ベスト式抑制具
【課題】装着者の身体を確実に寝具上に固定しつつ装着者の腋窩への負担を軽減したベスト式抑制具を提供することを課題とする。
【解決手段】ベスト式抑制具10は、寝具上の設定位置に固定される後身頃14と、後身頃14に取付けられた左前身頃16L及び右前身頃16Rと、を備えている。左前身頃16Lには、装着者Hの腋窩ELに当接するクッション64Lが取付けられている。このクッション64Lは、左前身頃16Lのアームホール下端位置に縫い付けられた中央上抑制帯土台58LMと、この中央上抑制帯土台58LMに縫い付けられた中央上抑制帯60LMと、の両方に縫い付けられている。右前身頃16Rにも、同様に、装着者Hの腋窩ERに当接するクッション64Rが取付けられている。
【解決手段】ベスト式抑制具10は、寝具上の設定位置に固定される後身頃14と、後身頃14に取付けられた左前身頃16L及び右前身頃16Rと、を備えている。左前身頃16Lには、装着者Hの腋窩ELに当接するクッション64Lが取付けられている。このクッション64Lは、左前身頃16Lのアームホール下端位置に縫い付けられた中央上抑制帯土台58LMと、この中央上抑制帯土台58LMに縫い付けられた中央上抑制帯60LMと、の両方に縫い付けられている。右前身頃16Rにも、同様に、装着者Hの腋窩ERに当接するクッション64Rが取付けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベスト式抑制具に関するものであり、特に、患者の体幹全体を安全かつ確実に抑制するのに最適なベスト式抑制具に関する。
【背景技術】
【0002】
患者等の人間をベッドなどの寝具に固定するベスト式抑制具が知られている。このベスト式抑制具は、特に、動きの激しい患者を固定することに用いられている。
ところで、ベスト式抑制具は、肩抑制と体幹抑制とで固定する方式、すなわち、肩と腰との2箇所を抑制することで寝具に固定する方式が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平02−136010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のベスト式抑制具では、肩と腰の2箇所で支えるだけで抑制するため、体幹が崩れ落ち易く、装着者の腋窩に作用する支持力で装着者が不快な痛みを感じるという懸念がある。このことは、特に体動の激しい患者に対して顕著である。
本発明は、上記事実を考慮して、装着者の身体を確実に寝具上に固定しつつ装着者の腋窩への負担を軽減したベスト式抑制具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、装着者の背面側に位置する後身頃と、前記後身頃に取付けられ、前記後身頃とで装着者の上半身を包み込む前身頃と、前記後身頃又は前記前身頃の少なくとも一方に設けられ、寝具に固定される固定部材と、前記後身頃と前記前身頃とで装着者の上半身を包み込んだときに両腋窩に当接する位置の前記後身頃又は前記前身頃にそれぞれ配置されたクッションと、を有する。
前身頃は1枚で構成されていてもよいし、右前身頃及び左前身頃の2枚で構成されていてもよい。
請求項1に記載の発明では、装着者に腋窩で支える力が身頃を介して作用しても、クッションによって腋窩及びその周囲に力が作用する。従って、腋窩の一部に集中力が作用することが回避されるので、装着者が感じる不快な痛みを大幅に和らげることができ、装着者の腋窩への負担が軽減される。そして、このように装着者が感じる不快な痛みを大幅に和らげても、装着者の身体を確実に寝具(例えばベッド)上に固定することができる。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記後身頃と前記前身頃とで形成されて装着者の両腕が通るアームホールの下端側に、前記固定部材が縫い付けられる土台が設けられ、前記クッションが前記土台に取付けられている。
これにより、クッションが腋窩に好ましい状態で当接するように前身頃から脇側へはみ出した位置にしても、クッションを強い固定力で固定することができる。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記前身頃が、装着者の正面側で連結される左前身頃と右前身頃とで構成されている。
これにより、装着者の胸囲寸法やウェスト寸法の違いによらずに、装着者を短時間で簡単に寝具上に固定することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明は、前記後身頃と前記左前身頃とで形成されて装着者の左腕が通るアームホールの上端側が互いに着脱自在とされ、前記後身頃と前記右前身頃とで形成されて装着者の右腕が通るアームホールの上端側も互いに着脱自在とされている。
これにより、アームホールの上端側が開放されている状態で装着者の腕をアームホール内へ配置し、その後にアームホールの上端側を閉じることができる。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記前身頃及び前記後身頃の外側から装着者の上腹部を締付ける上ベルトと、前記前身頃及び前記後身頃の外側から装着者の下腹部を締付ける下ベルトと、を備えている。
これにより、体幹が身長方向に移動しないように確実に支えることができる。
【0010】
請求項6に記載の発明は、前記前身頃の内側に、芳香材を入れる内ポケットが設けられている。
請求項6に記載の発明では、芳香材が体温で暖められて香りが漂いやすくなり、この香りが装着者の鼻に到達しやすい。
芳香材としては、例えばアロマ効果のある植物、精油の固形物等である。これにより、装着者が体動の激しい患者である場合に香りで落ち着かせることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、装着者の身体を確実に寝具上に固定しつつ装着者の腋窩への負担を軽減したベスト式抑制具とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の正面図。
