説明

ペスト菌F1抗原に特異的な抗体とペスト菌V抗原に特異的な抗体のうちの1又は2種の抗体を含む抗エルシニアワクチン

ペスト菌感染の治療用医薬の製造における(i)ペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(ii)ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(i)と(ii)の組み合わせの使用。このような治療薬はペスト菌感染に有効な治療薬であることが判明した。更に、組み合わせを予防薬として使用すると相乗効果を生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト又は動物に予防薬又は治療薬として投与する抗体に関する。
【0002】
特に、本発明は予防薬又は治療薬として投与した場合に相乗作用する抗体に関する。
【0003】
本発明は更にペスト菌に対する新規ワクチンと防御及び治療に関する。このようなワクチンは腺ペストと肺ペストに対する防御を提供することができる。
【背景技術】
【0004】
ペストの原因物質であるペスト菌(Yersinia pestis)は有史以来、何百万人もの死者を出している。二度目の大流行(黒死病)は14〜l7世紀にヨーロッパで推定1700万〜2800万人の死者を出したと考えられている。三度目の大流行は1850年代に中国雲南省で発生したと考えられ、世界中にペスト蔓延をもたらし、現在ではアフリカ、インド及び米国南西部の州等の数領域の風土病となっている(Perry,R.D.ら.1997.Clinical Microbiology Reviews 10:35−66)。現在のペスト発生率は低いが、細菌が自然動物に棲息しているので、比較的小規模ではあるが、定期的なペスト発生が見られる(Duplantier,J.M.ら.2001.Bulletin De La Societe De Pathologie Exotique 94:119−122;Migliani,R.ら.2001.Bulletin De La Societe De Pathologie Exotique 94:115−118;Ratsitorahina,M.ら.2000.Lancet 355:111−113)。
【0005】
インドでの最近の発生で注目されたように、風土病地域と大人口中心地の間の交通の整備により大規模ペスト発生につながる可能性がある(Shivaji,S.ら.2000.Fems Microbiology Letters 189:247−252)。従って、新しい地域へのペスト伝染とその後の発病の危険を減らすために有効な疾病監視が必要である。
【0006】
細菌と接触する研究者や他の専門家にはワクチン接種が推奨されているが、風土病地域又はその労働を介してペスト菌に接触する個体には速効性治療も必要である。更に、大規模発生後には医療従事者や第一対応者を防御することも必要になる。
【0007】
現在、ペスト防御はワクチン接種又は抗生物質投与により実施することができる。ペスト患者を治療するためと、疾病蔓延を防除するための予防の両者にストレプトマイシンやテトラサイクリン等の抗生物質が使用されている(Perry,R.D.ら.1997.Clinical Microbiology Reviews 10:35−66)。ペスト菌で抗生物質耐性が発生する率は低いが、マダガスカル島で最近単離されたペスト菌株は導入プラスミドにより付与された多剤耐性をもつことが判明した(Guiyoule,A.G.ら.2001.Emerging Infectious Diseases 7:43−48;Guiyoule,A.ら.1997.Journal of Clinical Microbiology 35:2826−2833)。既存ペストワクチンとしては死滅全細胞調製物が挙げられ、新規ワクチンを開発する研究が進められている(Williamson,E.D.2001.Journal of Applied Microbiology 91:606−608)。
【0008】
全細胞ワクチンには、防御レベルが比較的低く、副作用があり、免疫までに時間がかかり、定期的ブースター免疫を要するなどの問題がある(Russell,P ら.1995.Vaccine 13:1551−1556)。全細胞ワクチンは感染昆虫に刺された後に発生する最も一般的な形態のペスト(腺ペスト)に対して有効であると考えられるが、肺ペストに対するその効力は疑問視されている。
【0009】
ペスト菌に由来する組換えF1抗原(F1)及び低カルシウム応答V抗原(LcrV)蛋白質をベースとする次世代ペストサブユニットワクチンが開発中である。いずれかの蛋白質で免疫すると、感染動物モデルで肺又は腺疾患に対する防御が得られる(Heath,D.G.ら.1998.Vaccine 16:1131−1137;Leary,S.E.C.ら.1995.Infection and Immunity 63:2854−2858;Williamson,E.D.2001.Journal of Applied Microbiology 91:606−608)が、F1とLcrVを併用すると、相加効果以上の防御が達成され、10までの半数致死量(MLD)のペスト菌に対する防御が報告されている(Williamson,E.D.