説明

ベンゾオキサジン系化合物及びその製造方法

【課題】配向性に優れ、且つ、重合によりネットワーク構造を形成し得る新規のベンゾオキサジン系化合物とその製造法を提供すること。
【解決手段】2つのベンゾオキサジン環構造と、そのベンゾオキサジン環構造のベンゼン環側に結合され略平面状に配列する複数のベンゼン環を備えた原子団と、一方のベンゾオキサジン環構造および他方のベンゾオキサジン環構造のそれぞれのヘテロ環の窒素原子に結合して両ベンゾオキサジン環構造を連結するものであって主鎖方向に3以上の原子を備えた2価の連結基とを備えた構造とすることにより、配向性に優れ、且つ、重合によりネットワーク構造を形成し得る新規のベンゾオキサジン系化合物を提供することができる。また、液晶フェノールとジアミン化合物とを反応させることにより、液晶性ベンゾオキサジン系化合物を簡便に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベンゾオキサジン系化合物及びその製造方法に関し、特に、配向性に優れ、且つ、重合によりネットワーク構造を形成し得る新規のベンゾオキサジン系化合物とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン系化合物は、フェノール類とアミン類とホルムアルデヒドとから合成することができる。フェノール類及びアミン類は多種多様なものが広く提供されているため、フェノール類およびアミン類を選択することにより、所望の特性を有する様々な種類のベンゾオキサジン系化合物を合成できる。このベンゾオキサジン系化合物は、加熱によって開環重合し、ポリベンゾオキサジンが生成するモノマーとなっている。ここで、原料となるフェノール類とアミン類とが多種にわたるのでベンゾオキサジン系化合物は設計の自由度が高く、それを重合することによって多様な特性を有する高分子を実現(ポリベンゾオキサジンを製造)できる。このポリベンゾオキサジンは、分子構造中にフェノール構造を有するためにフェノール樹脂の一種とみなされている。ポリベンゾオキサジンは、優れた耐熱性樹脂であり、現在、各種構造材や電子材料に用いられている。
【0003】
一方で、樹脂材料に対し、更なる高機能化(高耐熱性、高機械的強度、低誘電率、高熱伝導性等)が望まれている。その1つの手法として、樹脂の配向性向上が検討されている。一般に、樹脂(高分子)の配向性を向上させると、分子鎖の配列に伴って結晶性や密度が向上し、機械的強度、耐熱性が改善することが知られている。また、分子鎖が一方向に並ぶことで生じる異方性に起因して、誘電率の低下や熱伝導性の向上が生じることが知られている。
【0004】
この配向性を向上させる構造を有するものとして高分子液晶が検討されている。高分子液晶は、一般に、棒状または板状の剛直な構造を形成するメソゲン基と、柔軟性を付与するスペーサ基とを分子中に有することで、液晶性を発現するように設計された高分子である。高分子液晶は、外部からの電場や熱、成形条件などに応じて分子配向が生じ、その配向状態により、優れた機械的強度や耐熱性を実現することができる。更には、サーモトロピック型である場合、溶融粘度を低減させる性質があるため、機械的性質等が向上するにもかかわらず、成型加工性を損なうことがなく、成形材料、複合材料などの分野で幅広く用いられている。
【0005】
ここで、高分子液晶では分子運動が抑制されるため、低分子液晶に用いる電場や磁場、ラビング処理といった配向方法を利用しても、系全体の配向方向をそろえることが困難となることが多い。このため、その解決手法として、重合基を有する低分子液晶のバルク重合法が提案されている。低分子液晶のバルク重合法は、液晶相を発現しやすいメソゲン基に直接あるいはスペーサ基を介して重合基を導入することにより、高分子液晶の前駆体(液晶モノマー)を合成し、熱処理により重合して高分子液晶を生成する方法である。液晶性モノマーは高度に配向しやすく、外的要因を調整することによって、より配向性を向上させることができる。そして、配向状態で重合させることにより、分子鎖方向が揃った高分子(高分子液晶)を得ることができるのである。
【0006】
現在知られている高分子液晶は、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリアゾメチン(以上サーモトロピック液晶)、ポリアミド、ポリベンゾチアゾール(以上ライオトロピック液晶)等があり、例えば、特表平8−509020号公報(特許文献1)には、液晶性ポリエステル樹脂が開示されている。特開2004−331811号公報(特許文献2)には、エポキシ樹脂にアゾメチン基のメソゲン骨格を導入することで放熱特性を向上させた液晶性エポキシ樹脂が提案されている。また、特開2004−225034号公報(特許文献3)には、熱伝導性の向上を目的としてエポキシ樹脂にメソゲン骨格が導入された液晶性エポキシ樹脂が提案されている。更には、特開平9−302070号公報(特許文献4)には、硬化剤或いは主剤のエポキシ樹脂にメソゲン骨格を導入することで、接着性を備えつつ、高温強度向上、熱歪及び吸水性を抑制できる液晶性エポキシ樹脂が提案されている。また、特開2006−306778号公報(特許文献5)には、エポキシ樹脂よりも高Tg、高耐熱性であるポリベンゾオキサジンについて、メソゲン骨格を分子中に導入したものが提案されている。
【0007】
更には、本願発明者は、ベンゾオキサジン系化合物の構造を鋭意検討し、特定の構造を備えたベンゾオキサジン系化合物が液晶モノマーとなることを見いだした(特許文献6)。また、その液晶性ベンゾオキサジン系化合物が熱処理により重合する重合組成物を設計し、ベンゾオキサジン系高分子液晶を実現するに至った。即ち、配向性に優れたベンゾオキサジン系樹脂や、高分子液晶となる得るベンゾオキサジン系樹脂を得るためには、その出発原料(モノマー)であるベンゾオキサジン系化合物の設計が非常に重要となっているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平8−509020号公報
【特許文献2】特開2004−331811号公報
【特許文献3】特開2004−225034号公報
【特許文献4】特開平9−302070号公報
【特許文献5】特開2006−306778号公報
【特許文献6】特開2011−16787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1から4に記載された発明は、液晶性ポリエステル樹脂や、液晶性エポキシ樹脂に関するものであり、化学構造が大きく異なるベンゾオキサジン系化合物に係る技術を適用することはできない。
【0010】
また、上記特許文献5に記載された発明には、メソゲン基(剛直な構造)を導入したベンゾオキサジン化合物が開示されているが、一般に、メソゲン基を備えていても液晶性を示さないことが往々にして有ること、また、モノマーの状態で液晶性を備えていることの具体的な開示がないことから、液晶性のベンゾオキサジン系化合物が提供されているかは不明である。また、特許文献5に具体的に開示された製造方法で得られるベンゾオキサジン化合物は、複数の構造体の混合物で得られるため、個々の化合物単体を得るために、分離操作が必要となっていた。更に、往々にして、熱硬化性樹脂は靱性が不足するといった問題を有しており、提案された構造体のみでは、多様な用途すべてを網羅できない。
【0011】
また、特許文献6に開示された液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、分子構造中に1つのベンゾオキサジン環を有するものであったため、これを重合してもネットワーク構造を備えた重合体を得ることができないという問題点があった。ここで、ベンゾオキサジン環が複数導入された多官能構造のモノマー(ベンゾオキサジン系化合物)を作製すれば、その重合体にネットワーク構造を導入できるが、液晶性の発現は分子構造に左右されるため、単純に複数のベンゾオキサジン環を導入しただけでは、液晶性を備えたベンゾオキサジン系化合物を実現することはできない。特に、ベンゾオキサジン環は、ベンゼン環などに比べて分子構造に歪みがあることから、液晶性を備えたベンゾオキサジン系化合物の作製は非常に高度であり、このため、液晶性を備えると共にネットワーク構造を形成することのできる新規なベンゾオキサジン系化合物を提供すること、更にその製造方法を提供することは非常に困難であるという問題点があった。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、配向性に優れ、且つ、重合によりネットワーク構造を形成し得る新規のベンゾオキサジン系化合物とその製造法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1記載のベンゾオキサジン系化合物は、重合反応によって高分子量化するベンゾオキサジン系化合物のうち液晶性を示すものであって、2つのベンゾオキサジン環構造と、そのベンゾオキサジン環構造のベンゼン環側に結合され、略平面状に配列する複数のベンゼン環を備えた原子団と、一方の前記ベンゾオキサジン環構造および他方の前記ベンゾオキサジン環構造のそれぞれのヘテロ環の窒素原子に結合して、両ベンゾオキサジン環構造を連結する連結基とを備え、前記連結基は、主鎖方向に3以上の原子を備えた2価の連結基である。
【0014】
尚、重合反応によって高分子量化するとは、反応によって分子量が増大することを意味するものであり、モノマーが高分子量化することのみならず、架橋反応によるネットワーク形成によって高分子量化することも含む概念である。
【0015】
また、ベンゾオキサジン環構造とは、骨格がベンゾオキサジン環で形成されているものを意味し、ベンゾオキサジン環に結合する水素原子が置換基で置換された誘導体をも含む概念である。更に、複数のベンゼン環は2以上であれば良い。また、かかるベンゼン環は置換基を備えたものを含む概念である。加えて、連結基が主鎖方向に3以上の原子を備えるとは、一方のベンゾオキサジン環のヘテロ原子と他方のベンゾオキサジン環のヘテロ原子との間に、3以上の原子が並んで分子鎖が形成されていることを意味するものである。
【0016】
請求項2記載のベンゾオキサジン系化合物は、請求項1に記載のベンゾオキサジン系化合物において、前記原子団の複数のベンゼン環および前記ベンゾオキサジン環構造のベンゼン環は、隣り合うベンゼン環と、直接結合または2価の有機基によって結合されており、その直接結合または前記有機基は、結合するベンゼン環を介してパラ位に位置するものである。
【0017】
ここで、有機基とは、炭素原子を構造の基本骨格に有する原子団を意味するものであり、炭化水素基のみに限定されるものではない。構造中にヘテロ原子を含んでいても良い。また、飽和結合、不飽和結合のいずれを含んでいるものであってもよく、直鎖状であっても分岐鎖を備えていても良い。また、ベンゼン環を結合する2価の各有機基は同じであっても、異なっていても良い。加えて、隣り合うベンゼン環は全て2価の有機基、または全て直接結合によって結合されていても良く、2価の有機基と直接結合による結合が混在していても良い。
【0018】
請求項3記載のベンゾオキサジン系化合物は、請求項2に記載のベンゾオキサジン系化合物において、前記有機基は、イミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含むものである。
【0019】
請求項4記載のベンゾオキサジン系化合物は、請求項1から3のいずれかに記載のベンゾオキサジン系化合物において、分子の一方の端部から前記連結基手前の一方のベンゾオキサジン環構造までの部分と、分子の他方の端部から前記連結基の手前の他方のベンゾオキサジン環構造までの部分とは、同じ分子構造である。
【0020】
請求項5記載のベンゾオキサジン系化合物は、下記一般式(1)に記載のベンゾオキサジン系化合物である。
【化1】