【図2】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の後身頃の背面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の後身頃の内側を示す裏面図。
【図4】図4(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の右前身頃の正面図、及び、右前身頃の内側を示す裏面図。
【図5】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の左前身頃の正面図。
【図6】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の抑制帯の正面図。
【図7】図7(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具のクッションを説明する平面図、及び、図7(A)の断面7B−7Bの構成を説明する説明図。
【図8】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の抑制帯の部分拡大図。
【図9】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の抑制帯のバックルを示す正面図。
【図10】図10(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の抑制帯の使用形態を説明する説明図。
【図11】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具で、右前身頃の正面中央の面ファスナーと左前身頃の正面中央の面ファスナーとの着脱を説明する平面図。
【図12】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具を装着者に装着することを説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。図1〜図5に示すように、本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具10は、寝具上の設定位置に固定され、装着者の背面側が位置する後身頃14と、後身頃14に着脱自在に取付けられ、後身頃14とで装着者の上半身を包み込む前身頃16と、を備えている。前身頃16は、着衣時に装着者H(着衣者)の前左側を覆う左前身頃16Lと、着衣時に装着者の前右側を覆う右前身頃16Rとで構成される。
【0014】
前身頃16及び後身頃14の生地は柄物を使用してカジュアルウェアの要素を取り入れ、外観上の抑制感がないように倫理的配慮をする。柄は濃色面積が少ないものを選び、患者が出血していたらすぐにわかるものにする。前身頃16及び後身頃14の表地・裏地は例えば綿100%のブロード地で、比較的薄く柔らか目のものを使用する。そして、生地の間に中綿(例えばポリエステル100%の薄いもの)を入れてキルティング加工を施すことにより支持力を強化し、生地・中綿の薄さにより中に熱が籠らないようにする。このようにすると前身頃16及び後身頃14に熱を籠らせないことができ、体温の高い装着者H(患者)にも快適に使用できる。生地と中綿の間にはスパンボンド不織布を入れて縫製後や洗濯後に中綿が表に出てこないように工夫している。
【0015】
図3に示すように、後身頃14の内側(裏面側)でベスト左右両側には、一列に配列された面ファスナー20L、20Rがそれぞれ固定されている。また、後身頃14の内側でベスト両肩部にもそれぞれ面ファスナー22L、22Rが固定されている。
【0016】
図4(A)及び(B)に示すように、右前身頃16Rの正面右側端部には、面ファスナー20Rに着脱自在に連結される面ファスナー30Rが一列に固定されている。ここで、この面ファスナー30Rが固定されている右前身頃16Rの正面右側端部は内側へ折り曲げられており、折り曲げた部分の装着者側の面に面ファスナー30Rが固定されている。そして、右前身頃16Rの肩部にも、後身頃14の面ファスナー22Rに固定される面ファスナー32Rが固定されている。右前身頃16Rの肩部端部も内側へ折り曲げられており、折り曲げられた部分の装着者側の面に面ファスナー32Rが固定されている。
【0017】
同様に、図5に示すように、左前身頃16Lの正面左側端部には、面ファスナー20Lに着脱自在に連結される面ファスナー30Lが一列に固定されている。右前身頃16Rと同様、この面ファスナー30Lが固定されている左前身頃16Lの正面左側端部は内側へ折り曲げられており、折り曲げた部分の装着者側の面に面ファスナー30Lが固定されている。そして、左前身頃16Lの肩部にも、後身頃14の面ファスナー22Lに固定される面ファスナー32Lが固定されている。左前身頃16Lの肩部端部も内側へ折り曲げられており、折り曲げられた部分の装着者側の面にこの面ファスナー32Lが固定されている。
【0018】
そして、図4、図5、図11に示すように、右前身頃16Rの正面左側(装着者の中央側)には、外側に4つの面ファスナー36Rが一列に固定され、左前身頃16Lの正面右側(装着者の中央側)には、この4つの面ファスナー36Rにそれぞれ着脱自在に連結される4つの面ファスナー36Lが一列に固定されている。
【0019】
装着者Hの正面中央側に位置する面ファスナー36R、36L、及び、装着者Hの肩部に位置する面ファスナー22L、22R、32L、32Rは、例えば、5cm巾を9cmにカットしたものである。装着者Hの左右両側に位置する面ファスナー30L、30Rは、例えば、5cm巾で8cmにカットしたものである。何れの面ファスナーであっても身巾調節が可能であり、装着者Hの正面中央側の面ファスナー、及び、装着者Hの左右両側の面ファスナー、の両方で調節すればかなり広範囲でサイズ調節ができる(着丈は、例えば55〜57cmであり、身巾は例えば80〜106cmである)。面ファスナーとしては、寸法が大きいほうが広範囲のサイズ対応ができて好ましい。
【0020】
