説明

ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体

【課題】ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体又はそのフラグメント、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、並びに、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出用試薬、検出器、検出キット、及び検出方法を提供すること。
【解決手段】ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生で免疫したマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞とを融合することにより得られたハイブリドーマから、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生には反応を示すが、該ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生と同様に浮遊するタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体又はそのフラグメント、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、並びに、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出用試薬、検出器、検出キット、及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力・原子力発電所等を含む臨海プラント及び沿岸水産設備においては、ベニクダウミヒドラによる被害が増大する傾向にある。この被害は、ベニクダウミヒドラから放出され、プランクトンとして浮遊する、アクチヌラ幼生(付着期幼生)の大量付着によって生じるが、塩素注入によりある程度抑制できる。従って、塩素注入による抑制化を効率よく行うために、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の発生状況や残存状況を容易に把握することができる手法の開発が求められている。
従来、ベニクダウミヒドラが属するヒドロ虫綱における抗原に特異的に結合する抗体として、ヒドロ虫綱の蛍光タンパク質に特異的に結合する抗体が知られているのみで(特許文献1参照)、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に特異的に結合する抗体は開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−506100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体又はそのフラグメント、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、並びに、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出用試薬、検出器、検出キット、及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生で免疫したマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞とを融合することにより得られたハイブリドーマから、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生には反応を示すが、該ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生と同様に浮遊するタマウミヒドラプラヌラ幼生やミズクラゲプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に反応し、タマウミヒドラプラヌラ幼生には反応しないモノクローナル抗体又はそのフラグメントである。
また、本発明は、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマである。
本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出用試薬であって、上記モノクローナル抗体又はそのフラグメントを含有する。
本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出器であって、上記モノクローナル抗体又はそのフラグメントが固定化されていることを特徴とする。
本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出キットであって、上記モノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む。
本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出方法であって、上記モノクローナル抗体又はそのフラグメントを反応させる工程を含む。
上記抗体は、例えば、FERM P-21903、FERM P-21906、FERM P-21905、及びFERM P-21907などの受託番号で寄託されているハイブリドーマから産生されるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体又はそのフラグメント、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、並びに、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出用試薬、検出器、検出キット、及び検出方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上記知見に基づき完成した本発明を実施するための形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0009】
==モノクローナル抗体又はそのフラグメント==
本発明にかかるモノクローナル抗体は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に反応し、タマウミヒドラプラヌラ幼生には反応しないものであれば特に制限されるものではないが、ミズクラゲプラヌラ幼生、キタクダウミヒドラ幼生、ヒメクダウミヒドラ幼生、アカフジツボキプリス幼生、コペポータ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生等の他の種に反応しないものが好ましい。また、本発明に係るフラグメントとしては、上記モノクローナル抗体の一部からなり、可変領域を含む抗原結合部位であれば特に制限されるものではない。なお、モノクローナル抗体が幼生に反応するというとき、その幼生の形状は、whole-mountであっても、組織切片であっても、粗抽出液(超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物)であっても、当業者が抗体反応に用いる形状であれば、特に限定されない。また、その幼生に対して行う処理(固定、溶解、抽出等)も、当業者が抗体反応に用いるために通常行う処理であれば、特に限定されない。
【0010】
==モノクローナル抗体及びそのフラグメントの製造方法==