ら.1995.Fems Immunology and Medical Microbiology 12:223−230)。このようなワクチンは接触前に投与しなければならず、複数回投与する必要がある。免疫までの時間とワクチン投与回数を減らすために数種のストラテジーが有望であることが分かっている(Williamson,E.D.ら.2000.A single dose sub−unit vaccine protects against pneumonic plague.Vaccine 19:566−571)が、ワクチン接種で接触後の疾病防御は得られそうにない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、特にペスト菌の薬剤耐性株が関与している場合に、迅速な治療を提供する速効性ペスト治療薬が必要である。
【0011】
従来、F1に対するマウスモノクローナル抗体であるF1−04−A−G1は腺ペスト及び肺ペストのモデルでマウスを防御することが分かっている(Anderson,G.W.ら.1997.American Journal of Tropical Medicine and Hygiene 56:471−473)。更に、LcrV特異的モノクローナル抗体(Mab7.3)が腺ペストモデルでマウスを防御することも予備試験で判明した(Hill,J.ら.1997.Infection and Immunity 65:4476−4482)。
【0012】
他の病原体に起因する各種疾病を治療するために抗血清が使用されている(Keller M.A.ら.2000.Clin.Microbiol.Rev.2000 13:602−14)が、抗血清もモノクローナル抗体もペスト治療薬としてはまだ提案されていない。しかし、本発明者らは抗体治療がペスト感染の治療に有効であり、抗体を組み合わせると、感染防御に相乗的に作用できることを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、ペスト菌感染の治療用医薬の製造における(i)ペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(ii)ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(i)と(ii)の組み合わせの使用が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書で使用する「結合フラグメント」なる用語はターゲット抗原と結合するF(ab)及びF(ab’)フラグメント等の抗体フラグメント、又は1本鎖抗体を意味する。
【0015】
特に、医薬は(i)と(ii)の組み合わせを使用する。組み合わせはペスト菌F1抗原に特異的な少なくとも1種の抗体と、ペスト菌V抗原に特異的な少なくとも1種の抗体が好ましい。
【0016】
所望により、F1抗原及び/又はV抗原内の異なるエピトープに特異的な2種以上の抗体を使用することもできる。
【0017】
使用する抗体はモノクローナル抗体又はその結合フラグメントであるが、特にモノクローナル抗体が適切である。
【0018】
特に、ペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントは例えばWO96/28551に示されているようなV抗原の配列のアミノ酸1〜275に存在するV抗原のエピトープ、好ましくはアミノ酸135〜275に存在するエピトープと特異的に結合する。LcrV特異的ポリクローナル抗血清が受動的に導入されると、マウスはペストに対して防御され、この防御エピトープは領域168〜275にマッピングされた(Motin,V.L.ら.1994.Infection and Immunity 62:4192−4201)。同様に、本発明で使用するMab7.3はLcrVのaa135〜275の立体配座エピトープと結合するとしてマッピングされた(Hill,J.ら.1997.Infection and Immunity 65:4476−4482)。従って、LcrVのこの中心領域は本発明で有用な抗体の良好なターゲットであると思われる。
【0019】
医薬は感染後約48時間までに投与するものが適切であるが、用量を十分に増加させるならば更に長時間でもよい。
【0020】
抗体又は結合フラグメントの臨床許容性を増すためには多数のストラテジーを使用することができる(Casadevall,A.1999.Clinical Immunology 93:5−15)。例えば、動物抗体の特異性をヒト抗体フレームワークに導入したり(この方法を「ヒト化」と言う)(Taylor,G.ら.1991.Lancet 337:1411−1412;Winter,G.ら.1993.Trends in Pharmacological Sciences 14:139−143)、治療性を改善するように動物抗体を化学処理することができる(Mayers,C.N.ら.2001.Reviews in Medical Microbiology 12:29−37)。あるいは、ナイーブヒト1本鎖抗体ライブラリー(de Haard,H.J.ら.1999.Journal of Biological Chemistry 274:18218−18230;Knappik,A.ら.2000.Journal of Molecular Biology 296:57−86;Nissim,A.ら.1994.Embo Journal 13:692−698)や、ヒト抗体レパートリーを発現する免疫トランスジェニック動物(Neuberger,M.ら.1997.Nature 386:25−26)から抗体を作製することもできる。
