説明

ベッセル降下防止装置

【課題】ダンプトラックにおいて、1人の人員によりベッセル降下防止ピンの抜き差しを能率良く行なうことが可能となるベッセル降下防止装置を提供する。
【解決手段】車体1とベッセル5にそれぞれ対応させて設けたブラケット10および11,12のピン孔10aおよび11a,12aにベッセル降下防止ピン9を抜き差しする油圧シリンダ14等の駆動装置を設ける。ダンプトラックの運転室に、油圧シリンダ14等の駆動装置を遠隔操作してベッセル降下防止ピン9の抜き差しを行なうスイッチを設ける。ベッセル降下防止ピン9の抜き差し状態を検出するリミットスイッチ20A,20B,21A,21B等のピン位置検出手段を設ける。ピン位置検出手段により検出されるピンの抜き差し状態を表示する表示手段を運転室に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンプトラックのベッセル降下防止装置に係り、特にベッセル降下防止ピンの抜き差しを行なう装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンプトラックは、車体後部の支軸を中心に油圧シリンダによりベッセルを上下方向に回動可能に取付けて構成される。このようなダンプトラックにおいて、ベッセルの下部に設けられた機器の保守点検や整備を行なう場合は、ベッセルを上げた状態にして行なう。従来は、このベッセルを上げた状態で保守点検を行なう際における安全性を確保するため、特許文献1に記載のように、ベッセルを上げた状態において、車体とベッセルの各後部に設けたブラケットのピン孔にベッセル降下防止ピンを手動により挿着してベッセルの降下を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−105958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した従来のベッセル降下防止装置は、ベッセルの下部の機器の保守点検や整備を行なう際に、作業員が運転室にてベッセルの上げ下げ用の操作手段を操作してベッセルを上げた後、運転室を降りて車体の後に回り、ベッセル降下防止ピンの挿着を行なう必要がある。
【0005】
ベッセルの下部の機器の保守点検や整備が終わり、ベッセルを降下させる場合にも、作業員が車体の後に回ってベッセル降下防止ピンを抜いた後、運転室に上ってベッセルの降下操作を行なう必要がある。このため、ベッセルの下部の機器の保守点検や整備を行なう際には、時間をかけてベッセルの上げ下げに伴うベッセル降下防止ピンの抜き差し作業を行なう必要がある。特に車高が5〜6mにも達する大型のダンプトラックの場合には、梯子やデッキを通って運転室に昇降する必要があり、ベッセルの上げ下げやベッセル降下防止ピンの抜き差しにさらに長い時間がかかる。
【0006】
このようなベッセル降下防止ピンの抜き差しに要する時間を短縮するため、仮に、1人の作業員が運転室にて操作手段を操作することによりベッセルの上げ下げ操作を行ない、別の作業員がベッセル降下防止ピンの抜き差しを行なうとすれば、2人の人員を要するので、省力化の面で好ましくない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、1人の人員によりベッセル降下防止ピンの抜き差しを能率良く行なうことが可能となるベッセル降下防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のベッセル降下防止装置は、
ダンプトラックの車体後部の支軸を中心にベッセルを上下回動可能に取付け、上げた状態における前記ベッセルの降下を、前記車体と前記ベッセルとにそれぞれ対応させて設けたブラケットのピン孔に挿着するベッセル降下防止ピンにより防止するベッセル降下防止装置において、
前記ベッセル降下防止ピンを前記車体と前記ベッセルにそれぞれ対応させて設けた前記ブラケットのピン孔に抜き差しする駆動装置と、
前記ダンプトラックの運転室に設けられ、前記駆動装置を遠隔操作して前記ベッセル降下防止ピンの抜き差しを行なうスイッチと、
前記ベッセル降下防止ピンの抜き差し状態を検出するピン位置検出手段と、
前記運転室に設けられ、前記ピン位置検出手段により検出されるピンの抜き差し状態を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ベッセルの下に位置する機器の保守点検や整備を行なうに当たり、作業員が運転室にてベッセル操作手段を操作することによってベッセルの上げ操作を行なった後、運転室にてベッセル降下防止ピンの駆動装置のスイッチを操作して車体とベッセルのブラケットのピン孔にベッセル降下防止ピンを挿着を行なうことができる。また、ベッセル降下防止ピンの挿着が行なえたかどうかは、運転室に備えた表示手段により確認することができる。
【0010】
前記保守点検や整備の終了後も同様に、作業員が運転室にてベッセル降下防止ピン駆動装置のスイッチを操作して車体とベッセルのブラケットのピン孔からベッセル降下防止ピンを抜き、ベッセル降下防止ピンの引き抜きが行なえたことを、運転室に備えた表示手段により確認することができる。このため、ベッセル降下防止ピンの抜き差しに伴う作業を、1人の作業員により短時間に効率良く行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のベッセル降下防止装置を適用するダンプトラックの一例を示す側面図である。
