ベルト組立用治具およびベルト組立方法
【課題】複数のエレメントとこれを環状に結束するリングとからなるベルトを効率よく組み立てあるいは製造する。
【解決手段】リング9が巻き掛けられる第1受け面37と、該第1受け面37より外周側に設けられ前記リング9に組み付けられたエレメント6が巻き掛けられる第2受け面38とを有する少なくとも一対の受け部材23,26と、その受け部材23,26の少なくともいずれか一つを他の受け部材から離れる方向に移動させて前記リング9に張力を与えることにより前記リング9における各受け部材23,26の間の部分を直線状にするとともに、前記リング9が受け部材23,26に巻き掛かっている場合と前記リング9に組み付けたエレメント6が受け部材23,26に巻き掛かっている場合とで前記張力が等しくなるように各受け部材23,26の間隔を調整する推力機構30とを備えている。
【解決手段】リング9が巻き掛けられる第1受け面37と、該第1受け面37より外周側に設けられ前記リング9に組み付けられたエレメント6が巻き掛けられる第2受け面38とを有する少なくとも一対の受け部材23,26と、その受け部材23,26の少なくともいずれか一つを他の受け部材から離れる方向に移動させて前記リング9に張力を与えることにより前記リング9における各受け部材23,26の間の部分を直線状にするとともに、前記リング9が受け部材23,26に巻き掛かっている場合と前記リング9に組み付けたエレメント6が受け部材23,26に巻き掛かっている場合とで前記張力が等しくなるように各受け部材23,26の間隔を調整する推力機構30とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、板片状の多数のエレメントを互いに対面させて環状に配列し、それらのエレメントをリングにより結束して構成されるベルトを組み立てるための治具および組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用の無段変速機に用いられるベルトとして、ブロックもしくはエレメントと称される金属片を、多数、環状に配列し、それらの金属片を無端キャリヤ(リングもしくはフープと称されることもある)によって結束した構成のものが知られている。この種のベルトは、互いに接触して配列されている金属片同士の押圧力によってトルクを伝達するように構成されたものであり、駆動側のプーリにおける巻き掛け溝に挟み込まれた金属片が、そのプーリが回転することによりその巻き掛け溝から順次押し出されて先行する金属片を押圧し、こうして前進させられる金属片が従動側のプーリにおける巻き掛け溝に進入することにより、金属片の進行に伴って従動側のプーリにトルクが伝達される。
【0003】
このようなベルトの一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたベルトは、ほぼ台形状をなす多数のブロックをそれぞれ環状をなす二条の無端キャリヤで結束して、全体として環状に構成されている。図11にはそのブロック100の形状を示してある。ここに示すブロック100は、短辺側が内周側となるように環状に配列されその配列状態での左右両側部101,102が、図示しないプーリにおけるV字状の巻き掛け溝のテーパ状の内面に対応して傾斜している。また、上下方向および幅方向のほぼ中央部には、無端キャリヤ103を巻き掛けるサドル面104が形成されている。このサドル面104は幅方向に並べて配置した二条の無端キャリヤ103の幅以上の幅に形成されている。
【0004】
さらに、無端キャリヤ103がサドル面104から抜け出ることを防止するため、言い換えれば、ブロック100が無端キャリヤ103から外れることを防止するための係止部105,106が設けられている。これらの係止部105,106は、サドル面104の左右両側部あるいはサドル面104に載せられている無端キャリヤ103の左右両側部の上側を覆うものであって、サドル面104の左右両側で立ち上がった逆L字状の部分であり、各係止部105,106同士の間は開いていてサドル面104に対する開口部107となっている。さらに、係止部105,106における一方の面(例えば正面)の左右の二箇所に、断面円形の凸部108,109が形成されており、その凸部108,109とは反対側の面に、凸部108,109を嵌合させる凹部(図示せず)が形成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−205342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように環状に配列した金属片であるブロックを結束している無端キャリヤは、サドル面に接触してブロックを結束しているだけでなく、プーリにおける巻き掛け溝からブロックを引き抜く作用も行うから、特許文献1に記載されているように係止部が必須である。また、特許文献1に記載されているように、無端キャリヤをブロックの幅方向での中央部に配置する構成であれば、係止部はブロックの左右両側部に設けられ、無端キャリヤの両側縁部を係合させることになる。
【0007】
したがって、係止部同士の間隔すなわち前記開口部の幅は、ブロックを結束している状態の無端キャリヤ全体の幅より狭くすることになる。そのため、無端キャリヤとブロックとを相互に組み付ける場合、それぞれを組み付け完了後と同様の相対位置に配置したのでは、無端キャリヤがブロックにおける前記開口部を通過できないので、これらを相互に組み付けることがでず、何らかの工夫をして無端キャリヤにブロックを組み付ける必要があるが、従来では、連続的にあるいは効率良く多数のブロックを無端キャリヤに組み付ける方法や装置が開発されていないのが実情である。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、多数のエレメントとこれを環状に結束するリングとからなるベルトを効率よく組み立てあるいは製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立用治具において、前記リングが巻き掛けられる第1受け面と、該第1受け面より外周側に設けられ前記リングに組み付けられた前記エレメントが巻き掛けられる第2受け面とを有する少なくとも一対の受け部材と、その受け部材の少なくともいずれか一つを他の受け部材から離れる方向に移動させて前記リングに張力を与えることにより前記リングにおける各受け部材の間の部分を直線状にするとともに、前記リングが受け部材に巻き掛かっている場合と前記リングに組み付けたエレメントが受け部材に巻き掛かっている場合とで前記張力が等しくなるように各受け部材の間隔を調整する推力機構とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立用治具において、前記リングとそのリングに組み付けられたエレメントとを巻き掛けることができかつ相互に水平方向に離れるように移動して、巻き掛けられているリングに張力を与えてリングの一部を直線状に張る少なくとも一対の受け部材と、直線状に張られている前記リングの一部の高さ位置を調整する高さ調整機構とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記高さ調整機構は、前記一対の受け部材を弾性力で押し上げる押圧部材と、その受け部材に巻き掛けられている前記リングを突き当ててその高さ位置を規制する位置規制部材とを備えていることを特徴とするベルト組立用治具である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明において、前記受け部材は、回転自在に保持されたローラを含むことを特徴とするベルト組立用治具である。
【0013】
請求項5の発明は、姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立方法において、前記リングの直径方向で対向する二箇所を互いに反対方向に押圧してこれら二箇所の中間の部分を直線状に張り、その直線状に張られた部分に前記エレメントを組み付け、その組み付けられたエレメントをリングに沿って移動させた後に前記直線状に張られた部分に他のエレメントを組み付けることを特徴とする方法である。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の発明において、前記エレメントは、二条の前記リングを互いに並列に配置して載せるサドル面と、そのサドル面の左右両側に前記環状に配列した状態で外周側に突出して形成されかつ前記サドル面上のリングを抜け止めする抜け止め部とを備えていることを特徴とするベルト組立用治具もしくはベルト組立方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1あるいは4もしくは5の発明によれば、リングは、一対の受け部材に巻き掛けられ、その受け部材同士の間隔が広がることにより、それらの受け部材に巻き掛かっている箇所の間の部分が直線状に張られる。その直線状の部分は、特に張力を大きくしないことにより撓みなどの変形を生じやすく、そのような特性を利用してリングのうち直線状に張られている箇所にエレメントを容易に組み付けることができる。リングに組み付けられるエレメントの数が多くなると、受け部材に巻き掛かっている箇所にエレメントが進行し、リングと受け部材との間にエレメントが介在し、そのエレメントが受け部材における第2受け面に載ることになるが、各受け部材を介してリングに付与されている張力は、受け部材同士の間隔を調整するなどのことにより、リングが巻き掛かっている場合と等しい張力に維持されるので、前記直線状の部分の撓みやすさなどのいわゆる柔軟性が従前と同じになり、そのため連続してかつ容易にリングに対してエレメントを組み付けることができる。