(式中Xは、ヘテロ原子を含んでもよい2価の有機基であって、原子数3以上の鎖長を有するものである。式中Yは、それぞれ独立に、直接結合、ヘテロ原子を含んでもよい2価の不飽和炭化水素基、共鳴構造を取り得る官能基である。式中Zは、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含んでもよいアルキル基またはアルコキシ基である。nは1以上の整数である。)但し、Xが炭素鎖長6の炭化水素基であり、且つ、Zが炭素鎖長4のアルキル基を有するアルコキシ基である場合を除く。
【0021】
ここで、有機基とは、炭素原子を構造の基本骨格に有する原子団を意味するものであり、炭化水素基のみに限定されるものではない。構造中にヘテロ原子を含んでいても良い。また、飽和結合、不飽和結合のいずれを含んでいるものであってもよく、直鎖状であっても分岐鎖を備えていても良い。
【0022】
請求項6記載のベンゾオキサジン系化合物は、請求項5に記載のベンゾオキサジン系化合物において、
一般式(1)のXは、炭素鎖長が3以上の2価の炭化水素基であること特徴とする請求項5に記載のベンゾオキサジン系化合物。
【0023】
請求項7記載のベンゾオキサジン系化合物は、請求項5または6に記載のベンゾオキサジン系化合物において、一般式(1)のYは、イミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含むものである。
【0024】
請求項8記載のベンゾオキサジン系化合物の製造方法は、フェノール類とホルムアルデヒドとアミン類とを反応させてベンゾオキサジン系化合物を製造する方法であって、前記フェノール類は、略平面状に配列する複数のベンゼン環を備えた原子団を有するフェノール類であり、前記アミン類は、ジアミン化合物である。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載のベンゾオキサジン系化合物によれば、ベンゾオキサジン環を2つ備えているので、重合によってネットワーク構造を有するベンゾオキサジン系樹脂を生成することができ、機械的特性、耐熱性に優れたベンゾオキサジン系樹脂を得ることができるという効果がある。ここで、本化合物は液晶性を有するので、液晶状態で重合反応を行わせれば、本化合物を高度に配向させつつネットワーク化(高分子量化)することができる。これによれば、配向性を向上させたベンゾオキサジン系樹脂を製造し得る。
【0026】
請求項2記載のベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項1に記載のベンゾオキサジン系化合物にの奏する効果に加え、原子団のベンゼン環およびベンゾオキサジン環構造のベンゼン環は、パラ位の結合手(直接結合)、或いはパラ位の有機基によって隣り合うベンゼン環とそれぞれ結合されるので、各ベンゼン環は一方向に直線的に配列することとなる。よって、分子全体の直線性を向上させることができ、ベンゾオキサジン系化合物を、更に、容易に液晶性とすることができるという効果がある。
【0027】
請求項3記載のベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項2に記載のベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加え、分子内のベンゼン環をイミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含む有機基(官能基)にて結合することができる。よって、官能基を有する誘導体(原料)を用いて本化合物を容易に合成することができるという効果がある。また、官能基を有することで分極が大きくなるため、より一層、本化合物を、容易に液晶性とすることができるという効果がある。
【0028】
請求項4記載のベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項1から3のいずれかに記載のベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加え、分子の一方の端部から連結基手前の一方のベンゾオキサジン環構造までの部分と、分子の他方の端部から連結基の手前の他方のベンゾオキサジン環構造までの部分とは、同じ分子構造である。即ち、連結基の両側部分の分子構造は同じである。故に、分子内の対称性を向上させ、立体構造の規則性を向上させることができるという効果がある。これによれば、本化合物を重合した際に、得られるベンゾオキサジン系樹脂の高耐熱性化を図ることができる。また、ベンゾオキサジン系化合物は、フェノール類、アミン類、ホルムアルデヒドを原料として製造されるが、上記の一方の構造部分と他方の構造部分とが共通の構造となるので、製造原料の種類を少なくすることができる。よって、本化合物の製造工程や原料の管理を簡素にすることができるという効果がある。
【0029】
請求項5記載のベンゾオキサジン系化合物によれば、液晶性を有するベンゾオキサジン系化合物とすることができるという効果がある。さらに、本化合物は、ベンゾオキサジン環を2つ備えているので、重合によってネットワーク構造を有するベンゾオキサジン系樹脂を生成することができ、機械的特性、耐熱性に優れたベンゾオキサジン系樹脂を得ることができるという効果がある。ここで、本化合物は液晶性を有するので、液晶状態で重合反応を行わせれば、本化合物を高度に配向させつつネットワーク化(高分子量化)することができる。これによれば、配向性を向上させたベンゾオキサジン系樹脂を製造し得る。
【0030】
請求項6記載のベンゾオキサジン系化合物によれば、請求項5に記載のベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加え、一般式(1)のXは、炭素鎖長が3以上の2価の炭化水素基であるので、更に、容易に液晶性とすることができるという効果がある。
【0031】
請求項7記載のベンゾオキサジン系化合物は、請求項5または6に記載のベンゾオキサジン系化合物の奏する効果に加え、一般式(1)のYは、イミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含むものであるので、ベンゼン環はイミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含む官能基を介して結合される。故に、官能基を有する誘導体を用いて本化合物を容易に合成することができるという効果がある。また、当該官能基を有することで分極が大きくなるため、より一層、本化合物を、容易に液晶性とすることができるという効果がある。
【0032】
請求項8記載のベンゾオキサジン系化合物の製造方法によれば、略平面状に配列する複数のベンゼン環を備えた原子団を有するフェノール類とジアミン化合物とを反応させてベンゾオキサジン系化合物を製造するので、2のベンゾオキサジン環を分子内に備えると共に液晶性を発現するベンゾオキサジン系化合物を簡便に作製することができるという効果がある。例えば、ベンゾオキサジン環を形成した後、そのベンゼン環側に更に複数のベンゼン環を連結することで同じ構造物を生成することもできる。しかし、かかる製造方法では、合成方法が煩雑になり易い上、分子内に導入されたベンゾオキサジン環の開環反応が誘発されて副産物の生成量が増大しかねない。本製造方法では、ベンゾオキサジン環が生成する反応が合成の最終反応となるので、先にベンゾオキサジン環を形成した後にそのベンゼン環側に原子団を導入する合成方法に比べて、ベンゾオキサジン環の開裂による副産物の生成を抑制でき、目的とするベンゾオキサジン系化合物の収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1で作製された原料フェノールの1H NMRスペクトルを示した図である。
【図2】本発明の実施例1で作製されたベンゾオキサジン系化合物1の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図3】本発明の実施例2で作製されたベンゾオキサジン系化合物2の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図4】本発明の実施例3で作製されたベンゾオキサジン系化合物3の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図5】本発明の実施例4で作製されたベンゾオキサジン系化合物4の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図6】本発明の実施例5で作製されたベンゾオキサジン系化合物5の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図7】本発明の実施例6で作製されたベンゾオキサジン系化合物6の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図8】本発明の実施例7で作製されたベンゾオキサジン系化合物7の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図9】本発明の実施例8で作製されたベンゾオキサジン系化合物8の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図10】比較例1で作製されたベンゾオキサジン系化合物9の1H NMRスペクトルを示した図である。。
