説明

ペルフルオロ有機過酸化物ならびにその製造方法、および重合体の製造方法

【課題】10時間半減期温度が35℃を超え、不飽和モノマーの重合開始剤として用いた際の重合体の生産性を高くでき、しかも得られる重合体の安定性を高くできる新規なペルフルオロ有機過酸化物を提供する。
【解決手段】本発明のペルフルオロ有機過酸化物は、下記式(1)で表されることを特徴とする。(式(1)におけるm,nは各々独立に0〜3の整数である。)
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なペルフルオロ有機過酸化物およびその製造方法に関する。また、ペルフルオロ有機過酸化物を重合開始剤として用いる重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機過酸化物をラジカル重合開始剤として用い、エチレン性不飽和結合を有する不飽和モノマーを付加重合することが広く知られている。ところで、付加重合においては、得られる重合体の末端に、有機過酸化物の脱酸素残基または脱炭酸ラジカル残基が結合され、該残基が重合体の物性に影響を及ぼすことがある。たとえば、不飽和モノマーが含フッ素オレフィンである場合に、フッ素原子を有さない有機過酸化物を用いて重合すると、得られる重合体の熱安定性等が損なわれることがある。そのため、含フッ素オレフィンを重合する際の有機過酸化物としては、通常、ペルフルオロ有機過酸化物が使用される。
【0003】
ペルフルオロ有機過酸化物としては、非特許文献1に、(CCOO−)が開示され、非特許文献2に、(C11COO−)が開示されている。
非特許文献1に記載のペルフルオロ有機過酸化物を重合開始剤として用いた場合には、得られる重合体の末端にCCOO−基が結合される。ところが、該重合体末端に存在するCCOO−基のカルボニル部位は熱的に不安定であるため、重合体の末端にCCOO−基が結合されると、カルボニル部位を起点として重合体が分解するおそれがある。
非特許文献2に記載の該ペルフルオロ有機過酸化物から生成するラジカルは、環状構造を有し、立体的障害が大きいC11・(パーフルオロシクロヘキシルラジカル)である。そのため、重合する不飽和モノマーの立体構造によっては、C11・により不飽和モノマーをラジカル化しにくくなるため、重合速度が低下して、重合体の生産性が低くなる傾向にある。
上記重合体の安定性や重合体の生産性等の問題点を改良しうる直鎖状のラジカルを生成するペルフルオロ有機過酸化物として、たとえば、(CCOO−)などのペルフルオロアシルペルオキシド、アシル基内にエーテル性酸素を有するジ(ポリフルオロアシル)ペルオキシドなどが知られている(たとえば、特許文献1,2参照)。
しかし、該ペルフルオロ有機過酸化物は10時間半減期温度が35℃以下と低いものが多く、重合開始剤として用いた際には、重合温度を低くする必要がある。重合温度を低くすると、不飽和モノマーの重合速度が低下するため、重合体の生産性が低くなることがある。
【特許文献1】特開平3−31253号公報
【特許文献2】特開平5−97797号公報
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・ケミカルソサイアティ[セクション]C:オーガニック(Journal of the Chemical Society [Section] C:Organic)」、1969年、第5巻 p.882−883
【非特許文献2】「ケミストリ・レターズ(Chemistry Letters)」、1998年、第2巻、p.153−154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、10時間半減期温度が35℃を超え、不飽和モノマーの重合開始剤として用いた際の重合体の生産性を高くできる新規なペルフルオロ有機過酸化物ならびにその製造方法を提供する。さらには、重合体の生産性が高い、重合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1] 下記式(1)で表されることを特徴とするペルフルオロ有機過酸化物。
(式(1)におけるm,nは各々独立に0〜3の整数である。)
【0006】
【化1】

【0007】
[2] 下記式(2)で表される化合物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群より選択される一種以上のアルカリ化合物の存在下、過酸化水素と反応させることを特徴とするペルフルオロ有機過酸化物の製造方法。
(式(2)におけるAはフッ素原子または塩素原子である。pは0〜3の整数である。)
【0008】
【化2】

【0009】
[3] 下記式(3)で表される化合物を、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化バリウム、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムおよび過炭酸バリウムからなる群より選択される一種以上の無機過酸化物と反応させることを特徴とするペルフルオロ有機過酸化物の製造方法。
(式(3)におけるAはフッ素原子または塩素原子である。qは0〜3の整数である。)
【0010】
【化3】