本発明に係るモノクローナル抗体は、上記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(以下、「本発明に係るハイブリドーマ」と称する。)から得ることができる。本発明に係るハイブリドーマを用いたモノクローナル抗体の製造は、常法に従って行うことができる。該製造は、例えば、該ハイブリドーマを適当な培養培地で培養し、培養上清を回収することにより行ってもよいが、該ハイブリドーマを哺乳類動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル等)の腹腔内に投与し、腹水を回収することにより行ってもよい。なお、モノクローナル抗体の精製は、上記ハイブリドーマの培養上清又は培養したハイブリドーマを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物、又は前述のハイブリドーマを腹腔内に投与した哺乳類動物から採取した腹水を、常法、例えば、硫安塩析、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィーやアフィニティークロマトグラフィー等)、ゲル濾過等の方法、又はこれらの方法を適宜組み合わせた方法により行うことができる。
【0011】
本発明に係るハイブリドーマとしては、例えば、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて受託番号FERM P-21903、FERM P-21906、FERM P-21905、及びFERM P-21907で寄託されている細胞株[それぞれT−H3H7(1)、T−H3A1(6)、T−H3G10(4)、及びT−P2F12(7)]などを用いることができる。
【0012】
本発明に係るフラグメントは、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント等を用いることができる。これらのフラグメントは、例えば、上記モノクローナル抗体をタンパク質分解酵素によって部分消化することにより得ることができる。なお、タンパク質分解酵素としては、FabフラグメントやF(ab’)フラグメントを得ることができるものであればどのようなものであってもよいが、例えば、ペプシン、フィシン等の分解酵素を用いることができる。
【0013】
===ハイブリドーマの作製===
本発明に係るハイブリドーマは、常法により作製することができる。以下に一例を示す。まず、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生(付着期幼生)又はその粗抽出液等を抗原として用い、適当な量の抗原(アジュバントを使用してもよい。)を哺乳類動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル等)の静脈内、皮下、腹腔内等に(1〜複数回)投与して免疫する。その後、免疫した動物から抗体産生細胞を採取し、採取した抗体産生細胞と骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)とを融合させてハイブリドーマを作製する。得られたハイブリドーマの中で、タマウミヒドラプラヌラ幼生には反応性を示さないが、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生には反応性を示すモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、好ましくは、ミズクラゲプラヌラ幼生、キタクダウミヒドラ幼生、ヒメクダウミヒドラ幼生、アカフジツボキプリス幼生、コペポータ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生等にも反応性を示さないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選定することにより、本発明に係るハイブリドーマを得ることができる。
【0014】
前記抗体産生細胞とミエローマ細胞は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウィルス(HVJ)等の細胞融合促進剤を用いて細胞融合することができるが、エレクトロポレーション等の電気刺激を利用して細胞融合することもできる。なお、細胞融合の効率を高めるために、ジメチルスルホキシドやレシチン等の補助剤を細胞融合促進剤とともに用いてもよい。
【0015】
前記抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等を用いることができる。これらの細胞は、動物から脾臓、リンパ節、胸腺、又は末梢血を摘出し、摘出した組織を破砕、濾過、遠心分離等することにより得ることができる。また、前記ミエローマ細胞としては、各種動物由来の細胞株を用いてもよいが、それ自身薬剤に対して抵抗性を示さないが、融合すると薬剤に対して抵抗性を示す細胞株を用いることが好ましい。これにより、細胞融合した後、薬剤を添加した培養培地で培養することにより、細胞融合によって得られたハイブリドーマの選択が容易となる。なお、融合させる抗体産生細胞とミエローマ細胞は、同種の動物由来の細胞を用いることが望ましいが、異なる種の動物由来の細胞を用いてもよい。
【0016】
本発明に係るハイブリドーマの選定は、常法のスクリーニングやクローニングにより行うことができる。ハイブリドーマのスクリーニングには、例えば、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme ImmunoAssay、ELISA:Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、放射線免疫測定法(RIA:Radio Immuno Assay)、ウエスタンブロッティング等を用いることができ、ハイブリドーマのクローニングには、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等を用いることができる。本発明に係るハイブリドーマの選定において、上記スクリーニング及びクローニングを繰り返し行うことにより、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生又はその粗抽出液に対して特異性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することが可能となる。
【0017】
なお、上記ハイブリドーマのスクリーニングでは、最低限ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生又はその粗抽出液と、タマウミヒドラプラヌラ幼生又はその粗抽出液との反応性を調べればよいが、さらに、ミズクラゲプラヌラ幼生、キタクダウミヒドラ幼生、ヒメクダウミヒドラ幼生、アカフジツボキプリス幼生、コペポータ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生等の他の幼生若しくはプランクトン又はその粗抽出液との反応性を調べることがより好ましい。これにより、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生又はその粗抽出液に対してより特異性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができ、このハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体を用いることにより、様々な幼生又はプランクトンを含む試料(例えば、海水等)中からベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生を特異的に検出することができるようになる。従って、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の存在の有無の確認、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の同定、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の量の測定等を行うことが可能となる。また、火力・原子力発電所等を含む臨海プラント及び沿岸水産設備の周辺海域や取水口付近におけるベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の発生状況や残存状況を容易に把握・推定することが可能となり、もってベニクダウミヒドラによる被害の抑制化を図ることが可能となる。