【図11】比較例2で作製されたベンゾオキサジン系化合物10の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図12】比較例3で作製されたベンゾオキサジン系化合物11の1H NMRスペクトルを示した図である。
【図13】比較例4で作製されたベンゾオキサジン系化合物12の1H NMRスペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のベンゾオキサジン系化合物は、ベンゾオキサジン環(ベンゾオキサジン環構造)を備えたものであり、フェノール類とアミン類とホルムアルデヒドとを原料として合成される。本発明のベンゾオキサジン系化合物は、2のベンゾオキサジン環を備え、各ベンゾオキサジン環は、2価の有機基の両側にそれぞれ配置されると共に、ヘテロ環の各窒素原子の位置で該2価の有機基と結合されている。そして、各ベンゾオキサジン環のベンゼン環には、それぞれ、複数のベンゼン環を含む原子団が結合されている。
【0035】
ここで、ベンゾオキサジン環は、1,2−ベンゾオキサジン、1,3−ベンゾオキサジン、1,4−ベンゾオキサジンの異性体が存在するが、本発明のベンゾオキサジン環構造は、好適には1,2−ベンゾオキサジンまたは1,3−ベンゾオキサジンであり、より好適には1,3−ベンゾオキサジンである。
【0036】
また、本ベンゾオキサジン系化合物は、そのベンゾオキサジン環や該ベンゾオキサジン環に連結されるベンゼン環の水素原子が、一価の置換基で置換されたものであっても良い。かかる置換基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、ヒドロキシ基、アセチル基、アシル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが例示されるが、これに限られるものでない。置換される水素原子は、単数であっても複数であってもよい。
【0037】
更に、分子内の2のベンゾオキサジン環は、両者とも同じ骨格のもの(例えば、両者共に1,2−ベンゾオキサジンまたは両者共に1,3−ベンゾオキサジン)であってもよく、異なる骨格のもの(異性体)であっても良い。好適には、同じ骨格のベンゾオキサジン環とされる。
【0038】
更に、本発明のベンゾオキサジン系化合物は、中央の連結基(2価の有機基)の両側に配置される構造部分(分子の端部からベンゾオキサジン環までを含む部分)は、全く同じ構造としてもよい。これにより、分子内の対称性を向上させ、立体構造の規則性を向上させることができる。言い換えれば、分子全体の立体構造の直線性を向上させることができ、配向性を向上させることができる。また、連結基両側部分の構造を形成するための原料を共通化でき、本ベンゾオキサジン系化合物の製造工程や原料の管理を簡便にできる上、低コスト化を図ることができる。尚、2のベンゾオキサジン環構造が、1、3−ベンゾオキサジン環である場合、本発明のベンゾオキサジン系化合物の好ましい態様の1つとして、上記した一般式(1)で示される化合物が例示できる。
【0039】
説明を分かりやすくするため、以下、本発明のベンゾオキサジン化合物の説明を、一般式(1)を用いて行う。本ベンゾオキサジン系化合物は、2のベンゾオキサジン環を備えており、各ベンゾオキサジン環には、それぞれ複数のベンゼン環を含む原子団が結合されている。また、一般式(1)に示すように、2のベンゾオキサジン環のヘテロ環が連結基Xによって結合された分子構造となっている。
【0040】
一般式(1)において、X(連結基X)は、上記した様に2価の有機基である。有機基は、炭素原子を構造の基本骨格に持つ原子団であって、例えば、飽和又は不飽和の炭化水素基、ヘテロ原子を備えた炭化水素基、各種官能基が例示される。飽和又は不飽和の炭化水素基は、アルキレン基や2価の不飽和炭化水素基であって直鎖状または分岐鎖を備えたものであり、ヘテロ原子を備えた炭化水素基とは、アルキレン基、アルケン基の一部がヘテロ原子(例えば、N、O、S、P)で置換されたものである。各種官能基としては、アミド基、尿素基、アミノ基、エステル基、ケトン基、リン酸基、スルホニル基等が例示されるがこれに限られるものではない。更に、連結基Xは、かかる官能基のみで構成されるよりも、炭化水素基の一部に当該官能基が備えられたものの方が望ましい。
【0041】
尚、本化合物を液晶性とする場合、連結基Xは、スペーサとなる原子団であり、分子鎖運動の自由度が確保されているものが好ましい。従って、多重結合や共役結合、官能基は、連結基X全体の運動を大きく制限しない程度に含まれる。更に、本化合物を液晶性とするためには、連結基Xは、主鎖方向に3以上の原子を備えた2価の連結基であり、好適には、炭素鎖長3以上のアルキレン基とされ、特に、直鎖状構造であることが好ましい。より好適には、連結基Xは、炭素鎖長6以上のアルキレン基である。
【0042】
一般式(1)中のY(結合基Y)は、複数のベンゼン環を連結するための結合部であり、直接結合、2価の炭化水素基、2価の官能基である。好ましくはベンゼン環と共役或は共鳴構造を創出するものである。これによって、複数のベンゼン環はYとの結合において回転の自由度が抑制され、剛直な構造を分子内に形成する。故に、複数のベンゼン環を備えた原子団は、ハードセグメントを形成するものとなり、ベンゾオキサジン環と共にメソゲンとなり得る。
【0043】
かかる2価の炭化水素基としては、例えば、不飽和結合を有する炭化水素基であっても良い。尚、二重結合や、三重結合は炭化水素基中に複数あっても良い。かかる炭化水素基としては、例えば、ビニレン基、ビニリデン基、アレン基や、その他アルケンやアルキンから2個の水素原子を除いてできる2価の基(ジエン等)が該当する。更に、かかる炭化水素基は、置換基を備えていても良く、かかる置換基としては、好適には、ニトロ基やシアノ基などが例示される。
【0044】
また、2価の官能基としては、例えば、イミノ基、アゾ基、ジアゾ基、ジイミド基、アミド基、エステル基、ケトン基、ケトケテン基、等が例示されるがこれに限られるものではない。尚、イミノ基にはアゾメチン基も含まれる。好適には、該2価の官能基は、イミノ基(アゾメチン基)、カルボン酸エステル基(以下、エステル基は、このカルボン酸エステル基を示す。)である。
【0045】
上記のように直接結合、2価の炭化水素基、2価の官能基で各ベンゼン環が結合されることにより、結合された各ベンゼン環は、略平面状に配列することとなる。一般にメソゲンと称される液晶性を付与するための構造は、分子構造が平面性を有する板状であることや、直線性を有していること(棒状であること)が重要な因子とされている。本ベンゾオキサジン系化合物では、この複数のベンゼン環が連結された部位は、分子に剛直性を付与する構造であり、メソゲンを形成するセグメントとなり得る。尚、本ベンゾオキサジン系化合物において、複数のベンゼン環は、分岐鎖(側鎖)ではなく、主鎖を形成するように結合されている。
【0046】
更に、各ベンゼン環を連結するための結合基Yは、ベンゼン環を介してパラ位(ベンゼン環のパラ位)に位置することが望ましい。これによれば、結合基Yによって連結される各ベンゼン環は直線的な配置となる。故に、分子構造の直線性が向上し、より、液晶性を発現しやすい構造となる。尚、複数のベンゼン環が、大略的に1方向に沿った構造を有していれば良く、必ずしも、結合基Yの位置はパラ位限定される必要はない。例えば、メタ配向の結合とオルト配向の結合とが繰り返される構造であっても良く、更には、部分的に、メタ配向やオルト配向の結合が含まれていても良い。
【0047】
ベンゾオキサジン環はベンゼン環とヘテロ環との縮合環であり、分子内にベンゾオキサジン環が含まれると分子構造が歪やすい。このため、ベンゾオキサジン系化合物において、ベンゾオキサジン環が多く分子内に含まれるほど、分子構造の直線性や平面性を低下させてしまい、液晶性となることが困難となる。一方で、機械的強度や耐熱性を向上させるべく、ベンゾオキサジン系樹脂にネットワーク構造を形成させるには、モノマーであるベンゾオキサジン系化合物が、分子内にベンゾオキサジン環を複数備える必要がある。このため、ベンゾオキサジン系化合物において、ネットワーク形成能と液晶性との両者を備えたものを得ることは困難であった。
【0048】
そこで、本ベンゾオキサジン系化合物の分子構造は、主鎖の軸方向に長く直線性を保持し、2のベンゾオキサジン環のヘテロ環を分子の中央部で連結する分子設計とすることで、メソゲンとする構造部分の直線性の低下を抑制しているのである。これにより、複数のベンゾオキサジン環を備えつつ、液晶性となるベンゾオキサジン系化合物を実現できる。
【0049】