【0011】
[4] [1]に記載のペルフルオロ有機過酸化物を重合開始剤として用いて不飽和モノマーをラジカル重合することを特徴とする重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のペルフルオロ有機過酸化物は、新規なペルフルオロ有機過酸化物であり、不飽和モノマーの重合開始剤として用いた際に、重合速度の低下を防止でき、重合体の生産性を高くできる。
本発明のペルフルオロ有機過酸化物の製造方法によれば、前記ペルフルオロ有機過酸化物を製造できる。
本発明の重合体の製造方法によれば、重合体の生産性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(ペルフルオロ有機過酸化物)
本発明のペルフルオロ有機過酸化物は、下記式(1)で表されるものである。
【0014】
【化4】

【0015】
式(1)におけるm,nは各々独立に0〜3の整数であり、各々1であることが好ましい。m,nが各々3以下であることにより、前記ペルフルオロ有機過酸化物を工業的に製造できる。また、該ペルフルオロ有機過酸化物の製造が容易であることから、m,nが同じであることが好ましい。
【0016】
本発明のペルフルオロ有機過酸化物は、10時間半減期温度が35℃を超えるものである。たとえば、式(1)のm,nが共に1であるものは、10時間半減期温度が42.5℃である。そのため、本発明のペルフルオロ有機過酸化物を不飽和モノマーの重合開始剤として用いた際には、重合温度を低くする必要がなく、重合速度低下を防止でき、得られる重合体の生産性を高くできる。
前記10時間半減期温度とは、有機過酸化物の濃度が初期値の半分に減少するまでの時間が10時間となる温度のことである。10時間半減期温度が高いほど、有機過酸化物の分解が起こりにくい。
10時間半減期温度は、下記の方法により測定される。被測定有機過酸化物のある濃度の溶液を調製し、この溶液を窒素置換したガラス管中に密閉する。このガラス管を所定温度Tにした恒温槽に浸して、有機過酸化物を熱分解させる。分解した有機過酸化物の濃度をx[mol/L]、分解速度係数をK[s−1]、時間t[s]、初期有機過酸化物の濃度をa[mol/L]とすると、下記式が成り立つ。
dx/dt=K(a−x)
{a/(a−x)}=K・t
したがって、L{a/(a−x)}とtの関係をプロットすることで、温度Tにおける分解速度係数Kが求まる。
10時間半減期温度は、10時間で有機過酸化物濃度が初期の半分に減ずるときの温度であるから、x=a/2、t=3.6×10を代入して、K=6.93×10−2になるときの温度である。温度Tと分解速度係数Kのプロットから、K=6.93×10−2の時の温度を導いたものが10時間半減期温度となる。
【0017】
また、本発明のペルフルオロ有機過酸化物は、生成するラジカルが直鎖状であり、立体的障害が小さい。その点からも、本発明のペルフルオロ有機過酸化物を不飽和モノマーの重合開始剤として用いた際には、重合速度低下を防止でき、重合体の生産性を高くできる。
以上の性質を有するペルフルオロ有機過酸化物は、不飽和モノマーの重合開始剤としてとりわけ有用である。
【0018】
(ペルフルオロ有機過酸化物の製造方法)
[第1の製造方法]
本発明のペルフルオロ有機過酸化物の第1の製造方法の一実施形態について説明する。
ペルフルオロ有機過酸化物の第1の製造方法の一実施形態では、まず、反応器中で、蒸留水にアルカリ化合物を溶解させた後、溶媒を添加する。
【0019】
該製造方法で使用されるアルカリ化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群より選択される一種以上である。
【0020】
溶媒としては、下記式(2)で表される化合物(以下、化合物Aという。)および過酸化水素が可溶なものが使用される。溶媒のうちでも、化合物Aおよびペルフルオロ有機過酸化物の溶解性が高いこと、および得られるペルフルオロ有機過酸化物との反応性が低いことから、ハロゲン化脂肪族溶媒、ハロゲン化芳香族溶媒が好ましい。
ハロゲン化脂肪族溶媒の具体例としては、塩化メチレン、クロロホルム、2−クロロ−1,2−ジブロモ−1,1,2−トリフルオロエタン、1,2−ジブロモヘキサフルオロプロパン、1,2−ジブロモテトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロテトラクロロエタン、1,2−ジフルオロテトラクロロエタン、フルオロトリクロロメタン、ヘプタフルオロ−2,3,3−トリクロロブタン、1,1,1,3−テトラクロロテトラフルオロプロパン、1,1,1−トリクロロペンタフルオロプロパン、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロ−3,3−ジクロロプロパン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロ−1,3−ジクロロプロパン、トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオロブチルエチルエーテル、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
ハロゲン化芳香族溶媒の具体例としては、ベンゾトリフルオリド、ヘキサフルオロキシレン、ペンタフルオロベンゼン等が挙げられる。
溶媒は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0021】
ついで、反応器内に、過酸化水素の水溶液(以下、過酸化水素水という。)を添加した後、化合物Aを添加する。これにより、アルカリ化合物の存在下で、化合物Aと過酸化水素とを反応させる。
【0022】
【化5】

