説明

ヘルメット

【課題】省スペースで、ヘルメット使用時における作業を阻害することなく、優れた配光特性及び耐久性を有する照明手段を装着したヘルメットを提供する。
【解決手段】前方へ光を照射する照明手段10を装着したヘルメット1であって、LEDチップ12をガラス部材13で封止したLEDパッケージ11からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルメット、特に、省スペースで、ヘルメット使用時における作業を阻害することなく、配光特性及び耐久性に優れる照明手段を装着したヘルメットに関する。
【背景技術】
【0002】
夜間の作業や、暗所での作業では、照明手段を配したヘルメットが用いられる。その場合、ヘルメットにバンドで固定するタイプの懐中電灯(ヘッドランプ)等を装着した形で用いられることが一般的である。
【0003】
ただし、従来のヘッドランプを装着したヘルメットについては、装着したヘッドランプが外れるという問題や、ヘッドランプが大きいため作業に支障をきたすという問題があった。
【0004】
そのため、近年では、LEDを用いることによって、省スペース化が図られた照明手段が開発されている。
例えば特許文献1には、扇状に配列した複数のLEDを収納したLEDケースと、LEDケースのLED配列壁の外面に設けられたヒンジと、前記ヒンジにて連結される帽子のつばを狭持するためのクリップとからなるつば付帽子装着用ライトが開示されている。
また、特許文献2には、LEDと、該LEDを略人間の目の高さ付近に、頭部の移動に伴って光軸を変化させるよう人間の頭部に装着するための手段とを有することを特徴とする人間の頭部に装着する照明装置が開示されている。
【0005】
さらに、省スペース化が図られた照明手段を組み込んだヘルメットについても開発が行われている。
例えば特許文献3には、ヘルメット本体の前部にLED光源を一体に組み込み、前記ヘルメット本体の前部を除く部分に前記LED光源を点灯させる電池を一体に組み込むと共に、前記LED光源と電池を配線部で電気的に接続したことを特徴とするヘルメットが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−179897号公報
【特許文献2】実用新案登録第3084061号公報
【特許文献3】特開2006−97156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3の技術については、それらの図面(例えば、引用文献1の図1、引用文献2の図1、引用文献3の図4)より、用いられているLEDは、全て正面方向への光の照射を目的とした、いわゆる砲弾型タイプのLEDであり、光軸上の狭い範囲を照明するには適しているものの、広範囲に渡って光を照射する点(配光特性)について、必ずしも十分とは言えなかった。
そのため既存のLEDを用いた場合、樹脂流れを抑制するために所定の樹脂枠を設ける事が一般的で有り、この樹脂枠が小型化の妨げになるばかりでなく、光が遮られ十分な配光特性が得られないという問題があった。
さらに、消防用のヘルメット等の高温環境下で使用される場合、十分な耐久性が得られないおそれがあった。
【0008】
上記課題を鑑みて、本発明は、省スペースで、ヘルメット使用時における作業を阻害することなく、優れた配光特性及び耐久性を有する照明手段を装着したヘルメットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、照明手段を装着したヘルメットについて、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、照明手段として、LEDチップを従来の有機樹脂ではなく、ガラス部材で封止したLEDパッケージを用いることで、省スペース化を図れるとともに、従来のLED光源を用いた場合に比べて、耐久性のみならず、配光特性を格段に向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)前方へ光を照射する照明手段を装着したヘルメットであって、前記照明手段は、LEDチップをガラス部材で封止したLEDパッケージからなることを特徴とするヘルメット。
【0011】
(2)前記照明手段は、2つ以上設けられることを特徴とする上記(1)に記載のヘルメット。
【0012】
(3)前記照明手段は、ヘルメット本体と一体化されるか、又は、着脱可能な状態で装着されることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のヘルメット。
【0013】
(4)前記ヘルメット本体がつばを有し、前記照明手段は、該つばの先端部に設けられることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のヘルメット。