一般式(1)においてZ(結合基Z)は、水素原子、ハロゲン原子、または、1価の有機基である。かかる1価の有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、アルコキシ基などが例示されるが、これらに限られるものでない。好適にはアルキル基、またはアルコキシ基である。サーモトロピック液晶性の発現に有利に作用するからである。尚、これら1価の有機基は、その一部がハロゲン原子で置換されていても良く、その他のヘテロ原子を含んでいても良い。ハロゲン原子としては、F、Cl、Br等が例示され、ここで、ヘテロ原子としては、例えば、N、O、S、P等が例示される。
【0050】
この結合基Zは、分子内でスペーサーとしての役割を担うものでもある。従って、結合基Z全体は、比較的運動の自由度の高い構造体となっている。結合基Zの鎖長は、連結基Xの構造に応じて適宜選択され、特に連結基Xが炭素鎖長6の2価の炭化水素基である場合、結合基Zは、アルキル鎖長4のアルコキシ基以外から選択される。
【0051】
また、結合基Zがアルコキシ基で構成される場合、アルコキシ基を構成する炭素数を変更することで、液晶温度範囲を変更し得る。つまり、その炭素数を選択することで、液晶温度範囲の上限値をより高温側へ上昇させ得る。
【0052】
例えば、高分子液晶のポリベンゾオキサジン系樹脂が所望される場合には、液晶性のベンゾオキサジン系化合物を液晶状態で重合することが非常に重要になる。しかし、ベンゾオキサジン系化合物の重合温度は200〜230℃といった比較的高温にあり、ベンゾオキサジン系化合物の液晶温度範囲は、かかる重合温度よりも低温側となることが多い。
【0053】
ベンゾオキサジン系化合物に触媒を添加して重合を行うことや、他のモノマーと共重合することによって重合温度を調整(低温化)することはできるが、液晶温度範囲と重合温度との温度差が大きいほど、重合温度の調整は高度になる。本発明のベンゾオキサジン系化合物は、スペーサとなる結合基Zの構造を僅かに変更することで、その液晶温度範囲を変更し得、例えば、その上限値をより高温側へ上昇させるといった調整ができる。その結果、重合温度の調整幅を小さくでき、液晶温度範囲と重合温度との温度差解消を容易化できるのである。
【0054】
尚、本発明のベンゾオキサジン系化合物は、1の化合物(単体)であっても、複数の化合物の混合体であってもよい。
【0055】
上記したベンゾオキサジン系化合物の原料となるフェノール類とアミン類とホルムアルデヒドとは市販されている公知の物質を用いても良く、また、公知の合成方法に基づいて、それぞれを製造、精製して用いても良い。
【0056】
ベンゾオキサジン系化合物は、フェノール類、アミン類、ホルムアルデヒドを原料として生成することができる。フェノール類、アミン類は、作製するベンゾオキサジン系化合物の分子構造に応じて適宜選択される。フェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、アミノフェノール、ハロゲン化フェノール、シアノフェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、ニトロフェノール、ナフトールが例示できる。尚、かかるフェノールは、その分子構造の水素原子の一部が各種置換基で置換されていてもよい。これらのフェノールが、予め複数のベンゼン環を有する原子団を置換基として備えていれば、そのまま、本発明のベンゾオキサジン系化合物を生成するフェノール類(原料フェノール)となる。
【0057】
フェノール類については、前駆体から公知の合成法を用いて作製しても良い。例えば、官能基を有する1の芳香族化合物に対し、2つ官能基を備えた芳香族化合物を脱水縮合反応によって結合させることにより、複数のベンゼン環を備えた化合物を形成できる。かかる化合物の分子末端には官能基が残存するため、更に反応を繰り返すことにより、所望の数のベンゼン環を備えた反応生成物(前駆体)を得ることができる。官能基を有する芳香族化合物とは、例えば、芳香族アミン、芳香族アゾ化合物、芳香族イミド、芳香族アミド、芳香族カルボン酸、芳香族アルデヒド、芳香族スルホン酸などである。得られた前駆体を、更に、官能基を備えたフェノールと反応させることにより、本発明のベンゾオキサジン系化合物の原料フェノールとなるフェノール類を得ることができる。
【0058】
また、ビフェニル化合物を出発原料とし、カップリング反応を利用して複数のベンゼン環を備えたフェノール類を生成すれば、結合基Yに直接結合を備えた原料フェノールを生成することができる。更に、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4′-スルホニルビス(2-メチルフェノール)、3,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-ヘキセン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等を用いることで、不飽和結合を有する炭化水素基が結合基Yとして導入されたフェノール類を生成することができる。
【0059】
更に、液晶性を有するフェノール(R.A.Vora,R.S.Gupta,MolecularCrystals and Liquid Crystals
,56,31(1979)を参照)を原料フェノールに用いても良い。尚、本ベンゾオキサジン系化合物を生成するためのフェノール類はこれらに限定されるものではない。
【0060】
また、本発明のベンゾオキサジン系化合物の原料に用いられるアミン類としては、ジアミン化合物が選択され、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンや、その置換体および誘導体などから適宜選択される。特に、アミノ基間の原子数が3以上のジアミンが好適に用いられる。かかる脂肪族ジアミンとしては、例えば、トリメチレンジアミン、2,2-ジメチルプロピレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、ヘキシルジアミン(1,6-ジアミノヘキサン)、1,7-ジアミノヘプタン、オクチルジアミン(1,8-ジアミノオクタン)、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、ドデシルジアミン(1,12-ジアミノドデカン)、4,9-ジオキサン-1,12-ドデカンジアミン、4,7,10‐トリオキサトリデカン‐1,13‐ジアミンや、これらの誘導体が例示される。また、芳香族ジアミンとしては、例えば、アミノ基を2つ備えたフェニレンジアミン類、ナフタレンジアミン類や、これらの誘導体が例示される。具体的には、例えば、4,4'-エチレンジアニリン、4,4'-ジアミノジフェニルメタンなどが例示される。
【0061】
本ベンゾオキサジン系化合物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記の各必須成分(フェノール類、アミン類、ホルムアルデヒド)と任意成分(溶媒等)とを一度にまたは順次投入し、加熱、還流を行うことで製造する方法を適用することができる。
【0062】
尚、予めベンゾオキサジン系化合物(例えばヒドロキシベンズアルデヒドとジアミンとを原料として生成されるアルデヒド基含有ベンゾオキサジン化合物)を製造し、次いで、複数のベンゼン環を有する上記原子団を付加するべく、その原料(例えばフェニレンジアミン等)を反応させて製造する方法を適用してもよい。
【0063】
本発明の製造方法は、液晶性のベンゾオキサジン系化合物を製造する好適な製造方法である。本製造方法は、メソゲンとなり得る(メソゲンの少なくとも一部を形成する)骨格を有するフェノール類と、ジアミン化合物とを反応させて、最終生成物の液晶性を有するベンゾオキサジン系化合物を製造するものである。これによれば、例えば、原料フェノールに液晶フェノールを用いれば、合成されるベンゾオキサジン系化合物に、その液晶性を発現する構造(機能)を容易に導入できるため、液晶性のベンゾオキサジン系化合物を比較的簡素な手法で合成することができる。また、ベンゾオキサジン環が形成される閉環反応が合成の最終反応となるので、先にベンゾオキサジン環を形成した後にそのベンゼン環側に原子団を導入する合成方法に比べて、ベンゾオキサジン環の開裂による副産物の生成を抑制でき、目的とするベンゾオキサジン系化合物の収率を向上させることができる。
【0064】
本ベンゾオキサジン系化合物においてベンゾオキサジン環は重合基であり、そのベンゾオキサジン環の開環によって重合可能なモノマーである。このため、当該ベンゾオキサジン系化合物を重合すれば、ベンゾオキサジン環の開環重合により、フェノール樹脂(ポリベンゾオキサジン)となる。尚、本ベンゾオキサジン系化合物が液晶性を備えたものであれば、液晶状態で重合して高分子を生成し得る。
【0065】
本液晶性ベンゾオキサジン系化合物は、通常、200〜230℃程度で10〜180分程度加熱することにより重合(硬化)される。
【0066】