【0023】
式(2)におけるAはフッ素原子または塩素原子である。pは0〜3の整数である。pが3以下であることにより、化合物Aを工業的に製造できる。
【0024】
化合物Aと過酸化水素とアルカリ化合物の仕込みモル比率は、化合物Aを1とした際に過酸化水素を0.3〜20、アルカリ化合物を0.3〜10とすることが好ましく、過酸化水素を0.5〜10、アルカリ化合物を0.5〜7とすることがより好ましい。該モル比率の範囲にて、化合物Aと過酸化水素とアルカリ化合物とを仕込めば、短時間で、ペルフルオロ有機過酸化物を高収率で製造できる。
【0025】
化合物Aと過酸化水素とを反応させる際の反応温度は−30〜+50℃とすることが好ましい。反応温度を−30℃以上とすれば、反応時間が短くなり、+50℃以下とすれば、得られるペルフルオロ有機過酸化物の分解が起こりにくいため、収率が高くなる。
反応時間は0.5〜10時間とすることが好ましい。反応時間を0.5時間以上とすれば、収率が高くなる。ただし、反応時間が10時間を超えると、反応がおこりにくくなり、収率がほとんど向上しないので、実益がない。
【0026】
前記反応により得られた液は水相および有機相を有しており、ペルフルオロ有機過酸化物は有機相に含まれている。そして、そのうちの有機相を分離、回収することにより、ペルフルオロ有機過酸化物の溶液を得る。通常、ペルフルオロ有機過酸化物は溶液の形態で使用に供される。
【0027】
ペルフルオロ有機過酸化物の溶液は、水および炭酸水素ナトリウム等を用いて洗浄して精製することが好ましい。これにより、アルカリ化合物および過酸化水素等を除去することができる。
水等を用いてペルフルオロ有機過酸化物の溶液を洗浄した後には、該溶液の純度を高めるために、硫酸ナトリウム等の脱水剤で脱水することが好ましい。
精製したペルフルオロ有機過酸化物を重合開始剤として使用すれば、得られる重合体中の不純物を少なくできる。
【0028】
以上説明したペルフルオロ有機過酸化物の第1の製造方法の実施形態によれば、10時間半減期温度が35℃を超え、しかも、直鎖状の前記ペルフルオロ有機過酸化物を製造できる。
【0029】
なお、本発明のペルフルオロ有機過酸化物の第1の製造方法は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、アルカリ化合物を蒸留水に溶解させたが、必ずしも蒸留水に溶解させて水溶液とする必要はない。ただし、アルカリ化合物を水溶液とすれば、化合物Aと過酸化水素とが反応しやすくなるため、好ましい。
また、本発明のペルフルオロ有機過酸化物の第1の製造方法では、過酸化水素は、過酸化水素水でなくてもよい。ただし、取り扱い性の点から、過酸化水素水であることが好ましい。
また、本発明のペルフルオロ有機過酸化物の第1の製造方法では、必ずしも反応時に溶媒を使用しなくてもよい。ただし、得られるペルフルオロ有機過酸化物の安定性が向上することから、溶媒を用いることが好ましい。
【0030】
[第2の製造方法]
前記ペルフルオロ有機過酸化物の第2の製造方法の一実施形態について説明する。
ペルフルオロ有機過酸化物の第2の製造方法の一実施形態では、まず、反応器内に無機過酸化物を投入した後、溶媒を添加する。
反応器内に投入される無機過酸化物は、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化バリウム、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムおよび過炭酸バリウムからなる群より選択される一種以上である。
溶媒としては、第1の製造方法の実施形態で挙げたものと同様のものを使用することができる。
【0031】
ついで、反応器内に、下記式(3)で表される化合物(以下、化合物Bという。)を添加し、無機過酸化物と反応させて、ペルフルオロ有機過酸化物を得る。
【0032】
【化6】

