説明

ベアリング要素

【課題】減摩特性が改善された減摩ラッカー及びベアリングを提供すること。
【解決手段】コーティングのポリマーマトリックスを形成する少なくとも1種のポリマー、又はセッティングにより前記ポリマーマトリックスを形成する前記ポリマーの少なくとも1種の前駆体、少なくとも1種の固形滑剤、固形性を高めるための所望による少なくとも1種の添加剤、並びに少なくとも1種の溶媒を含む、摩擦応力にさらされる表面上にコーティングを形成させるための減摩ラッカーであって、上記ポリマー又は上記少なくとも1種の前駆体の分子構造が、繰り返しモノマー単位の主鎖を有するか、又は上記前駆体が、上記主鎖の一部を形成するこのモノマー単位であり、少なくとも、上記分子構造の主鎖又は主鎖部分が、完全な共役結合系を有することを特徴とする減摩ラッカー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングのポリマーマトリックスを形成する少なくとも1種のポリマー、又は重合によってポリマーマトリックスを形成する上記ポリマーの少なくとも1種の前駆体、少なくとも1種の固形滑剤、固形性を高めるための所望による少なくとも1種の添加剤、及び少なくとも1種の溶媒を含む、摩擦応力(Tribological stress)にさらされる表面をコーティングするための減摩ラッカーに関し、上記ポリマー又は少なくとも1種の前駆体の分子構造は、繰り返しモノマー単位を含む主鎖を有するか、又は上記前駆体は主鎖の一部を形成するこのモノマー単位である。本発明はまた、支持要素と、ポリマー、少なくとも1種の固形滑剤及び固形性を高めるための所望による少なくとも1種の添加剤を含み、当該支持要素上に配置されているポリマー層とを含むベアリング要素に関し、上記ポリマーが、モノマー単位を含む主鎖を有し、そして所望により、少なくとも他の1つの層(特に、金属)が、支持要素と減摩層との間に配置されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
減摩ベアリング用の減摩層として減摩ラッカーを使用することはすでに出願人のオーストリア特許明細書(AT501878A)に十分に記載されており、これを本出願において引用する。
【0003】
モーターに課せられる負担が絶えず増大していくのに伴い、減摩ベアリングが受ける負荷も絶えず増大していく。従って、これらの要求を満足し得る減摩ベアリングを製造するための新しい解決策を生み出す努力が絶え間なく続けられている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
よって、本発明の目的は、減摩特性が改善された減摩ラッカー及びベアリングを提案することである。
【0005】
本発明の目的は、ポリマーの分子構造の主鎖又はモノマーによって形成される主鎖の一部が1つの完全な共役結合系を含む上記減摩ラッカーをもとにした発明によって達成され、またポリマー層が主鎖が1つの完全な共役結合系を含むポリマーによって形成されるベアリング要素によって達成される。
【0006】
上記オーストリア特許明細書(AT501878A)に開示された減摩ラッカーの開発過程において、出願人は、驚くべきことに、少なくとも主鎖中に完全な共役結合系を有する減摩ラッカーは、下記に詳細に説明するように、減摩特性、特に、低摩耗による減摩に関して、顕著な改善をもたらし、ベアリング要素、特に減摩ベアリングの金属層上の減摩ラッカーの接着力が、公知技術においてこの目的のために用いられている減摩ラッカーの接着力よりも高いことを見出した。特性に関しての改善理由はまだ十分に明らかにはなっていないが、共役結合系及び基本的に主鎖の全長に亘ってより均一である、分子中のπ電子の電荷分散に起因していると出願人は推測する。従って、これらの電子は、従来の減摩ラッカーの場合よりも高い自由度を有する。
【0007】
本発明における「主鎖」とは、分子鎖の鎖部分、すなわちモノマー単位の結合によって生じる原子の配列を意味する。本発明の範囲においては、これらのモノマーの側鎖もまた必然的に存在するが、この種のタイプのポリマー分子構造では、そのポリマー分子自体の鎖の長さと比べると、長さは限定されるものである。本発明の特定の1つの例においては、これら側鎖もまた主鎖の共役結合系の一部を形成し、その結果ポリマー分子中の電荷の分布はさらに均一になる。
【0008】
