説明

ペプチドを用いた貴金属の回収方法

【課題】 大規模な設備が不要であり、短時間で、かつ選択的に、貴金属イオン含有水溶液から貴金属を回収する方法を提供すること。
【解決手段】 (1)貴金属イオンを含有する水溶液に、酸性条件下、ペプチドを混合する工程と、
(2)前記水溶液をアルカリ性に調整する工程と、
(3)ペプチドに捕捉された貴金属を前記水溶液から分離する工程
を含む、貴金属の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属イオンを含有する水溶液から貴金属を回収する方法に関する。より詳細には、ペプチドを用いて水溶液中の貴金属イオンを捕捉し、回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金、銀などの貴金属を含む水溶液中からこれらの金属を分離する技術は、資源の回収再利用の観点から極めて重要である。これまで、貴金属の回収方法としては、貴金属含有水溶液の濃度を高める蒸発濃縮、電気分解などの方法が行われてきた。
しかしながら、こうした方法は、大規模な設備を必要とし、さらに処理に時間がかかる問題があった。さらに、系内に他のイオン種が共存する場合、適用が困難であった。
【0003】
一方、特許文献1には、重金属含有廃水からタンパク質の特性を利用して重金属を除去する処理方法が開示されている。該方法は、重金属含有廃水中にタンパク質を混入し、タンパク質が重金属を包み込む反応の完了後、アルカリ剤でpH 9〜12に調整することで重金属を包み込んだタンパク質を沈殿させることを含む。
しかしながら、特許文献1には、貴金属を回収することについて、何ら開示されていない。
【0004】
【特許文献1】特開平11-128956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、大規模な設備が不要であり、短時間で、かつ選択的に、貴金属イオン含有水溶液から貴金属を回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討した結果、貴金属イオンを含む水溶液に、酸性条件下でペプチドを混合し、その後水溶液をアルカリ性に調整することで、貴金属イオンとペプチドが相互作用し、貴金属イオンが結合したペプチドが選択的に凝集物として沈殿し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を包含する。
〔1〕 (1)貴金属イオンを含有する水溶液に、酸性条件下、ペプチドを混合する工程と、
(2)前記水溶液をアルカリ性に調整する工程と、
(3)ペプチドに捕捉された貴金属を前記水溶液から分離する工程
を含む、貴金属の回収方法。
〔2〕 ペプチドは、側鎖にアミノ基もしくはチオール基を有するアミノ酸残基を少なくとも一種含んでなるオリゴペプチドまたはポリペプチドである、上記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 ペプチドの数平均分子量は、250〜1,000,000である、上記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕 工程(1)における酸性条件は、pH −1〜6である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 工程(2)におけるアルカリ性は、pH 7〜14である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 工程(3)において、ペプチドに捕捉された貴金属をろ過または遠心分離によって前記水溶液から分離する、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 貴金属は金である、上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、貴金属イオンとペプチドの相互作用によって、貴金属イオンを含有する水溶液から、貴金属を、短時間で、選択的かつ効率的に回収することができる。また、本発明の方法では、ペプチドに捕捉された貴金属イオンが貴金属に還元された場合、呈色が起こるので、この呈色を利用して捕捉の成否を容易に判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いるペプチドは、本発明の目的が達成される限り、その種類、由来などに限定されるものではない。例えば、生合成されたオリゴペプチドおよびポリペプチド(タンパク質)、ペプチド合成法などにより人工的に合成されたオリゴペプチドおよびポリペプチド、それらの加水分解物などが挙げられる。