【0033】
式(3)におけるAはフッ素原子または塩素原子である。qは0〜3の整数である。qが3以下であることにより、化合物Bを工業的に製造できる。
【0034】
化合物Bと無機過酸化物との仕込みモル比率は、化合物Bを1とした際に無機過酸化物を0.3〜20とすることが好ましく、0.5〜15とすることがより好ましい。該モル比率の範囲にて、化合物Bと無機過酸化物とを仕込めば、短時間で、ペルフルオロ有機過酸化物を高収率で製造できる。
【0035】
第2の製造方法においても、第1の製造方法と同様に、反応温度を−30〜+50℃とすることが好ましい。また、反応時間を0.5〜10時間とすることが好ましい。
第2の製造方法で得たペルフルオロ有機過酸化物の溶液についても、水等を用いて洗浄することが好ましい。ペルフルオロ有機過酸化物の溶液を洗浄すれば、無機化酸化物を除去できるため、重合体中の不純物を少なくできる。
【0036】
以上説明したペルフルオロ有機過酸化物の第2の製造方法の実施形態によれば、10時間半減期温度が35℃を超え、しかも、直鎖状の前記ペルフルオロ有機過酸化物を製造できる。
【0037】
なお、本発明のペルフルオロ有機過酸化物の第2の製造方法は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した実施形態では、反応時に溶媒を使用したが、必ずしも溶媒を使用しなくてもよい。ただし、得られるペルフルオロ有機過酸化物の安定性が向上することから、溶媒を用いることが好ましい。
【0038】
(重合体の製造方法)
本発明の重合体の製造方法は、前記ペルフルオロ有機過酸化物を重合開始剤として用いて不飽和モノマーをラジカル重合する方法である。
【0039】
不飽和モノマーとしては、前記ペルフルオロ有機過酸化物の特性がとりわけ発揮されることから、フルオロモノマーが好ましい。フルオロモノマーとしては、たとえば、下記の化合物が挙げられる。
フルオロオレフィン:テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオリド、トリフルオロエチレン、1,2−ジフルオロエチレン、フッ化ビニル、トリフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、3,3,3−トリフルオロプロパン、2−トリフルオロメチル−3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、パーフルオロ(ブチルエチレン)等。
パーフルオロ(アルキルビニルエーテル):パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等。
パーフルオロ(アルケニルビニルエーテル):パーフルオロ(1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)等。
エーテル性酸素原子含有環状パーフルオロオレフィン:パーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、パーフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)等。
(パーフルオロアルキル)エチルアクリレート:(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート、(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート等。
(パーフルオロアルキル)エチルメタクリレート:(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、(パーフルオロヘプチル)エチルメタクリレート、(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート等。
フルオロスチレン:α−フルオロスチレン、β−フルオロスチレン、α,β−ジフルオロスチレン、β,β−ジフルオロスチレン、α,β,β−トリフルオロスチレン、α−トリフルオロメチルスチレン、2,4,6−トリ(トリフルオロメチル)スチレン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、パーフルオロ(スチレン)、2,3,4,5,6−ペンタフルオロ−α−メチルスチレン等。
【0040】
また、フルオロモノマーとしては、官能基を有するものも好ましい。官能基を有するフルオロモノマーとしては、下記式(4)で表される化合物等が挙げられる。
【0041】
【化7】

