重合体層を形成させ、前記カチオン交換基に変換可能な官能基をカチオン交換基に変換する工程2を有する
ことを特徴とするヘモグロビン類分離用カラム充填剤の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−47858(P2011−47858A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197972(P2009−197972)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】