また、後身頃14には、装着者Hの上腹部を締付ける上ベルト40L、40Rが、ベスト式抑制具10の左右両側から延び出している。上ベルト40L、40Rの一端部は、何れも、後身頃14の背面外側に端部で縫い付けられており、上ベルト40L、40Rの他端部には、それぞれ、互いに連結し合う一対のバックル42、44(図9、図10参照)が設けられている。従って、ベスト前側でバックル42、44の連結、連結解除の切替が簡単に行われる。更に、上ベルト40に設けられたベルト長さ調整具46を移動させることで、簡単にサイズ調節ができる。
【0021】
また、後身頃14には、装着者Hの下腹部を締付ける下ベルト50L、50Rが、ベスト式抑制具10の左右両側から延び出している。下ベルト50L、50Rについても上ベルト40L、40Rと同様の構成にされている。
そして、上ベルト40L、40R、下ベルト50L、50Rでは、バックル42、44及びベルト長さ調整具46以外はすべて繊維のみで構成されている。従って、ベルトを外せば装着したままレントゲン撮影ができる構成になっている。
【0022】
なお、上ベルト40L、40R、下ベルト50L、50Rとして、後述の抑制帯60と同じものに前身頃16と同色同柄の素材を表裏重ねて使用することで、特に外観上、抑制感が更になくなるという効果を奏することができる。また、バックル42、44及びベルト長さ調整具46を金属製にせずにカバンに使用されるような強化プラスチック製とすることで、抑制具のイメージを軽減することができる。
【0023】
また、後身頃14には7ヶ所(両肩部にそれぞれ1ヶ所ずつ、首部に1ヶ所、腹部の左右両側にそれぞれ2ヶ所ずつの計7ヶ所)にそれぞれ抑制帯土台58B(図2参照)が縫い付けられている。そして、一端部で各抑制帯土台58Bに縫い付けられ、他端部でベッドなど(図示せず)に結ばれて固定される7本の抑制帯60Bが設けられている。
【0024】
また、後身頃14と左前身頃16Lとで形成されて装着者Hの左腕が通るアームホール15Lの下端位置の左前身頃16Lにも抑制帯土台58L(図1、図5参照)が縫い付けられている。そして、一端部で抑制帯土台58Lに縫い付けられ他端部でベッドなど(図示せず)に結ばれて固定される抑制帯60Lが設けられている。更に、左前身頃16Lの腹部位置、及び、肩部位置にもそれぞれ抑制帯土台58Lが縫い付けられており、各抑制帯土台58Lに抑制帯60Lが一端部で縫い付けられている。
【0025】
後身頃14と右前身頃16Rとで形成されて装着者Hの右腕が通るアームホール15Rの下端位置の右前身頃16Rにも抑制帯土台58R(図1、図4、図6、図8参照)が縫い付けられている。そして、一端部で抑制帯土台58Rに縫い付けられ他端部でベッドなど(図示せず)に結ばれて固定される抑制帯60Rが設けられている。更に、右前身頃16Rの腹部位置、及び、肩部位置にもそれぞれ抑制帯土台58Rが縫い付けられており、各抑制帯土台58Rに抑制帯60Rが一端部で縫い付けられている。
これらの抑制帯60B、60L、60Rで、前身頃と後身頃とでそれぞれ対になる2本をベッドに7ヵ所縛り、加えられる引張り力を分散する仕組みになっている。
【0026】
左前身頃16Lのアームホール下端位置に縫い付けられた抑制帯土台58L(以下、この位置の抑制帯土台58Lのことを中央上抑制帯土台58LMという)、及び、中央上抑制帯土台58LMに端部が縫い付けられた抑制帯60L(以下、この抑制帯60Lのことを中央上抑制帯60LMという)には、クッション64Lが縫い付けられている。これにより、後身頃14と前身頃16とで装着者Hの上半身を包み込んだときにクッション64Lが腋窩EL(図1参照)に好ましい状態で当接するように、前身頃16から脇側へはみ出した位置にしても、クッション64Lを強い固定力で固定することができる。
右前身頃16Rについても同様に、アームホール下端位置に縫い付けられた抑制帯土台58R(以下、中央上抑制帯土台58RMという)、及び、中央上抑制帯土台58RMに端部が縫い付けられた抑制帯60R(以下、この抑制帯60Rのことを中央上抑制帯60RMという)に、腋窩ER(図1参照)に好ましい状態で当接するようにクッション64Rが縫い付けられている。
【0027】
図7(A)に示すように、クッション64Lは、中央上抑制帯土台58LM及び中央上抑制帯60LMを正面側及び背面側から挟むことができるように、長手方向の中央位置で二つ折で取り付ける構造にされている。クッション64Lの表地には起毛された柔らかい素材(例えばフランネル)を使用し、中綿は肩パットで使用するような密度の高い素材を使用してクッション性を高める。具体例としては、例えば図7(B)に示すように、重ねられた5枚の中綿と、その両外面側に設けられたスパンボンド不織布と、更にその両外面側に設けられたフランネル(生地)と、でクッション64Lが構成される。なお、フランネルに代えて、起毛した柔らかい綿100%の素材としてもよい。クッション64Lは、脇にかかる圧力を和らげるためのもので、圧がかかっても肌を傷つけないように工夫されている。中綿についてはやや密度を高くしてクッション性を高めている。
クッション64Rについても同様の構成である。
【0028】
また、図4(B)に示すように、右前身頃16Rの見返し内には、芳香材を入れる内ポケット70が設けられている。この内ポケット70はスレキを使用した袋状のポケットである。そして、この内ポケット70が設けられた位置は、体温で暖められ易い位置である。従って、芳香材が体温で暖められて香りが漂いやすくなり、この香りが装着者の鼻に到達しやすい。芳香材としては、例えばアロマ効果のある植物や精油を含んだ揮発性の固形物である。これにより、装着者が体動の激しい患者である場合に香りで落ち着かせることができるという効果を奏する。
そして、内ポケット70の位置がちょうど胸の中心にあり、装着者Hが暴れるほど体温により温められた香りが上へ上がってくる仕組みになっている。なお、使用後の植物のゴミは袋状のポケットにより取り出し易い。
【0029】