【0021】
特に好ましい態様では、使用する抗体又はその結合フラグメントは上記ヒト化による「ヒト化型」であるか、又は同じく上記のようにヒトライブラリーもしくはトランスジェニック動物から作製された結果として完全ヒト抗体である。
【0022】
本発明者らはペスト菌表面蛋白質に特異的なモノクローナル抗体をペスト治療用治療薬として使用できることを立証した。Mab7.3とF1−04−A−G1は単独投与よりも併用するほうが治療薬として有効であり、皮下注射(s.c.)によるペスト菌攻撃後2日までに投与すると、有意防御が得られた。
【0023】
別の側面では、本発明は治療有効量の(i)ペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(ii)ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(i)と(ii)の組み合わせ、特に上記のような(i)と(ii)の組み合わせをヒト又は動物に投与する、ペスト菌感染作用を受けているヒト又は動物の治療方法を提供する。
【0024】
治療薬は感染性ペスト菌と接触してから48時間以内に投与すると適切であり、24時間以内が好ましい。
【0025】
抗体は医薬組成物として投与すると適切であり、医薬的に許容可能なキャリヤーを加えると適切である。適切なキャリヤーとしては当分野で公知の固体又は液体キャリヤー(例えば食塩水)が挙げられる。
【0026】
本発明の組成物は経口投与(例えば錠剤、トローチ剤、ハードもしくはソフトカプセル剤、水性もしくは油性懸濁液、エマルション、分散性散剤もしくは顆粒剤、シロップ剤又はエリキシル剤)、吸入投与(例えば微粉又は液体エアロゾル)、吹送投与(例えば微粉)又は非経口投与(例えば静脈、皮下、筋肉内投与又は直腸投与用座剤)に適した形態とすることができる。
【0027】
本発明の組成物は当分野で周知の慣用医薬賦形剤を使用して慣用方法により得ることができる。
【0028】
例えば、医薬組成物は適当な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤の1種以上を使用して公知方法に従って製剤化することができる滅菌注射用水性又は油性懸濁液の形態とすることができる。
【0029】
吸入投与用組成物は微粉状固体又は液滴を含むエアロゾルとして活性抗体組成物を分配するように構成された慣用加圧型エアロゾルの形態とすることができる。揮発性フッ素化炭化水素又は炭化水素等の慣用エアロゾル噴射剤を使用することができ、エアロゾル装置は活性成分を一定量ずつ分配するように都合よく構成される。
【0030】
製剤化に関する詳細な情報については、Comprehensive Medicinal Chemistry(Corwin Hansch;Chairman of Editorial Board,Pergamon Press 1990)第5巻第25.2章を参照されたい。
【0031】
単一用量形態を製造するために1種以上の賦形剤と併用する活性成分の量は必然的に治療する宿主と特定投与経路によって異なる。単位用量形態は一般に活性成分約1mg〜約2gを含有する。
【0032】
本発明の組成物の治療又は予防目的の用量サイズは周知の医薬原則に従い、症状の種類と重篤度、動物又は患者の年齢と性別及び投与経路により異なる。しかし、一般に、治療又は予防目的では、一般に例えば0.5mg〜75mg/kg体重範囲の周期的な投与量となるように投与する。
【0033】
従って、更に別の側面では、本発明はペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントと、ペスト菌F1抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントを含む医薬組成物を提供する。
【0034】
特に、組成物はペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントと、ペスト菌F1抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントを含む。これらは抗体であることが好ましく、モノクローナル抗体が最も好ましく、ヒト化型でも完全ヒト型でもよい。組成物に加えるのに好ましい抗体は上述した通りである。
【0035】
本発明者らは更に抗体組み合わせを前治療薬として投与した場合に10MLD 皮下注射攻撃に対してマウスを防御できることも発見した。本明細書に記載するデータはLcrVとF1をペストサブユニットワクチンに加えると相加防御を上回る効果が得られるという知見を明示している(Williamson,E.D.ら.1995.Fems Immunology and Medical Microbiology 12:223−230)。ワクチンによる防御はF1とLcrVに対する高い特異的ポリクローナル抗体力価に相関し(Williamson,E.D.ら.1999.Clinical and Experimental Immunology 116:107−114)、防御度が防御抗体の投与量に比例するという本発明の知見に一致する(下表1)。