一般に、ベンゾオキサジン系化合物の重合は、触媒の非存在下の加熱による開環重合で反応が進行させることができるので、触媒が必要ない上、重合過程で副生成物の発生はなく、ボイドのない寸法安定性の良いポリマーを得ることができる。
【0067】
本ベンゾオキサジン系化合物についても、当然、他のベンゾオキサジン系化合物と同様、無触媒下の加熱で重合できるが、一般に用いられる触媒を用いて重合を行っても良い。
【0068】
また、特に、高分子液晶のポリベンゾオキサジン系樹脂が所望される場合には、本発明のベンゾオキサジン系化合物を液晶状態で重合することが非常に重要になる。そこで、本ベンゾオキサジン系化合物に添加物を配合することで、重合温度を低下させ、液晶状態を保持したまま重合されるようにしても良い。
【0069】
ここで、かかる添加物は、無機酸、無機塩基、有機酸、有機塩基であって、好適にはベンゾオキサジンの開環重合を促進するものが用いられる。かかる添加物としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、フェノール、チオフェノール、ピリジン、トリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン、ヒスチジン、イミダゾリウム化合物などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
更に好適には、重合触媒として汎用される塩酸、パラトルエンスルホン酸(p−トルエンスルホン酸)、安息香酸、フェノール、チオフェノール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどが上記添加物として用いられ、特に好適には、p−トルエンスルホン酸や、2−エチル−4−メチルイミダゾールが用いられる。
【0071】
かかる添加物の配合量は、添加物の種類に応じて適宜選択されるが、液晶ベンゾオキサジン系化合物100重量部に対して0.001重量部以上、50重量部以下とすることが望ましい。添加物の配合量が0.001重量部未満では、液晶温度範囲を拡大させることや、重合温度を低下させることができず、50重量部を超えると巨視的な相分離が起こりやすくなるためである。
【0072】
また、かかる添加物は、1種類のみならず、複数種類の添加物を併用して用いて、本発明のベンゾオキサジン系化合物を重合しても良い。更に、上述した添加物以外の他の成分を配合して重合を行っても良い。かかる他の成分としては、例えば、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、難燃剤、帯電防止剤等が例示される。
【0073】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、ケイソウ土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー、カーボンブラックなどが例示される。尚、これらの充填剤は、単独で用いられても、複数用いられても良い。
【0074】
反応遅延剤としては、例えば、アルコール系等の化合物が挙げられ、老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。また、酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
【0075】
顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料等が挙げられる。
【0076】
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
【0077】
帯電防止剤としては、一般的に、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
【0078】
更に、本ベンゾオキサジン系化合物は、ベンゾオキサジン系化合物以外のモノマー(共重合成分)等を加えて重合しても良い。
【0079】
本ベンゾオキサジン系化合物の共重合成分は、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
また、本ベンゾオキサジン系化合物は、加熱した際にヒドロキシ基が生じるので、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等のヒドロキシ基と反応性を有する官能基を有する樹脂と架橋することができ、これらの樹脂の力学的特性等を大幅に改善できる。特に、エポキシ樹脂が簡便に硬化物を得ることができるという点からより好ましい。
【0081】
エポキシ樹脂としては、少なくとも1つのエポキシ基を有する化合物であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ヘキサヒドロビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、ピロカテコール、レゾルシノール、クレゾールノボラック、テトラブロモビスフェノールA、トリヒドロキシビフェニル、ビスレゾルシノール、ビスフェノールヘキサフルオロアセトン、テトラメチルビスフェノールF、ビキシレノール、ジヒドロキシナフタレン等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル型;グリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコールとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリグリシジルエーテル型;p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテルエステル型;フタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、エンドメチレンテトラハイドロフタル酸、エンドメチレンヘキサハイドロフタル酸、トリメリット酸、重合脂肪酸等のポリカルボン酸から誘導されるポリグリシジルエステル型;アミノフェノール、アミノアルキルフェノール等から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエーテル型;アミノ安息香酸から誘導されるグリシジルアミノグリシジルエステル型;アニリン、トルイジン、トリブロムアニリン、キシリレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン等から誘導されるグリシジルアミン型;さらにエポキシ化ポリオレフィン、グリシジルヒダントイン、グリシジルアルキルヒダントイン、トリグリシジルシアヌレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
このように、本発明のベンゾオキサジン系化合物によれば、新規な構造を備えたベンゾオキサジン系化合物を提供することができる。また、液晶性を備えると共に、重合によってネットワーク構造を形成するベンゾオキサジン系化合物を提供することが可能となる。つまり、機械的強度や耐熱性に優れるとともに液晶性(高分子液晶)となり得るベンゾオキサジン系化合物を提供できる。更に、本ベンゾオキサジン系化合物において、2のヘテロ環の間に導入された連結基Xはスペーサとなる原子団であり、分子鎖運動の自由度が確保されているものが用いられる。従って、本ベンゾオキサジン系化合物を重合して得られるベンゾオキサジン系樹脂には、連結基Xの構造が導入されるので、熱硬化性樹脂の短所である脆さを改良することができる。
【実施例】
【0083】
次に、実施例および比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
なお、下記の分析方法により各実施例にて合成した化合物の構造決定と液晶性の評価とを行った。
【0085】
(構造決定)構造決定はプロトン核磁気共鳴(1H NMR)により行った。重水素化クロロホルムまたは重水素化ジメチルスルホキシドを測定溶媒として用い、室温で1H NMRを測定した。尚、図1から図13において、各図の上方には測定した化合物を示し、下方にその測定結果の1H NMRスペクトルを示している。また、図の上方に示された化合物の1H NMRスペクトルにて特定された部位は、同じ図の下方に示されている1H NMRスペクトルの対応するピークに付したアルファベット記号と同じ記号で指し示している。
【0086】
(液晶性評価試験)液晶性評価試験は示差走査熱量計(DSC)及び偏光顕微鏡により行った。DSC測定は、アルミニウムパンに封入したサンプルを窒素雰囲気下、5℃毎分の速度で昇温及び降温測定を行った。また、偏光顕微鏡観察は、ガラス板で挟んだサンプルをホットステージ上で、5℃毎分の速度で昇温及び降温を行い、クロスニコル条件下で相状態を観察することで行った。
【0087】
<実施例1>
まず式(2)に示す原料フェノール(液晶性を有するフェノール)の合成を、R. A. Vora, R. S. Gupta, Molecular Crystals and Liquid
Crystals,56,31(1979)を参照して行った。
【0088】
【化2】