【0018】
==モノクローナル抗体又はそのフラグメントの使用==
本発明に係るモノクローナル抗体は、タマウミヒドラプラヌラ幼生には反応性を示さないが、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に対して特異的な反応性を示す。従って、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントは、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の特異的な検出に有用である。
【0019】
上記モノクローナル抗体としては、タマウミヒドラプラヌラ幼生以外の幼生又はプランクトン(例えば、ミズクラゲプラヌラ幼生、キタクダウミヒドラ幼生、ヒメクダウミヒドラ幼生、アカフジツボキプリス幼生、コペポータ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生等)には反応性を示さないものが好ましい。このようなモノクローナル抗体又はそのフラグメントを用いることにより、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生をより効率よく検出することができるようになる。
【0020】
さらに、本発明に係るモノクローナル抗体又はフラグメントを用いることにより、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生を効率よく選択・回収することが可能となる。ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の回収は、モノクローナル抗体又はそのフラグメントとの親和性を利用して行うことができる。例えば、磁性体を結合させた本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントをベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に作用させ、その後、磁石を用いて本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを回収することにより行うことができる。なお、前記磁性体としては、例えば、鉄、酸化鉄等を用いることができる。その他、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の回収において、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)、panning等の方法を用いてもよい。
【0021】
本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出は、試料(例えば、海水若しくは川水又はそれを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物等)に、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを加えて試料中のベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生由来の抗原と反応させることにより、その抗原を同定することにより行うことができる。
【0022】
従って、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含む試薬、キット、又は器具は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出用試薬、検出キット、及び検出器として利用可能である。
【0023】
なお、本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出用試薬は、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むものであればどのようなものでもよく、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の、抗体又はそのフラグメント以外に抗原の検出用試薬に含ませる一般的な物質が1又は2以上、さらに含まれていてもよい。
【0024】
本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出器は、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントが媒体(例えば、濾紙等の紙、ガラス、繊維、ニトロセルロース等の変性セルロース、ナイロン、プラスチック等から成るフィルター、メンブレン、プレート、ディッシュ等)に固定化されているものを含めばどのようなものでもよく、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の、抗体又はそのフラグメント以外に抗原の検出器に含ませる一般的な物質が1又は2以上、さらに含まれていてもよい。
【0025】
本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出器の一例としては、試料を滴下する部分又は試料を浸す第一の部分と、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントが固定化された第二の部分と、本発明に係るモノクローナル抗体が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体等が固定化された第三の部分を有し、第二の部分が第一の部分と第三の部分との間に備えられ、第一の部分には、金属コロイド粒子(例えば、金コロイド粒子等)、重金属(例えば、金、白金等)、蛍光物質(例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、ローダミン、ファロイジン等)、着色ラテックス粒子等の標識物質で標識された、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むクロマトグラフ媒体を挙げることができる。上記クロマトグラフ媒体としては、例えば、ガラスやシリカ等の無機繊維からなる濾紙、ニトロセルロース等の変性セルロース等を用いることができる。このようなクロマトグラフ媒体を用いることにより、試料中にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生が存在するかどうかを検出することが可能になる。
【0026】