【0014】
(5)前記LEDパッケージは、ガラス部材に無機蛍光体を含有する事を特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載のヘルメット。
【0015】
(6)前記LEDパッケージの配線基板は、アルミナからなることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のヘルメット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、省スペースで、ヘルメット使用時における作業を阻害することなく、優れた配光特性及び耐久性を有する照明手段を装着したヘルメットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に従うヘルメットの一実施形態について模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明に従うヘルメットに用いられるLEDパッケージの一部を模式的に示した断面図である。
【図3】従来の照明手段を装着したヘルメットの実施形態について模式的に示した斜視図である。
【図4】本発明に従うヘルメットの別の実施形態について模式的に示した斜視図である。
【図5】実施例のヘルメットの配光性を表した図である。
【図6】比較例のヘルメットの配光性を表した図である。
【図7】実施例のヘルメットを暗所で使用した際の状況を示した写真である。
【図8】比較例のヘルメットを暗所で使用した際の状況を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明に従うヘルメットの一実施形態について、斜め上方から見た状態を模式的に示した図である。また、図2は、本発明に従うヘルメットに用いられるLEDパッケージの断面の一部を模式的に示した図である。
【0019】
本発明によるヘルメットは、図1に示すように、前方へ光を照射する照明手段10を装着したヘルメット1である。
そして、前記照明手段10は、図2に示すように、LEDチップ12をガラス部材13で封止したLEDパッケージ11からなることを特徴とする。
前記LEDパッケージ11は、複数のLEDチップ12を搭載した配線基板14を、軟化した板状のガラス部材13で一括封止した後、素子ごとに切断する事によって製造される。
【0020】
前記照明手段10として、上述のLEDパッケージ11を用いることで、従来のLEDパッケージを用いた場合よりも照明手段10の省スペース化に寄与することができ、さらに、ガラス部材13によってLEDチップ12を封止しているため、所定樹脂を用いて封止を行ったLEDチップの場合に比べて、広範囲に渡って光を照射することが可能になるとともに、全て無機部材で構成されているため、高温環境下における耐久性の向上が可能となる。
【0021】
一方、従来の照明手段付きヘルメットは、図3に示すように、市販のヘッドライト(照明手段300)をヘルメット本体200に装着したものである。そのため、装着手段300の省スペース化は図られておらず、ヘルメット本体200に固定もされていないため、作業の妨げとなるおそれがある。
また、照明手段300としてLEDパッケージを用いた場合には、省スペース化は図られるものの、LEDチップ12を樹脂部材によって封止しているため、所望の配光特性が得られず、高温環境下での耐久性に劣る。すなわち、LEDチップの封止を行う樹脂部材は、本発明に用いられるガラス部材に比べて耐久性が低く、高エネルギーのLEDチップを用いることに適さないことに加え、樹脂部材によるLEDチップの封止では樹脂流れを抑制するために所定の樹脂枠を設けることが一般的であり、この樹脂枠が小型化の妨げになるばかりでなく、光が遮られ、配向特性の低下を招く。
【0022】
また、前記照明手段10については、図1に示すように、2つ以上設けることが好ましい(図1では、2つの照明手段10a、10bが設けられている。)。一定の間隔を空けて複数の照明手段10a、10bを設けることで、より優れた配光特性が得られるからである。さらに、優れた配光特性と製造コストとのバランスの点から、前記照明手段10の数は、2〜4個設けられることがより好ましい。
【0023】
例えば、前記照明手段10が、図1に示すように、2つ設けられる場合には、各照明手段10a、10bは、作業員の両眼とほぼ同じ間隔で設けられることが好ましく、具体的には、50〜100mmの範囲であることが好ましい。間隔が50mm未満の場合、間隔が狭すぎるため、複数設けることによる配光特性の向上効果が低くなるおそれがあり、一方、間隔が100mmを超えると、間隔が空き過ぎるため所望の配光特性を得ることができなくおそれがあるからである。
【0024】
また、前記照明手段10については、ヘルメット本体20と一体化されるか、又は、着脱可能な状態で装着される。
