説明

ヘレグリン共役型HER3と免疫反応性の改善された抗体

ヘレグリン結合部位とは異なる部位でヘレグリン共役型HER3に特異的に結合する抗体が説明される。これらの抗体は癌を処置するのに特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年4月29日に出願された米国特許出願第61/173,670号の恩典を主張し、該出願は全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本出願は優れた治療価値を有するモノクローナル抗体に関する。本出願の抗体は癌細胞に特に選択的であり、およびある特定の自己分泌増殖因子を分泌する癌細胞により特に選択的である。
【背景技術】
【0003】
背景技術
チロシンキナーゼを通してシグナル伝達を媒介する受容体のファミリーは、少なくとも4つのメンバーのサブファミリーを含む。上皮成長因子受容体(EGFR)とも呼ばれるHER1はErbB1遺伝子によりコードされ、HER2またはHER2/neuはErbB2遺伝子によりコードされ、HER3はErbB3遺伝子によりコードされ、およびHER4はErbB4によりコードされる。これらの受容体の各々は非常に多数の類義語を有し、ならびに本出願において、「HER」という用語およびErbBという用語は、タンパク質を議論しようとまたは核酸を議論しようと、すべての因子について互換的に使用される。
【0004】
ErbB3によりコードされる受容体の主要な天然リガンドはヘレグリン(heregulin(HRG))であり、それは、図1Aに示すように、HER3に結合した時に各々がシグナル伝達カスケードを活性化する細胞外ドメインを通してHER3のHER2との二量体化を促進する立体配座変化を誘導するポリペプチドである。同様の二量体化は、細胞内でシグナル伝達カスケードをまた活性化するHER1受容体のリガンドである上皮成長因子(EGF)により刺激される。
【0005】
HER3に対するモノクローナル抗体を含む抗体が調製されている。米国特許第5,480,968号(特許文献1)は、ErbB3に特異的に結合し、かつErbB2またはErbB1に結合しない抗体を開示する。米国特許第5,968,511号(特許文献2)は、HER3に結合し、かつHER2-HER3タンパク質複合体のヘレグリンで誘導される形成をこれらの受容体の両方を発現する細胞において減少させる抗体、または、ヘレグリンのErbB3タンパク質への結合親和性を増加させるか、もしくは下流のシグナル伝達の活性化を減少させる抗体を開示および特許請求する。マウス抗体のみが調製されているが、ヒト化抗体もまた特許請求される。
【0006】
米国特許出願公開第2004/0197332号(特許文献3)は、HER3の発現を下方制御する抗HER3抗体を説明および特許請求する。PCT国際公開公報第2007/077028号(特許文献4)は、Xenomouse(登録商標)において産生され、および従って配列により完全にヒトである、HER3に結合する抗体を説明する。これらの抗体の大部分は、HER3の細胞外ドメインの主要なリガンド結合ドメイン(L2)に結合すると説明されているが、細胞外ドメインの3次元構造が破損される場合は結合が破壊される。さらに、この公報において説明される抗体は、HER3への結合についてHRGと競合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,480,968号
【特許文献2】米国特許第5,968,511号
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0197332号
【特許文献4】国際公開公報第2007/077028号
【発明の概要】
【0008】
発明の開示
複合体形成していないHER3よりも、ヘレグリンと複合体形成した時のHER3にずっと高い親和性で結合する抗体を取得することが可能であることが今や知られている。そのような抗体は、ヘレグリンまたは類似のアゴニストペプチドを分泌し、従って正常細胞よりも高いレベルでシグナル伝達カスケードを刺激する腫瘍細胞の状況において最も有効であるため、特に価値がある。これは、浸潤性増殖特性において最も攻撃的であるそれらの腫瘍細胞への処置の特異性を増強し、一方で強力に刺激されていない正常細胞への毒性を最小化する。さらに、新規抗体は、HER1およびHER3を過剰発現する細胞においてシグナル伝達を遮断するのに有効であり、望ましい「全HER」活性を提供する(Huang, Z, et al., Expert Opin Biol Ther. (2009) 9:97-110)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ヘレグリンの存在下(図1A)、ならびにヘレグリンおよび抗体14B10または抗体1G4のいずれかの存在下(図1B)における、HER2およびHER3の相互作用の図である。