【0042】
ここで、−Zは、−CHOH、−COOH、−SOF、−CHOCN、−CHPOHのいずれかである。
XおよびYは、各々独立に水素原子またはフッ素原子である。
Rfは、炭素数1〜20のポリフルオロアルキレン基またはポリフルオロオキシアルキレン基である。
上述したフルオロモノマーは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0043】
また、本発明の重合体の製造方法においては、不飽和モノマーとして、前記フルオロモノマーと、該フルオロモノマー以外の非フッ素系モノマーとを併用し、これらを共重合してもよい。
非フッ素系モノマーとしては、たとえば、下記の化合物が挙げられる。
オレフィン:エチレン、プロピレン、ブテン等。
アルキルビニルエーテル:エチルビニルエーテル等。
ビニルエステル:酢酸ビニル等。
(メタ)アクリレート:メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ステアリルアクリレート等。
非フッ素系モノマーは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
不飽和モノマーとしてフルオロモノマーと非フッ素系モノマーとを併用する場合には、全不飽和モノマーに対するフルオロモノマーの割合が30モル%以上であることが好ましく、45モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることが特に好ましい。一方、非フッ素系モノマーを共重合する効果を充分に発揮させる点では、全不飽和モノマーに対するフルオロモノマーの割合が50モル%以下であることが好ましい。
【0044】
ペルフルオロ有機過酸化物を用いた不飽和モノマーの重合は、常圧でおこなってもよいし、加圧しておこなってもよい。
重合温度は−50〜120℃とすることが好ましく、−20〜80℃とすることがより好ましい。重合温度が−50℃以上であれば、重合時間を短くでき、重合体の生産性が向上し、120℃以下であれば、温度制御が容易になる。
重合時間は、工業的な観点から、30分〜20時間とすることが好ましく、1〜10時間とすることがより好ましい。
【0045】
不飽和モノマーを重合する際には、円滑に重合できることから、溶媒を添加することが好ましい。
該溶媒としては、各種有機溶媒等を用いることができる。溶媒のうちでも、ハロゲン化脂肪族溶媒、ハロゲン化芳香族溶媒が好ましい。ハロゲン化脂肪族溶媒およびハロゲン化芳香族溶媒の具体例としては、前記ペルフルオロ有機過酸化物を製造する際に用いる溶媒と同じものが挙げられる。
重合の際に添加する溶媒は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0046】
溶媒を添加する場合には、ペルフルオロ有機過酸化物の量を、溶媒とペルフルオロ有機過酸化物とからなる溶液を100質量%とした際の0.1〜30質量%とすることが好ましい。ペルフルオロ有機過酸化物の濃度が0.1質量%以上であれば、重合体の生産性がより高くなり、30質量%以下であれば、所望の分子量の重合体を容易に製造できる。
【0047】
ペルフルオロ有機過酸化物を用いて不飽和モノマーを重合して得た重合体は、再沈殿法、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法で精製できる。
【0048】
上述した重合体の製造方法では、本発明のペルフルオロ有機過酸化物を重合開始剤として用いて不飽和モノマーを重合するため、重合速度の低下を防止でき、重合体の生産性が高い。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
[例1]
(工程1−1)エステル化反応によるCHCHO(CHO(CHOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの製造工程
ハステロイC製の2LのオートクレーブにCHCHO(CHO(CHOH(アルドリッチ(Aldrich)製)の300gを入れ、該オートクレーブを冷却し、密閉撹拌下、内温が30℃以下に保たれるようにゆっくりとCFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COF(シンクエスト・フルオロケミカルズ(SynQuest Fluorochemicals)製)の1339gを導入した。全量を導入後、さらに30℃で3時間撹拌した後、反応で生じたHFを窒素ガスのバブリングによってオートクレーブ外に追い出して生成物を得た。生成物をガスクロマトグラフィにより分析したところ、CHCHO(CHO(CHOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFが99.6%生成しており、未反応のCHCHO(CHO(CHOHは検出されなかった。この生成物を精製することなく、次の工程(1−2)に使用した。
【0050】
(工程1−2)フッ素化反応によるCFCFO(CFO(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFの製造工程
該製造工程では、500mLのニッケル製オートクレーブを用いた。該オートクレーブには、オートクレーブ内に原料を注入するための原料注入口と、オートクレーブからガスを排出するためのガス排出口とが設けられている。また、ガス排出口には、該ガス排出口側から20℃に保持した第1の冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した第2の冷却器が直列に設けられている。第2の冷却器には、凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインが設けられている。