【0036】
従って、本発明の医薬組成物はペスト菌感染に対するヒト又は動物の防御用受動的免疫用予防ワクチンとして使用することができ、これらのワクチンは本発明の別の側面を形成する。
【0037】
更に別の側面は上記ワクチンを投与するペスト菌感染に対する免疫方法に関する。
【0038】
別の側面において、本発明はペスト菌感染に対するヒト又は動物の受動免疫用医薬の製造におけるペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメントと、ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメントの組み合わせの使用を提供する。
【0039】
好ましい抗体組み合わせは治療での使用について上述した通りである。
【0040】
LcrVは密接な接触により1組のエフェクター蛋白質を真核ターゲット細胞の細胞質ゾルに直接注入することが可能なプロセスであるYersinia種のIII型分泌(TTS)に主要な役割をもつ(Cornelis,G.R.1998.Journal of Bacteriology 180:5495−5504;Hueck,C.J.1998.Microbiology and Molecular Biology Reviews 62:379−433;Rosqvist,R.ら.1991.Infection and Immunity 59:4562−4569;Rosqvist,R.ら.1994.Embo Journal 13:964−972)。エフェクター蛋白質(Yopsと言う)は貪食宿主細胞の死滅を促進する各種機能をもつ。防御ポリクローナル抗血清はHELA細胞における細胞毒性実験でYersinia TTSを阻害し、共焦点顕微鏡分析により真核細胞との接触前に細菌表面でLcrVが検出された(Pettersson,J.A.ら.1999.Molecular Microbiology 32:961−976)。同様の試験の結果、Mab7.3はJ774マクロファージ様細胞をYersiniaによる死滅から防御するが、他の非防御Mabでは防御されないことが分かった(Weeks,S.ら.2002.Mibrobial Pathogenesis 32:227−237)。Pseudomonas aeruginosaのLcrVホモログ(PcrV)に対する抗血清は肺感染モデルでマウスを防御し、抗血清はTTSによるJ774細胞の細胞毒性を阻害し(Frank,D.W.ら.2002.Journal of Infectious Diseases 186:64−73;Sawa,T.ら.1999.Nature Medicine 5:392−398)、抗PcrV F(ab’)2フラグメントは疾患モデルで治療防御を生じた(Shime,N.ら.2001.Journal of Immunology 167:5880−5886)。
【0041】
しかし、細胞毒性アッセイで防御LcrV特異的ポリクローナル抗血清間に相関を示していない報告もある(Fields,K.A.ら.1999.Virulence role of V antigen of Yersinia pestis at the bacterial surface.Infection and Immunity 67:5395−5408)。LcrVは免疫調節性をもつことも報告されている(Motin,V.L.ら.1997.Transplantation 63:1040−1042;Nakajima,R.ら.1995.Infection and Immunity 63:3021−3029;Sing,A.ら.2002.Journal of Immunology 168:1315−1321;Welkos,S.ら.1998.Microbial Pathogenesis 24:185−196)ので、抗体が分泌LcrVと未確認真核受容体の相互作用を阻止することによりペスト菌のTTSと抗炎症性を阻害している可能性もある。
【0042】
F1は37℃で最適に発現され、細菌表面にカプセル様構造を形成することにより貪食を阻害すると考えられ、有効なペストワクチンである(Andrews,G.P.ら.1996.Infection and Immunity 64:2180−2187;Du,Y.D.ら.2002.Infection and Immunity 70:1453−1460;Heath,D.G.ら.1998.Vaccine 16:1131−1137;Titball,R.W.ら.1997.Infection and Immunity 65:1926−1930)。最近の報告は、同系F1ペスト突然変異体のJ774細胞による貪食に対する抵抗性が低下していることを示している(Du,Y.D.ら.2002.Infection and Immunity 70:1453−1460)。また、TTS欠損ビルレンスプラスミド治癒株は貪食抵抗性が低く、二重突然変異体で相加効果が認められた(F1陰性,プラスミド治癒株)。TTSシステムとF1カプセル合成はペスト菌の細胞外生活様式を維持するために様々な方法で関与していることが報告されている(Du,Y.D.ら.2002.Infection and Immunity 70:1453−1460)。本発明を使用することにより、生物のTTSシステムとF1カプセルの両者をターゲットにするので、以下の実施例で観察される高レベル防御を説明することができる。以下、図面を参照して本発明を単なる例示として説明する。