【0016】
請求項2ないし4の発明によれば、リングは、一対の受け部材に巻き掛けられ、その受け部材同士の間隔が広がることにより、それらの受け部材に巻き掛かっている箇所の間の部分が直線状に張られる。その直線状の部分は、特に張力を大きくしないことにより撓みなどの変形を生じやすく、そのような特性を利用してリングのうち直線状に張られている箇所にエレメントを容易に組み付けることができる。リングに組み付けられるエレメントの数が多くなると、受け部材に巻き掛かっている箇所にエレメントが進行し、リングと受け部材との間にエレメントが介在することになるが、リングにおける直線状に張られている部分の高さが高さ調整機構によって一定に維持される。したがって、ベルトに対するエレメントの供給位置および組み付け位置を一定に保つことができるので、リングの全周に連続してかつ容易にエレメントを組み付けることができる。
【0017】
特に請求項6の発明によれば、抜け止めされる二条のリングをエレメントに組み付ける場合であっても、それらのリングを直線状に張った部分で撓ませ、あるいは捻るなど、適宜の変形を与えてエレメントの組付けを行うことができるので、ベルトの組立性あるいは製造性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
つぎに、この発明をより具体的に説明する。先ず、この発明で対象とするベルトについて説明すると、この発明で対象とするベルトは、例えば無段変速機に使用されるものであり、プーリの外周部に形成された断面V字状の巻き掛け溝の内部に挟み込まれ、その結果、プーリとの間で生じる摩擦力でトルクを伝達するように構成されている。その一例を図9に模式的に示してあり、ベルト1は無段変速機を構成している駆動プーリ2と従動プーリ3とに巻き掛けられている。これらの各プーリ2,3は、テーパ面をそれぞれ備えた固定シーブと可動シーブとを対向させて配置することにより、これらのシーブの間に断面V字状の巻き掛け溝4が形成され、その可動シーブを油圧シリンダなどのアクチュエータ5によって固定シーブに対して前後動させることにより、巻き掛け溝4の幅を変化させるように構成されている。
【0019】
このようにして使用されるこの発明で対象とするベルトは、全体として環状をなし、かつ両側面がV字状もしくはテーパ状をなすように、多数のエレメントをリングで環状に結束して構成されている。上記の図9に示すベルト1を構成しているエレメント6の例を図10に示してある。このエレメント6は、金属製の板片であり、同一の形状および寸法のものが、姿勢を揃えて環状に配列される。その整列状態でのエレメント6同士の上下および左右方向の相対位置を維持するために、ディンプル7と称される凸部とこのディンプル7が緩く嵌合するホールと称される凹部(図示せず)とが、エレメントの表裏両面の一箇所に形成されている。具体的には、エレメント6の表面もしくは裏面の一箇所を板厚方向に押圧して窪ませてホールを形成することに伴って、ディンプル7が裏面もしくは表面に突出させられて形成されている。したがって、ディンプル7が、隣接するエレメント6のホールに嵌合することにより、その半径方向すなわち上下方向および左右方向へのエレメント6の相対移動が規制される。
【0020】
各エレメント6は環状に配列されるので、各エレメント6が平行にならずにベルト1の曲率中心を中心としていわゆる扇状(放射状)に開いた状態に配列される箇所が必ず生じる。各エレメント6を互いに接触させた状態で扇状に開いた配列を可能にするために、エレメント6にはロッキングエッジ8が形成されている。このロッキングエッジ8は、具体的には、エレメントの厚さが変化する境界線もしくは境界領域であり、エレメント6の高さ方向でのほぼ中央部に幅方向(プーリの回転中心軸線と平行な方向)に延びて形成されている。
【0021】
すなわち、ベルト1がプーリ2,3に巻き掛かった状態では、エレメント6の上側(ベルト1としては外周側)の周長が長くなるので、エレメント6同士の間隔が広くなり、これとは反対にエレメント6の下側(ベルト1としては内周側)の周長が短くなるので、エレメント6同士の間隔が狭くなる。そのため、エレメント6の下側の部分は、下端側で薄くなるように構成されており、このように板厚がエレメント6の上側と下側とで変化する箇所がロッキングエッジ8となっている。したがって、各エレメント6は、ロッキングエッジ8を中心にして板厚方向に回転し、すなわちピッチングが生じて、上記のように扇状に開くようになっている。なお、このロッキングエッジ8は表裏両面のいずれか一方に形成されていればよく、一例として前記ディンプル7が突出している面に形成されている。
【0022】
また、各エレメント6にはリング9を載せる(配置する)サドル面10が形成されている。そのサドル面10には、多数のエレメント6を結束しているリング9が接触しているので、ベルト1がトルクを伝達している状態ではその接触圧が大きくなるのに対して、エレメント6が直線状に配列されている状態からプーリ2,3に巻き掛かって扇状に開く場合にはリング9とサドル面10との間に摺動が生じ、それに伴って大きい摩擦力が生じる。この摩擦力によるモーメントが大きくならないように、サドル面10は前述したロッキングエッジ8に可及的に近い位置に形成されている。したがって、サドル面10は各エレメント6の上下方向でのほぼ中央部に形成されている。
【0023】
この発明で対象とするベルト1におけるリング9は、薄い金属製の帯状材を積層して構成され、二条のリング9を前記サドル面10に幅方向に隣接して並べた状態に配置してエレメント6を結束するように構成されている。言い換えれば、サドル面10は、並べて配置した二条のリング9の幅以上の幅に形成されている。この発明に係るベルトにおいても、リングは、サドル面に載っていて、各エレメントが環状の配列を維持するように各エレメントを結束し、各エレメントが半径方向で外側に離脱しないように作用するが、それだけでなく、エレメントがプーリの巻き掛け溝から送り出される際にエレメントを巻き掛け溝から引き抜く作用も行う。そのため、リングがエレメントから半径方向で外側に抜け出ないようにするために、リングをサドル面との間に挟んだ状態に保持する抜け止め部が設けられている。
【0024】
その例を説明すると、図10において、エレメント6の左右両側に、サドル面10から上方向に延びてサドル面10の上側の一部を覆う抜け止め部としてのフック部11が設けられている。このフック部11は、図10に示すように、鉤状(逆L字状)をなす部分であって、サドル面10に並列に配置したリング9の左右の側縁部を、サドル面10との間に緩く挟み込むようになっている。したがって、フック部11の先端部同士は離れていて、ここにサドル面10に対する開口部12が形成されている。そのフック部11同士の間隔、言い換えれば、サドル面10の開口幅は、一本のリング9の幅より広く、かつ二本のリング9の幅を合算した寸法より小さくなっている。
【0025】
この発明で対象とするベルト1の一例は、上述したように、いずれか一条(一本)のリング9の幅がエレメント6における開口部12の幅より狭く、かつ二条(二本)のリング9を合わせた幅がエレメント6における開口部12の幅より広いから、いずれか一条のリング9に全てのエレメント6を組み付けた後、他方のリング9をそれらのエレメント6に組み付ける手順では、他方のリング9を組み付ける過程でエレメント6が脱落してしまい、円滑な組付けを行うことができない。また、二条のリング9をベルト1として組み上がった状態と同様に幅方向に隣接させて互いに平行に配列した状態では、その全体の幅が開口部12の幅より広くなるので、エレメント6のサドル面10にそのままでは挿入できない。そこで、この発明では、下記の治具を使用し、以下に述べる方法でベルト1を組み立てる。
【0026】
図1および図2に、この発明に係る治具の一例を示してあり、ここに示す治具20は前述したベルト1を構成する二条のリング9を互いに平行に隣接させた状態で、長円形状もしくは長楕円形状に保持するように構成されている。すなわち、金属製の板状体を垂直に立てた構成の機台21が設けられ、その上部の一部が矩形状に切り欠かれており、その切り欠き部22を水平方向で挟んだ一方側(仮に、機台21の前端部とする)にローラ23が回転自在に取り付けられている。このローラ23はこの発明における受け部材に相当するものであって、機台21の側面に水平方向に突き出した状態に取り付けた支持軸に回転自在に取り付けられている。
【0027】
また、機台21の側面で前記切り欠き部22より下側の部分に、リニアガイド24が水平に取り付けられており、そのリニアガイド24にスライダー25が水平方向に前後動できるように係合し、保持されている。このスライダー25は、平板状の部材であって、その側面には、前記ローラ23と対をなすローラ26が取り付けられている。すなわち、前記ローラ23の中心軸線と平行となるように支持軸がスライダー25の側面に水平方向に突出して取り付けられ、その支持軸に他方のローラ26が回転自在に取り付けられている。したがって、当該他方のローラ26は、前記ローラ23と共にこの発明の受け部材に相当している。
【0028】