【図2】図1のダンプトラックにおけるベッセル降下防止用のブラケットを示す側面図である。
【図3】本発明のベッセル降下防止装置の一実施の形態を、ベッセル後部が上がり、ベッセル降下防止ピンをブラケットから抜いた状態で示す背面図である。
【図4】本発明のベッセル降下防止装置の一実施の形態を、ベッセル後部が下がり、ベッセル降下防止ピンをブラケットに挿着した状態で示す背面図である。
【図5】本発明のベッセル降下防止装置の一実施の形態を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1はベッセル降下防止装置を適用するダンプトラックの一例を示す側面図である。このダンプトラックは、車体1の前後に前輪2と後輪3を取付け、車体1に後部の支軸4を中心としてベッセル5を油圧シリンダ6により上下方向に回動可能に設置してなる。車体1の前部には運転室7を設置する。
【0013】
運転室7の下部にはエンジンやエンジンにより駆動される油圧シリンダ6等の油圧機器を作動させるための油圧ポンプや発電機(いずれも図示せず)等が搭載される。なお、この例のダンプトラックは後輪3を駆動輪とし、この駆動輪を回転させるモータとして、発電機により発電される交流電源により駆動される電動モータを用いている。また、発電機で発生した交流を整流して直流電源を得、その直流電源により充電されるバッテリー27(図5参照)を各種制御に用いる電源として使用する。
【0014】
図2はベッセル5の支軸4の周りのブラケットを示す側面図、図3はベッセル5を下げて(すなわちベッセル後部を上げて)ベッセル5をロックしてない状態を示す背面図、図4はベッセル5を上げて(すなわちベッセル後部を下げて)ベッセル降下防止ピン9でベッセル5をロックした状態を示す背面図である。図2ないし図4に示すように、車体1の後部における支軸4の近傍には、ベッセル降下防止ピン9を挿着するためのピン孔10aを有するブラケット10を取付ける。一方、ベッセル5の底面にはベッセル降下防止ピン9を挿着するピン孔11a,12aを有するブラケット11,12を取付ける。
【0015】
これらの図に示すように、車体側ブラケット10は左右それぞれ1組ずつ設けられ、ベッセル5側に設けるブラケット11,12も同様に左右1組ずつ設けられる。そして、ベッセル5の後部を下げた状態(図4)においては、ベッセル5側に設けたブラケット11,12間で車体1側に設けたブラケット10を挟むように構成される。
【0016】
ベッセル降下防止ピン9は、ベッセル5の下面に取付ける筒状ガイド13内に摺動可能に嵌合される。14はこのベッセル降下防止ピン9をブラケット10,11,12のピン孔10a,11a,12aに抜き差しする駆動装置として設けた油圧シリンダである。この油圧シリンダ14は、ボトム側端部をベッセル5に設けたブラケット15にピン16により連結し、ピストンロッド14aの先端をピン17によりベッセル降下防止ピン9に連結して取付ける。18はベッセル降下防止ピン9を手動により抜き差しするために設けられたハンドルであり、このハンドル18は内端をベッセル降下防止ピン10に固定し、かつ筒状ガイド13に長手方向に設けた溝13aに沿って摺動可能に貫通して取付けられている。
【0017】
20A,20Bはそれぞれ左右のベッセル降下防止ピン9,9がブラケット10,11のピン孔10a,11aから抜けた状態を検出するためのピン位置検出手段として設けたリミットスイッチである。なお、ベッセル降下防止ピン9によってベッセル5をロックしていない状態においては、このベッセル降下防止ピン9は油圧シリンダ14側のブラケット12のピン孔12aから抜けた状態とする必要はない(図3参照)が、抜けた状態となるようにしてもよい。21A,21Bはそれぞれ左右のベッセル降下防止ピン9,9がブラケット10,11,12のピン孔10a,11a,12aに挿着された状態を検出するためのピン位置検出手段として設けたリミットスイッチである。
【0018】
図5はこの実施の形態のベッセル降下防止装置の構成図である。23は車体に搭載され、エンジン(図示せず)により駆動される油圧ポンプである。24はベッセル降下防止ピン9,9を抜き差しする前記油圧シリンダ14,14に共通に設けられた電磁操作式切換え弁でなるコントロール弁である。25,26は運転室7に設けたコントロール弁24の操作用のスイッチである。
【0019】
29はコントローラであり、このコントローラ29には前記リミットスイッチ20A,20B,21A,21Bが接続される。30A,30B,31A,31Bはそれぞれリミットスイッチ20A,20B,21A,21Bが作動することによりコントローラ29によって点灯される状態表示手段として設けたランプである。32は油圧ポンプ23の吐出油の最高圧を設定するリリーフ弁である。
【0020】
この実施の形態において、保守点検または整備の際に、運転室7にいる作業員が油圧シリンダ6の操作手段を操作することにより、油圧シリンダ6を伸長させる。油圧シリンダ6を限界まで伸長させると、ベッセル5に設けたブラケット11,12のピン孔11a,12aの位置が車体1に設けたブラケット10のピン孔10aの位置に合致する。この状態でベッセル降下防止ピン9を挿着するためのスイッチ25を閉じることにより、コントロール弁24のソレノイド24aにバッテリー27から通電され、これにより、コントロール弁24が左位置に切換わり、左右の油圧シリンダ14,14が伸長してベッセル降下防止ピン9,9がピン孔10a,11a,12aに挿着される。