ここで「オリゴペプチド」とは、2〜10個のアミノ酸残基からなるペプチドを意味し、「ポリペプチド」とは、10個より多くのアミノ酸残基からなるペプチドを意味する。また、以下、「ポリ(オリゴ)」は、「ポリ」または「オリゴ」を意味する。
本発明におけるペプチドには、一般的なタンパク質のような複数のアミノ酸残基からなるポリ(オリゴ)ペプチドに加えて、一種のアミノ酸残基のみからなるホモポリ(オリゴ)マー、二種以上のポリ(オリゴ)ペプチドを組み合わせてなるコポリ(オリゴ)ペプチドなども含まれる。また、コポリ(オリゴ)ペプチドには、ブロック型、グラフト型が含まれる。
さらに、本発明におけるペプチドには、本発明の目的が達成される限り、ペプチドと、ペプチド以外のポリ(オリゴ)マー(例えば、親水性ポリ(オリゴ)マー)を組み合わせてなるコポリ(オリゴ)マーも含まれる。
本発明に用いるペプチドとして好適には、側鎖にアミノ基もしくはチオール基を有するアミノ酸残基を少なくとも一種含んでなるポリ(オリゴ)ペプチドが挙げられる。
【0009】
上記側鎖にアミノ基を有するアミノ酸としては、例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミンなどが挙げられる。また、本発明において、側鎖にアミノ基を有するアミノ酸には、側鎖にアミノ基を有するように化学的に改変されたアミノ酸誘導体も含まれる。このようなアミノ酸誘導体としては、例えば、p-アミノフェニルアラニンが挙げられる。なお、本発明におけるペプチドにおいて、これらは二種以上併用することができる。
上記側鎖にチオール基を有するアミノ酸としては、例えば、システインなどが挙げられる。また、本発明において、側鎖にチオール基を有するアミノ酸には、側鎖にチオール基を有するように化学的に改変されたアミノ酸誘導体も含まれる。このようなアミノ酸誘導体としては、例えば、β,β-ジメチルシステインが挙げられる。なお、本発明におけるペプチドにおいて、これらは二種以上併用することができる。
【0010】
本発明に用いるペプチドには、側鎖にアミノ基もしくはチオール基を有するアミノ酸残基に加えて、他のアミノ酸またはその誘導体の残基も含まれ得る。このようなアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、トレオニン、アルパラギン酸、グルタミン酸、ノルロイシン、ノルバリン、ナフチルアラニン、ピリジルアラニンなどが挙げられる。
【0011】
本発明に用いるペプチドは、好適には、側鎖にアミノ基もしくはチオール基を有するアミノ酸残基を少なくとも3個含んでなる。該アミノ酸残基が3個よりも少ないと貴金属を十分に捕捉できない虞がある。該アミン酸残基の数の上限は、特に設定されないが、水に溶解または懸濁させる際の取り扱いの観点から、500個程度である。
【0012】
本発明において、特に好適なペプチドとしては、
(1)一種の側鎖にアミノ基またはチオール基を有するアミノ酸残基のみからなるホモポリ(オリゴ)マー、例えば、ポリ-L-リシン、ポリ-L-システインなど;
(2)二種のポリ(オリゴ)ペプチドからなり、一方が側鎖にアミノ基もしくはチオール基を有するアミノ酸残基を含んでなるポリ(オリゴ)ペプチドであり、他方が親水性ポリ(オリゴ)ペプチドであるジブロックコポリ(オリゴ)マー、例えば、ポリ(L-グルタミン酸)-ポリ(L-リシン)ブロックコポリマー(PLGA-PLL)、ポリ(L-グルタミン酸)-ポリ(L-システイン)ブロックコポリマー(PLGA-PLC)など;
(3)ペプチドと、ペプチド以外のポリ(オリゴ)マーからなり、ペプチドが側鎖にアミノ基もしくはチオール基を有するアミノ酸残基を含んでなるポリ(オリゴ)ペプチドであり、ペプチド以外のポリ(オリゴ)マーが親水性ポリ(オリゴ)マーであるジブロックコポリ(オリゴ)マー、例えば、ポリ(L-リシン)-ポリエチレングリコールブロックコポリマー(PLL-PEG)など;
などが挙げられる。なお、これらは、後述するように、市販されているか、既知の方法(例えば、ペプチド合成法)により製造することができる。
また、ジブロックコポリ(オリゴ)マーは、鎖長比および/または構成アミノ酸種を変化させることで、pHに対する凝集性/溶解性の程度をコントロールすることができるので、本発明において有利である。
【0013】