これらのローラ23,26は、前述したリング9を直接巻き掛け、あるいはリング9に組み付けたエレメント6を巻き掛け、その状態でリング9に所定の張力を付与するためのものであり、リング9やエレメント6に応じた形状の巻き掛け溝を備えている。その例を図3に示してあり、ローラ23,26の外周面には、二条のリング9の幅とほぼ等しい幅の胴部27が形成され、その胴部27の軸線方向での両端部からテーパー状に広がって半径方向で外側に延びた内壁面28が形成され、これらの胴部27と内壁面28とで巻き掛け溝が構成されている。したがって、胴部27の幅は、エレメント6におけるサドル面10の幅と同等もしくは僅か狭い幅であり、これに対してエレメント6の最小幅は、サドル面10および胴部27の幅より広いので、二条のリング9は胴部27に巻き掛かり、エレメント6は胴部27より外周側で前記各内壁面28に挟まれた状態でローラ23,26に巻き掛かるように構成されている。したがって、胴部27もしくはその外周面がこの発明における第1受け面に相当し、内壁面28がこの発明の第2受け面に相当している。
【0029】
上記のローラ23,26に巻き掛けられたリング9に所定の張力を付与するためのアクチュエータが設けられている。すなわち、上記の機台21の後端部側(前記ローラ23が取り付けられている先端部とは反対側)にブラケット29が取り付けられており、ロッドを前記スライダー25に向けた引っ張りシリンダ30がそのブラケット29に取り付けられている。この引っ張りシリンダ30は、エアーシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダなどのいわゆる直動型のアクチュエータであって、そのロッドがスライダー25に連結されている。
【0030】
この引っ張りシリンダ30は、スライダー25を図1および図2の右方向に後退移動させて各ローラ23,26の間隔を広げることによりリング9に張力を付与するためのものであり、したがって流体圧や電力を供給することによりロッドが後退し、これとは反対の方向には推力を発生せず、もしくはリターンスプリングなどで復帰移動するいわゆる単動型のものを採用することができる。そして、リング9に付与する張力が予め定めた一定の張力となるように構成されている。例えば、調圧バルブなどによって供給圧力が一定に設定されてスライダー25を引っ張る力が一定となるように構成されている。
【0031】
したがって、各ローラ23,26にリング9が直接巻き掛かっている場合と、リング9に組み付けたエレメント6が巻き掛かっている場合とでローラ23,26の軸間距離が異なっても、その軸間距離の相違分、スライダー25を移動させてリング9の張力を一定にするように構成されている。このように構成された引っ張りシリンダ30がこの発明の推力機構に相当している。
【0032】
つぎに上記の治具20を使用してリング9にエレメント6を組み付ける方法を説明する。先ず、スライダー25を前進させて各ローラ23,26を互いに接近させておき、それらのローラ23,26に二条のリング9を互いに並べて巻き掛ける。その状態を図1に鎖線で示してある。
【0033】
ついで、スライダー25を引っ張りシリンダ30によって図1の右方向に後退移動させる。スライダー25と共にこれに取り付けられている他方のローラ26が後退するので、各ローラ23,26の間隔が広がり、それに伴ってこれらのローラ23,26に巻き掛けられているリング9の直径上で対称となる二箇所が引っ張られ、その結果、リング9は次第に楕円形状から長円形状に変形し、ついには、ローラ23,26に巻き掛かっている二箇所の間の部分が直線状もしくはこれに近い状態に張られる。これは、エレメント6における左右のフック部11に各リング9の側縁部を引っ掛けて組み付ける際に各リング9を撓ませたり、あるいは捻るなどの変形を容易に生じさせるためであり、したがって直線状に張るとしても、エレメント6の組付けのための変形を容易に生じさせ得る程度の張力に設定する。
【0034】
一方、一度に組み付ける所定数のエレメント6を互いに姿勢を揃えて整列した状態でマガジンあるいはホルダーに入れておき、これを前記機台21に形成されている切り欠き部22からリング9の内周側に挿入し、それらのエレメント6をリング9の直線状に張ってある部分にその内側(下側)から組み付ける。その場合、二条のリング9の幅はエレメント6における開口部12の開口幅より広いから、これらのリング9をその一部が重なるように変形させ、その全体としての幅を縮小させる。そのような変形は、エレメント6を組み付ける箇所が直線状に張られているので、容易に行うことができる。
【0035】
なお、リング9にエレメント6を組み付ける具体的な手順は種々可能であり、例えば一方のリング9の側縁部にエレメント6の一方のフック部11を引っ掛け、その状態でエレメント6と共にそのリング9を引き下げ、その引き下げたリング9の上側に他方のリング9を移動させて、二条のリング9の一部を重ね合わせる。その場合、他方のリング9を捻ることになるが、その部分は直線状になっているので、容易に重ね合わせることができる。
【0036】
こうすることにより、二条のリング9全体としての幅が、エレメント6の開口部12の幅より狭くなり、あるいはリング9とフック部11との干渉が生じなくなるので、一方のリング9の側縁部をフック部11に引っ掛けているエレメント6を持ち上げれば、二条のリング9全体がサドル面10上に収まり、その状態で各リング9の重なりを解消することにより、両方のリング9の側縁部がそれぞれフック部11の内側に入り込み、抜け止めされる。すなわち、複数個のエレメント6の組み付けが完了する。なお、このような組み付け作業は手作業で行うことができ、あるいはエレメント6を上述したように動作させることのできる自動機もしくは工業用ロボットによって行うこともできる。
【0037】
こうして組み付けられたエレメント6は、ローラ23,26を回転させることによりリング9と共に移動させ、組付けを行うべき直線状の部分すなわち組み付け作業領域から除く。ついで、更に他のエレメント6を上述した手順と同様の手順でリング9に組み付ける。
【0038】
リング9に組み付けられたエレメント6の数が多くなると、ローラ23,26の回転によってそれらのエレメント6が列を成してローラ23,26の巻き掛け溝を形成している内壁面28の間に挟み込まれて保持される。したがって、リング9はローラ23,26の胴部27から離れて外周側に保持されるから、リング9のローラ23,26に対する巻き掛け半径が大きくなる。これに対して引っ張りシリンダ30はリング9に付与する張力が一定となるように構成され、あるいは制御されるから、エレメント6がローラ23,26に巻き掛かることに伴ってスライダー25が図1の左方向に前進し、各ローラ23,26の間隔が、エレメント6の寸法に応じて縮小される。
【0039】
すなわち、図4に示すように、リング9のみがローラ23,26に巻き掛かっている場合にはそれらのローラ23,26の時間距離(ピッチ)が符号Pで示す状態であっても、エレメント6がローラ23,26に巻き掛かれば、ローラ23,26の軸間距離が符号P’で示すように所定寸法ΔPだけ減じられ、その寸法ΔPがローラ23,26にエレメント6が巻き掛かることに伴ってリング9の巻き掛け半径の増大分に対応している。こうしてリング9の直線状に張られている部分の張力がほぼ一定になるので、常時一定した組み付け作業を行うことができる。言い換えれば、自動化が容易である。
【0040】
そして、各エレメント6がそのディンプル7とホールとが嵌合して繋がり、かつ各エレメント6同士の間隔(エンドプレーと称することもある)が予め定めた寸法となるまでエレメント6が組み付けられると、ベルト1の組立が完了する。その場合は、前記スライダー25を前進させて各ローラ23,26の間隔を狭くすることにより、リング9(ベルト1)をゆるめてローラ23,26から取り外す。
【0041】
したがって、この発明に係る上記の治具20および組立方法によれば、並列させて配置した二条のリング9を、その一部が直線状を成すように保持し、その直線状の部分にエレメント6を組み付けるので、その作業を容易に行うことができる。また、その直線状を成す部分の張り具合、すなわち張力は、ローラ23,26にリング9が巻き掛かっている場合とエレメント6が巻き掛かっている場合とで同じになるので、常時一定した作業で容易にエレメント6を組み付けることができ、さらには自動化が容易になる。
【0042】
つぎに、この発明に係る治具の他の例を説明する。上述した例は、ローラ23,26にエレメント6が巻き掛かることに伴い、リング9に掛かる張力を一定にするためにローラ23,26の間隔(ピッチ)を変更するように構成した例であるが、これに加えてローラ23,26の上下方向の位置を調整してリング9の高さを一定に維持するように構成することができる。図5ないし図7はその例を示しており、機台21の前端部に設けられているローラ23は機台21に直接取り付けられずに、リニアガイド31を介して機台21に取り付けられている。このリニアガイド31は上下方向に向けて機台21に取り付けられたガイドレールとそのガイドレールに沿って上下動するスライダーとを備え、ローラ23の支持軸がそのスライダーに突設されている。そして、そのスライダーを上向きに押圧する弾性機構(例えばコイルばね)32がローラ23の下側に設けられている。
【0043】
一方、そのローラ23の上方には、ローラ23に巻き掛けられているリング9の上下方向に位置を規定する調整ローラ33が配置されている。すなわち、機台21の上部には、高さ調整シリンダ34が下向きに取り付けられており、その高さ調整シリンダ34のロッドに取り付けられた可動ブロック35に調整ローラ33が回転自在に取り付けられている。その調整ローラ33の回転中心軸線と前記ローラ23の回転中心軸線とは互いに平行になっており、また軸線方向での中心位置が一致している。すなわち、リング9を各ローラ23,33によって挟み付けるようになっている。なお、高さ調整シリンダ34を機台21に取り付けているブラケット36が可動ブロック35を上下方向にガイドするように構成されている。
