説明

ペースト状レトルト食品

【課題】本発明は、食肉および食用油脂を含有しレトルト処理を施したにも拘わらず、なめらかな食感を有するペースト状レトルト食品を提供するものである。
【解決手段】食肉および食用油脂を含有するペースト状レトルト食品において、食用油脂を含有するpH4.5〜6.0の卵白スラリーを加熱凝固し破砕して得られる卵白加工品を含有することを特徴とするペースト状レトルト食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉および食用油脂を含有しレトルト処理を施したにも拘わらず、なめらかな食感を有するペースト状レトルト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、わが国では少子高齢化が進み、介護食の需要が高まっている。咀嚼機能(食材を噛む力)や嚥下機能(食材を飲み込む力)が低下している高齢者は、一般食(咀嚼が必要な通常の食事)を摂取する際にむせるなどして誤嚥、さらには肺炎の原因となることがある。そのため、介護者が高齢者に食事を提供する際には、咀嚼補助や誤嚥防止のため、食材を細かくすりつぶしたり、とろみをつけたりするなどペースト状にして提供することが必要である。
【0003】
また、高齢者は全体的な食事摂取量が低下するため、必要な栄養素が不足してしまうという問題があった。特に蛋白質、エネルギーの摂取不足は顕著である。
しかし、蛋白質やエネルギーを豊富に含むペースト状食品を家庭で作ることは容易ではなく、介護者にとって大きな負担となっていた。
【0004】
これらの問題を解決するため、高齢者に不足しがちな蛋白質、エネルギーを豊富に含み、開封するだけで手軽に喫食することができるペースト状レトルト食品が要望されている。しかし、蛋白質、エネルギーを豊富に含む、食肉および食用油脂を含有するペースト状食品は、通常の食品と同様のレトルト処理を行うと、レトルト処理により食肉の蛋白質が変性し、油脂が分離してペースト状食品のなめらかな食感が損なわれるという問題があった。
【0005】
食用油脂および食肉を含有するレトルトソースにおいて、レトルト処理を施したにも拘らず配合した食用油脂および/または食肉由来の油脂の分離を解決する方法として、例えば、特開2009−284791号公報(特許文献1)に、乳酸発酵卵白を含有させる方法が記載されている。
この方法は食肉として挽肉等一定の大きさのものを具材として含有するレトルト食品において、油脂の分離は抑えられるものの、ペースト状の食肉を含有するレトルト食品において、なめらかさの欠如を十分に解決できるものではなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2009−284791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、食肉および食用油脂を含有しレトルト処理を施したにも拘わらず、なめらかな食感を有するペースト状レトルト食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、食肉および食用油脂を含有するペースト状レトルト食品において、食用油脂を含有するpH4.5〜6.0の卵白スラリーを加熱凝固し破砕して得られる卵白加工品を含有するならば、意外にも、レトルト処理を施したにも拘わらずなめらかな食感を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)食肉および食用油脂を含有するペースト状レトルト食品において、食用油脂を含有するpH4.5〜6.0の卵白スラリーを加熱凝固し破砕して得られる卵白加工品を含有するペースト状レトルト食品、である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レトルト処理を施したにも拘わらず、なめらかな食感を有するペースト状レトルト食品を提供することができる。これにより、レトルト食品市場の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0012】
本発明のペースト状レトルト食品は、食肉および食用油脂を含有するペースト状レトルト食品において、食用油脂を含有するpH4.5〜6.0の卵白スラリーを加熱凝固し破砕して得られる卵白加工品を含有するものであるが、説明上、まず本発明で用いる卵白加工品について記載する。
【0013】
本発明に用いる卵白加工品とは、食用油脂を含有するpH4.5〜6.0の卵白スラリーを加熱凝固し破砕して得られるものである。
【0014】
前記卵白加工品に用いる原料の卵白は、特に限定されないが、例えば、鶏卵を割卵して得られる生卵白をはじめ、当該生卵白にストレーナー等によるろ過処理、冷凍処理、乾燥処理、プロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、イオン交換樹脂等による脱塩処理、食塩又は糖類等の混合処理等の1種又は2種以上の処理を施したものが挙げられ、これらを1種または2種以上を混合したものを用いても良い。
【0015】
前記卵白加工品における卵白含有量は、特に限定されないが、固形分換算で5〜20%が好ましい。卵白含有量が前記範囲であると、なめらかな食感が得られやすい。
【0016】