なお、抑制帯60は、クッション64の表地と同素材で、起毛した柔らかい綿100%の生地を二枚仕立てにして、ポリエステル65%・綿35%のバイアステープで縁を挟んだものである。抑制帯60の長さは、例えば、ベッドに最も縛り易い1m(実験結果に基づく)である。
【0030】
抑制帯60の巾は例えば4.8cmである。また、抑制帯土台58を取り付け、しかも抑制帯土台58の基底部分の巾を抑制帯巾の2倍にすることで、瞬時にかかる高圧を分散できる。これにより、前身頃16や後身頃14に抑制帯60を直接に取り付けると抑制帯60の一点に高い引張り力がかかることで耐久性が弱くなる懸念や、これを解消するために抑制帯60を太くすると縛り辛くなってしまうという懸念はない。
【0031】
以上説明したように、本実施形態では、ベッド上の設定位置に固定される後身頃14と、後身頃14に取付けられた前身頃16(右前身頃16R及び左前身頃16L)と、を備えている。そして、前身頃16には、身頃の装着者Hの腋窩Eに当接するクッション64が配置されている。これにより、装着者Hに腋窩Eで支える力が作用しても、クッション64によって腋窩E及びその周囲に力が作用する。従って、腋窩Eの一部に集中力が作用することが回避されるので、装着者Hが感じる不快な痛みを大幅に和らげることができ、装着者Hの腋窩Eへの負担が軽減される。しかも、クッション64は、両腋窩EL、ERに当接するように左右両側に配置されている。これにより、両側の腋窩で装着者Hへの負担が軽減される。そして、このように装着者Hが感じる不快な痛みを大幅に和らげても、従来と同様、装着者Hの身体を確実に寝具(例えばベッド)上に固定することができる。
【0032】
このことは、認知力が低下している患者や体動が激しい患者に対しても、腋窩Eへの痛み軽減のために抑制帯60に加えられる引張り力を軽減させなくても済むという大きな効果をもたらす。従って、患者の体動により身体に傷が付くこと、及び、点滴や気管挿管や胃管等を自己抜去することを回避する上で好ましい。また、両腋窩E(EL、ER)に褥瘡が形成されることを防止する上でも好ましい。
【0033】
更に、クッション64の表面側は、起毛された柔らかい生地が使用されているので、装着者Hに褥瘡が生じることを更に防止できる。
また、クッション64が設けられていることで、外観上、縛り付けているような感覚を与えない。
【0034】
また、前身頃16及び後身頃14の外周側から装着者Hの上腹部を締付ける上ベルト40と、前身頃16及び後身頃14の外周側から装着者Hの下腹部を締付ける下ベルト50と、がベスト式抑制具10に設けられている。これにより、ベスト式抑制具10が装着者Hの体幹にフィットし、ベッドアップ時などに装着者Hが身長方向にずれ落ちすることを防止できる。
【0035】
また、前身頃16が、装着者Hの正面側で互いに連結される左前身頃16Lと右前身頃16Rとで構成されている。これにより、後身頃14をベッドに取り付け、面ファスナー20R、30Rを互いに連結させて後身頃14に右前身頃16Rを取り付け、更に、面ファスナー30L、20Lを互いに連結させて後身頃14に左前身頃16Lを取り付け、装着者H(患者)をベッドに寝かせて(図12参照)、面ファスナー36R、36Lを互いに連結させて、すなわち右前身頃16Rと左前身頃16Lとを装着者正面側で連結し、面ファスナー22R、32R及び面ファスナー22L、32Lを互いに連結することで簡単にベスト式抑制具10を装着者Hに装着させることができ、脱がせる時は面ファスナーを外すだけで簡単に前身頃16が取り外せる。そして、これらのことが、装着者Hの胸囲やウェストの寸法の違いによらずに短時間で行うことができる。なお、右前身頃16R、左前身頃16Lを後身頃14に連結する前に後身頃16R上に装着者Hを寝かせ、右前身頃16R、左前身頃16Lを順に装着者Hにかぶせて面ファスナーを連結させてもよい。
【0036】
そして、前身頃16と後身頃14とは面ファスナーで着脱自在に互いに固定されている。これにより、装着者Hの胸囲やウェストの寸法の違いによらずに装着者Hをベスト式抑制具10で確実にしかもワンタッチで寝具上に固定することができる。
【0037】
また、装着者Hの身体から後身頃14にかかる力を7本の抑制帯60で分散し、生地(例えばキルティング加工を施した生地)で体幹全体を覆うことにより、支持力が強化されている。
更に、抑制帯60と身頃(前身頃16や後身頃14)との接続部位に抑制帯土台58を設けて基底部分を広範囲にとることで、瞬時にかかる強い引っ張り力を分散させることができる。
【0038】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、上記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
10 ベスト式抑制具
14 後身頃
15L アームホール
15R アームホール
16 前身頃
16L 左前身頃
16R 右前身頃
40 上ベルト
50 下ベルト
60 抑制帯(固定部材)
58 抑制帯土台(土台)
64 クッション
70 内ポケット
E 腋窩
H 装着者
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベスト式抑制具に関するものであり、特に、患者の体幹全体を安全かつ確実に抑制するのに最適なベスト式抑制具に関する。
【背景技術】
【0002】
患者等の人間をベッドなどの寝具に固定するベスト式抑制具が知られている。このベスト式抑制具は、特に、動きの激しい患者を固定することに用いられている。
ところで、ベスト式抑制具は、肩抑制と体幹抑制とで固定する方式、すなわち、肩と腰との2箇所を抑制することで寝具に固定する方式が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平02−136010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のベスト式抑制具では、肩と腰の2箇所で支えるだけで抑制するため、体幹が崩れ落ち易く、装着者の腋窩に作用する支持力で装着者が不快な痛みを感じるという懸念がある。このことは、特に体動の激しい患者に対して顕著である。