【0044】
また、他方のローラ26は、スライダー25に直接取り付けられずに、リニアガイド37を介してスライダー25に取り付けられている。このリニアガイド37は、機台21の前端部側に設けられているものと同様に、上下方向に向けてスライダー25に取り付けられたガイドレールとそのガイドレールに沿って上下動するスライダーとを備え、ローラ26の支持軸がそのスライダーに突設されている。そして、そのスライダーを上向きに押圧する弾性機構(例えばコイルばね)38がローラ26の下側に設けられている。なお、この弾性機構38はスライダー25に取り付けられており、したがってローラ26と共に移動するようになっている。
【0045】
一方、そのローラ26の上方には、ローラ26に巻き掛けられているリング9の上下方向に位置を規定する調整ローラ39が配置されている。すなわち、スライダー25の上部には、高さ調整シリンダ40が下向きに取り付けられており、その高さ調整シリンダ40のロッドに取り付けられた可動ブロック41に調整ローラ39が回転自在に取り付けられている。その調整ローラ39の回転中心軸線と前記ローラ26の回転中心軸線とは互いに平行になっており、また軸線方向での中心位置が一致している。すなわち、リング9を各ローラ26,39によって挟み付けるようになっている。なお、高さ調整シリンダ40をスライダー25に取り付けているブラケット42が可動ブロック41を上下方向にガイドするように構成されている。
【0046】
上記の図5ないし図7に示す治具を使用してリング9にエレメント6を組み付ける手順を説明すると、各高さ調整シリンダ34,40によって各調整ローラ33,39をローラ23,26から十分離れるように上方に引き上げておき、その状態でスライダー25を前端部のローラ23側に前進させ、各ローラ23,26の間隔を狭くしておく。その状態では前述した例と同様に、二条のリング9を互いに並列にしてそれらのローラ23,26に巻き掛け、ついでスライダー25を引っ張りシリンダ30によって後退移動させてリング9を長円形状もしくは楕円形状にして保持する。その過程で、もしくは各ローラ23,26の間隔を所定の間隔まで広げた後に、各高さ調整シリンダ34,40を動作させて調整ローラ33,39を下降させる。こうして、リング9をローラ23と調整ローラ33との間、およびローラ26と調整ローラ39との間に挟み付ける。その状態を図8の(a)に示してある。
【0047】
このように各ローラ23,26の間に張られたリング9の直線状の部分にエレメント6を前述した例と同様にして所定数ずつもしくは一つずつ組み付ける。リング9に組み付けられたエレメント6は、ローラ23,26を回転させることにより直線状の部分すなわち組み付けエリアから移動させられ、その組み付けられたエレメント6の数が多くなると、エレメント6がいずれかのローラ23,26に巻き掛かるようになる。その場合、引っ張りシリンダ30によってスライダー25と共にローラ26が前進させられ、各ローラ23,26の間隔がエレメント6の寸法に応じて狭められ、リング9に作用する張力がほぼ一定に維持されるのは、前述した例と同様である。
【0048】
また、図5ないし図7に示すように構成されていれば、エレメント6がいずれかのローラ23,26に巻き掛かり始めると、そのローラ23,26とその上側に配置されている調整ローラ33,39との間にエレメント6が入り込む。その場合、調整ローラ33,39の高さ位置が高さ調整シリンダ34,40によって決められているのに対して、ローラ23,26はその下方に配置されている弾性機構32,38の弾性力で押し上げられていて上下動可能であるから、ローラ23,26と調整ローラ33,39との間にエレメント6が入り込むと、それに伴ってリング9が胴部27から相対的に押し上げられる寸法Lに応じてローラ23,26が押し下げられる。すなわち、調整ローラ33,39はリング9の外周面に接触しているから、リング9の高さは変わらずに、ローラ23,26の位置が下がる。その状態を図8の(b)に示してある。
【0049】
このように、図5ないし図7に示す構成の治具によれば、ローラ23,26にリング9が直接巻き掛かっている場合と、リング9に組み付けられたエレメント6が巻き掛かっている場合とにおけるリング9の高さ位置が調整ローラ33,39に規定されて変化しない。そのため、エレメント6の組み付けを行う直線状の部分の張力がほぼ一定に維持されることに加えて、高さ位置が一定に維持されるので、組み付け作業位置が一定になり、その結果、エレメント6の組み付け作業性が向上し、また自動機や工業用ロボットを使用する場合にはその動作位置を再調整する必要性が殆どないので、組み付け作業の自動化が容易になる。
【0050】
そして、リング9に対するエレメント6の組み付けが終了した場合には、各ローラ23,26を接近させるとともに、調整ローラ33,39を上昇させてリング9から離隔させ、その後、ベルト1をローラ23,26から取り外す。
【0051】
なお、この発明は上述した各具体例に限定されないのであり、この発明における受け部材やリングに接触してその上限位置を規定する位置規制部材は、ローラによって構成する替わりに、滑らかな曲面を備えた適宜の部材を用いて構成してもよい。
【0052】
また、この発明は、二条のリング9を用いたベルトを組み立てるための治具および方法に限られないのであって、この発明は、要は、左右両側のフック部にリングの側縁部を係合させてその抜け止めを行うように構成されていればよく、したがってリングは複数であればよい。さらに、リングを巻き掛けるローラあるいはこれに相当する受け部材の間隔は、一方を移動させて適宜に設定する構成以外に、両方を相互に反対方向に移動させてその間隔を変化させる構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明に係るベルト組立治具の一例を示す正面図である。
【図2】その平面図である。
【図3】そのローラの巻き掛け溝の形状を示す部分図である。
【図4】リングが巻き掛かっている場合のローラの間隔とエレメントが巻き掛かっている場合のローラの間隔とを説明するための模式図である。
【図5】この発明に係るベルト組立治具の他の例を示す正面図である。
【図6】図5のVI−VI線矢視図である。
【図7】その側面図である。
【図8】調整ローラによってリングの高さ位置を規定している状態を示す部分図である。
【図9】この発明で対象とするベルトを用いた無段変速機の模式図である。
【図10】この発明で対象とするベルトを構成しているエレメントの正面図である。
【図11】従来のベルトを構成しているブロックの正面図である。
【符号の説明】
【0054】
1…ベルト、 6…エレメント、 9…リング、 10…サドル面、 11…フック部、 12…開口部、 20…治具、 23,26…ローラ、 27…胴部、 28…内壁面、 30…引っ張りシリンダ、 32,38…弾性機構(例えばコイルばね)、 33,39…調整ローラ、 34,40…高さ調整シリンダ。
【技術分野】
【0001】
この発明は、板片状の多数のエレメントを互いに対面させて環状に配列し、それらのエレメントをリングにより結束して構成されるベルトを組み立てるための治具および組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用の無段変速機に用いられるベルトとして、ブロックもしくはエレメントと称される金属片を、多数、環状に配列し、それらの金属片を無端キャリヤ(リングもしくはフープと称されることもある)によって結束した構成のものが知られている。この種のベルトは、互いに接触して配列されている金属片同士の押圧力によってトルクを伝達するように構成されたものであり、駆動側のプーリにおける巻き掛け溝に挟み込まれた金属片が、そのプーリが回転することによりその巻き掛け溝から順次押し出されて先行する金属片を押圧し、こうして前進させられる金属片が従動側のプーリにおける巻き掛け溝に進入することにより、金属片の進行に伴って従動側のプーリにトルクが伝達される。
【0003】
このようなベルトの一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたベルトは、ほぼ台形状をなす多数のブロックをそれぞれ環状をなす二条の無端キャリヤで結束して、全体として環状に構成されている。図11にはそのブロック100の形状を示してある。ここに示すブロック100は、短辺側が内周側となるように環状に配列されその配列状態での左右両側部101,102が、図示しないプーリにおけるV字状の巻き掛け溝のテーパ状の内面に対応して傾斜している。また、上下方向および幅方向のほぼ中央部には、無端キャリヤ103を巻き掛けるサドル面104が形成されている。このサドル面104は幅方向に並べて配置した二条の無端キャリヤ103の幅以上の幅に形成されている。
【0004】