上記オートクレーブに、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンの312gを加えた後に撹拌し、25℃に保った。オートクレーブに窒素ガスを室温で1時間吹き込んだ後、窒素ガスで20%に希釈したフッ素ガス(以下、20%希釈フッ素ガスと表記する。)を室温で流量17.04L/時間で1時間吹き込んだ。つぎに、20%希釈フッ素ガスを上記と同じ流量でオートクレーブ内に吹き込みながら、工程1−1で得た生成物の10gを1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンの150gに溶解した溶液を4.1時間かけて注入した。
つぎに、20%希釈フッ素ガスを上記と同じ流量でオートクレーブ内に吹き込んでオートクレーブ内圧力を0.15MPa(ゲージ圧)まで昇圧した。ベンゼン濃度が0.01g/mLである1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンのベンゼン溶液を25℃から40℃にまで昇温しながら9mL注入し、オートクレーブの原料注入口を閉め、0.3時間撹拌を続けた。
つぎに、オートクレーブ内圧力を0.15MPaに、オートクレーブ内温度を40℃に保ちながら、前記ベンゼン溶液を6mL注入し、オートクレーブの原料注入口を閉め、0.3時間撹拌を続けた。さらに同様の操作を1回繰り返した。ベンゼンの注入総量は0.22g、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンの注入総量は21mLであった。
さらに20%希釈フッ素ガスを上記と同じ流量で吹き込みながら1時間撹拌を続けた。つぎに、オートクレーブ内圧力を常圧にして、窒素ガスを1時間吹き込んだ。生成物を19F−NMRで分析したところ、CFCFO(CFO(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFが収率99%で含まれていた。
【0051】
(工程1−3)エステル結合の分解反応によるCFCFO(CFOCFCOFの製造工程
10℃の還流器を備えた蒸留塔の容器(2L)に、工程1−2で得たCFCFO(CFO(CFOCOCF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF(4273g)を仕込み、フッ化カリウムの12.6gを加えた。ついで、容器内を撹拌しながら加熱して(熱媒温度:100〜130℃)、反応蒸留方式により留分を回収した。主留として純度99質量%以上の留分1273gを回収した。沸点66.5℃、収率84.5%であった。
【0052】
(工程1−4)過酸化反応による[(COCOCFCOO)]の製造工程
温度計と滴下ロートを備えた三口フラスコ中で、蒸留水の120.9gに水酸化カリウムの62.2mmol(3.48g)を溶解させ、CFClCFCHClF溶媒の60.76gを添加し、氷浴により該フラスコの温度を約0℃に調節した。ついで、フラスコ内に、30質量%のH水溶液の9.14g(Hの80.6mmolに相当)を導入し、ついで、滴下ロートから工程1−3で得たCOCOCFCOFの41.1mmol(14.3g)を導入した。
フラスコ内の温度を約2℃に調節し、30分間攪拌を続け、反応をおこなって、水相および有機相を有する液を得た。ペルフルオロ有機過酸化物は有機相中に含まれている。
そして、有機相を分液ロートにより分離、回収し、回収した有機相を炭酸水素ナトリウム水溶液および蒸留水により洗浄し、硫酸マグネシウムで脱水して、ペルフルオロ有機過酸化物[(COCOCFCOO)]の溶液を得た。得られたペルフルオロ有機過酸化物の溶液のIRスペクトルを測定したところ、1790cm−1(C=O)、1325cm−1(−CF)、1230cm−1(−CF)の吸収が見られた。これにより、[(COCOCFCOO)]が得られたものと判断した。
また、得られたペルフルオロ有機過酸化物の溶液の濃度を、下記のヨードメトリー法にて測定した。そして、ペルフルオロ有機過酸化物の溶液の量および濃度から収量X(モル)を求め、反応前に添加したCOCOCFCOFの量Y(モル)に対する反応収率を、(X/Y)×100の式より求めたところ、20%であった。
【0053】
[ヨードメトリー法]
内容積100mlの三角フラスコにイソプロピルアルコールの30ml、酢酸の2ml、飽和ヨウ化カリウム水溶液の2mlをこの順序に採り、該三角フラスコに、約5gに正確に秤量したペルフルオロ有機過酸化物の溶液を添加した。ついで、該三角フラスコを密栓し、内容物を混合して、暗所で10分間反応させて、混合液を得た。該混合物を0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液にて、ヨウ素の色が消えるまで滴定し、下式(a)により、ペルフルオロ有機過酸化物の溶液中に含まれるペルフルオロ有機過酸化物の濃度(質量%)を算出した。
式(a):濃度(質量%)=(V×M×100)/(20000×S) (a)
V:滴定に要した0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液の体積(ml)
:[(COCOCFCOO)]の1モルあたりの分子量(g/mol);690(g/mol)
:ペルフルオロ有機過酸化物の溶液の質量(g)
【0054】
得られた20質量%ペルフルオロ有機過酸化物溶液をCFClCFCHClFで10倍に希釈し、2.0質量%溶液を調製し、この溶液を窒素置換したガラス管中に密閉した。該ガラス管を40℃、42℃及び45℃に調整した恒温槽に浸し、各々1時間、4時間、7時間及び29時間放置し熱分解させた。そして、熱分解後の溶液の濃度を測定した。その結果を表1に示す。
これらの値をL{a/(a−x)}=K・tの式に代入して、熱分解速度定数K(s−1)を求めた。その結果、熱分解速度定数K(s−1)は、40℃では3.9×10−5であり、45℃では1.1×10−4であった。これらの結果より、10時間半減期温度が42.5℃であることがわかった。
【0055】
【表1】