【図2A】ForteBio(登録商標)バイオセンサーにより測定した、HER3とのヘレグリン活性複合体への1G4 mAbおよび14B10 mAbの結合の比較を示すグラフである。
【図2B】ForteBio(登録商標)バイオセンサーにより測定した、HER3とのヘレグリン活性複合体への1G4 mAbおよび14B10 mAbの結合の比較を示すグラフである。
【図3A】HER3に対する種々の抗体の、MCF-7癌細胞の増殖を阻害する能力、およびこれらの細胞においてチロシンリン酸化を阻害する能力を示す。
【図3B】HER3に対する種々の抗体の、MCF-7癌細胞の増殖を阻害する能力、およびこれらの細胞においてチロシンリン酸化を阻害する能力を示す。
【図4】種々の抗HER3抗体の、MCF-7細胞の増殖を阻害する能力を示す。
【図5】活性のチロシンリン酸化測定による活性が抗増殖活性を予測しないことを示す。
【図6】HER3に対する種々の抗体の、HER2およびHER3よりもむしろHER1およびHER3を過剰発現する細胞株であるMB 468においてチロシン増殖を阻害する能力を示す。
【図7】1G4重鎖(SEQ ID NO: )および1G4軽鎖(SEQ ID NO: )をコードするヌクレオチド配列、ならびに推定されるアミノ酸配列(SEQ ID NO: およびSEQ ID NO: )を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ヘレグリンが結合したHER3の活性型に特有の特異性を有し、従って、高濃度のヘレグリンを伴う環境において二量体化および下流のシグナル伝達を優先的に阻害するモノクローナル抗体を提供する。このような高い濃度は多くの腫瘍細胞の特性を明らかにする。高い局所濃度の刺激性リガンドに浸されている細胞を標的とすることにより、正常細胞における低い濃度からのシグナル伝達を遮断することにより生じる毒性を最小化し得る(Bria, E, et al., Expert Opin Biol Ther. (2008) 8:1963-1971)。
【0011】
HER3:ヘレグリン複合体に優先的に結合する抗体を使用することは、増殖のための複雑なシグナル伝達に依存する癌細胞などの細胞に対してそれらが最も有効であるため、有利である。このタイプの細胞は多くの腫瘍の特徴である。
【0012】
従って、本発明は、ヘレグリンに結合していないHER3についての親和性の少なくとも5倍、好ましくは10倍より大きい、5〜10の間のすべての値、および10より大きい値の親和性でヘレグリン活性化HER3に結合するモノクローナル抗体およびその薬学的組成物を対象とする。好ましくは、抗体の親和性は少なくとも、HER3自体について5 nMのkDにより表される親和性、より好ましくは少なくとも2 nMのkDにより表される親和性、およびより好ましくは100 pmolのkDにより表される親和性であろう。
【0013】
モノクローナル抗体は、可変領域が1つの種のものであり、かつ定常領域が別の種のものであるキメラ型;可変領域のみからなる型、一本鎖型;および同様のものを含む多くの型をとり得る。従って、「抗体」とは、必要とされる免疫特異性を示す抗体全体およびその断片の両方を指す。いくつかの場合において、これが明記されるが、明記されないならば、別の方法で文脈から明らかでない限り、断片がこの用語に含まれることが意図される。
【0014】
本発明の抗体は、適切な免疫原で免疫化されたラット、マウス、およびウサギなどの実験動物のハイブリドーマまたは不死化細胞の広範なスクリーニングにより取得することができる。適切な免疫原は、下記で例証されるもの、およびヘレグリンで処理されているHER3タンパク質の部分を含む。従って産生される抗体を、HER3自体から差次的にヘレグリン結合HER3に結合する能力についてスクリーニングする。これらの抗体はその後、ヒトへの投与に適する抗体を取得するために現在商業的に利用可能な手順を用いてヒト化することができる。
【0015】