本発明に用いるペプチドの数平均分子量は、水系に混合する際の水との親和性と金属イオンとの相互作用性能とのバランスの観点から、好適には250〜1,000,000、より好適には5,000〜60,000である。
ここでいう「数平均分子量」は、ゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)法により算出されるポリエチレングリコール換算値である。
【0014】
本発明の目的を達成するため、ペプチドは、目的とする貴金属イオンを含有する水溶液に、少なくとも後述する酸性条件下、溶解または懸濁し得るものが好適である。したがって、本発明に用いるペプチドは、目的とする貴金属イオンを含有する水溶液に、少なくとも後述する酸性条件下、溶解または懸濁し得る程度の親水性を有するものが好適である。
【0015】
本発明における「貴金属」とは、一般的な定義と同じく「産出量が少なく、貴重な金属」を意味し、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)が挙げられる。また、白金族のその他の元素、例えば、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)なども含む。
本発明における貴金属イオンは、上記貴金属のイオンであって、本発明の方法によって回収可能なものであれば、その荷電、存在状態などに特に制限はない。例えば、金イオン(Au、Au3+)、銀イオン(Ag)、白金イオン(Pt2+)、テトラクロロ金(III)酸イオン(AuCl)、パラジウムイオン(Pd2+)、ルテニウムイオン(Ru2+)などが挙げられる。
上記貴金属のなかでも、ペプチドに捕捉され、金属に還元された場合、呈色するため、捕捉の成否を判断することが容易であることから、本発明において、特に、金、銀が挙げられる。
【0016】
本発明の貴金属の回収方法は、
(1)貴金属イオンを含有する水溶液に、酸性条件下、ペプチドを混合する工程と、
(2)前記水溶液をアルカリ性に調整する工程と、
(3)ペプチドに捕捉された貴金属を前記水溶液から分離する工程
を含む。
【0017】
上記工程(1)において、貴金属イオンを含有する水溶液に、酸性条件下、ペプチドを混合する。これにより、ペプチドと貴金属イオンが接触し、ペプチドと貴金属イオンの相互作用を通じて貴金属イオンはペプチドに選択的に捕捉される。
本発明における貴金属イオンを含有する水溶液は、本発明の目的が達成される限り、その起源、種類、貴金属イオンの濃度、貴金属イオン以外の成分(例えば、他の金属イオン、陰イオンなど)の種類および濃度などに特に限定されない。該水溶液の例としては、例えば、貴金属イオンを含有する各種の工場廃水などが挙げられる。
【0018】
上記酸性条件は、貴金属イオンが溶解し得るpHであれば特に限定されない。したがって、貴金属イオンおよびペプチドの種類などに応じて適宜設定することができるが、通常、pH −1〜6、好適にはpH 0〜4である。
【0019】
上記ペプチドの使用量は、貴金属イオンの濃度およびペプチドの溶解度などに応じて適宜設定することができるが、通常、水溶液中の濃度が0.1〜1重量%、好適には0.2〜0.5重量%となる量が使用される。
上記ペプチドを混合する方法は、特に限定されず、当該分野において既知の手段(例えば、ミキサーなど)を使用して行うことができる。また、上記ペプチドを混合する際の温度および時間も特に限定されない。例えば、温度は、10〜40℃、時間は、数分以上とすることができる。
【0020】
上記工程(2)において、貴金属イオンとペプチドを混合した水溶液をアルカリ性に調整する。これにより、ペプチドに捕捉された貴金属イオンは金属に還元され、ペプチドに捕捉されたまま水溶液中に沈殿する。
上記アルカリ性は、ペプチドに捕捉された貴金属イオンが金属に還元され、ペプチドと共に沈殿し得るpHであれば特に限定されない。したがって、貴金属イオンおよびペプチドの種類などに応じて、pH 7〜14から適宜設定することができる。
【0021】
上記水溶液をアルカリ性にする調整する方法は、特に限定されず、当該分野において既知の方法(例えば、アルカリの添加)を用いることができる。ここで使用されるアルカリとしては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。また、アルカリを添加する態様も特に限定されず、例えば、1M程度の水溶液として添加することができる。
