説明

ベルト伝動装置

【課題】内ベルト、外ベルトを積層することによって、スチールベルトの疲労強度を高め、耐久性の向上を図ることができるベルト伝動装置を提供する。
【解決手段】スチールベルト10と、スチールベルト10を巻き掛けるプーリ21とを備えてなり、スチールベルト10は、内ベルト11、外ベルト12を走行方向に相対移動可能に積層し、内ベルト11、外ベルト12は、プーリ21に巻き付けるときの曲げ応力が降伏点または耐力を下まわるようにそれぞれの厚さを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スチールベルトを用いるスチールベルトコンベヤなどのベルト伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンベヤベルトとしてスチールベルトを用いるスチールベルトコンベヤが古くから知られている。
【0003】
従来のコンベヤベルト用のスチールベルトは、たとえば厚さ数mm以下程度のステンレススチールの帯板材を無端に溶接接合して形成されている。スチールベルトは、プーリに巻き掛けて駆動走行させるため、プーリに巻き付けることによって繰返し曲げ応力が負荷されることになり、大きな径のプーリと組み合わせて必要な疲労強度を確保する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−230806号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】http://www.eljapan.co.jp/belt-t/belt-t.html、米国ベルトテクノロジー社 エンドレススチールベルト
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる従来技術によるときは、スチールベルトは、十分大きな径のプーリと組み合わせる必要があり、プーリ径が小さいと、疲労強度が不足して早期に交換を要するという問題が避けられない。
【0007】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、内ベルト、外ベルトを積層することによって、スチールベルトの疲労強度を高め、耐久性の向上を図ることができるベルト伝動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するためのこの発明の構成は、スチールベルトと、スチールベルトを巻き掛けるプーリとを備えてなり、スチールベルトは、内ベルト、外ベルトを走行方向に相対移動可能に積層し、内ベルト、外ベルトは、プーリに巻き付けるときの曲げ応力が降伏点または耐力を下まわるようにそれぞれの厚さを設定することをその要旨とする。
【0009】
なお、内ベルト、外ベルトは、相対移動量を制限することができる。
【0010】
また、外ベルトまたは内ベルトには、プーリの外周の係合部に係合する係合部を形成してもよい。
【発明の効果】
【0011】
かかる発明の構成によるときは、スチールベルトを構成する内ベルト、外ベルトは、それぞれプーリに巻き付けるときに曲げ応力σ=6Et/(4r(1−ν2 ))を生じ、曲げ応力σは、内ベルト、外ベルトの厚さtに比例し、プーリの半径rに反比例する。ただし、E、νは、それぞれ内ベルト、外ベルトの材料の縦弾性係数、ポアソン比である。そこで、内ベルト、外ベルトに生じる曲げ応力σが材料の降伏点または耐力(0.2%耐力)を下まわるように、プーリ径d=2rに対応させてそれぞれの厚さtを設定することにより、スチールベルトの疲労強度を高め、耐久寿命を大幅に向上させることができる。ただし、内ベルト、外ベルトは、その全体として、伝達に必要な荷重(張力)に対応する強度を有するものとする。また、内ベルト、外ベルトは、互いに接する前者の外面側、後者の内面側の各長さがほぼ等しいものとする。
【0012】
なお、内ベルト、外ベルトは、プーリに巻き付ける際に、前者の外面側が伸びて、後者の内面側が圧縮される。そこで、内ベルト、外ベルトは、走行方向に相対移動可能に積層することにより、両者間の滑りを許容する。また、この発明にいうベルト伝動装置とは、無端のスチールベルトを複数のプーリに巻き掛けて構成するスチールベルトコンベヤや動力伝動装置などの他、単一のプーリの外周にオープンタイプのスチールベルトの一端を固定し、プーリを往復回転させてスチールベルトを前後に往復駆動する直線駆動装置などを含むものとする。このような直線駆動装置は、たとえば直線移動部材の移動カバーや、ロボットの関節駆動用などの用途に使用可能である。
【0013】
内ベルト、外ベルトは、相対移動量を制限することにより、両者が過大に相対移動したり、それによって走行動作が不安定になったりすることがない。