下記で述べる1つの特定の例において、この望ましい差次的な結合親和性を有する抗体である1G4が調製された。この抗体のヒト化型およびヒト類似体が本発明の範囲内に含まれる。
【0016】
1G4を産生するハイブリドーマは、2010年4月29日にブタペスト条約の条項の下にAmerican Type Culture Collection, 10801 University Boulevard, Manassas, Virginia 20110に寄託された。本ハイブリドーマを開示する米国特許の発行時に、本寄託に対するすべての制限が取り消し不能の形で除去されるであろう。
【0017】
加えて、図7は、1G4の重鎖および軽鎖のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列をそれぞれ示す。重鎖のCDRは以下である:CDRH1:GYTFTDYVS (SEQ ID NO: ); CDRH2:IYPSGRY (SEQ ID NO: ); CDRH3:TRSLQRLRYFDV (SEQ ID NO: )。軽鎖のCDRは以下である:CDRL1:RASQSISDYLH (SEQ ID NO: ); CDRL2:YGSQSIS (SEQ ID NO: ); CDRL3:QQSNSWPLT (SEQ ID NO: )。
【0018】
あるいは、ヒト抗体を直接産生する実験動物を、ヒトである抗体を産生するための対象として使用することができる。従って、所望のヒト抗体を直接提供するであろうXenoMouse(登録商標)などの動物に免疫原を投与することができる。これらの抗体を、ハイブリドーマまたは他の不死化齧歯類細胞をスクリーニングする段階において使用するのと同様の様式でスクリーニングする。
【0019】
典型的な手順は、HER3およびヘレグリンに共役型のHER3に関するスクリーニングにおいて、種々の抗体の測定された親和性を単純に比較する。様々なアッセイがこのために適切であり、および直接の商業的に利用可能なアッセイは、Biacore(商標)およびForteBio(登録商標)として市販されているものを含む。
【0020】
しかしながら、好ましくは、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第7,413,868号に記載されている専有技術であるCellSpot(商標)が使用され得る。これは、数百万のハイブリドーマおよび脾細胞またはリンパ球を実用的な時間枠でスクリーニングすることを可能にする。
【0021】
例えばヘレグリン:HER3複合体を産生する腫瘍を内部に有する個体はこれらの腫瘍抗原への抗体を生成するため、適当な抗体をヒトから直接取得することもできる。一般に、腫瘍抗原に免疫特異的な抗体は、そのような対象により産生される。例えば、Pavoni, E., et al., BMC Biotechnology (2007) 770:1-17を参照されたい。加えて、ループスなどの自己免疫疾患を有する患者は、腫瘍に必ずしも関係しない細胞抗原に対する抗体を作製する。試料採取され得る細胞の数が多いため、非常に稀少な抗体でさえもこの様式において取得することができる。
【0022】
所望の抗体を分泌する適当な細胞がスクリーニングにおいて同定された場合、抗体をその後周知の技術を用いて組み換えで生産することができる。抗体をコードするヌクレオチド配列をそれらを分泌する細胞から取得し、そのような組み換え生産のために適した発現構築物を調製して宿主細胞にトランスフェクションする。そのような抗体を組み換えで生産する能力により、一本鎖抗体などの変異体を生産することが可能である。昆虫、哺乳動物、および植物細胞、ならびに微生物培養を含む様々な細胞をそのような生産のために使用することができる。
【0023】
本発明の抗体、およびその断片、特にそれらのヒトおよびヒト化型は、ヘレグリンで刺激されるシグナル伝達に付随する癌を処置するのに有用である。これらは、乳、子宮、卵巣、前立腺、腎臓、肺、膵臓、胃、唾液腺、結腸、結腸-直腸、甲状腺、膀胱、皮膚の癌、またはヘレグリンで刺激される増殖を示す任意の癌を含む。本発明の抗体を用いる処置を行う段階に関連して、ヘレグリンを分泌する能力について処置される癌を評価することが有用かもしれない。これは、生検癌試料由来の細胞を培養することにより、またはインビボでの腫瘍のインサイチュー試験によりなされ得る。1つの方法において、これは、該腫瘍またはその生検材料を本発明の抗体または断片と接触させる段階、および形成される複合体のレベルを非共役型HER3に結合する抗体で形成される任意の複合体と比較して測定する段階によりなされる。