さらに、無端キャリヤ103がサドル面104から抜け出ることを防止するため、言い換えれば、ブロック100が無端キャリヤ103から外れることを防止するための係止部105,106が設けられている。これらの係止部105,106は、サドル面104の左右両側部あるいはサドル面104に載せられている無端キャリヤ103の左右両側部の上側を覆うものであって、サドル面104の左右両側で立ち上がった逆L字状の部分であり、各係止部105,106同士の間は開いていてサドル面104に対する開口部107となっている。さらに、係止部105,106における一方の面(例えば正面)の左右の二箇所に、断面円形の凸部108,109が形成されており、その凸部108,109とは反対側の面に、凸部108,109を嵌合させる凹部(図示せず)が形成されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−205342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように環状に配列した金属片であるブロックを結束している無端キャリヤは、サドル面に接触してブロックを結束しているだけでなく、プーリにおける巻き掛け溝からブロックを引き抜く作用も行うから、特許文献1に記載されているように係止部が必須である。また、特許文献1に記載されているように、無端キャリヤをブロックの幅方向での中央部に配置する構成であれば、係止部はブロックの左右両側部に設けられ、無端キャリヤの両側縁部を係合させることになる。
【0007】
したがって、係止部同士の間隔すなわち前記開口部の幅は、ブロックを結束している状態の無端キャリヤ全体の幅より狭くすることになる。そのため、無端キャリヤとブロックとを相互に組み付ける場合、それぞれを組み付け完了後と同様の相対位置に配置したのでは、無端キャリヤがブロックにおける前記開口部を通過できないので、これらを相互に組み付けることがでず、何らかの工夫をして無端キャリヤにブロックを組み付ける必要があるが、従来では、連続的にあるいは効率良く多数のブロックを無端キャリヤに組み付ける方法や装置が開発されていないのが実情である。
【0008】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、多数のエレメントとこれを環状に結束するリングとからなるベルトを効率よく組み立てあるいは製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立用治具において、前記リングが巻き掛けられる第1受け面と、該第1受け面より外周側に設けられ前記リングに組み付けられた前記エレメントが巻き掛けられる第2受け面とを有する少なくとも一対の受け部材と、その受け部材の少なくともいずれか一つを他の受け部材から離れる方向に移動させて前記リングに張力を与えることにより前記リングにおける各受け部材の間の部分を直線状にするとともに、前記リングが受け部材に巻き掛かっている場合と前記リングに組み付けたエレメントが受け部材に巻き掛かっている場合とで前記張力が等しくなるように各受け部材の間隔を調整する推力機構とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の発明は、姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立用治具において、前記リングとそのリングに組み付けられたエレメントとを巻き掛けることができかつ相互に水平方向に離れるように移動して、巻き掛けられているリングに張力を与えてリングの一部を直線状に張る少なくとも一対の受け部材と、直線状に張られている前記リングの一部の高さ位置を調整する高さ調整機構とを備えていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記高さ調整機構は、前記一対の受け部材を弾性力で押し上げる押圧部材と、その受け部材に巻き掛けられている前記リングを突き当ててその高さ位置を規制する位置規制部材とを備えていることを特徴とするベルト組立用治具である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の発明において、前記受け部材は、回転自在に保持されたローラを含むことを特徴とするベルト組立用治具である。
【0013】
請求項5の発明は、姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立方法において、前記リングの直径方向で対向する二箇所を互いに反対方向に押圧してこれら二箇所の中間の部分を直線状に張り、その直線状に張られた部分に前記エレメントを組み付け、その組み付けられたエレメントをリングに沿って移動させた後に前記直線状に張られた部分に他のエレメントを組み付けることを特徴とする方法である。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の発明において、前記エレメントは、二条の前記リングを互いに並列に配置して載せるサドル面と、そのサドル面の左右両側に前記環状に配列した状態で外周側に突出して形成されかつ前記サドル面上のリングを抜け止めする抜け止め部とを備えていることを特徴とするベルト組立用治具もしくはベルト組立方法である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1あるいは4もしくは5の発明によれば、リングは、一対の受け部材に巻き掛けられ、その受け部材同士の間隔が広がることにより、それらの受け部材に巻き掛かっている箇所の間の部分が直線状に張られる。その直線状の部分は、特に張力を大きくしないことにより撓みなどの変形を生じやすく、そのような特性を利用してリングのうち直線状に張られている箇所にエレメントを容易に組み付けることができる。リングに組み付けられるエレメントの数が多くなると、受け部材に巻き掛かっている箇所にエレメントが進行し、リングと受け部材との間にエレメントが介在し、そのエレメントが受け部材における第2受け面に載ることになるが、各受け部材を介してリングに付与されている張力は、受け部材同士の間隔を調整するなどのことにより、リングが巻き掛かっている場合と等しい張力に維持されるので、前記直線状の部分の撓みやすさなどのいわゆる柔軟性が従前と同じになり、そのため連続してかつ容易にリングに対してエレメントを組み付けることができる。
【0016】
請求項2ないし4の発明によれば、リングは、一対の受け部材に巻き掛けられ、その受け部材同士の間隔が広がることにより、それらの受け部材に巻き掛かっている箇所の間の部分が直線状に張られる。その直線状の部分は、特に張力を大きくしないことにより撓みなどの変形を生じやすく、そのような特性を利用してリングのうち直線状に張られている箇所にエレメントを容易に組み付けることができる。リングに組み付けられるエレメントの数が多くなると、受け部材に巻き掛かっている箇所にエレメントが進行し、リングと受け部材との間にエレメントが介在することになるが、リングにおける直線状に張られている部分の高さが高さ調整機構によって一定に維持される。したがって、ベルトに対するエレメントの供給位置および組み付け位置を一定に保つことができるので、リングの全周に連続してかつ容易にエレメントを組み付けることができる。
【0017】
特に請求項6の発明によれば、抜け止めされる二条のリングをエレメントに組み付ける場合であっても、それらのリングを直線状に張った部分で撓ませ、あるいは捻るなど、適宜の変形を与えてエレメントの組付けを行うことができるので、ベルトの組立性あるいは製造性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
つぎに、この発明をより具体的に説明する。先ず、この発明で対象とするベルトについて説明すると、この発明で対象とするベルトは、例えば無段変速機に使用されるものであり、プーリの外周部に形成された断面V字状の巻き掛け溝の内部に挟み込まれ、その結果、プーリとの間で生じる摩擦力でトルクを伝達するように構成されている。その一例を図9に模式的に示してあり、ベルト1は無段変速機を構成している駆動プーリ2と従動プーリ3とに巻き掛けられている。これらの各プーリ2,3は、テーパ面をそれぞれ備えた固定シーブと可動シーブとを対向させて配置することにより、これらのシーブの間に断面V字状の巻き掛け溝4が形成され、その可動シーブを油圧シリンダなどのアクチュエータ5によって固定シーブに対して前後動させることにより、巻き掛け溝4の幅を変化させるように構成されている。
【0019】
このようにして使用されるこの発明で対象とするベルトは、全体として環状をなし、かつ両側面がV字状もしくはテーパ状をなすように、多数のエレメントをリングで環状に結束して構成されている。上記の図9に示すベルト1を構成しているエレメント6の例を図10に示してある。このエレメント6は、金属製の板片であり、同一の形状および寸法のものが、姿勢を揃えて環状に配列される。その整列状態でのエレメント6同士の上下および左右方向の相対位置を維持するために、ディンプル7と称される凸部とこのディンプル7が緩く嵌合するホールと称される凹部(図示せず)とが、エレメントの表裏両面の一箇所に形成されている。具体的には、エレメント6の表面もしくは裏面の一箇所を板厚方向に押圧して窪ませてホールを形成することに伴って、ディンプル7が裏面もしくは表面に突出させられて形成されている。したがって、ディンプル7が、隣接するエレメント6のホールに嵌合することにより、その半径方向すなわち上下方向および左右方向へのエレメント6の相対移動が規制される。
【0020】
各エレメント6は環状に配列されるので、各エレメント6が平行にならずにベルト1の曲率中心を中心としていわゆる扇状(放射状)に開いた状態に配列される箇所が必ず生じる。各エレメント6を互いに接触させた状態で扇状に開いた配列を可能にするために、エレメント6にはロッキングエッジ8が形成されている。このロッキングエッジ8は、具体的には、エレメントの厚さが変化する境界線もしくは境界領域であり、エレメント6の高さ方向でのほぼ中央部に幅方向(プーリの回転中心軸線と平行な方向)に延びて形成されている。