【0014】
外ベルトは、プーリの外周の係合部に係合する係合部を形成することにより、プーリとの同期回転を維持し、たとえば外ベルトの外面上の搬送物の搬送タイミングを高い精度に保つことができる。一方、内ベルトの係合部をプーリの外周の係合部に係合させることにより、外ベルトの外面を均一面にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】全体構成模式斜視図
【図2】図1の要部正面図
【図3】設定データ例を示す図表
【図4】動作説明線図
【図5】要部構成説明図(1)
【図6】要部構成説明図(2)
【図7】要部構成説明図(3)
【図8】要部構成説明図(4)
【図9】要部構成説明図(5)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0017】
ベルト伝動装置は、無端のスチールベルト10と、スチールベルト10を巻き掛ける一対のプーリ21、21とを備えてなる(図1)。ただし、図1のベルト伝動装置は、スチールベルト10をコンベヤベルトとするスチールベルトコンベヤとして構成されている。
【0018】
スチールベルト10は、内ベルト11、外ベルト12を積層して形成されている。また、プーリ21、21の一方は、図示しない駆動源に連結する駆動プーリであり、他方は、従動プーリである。そこで、スチールベルト10は、プーリ21、21を介して駆動走行させることができる。なお、内ベルト11、外ベルト12は、スチールベルト10の走行方向(図1の矢印方向)に相対移動可能に積層されている。
【0019】
内ベルト11、外ベルト12の材料として、たとえばJIS G4313のばね用ステンレス鋼帯SUS304−CSP(H)を使用すると、縦弾性係数E=186×103 N/mm2 、ポアソン比ν=0.3である。そこで、プーリ21の半径r、プーリ径d=2rに対して厚さtの内ベルト11、外ベルト12を巻き付けるとき(図2)、それぞれに曲げ応力σ=6×186×103 t/(4r(1−0.32 ))=306.6×103 t/rを生じる。たとえば、プーリ径d=60mmのとき、厚さt=0.08mmとすることにより、曲げ応力σ=817MPa となり、材料の0.2%耐力880MPa を下まわらせることができる。同様に、プーリ21のプーリ径dに対し、曲げ応力σが材料の0.2%耐力を下まわるような厚さtを設定すると、たとえば図3のとおりである。
【0020】
一方、図4は、それぞれの厚さt=0.4mmの内ベルト11、外ベルト12からなる二層ベルトのスチールベルト10、厚さ2t=0.8mmの単層ベルトのスチールベルト10をプーリ径d=2r=300mmのプーリ21に巻き付けるときのS−N線図の一例である。ただし、図4の縦軸、横軸は、それぞれ繰返し応力S(MPa )、繰返し数N(回)であり、図4の曲線(1)、(2)は、それぞれ単層ベルト、二層ベルトのスチールベルト10に対応している。また、スチールベルト10の材料は、上記SUS304−CSP(H)である。図4によれば、二層ベルトの場合、単層ベルトの場合に比して、曲げ応力σを1/2にして材料の疲労限度を下まわらせ、耐久寿命を50倍以上に向上させることができる。ちなみに、図4の曲線(2)は、図3のプーリ径d=300mm、厚さt=0.4mmの内ベルト11、外ベルト12に対応している。
【0021】
なお、疲労限度線図(耐久限度線図)による疲労強度の評価を加えれば、スチールベルト10の張力に起因する平均応力を考慮することができる。
【他の実施の形態】
【0022】
内ベルト11の両側端縁には、それぞれ外ベルト12を相対移動可能にガイドする上向きのフック11a、11a…を所定ピッチごとに形成することができる(図5)。各フック11aの両側には、応力集中を排除するために、滑らかな略円弧状の切欠き11b、11bが形成されており、外ベルト12は、内ベルト11の両側のフック11a、11a…にガイドされて、内ベルト11上を相対移動することができる。ただし、図5(B)、(C)は、それぞれ図5(A)のX1 −X1 線、X2 −X2 線矢視相当断面図である。
【0023】
図5において、内ベルト11側の各フック11aは、外ベルト12に形成する切欠き12a内に収納してもよい(図6)。ただし、図6(B)、(C)は、それぞれ図6(A)のX1 −X1 線、X2 −X2 線矢視相当断面図である。フック11aの長さa1 は、切欠き12aの長さa2 に対し、a1 <a2 に設定されており、したがって、内ベルト11、外ベルト12の相対移動量は、a2 −a1 に制限されている。
【0024】