ここで、前記ヘルメット本体20と一体化するとは、例えば図1に示すように、前記照明手段10がヘルメット本体20の中に組み込まれた状態で一体化している状態が挙げられる。また、前記ヘルメット本体20と着脱可能とは、例えば図4に示すように、前記照明手段10が支持部材17とともに固定手段16によってヘルメット本体20へと着脱可能に装着される状態が挙げられる。なお、固定手段16としては、クリップバネ、両面テープ等を用いることが好ましい。
前記照明手段10がヘルメット本体20と一体化される場合には、照明手段10の省スペース化の点でより高い効果が得られるという利点があり、前記照明手段10が支持部材17とともに固定手段16によってヘルメット本体20へと着脱可能に装着される場合には、種々のヘルメット本体20に対して、同じ照明手段10を装着することができるという利点がある。
【0025】
さらに、図1及び図4に示すように、前記ヘルメット本体20がつば21を有し、前記照明手段10は、つばの先端部21aに設けられることが好ましい。つばの先端部21aに前記照明手段10が位置することで、光の照射の障害がなく、より優れた配光特性を得ることができるためである。ここで、前記つばの先端部とは、図1のように前記照明手段10がヘルメット本体20と一体化される場合には、つばの先端位置のことをいい、図4のように前記照明手段10がヘルメット本体20と着脱可能な状態で装着される場合には、ヘルメット本体20のつばの先端21aと同程度に前方へ突出した位置のことをいう。
【0026】
なお、前記ヘルメット本体20の構成については、特に限定はされない。用途に基づいて、素材や形状等が適宜選択される。例えば、ヘルメット本体の材質については、FRP(繊維強化プラスチック)の他、種々の材質を用いることが可能である。また、形状については、つば付のヘルメットの他、つばのないヘルメット本体も用いることも可能である。
【0027】
本発明の照明手段10を構成するLEDパッケージ11については、図2に示すように、LEDチップ12と、該LEDチップ12を搭載する配線基板14と、該配線基板14に形成された配線15と、前記LEDチップ12を封止するガラス部材13とを備える。各部材の具体的な構成については、特に限定されず、例えば後述するような構成を有する。
【0028】
前記LEDチップ12については、例えば、結晶成長基板の表面に、窒化ガリウム系化合物半導体からなるバッファ層と、n型層と、発光層と、p型層とを有機金属気相成長法(MOVPE法)により順次積層して形成したものが挙げられる。
また、LEDチップ12の電極として、p型層の表面のほぼ全面に設けられるp側電極及びp側電極上の一部に設けられたp側パッド電極が形成されており、LEDチップの特定の領域をp型層からn型層までドライエッチングして露出させ、その底面のn型層にn側電極が形成されることが好ましい。
【0029】
なお、前記結晶成長基板については、サファイア(Al)、スピネル(MgAl)、窒化ガリウム(GaN)、炭化珪素(SiC)、酸化ガリウム(Ga)等が挙げられる。
また、前記p側電極は、p型層と同等の熱膨張率を有するITO(Indium−Tin−Oxide)からなることが好ましい。ITOは、窒化ガリウム半導体同等の熱膨張率(5×10−6/℃)と同等の熱膨張率であるため、LEDチップ12との熱膨張率差により生じるp側電極のLEDチップ12からの剥がれを抑制することができる。
さらに、前記n側電極は、バナジウム(V)/アルミニウム(Al)/金(Au)によって形成されることが好ましい。
【0030】
前記配線基板14は、膨張係数の点から、アルミナからなることが好ましい。
【0031】
前記配線基板14の配線15は、基板表面に形成されてLEDチップ12と電気的に接続される表面配線と、基板裏面に形成されて外部端子と接続可能な裏面配線とを有している。表面配線及び裏面配線は、LEDチップ12の電極形状に応じてパターン形成されたタングステン(W)/ニッケル(Ni)/金(Au)を備えている。表面配線と裏面配線は、配線基板14を厚さ方向に貫通してWからなるビアにより電気的に接続されている。
【0032】
前記ガラス部材13については、無機蛍光体を含有させる事が好ましい。また、LEDチップ12の発光と蛍光体の変換光によって白色光となることが好ましい。
前記ガラス部材13は、B−SiO−LiO−NaO−ZnO−Nb系のガラスとすることが好ましく、熱膨張係数が7.0×10−6/℃以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例、比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
(実施例)