1つの好ましい態様においては、ポリマー又は上記ポリマーを形成する前駆体は、好ましくは長手方向に伸びる延長部を有する少なくともおおよそ糸様の分子構造を有し、すなわち側鎖が存在し、またこれら側鎖は、主鎖に比較すると相対的に短鎖であり、例えば、最大で炭素原子10個を含み、そのため、このポリマーは、平面的な架橋パターンでは存在せず、その結果、減摩ラッカーの自然な潤滑能力及びその減摩特性が、上記ポリマーの結晶化度の低さによりさらに高められる。
【0009】
特に、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミドを含む群から選択されるポリマーは、ヘテロ原子があるために、電荷分布に関する上記知見に矛盾するように見えるが、本発明の目的のためには特に好都合であることがわかった。
【0010】
少なくとも1種の固形滑剤が、特に、WS2、MoS2、グラファイト、Sn、SnS、及びSnS2を含む群から選択される。特にこれら固形滑剤が、減摩ラッカーの自然な潤滑特性にプラスの効果をもたらす。しかし、本発明の範囲内では、下記にさらに詳しく述べるように、本発明の基本思想から逸脱することなく、他の固形滑剤を使うことも可能である。
【0011】
減摩ラッカーの好ましい実施態様によれば、当該減摩ラッカーは、下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択される割合におけるWS2、下限値2重量%及び上限値8重量%の範囲から選択される割合におけるSn、下限値12重量%及び上限値23重量%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余がポリマーによって形成され、あるいは下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択される割合におけるSnS及びSnS2の混合物、下限値2重量%及び上限値8重量%の範囲から選択される割合におけるSn、下限値12重量%及び上限値21重量%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余がポリマーによって形成され、あるいは下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択された割合におけるMoS2、下限値12重量%及び上限値21重量%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余が同様にポリマーによって形成されている。
【0012】
WS2はまた、下限値21重量%及び上限値27重量%の範囲から選択された割合で用いられ、Snは、下限値3重量%及び上限値6重量%の範囲から選択された割合で用いられ、グラファイトは、下限値15重量%及び上限値18重量%の範囲から選択された割合で用いられ、残余が、ポリマーによって形成され、あるいはSnS及びSnS2の混合物は、下限値22重量%及び上限値26重量%の範囲から選択された割合で用いられ、Snは、下限値3重量%及び上限値6重量%の範囲から選択された割合で用いられ、グラファイトは、下限値15重量%及び上限値18重量%の範囲から選択された割合で用いられ、残余が、ポリマーによって形成され、あるいはMoS2は、下限値19重量%及び上限値25重量%の範囲から選択された割合で用いられ、グラファイトは、下限値14重量%及び上限値18重量の範囲から選択された割合で用いられ、残余がポリマーによって形成されている。
【0013】
組成物に関するこれらの数値は、減摩ラッカーの固形分に基づいている。
ここで、このポリマー層の組成物に関する数値は、乾燥層、すなわち溶媒なしに関するものであり、さらに数値は、固体ポリマー層の組成物が、固形分、すなわち同様に溶媒なしに関するものであることを意味するものとして理解されるべきである。よって固形分とは、一度溶媒を取り除いたコーティング基体に残っている減摩ラッカーの割合を意味する。
【0014】
下記例に説明されるように、これらの組成物は、従来技術の減摩ラッカーの場合よりも磨耗強度に関して非常に優れた特性を有する。
本発明によって提案されるベアリング要素、特に減摩ベアリングは、この減摩ラッカーを具備し、この点に関しては上記説明を参照することができる。
【0015】