本発明は、上記事実を考慮して、装着者の身体を確実に寝具上に固定しつつ装着者の腋窩への負担を軽減したベスト式抑制具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、装着者の背面側に位置する後身頃と、前記後身頃に取付けられ、前記後身頃とで装着者の上半身を包み込む前身頃と、前記後身頃又は前記前身頃の少なくとも一方に設けられ、寝具に固定される固定部材と、前記後身頃と前記前身頃とで装着者の上半身を包み込んだときに両腋窩に当接する位置の前記後身頃又は前記前身頃にそれぞれ配置されたクッションと、を有する。
前身頃は1枚で構成されていてもよいし、右前身頃及び左前身頃の2枚で構成されていてもよい。
請求項1に記載の発明では、装着者に腋窩で支える力が身頃を介して作用しても、クッションによって腋窩及びその周囲に力が作用する。従って、腋窩の一部に集中力が作用することが回避されるので、装着者が感じる不快な痛みを大幅に和らげることができ、装着者の腋窩への負担が軽減される。そして、このように装着者が感じる不快な痛みを大幅に和らげても、装着者の身体を確実に寝具(例えばベッド)上に固定することができる。
【0006】
請求項2に記載の発明は、前記後身頃と前記前身頃とで形成されて装着者の両腕が通るアームホールの下端側に、前記固定部材が縫い付けられる土台が設けられ、前記クッションが前記土台に取付けられている。
これにより、クッションが腋窩に好ましい状態で当接するように前身頃から脇側へはみ出した位置にしても、クッションを強い固定力で固定することができる。
【0007】
請求項3に記載の発明は、前記前身頃が、装着者の正面側で連結される左前身頃と右前身頃とで構成されている。
これにより、装着者の胸囲寸法やウェスト寸法の違いによらずに、装着者を短時間で簡単に寝具上に固定することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明は、前記後身頃と前記左前身頃とで形成されて装着者の左腕が通るアームホールの上端側が互いに着脱自在とされ、前記後身頃と前記右前身頃とで形成されて装着者の右腕が通るアームホールの上端側も互いに着脱自在とされている。
これにより、アームホールの上端側が開放されている状態で装着者の腕をアームホール内へ配置し、その後にアームホールの上端側を閉じることができる。
【0009】
請求項5に記載の発明は、前記前身頃及び前記後身頃の外側から装着者の上腹部を締付ける上ベルトと、前記前身頃及び前記後身頃の外側から装着者の下腹部を締付ける下ベルトと、を備えている。
これにより、体幹が身長方向に移動しないように確実に支えることができる。
【0010】
請求項6に記載の発明は、前記前身頃の内側に、芳香材を入れる内ポケットが設けられている。
請求項6に記載の発明では、芳香材が体温で暖められて香りが漂いやすくなり、この香りが装着者の鼻に到達しやすい。
芳香材としては、例えばアロマ効果のある植物、精油の固形物等である。これにより、装着者が体動の激しい患者である場合に香りで落ち着かせることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、装着者の身体を確実に寝具上に固定しつつ装着者の腋窩への負担を軽減したベスト式抑制具とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の正面図。
【図2】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の後身頃の背面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の後身頃の内側を示す裏面図。
【図4】図4(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の右前身頃の正面図、及び、右前身頃の内側を示す裏面図。
【図5】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の左前身頃の正面図。
【図6】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の抑制帯の正面図。
【図7】図7(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具のクッションを説明する平面図、及び、図7(A)の断面7B−7Bの構成を説明する説明図。
【図8】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の抑制帯の部分拡大図。
【図9】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の抑制帯のバックルを示す正面図。
【図10】図10(A)及び(B)は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具の抑制帯の使用形態を説明する説明図。
【図11】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具で、右前身頃の正面中央の面ファスナーと左前身頃の正面中央の面ファスナーとの着脱を説明する平面図。
【図12】本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具を装着者に装着することを説明する平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。図1〜図5に示すように、本発明の一実施形態に係るベスト式抑制具10は、寝具上の設定位置に固定され、装着者の背面側が位置する後身頃14と、後身頃14に着脱自在に取付けられ、後身頃14とで装着者の上半身を包み込む前身頃16と、を備えている。前身頃16は、着衣時に装着者H(着衣者)の前左側を覆う左前身頃16Lと、着衣時に装着者の前右側を覆う右前身頃16Rとで構成される。
【0014】