内ベルト11、外ベルト12は、内ベルト11側のエンボス11cを外ベルト12側の長孔12bに挿入して係合させることにより、両者の相対移動量をb2 −b1 に制限することができる(図7)。ただし、b1 は、円板状のエンボス11cの直径であり、b2 は、エンボス11cが適合する長孔12bの長さである。なお、図7(B)、(C)は、それぞれ図7(A)のX1 −X1 線、X2 −X2 線矢視相当断面図である。
【0025】
内ベルト11、外ベルト12は、バーリング加工による外ベルト12側の円筒状の突部12cを内ベルト11側の長孔11dに挿入して係合させることにより、両者の相対移動量をc2 −c1 に制限してもよい(図8)。ただし、c1 は、突部12cの外径であり、c2 は、突部12cに適合する長孔11dの長さである。なお、円筒状の突部12cには、プーリ21の外周に突設する凸状の係合部21aを挿入して係合させることができ(図8(C))、あるいは、突部12cを内ベルト11の下面に突出させ、プーリ21の外周に形成する凹状の係合部21bに突部12cを係合させることができる(図8(D))。そこで、図8(C)、(D)において、外ベルト12側の突部12cは、プーリ21側の係合部21a、21bに係合する係合部となっている。ただし、図8(B)、(C)は、それぞれ図8(A)のX1 −X1 線、X2 −X2 線矢視相当断面図であり、図8(D)は、他の実施の形態を示す図8(C)相当図である。
【0026】
なお、図8(C)、(D)の外ベルト12側の突部12c、プーリ21側の係合部21a、21bは、スチールベルト10の走行中に少なくとも1組が互いに係合するように、外ベルト12、プーリ21に対して所定のピッチごとに形成することが好ましい。ただし、図8(C)において、プーリ21側の係合部21aを設けなくてもよい。
【0027】
図5、図6のフック11a、図7のエンボス11cは、それぞれプーリ21の外周上に位置するように設けてもよく、プーリ21の外周からプーリ21の軸方向に耳状に張り出す位置に設けてもよい。図8(A)〜(C)において、プーリ21側の係合部21aを設けない場合の突部12cについても、全く同様である。
【0028】
プーリ21の凹状の係合部21bには、内ベルト11に形成する凸状の係合部11eを係合させてもよい(図9(A))。また、プーリ21の凸状の係合部21aは、内ベルト11に形成する孔状の係合部11fに係合させてもよい(図9(B))。なお、図9(A)の係合部11e、21b、図9(B)の係合部11f、21aは、それぞれ横断面円形に形成してもよく、プーリ21の軸方向(図9(A)、(B)の紙面に垂直方向)に長く形成してもよい。また、係合部11e、21b、係合部11f、21aは、それぞれスチールベルト10の走行中に少なくとも1組が互いに係合するように、内ベルト11、プーリ21に対して所定のピッチごとに形成することが好ましい。なお、図9(A)、(B)において、内ベルト11、外ベルト12の間には、図5〜図8のような各種のガイド手段や相対移動量の制限手段を設けてもよく、これらの手段を設けなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明は、無端のスチールベルトを用いるスチールベルトコンベヤや動力伝動装置などの他、オープンタイプのスチールベルトを用いる直線駆動装置などにも広く好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
σ…曲げ応力
10…スチールベルト
11…内ベルト
11e、11f…係合部
12…外ベルト
21…プーリ
21a、21b…係合部

特許出願人 株式会社 江沼チヱン製作所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールベルトと、該スチールベルトを巻き掛けるプーリとを備えてなり、前記スチールベルトは、内ベルト、外ベルトを走行方向に相対移動可能に積層し、前記内ベルト、外ベルトは、前記プーリに巻き付けるときの曲げ応力が降伏点または耐力を下まわるようにそれぞれの厚さを設定することを特徴とするベルト伝動装置。
【請求項2】
前記内ベルト、外ベルトは、相対移動量を制限することを特徴とする請求項1記載のベルト伝動装置。
【請求項3】
前記外ベルトには、前記プーリの外周の係合部に係合する係合部を形成することを特徴とする請求項1または請求項2記載のベルト伝動装置。
【請求項4】
前記内ベルトには、前記プーリの外周の係合部に係合する係合部を形成することを特徴とする請求項1または請求項2記載のベルト伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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