【0024】
対象は、ヒトまたは、イヌおよびネコなどの家庭内動物、ブタ、ウシ、およびヒツジなどの農場の動物、ならびにラット、マウス、およびウサギなどの実験モデル動物を含む獣医学(veterinary)であり得る。実験モデル動物は、対応するヒト腫瘍において本発明の抗体の効果を評価するのに特に有用である可能性があり、およびそのような使用は本発明内に含まれる。
【0025】
処置における使用のために、本発明の抗体はまた、一般に細胞傷害剤および/または抗腫瘍薬物に連結されてもよい。そのような薬物は、例えば、白金ベースの薬物、細胞周期阻害剤、ビンクリスチンおよび種々のカンプトテシンなどの天然産物を含む。
【0026】
投与のために、抗体は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton PA, 最新版に記載されているものなどの抗体の薬学的組成物についての標準的な手順に従って製剤化される。これらの製剤は、リポソームもしくはミセルなどの送達媒体を含んでもよく、または、塩類もしくは糖類などの標準的な賦形剤を含有してもよい。
【0027】
典型的に、抗体組成物は、注射、特に静脈内注射により投与される。しかしながら、そのような組成物と共に実行可能な任意の投与の様式が本発明の範囲内に含まれる。
【0028】
実用的な規模での抗体の生産は、抗体またはその部分をコードするヌクレオチド配列を単離し、および活性を有する抗体組成物を取得するための標準的な手順において操作する、標準的な組み換え法を含み得る。典型的には、哺乳動物細胞培養、昆虫細胞培養、もしくは植物細胞培養においてそのような生産がされ、または植物それ自体によって生産されてもよい。生産の手段にかかわらず、特許請求される特徴の抗体が本発明の範囲内に含まれる。
【0029】
以下の実施例は、本発明を例証することを意図するが、限定することを意図しない。
【実施例】
【0030】
実施例1
1G4の生産および結合アッセイ
大腸菌(E. coli)において生産されたHER3のL2ドメインから本質的になるポリペプチドと共に、HER3の細胞外ドメイン(ECD)を過剰発現する293細胞でマウスを免疫化する段階、および標準的な方法による、免疫化したB細胞のマウス骨髄腫との融合により、7個のマウスハイブリドーマライブラリーを調製した。約4億個のハイブリドーマ細胞をヘレグリンの存在下および非存在下におけるHER3との免疫活性についてスクリーニングし、そのうち約700個が最初のELISAアッセイにより両方への結合について陽性であり、および約70個がFACS解析により無傷の細胞への結合について陽性であった。スクリーニングは、上記で引用した米国特許第7,413,868号におけるアッセイを使用する。
【0031】
これらのうち、6個のこれらのマウス抗体を、商業的に利用可能なForteBio(登録商標)法に従い、HER3 ECDへの結合親和性について定量的にアッセイした。この方法において、10〜15μg/mlのECDを10 mM MES、pH 6.0において25℃でアミン反応性表面上に捕捉させた。非標識抗体で表面を処理することにより、結合能力を試験する。非標識抗体が表面上に蓄積するにつれて、表面の光学的特徴が変化し、従って標識を必要とすることなく質量の蓄積の測定を可能にする。これはBiacore(商標)方式解析の改変である。最も高い濃度として67 nMで抗体を試験し、3倍希釈系列で希釈した。結合親和性を測定するために種々の濃度についての応答データを個々におよび全体的に適合させた。HER3 ECDへの結合についての結果を表1に要約する。
【0032】
(表1)HER3 ECDへの結合

【0033】
示されるように、14B10が最も高い親和性を示したが、6個の抗体のすべてがpMまたはnM範囲で結合した。
【0034】
同一のForteBio(登録商標)法を用いて、抗体のうちの2個、1G4および14B10について結合アッセイを繰り返した。10〜15μg/mlのHER3 ECDを同一の緩衝液においてアミン表面上に再び捕捉させた。表面上にHER3:ヘレグリン複合体を形成するように10μg/mlのヘレグリンを添加し、もう一度3倍希釈系列を用いて抗体を67 nMで試験し、結合定数を測定するためにデータを適合させた。これらを表2に列挙する。
【0035】
(表2)HER3-ヘレグリン複合体への結合

