説明

ベローズ型メカニカルシールおよびこのシールを備えたアルカリ洗浄装置

【課題】アルカリ洗浄液等の液体中に混入した異物によりベローズが傷つくことがなく、しかも、ロールの回転軸の表面を傷つける恐れがなく、さらに、取り付けにボルト等を用いる必要がないベローズ型メカニカルシールおよびこのシールを備えたアルカリ洗浄装置を提供する。
【解決手段】冷間圧延後の鋼板に付着した圧延油を除去するためのアルカリ洗浄装置において、ベローズ4の内側谷部内に弾性体からなるベローズ保護材7が設けられているベローズ型メカニカルシールを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ベローズ型メカニカルシールおよびこのシールを備えたアルカリ洗浄装置、特に、タンク内の液体に混入した異物によりベローズが損傷を受けることがない、ベローズ型メカニカルシールおよびこのシールを備えたアルカリ洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延後の鋼板に焼きなまし処理を施す連続焼鈍炉設備は、冷間圧延時に、鋼板に付着した圧延油を鋼板から除去するためのアルカリ洗浄装置を備えている。アルカリ洗浄装置は、圧延油が付着した鋼板を、アルカリ洗浄液が入れられたタンク内を通過させることにより鋼板に付着した圧延油を中和して洗い流すものである。
【0003】
アルカリ洗浄装置は、アルカリ洗浄液を入れるシンクタンク(以下、単にタンクという)と、このタンク内に設置された、鋼板を通過させるためのシンクロール(以下、単にロールという)とを備えている。
【0004】
このようなアルカリ洗浄装置においては、タンクとロールの回転軸との間からの液漏れを防止するために、ベローズ型メカニカルシールを介してロールがタンク内に回転自在に取り付けられている。ベローズ型メカニカルシールを用いたのは、タンク内のアルカリ洗浄液の温度は、ライン運転中、最大90℃程度の温度となり、これによるタンクの熱伸びに追随するためである。
【0005】
以下、このベローズ型メカニカルシールを、図面を参照しながら説明する。
【0006】
図2は、ベローズ型メカニカルシールを示す断面図である。
【0007】
図2において、11は、アルカリ洗浄液(L)が入れられたタンク、12は、タンク11内に水平に取り付けられたロール、13は、タンク11とロール12の回転軸12Aとの間からの液漏れを防止するためのベローズ型メカニカルシールである。
【0008】
ベローズ型メカニカルシール13は、例えば、一端がタンク11の外壁に固定されたゴム製ベローズ14の他端を、セラミック製シールリング15を介してゴム製リテイナー16に取り付けたものである。リテイナー16は、ロール軸12Aに固定されていて、ロール軸12Aと共に回転する。
【0009】
上記ベローズ型メカニカルシールによれば、タンクの熱伸びに追随でき、タンク11内のアルカリ洗浄液中に異物が混入しなければ、タンク11とロール12の回転軸12Aとの間からの液漏れを確実に防止することができるが、アルカリ洗浄液中には、鋼板から剥離したヘゲと称される厚み1mm以下、長さ10〜20mm程度の大きさの鉄片が通板に伴って混入し、この異物がタンク11と回転軸12Aとの間の隙間(M)からベローズ4の谷部(N)内に入り込んでベローズ14を傷つけ、この部分からタンク11内のアルカリ洗浄液がタンク11外に漏れ出すことがあった。
【0010】
そこで、上記問題点を解決するためのベローズ型メカニカルシールが実開昭62−44179号公報に開示されている。
【0011】
以下、このベローズ型メカニカルシールを従来メカニカルシールといい、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図3は、従来メカニカルシールを示す断面図である。
【0013】
図3において、17は、タンク、18は、回転軸18Aを有するロール、19は、従来メカニカルシールであり、ベローズ20と筒状カバー21とを備えている。カバー21は、ベローズ20の内周面を覆って、タンク17内のアルカリ洗浄液中に混入した異物がベローズ20に接触して、ベローズ20を傷つけるのを防止する。
【0014】
【特許文献1】実開昭62−44179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述した従来メカニカルシールによれば、ベローズ20の内周面をカバー21により覆うことによって、アルカリ洗浄液中に混入した異物は、ベローズ20に接触しないので、異物によりベローズ20が傷つくことは防止できるが、以下のような問題があった。
【0016】
(a)ロール18の回転軸18Aの表面には、回転軸18Aがアルカリ洗浄液により腐食されないようにゴムライニングが施されているが、カバー21がこのライニングに接触して、ライニングを破損させ、破損部からロール回転軸18Aにアルカリ洗浄液が浸入する。
(b)上記問題が起こらないようにするために、回転軸18Aとカバー21との間隔を広く取ると、その広くなった隙間から上述したヘゲ等の異物が混入して、ベローズ20を傷つける。
(c)カバー21の一端は、ベローズ20の一端が固定されるシール環22に固定されるが、この固定手段にボルト等を使用すると、このボルトが外れてベローズ20の破損につながる。
【0017】
従って、この発明の目的は、アルカリ洗浄液等の液体中に混入した異物によりベローズが傷つくことがなく、しかも、ロールの回転軸の表面を傷つける恐れがなく、さらに、取り付けにボルト等を用いる必要がないベローズ型メカニカルシールおよびこのシールを備えたアルカリ洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、以下の特徴を有するものである。
【0019】
請求項1記載の発明は、ベローズ型メカニカルシールにおいて、前記ベローズの内側谷部内に弾性体からなるベローズ保護材が設けられていることに特徴を有するものである。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ベローズ保護材がスポンジゴム製であることに特徴を有するものである。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記ベローズ保護材がエチレンプロピレンゴムからなっていることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の発明において、前記ベローズ保護材の内周面にシーラントが塗布されていることに特徴を有するものである。