【0089】
具体的には、三口フラスコに4−ヘプチルオキシ安息香酸(和光純薬工業社製)0.02molをとり、無水THF5gで溶解後、塩化チオニル0.2molを加え、DMF数滴を滴下した後、35℃で8時間反応を行った。トラップを2個つなげダイアフラムポンプで減圧し、未反応の塩化チオニルを2時間程度蒸留した。その後、反応温度を40℃とし、ロータリー真空ポンプに変えてさらに2時間蒸留した。窒素パージにて常圧に戻してから、無水THF20ml、p−ヒドロキシベンズアルデヒド(和光純薬工業社製)0.02molを加え、無水ピリジン0.02molを滴下した。そして、窒素雰囲気下、50℃で8時間反応を行った。次いで、メタノール20mlを加えた後、500mlの水に溶液を滴下し、再沈澱した。当該反応液をガラスフィルターでろ過し、回収した固体をアセトンに溶解後、無水硫酸ナトリウムで脱水した。
【0090】
無水硫酸ナトリウムをろ過で取り除き、減圧濃縮、真空乾燥(常温で数時間、更に80℃で数時間)を行い、収量5.06g、収率74.3%で白色固体(I)を得た。そして、得られた白色固体(I)0.015molを三口フラスコにとり、エタノール35mlで溶解させた後、p−アミノフェノール(和光純薬工業社製)0.015molを加えてから、オイルバスにて100℃に加温しながら5時間還流を行った。
【0091】
還流によって生じた沈澱を、ガラスフィルターを用いて吸引ろ過で集め、100mlのメタノールで洗浄後THFに溶解したものについて、ダイアフラムポンプで20分程度乾燥した後、更に真空乾燥(80℃で4時間)を行った。これにより、収量4.02g、収率62.5%で白色固体(II)を得た。得られた生成物(白色固体(II))の1H NMRスペクトルを図1に示す。
【0092】
図1からわかるように、10ppm付近のアルデヒド基のシグナルが消失し、アゾメチンのシグナルが8.4ppmに現れ、積分比も一致することから上記の式(2)に示す目的生成物(原料フェノール)であることを確認した。
【0093】
次に、50mlの3ツ口フラスコに20mlのクロロホルムをとり、ヘキシルジアミン(和光純薬工業社製)1.16mmol(0.13g)を溶解し、氷浴中でホルマリン(37%水溶液)をホルムアルデヒド換算で4.64mmol加え、10分撹拌した。ここへ、合成した原料フェノールである白色固体(II)2.32mmol(1.00g)を加え、還流温度(約61℃)で12時間反応させた。反応終了後、100mlのメタノール中に反応溶液を滴下した後、沈澱物を濾別し、濾別した沈澱物を10mlのメタノールで洗浄、真空乾燥することで、式(3)に示すベンゾオキサジン系化合物1を1.19g(収率77%)を得た。
【0094】
得られたベンゾオキサジン系化合物1について、NMRにより構造決定を行った。ベンゾオキサジン系化合物1の1H NMRスペクトルを図2に示す。図2に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物1は、式(3)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物1について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
【化3】