上記アルカリ性に調整する際の温度および時間も特に限定されない。例えば、温度は、10〜40℃、時間は3〜24時間とすることができる。
【0022】
水溶液中に含有される貴金属イオンが金イオンの場合、ペプチドを混合した後、水溶液をアルカリ性に調整すると、捕捉された金イオンは還元されて金属金となり、赤色を呈色する。また、銀イオンの場合、薄茶色を呈色する。この呈色を利用して捕捉の成否を容易に判断することができる。
【0023】
上記工程(3)において、上記工程(2)により生じたペプチドに捕捉された貴金属(沈殿)を水溶液から分離する。これにより、貴金属を回収することができる。
上記ペプチドに捕捉された貴金属は、通常、水溶液中に沈殿しているので、ろ過または遠心分離などの当該分野において既知の分離方法を使用して水溶液から分離することができる。また、ろ過に使用するフィルター、遠心条件などの分離条件は、特に限定されず、生じた沈殿に応じて適宜設定することができる。
なお、沈殿が明確に生じていない場合、例えば、各種の沈殿剤などをさらに添加して沈殿を生じさせてもよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例中の各特性の分析は、下記方法に従って行なった。
[化学特性の分析方法]
(1)重合度
重合度は400MHzH-NMR(JEOL、JMN-LA400)を用いてトリフルオロ酢酸-d中で測定した。
(2)ポリマーの分子量および分子量分布
ゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)測定は島津製作所(株)製液体クロマトグラフィ装置を用いて、10mMLiBr/DMF中、60℃で行った(流速:1.0mL/分)。脱保護前のポリマーの分子量分布は(Mw/Mn)は、市販の標準ポリエチレングリコールと比較したクロマトグラフから算出した。
(3)金イオン濃度の測定
水溶液中の金イオンの濃度は、紫外可視分光光時計(日立U-3000)を用いて、HAuCl/1M HClに対して1/10量の飽和NaBr溶液を加えて測定した。
【0025】
実施例1:ホモポリマーを用いた金の回収
市販のポリ-L-リシン(PLL;Mw=574500、Mw=58900、Mw=9200;シグマアルドリッチ社製)を用いて、以下のようにして金の回収実験を行った。その結果を表1に示す。
【0026】
(金の回収実験)
1.HAuCl/1M HCl溶液(Au濃度1000ppm;pH 0)に、粉末状ブロックポリマー(PLGA-PLL)(濃度0.2重量%)を室温(約25℃)で加えた。次いで、5分間攪拌した。
2.上記混合溶液に、室温(約25℃)で、HAuCl/1M HCl溶液の2倍量の1M NaOH水溶液を加え、水溶液のpHを13に調整した。その後、6時間攪拌した。
3.上記混合溶液をろ過(孔径0.45μmフィルター:ミリポア株式会社製)し、水相と得られた沈殿を分離した。
4.水相に1M HCl水溶液を加え、さらに1/10量の飽和NaBr水溶液を加えた状態でUV測定を行った。382nmの吸光度により作成した検量線を基に、水相に残存する金イオン量を決定し、金の回収率を算出した。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例2:ポリ(L-グルタミン酸)-ポリ(L-リシン)ブロックコポリマー(PLGA-PLL)を用いた金の回収
(1)γ-ベンジル-L-グルタメイトN-カルボキシ無水物(BLG-NCA)の合成
1.γ-ベンジル-L-グルタメイト2g、トリホスゲン1.2gとTHF150mlを懸濁させ、50℃で撹拌した。
2.反応終了後(溶液が透明になった後)、減圧下で溶媒を除去し、THF/n-ヘキサンで3回再結晶させた。凍結乾燥することでBLG-NCAを得た。
(2)ε-ベンジルオキシカルボニル-L-リシンN-カルボキシ無水物(ZLL-NCA)の合成
上記BLG-NCAと同様に、ε-ベンジルオキシカルボニル-L-リシンN-カルボキシ無水物(ZLL-NCA)を合成した。
(3)PBLG-PZLL重合
1.得られたBLG-NCAの0.4gを室温でTHF15ml中に溶解させ、この溶液中へ、開始剤t-ブチルアミン8μlを加え撹拌した。
2.IRスペクトルによりBLG-NCAが全て反応したことを確認した後、ZLL-NCA1gとTHF50mlを加え撹拌した。
3.減圧下で溶媒を5mlになるまで濃縮し、500mlのジエチルエーテル中に撹拌しながら滴下することによってポリマーを再沈殿させた。ろ過、凍結乾燥の後、白色粉末を得た。