【0021】
すなわち、ベルト1がプーリ2,3に巻き掛かった状態では、エレメント6の上側(ベルト1としては外周側)の周長が長くなるので、エレメント6同士の間隔が広くなり、これとは反対にエレメント6の下側(ベルト1としては内周側)の周長が短くなるので、エレメント6同士の間隔が狭くなる。そのため、エレメント6の下側の部分は、下端側で薄くなるように構成されており、このように板厚がエレメント6の上側と下側とで変化する箇所がロッキングエッジ8となっている。したがって、各エレメント6は、ロッキングエッジ8を中心にして板厚方向に回転し、すなわちピッチングが生じて、上記のように扇状に開くようになっている。なお、このロッキングエッジ8は表裏両面のいずれか一方に形成されていればよく、一例として前記ディンプル7が突出している面に形成されている。
【0022】
また、各エレメント6にはリング9を載せる(配置する)サドル面10が形成されている。そのサドル面10には、多数のエレメント6を結束しているリング9が接触しているので、ベルト1がトルクを伝達している状態ではその接触圧が大きくなるのに対して、エレメント6が直線状に配列されている状態からプーリ2,3に巻き掛かって扇状に開く場合にはリング9とサドル面10との間に摺動が生じ、それに伴って大きい摩擦力が生じる。この摩擦力によるモーメントが大きくならないように、サドル面10は前述したロッキングエッジ8に可及的に近い位置に形成されている。したがって、サドル面10は各エレメント6の上下方向でのほぼ中央部に形成されている。
【0023】
この発明で対象とするベルト1におけるリング9は、薄い金属製の帯状材を積層して構成され、二条のリング9を前記サドル面10に幅方向に隣接して並べた状態に配置してエレメント6を結束するように構成されている。言い換えれば、サドル面10は、並べて配置した二条のリング9の幅以上の幅に形成されている。この発明に係るベルトにおいても、リングは、サドル面に載っていて、各エレメントが環状の配列を維持するように各エレメントを結束し、各エレメントが半径方向で外側に離脱しないように作用するが、それだけでなく、エレメントがプーリの巻き掛け溝から送り出される際にエレメントを巻き掛け溝から引き抜く作用も行う。そのため、リングがエレメントから半径方向で外側に抜け出ないようにするために、リングをサドル面との間に挟んだ状態に保持する抜け止め部が設けられている。
【0024】
その例を説明すると、図10において、エレメント6の左右両側に、サドル面10から上方向に延びてサドル面10の上側の一部を覆う抜け止め部としてのフック部11が設けられている。このフック部11は、図10に示すように、鉤状(逆L字状)をなす部分であって、サドル面10に並列に配置したリング9の左右の側縁部を、サドル面10との間に緩く挟み込むようになっている。したがって、フック部11の先端部同士は離れていて、ここにサドル面10に対する開口部12が形成されている。そのフック部11同士の間隔、言い換えれば、サドル面10の開口幅は、一本のリング9の幅より広く、かつ二本のリング9の幅を合算した寸法より小さくなっている。
【0025】
この発明で対象とするベルト1の一例は、上述したように、いずれか一条(一本)のリング9の幅がエレメント6における開口部12の幅より狭く、かつ二条(二本)のリング9を合わせた幅がエレメント6における開口部12の幅より広いから、いずれか一条のリング9に全てのエレメント6を組み付けた後、他方のリング9をそれらのエレメント6に組み付ける手順では、他方のリング9を組み付ける過程でエレメント6が脱落してしまい、円滑な組付けを行うことができない。また、二条のリング9をベルト1として組み上がった状態と同様に幅方向に隣接させて互いに平行に配列した状態では、その全体の幅が開口部12の幅より広くなるので、エレメント6のサドル面10にそのままでは挿入できない。そこで、この発明では、下記の治具を使用し、以下に述べる方法でベルト1を組み立てる。
【0026】
図1および図2に、この発明に係る治具の一例を示してあり、ここに示す治具20は前述したベルト1を構成する二条のリング9を互いに平行に隣接させた状態で、長円形状もしくは長楕円形状に保持するように構成されている。すなわち、金属製の板状体を垂直に立てた構成の機台21が設けられ、その上部の一部が矩形状に切り欠かれており、その切り欠き部22を水平方向で挟んだ一方側(仮に、機台21の前端部とする)にローラ23が回転自在に取り付けられている。このローラ23はこの発明における受け部材に相当するものであって、機台21の側面に水平方向に突き出した状態に取り付けた支持軸に回転自在に取り付けられている。
【0027】
また、機台21の側面で前記切り欠き部22より下側の部分に、リニアガイド24が水平に取り付けられており、そのリニアガイド24にスライダー25が水平方向に前後動できるように係合し、保持されている。このスライダー25は、平板状の部材であって、その側面には、前記ローラ23と対をなすローラ26が取り付けられている。すなわち、前記ローラ23の中心軸線と平行となるように支持軸がスライダー25の側面に水平方向に突出して取り付けられ、その支持軸に他方のローラ26が回転自在に取り付けられている。したがって、当該他方のローラ26は、前記ローラ23と共にこの発明の受け部材に相当している。
【0028】
これらのローラ23,26は、前述したリング9を直接巻き掛け、あるいはリング9に組み付けたエレメント6を巻き掛け、その状態でリング9に所定の張力を付与するためのものであり、リング9やエレメント6に応じた形状の巻き掛け溝を備えている。その例を図3に示してあり、ローラ23,26の外周面には、二条のリング9の幅とほぼ等しい幅の胴部27が形成され、その胴部27の軸線方向での両端部からテーパー状に広がって半径方向で外側に延びた内壁面28が形成され、これらの胴部27と内壁面28とで巻き掛け溝が構成されている。したがって、胴部27の幅は、エレメント6におけるサドル面10の幅と同等もしくは僅か狭い幅であり、これに対してエレメント6の最小幅は、サドル面10および胴部27の幅より広いので、二条のリング9は胴部27に巻き掛かり、エレメント6は胴部27より外周側で前記各内壁面28に挟まれた状態でローラ23,26に巻き掛かるように構成されている。したがって、胴部27もしくはその外周面がこの発明における第1受け面に相当し、内壁面28がこの発明の第2受け面に相当している。
【0029】
上記のローラ23,26に巻き掛けられたリング9に所定の張力を付与するためのアクチュエータが設けられている。すなわち、上記の機台21の後端部側(前記ローラ23が取り付けられている先端部とは反対側)にブラケット29が取り付けられており、ロッドを前記スライダー25に向けた引っ張りシリンダ30がそのブラケット29に取り付けられている。この引っ張りシリンダ30は、エアーシリンダ、油圧シリンダ、電動シリンダなどのいわゆる直動型のアクチュエータであって、そのロッドがスライダー25に連結されている。
【0030】
この引っ張りシリンダ30は、スライダー25を図1および図2の右方向に後退移動させて各ローラ23,26の間隔を広げることによりリング9に張力を付与するためのものであり、したがって流体圧や電力を供給することによりロッドが後退し、これとは反対の方向には推力を発生せず、もしくはリターンスプリングなどで復帰移動するいわゆる単動型のものを採用することができる。そして、リング9に付与する張力が予め定めた一定の張力となるように構成されている。例えば、調圧バルブなどによって供給圧力が一定に設定されてスライダー25を引っ張る力が一定となるように構成されている。
【0031】
したがって、各ローラ23,26にリング9が直接巻き掛かっている場合と、リング9に組み付けたエレメント6が巻き掛かっている場合とでローラ23,26の軸間距離が異なっても、その軸間距離の相違分、スライダー25を移動させてリング9の張力を一定にするように構成されている。このように構成された引っ張りシリンダ30がこの発明の推力機構に相当している。
【0032】
つぎに上記の治具20を使用してリング9にエレメント6を組み付ける方法を説明する。先ず、スライダー25を前進させて各ローラ23,26を互いに接近させておき、それらのローラ23,26に二条のリング9を互いに並べて巻き掛ける。その状態を図1に鎖線で示してある。
【0033】
ついで、スライダー25を引っ張りシリンダ30によって図1の右方向に後退移動させる。スライダー25と共にこれに取り付けられている他方のローラ26が後退するので、各ローラ23,26の間隔が広がり、それに伴ってこれらのローラ23,26に巻き掛けられているリング9の直径上で対称となる二箇所が引っ張られ、その結果、リング9は次第に楕円形状から長円形状に変形し、ついには、ローラ23,26に巻き掛かっている二箇所の間の部分が直線状もしくはこれに近い状態に張られる。これは、エレメント6における左右のフック部11に各リング9の側縁部を引っ掛けて組み付ける際に各リング9を撓ませたり、あるいは捻るなどの変形を容易に生じさせるためであり、したがって直線状に張るとしても、エレメント6の組付けのための変形を容易に生じさせ得る程度の張力に設定する。
【0034】