前記卵白加工品に用いる食用油脂は、食用であればいずれのものでも良い。例えば、菜種油、大豆油、パーム油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、魚油、牛脂、豚油、鶏油、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂などを用いることができる。また、食用油脂を乳化油脂として用いても良く、よりなめらかな食感が得られやすいことから、食用油脂と乳化油脂を併用することが好ましい。なお、乳化油脂を用いる場合は、乳化油脂に含まれる油分を食用油脂とする。
【0017】
乳化油脂とは、前述のような食用油脂を通常用いられる乳化材で乳化したものや、生クリームなどの天然の乳化油脂のことである。乳化材としては、例えば、レシチン、卵白、卵黄、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、乳清蛋白質などの天然の乳化材や、グリセロール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなど化学合成物である各種脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0018】
前記卵白加工品における食用油脂の含有量は、特に限定されないが、卵白加工品に対して1〜30%が好ましく、5〜20%がより好ましい。食用油脂の含有量が前記範囲であると、なめらかな食感が得られやすい。
【0019】
前記卵白加工品に用いる卵白スラリーのpHは、4.5〜6.0であり、好ましくは4.8〜5.5である。pHが前記範囲であると、なめらかな食感が得られやすい。なお、卵白スラリーのpHを前記範囲に調整する方法は、特に限定されないが、食品に用いることから、有機酸を用いることが好ましい。
【0020】
前記卵白加工品に用いる有機酸は、食用であればいずれのものでもかまわないが、例えば、酢酸、乳酸、プロピオン酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸等、又はこれらを含有するリンゴ酢、ワインビネガー、モルトビネガー、米酢、粕酢、醸造酢等の食酢、レモン、カボス等の柑橘果汁又はこれらの濃縮物などが挙げられ、また乳酸発酵等により有機酸を生成させても良い。
【0021】
前記卵白加工品に用いる卵白スラリーの加熱処理方法は、均一に加熱処理を施せるように適宜選択すればよく、ケーシング袋等に充填密封し湯浴中に浸漬する方法や、ケーシング袋等に充填密封せずにニーダーによりジャケット加熱する方法、その他蒸し煮、通電加熱、マイクロ波加熱等が挙げられ、60℃以上110℃以下、好ましくは65℃以上100℃以下、より好ましくは70℃以上95℃以下で加熱処理すると良い。前記温度の範囲であると、なめらかな食感が得られやすい。
【0022】
本発明に用いる卵白加工品の破砕処理方法は、特に限定されないが、例えば、チョッパー、ダイサー、テンダーライサー、ホイッパー式のミキサー、フードプロセッサー、スライサー、ロボクープ等を用いて行えばよい。
【0023】
本発明のペースト状レトルト食品における卵白加工品の含有量は、本発明のなめらかな食感のペースト状レトルト食品が得られるように適宜含有量を調整すれば良く、具体的には1〜60%が好ましく、1〜20%がより好ましい。
【0024】
本発明のペースト状レトルト食品に用いる食肉は、食用であればいずれのものでも良い。例えば、まぐろ、さけ、たら、たい、いわし、あじ、さば、かつお、ひらめ、かれいなどの魚肉、鶏肉、豚肉、牛肉、鴨肉、馬肉などの畜肉等を用いることができる。
【0025】
本発明のペースト状レトルト食品に用いる食肉の含有量は、特に限定されないが、本発明のペースト状レトルト食品において1〜40%が好ましく、5〜25%がより好ましい。含有量が前記範囲より少ない場合、肉らしさがなくなるため好ましくない。前記範囲より多い場合、なめらかな食感が得られにくくなり好ましくない。
【0026】
本発明のペースト状レトルト食品に用いる食用油脂には、前記卵白加工品中の食用油脂や食肉中の油脂も含まれる。本発明のペースト状レトルト食品に用いる食用油脂は、食用であればいずれのものでも良く、例えば、バター、マーガリン、菜種油、大豆油、パーム油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、魚油、牛脂、豚油、鶏油、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂を用いることができる。
【0027】
本発明のペースト状レトルト食品に用いる食用油脂の含有量は、特に限定されないが、本発明のペースト状レトルト食品において1〜30%が好ましく、5〜20%がより好ましい。食用油脂の含有量が前記範囲であると、なめらかな食感が得られやすい。
【0028】
なお、本発明のペースト状食品には、前述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し含有させることができる。具体的には、例えば、ジャガイモ、にんじん、たまねぎ等の野菜類、砂糖、醤油、みりん、食塩、味噌、ケチャップ、ソース、ブイヨン、カレー粉、豆板醤、コチュジャン等の調味料、グルコース、ショ糖、麦芽糖、オリゴ糖、ぶどう糖果糖液糖等の糖類、牛乳、バター、生クリーム等の乳製品、パセリ、バジル、大蒜、ごま、とうがらし、胡椒等の香辛料、キサンタンガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、グアガム、アラビアガム、サイリュームシードガム等の増粘剤、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、うるち米澱粉、小麦澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、ワキシコーンスターチ、もち米澱粉、湿熱処理澱粉、加工澱粉等の澱粉、クエン酸、酢酸、乳酸等の酸剤、クエン酸塩、酢酸塩、カルシウム塩、リン酸塩等の塩類、アスコルビン酸、ビタミンEの酸化防止剤、色素、香料等を含有させることができる。