特に、上記ベアリングは、減摩ラッカー層、すなわちポリマー層の底部を形成する青銅又は黄銅製のベアリング金属層である他の層を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明をより良く理解するため、添付の図面を参照してより詳細に説明する。
図面はそれぞれかなり単純化して概略的に示されている。
【図1】ある角度からの、減摩ベアリングのハーフシェルの形態の本発明に係るベアリング要素。
【図2】本発明により提案される減摩ラッカーの磨耗強度を、当技術分野に公知の減摩ラッカーの磨耗強度と比較するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
最初に、位置に関連して明細書中に与えられる細部、例えば、頂部、底部、側部等は、表現すべき図面に直接関連して言及し、新たな位置が記載されているときは、その新しい位置に位置を変えることができることを指摘すべきである。
【0018】
図1に示されるベアリング要素1は、支持要素2と、ベアリング金属層3と、ポリマー層4とを含み、ランニング層又は減摩層又は滑動層として意図される。他の従来の層、例えば結合層及び/又は拡散遮断層を当技術分野に公知の方法で設けてもよい。
【0019】
支持要素2は、通常、鋼から製造されるが、当然ながら、同一又は類似の機能をもたらす、すなわちベアリング要素1に対し機械的強度を与える、他の類似金属から製造することもできる。ベアリング要素1全体の機械的強度は、それぞれの用途によって決まり、銅合金、例えば、黄銅、青銅の範囲を用いることもできる。支持体2は、さらにある程度の寸法安定性を与える。
【0020】
ベアリング金属層3(又はランニング層)は、ベアリング金属合金から製造される。この実施態様では、銅合金、特に、青銅又は黄銅から製造される。
【0021】
原則として、当技術分野に公知の他のベアリング金属合金、例えば、ビスマス、インジウム、鉛、銅、アルミニウム系合金を用いることもできる。これについては、オーストリア特許(AT501878A)を参照することができる。
ベアリング金属層3に対し当技術分野に公知の製造方法が適用される。
【0022】
本発明の目的のため、ポリマー層4は、ポリマーから製造され、その主鎖は完全な共役結合系の分子構造を有する。このポリマーは、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、例えば、これら樹脂の芳香族代表物、水素を含まないポリイミド樹脂、ピロメリット酸イミド、例えば、ポリ−トリアゾ−ピロメリット酸イミド、フッ化物含有樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ(p)フェニレン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレンを含む群から選択される。コポリマー、例えば、交互コポリマー、統計コポリマーも使用することができ、これら樹脂の混合物を用いることも可能である。
【0023】
使用されるポリアミドは、ポリアミド−アミド酸、例えば、式−(NHCO)(C66)(COOH)(CONHR)を有するアミド酸単位であることができる。これらのアミド−アミド酸単位を、式−(NHCO)(C66)(C22NR)−を有するアミド−イミド単位と重合することができる。本発明の意味を有する重合は、重縮合及び重付加の両方を意味するものとして理解されるべきである。これは、二種類の樹脂のケースにおける残基が、芳香族残基、例えば、フェニル残基であることができるケースである。ヘテロ原子、例えば、酸素、窒素を経由してお互いに結合されている幾つかの環、例えば、2つのフェニル環を含む芳香族残基を用いることができる。これらの残基は、置換されていてもよく、すなわち、側鎖をもっていてもよい。いずれの場合にも、本発明の意味におけるこの残基は、主鎖に配置されているため、樹脂主鎖の共役結合系を壊さないように共役結合系を有することが必要である。樹脂側鎖を形成する残基の場合では、本発明の目的のために、共役結合系を有することが有利であるが、必須ではない。
【0024】
ポリアミド−アミド酸は、トリメリット酸若しくはその誘導体、又はトリメリット酸ハロゲン化物、例えば、酸塩化物を、少なくとも1種の芳香族ジアミン、例えば、p−フェニレンジアミンに反応させて製造される。芳香族ジアミンの例は、米国特許第3,494,890号明細書又は同4,016,140号明細書に記載されている(参照により、本明細書に組み入れる)。上記反応を、例えば、N−メチルピロリドン中で行うことができる。ポリアミド−アミド酸の分子量は、1,500〜20,000g/モルである。