一方、一度に組み付ける所定数のエレメント6を互いに姿勢を揃えて整列した状態でマガジンあるいはホルダーに入れておき、これを前記機台21に形成されている切り欠き部22からリング9の内周側に挿入し、それらのエレメント6をリング9の直線状に張ってある部分にその内側(下側)から組み付ける。その場合、二条のリング9の幅はエレメント6における開口部12の開口幅より広いから、これらのリング9をその一部が重なるように変形させ、その全体としての幅を縮小させる。そのような変形は、エレメント6を組み付ける箇所が直線状に張られているので、容易に行うことができる。
【0035】
なお、リング9にエレメント6を組み付ける具体的な手順は種々可能であり、例えば一方のリング9の側縁部にエレメント6の一方のフック部11を引っ掛け、その状態でエレメント6と共にそのリング9を引き下げ、その引き下げたリング9の上側に他方のリング9を移動させて、二条のリング9の一部を重ね合わせる。その場合、他方のリング9を捻ることになるが、その部分は直線状になっているので、容易に重ね合わせることができる。
【0036】
こうすることにより、二条のリング9全体としての幅が、エレメント6の開口部12の幅より狭くなり、あるいはリング9とフック部11との干渉が生じなくなるので、一方のリング9の側縁部をフック部11に引っ掛けているエレメント6を持ち上げれば、二条のリング9全体がサドル面10上に収まり、その状態で各リング9の重なりを解消することにより、両方のリング9の側縁部がそれぞれフック部11の内側に入り込み、抜け止めされる。すなわち、複数個のエレメント6の組み付けが完了する。なお、このような組み付け作業は手作業で行うことができ、あるいはエレメント6を上述したように動作させることのできる自動機もしくは工業用ロボットによって行うこともできる。
【0037】
こうして組み付けられたエレメント6は、ローラ23,26を回転させることによりリング9と共に移動させ、組付けを行うべき直線状の部分すなわち組み付け作業領域から除く。ついで、更に他のエレメント6を上述した手順と同様の手順でリング9に組み付ける。
【0038】
リング9に組み付けられたエレメント6の数が多くなると、ローラ23,26の回転によってそれらのエレメント6が列を成してローラ23,26の巻き掛け溝を形成している内壁面28の間に挟み込まれて保持される。したがって、リング9はローラ23,26の胴部27から離れて外周側に保持されるから、リング9のローラ23,26に対する巻き掛け半径が大きくなる。これに対して引っ張りシリンダ30はリング9に付与する張力が一定となるように構成され、あるいは制御されるから、エレメント6がローラ23,26に巻き掛かることに伴ってスライダー25が図1の左方向に前進し、各ローラ23,26の間隔が、エレメント6の寸法に応じて縮小される。
【0039】
すなわち、図4に示すように、リング9のみがローラ23,26に巻き掛かっている場合にはそれらのローラ23,26の時間距離(ピッチ)が符号Pで示す状態であっても、エレメント6がローラ23,26に巻き掛かれば、ローラ23,26の軸間距離が符号P’で示すように所定寸法ΔPだけ減じられ、その寸法ΔPがローラ23,26にエレメント6が巻き掛かることに伴ってリング9の巻き掛け半径の増大分に対応している。こうしてリング9の直線状に張られている部分の張力がほぼ一定になるので、常時一定した組み付け作業を行うことができる。言い換えれば、自動化が容易である。
【0040】
そして、各エレメント6がそのディンプル7とホールとが嵌合して繋がり、かつ各エレメント6同士の間隔(エンドプレーと称することもある)が予め定めた寸法となるまでエレメント6が組み付けられると、ベルト1の組立が完了する。その場合は、前記スライダー25を前進させて各ローラ23,26の間隔を狭くすることにより、リング9(ベルト1)をゆるめてローラ23,26から取り外す。
【0041】
したがって、この発明に係る上記の治具20および組立方法によれば、並列させて配置した二条のリング9を、その一部が直線状を成すように保持し、その直線状の部分にエレメント6を組み付けるので、その作業を容易に行うことができる。また、その直線状を成す部分の張り具合、すなわち張力は、ローラ23,26にリング9が巻き掛かっている場合とエレメント6が巻き掛かっている場合とで同じになるので、常時一定した作業で容易にエレメント6を組み付けることができ、さらには自動化が容易になる。
【0042】
つぎに、この発明に係る治具の他の例を説明する。上述した例は、ローラ23,26にエレメント6が巻き掛かることに伴い、リング9に掛かる張力を一定にするためにローラ23,26の間隔(ピッチ)を変更するように構成した例であるが、これに加えてローラ23,26の上下方向の位置を調整してリング9の高さを一定に維持するように構成することができる。図5ないし図7はその例を示しており、機台21の前端部に設けられているローラ23は機台21に直接取り付けられずに、リニアガイド31を介して機台21に取り付けられている。このリニアガイド31は上下方向に向けて機台21に取り付けられたガイドレールとそのガイドレールに沿って上下動するスライダーとを備え、ローラ23の支持軸がそのスライダーに突設されている。そして、そのスライダーを上向きに押圧する弾性機構(例えばコイルばね)32がローラ23の下側に設けられている。
【0043】
一方、そのローラ23の上方には、ローラ23に巻き掛けられているリング9の上下方向に位置を規定する調整ローラ33が配置されている。すなわち、機台21の上部には、高さ調整シリンダ34が下向きに取り付けられており、その高さ調整シリンダ34のロッドに取り付けられた可動ブロック35に調整ローラ33が回転自在に取り付けられている。その調整ローラ33の回転中心軸線と前記ローラ23の回転中心軸線とは互いに平行になっており、また軸線方向での中心位置が一致している。すなわち、リング9を各ローラ23,33によって挟み付けるようになっている。なお、高さ調整シリンダ34を機台21に取り付けているブラケット36が可動ブロック35を上下方向にガイドするように構成されている。
【0044】
また、他方のローラ26は、スライダー25に直接取り付けられずに、リニアガイド37を介してスライダー25に取り付けられている。このリニアガイド37は、機台21の前端部側に設けられているものと同様に、上下方向に向けてスライダー25に取り付けられたガイドレールとそのガイドレールに沿って上下動するスライダーとを備え、ローラ26の支持軸がそのスライダーに突設されている。そして、そのスライダーを上向きに押圧する弾性機構(例えばコイルばね)38がローラ26の下側に設けられている。なお、この弾性機構38はスライダー25に取り付けられており、したがってローラ26と共に移動するようになっている。
【0045】
一方、そのローラ26の上方には、ローラ26に巻き掛けられているリング9の上下方向に位置を規定する調整ローラ39が配置されている。すなわち、スライダー25の上部には、高さ調整シリンダ40が下向きに取り付けられており、その高さ調整シリンダ40のロッドに取り付けられた可動ブロック41に調整ローラ39が回転自在に取り付けられている。その調整ローラ39の回転中心軸線と前記ローラ26の回転中心軸線とは互いに平行になっており、また軸線方向での中心位置が一致している。すなわち、リング9を各ローラ26,39によって挟み付けるようになっている。なお、高さ調整シリンダ40をスライダー25に取り付けているブラケット42が可動ブロック41を上下方向にガイドするように構成されている。
【0046】
上記の図5ないし図7に示す治具を使用してリング9にエレメント6を組み付ける手順を説明すると、各高さ調整シリンダ34,40によって各調整ローラ33,39をローラ23,26から十分離れるように上方に引き上げておき、その状態でスライダー25を前端部のローラ23側に前進させ、各ローラ23,26の間隔を狭くしておく。その状態では前述した例と同様に、二条のリング9を互いに並列にしてそれらのローラ23,26に巻き掛け、ついでスライダー25を引っ張りシリンダ30によって後退移動させてリング9を長円形状もしくは楕円形状にして保持する。その過程で、もしくは各ローラ23,26の間隔を所定の間隔まで広げた後に、各高さ調整シリンダ34,40を動作させて調整ローラ33,39を下降させる。こうして、リング9をローラ23と調整ローラ33との間、およびローラ26と調整ローラ39との間に挟み付ける。その状態を図8の(a)に示してある。
【0047】
このように各ローラ23,26の間に張られたリング9の直線状の部分にエレメント6を前述した例と同様にして所定数ずつもしくは一つずつ組み付ける。リング9に組み付けられたエレメント6は、ローラ23,26を回転させることにより直線状の部分すなわち組み付けエリアから移動させられ、その組み付けられたエレメント6の数が多くなると、エレメント6がいずれかのローラ23,26に巻き掛かるようになる。その場合、引っ張りシリンダ30によってスライダー25と共にローラ26が前進させられ、各ローラ23,26の間隔がエレメント6の寸法に応じて狭められ、リング9に作用する張力がほぼ一定に維持されるのは、前述した例と同様である。
【0048】