図4に示すように、LEDチップをガラス部材で封止したLEDパッケージからなる照明手段10a、10bを、ヘルメット本体20のつば21の先端21aに着脱可能に接続したヘルメット1のサンプルを作製した。
なお、前記LEDパッケージの詳細な条件については、図2に示すように、結晶成長基板の表面に、窒化ガリウム系化合物半導体からなるバッファ層と、n型層と、発光層と、p型層とを有機金属気相成長法(MOVPE法)により順次積層して形成したLEDチップ12を、ガラス部材13によって封止している。ガラス部材13にはYAG:Ce3+蛍光体が均一に分散され、LEDチップ12の青色発光と変換光によって白色光となる。また、配線基板14については、アルミナからなる。
【0035】
(比較例)
図3に示すように、照明手段300として、市販のヘッドライト(ペリカン社製、「PELICAN 2660 HeadsUp Lite」)をヘルメット本体200に装着したこと以外は、実施例と同様の条件によって、ヘルメット100のサンプルを作製した。
【0036】
(評価)
その後、実施例及び比較例の各サンプルについて、実際に使用し、以下の評価を行った。
【0037】
配光性の評価として、実施例及び比較例の各サンプルについて、暗室で使用した際の、ヘルメットの水平面及び垂直面の、それぞれの角度(°)に対する明るさ(ルックス)を市販の照度計を用いて測定した。
実施例及び比較例の各サンプルについての測定結果を、それぞれ図5及び図6に示す。
【0038】
各サンプルを暗所で使用したときの状況を観察した。具体的には、各サンプルをマネキンに被せたときの状態、暗所で正面を向いて光を照射した時の、目線高さ、足元、正面から見た状態をそれぞれ観察した。
実施例及び比較例の各サンプルについての観察結果を、それぞれ図7及び図8に示す。
【0039】
図5及び6から明らかなように、本発明のサンプルは比較例のサンプルに比べて、配光特性が大幅に優れることがわかる。
また、図7及び8に示した通り、実際に暗所で使用した場合、本発明のサンプルを使用したほうが目線の先及び足元の状況をより明るく照らしていることから、配光特性に優れることがわかる。
さらに、従来の照明手段では、死角となって十分な配光特性を得られなかった位置(横方向位置:90°、縦方向位置:90°)についても、本発明による照射手段では十分に光を照射できており、光の届かない火災現場や事故現場において作業を行う際、本発明によるヘルメットは従来のヘルメットに比べてより優れた効果を発揮できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、省スペースで、ヘルメット使用時における作業を阻害することなく、優れた配光特性及び耐久性を有する照明手段を装着したヘルメットを提供できる。
【符号の説明】
【0041】
1、100 ヘルメット
10、300 照明手段
11 LEDパッケージ
12 LEDチップ
13 ガラス部材
14 配線基板
15 配線
16 固定手段
17 支持部材
20、200 ヘルメット本体
21 つば

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方へ光を照射する照明手段を装着したヘルメットであって、
前記照明手段は、LEDチップをガラス部材で封止したLEDパッケージからなることを特徴とするヘルメット。
【請求項2】
前記照明手段を、2箇所以上に設けたことを特徴とする請求項1に記載のヘルメット。
【請求項3】
前記照明手段は、ヘルメット本体と一体化されるか、又は、着脱可能な状態で装着されることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘルメット。
【請求項4】
前記ヘルメット本体がつばを有し、前記照明手段は、該つばの先端部に設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のヘルメット。
【請求項5】
前記ガラス部材中に無機蛍光体を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のヘルメット。
【請求項6】
前記LEDパッケージの配線基板が、アルミナからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のヘルメット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−96020(P2013−96020A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237738(P2011−237738)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(391009936)株式会社住田光学ガラス (59)
【Fターム(参考)】