【0025】
アミド−イミド単位を、芳香族トリカルボン酸無水物、例えば、トリメリット酸無水物、又はこれらカルボン酸の塩化物を、ジイソシアネート又はジアミンと重縮合させて製造することができる。重縮合は、溶液中、例えば、1−メチル−2ピロリジノン中で行われる。
アミド−アミド酸単位:アミド−イミド単位のモル比は、20:1から4:1の範囲内であることができる。
【0026】
上記樹脂は、少なくとも1種の溶媒、例えば、キシレン、N−メチルピロリドン等の有機溶媒、アルコール、又は水中に存在することができ、加工性を促進する。この場合、溶媒の比率は、樹脂の比率に対して、下限30重量%及び上限80重量%、特に下限40重量%及び上限70重量%、好ましくは下限50重量%及び上限65重量%の範囲から選択され、すなわち、樹脂が溶媒を伴う。
【0027】
ポリマー層4における樹脂の比率は、下限20重量%及び上限70重量%の範囲、特に下限30重量%及び上限60重量%の範囲であり、例えば、下限40重量%及び上限50重量%の範囲から選択されうる。
必要ならば、このポリマー層4は、機械的強度を増加させる観点から他の添加剤、繊維マトリックス及び/又は硬質材料等を含有することができる。
【0028】
この添加剤又は硬質材料は、CrO3、Fe34、PbO、ZnO、CdO、Al22、SiC、Si34、SiO2、MnO、Si34、粘土、タルク、TiO2、ケイ酸アルミニウム、例えば、ムライト、ケイ酸マグネシウム、例えば、アモサイト、アントフィライト、クリソタイル、球状炭素、カーバイド、例えば、CaC2、Mo2C、WC、金属粒子、例えば、Zn、Ag、Ba、Bi、青銅、Cd、Co、Cu、In、Pb、Sn、Tl、これら金属の合金粒子、鉛−錫合金粒子、Pb又はSn系ベアリング金属粒子、AlN、Fe3P、金属ホウ化物、例えば、Fe2B、Ni2B、FeB、BaSO4、金属硫化物、例えば、Ag2S、CuS、FeS、FeS2、Sb23、PbS、Bi23、CdS、塩素化炭酸水素塩、フッ化物、例えば、CaF2、金属フッ化物、例えば、PbF2、炭酸フッ化物(CFx)、金属酸化物フッ化物、クロシドライト、トレモライト、チオカルバミン酸モリブデン、ケイ化物、チオリン酸塩、例えば、チオリン酸亜鉛等の硬質材料を含む群から選択される。
【0029】
異種の添加剤又は硬質材料の混合物、例えば、2、3、4又は5以上の異なる添加剤又は硬質材料を用いることができる。
硬質材料の含有率は、最大15重量%であることができる。
【0030】
繊維マトリックスは、例えば、ガラス、炭素、アスベスト、チタン酸カリウムの無機繊維、例えば、SiC等のホイスカー、例えば、Cu又は鋼の金属繊維、硬質金属コアを備えたフィラメントを含む群から選択される繊維を含む。これらの繊維によって、マトリックスを強化し、ポリマー層4に加えられる繊維の比率に応じて、より高い、又はより低いマトリックス強度が得られる。
繊維の含有率は、上限20重量%、特に15重量%、例えば、最大12重量%であることができる。
【0031】
減摩ラッカーに含有される固形滑剤は、グラファイト、硫化物、例えば、MoS2、SuS、SuS2、WS2、ZnS、ZnS2、並びにヘキサゴナルBN、PTFE、Pb、Pb−Sn合金、CF2、PbF2等を含む群から選択される。原則的にはこれらの固形滑剤は、従来技術において同様の目的のために使われてきた。本発明によって提案される減摩ラッカー及び本発明によって提案されるベアリング要素のポリマー層4に対して特に有利であることが見出された固形滑剤は、WS2、Sn、グラファイト、SnS及びSnS2、並びにMoS2を含み、そして当該固形滑剤は、2種又は3種以上の固形滑剤の混合物を用いることができる。
【0032】
固形分及びポリマー層4に関して、減摩ラッカー中の少なくとも1種の固形滑剤の比率は、下限5重量%及び上限60重量%、特に下限10重量%及び上限45重量%であり、例えば、下限12重量%及び上限30重量%の範囲から選択される。1種以上の固形滑剤が用いられる場合には、上記上限は、全ての固形滑剤の比率の合計を意味する。
【0033】