【0096】
<実施例2>
実施例1にて用いたヘキシルジアミンをオクチルジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(4)に示すベンゾオキサジン系化合物2を合成した。収率は70%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物2について、NMRにより構造決定を行ったところ、図3に示す1H NMRスペクトルを得た。図3に示す1H NMRスペクトルから得られたベンゾオキサジン系化合物2は、式(4)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物2について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
【化4】

【0098】
<実施例3>
実施例1にて用いたヘキシルジアミンをドデシルジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(5)に示すベンゾオキサジン系化合物3を合成した。収率は80%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物3について、NMRにより構造決定を行った。得られたベンゾオキサジン系化合物3の1H NMRスペクトルを図4に示す。図4に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物3は、式(5)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物3について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
【化5】

【0100】
<実施例4>
実施例1にて用いたヘプチオキシ安息香酸をp−アニス酸(東京化成工業社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(6)に示すベンゾオキサジン系化合物4を合成した。収率は80%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物4について、NMRにより構造決定を行ったところ、図5に示す1H NMRスペクトルを得た。図5に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物4は、式(6)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物4について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
【化6】

【0102】
<実施例5>
実施例4にて用いたヘキシルジアミンをオクチルジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例4と同様の操作にて、式(7)に示すベンゾオキサジン系化合物5を合成した。収率は50%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物5について、NMRにより構造決定を行ったところ、図6に示す1H NMRスペクトルを得た。図6に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物5は、式(7)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物5について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
【化7】

【0104】
<実施例6>
実施例4にて用いたヘキシルジアミンをドデシルジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例4と同様の操作にて、式(8)に示すベンゾオキサジン系化合物6を合成した。収率は70%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物6について、NMRにより構造決定を行ったところ、図7に示す1H NMRスペクトルを得た。図7に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物6は、式(8)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物6について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
【化8】

【0106】
<実施例7>
実施例1にて用いたヘプチルオキシ安息香酸を4−ブトキシ安息香酸(東京化成工業社製)に変更し、ヘキシルジアミンをオクチルジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(9)に示すベンゾオキサジン系化合物7を合成した。収率は60%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物7について、NMRにより構造決定を行ったところ、図8に示す1H NMRスペクトルを得た。図8に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物7は、式(9)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物7について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
【化9】