前身頃16及び後身頃14の生地は柄物を使用してカジュアルウェアの要素を取り入れ、外観上の抑制感がないように倫理的配慮をする。柄は濃色面積が少ないものを選び、患者が出血していたらすぐにわかるものにする。前身頃16及び後身頃14の表地・裏地は例えば綿100%のブロード地で、比較的薄く柔らか目のものを使用する。そして、生地の間に中綿(例えばポリエステル100%の薄いもの)を入れてキルティング加工を施すことにより支持力を強化し、生地・中綿の薄さにより中に熱が籠らないようにする。このようにすると前身頃16及び後身頃14に熱を籠らせないことができ、体温の高い装着者H(患者)にも快適に使用できる。生地と中綿の間にはスパンボンド不織布を入れて縫製後や洗濯後に中綿が表に出てこないように工夫している。
【0015】
図3に示すように、後身頃14の内側(裏面側)でベスト左右両側には、一列に配列された面ファスナー20L、20Rがそれぞれ固定されている。また、後身頃14の内側でベスト両肩部にもそれぞれ面ファスナー22L、22Rが固定されている。
【0016】
図4(A)及び(B)に示すように、右前身頃16Rの正面右側端部には、面ファスナー20Rに着脱自在に連結される面ファスナー30Rが一列に固定されている。ここで、この面ファスナー30Rが固定されている右前身頃16Rの正面右側端部は内側へ折り曲げられており、折り曲げた部分の装着者側の面に面ファスナー30Rが固定されている。そして、右前身頃16Rの肩部にも、後身頃14の面ファスナー22Rに固定される面ファスナー32Rが固定されている。右前身頃16Rの肩部端部も内側へ折り曲げられており、折り曲げられた部分の装着者側の面に面ファスナー32Rが固定されている。
【0017】
同様に、図5に示すように、左前身頃16Lの正面左側端部には、面ファスナー20Lに着脱自在に連結される面ファスナー30Lが一列に固定されている。右前身頃16Rと同様、この面ファスナー30Lが固定されている左前身頃16Lの正面左側端部は内側へ折り曲げられており、折り曲げた部分の装着者側の面に面ファスナー30Lが固定されている。そして、左前身頃16Lの肩部にも、後身頃14の面ファスナー22Lに固定される面ファスナー32Lが固定されている。左前身頃16Lの肩部端部も内側へ折り曲げられており、折り曲げられた部分の装着者側の面にこの面ファスナー32Lが固定されている。
【0018】
そして、図4、図5、図11に示すように、右前身頃16Rの正面左側(装着者の中央側)には、外側に4つの面ファスナー36Rが一列に固定され、左前身頃16Lの正面右側(装着者の中央側)には、この4つの面ファスナー36Rにそれぞれ着脱自在に連結される4つの面ファスナー36Lが一列に固定されている。
【0019】
装着者Hの正面中央側に位置する面ファスナー36R、36L、及び、装着者Hの肩部に位置する面ファスナー22L、22R、32L、32Rは、例えば、5cm巾を9cmにカットしたものである。装着者Hの左右両側に位置する面ファスナー30L、30Rは、例えば、5cm巾で8cmにカットしたものである。何れの面ファスナーであっても身巾調節が可能であり、装着者Hの正面中央側の面ファスナー、及び、装着者Hの左右両側の面ファスナー、の両方で調節すればかなり広範囲でサイズ調節ができる(着丈は、例えば55〜57cmであり、身巾は例えば80〜106cmである)。面ファスナーとしては、寸法が大きいほうが広範囲のサイズ対応ができて好ましい。
【0020】
また、後身頃14には、装着者Hの上腹部を締付ける上ベルト40L、40Rが、ベスト式抑制具10の左右両側から延び出している。上ベルト40L、40Rの一端部は、何れも、後身頃14の背面外側に端部で縫い付けられており、上ベルト40L、40Rの他端部には、それぞれ、互いに連結し合う一対のバックル42、44(図9、図10参照)が設けられている。従って、ベスト前側でバックル42、44の連結、連結解除の切替が簡単に行われる。更に、上ベルト40に設けられたベルト長さ調整具46を移動させることで、簡単にサイズ調節ができる。
【0021】
また、後身頃14には、装着者Hの下腹部を締付ける下ベルト50L、50Rが、ベスト式抑制具10の左右両側から延び出している。下ベルト50L、50Rについても上ベルト40L、40Rと同様の構成にされている。
そして、上ベルト40L、40R、下ベルト50L、50Rでは、バックル42、44及びベルト長さ調整具46以外はすべて繊維のみで構成されている。従って、ベルトを外せば装着したままレントゲン撮影ができる構成になっている。
【0022】
なお、上ベルト40L、40R、下ベルト50L、50Rとして、後述の抑制帯60と同じものに前身頃16と同色同柄の素材を表裏重ねて使用することで、特に外観上、抑制感が更になくなるという効果を奏することができる。また、バックル42、44及びベルト長さ調整具46を金属製にせずにカバンに使用されるような強化プラスチック製とすることで、抑制具のイメージを軽減することができる。
【0023】
また、後身頃14には7ヶ所(両肩部にそれぞれ1ヶ所ずつ、首部に1ヶ所、腹部の左右両側にそれぞれ2ヶ所ずつの計7ヶ所)にそれぞれ抑制帯土台58B(図2参照)が縫い付けられている。そして、一端部で各抑制帯土台58Bに縫い付けられ、他端部でベッドなど(図示せず)に結ばれて固定される7本の抑制帯60Bが設けられている。
【0024】
また、後身頃14と左前身頃16Lとで形成されて装着者Hの左腕が通るアームホール15Lの下端位置の左前身頃16Lにも抑制帯土台58L(図1、図5参照)が縫い付けられている。そして、一端部で抑制帯土台58Lに縫い付けられ他端部でベッドなど(図示せず)に結ばれて固定される抑制帯60Lが設けられている。更に、左前身頃16Lの腹部位置、及び、肩部位置にもそれぞれ抑制帯土台58Lが縫い付けられており、各抑制帯土台58Lに抑制帯60Lが一端部で縫い付けられている。
【0025】
後身頃14と右前身頃16Rとで形成されて装着者Hの右腕が通るアームホール15Rの下端位置の右前身頃16Rにも抑制帯土台58R(図1、図4、図6、図8参照)が縫い付けられている。そして、一端部で抑制帯土台58Rに縫い付けられ他端部でベッドなど(図示せず)に結ばれて固定される抑制帯60Rが設けられている。更に、右前身頃16Rの腹部位置、及び、肩部位置にもそれぞれ抑制帯土台58Rが縫い付けられており、各抑制帯土台58Rに抑制帯60Rが一端部で縫い付けられている。