本発明により提案される減摩ラッカーを製造するために、個々の成分、すなわち、用いられる、それぞれの、一又は複数の固形滑剤を有する一又は複数の樹脂、及び所望による他の添加剤(例えば、硬質材料)を、互いに混合し、そしてそれらが混合される溶媒に導入する。減摩ラッカーのこれら成分を、けん濁剤又は乳化剤中でけん濁又は乳化することもできる。
【0034】
上記樹脂、それ自体は、そのまま使用に供されるポリマーであることができるが、上記減摩ラッカーには、前駆体、すなわち、モノマー又はオリゴマー(所望により最大120℃であることができる高温において、お互いに結合すべき関連性を有し、次いで溶媒を除去すると固まり、ついで、重合又は重縮合して、最終ポリマーを生成する)のみを添加することもできる。
【0035】
ラッカー製造業界において知られている加工剤、例えば、消泡剤、粘度制御剤等、並びに染料又は類似物を、本発明の混合物又はこの溶液に加えることができ、この態様はすでに公知であり、詳細な説明、特に最終ラッカーにおけるこれらの加工剤の相対的な含有率に関しての詳細は不要である。しかし、上記樹脂、並びに固体滑剤及び所望による他の添加剤、例えば、硬質物質の相対比率は結果として変化しないということを指摘する必要がある。
【0036】
上記減摩ラッカーを、湿式、例えば、スプレー又は塗装により適用することが好ましい。上記減摩ラッカーを、金属物質、例えば、ベアリング金属層3に直接適用することができる。所望により、いわゆる、プライマーを事前に適用することでき、そしてベアリング金属層3上の減摩ラッカーの接着強度を高めるため、減摩ラッカーを適用する前に、ある程度の表面粗さをつくりだすこともまたできる。これら態様は、当技術分野に公知のものとして長く知られている。
【0037】
減摩ラッカーを基材、すなわち、例えば、減摩ベアリングのベアリング金属層3に適用した後、又は連接棒、すなわち、その小端部に直接コーティングする場合には、最終ポリマー層4を生成させるためにセッティング工程を行い、その間に溶媒が蒸発する。このセッティング工程を、適切な熱チェンバー内で行う。所望により、架橋を生成するために、UV光、レーザー光又は電子ビーム手段によって励起を生じされることができ、その場合には、適切な開始剤、例えば、光開始剤を上記減摩ラッカーに添加することができる。
【0038】
本発明によって提案される減摩ラッカーを用いて、次の試験用コーティングを調製した。
【実施例】
【0039】
[例1]
鋼製の支持シェル及びCuPb22Sn2のベアリング金属層を含む減摩ベアリングハーフシェルを、当技術分野に公知の方法を用いて製造した。ついで、SnS及びSnS2の混合物を20重量%、Snを8重量%及びグラファイトを10重量%有し、ポリアミドイミドを含む減摩ラッカーを、この構成材料に適用した。
【0040】
SnS及びSnS2の混合物に関し、この混合物中におけるSnSの比率は、30重量%〜70重量%であり、残余がSnS2である。
この混合物を、溶媒として作用するN−メチルピロリドン中でけん濁し、均質化した。ついで、この減摩ラッカーをスプレーし、そして乾燥又は熱硬化させた。
【0041】
[例2]
固形滑剤として、27重量%のWS2、2重量%のSn、23重量%のグラファイトを用いて、例1を基本的に繰り返した。
【0042】
[例3]
この例は、本質的に例2と一致するが、グラファイトの比率を15重量%と低い。
【0043】
[例4]
この例は、固形滑剤として、25重量%のMoS2及び12重量%のグラファイト用いた例1に、本質的に対応する。
次いで、例1〜4に対して減摩テストを行った。実施するにあたり、減摩ベアリングを、98MPaの動荷重において、試験装置上で2時間、テストランした。
【0044】
これらテスト結果を、図2に示す。一方は本発明に基づく態様と、当業界に公知のものに対応する通常の減摩ラッカー(ブロック1に図示)と、本件出願人によりAT501878Aに開示されたものに相当する減摩ラッカー(ブロック2に図示)との比較が示されており、この目的のために、減摩ベアリング要素上にコーティングを生成させ、次いで、同一の試験条件にさらした。例1〜4は、ブロック3〜6に示されている。
【0045】
4つのテストランを、全てのサンプルに対し実施した。従って、上記ブロックは、コーティング厚さの損失を基に測定して得られた最小及び最大の磨耗値を示す。製造されたコーティング厚さは、当業界において減摩ベアリング要素に適用される通常のコーティング厚さに相当するものであった。
【0046】