【0108】
<実施例8>
実施例7にて用いたオクチルジアミンをドデシルジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例7と同様の操作にて、式(10)に示すベンゾオキサジン系化合物8を合成した。収率は70%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物8について、NMRにより構造決定を行ったところ、図9に示す1H NMRスペクトルを得た。図9に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物8は、式(10)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物8について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
【化10】

【0110】
<比較例1>
実施例1にて用いたヘキシルジアミンをエチレンジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例1と同様の操作にて、式(11)に示すベンゾオキサジン系化合物9を合成した。収率は60%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物4について、NMRにより構造決定を行ったところ、図10に示す1H NMRスペクトルを得た。図10に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物9は、式(11)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物9について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
【化11】

【0112】
<比較例2>
実施例4にて用いたヘキシルジアミンをエチレンジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例4と同様の操作にて、式(12)に示すベンゾオキサジン系化合物10を合成した。収率は60%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物10について、NMRにより構造決定を行ったところ、図11に示す1H NMRスペクトルを得た。図11に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物10は、式(12)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物10について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
【化12】

【0114】
<比較例3>
実施例7にて用いたオクチルジアミンをヘキシルジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例7と同様の操作にて、式(13)に示すベンゾオキサジン系化合物11を合成した。収率は80%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物11について、NMRにより構造決定を行ったところ、図12に示す1H NMRスペクトルを得た。図12に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物11は、式(13)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物11について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
【化13】

【0116】
<比較例4>
実施例7にて用いたオクチルジアミンをエチレンジアミン(キシダ化学社製)に変更した以外は、上記実施例7と同様の操作にて、式(14)に示すベンゾオキサジン系化合物12を合成した。収率は40%前後であった。得られたベンゾオキサジン系化合物12について、NMRにより構造決定を行ったところ、図13に示す1H NMRスペクトルを得た。図13に示す1H NMRスペクトルから、ベンゾオキサジン系化合物12は、式(14)に示す目的の構造体であることを確認した。次いで、得られたベンゾオキサジン系化合物12について、液晶性評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
【化14】

【0118】
表1に示すように、実施例1から実施例8にて生成されたベンゾオキサジン系化合物1〜8には、液晶性が認められた。表1には、液晶状態が検出されたものについてその温度範囲を表示している。また、表1において、「−」の表示は、DSC測定および偏光顕微鏡観察のいずれにおいても液晶状態が検出されなかったことを示している。尚、液晶性評価試験は、上記したようにDSC測定と偏光顕微鏡観察とを併用して行った。
【0119】
【表1】

【0120】
具体的には、実施例1において合成したベンゾオキサジン系化合物1は、昇温過程において101℃〜115℃の範囲でネマチック液晶となり、降温過程において、113℃からネマチック液晶となった。実施例2において合成したベンゾオキサジン系化合物2は、昇温過程において121℃〜157℃の範囲でネマチック液晶となり、降温過程において115℃からネマチック液晶となった。実施例3において合成したベンゾオキサジン系化合物3は、昇温過程において113℃〜143℃の範囲でネマチック液晶となり、降温過程においては、90℃からネマチック液晶となった。実施例4において合成したベンゾオキサジン系化合物4は、降温過程において、166℃からネマチック液晶となった。実施例5において合成したベンゾオキサジン系化合物5は、降温過程において、127℃からネマチック液晶となった。実施例6において合成したベンゾオキサジン系化合物6は、降温過程において、127℃からネマチック液晶となった。実施例7において合成したベンゾオキサジン系化合物7は、昇温過程において125℃〜141℃の範囲でネマチック液晶となり、降温過程において、131℃からネマチック液晶となった。実施例8において合成したベンゾオキサジン系化合物8は、降温過程において、104℃からネマチック液晶となった。一方で、比較例1〜比較例4で合成したベンゾオキサジン系化合物は、液晶性は示さなかった。
【0121】
尚、実施例1から実施例8のいずれのベンゾオキサジン系化合物も、ベンゾオキサジン環が2つ構造中に形成されていることが示されており、重合によってネットワーク構造を形成することができるものとなっていた。従って、上記実施例により、ネットワーク構造を形成可能で且つ液晶性を有するベンゾオキサジン系化合物の生成が示された。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合反応によって高分子量化するベンゾオキサジン系化合物のうち液晶性を示すものであって、
2つのベンゾオキサジン環構造と、
そのベンゾオキサジン環構造のベンゼン環側に結合され、略平面状に配列する複数のベンゼン環を備えた原子団と、
一方の前記ベンゾオキサジン環構造および他方の前記ベンゾオキサジン環構造のそれぞれのヘテロ環の窒素原子に結合して、両ベンゾオキサジン環構造を連結する連結基とを備え、
前記連結基は、主鎖方向に3以上の原子を備えた2価の連結基であることを特徴とするベンゾオキサジン系化合物。
【請求項2】
前記原子団の複数のベンゼン環および前記ベンゾオキサジン環構造のベンゼン環は、隣り合うベンゼン環と、直接結合または2価の有機基によって結合されており、
その直接結合または前記有機基は、結合するベンゼン環を介してパラ位に位置するものであることを特徴とする請求項1に記載のベンゾオキサジン系化合物。
【請求項3】
前記有機基は、イミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含むものであることを特徴とする請求項2に記載のベンゾオキサジン系化合物。
【請求項4】
分子の一方の端部から前記連結基手前の一方のベンゾオキサジン環構造までの部分と、分子の他方の端部から前記連結基の手前の他方のベンゾオキサジン環構造までの部分とは、同じ分子構造であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のベンゾオキサジン系化合物。
【請求項5】
下記一般式(1)に記載のベンゾオキサジン系化合物。
【化1】

(式中Xは、ヘテロ原子を含んでもよい2価の有機基であって、原子数3以上の鎖長を有するものである。式中Yは、それぞれ独立に、直接結合、ヘテロ原子を含んでもよい2価の不飽和炭化水素基、共鳴構造を取り得る官能基である。式中Zは、それぞれ独立に、水素原子、ヘテロ原子を含んでもよいアルキル基またはアルコキシ基である。nは1以上の整数である。)
【請求項6】
一般式(1)のXは、炭素鎖長が3以上の2価の炭化水素基であること特徴とする請求項5に記載のベンゾオキサジン系化合物。
【請求項7】
一般式(1)のYは、イミノ基またはエステル基の少なくとも一方を含むものであることを特徴とする請求項5または6に記載のベンゾオキサジン系化合物。
【請求項8】
フェノール類とホルムアルデヒドとアミン類とを反応させてベンゾオキサジン系化合物を製造する方法であって、前記フェノール類は、略平面状に配列する複数のベンゼン環を備えた原子団を有するフェノール類であり、前記アミン類は、ジアミン化合物であることを特徴とするベンゾオキサジン系化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−56863(P2013−56863A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197066(P2011−197066)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】