重合反応開始時に投入したBLG-NCA、ZLL-NCAおよびt-ブチルアミンの量を変更すること以外は上記と同様にしてブロック比率の異なるコポリマーを調製した(表2)。
【0029】
【表2】

【0030】
(4)PLGA-PLLへの脱保護
1.得られたPBLG-PZLL1gをトリフルオロ酢酸(TFA)10mlに溶解させ、アニソール10ml、メタンスルホン酸5mlを加え数時間撹拌した。
2.水を5ml加え、100mlジエチルエーテルで数回洗浄した。
3.その後、水相を透析、凍結乾燥することでPLGA-PLLを得た。
脱保護の確認はH NMRにより確認した。
【0031】
【化1】

【0032】
(5)金の回収実験
上記で得られたポリマーAおよびBを用いて、実施例1と同様に金の回収実験を行った。その結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
実施例3:オリゴペプチドを用いた金の回収
市販のLys-Lys-Lys(BACHEM社製)を用いて実施例1と同様に金の回収実験を行った。明確な沈殿は生じなかったが、紫外可視スペクトルより500〜600nmの間に吸収が見られたことから、金イオンが還元され、Lys-Lys-Lysに捕捉されていることがわかった(図1)。
【0035】
比較例1
実施例2で製造したポリマーAを用いて、2倍量の1M NaOH水溶液を加える代わりに2倍量の1M HClを加えた以外は実施例2と同様に行った。2倍量の1M HClを加えた後の金イオン含有水溶液のpHは、0であった。その結果を表3に示す。
水溶液をアルカリ性にした場合(実施例2)に比べて、金イオンの回収率が顕著に低くなった(表3)。また、赤色を呈色しなかったことより、金属金への還元も行われなかったと考えられる。
【0036】
比較例2
市販のポリ-L-グルタミン酸(PLGA;Mw=3000〜15000;シグマアルドリッチ社製)を用いて実施例1と同様に金の回収実験を行った。
金イオン含有水溶液をアルカリ性にするとポリマーは溶解し、また、数日間放置しても色の変化は見られなかった。その結果、金を回収することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、HAuCl水溶液(金イオンのみ)と、Lys-Lys-Lys添加HAuCl水溶液について、紫外可視スペクトルを測定した結果を示す。ここで、実線は、HAuCl水溶液(金イオンのみ)を、破線は、Lys-Lys-Lys添加HAuCl水溶液をアルカリ性にしたものを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)貴金属イオンを含有する水溶液に、酸性条件下、ペプチドを混合する工程と、
(2)前記水溶液をアルカリ性に調整する工程と、
(3)ペプチドに捕捉された貴金属を前記水溶液から分離する工程
を含む、貴金属の回収方法。
【請求項2】
ペプチドは、側鎖にアミノ基もしくはチオール基を有するアミノ酸残基を少なくとも一種含んでなるオリゴペプチドまたはポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ペプチドの数平均分子量は、250〜1,000,000である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(1)における酸性条件は、pH −1〜6である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(2)におけるアルカリ性は、pH 7〜14である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程(3)において、ペプチドに捕捉された貴金属をろ過または遠心分離によって前記水溶液から分離する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
貴金属は金である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−56308(P2007−56308A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242683(P2005−242683)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(599100198)財団法人 滋賀県産業支援プラザ (12)
【Fターム(参考)】