次いで、得られた値を、従来技術に基づく減摩ラッカーの最小値を100%として正規化した(ブロック1)。
図に明示されるように、上記説明に基づく本発明によって提案された樹脂を用いて、摩耗率を非常に小さくすることができた。
【0047】
本発明によって提案される組成物をポリマー層4に用いると、良好な減摩特性及び磨耗抵抗を備えたランニング層を製造することが可能であり、ドライランニングも可能である。このことにより、メインテナンスが少なくて済む特別な利益がもたらされる。少量の滑剤と共に、又は滑剤なしでも操作することができる。必要であれば、潤滑目的のために水を用いることができ、これは、本発明によるベアリング要素1を、例えば、ポンプに用いる場合に特に有利である。対応する重量の減少に加え、エッジ圧に対して、より低い鋭敏性が観察される。
【0048】
図1に示されるような減摩ベアリングハーフシェルを製造するために、本発明より提案されるベアリング要素1を用いる代わりに、特に自動車産業において用いるため、例えば、スラストリング、スライドブッシュ等として、他の様式において、それを用いることがまたできる。例えば、連接棒の小端部に、コーティングを直接適用することも可能であり、その場合には支持要素が連接棒となる。
【0049】
本発明によって提案される減摩ラッカーは、上述のベアリング要素1上に減摩層を生成するためだけでなく、摩擦応力にさらされる表面上(例えば、流し込みコーティング(running−in coating)コーティングとして、スパッタされた減摩コーティング上)に、原則として用いることができる。
最後に、良好な秩序のため、ベアリング要素1の構造を明確に理解するために、ベアリング要素1及びその構成部品は、ある程度、実際の大きさから外れて、そして/又は拡大して、そして/又は縮小して示されていることを指摘すべきである。
【符号の説明】
【0050】
1 ベアリング要素
2 支持要素
3 ベアリング金属層
4 ポリマー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングのポリマーマトリックスを形成する少なくとも1種のポリマー、又はセッティングにより前記ポリマーマトリックスを形成する前記ポリマーの少なくとも1種の前駆体、少なくとも1種の固形滑剤、固形性を高めるための所望による少なくとも1種の添加剤、並びに少なくとも1種の溶媒を含む、摩擦応力にさらされる表面上にコーティングを形成させるための減摩ラッカーであって、
前記ポリマー又は前記少なくとも1種の前駆体の分子構造が、繰り返しモノマー単位の主鎖を有するか、又は前記前駆体が、前記主鎖の一部を形成するこのモノマー単位であり、
少なくとも、前記分子構造の主鎖又は主鎖部分が、完全な共役結合系を有することを特徴とする、
前記減摩ラッカー。
【請求項2】
前記ポリマー又は前記前駆体が、好ましくは長手方向に伸びる延長部を有する、少なくともおおよそ糸様の分子構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の減摩ラッカー。
【請求項3】
前記ポリマーが、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミド−イミドを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の減摩ラッカー。
【請求項4】
前記少なくとも1種の固形滑剤が、WS2、MoS2、グラファイト、Sn、SnS、SnS2を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の減摩ラッカー。
【請求項5】
固形分に対して、下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択される割合におけるWS2、下限値2重量%及び上限値8%の範囲から選択される割合におけるSn、及び下限値12%及び上限値23%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余がポリマーによって形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の減摩ラッカー。
【請求項6】