【実施例1】
【0043】
抗体の作製
Mab7.3とF1−04−A−G1を硫安沈殿によりハイブリドーマ上清から精製した。等容量の飽和硫酸アンモニウム溶液を組織培養上清にゆっくりと加えた後、4℃で一晩撹拌後、3,000gで30分間遠心した。ペレットをドレンし、元の容量の0.1倍容量のPBS(GIBCO,英国)に再懸濁した後、PBSを3回交換して透析した。使い捨てEconopakカラム(BioRad,英国)に蛋白質−G−セファロースビーズ(Sigma,英国)を充填し、抗体溶液をカラムに通した。ビーズをPBSで洗浄後、抗体を50mMグリシン(pH3)で溶出させ、溶出液3ml当たりTrisHCl(pH9.1)150μlを加えたフラクションで保存した。蛋白質フラクションを10−15% Phastgels(Pharmacia,英国)でSDS−PAGEにより分析し、PBSを3回交換して抗体含有フラクションを透析した。製造業者に推奨されているようなBSA標準を使用してBCAアッセイ(Perbio,英国)により抗体濃度を測定した。抗体純度をSDS−PAGE分析により測定した。
【実施例2】
【0044】
生物学的試験
腺ペストと肺ペストのマウスモデルで抗体を試験した。6〜8週齢Balb/cマウスを使用した(Charles River Limited,英国)。動物実験は動物実験に関する英国法(Animals(Scientific Procedures)Act 1986)に従って実施した。
【0045】
下表1〜3の表示のとおり感染前又は感染後にPBS100μl中腹腔内(i.p.)注射により抗体をマウスに投与した。皮下注射経路で1コロニー形成単位の推定半数致死量(MLD)をもつ完全ビルレントヒト単離株であるペスト菌株GB(Russell,Pら.1995.Vaccine 13:1551−1556)を全攻撃実験で使用した。腺ペストモデルでは、10〜10MLDをPBS100μlに再懸濁し、マウスに皮下注射した。肺ペストモデルでは、従来記載されているように風媒性細菌約100MLDをマウスに接触させた(Williamson,E.D.ら.1997 Vaccine 15:1079−1084)。少なくとも1日2回動物を調査し、死亡数を14日間記録した。
【0046】
結果
Mab7.3防御データ
ペスト菌10MLD又は100MLDによる攻撃の24時間前に精製Mab7.3をマウスに投与した。僅か3.5μgの抗体でマウスは防御され、死亡した動物の死亡までの平均時間(TTD)は延長した(表1)。
【0047】
【表1】

3.5μg及び0.7μgのMab7.3を投与した群に比較して10.5μg又は35μgを投与した群のほうに高い生存率が認められた。防御度は100MLDを投与した動物のほうが10MLDを注射したものよりも低かった(夫々生存率50%及び83%)。従って、ペストに対する防御は抗体投与量に正比例し、攻撃用量に反比例した。
【0048】
PBS100μl中50μgのMab7.3をマウス5匹に腹腔内(i.p.)注射し、従来記載されているような抗LcrV特異的ELISAにより各種時点で血清値を測定した(Hill,J.ら.1997.Infection and Immunity 65:4476−4482)。Mab7.3の血清中半減期は5.6日間であることが分かった。投与から28日後の血清中抗体値は2μgであると計算されたので、抗体投与から28日後に免疫動物5匹をペスト菌18MLDで攻撃した。Mab7.3を投与した全動物は生存したが、投与しなかったマウスは6匹中6匹が死亡した。本実験の結果、抗体を1回投与すると持効型予防剤として機能する可能性があることが立証された。
【0049】
皮下注射ペスト菌攻撃を基準にして−4時間、+24時間、+48時間又は+96時間にMab7.3を投与した。感染後48時間までに抗体を投与すると防御が認められた(図1A)。また。+96時間投与群にも死亡までの時間の延長が認められ。+96時間投与群の1匹は抗体投与前に死亡したが、その他は未投与対照動物と区別できないペスト兆候を示し、ペスト症状が明白な場合であっても抗体治療により死亡を延期できることが示唆された。エアロゾル感染を基準にして−4時間、+24時間、+48時間又は+60時間にMab7.3をマウスに投与した(図1B)。攻撃から24時間及び48時間後に抗体を投与した群に防御が認められた。+60時間に投与した全マウスは死亡したが、未投与動物に比較して統計的に有意なTTD延長が認められた。
【0050】
F1−04−A−G1とMab7.3の併用投与
エアロゾル攻撃前にF1−04−A−G1を単独又はMab7.3と併用投与すると、ペストに対してマウスが防御された(表2)。
【0051】
【表2】