これらの抑制帯60B、60L、60Rで、前身頃と後身頃とでそれぞれ対になる2本をベッドに7ヵ所縛り、加えられる引張り力を分散する仕組みになっている。
【0026】
左前身頃16Lのアームホール下端位置に縫い付けられた抑制帯土台58L(以下、この位置の抑制帯土台58Lのことを中央上抑制帯土台58LMという)、及び、中央上抑制帯土台58LMに端部が縫い付けられた抑制帯60L(以下、この抑制帯60Lのことを中央上抑制帯60LMという)には、クッション64Lが縫い付けられている。これにより、後身頃14と前身頃16とで装着者Hの上半身を包み込んだときにクッション64Lが腋窩EL(図1参照)に好ましい状態で当接するように、前身頃16から脇側へはみ出した位置にしても、クッション64Lを強い固定力で固定することができる。
右前身頃16Rについても同様に、アームホール下端位置に縫い付けられた抑制帯土台58R(以下、中央上抑制帯土台58RMという)、及び、中央上抑制帯土台58RMに端部が縫い付けられた抑制帯60R(以下、この抑制帯60Rのことを中央上抑制帯60RMという)に、腋窩ER(図1参照)に好ましい状態で当接するようにクッション64Rが縫い付けられている。
【0027】
図7(A)に示すように、クッション64Lは、中央上抑制帯土台58LM及び中央上抑制帯60LMを正面側及び背面側から挟むことができるように、長手方向の中央位置で二つ折で取り付ける構造にされている。クッション64Lの表地には起毛された柔らかい素材(例えばフランネル)を使用し、中綿は肩パットで使用するような密度の高い素材を使用してクッション性を高める。具体例としては、例えば図7(B)に示すように、重ねられた5枚の中綿と、その両外面側に設けられたスパンボンド不織布と、更にその両外面側に設けられたフランネル(生地)と、でクッション64Lが構成される。なお、フランネルに代えて、起毛した柔らかい綿100%の素材としてもよい。クッション64Lは、脇にかかる圧力を和らげるためのもので、圧がかかっても肌を傷つけないように工夫されている。中綿についてはやや密度を高くしてクッション性を高めている。
クッション64Rについても同様の構成である。
【0028】
また、図4(B)に示すように、右前身頃16Rの見返し内には、芳香材を入れる内ポケット70が設けられている。この内ポケット70はスレキを使用した袋状のポケットである。そして、この内ポケット70が設けられた位置は、体温で暖められ易い位置である。従って、芳香材が体温で暖められて香りが漂いやすくなり、この香りが装着者の鼻に到達しやすい。芳香材としては、例えばアロマ効果のある植物や精油を含んだ揮発性の固形物である。これにより、装着者が体動の激しい患者である場合に香りで落ち着かせることができるという効果を奏する。
そして、内ポケット70の位置がちょうど胸の中心にあり、装着者Hが暴れるほど体温により温められた香りが上へ上がってくる仕組みになっている。なお、使用後の植物のゴミは袋状のポケットにより取り出し易い。
【0029】
なお、抑制帯60は、クッション64の表地と同素材で、起毛した柔らかい綿100%の生地を二枚仕立てにして、ポリエステル65%・綿35%のバイアステープで縁を挟んだものである。抑制帯60の長さは、例えば、ベッドに最も縛り易い1m(実験結果に基づく)である。
【0030】
抑制帯60の巾は例えば4.8cmである。また、抑制帯土台58を取り付け、しかも抑制帯土台58の基底部分の巾を抑制帯巾の2倍にすることで、瞬時にかかる高圧を分散できる。これにより、前身頃16や後身頃14に抑制帯60を直接に取り付けると抑制帯60の一点に高い引張り力がかかることで耐久性が弱くなる懸念や、これを解消するために抑制帯60を太くすると縛り辛くなってしまうという懸念はない。
【0031】
以上説明したように、本実施形態では、ベッド上の設定位置に固定される後身頃14と、後身頃14に取付けられた前身頃16(右前身頃16R及び左前身頃16L)と、を備えている。そして、前身頃16には、身頃の装着者Hの腋窩Eに当接するクッション64が配置されている。これにより、装着者Hに腋窩Eで支える力が作用しても、クッション64によって腋窩E及びその周囲に力が作用する。従って、腋窩Eの一部に集中力が作用することが回避されるので、装着者Hが感じる不快な痛みを大幅に和らげることができ、装着者Hの腋窩Eへの負担が軽減される。しかも、クッション64は、両腋窩EL、ERに当接するように左右両側に配置されている。これにより、両側の腋窩で装着者Hへの負担が軽減される。そして、このように装着者Hが感じる不快な痛みを大幅に和らげても、従来と同様、装着者Hの身体を確実に寝具(例えばベッド)上に固定することができる。
【0032】
このことは、認知力が低下している患者や体動が激しい患者に対しても、腋窩Eへの痛み軽減のために抑制帯60に加えられる引張り力を軽減させなくても済むという大きな効果をもたらす。従って、患者の体動により身体に傷が付くこと、及び、点滴や気管挿管や胃管等を自己抜去することを回避する上で好ましい。また、両腋窩E(EL、ER)に褥瘡が形成されることを防止する上でも好ましい。
【0033】
更に、クッション64の表面側は、起毛された柔らかい生地が使用されているので、装着者Hに褥瘡が生じることを更に防止できる。
また、クッション64が設けられていることで、外観上、縛り付けているような感覚を与えない。
【0034】
また、前身頃16及び後身頃14の外周側から装着者Hの上腹部を締付ける上ベルト40と、前身頃16及び後身頃14の外周側から装着者Hの下腹部を締付ける下ベルト50と、がベスト式抑制具10に設けられている。これにより、ベスト式抑制具10が装着者Hの体幹にフィットし、ベッドアップ時などに装着者Hが身長方向にずれ落ちすることを防止できる。
【0035】