【0023】
請求項5記載の発明は、連続的に搬送される鋼板のアルカリ洗浄装置において、アルカリ洗浄液中のシンクロール軸のシール装置として、請求項1から4の何れか1つに記載のベローズ型メカニカルシールが用いられていることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、ベローズの内側谷部内に弾性体からなるベローズ保護材を設けることによって、アルカリ洗浄液等の液体中に混入した異物によりベローズが傷つくことがなく、ロールの回転軸の表面を傷つける恐れがなく、しかも、取り付けにボルト等を用いる必要がないので、このボルトの脱落によりベローズが破損することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明のベローズ型メカニカルシールの一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、この発明のベローズ型メカニカルシールを示す断面図である。
【0027】
図1において、1は、アルカリ洗浄液(L)が入れられたタンク、2は、タンク1内に水平に取り付けられたロール、3は、タンク1とロール2の回転軸2Aとの間からの液漏れを防止するためのベローズ型メカニカルシールである。
【0028】
この発明のベローズ型メカニカルシールの基本的構成は、図2のメカニカルシールと同様に、一端がタンク1の外壁に固定されたゴム製ベローズ4の他端を、セラミック製シールリング5を介してゴム製リテイナー6に取り付けたものである。リテイナー6は、ロール軸2Aに固定されていて、ロール軸2Aと共に回転する。異なる点は、ベローズ4の内側谷部内に弾性体からなるベローズ保護材7が設けられていることにある。
【0029】
このように、ベローズ4の内側谷部内にベローズ保護材7を設けることによって、アルカリ洗浄液中に混入した上記ヘゲ等の異物がタンク1と回転軸2Aとの間の隙間(M)から入り込んでも、ベローズ4と接触しないので、ベローズ4を傷つけることはない。しかも、ベローズ保護材7は、回転軸2Aと接触せず、たとえ接触しても、柔軟性があるので、回転軸2Aの表面に施されたゴムライニングを傷つける恐れがなく、さらに、ベローズ保護材7は、ベローズ4の内側谷部内に充填等により設けられるので、脱落によりゴムライニングを傷つける恐れがあるボルト等を用いる必要がない。
【0030】
ベローズ保護材7は、ベローズ4に合わせて伸縮する弾性体とする必要がある。特に、スポンジゴム製とすることが好ましい。しかも、この例のように、アルカリ洗浄装置に使用する場合には、90℃以上の温度とアルカリとに耐え得るような材質、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPT)が好ましい。タンク1内の液体がアルカリ洗浄液でない場合には、他の材質、例えば、ニトリルゴム、天然ゴムなどであっても良い。さらに、ベローズ4の内側谷部内にベローズ保護材7を封入後、シーラントをベローズ保護材7に塗布すれば、ベローズ保護材7とベローズ4との間へのアルカリ洗浄液の浸透を防止でき、しかも、ベローズ4へのベローズ保護材7の固定が行える。
【0031】
表1に、ベローズ保護材7をスポンジゴム製とし(但し、発泡ウレタンの場合を除く)、その材質を変えたときの、耐アルカリ性、耐熱性、弾力性、圧縮永久性、耐久性についての結果を示す。表1中、◎印は、非常に優れていることを示し、○印は、優れていることを示し、△印は、やや劣ることを示し、そして、×印は、劣っていることを示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、この発明のベローズ型メカニカルシールをアルカリ洗浄装置に使用する場合には、ベローズ保護材7の材質として、EPT(エチレンプロピレンゴム)が一番優れていることが分かった。これに対して、発泡ウレタンは、不適であることが分かった。
【0034】
なお、以上は、この発明のベローズ型メカニカルシールをアルカリ洗浄装置に使用した場合であるが、これ以外の装置に使用することも勿論、可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明のベローズ型メカニカルシールを示す断面図である。
【図2】ベローズ型メカニカルシールを示す断面図である。
【図3】従来メカニカルシールを示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1:タンク
2:ロール
2A:回転軸
3:メカニカルシール
4:ベローズ
5:シールリング
6:リテイナー
7:ベローズ保護材
11:タンク
12:ロール
12A:回転軸
13:メカニカルシール
14:ベローズ
15:シールリング
16:リテイナー
17:タンク
18:ロール
18A:回転軸
19:従来メカニカルシール
20:ベローズ
21:カバー
22:シール環

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベローズ型メカニカルシールにおいて、前記ベローズの内側谷部内に弾性体からなるベローズ保護材が設けられていることを特徴とするベローズ型メカニカルシール。
【請求項2】
前記ベローズ保護材がスポンジゴム製であることを特徴とする、請求項1記載のベローズ型メカニカルシール。
【請求項3】
前記ベローズ保護材がエチレンプロピレンゴムからなっていることを特徴とする、請求項1または2記載のベローズ型メカニカルシール。
【請求項4】
前記ベローズ保護材の内周面にシーラントが塗布されていることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載のベローズ型メカニカルシール。
【請求項5】
連続的に搬送される鋼板のアルカリ洗浄装置において、アルカリ洗浄液中のシンクロール軸のシール装置として、請求項1から4の何れか1つに記載のベローズ型メカニカルシールが用いられていることを特徴とするアルカリ洗浄装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−255481(P2007−255481A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78068(P2006−78068)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】