【0029】
本発明のペースト状レトルト食品のpHは、pH4.0〜7.5が好ましく、pH5.5〜6.5がより好ましい。pHが前記範囲であると、なめらかな食感が得られやすい。
【0030】
本発明におけるペースト状食品とは、B型粘度計を用いて、品温20℃、ローターNo.5、10rpmの測定条件で回転開始から1分後の示度により算出した粘度が0.5Pa・s〜100Pa・sのものであり、なめらかな食感が得られやすいことから1〜30Pa・sが好ましい。また、本発明におけるペースト状食品は流動性のあるものとし、固形具材を含有する場合はこれらを除く部分をペースト状食品とする。
【0031】
本発明におけるペースト状レトルト食品とは、ペースト状食品を缶やレトルトパウチ等の耐熱性容器に充填密封した後に、当該食品の中心部の品温を120℃で4分間相当、又はこれと同等以上の効力を有する条件での加圧加熱処理により、殺菌を施された食品を意味する。具体的には、例えば110〜130℃で5〜90分間程度加圧加熱殺菌処理を行うと良い。
【0032】
本発明のペースト状レトルト食品の製造方法は、常法に則り製造すればよい。例えば、まず、ニーダーで卵白、食用油脂、および有機酸を撹拌混合し卵白スラリーを調整後、得られた卵白スラリーをポリエチレン製パウチに充填密封し、加熱処理し破砕することで卵白加工品を得る。続いて、得られた卵白加工品と食肉を含む原料をミキサーで混合後、加熱撹拌し、耐熱性パウチに入れて密封しレトルト処理を施して製造すればよい。
【実施例】
【0033】
以下に本発明のペースト状レトルト食品を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0034】
〔実施例1〕
まず、ニーダーで生卵白70%、生クリーム20%(生クリーム中の食用油脂45%)、パーム液状油5%、醸造酢(酸度4%)5%を撹拌混合し卵白スラリー(pH5.5)を調整後、得られた卵白スラリーを500mL容ポリエチレン製パウチに480gずつ充填密封し、95℃で加熱処理し破砕することで卵白加工品を得た。続いて、得られた卵白加工品10%、鮪肉20%、たまねぎ20%、じゃがいも10%、マーガリン5%、キサンタンガム0.3%、清水34.7%をミキサーで混合後、85℃に達温するまで加熱撹拌し、100gをポリエチレン製の耐熱性パウチに入れて密封したのち、120℃6分間レトルト処理を施して、pH6.5、粘度3Pa・sの本発明のペースト状レトルト食品を得た。
得られたペースト状レトルト食品は、非常になめらかな食感を有し、好ましかった。
【0035】
〔実施例2〕
実施例1のペースト状レトルト食品において、パーム液状油5%を清水5%に置き換えた以外は、実施例1に準じてペースト状レトルト食品を得た。得られたペースト状食品は、なめらかな食感を有し、好ましかったが、食用油脂と乳化油脂を併用した実施例1の方がよりなめらかで好ましかった。
【0036】
〔実施例3〕
実施例1のペースト状レトルト食品において、生クリーム20%を菜種油8%、清水12%に置き換えた以外は、実施例1に準じてペースト状レトルト食品を得た。官能評価を行った結果、なめらかな食感を有し好ましかったが、食用油脂と乳化油脂を併用した実施例1の方がよりなめらかで好ましかった。
【0037】
〔比較例1〕
実施例1のペースト状レトルト食品において、生クリーム20%、パーム液状油5%を清水25%に置き換えた以外は、実施例1に準じてペースト状レトルト食品を得た。官能評価を行った結果、ざらついた食感であり好ましくなかった。
【0038】
〔試験例1〕
卵白加工品の卵白スラリーのpHが、本発明に及ぼす影響を調べるため、醸造酢の配合量を調節して卵白スラリーのpHを変更した以外は実施例1に準じてペースト状レトルト食品を製し、得られたペースト状レトルト食品の評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
<評価基準>
○:非常になめらかな食感を有している
△:なめらかな食感を有している
×:ざらついた食感である
【0041】
表1の結果、食肉および食用油脂を含有するペースト状レトルト食品において、食用油脂を含有するpH4.5〜6.0の範囲の卵白スラリーを加熱凝固し破砕して得られる卵白加工品を含有するペースト状レトルト食品は、なめらかな食感で好ましかった(No.2〜5)。特に、pH4.8〜5.5の場合、非常になめらかな食感で好ましかった(No.3、4)。一方、pH4.5未満、又はpH6.0よりも高い場合、ざらついた食感であり、品位を損ね好ましくなかった(No.1、6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉および食用油脂を含有するペースト状レトルト食品において、食用油脂を含有するpH4.5〜6.0の卵白スラリーを加熱凝固し破砕して得られる卵白加工品を含有することを特徴とするペースト状レトルト食品。

【公開番号】特開2012−115165(P2012−115165A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265433(P2010−265433)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)