【0021】
このようにベッセル降下防止ピン9,9がピン孔10a,11a,12aに挿着されると、リミットスイッチ21A,21Bが作動し、コントローラ29はこのリミットスイッチ21A,21Bの信号を受け、運転室7において、ベッセル降下防止ピン9,9が挿着されたことを示すランプ31A,31Bを点灯させる。このため、運転室7にいる作業員は、ベッセル降下防止ピン9,9がブラケット10,11,12のピン孔10a,11a,12aに挿着されたことを運転室にいながらにして知ることができる。
【0022】
保守点検や整備が終了し、ベッセル5を下げる際には、ベッセル降下防止ピンを引き抜くためのスイッチ26を閉じることにより、コントロール弁24のソレノイド24bにバッテリー27から通電され、これにより、コントロール弁24が右位置に切換わり、左右の油圧シリンダ14、14が収縮してベッセル降下防止ピン9,9がピン孔10a,11aから引き抜かれる。
【0023】
このようにベッセル降下防止ピン9,9がピン孔10a,11aから引き抜かれると、リミットスイッチ20A,20Bが作動し、運転室7において、ベッセル降下防止ピン9,9が引き抜かれたことを示すランプ30A,30Bが点灯する。このため、運転室7にいる作業員は、ベッセル降下防止ピン9,9がブラケット10,11のピン孔10a,11aが引き抜かれたことを運転室にいながらにして知ることができる。
【0024】
なお、何らかの理由で油圧シリンダ14によるベッセル降下防止ピン9の抜き差しが不可能となった場合、コントロール弁24を中立位置にした状態、すなわち油圧シリンダ14のボトム室、ロッド室がいずれも油タンク33に連通した状態において、作業員がハンドル18を操作することにより、手動によってベッセル降下防止ピン9の抜き差しを行なうことができる。
【0025】
このように、この実施の形態のベッセル降下防止装置によれば、ベッセル5の下の機器の保守点検や整備を行なう際または終了した際に、作業員が運転室7にてベッセル5の上げ操作を行なった後、油圧シリンダ14のスイッチ25または26を操作することにより、車体1とベッセル5のブラケット10,11,12のピン孔10a,11a,12aにベッセル降下防止ピン9を挿着あるいは引き抜くことができる。
【0026】
また、ベッセル降下防止ピン9の挿着や引き抜きが行なえたかどうかは、運転室に備えたランプ30A,30B,31A,31Bにより確認することができる。このため、ベッセル降下防止ピン9の抜き差しに伴う作業を、1人の作業員により短時間に能率良く行なうことができる。
【0027】
なお、この実施の形態においては、ベッセル降下防止ピン9の抜き差しを行なう駆動装置として油圧シリンダ14を設けたが、この油圧シリンダ14の代わりに電動モータ駆動方式の各種のものを使用することができる。また、ベッセル降下防止ピン9やその駆動装置はベッセル5側ではなく、車体1側に設けてもよい。また、ベッセル降下防止ピン9の位置検出手段としてはリミットスイッチ以外に近接スイッチや光学式検出器などの他の方式のものを使用することができる。また、ベッセル降下防止ピン9の位置表示手段としてはランプの代わりにあるいはこれに付加して、音響または音声による表示や表示画面上での表示等を用いることが可能である。
【0028】
その他、本発明を実施する場合、上記実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1:車体、2:前輪、3:後輪、4:支軸、5:ベッセル、6:油圧シリンダ、7:運転室、9:ベッセル降下防止ピン、10,11,12:ブラケット、10a,11a,12a:ピン孔、14:油圧シリンダ、20A,20B,21A,21B:リミットスイッチ、23:油圧ポンプ、24:コントロール弁、25,26:スイッチ、27:バッテリー、29:コントローラ、30A,30B,31A,31B:ランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンプトラックの車体後部の支軸を中心にベッセルを上下回動可能に取付け、上げた状態における前記ベッセルの降下を、前記車体と前記ベッセルとにそれぞれ対応させて設けたブラケットのピン孔に挿着するベッセル降下防止ピンにより防止するベッセル降下防止装置において、
前記ベッセル降下防止ピンを前記車体と前記ベッセルにそれぞれ対応させて設けた前記ブラケットのピン孔に抜き差しする駆動装置と、
前記ダンプトラックの運転室に設けられ、前記駆動装置を遠隔操作して前記ベッセル降下防止ピンの抜き差しを行なうスイッチと、
前記ベッセル降下防止ピンの抜き差し状態を検出するピン位置検出手段と、
前記運転室に設けられ、前記ピン位置検出手段により検出されるピンの抜き差し状態を表示する表示手段とを備えたことを特徴とするベッセル降下防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−1169(P2013−1169A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131747(P2011−131747)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)