この結果、肺ペストモデルにおけるF1−04−A−G1の予防性が確認された(Anderson,G.W.ら.1997.American Journal of Tropical Medicine and Hygiene 56:471−473)。Mab7.3はエアロゾル攻撃よりも皮下注射ペスト菌攻撃に対する治療効力が低かった(図1)ので、腺ペストモデルを更なる同時投与試験に選択して抗体相乗効果を試験した。
【0052】
まず、ペスト菌GB50〜10MLD攻撃に対する前治療薬として抗体を試験した(表3)。
【0053】
【表3】

驚くべきことに、全攻撃用量で防御が認められ、100MLDを上回る攻撃用量での成功が予想された(表1及びAnderson,G.W.ら.1997.American Journal of Tropical Medicine and Hygiene 56:471−473参照)。次に、併用抗体投与をペスト治療として試験した。攻撃から48時間後に抗体カクテルを投与したマウスは単独抗体投与した動物よりも良好に防御された(図2)。データは、Mab7.3とF1−04−A−G1が本発明のペストモデルで前治療薬及び治療薬のいずれでも相乗作用することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】(A)皮下注射及び(B)エアロゾル感染経路によりペスト菌で攻撃したマウスに治療薬としてMab7.3を投与した結果を示すグラフである。PBS中35μgのMab7.3を表示に従って攻撃の4時間前又は攻撃後72時間まで腹腔内注射によりマウスに投与した。死亡数を14日間記録した。(A)72時間及び(B)60時間後にMab7.3を投与した動物で確認された死亡までの時間延長はスチューデントのT検定分析によると未投与対照群に比較して統計的に有意(P<0.05)であった。
【図2】Mab7.3とF1−04−AG−1は感染後に投与すると相乗効果があることを示すグラフである。マウスをペスト菌91MLDで皮下注射攻撃し、ペスト攻撃から48時間後にMab7.3(35μg)、F1−04−A−G1(100μg)又は両者を投与した。死亡数を14日間記録した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペスト菌感染の治療用医薬の製造における(i)ペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(ii)ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(i)と(ii)の組み合わせの使用。
【請求項2】
(i)と(ii)の組み合わせを使用する請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組み合わせがペスト菌F1抗原に特異的な抗体と、ペスト菌V抗原に特異的な抗体を含む請求項2に記載の使用。
【請求項4】
抗体がモノクローナル抗体である請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
医薬が感染後約48時間までの投与用である請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
ペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントがV抗原の配列のアミノ酸135〜275に存在するV抗原のエピトープと特異的に結合する請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
抗体又はその結合フラグメントがヒト化型である請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
治療有効量の(i)ペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(ii)ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(i)と(ii)の組み合わせをヒト又は動物に投与することを含む、ペスト菌感染作用を受けているヒト又は動物の治療方法。
【請求項9】
(i)と(ii)の組み合わせを投与することを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントと、ペスト菌F1抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントを含む医薬組成物。
【請求項11】
ペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントと、ペスト菌F1抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントを含む請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
抗体がモノクローナル抗体である請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントがV抗原の配列のアミノ酸135〜275に存在するV抗原のエピトープと特異的に結合する請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