【0036】
抗体14B10は、HER3にとほぼ同一の親和性でHER3:ヘレグリン複合体に結合した。抗体1G4はHER3単独に2.8 nMの親和性で結合したが、HER3:ヘレグリン複合体に327 pMの親和性で結合した。両方の場合において、HER3に対する結合親和性は、165 nMの親和性でHER3 ECDに結合するヘレグリン自体のものよりも高かった。
【0037】
これらの抗体の作用の見かけの様式を対比させる図を図1Bに示す。
【0038】
図2Aおよび2Bは、HER3 ECDのヘレグリンとの複合体に結合する能力における1G4および14B10の間の比較を示す。図2Aに示されるように、1G4は複合体に差次的に結合することができ、一方14B10(図2B)はしない。
【0039】
実施例2
腫瘍細胞への効果
加えて、種々の抗体のHER3におけるチロシンのリン酸化を阻害する能力、およびヘレグリンと培養したMCF-7乳癌細胞における細胞増殖を阻害する能力を、種々の抗体濃度で試験した。
【0040】
下流のリン酸化を阻害する抗体の能力を評価するために、MCF-7細胞を対数期に維持し、試験のために培地を吸引し、細胞をリンスし、2〜3 mlのトリプシンを添加し、混合物を37℃で5分間インキュベーションした。10〜12 mlの増殖培地を添加することによりトリプシン処理を停止し、Becton Dickenson Vi-CELL(商標)細胞計数器を用いて計数するために細胞を懸濁し、その後、104細胞/ウェルで96ウェルプレートに100μl/ウェルでプレーティングした。プレートを960 rpmで5分間遠心分離し、37℃で4時間インキュベーションし、その後、培地を100μl/ウェルの血清を含まない培地で置き換え、細胞を3日間インキュベーターに戻した。
【0041】
アッセイのために、1μg/mlの精製抗体を各ウェルに添加して37℃で1時間インキュベーションし、その後、ウェルのいくつかに20 nMのヘレグリン1bを10分間添加した。細胞表面から培地を吸引し、HER3リン酸化の測定のために溶解緩衝液を添加した。
【0042】
この測定のために、96ウェルGreinerプレートをPBS中の2μg/ml捕捉抗体で100μl/ウェルでコーティングし、4℃で一晩インキュベーションした。プレートをその後PBSTで洗浄し、200μl/ウェルの3%BSAおよびPBSでブロッキングし、300μl PBSTで2回洗浄した。前の段落において調製した細胞溶解物の80μlを各ウェルに添加し、室温で回転器を用いて2時間インキュベーションした。プレートをその後PBSTで洗浄し、その後西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した抗リン酸化チロシンと1:2000で2時間インキュベーションした。洗浄後、LumiGlo(商標)ペルオキシダーゼ溶液KPLカタログ番号54-61-00を100μl/ウェルで添加し、リン酸化の程度を分光光度的に測定した。結果を図3Aに示す。これらの結果において示されるように、1G4についてのIC50は約10 ng/mlであり、一方、2個の他の抗体、E7およびC31はずっと高かった。
【0043】
細胞増殖への効果を評価するために、MCF-7細胞をコンフルエントになるまでフラスコにおいて増殖させ、その後トリプシン処理し、トリプシン処理を停止するために増殖培地中で収集した。細胞をその後、飢餓培地で3〜4回洗浄した。
【0044】
無菌の96ウェル黒色透明底面のプレートにウェル当たり50μlの飢餓培地を準備し、15分間37℃でインキュベーションした。試験する抗体を必要に応じて飢餓培地において希釈し、個々のウェル中へ5,000細胞/50μlで播種した。細胞を抗体と30分間37℃でインキュベーションし、その後3 nM HRGを添加した。細胞をその後5〜6日間培養し、蛍光色素Resazurin(商標)を1:10で添加することにより細胞増殖を測定し、3時間37℃でインキュベーションした。プレートを蛍光プレートリーダー上で531/590 nmで読み取った。結果を図3Bに示す。
【0045】
示されるように、1G4は0.1μg/ml〜1μg/mlの間のEC50を有し、14B10のみがより低いEC50を有した。
【0046】
図4に示されるように、1G4を含む抗体のいくつかはまた、ヘレグリンで刺激される細胞の遊走を遮断することができた。
【0047】