固形分に対して、下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択される割合におけるSnS、SnS2の混合物、下限値2重量%及び上限値8%の範囲から選択される割合におけるSn、下限値12%及び上限値21%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余がポリマーによって形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の減摩ラッカー。
【請求項7】
固形分に対して、下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択される割合におけるMoS2、下限値12%及び上限値21%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余がポリマーによって形成されていることを特徴とする、請求項4に記載の減摩ラッカー。
【請求項8】
支持要素(2)と、ポリマー、少なくとも1種の固形滑剤及び固形性を高めるための所望による少なくとも1種の添加剤を含み、当該支持要素(2)の上に配置されているポリマー層(4)とを含むベアリング要素(1)であって、
前記ポリマーが、モノマー単位により形成される主鎖を有し、
そして所望により、少なくとも1種の他の層(特に、金属層)が、支持要素(2)及びポリマー層(4)の間に配置されており、
少なくとも前記ポリマーの主鎖が、完全な共役結合系を有することを特徴とする、
前記ベアリング要素(1)。
【請求項9】
前記ポリマーが、好ましくは長手方向に伸びる延長部を有する、少なくともおおよそ糸様の分子構造を有することを特徴とする、請求項8に記載のベアリング要素(1)。
【請求項10】
前記ポリマーが、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミド−イミドを含む群から選択されることを特徴とする、請求項8又は9に記載のベアリング要素(1)。
【請求項11】
前記少なくとも1種の固形滑剤が、WS2、MoS2、グラファイト、Sn、SnS、SnS2を含む群から選択されることを特徴とする、請求項8〜10のいずれか一項に記載のベアリング要素(1)。
【請求項12】
固形分に対して、下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択される割合におけるWS2、下限値2重量%及び上限値8%の範囲から選択される割合におけるSn、及び下限値12%及び上限値23%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余がポリマーによって形成されていることを特徴とする、請求項11に記載のベアリング要素(1)。
【請求項13】
固形分に対して、下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択される割合におけるSnS、SnS2の混合物、下限値2重量%及び上限値8%の範囲から選択される割合におけるSn、下限値12%及び上限値21%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余がポリマーによって形成されていることを特徴とする、請求項11に記載のベアリング要素(1)。
【請求項14】
固形分に対して、下限値17重量%及び上限値29重量%の範囲から選択される割合におけるMoS2、下限値12%及び上限値21%の範囲から選択される割合におけるグラファイトを含み、残余がポリマーによって形成されていることを特徴とする、請求項11に記載のベアリング要素(1)。
【請求項15】
前記他の層が、青銅又は黄銅材料のベアリング金属層(3)であることを特徴とする、請求項8〜14のいずれか一項に記載のベアリング要素(1)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−149884(P2009−149884A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−315686(P2008−315686)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(504101245)ミーバ グライトラガー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (16)
【Fターム(参考)】