【0056】
[例2]
温度計と滴下ロートを備えた三口フラスコ中で、NaCO・1.5H(過炭酸ナトリウム)の40.0mmol(6.28g)を投入し、CFClCFCHClF溶媒の61.48gを添加し、氷浴で該三口フラスコ内の温度を約0℃に調節した。ついで、滴下ロートから化合物BであるCOCOCFCOFの40.4mmol(14.1g)を導入した。ついで、三口フラスコ内の温度を約2℃に調節し、180分攪拌を続けて、反応を行った。その後、濾過により残存した固体のNaCO・1.5Hを除去して、ペルフルオロ有機過酸化物[(COCOCFCOO)]の溶液を得た。
得られたペルフルオロ有機過酸化物の溶液のIRスペクトルを測定したところ、1790cm−1(C=O)、1325cm−1(−CF)、1230cm−1(−CF)の吸収が見られた。これにより、[(COCOCFCOO)]が得られたものと判断した。
また、得られたペルフルオロ有機過酸化物の溶液の濃度を、下記のヨードメトリー法にて測定した。ペルフルオロ有機過酸化物の溶液の量および濃度から収量X(モル)を求め、反応前に添加したCOCOCFCOFの量Y(モル)に対する反応収率を、(X/Y)×100の式より求めたところ、64%であった。
【0057】
例1および例2で得たペルフルオロ有機過酸化物は10時間半減期温度が42.5℃と、35℃を超えるものであり、また、直鎖状のものである。そのため、該ペルフルオロ有機過酸化物を不飽和モノマーの重合開始剤として用いた際には、重合体の生産性を高くできる。
【0058】
[例3]
例1で得られた[(COCOCFCOO)]の0.022gを含み、CFClCFCHClFを溶媒とする溶液の2.31g、および、CF=CFOCFCFCF=CFの2.33gを試験管に投入し、液体窒素にて固化した後、脱気し封管した。そのまま50℃の温浴に浸しマグネチックスターラで撹拌しながら1時間反応を行った。この反応により得た反応液中には白色固体が生成していた。該白色固体をヘキサンで洗浄、精製した後、50℃の真空オーブンで9時間乾燥させた。そして、下記式(5)で表される繰り返し単位を有し、重合体の末端にCOCOCF−基を有する化合物の白色の固形物の97.8mgを得た。
【0059】
【化8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されることを特徴とするペルフルオロ有機過酸化物。
(式(1)におけるm,nは各々独立に0〜3の整数である。)
【化1】

【請求項2】
下記式(2)で表される化合物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムからなる群より選択される一種以上のアルカリ化合物の存在下、過酸化水素と反応させることを特徴とするペルフルオロ有機過酸化物の製造方法。
(式(2)におけるAはフッ素原子または塩素原子である。pは0〜3の整数である。)
【化2】

【請求項3】
下記式(3)で表される化合物を、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化バリウム、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウムおよび過炭酸バリウムからなる群より選択される一種以上の無機過酸化物と反応させることを特徴とするペルフルオロ有機過酸化物の製造方法。
(式(3)におけるAはフッ素原子または塩素原子である。qは0〜3の整数である。)
【化3】

【請求項4】
請求項1に記載のペルフルオロ有機過酸化物を重合開始剤として用いて不飽和モノマーをラジカル重合することを特徴とする重合体の製造方法。


【公開番号】特開2008−44863(P2008−44863A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219657(P2006−219657)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】