図5に示されるように、チロシンリン酸化の阻害は、増殖の阻害を保証または評価しないことに注目することが重要である。上記で引用した先行技術の教示は、2つの活性が密接に相関するであろうことを仮定している。7個のライブラリー由来の4億個のハイブリドーマ細胞を精査することにより、活性のより包括的な見解が得られ、相関の欠如が確立された。
【0048】
実施例3
HER1を発現する腫瘍細胞への効果
新規抗体はまた、HER1およびHER3を過剰発現し、検出可能なHER2を有さない細胞株:MB468(ヒト乳腺癌)においてチロシン増殖を阻害する(Moasser, M. M., et al., Cancer Res (2001) 61:7184-7188)。細胞を、0.02%BSA-トランスフェリンを加えたDMEM/F12 50/50において100μlに5,000細胞でプレーティングした。これらの条件の下で、増殖のヘレグリン刺激の力価測定により、3 nMが最大刺激の80%を達成することが確立された。抗体阻害はその結果、刺激曲線の直線的な用量/応答部分に添って測定可能であった。細胞を5日間培養し、前の実施例におけるように蛍光色素Resazurin(商標)を添加することにより細胞増殖を測定した。結果を図6に示す。示されるように、1G4、14B10、およびA28は、およそ10-3〜10-2μg/mlの同様のEC50を有する。しかしながら、P1G1は約10-1μg/mlのEC50を有する。抗体の活性はそのとき、30 nMのヘレグリン刺激で検証した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体形成していないHER3と比較してより高い親和性でHER3:ヘレグリン(heregulin)複合体に結合する、その断片および組み換え型を含むモノクローナル抗体。
【請求項2】
少なくとも5 nMの親和性でHER3に結合し、かつHER3に結合する親和性の少なくとも5倍の親和性でHER3:ヘレグリン複合体に結合する、請求項1記載の抗体または断片。
【請求項3】
1G4またはその断片である、請求項1記載の抗体。
【請求項4】
ヒトまたはヒト化である、請求項1〜3のいずれか一項記載の抗体。
【請求項5】
組み換えで調製される、請求項1〜4のいずれか一項記載の抗体。
【請求項6】
一本鎖抗体である、請求項5記載の抗体。
【請求項7】
細胞傷害剤に連結された、請求項5記載の抗体または断片の結合体。
【請求項8】
化学療法剤に連結された、請求項5記載の抗体の結合体。
【請求項9】
請求項5記載の抗体または断片を含有する薬学的組成物。
【請求項10】
請求項7または8記載の結合体を含有する薬学的組成物。
【請求項11】
有効量の請求項5記載の抗体を、そのような処置を必要とする対象へ投与する段階を含む、対象において癌を処置する方法。
【請求項12】
有効量の請求項7または8記載の結合体を、そのような処置を必要とする対象へ投与する段階を含む、対象において癌を処置する方法。
【請求項13】
対象がヒトであり、かつ抗体がヒトまたはヒト化である、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
HER3:ヘレグリン複合体の存在について対象の腫瘍を評価する段階をさらに含む、請求項11または12記載の方法。
【請求項15】
腫瘍またはその生検材料を請求項1記載の抗体または断片と接触させる段階、および形成される複合体のレベルを非共役型HER3に結合する抗体で形成される任意の複合体と比較して測定する段階を含む、HER3:ヘレグリン複合体の存在について腫瘍を評価する方法。
【請求項16】
以下の重鎖を有する請求項1記載の抗体または断片。

【請求項17】
以下の軽鎖を有する請求項1記載の抗体または断片。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−525432(P2012−525432A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508753(P2012−508753)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/033058
【国際公開番号】WO2010/127181
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(512155009)トレリス バイオサイエンス リミテッド ライアビリティー カンパニー (1)
【Fターム(参考)】