また、図5ないし図7に示すように構成されていれば、エレメント6がいずれかのローラ23,26に巻き掛かり始めると、そのローラ23,26とその上側に配置されている調整ローラ33,39との間にエレメント6が入り込む。その場合、調整ローラ33,39の高さ位置が高さ調整シリンダ34,40によって決められているのに対して、ローラ23,26はその下方に配置されている弾性機構32,38の弾性力で押し上げられていて上下動可能であるから、ローラ23,26と調整ローラ33,39との間にエレメント6が入り込むと、それに伴ってリング9が胴部27から相対的に押し上げられる寸法Lに応じてローラ23,26が押し下げられる。すなわち、調整ローラ33,39はリング9の外周面に接触しているから、リング9の高さは変わらずに、ローラ23,26の位置が下がる。その状態を図8の(b)に示してある。
【0049】
このように、図5ないし図7に示す構成の治具によれば、ローラ23,26にリング9が直接巻き掛かっている場合と、リング9に組み付けられたエレメント6が巻き掛かっている場合とにおけるリング9の高さ位置が調整ローラ33,39に規定されて変化しない。そのため、エレメント6の組み付けを行う直線状の部分の張力がほぼ一定に維持されることに加えて、高さ位置が一定に維持されるので、組み付け作業位置が一定になり、その結果、エレメント6の組み付け作業性が向上し、また自動機や工業用ロボットを使用する場合にはその動作位置を再調整する必要性が殆どないので、組み付け作業の自動化が容易になる。
【0050】
そして、リング9に対するエレメント6の組み付けが終了した場合には、各ローラ23,26を接近させるとともに、調整ローラ33,39を上昇させてリング9から離隔させ、その後、ベルト1をローラ23,26から取り外す。
【0051】
なお、この発明は上述した各具体例に限定されないのであり、この発明における受け部材やリングに接触してその上限位置を規定する位置規制部材は、ローラによって構成する替わりに、滑らかな曲面を備えた適宜の部材を用いて構成してもよい。
【0052】
また、この発明は、二条のリング9を用いたベルトを組み立てるための治具および方法に限られないのであって、この発明は、要は、左右両側のフック部にリングの側縁部を係合させてその抜け止めを行うように構成されていればよく、したがってリングは複数であればよい。さらに、リングを巻き掛けるローラあるいはこれに相当する受け部材の間隔は、一方を移動させて適宜に設定する構成以外に、両方を相互に反対方向に移動させてその間隔を変化させる構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】この発明に係るベルト組立治具の一例を示す正面図である。
【図2】その平面図である。
【図3】そのローラの巻き掛け溝の形状を示す部分図である。
【図4】リングが巻き掛かっている場合のローラの間隔とエレメントが巻き掛かっている場合のローラの間隔とを説明するための模式図である。
【図5】この発明に係るベルト組立治具の他の例を示す正面図である。
【図6】図5のVI−VI線矢視図である。
【図7】その側面図である。
【図8】調整ローラによってリングの高さ位置を規定している状態を示す部分図である。
【図9】この発明で対象とするベルトを用いた無段変速機の模式図である。
【図10】この発明で対象とするベルトを構成しているエレメントの正面図である。
【図11】従来のベルトを構成しているブロックの正面図である。
【符号の説明】
【0054】
1…ベルト、 6…エレメント、 9…リング、 10…サドル面、 11…フック部、 12…開口部、 20…治具、 23,26…ローラ、 27…胴部、 28…内壁面、 30…引っ張りシリンダ、 32,38…弾性機構(例えばコイルばね)、 33,39…調整ローラ、 34,40…高さ調整シリンダ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立用治具において、
前記リングが巻き掛けられる第1受け面と、該第1受け面より外周側に設けられ前記リングに組み付けられた前記エレメントが巻き掛けられる第2受け面とを有する少なくとも一対の受け部材と、
その受け部材の少なくともいずれか一つを他の受け部材から離れる方向に移動させて前記リングに張力を与えることにより前記リングにおける各受け部材の間の部分を直線状にするとともに、前記リングが受け部材に巻き掛かっている場合と前記リングに組み付けたエレメントが受け部材に巻き掛かっている場合とで前記張力が等しくなるように各受け部材の間隔を調整する推力機構と
を備えていることを特徴とするベルト組立用治具。
【請求項2】
姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立用治具において、
前記リングとそのリングに組み付けられたエレメントとを巻き掛けることができかつ相互に水平方向に離れるように移動して、巻き掛けられているリングに張力を与えてリングの一部を直線状に張る少なくとも一対の受け部材と、
直線状に張られている前記リングの一部の高さ位置を調整する高さ調整機構と
を備えていることを特徴とするベルト組立用治具。
【請求項3】
前記高さ調整機構は、前記一対の受け部材を弾性力で押し上げる押圧部材と、その受け部材に巻き掛けられている前記リングを突き当ててその高さ位置を規制する位置規制部材とを備えていることを特徴とする請求項2に記載のベルト組立用治具。
【請求項4】
前記受け部材は、回転自在に保持されたローラを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のベルト組立用治具。
【請求項5】
姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立方法において、
前記リングの直径方向で対向する二箇所を互いに反対方向に押圧してこれら二箇所の中間の部分を直線状に張り、
その直線状に張られた部分に前記エレメントを組み付け、その組み付けられたエレメントをリングに沿って移動させた後に前記直線状に張られた部分に他のエレメントを組み付ける
ことを特徴とするベルト組立方法。
【請求項6】
前記エレメントは、二条の前記リングを互いに並列に配置して載せるサドル面と、そのサドル面の左右両側に前記環状に配列した状態で外周側に突出して形成されかつ前記サドル面上のリングを抜け止めする抜け止め部とを備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のベルト組立用治具もしくは請求項5に記載のベルト組立方法。
【請求項1】
姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立用治具において、
前記リングが巻き掛けられる第1受け面と、該第1受け面より外周側に設けられ前記リングに組み付けられた前記エレメントが巻き掛けられる第2受け面とを有する少なくとも一対の受け部材と、
その受け部材の少なくともいずれか一つを他の受け部材から離れる方向に移動させて前記リングに張力を与えることにより前記リングにおける各受け部材の間の部分を直線状にするとともに、前記リングが受け部材に巻き掛かっている場合と前記リングに組み付けたエレメントが受け部材に巻き掛かっている場合とで前記張力が等しくなるように各受け部材の間隔を調整する推力機構と
を備えていることを特徴とするベルト組立用治具。
【請求項2】
姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立用治具において、
前記リングとそのリングに組み付けられたエレメントとを巻き掛けることができかつ相互に水平方向に離れるように移動して、巻き掛けられているリングに張力を与えてリングの一部を直線状に張る少なくとも一対の受け部材と、
直線状に張られている前記リングの一部の高さ位置を調整する高さ調整機構と
を備えていることを特徴とするベルト組立用治具。
【請求項3】
前記高さ調整機構は、前記一対の受け部材を弾性力で押し上げる押圧部材と、その受け部材に巻き掛けられている前記リングを突き当ててその高さ位置を規制する位置規制部材とを備えていることを特徴とする請求項2に記載のベルト組立用治具。
【請求項4】
前記受け部材は、回転自在に保持されたローラを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のベルト組立用治具。
【請求項5】
姿勢を揃えて環状に配列された板片状の多数のエレメントをリングによって結束してなるベルトを組み立てるベルト組立方法において、
前記リングの直径方向で対向する二箇所を互いに反対方向に押圧してこれら二箇所の中間の部分を直線状に張り、
その直線状に張られた部分に前記エレメントを組み付け、その組み付けられたエレメントをリングに沿って移動させた後に前記直線状に張られた部分に他のエレメントを組み付ける
ことを特徴とするベルト組立方法。
【請求項6】
前記エレメントは、二条の前記リングを互いに並列に配置して載せるサドル面と、そのサドル面の左右両側に前記環状に配列した状態で外周側に突出して形成されかつ前記サドル面上のリングを抜け止めする抜け止め部とを備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のベルト組立用治具もしくは請求項5に記載のベルト組立方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−204107(P2009−204107A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47852(P2008−47852)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
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