その原理としては、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生又はその溶解物を含む試料をクロマトグラフ媒体の第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、試料中のベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生又はその溶解物は、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体又はそのフラグメントと反応して複合体を形成し、複合体を含む試料が媒体中を広がるのを利用して、その複合体は第二の部分へと移動し、第二の部分において固定化された上記モノクローナル抗体又はそのフラグメントに捕捉されてその位置で標識物質によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出が可能となる。第一の部分から移動したフリーの抗体は、第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分で発色が生じる。この第三の部分での発色は、検出の陽性対照となる。これに対して、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生由来の抗原を含まない試料を第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体又はそのフラグメントが、第二の部分を素通りして第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分でのみ発色が生じる。このように、第二の部分にシグナルが現れたか否かによって、試料中にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生が存在するかどうかを判定することが可能となる。
【0027】
一方、本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出キットは、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むものであればどのようなものでもよく、本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメント以外に、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の抗原の検出キットに含ませる一般的な物質、若しくは本発明に係るモノクローナル抗体又はそのフラグメントが媒体に固定化されている検出器、又はこれらのうち2以上を組み合わせたものが含まれていてもよい。
【0028】
なお、標識物質としては、例えば、蛍光物質(例えば、FITC、ローダミン、ファロイジン等)、金等のコロイド粒子、重金属(例えば、金、白金等)、色素タンパク質(例えば、フィコエリトリン(PE)、フィコシアニン(PC)等)、放射性同位元素(例えば、H、32P、35S、125I、131I等)、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン、ストレプトアビジン等の物質を用いることができるがこれらに制限されるものではなく、公知の標識物質を用いてもよい。また、発色基質としては、上記酵素に対する発色基質であれば特に制限されるものではなく、例えば、ジアミノベンジジン(DAB)、o-フェニレンジアミン(o-Phenylenediamine)、過酸化水素水、BCIP/Nitro-TB(5-Bromo-4-chloro-3-indolylphosphate/Nitrotetrazolium blue)、pNPP(para-nitorophenylphosphate)等を用いることができる。発色増強剤としては、上記基質の発色を増強させることができるものであればどのようなものでもよく、例えば、硫酸等を用いることができ、二次抗体としては、例えば、本発明に係るモノクローナル抗体が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体、抗IgG(H+L)、抗IgG(Fc)等を用いることができる。
また、上記免疫学的手法としては、EIA(Enzyme Immunoassay)、蛍光免疫測定法、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、RIA(Radioimmuno assay)、ウエスタンブロッティング、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、サンドイッチ法等の公知の方法を用いることができる。
【0029】
以上のように、本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出方法を用いることにより、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の同定やベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の分離及び量の測定が可能となるが、検出キットや検出器を用いることにより、より容易にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生を同定することができるようになる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
実施例1:ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの樹立
<ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生によるマウスの免疫>
10週齢のBALB/cマウス(メス)の腹腔内に抗原(ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生100〜200個/300〜400μLのPBS)を5回注射し(1回目の投与から168日目に2回目の投与を、2回目の投与から24日目に3回目の投与を、3回目の投与から21日目に4回目の投与を、4回目の投与から39日目に5回目の投与を行った。)、マウスを免疫した。
【0032】
<脾臓細胞の単離>
最終免疫から4日後に、マウスから脾臓を摘出し、10%のFBS(Fetal Bovine Serum;GIBCO社製)及び1%の抗生物質(Antibiotic-Antimycotic;GIBCO社製)を含むRPMI1640(GIBCO社製)培地中で滅菌ステンレスメッシュを用いて裏漉しし、細胞を分散・懸濁させて脾臓細胞を得た。この脾臓細胞を10%のFBSを含むRPMI1640培地(FBS培地)で洗浄・遠心した後、RPMI1640培地(FBS培地)で3回遠心・洗浄し、脾臓細胞を回収した。
【0033】
<細胞融合とHAT選択;PEG法>
ミエローマ細胞(マウス骨髄癌細胞、P3U1)と脾臓細胞を1:1の割合で混合し、その後遠心して上清を除去し、細胞ペレット(沈殿)を作製した。これに、1gのPEG4000(ポリエチレングリコール;MERCK社Article No.9727)とFBS培地1mLとを混合した溶液1mLを添加し、1分間撹拌した。その後、FBS培地(37℃)2mLを添加し、1分間攪拌した後、FBS培地(37℃)8mLを添加した後、遠心(1000rpm×5分間)分離処理を行い、細胞融合処理を行った。続いて、FBS培地10mLを添加して細胞群を懸濁させ、これを、FBS培地10mLが入った分室シャーレ4枚にそれぞれ2mLずつ播種し、COインキュベータ内で静置培養を行った。培養開始から1日後、各シャーレから培地を4mLずつ取り、2×HAT培地6mLとconditioned medium 0.3〜0.4mLを各シャーレに添加し(終濃度0.8×HAT培地)、COインキュベータ内で4日間静置培養を行った。
【0034】
<細胞融合とHAT選択;不活化ウィルス法>
GenomOne-CF(不活化センダイウィルス外膜:HVJ-E、石原産業(株)製)を用いて細胞融合も行った。まず、ミエローマ細胞と脾臓細胞を1:2の割合で混合した後、遠心して上清を除去し、細胞ペレット(沈殿)を作製した。これに、氷冷した融合用緩衝液(1倍濃度液)を添加(脾臓細胞10細胞あたり1mL添加)し、細胞群を懸濁させた。氷冷したHVJ-E懸濁液を添加(細胞懸濁液1mLあたり25μLを添加)し、氷上で5分間静置した。その後、遠心(4℃、1000rpm×5分間)を行い、37℃で15分間インキュベーションした。続いて、FBS培地(37℃)10mLを添加して細胞群を懸濁させた(脾臓細胞10細胞/50mL)。これを、FBS培地10mLが入った分室シャーレ3枚にそれぞれ2mLずつ播種し、COインキュベータ内で静置培養を行った。培養開始から1日後、各シャーレから培地を4mLずつ取り、2×HAT培地6mLとconditioned medium 0.3〜0.4mLを各シャーレに添加し(終濃度0.8×HAT培地)、COインキュベータ内で6〜10日間静置培養を行った。