また、前身頃16が、装着者Hの正面側で互いに連結される左前身頃16Lと右前身頃16Rとで構成されている。これにより、後身頃14をベッドに取り付け、面ファスナー20R、30Rを互いに連結させて後身頃14に右前身頃16Rを取り付け、更に、面ファスナー30L、20Lを互いに連結させて後身頃14に左前身頃16Lを取り付け、装着者H(患者)をベッドに寝かせて(図12参照)、面ファスナー36R、36Lを互いに連結させて、すなわち右前身頃16Rと左前身頃16Lとを装着者正面側で連結し、面ファスナー22R、32R及び面ファスナー22L、32Lを互いに連結することで簡単にベスト式抑制具10を装着者Hに装着させることができ、脱がせる時は面ファスナーを外すだけで簡単に前身頃16が取り外せる。そして、これらのことが、装着者Hの胸囲やウェストの寸法の違いによらずに短時間で行うことができる。なお、右前身頃16R、左前身頃16Lを後身頃14に連結する前に後身頃16R上に装着者Hを寝かせ、右前身頃16R、左前身頃16Lを順に装着者Hにかぶせて面ファスナーを連結させてもよい。
【0036】
そして、前身頃16と後身頃14とは面ファスナーで着脱自在に互いに固定されている。これにより、装着者Hの胸囲やウェストの寸法の違いによらずに装着者Hをベスト式抑制具10で確実にしかもワンタッチで寝具上に固定することができる。
【0037】
また、装着者Hの身体から後身頃14にかかる力を7本の抑制帯60で分散し、生地(例えばキルティング加工を施した生地)で体幹全体を覆うことにより、支持力が強化されている。
更に、抑制帯60と身頃(前身頃16や後身頃14)との接続部位に抑制帯土台58を設けて基底部分を広範囲にとることで、瞬時にかかる強い引っ張り力を分散させることができる。
【0038】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、上記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
10 ベスト式抑制具
14 後身頃
15L アームホール
15R アームホール
16 前身頃
16L 左前身頃
16R 右前身頃
40 上ベルト
50 下ベルト
60 抑制帯(固定部材)
58 抑制帯土台(土台)
64 クッション
70 内ポケット
E 腋窩
H 装着者
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者の背面側に位置する後身頃と、
前記後身頃に取付けられ、前記後身頃とで装着者の上半身を包み込む前身頃と、
前記後身頃又は前記前身頃の少なくとも一方に設けられ、寝具に固定される固定部材と、
前記後身頃と前記前身頃とで装着者の上半身を包み込んだときに両腋窩に当接する位置の前記後身頃又は前記前身頃にそれぞれ配置されたクッションと、
を有する、ベスト式抑制具。
【請求項2】
前記後身頃と前記前身頃とで形成されて装着者の両腕が通るアームホールの下端側に、前記固定部材が縫い付けられる土台が設けられ、前記クッションが前記土台に取付けられている、請求項1に記載のベスト式抑制具。
【請求項3】
前記前身頃が、装着者の正面側で連結される左前身頃と右前身頃とで構成されている、請求項1又は2に記載のベスト式抑制具。
【請求項4】
前記後身頃と前記左前身頃とで形成されて装着者の左腕が通るアームホールの上端側が互いに着脱自在とされ、
前記後身頃と前記右前身頃とで形成されて装着者の右腕が通るアームホールの上端側も互いに着脱自在とされている、請求項3に記載のベスト式抑制具。
【請求項5】
前記前身頃及び前記後身頃の外側から装着者の上腹部を締付ける上ベルトと、
前記前身頃及び前記後身頃の外側から装着者の下腹部を締付ける下ベルトと、
を備えた、請求項1〜4のうち何れか1項に記載のベスト式抑制具。
【請求項6】
前記前身頃の内側に、芳香材を入れる内ポケットが設けられている、請求項1〜5のうち何れか1項に記載のベスト式抑制具。
【請求項1】
装着者の背面側に位置する後身頃と、
前記後身頃に取付けられ、前記後身頃とで装着者の上半身を包み込む前身頃と、
前記後身頃又は前記前身頃の少なくとも一方に設けられ、寝具に固定される固定部材と、
前記後身頃と前記前身頃とで装着者の上半身を包み込んだときに両腋窩に当接する位置の前記後身頃又は前記前身頃にそれぞれ配置されたクッションと、
を有する、ベスト式抑制具。
【請求項2】
前記後身頃と前記前身頃とで形成されて装着者の両腕が通るアームホールの下端側に、前記固定部材が縫い付けられる土台が設けられ、前記クッションが前記土台に取付けられている、請求項1に記載のベスト式抑制具。
【請求項3】
前記前身頃が、装着者の正面側で連結される左前身頃と右前身頃とで構成されている、請求項1又は2に記載のベスト式抑制具。
【請求項4】
前記後身頃と前記左前身頃とで形成されて装着者の左腕が通るアームホールの上端側が互いに着脱自在とされ、
前記後身頃と前記右前身頃とで形成されて装着者の右腕が通るアームホールの上端側も互いに着脱自在とされている、請求項3に記載のベスト式抑制具。
【請求項5】
前記前身頃及び前記後身頃の外側から装着者の上腹部を締付ける上ベルトと、
前記前身頃及び前記後身頃の外側から装着者の下腹部を締付ける下ベルトと、
を備えた、請求項1〜4のうち何れか1項に記載のベスト式抑制具。
【請求項6】
前記前身頃の内側に、芳香材を入れる内ポケットが設けられている、請求項1〜5のうち何れか1項に記載のベスト式抑制具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−140722(P2011−140722A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−692(P2010−692)
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月5日(2010.1.5)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】
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