抗体又はその結合フラグメントがヒト化型又は完全ヒト型である請求項10から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか一項に記載の組成物を含むペスト菌感染に対するヒト又は動物の防御用予防ワクチン。
【請求項16】
請求項15に記載のワクチンを投与するペスト菌感染に対する免疫方法。
【請求項17】
ペスト菌感染に対するヒト又は動物の受動免疫用医薬の製造におけるペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメントと、ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメントの組み合わせの使用。
【請求項18】
本願添付図面を参照して明細書に実質的に記載する使用、方法又は組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペスト菌感染の治療用医薬の製造における(i)ペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(ii)ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(i)と(ii)の組み合わせの使用。
【請求項2】
(i)と(ii)の組み合わせを使用する請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記組み合わせがペスト菌F1抗原に特異的な抗体と、ペスト菌V抗原に特異的な抗体を含む請求項2に記載の使用。
【請求項4】
抗体がモノクローナル抗体である請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
医薬が感染後約48時間までの投与用である請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
ペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントがV抗原の配列のアミノ酸135〜275に存在するV抗原のエピトープと特異的に結合する請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
抗体又はその結合フラグメントがヒト化型である請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
治療有効量の(i)ペスト菌F1抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(ii)ペスト菌V抗原に特異的な抗体、もしくはその結合フラグメント、又は(i)と(ii)の組み合わせをヒト又は動物に投与することを含む、ペスト菌感染作用を受けているヒト又は動物の治療方法。
【請求項9】
(i)と(ii)の組み合わせを投与することを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメント及びペスト菌F1抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメント並びに医薬適合性担体を含む医薬組成物。
【請求項11】
抗体がモノクローナル抗体である請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
ペスト菌V抗原に特異的な抗体又はその結合フラグメントがV抗原の配列のアミノ酸135〜275に存在するV抗原のエピトープと特異的に結合する請求項10又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
抗体又はその結合フラグメントがヒト化型又は完全ヒト型である請求項10から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか一項に記載の組成物を含むペスト菌感染に対するヒト又は動物の防御用予防ワクチン。
【請求項15】
請求項14に記載のワクチンを投与するペスト菌感染に対する免疫方法。
【請求項16】
ペスト菌感染に対するヒト又は動物の受動免疫用医薬の製造におけるペスト菌F1抗原に特異的な抗体もしくはその結合フラグメント及びペスト菌V抗原に特異的な抗体もしくはその結合フラグメント並びに医薬適合性担体の組み合わせの使用。

【公表番号】特表2006−500386(P2006−500386A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−532311(P2004−532311)
【出願日】平成15年8月29日(2003.8.29)
【国際出願番号】PCT/GB2003/003747
【国際公開番号】WO2004/019980
【国際公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(390040604)イギリス国 (58)
【氏名又は名称原語表記】THE SECRETARY OF STATE FOR DEFENCE IN HER BRITANNIC MAJESTY’S GOVERNMENT OF THE UNETED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTHERN IRELAND
【Fターム(参考)】