【0035】
<ハイブリドーマ細胞のスクリーニング>
各シャーレの各セル内で明瞭な増殖が確認されたハイブリドーマ細胞のコロニーのうち、シングルコロニーを形成しているコロニーをピックアップし、選択増殖培地[1×HT培地と10%の細胞増殖因子(conditioned medium from J774A.1 cells、Sigma-aldrich社)を含む]の入った96穴ウェルプレートに移し、ハイブリドーマの培養を行った。その後、明瞭なハイブリドーマの増殖が確認されたウェルについて、その培養上清を採取し、以下のELISA法により抗体の産生を確認した。
【0036】
<ELISA法>
以下の各処理において、特に記載がない場合は室温にて処理(反応を含む)を行った。
(1)ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に50mM Tris−HCl(pH 7.5)を加え、氷中でホモジナイズを行い、5000rpmで20分間遠心することにより得たベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生粗抽出液をタンパク質濃度20μg/mLになるように調製した。
(2)(1)で得られたベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生粗抽出液50μLを、96穴イワキELISAプレートの各ウェルに加え、4℃一晩インキュベートして抗原をウェル底面に吸着させた。
(3)(2)で吸着処理した各ウェルをTBS(0.5M NaCl及び20mM Tris−HCl;pH7.5)200μLで洗浄した。
(4)各ウェルを1% BSAを含むTBS 100μlで1時間ブロッキングした。
(5)各ウェルをTTBS(0.05% Tween20を含むTBS)200μlで3回洗浄した。
(6)ハイブリドーマを培養することにより得られた培養上清(一次抗体)50μLを各ウェルに加え、2時間反応させた。
(7)各ウェルをTTBS 200μlで4回洗浄した。
(8)各ウェルに2次抗体(アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(Fc)ヤギ抗体、BETHYL社)溶液(TBSで500倍に希釈した溶液)50μlを加えて1時間反応させた。
(9)各ウェルをTTBS 200μlで5回洗浄した。
(10)各ウェルに基質(アルカリフォスファターゼ基質キット、BIO-RAD 社)溶液 100μlを加え、1時間振盪することにより発色させた。
(11)マイクロプレートリーダー(BIO-RAD Model550)を用いて、各ウェルの溶液の吸光度(405nm)を測定した。
【0037】
上記ELISA法により高い抗体産生能が確認されたハイブリドーマについて、24穴ウェルで2〜5日間培養し、ELISA法によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生粗抽出液に対して結合性の高い抗体を産生するハイブリドーマ(T−H3H7(1)、T−H3A1(6)、T−H3G10(4)、T−P2F12(7)等)を得た。
【0038】
実施例2:
次に、実施例1により得られた4個のハイブリドーマ[T−H3H7(1)、T−H3A1(6)、T−H3G10(4)、及びT−P2F12(7)]の各培養上清に含まれるモノクローナル抗体が、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に対して特異的に反応するか否かを調べるため、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、ミズクラゲプラヌラ幼生、甲殻類プランクトン(アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ)、及び二枚貝幼生(ムラサキイガイペディベリジャー幼生)の粗抽出液(タンパク質の濃度;20μg/ml)との反応性を、実施例1に記載のELISA法と同様に確認した。なお、各粗抽出液は、各幼生又はプランクトンに50mM Tris-HCl(PH7.5)を加えて、氷中でホモジナイズを行い、5000rpmで20分間遠心することにより調製した。
また、各ハイブリドーマが産生する抗体のアイソタイプを、マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Roche Applied Science)を用いて調べた。
これらの結果を表1に示す。表1に示すように、上記4個のハイブリドーマクローンの上清は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の粗抽出液に対して反応性を示し、タマウミヒドラプラヌラ幼生、ミズクラゲプラヌラ幼生、甲殻類プランクトン(アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ)、及び二枚貝幼生(ムラサキイガイペディベリジャー幼生)の粗抽出液には反応性を示さなかった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に反応し、タマウミヒドラプラヌラ幼生には反応しないモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
【請求項2】
前記抗体が、FERM P-21903、FERM P-21906、FERM P-21905、及びFERM P-21907からなる群から選ばれるいずれかの受託番号で寄託されているハイブリドーマから産生されることを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメント。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項4】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出用試薬であって、
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含有する検出用試薬。
【請求項5】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出器であって、
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントが固定化されていることを特徴とする検出器。
【請求項6】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出キットであって、
請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを含むことを特徴とする検出キット。
【請求項7】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の検出方法であって、
試料に、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はそのフラグメントを反応させることを特徴とする検出方法。

【公開番号】特開2012−37386(P2012−37386A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177901(P2010−177901)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(507030863)株式会社セシルリサーチ (11)