説明

ペースメーカーをプログラムするための機器及び方法

【課題】 個人のペースメーカーをプログラミングするためのペースメーカープログラミング機器を提供すること。
【解決手段】 ペースメーカープログラミング機器は、個人のペースメーカーの検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定する手段;ペースメーカーが上昇した心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第一試験手段;及び第一試験手段によって決定される最適なAV遅延から検知(信号)とペーシング(信号)の差を引く計算をするための計算手段を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペースメーカープログラミング機器及びそのためのコンピュータプログラムに関する。本発明はまた、ペースメーカーを取り付けている個人の(心臓からのP同期ペーシングの電気信号の)検知ないしセンシング(信号)と(心臓をペーシングする該ペースメーカーからの心房ペーシングの電気信号の)ペーシング(信号)の差(sensed-paced difference)を決定する方法;ペースメーカーのためのAV遅延(AV delay)を決定する方法;及び、ペースメーカーをプログラムする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心室(人間の心臓の主なポンプチャンバー)の壁がもはや同期しない慢性心不全を患っている患者にペースメーカーを取り付けることは周知である。そのようなペースメーカーは、両室ないし両心室(biventricular)(又は再同期(resynchronising))ペースメーカーとして知られており、心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy)(CRT)に有効に作用するために用いられることができる。両室ペースメーカーは房室遅延(atrioventricular delay)を短縮して、心室性期外収縮(ventricular contractions)の同期性を改善するために心臓の左側と右側もいずれも刺激するが、それ自体は、心拍数を必ずしも変える必要性はない。適切な患者に対する両室ペースメーカーの取り付けは、心室内圧力(intraventricular pressure)のピーク上昇の増加、拍出量の増加、結果として、高い全身動脈圧(higher systemic arterial blood pressure)の増加を伴い、血行動態(haemodynamic)状態の迅速な改善をもたらすことが観察された。
【0003】
原則として、実際、2種類の両室ペースメーカーがある。房−両室(atriobiventricular)ペースメーカーには、以下の3つの基本的な特質があり、それらの設定は調節されることができる。
【0004】
1)心拍数。再同期ペースメーカーを備える多くの患者において、患者の本来の心拍数は満足しており、また、ペースメーカーは単に(患者の)本来の心拍数を継続するためにプログラムされる。他の患者において、(患者の)本来の心拍数はあまりにも低く、そして、ペースメーカーは高いレートでペースないし刺激(pace)するようにプログラムされる。両グループの患者において、例えば、患者が身体的な運動を受けるときに、ペースメーカーは、(患者の)本来の心拍数を続かせることと能動的に心拍数を制御することとの間で変化し得る。
【0005】
2)房室(atrioventricular)(“AV”)遅延。これは、電気刺激を得ている心房と心室との間の時間間隔(time interval)である。ペースメーカーが最初に移植されるとき、多くの場合、この遅延は約120msに設定される。
【0006】
3)左心室対右心室(“LV−RV”又は単に“VV”)遅延。これは、電気刺激を得ている左心室と右心室との間の時間間隔(time interval)である。ペースメーカーが製造されたとき、多くの場合、0msに設定される。幾つかの製造者は、スモールノンゼロ下限(small non-zero lower limit)(例えば、4ms)を有し、これは、実用上の目的において、0msとして処理できる。
【0007】
他種類の両室ペースメーカーは、2つの心室リード(ventricular leads)を有するが、房室ペースメーカーとは異なり、単に、VV遅延の設定だけが調節でき、AV遅延の設定はできない。
【0008】
特定の患者において、これらの特質、特に房室(AV)遅延に最適な設定を提供するために、多くの拠点ないしセンターは、ペースメーカープログラミングを選ぶ心エコー(echocardiographic)アプローチを使用する。最も一般的に使用される方法は、安静時心拍数において、心室収縮によって妨害されない完全な心房収縮に関連した、最も長いフィリングタイム(filling time)を測定することである。しかしながら、このアプローチに関する一つの問題は、このアプローチが、再同期ペースメーカーを有し慢性心不全を患う患者の血行動態を最適化することを示唆するデータがほとんどないということである。
【0009】
血圧が両室ペーシングの開始で上昇することが観察され、したがって、患者の血圧を測定している間に、ペースメーカーの特質を調節することによって両室ペースメーカーの活動を最適化することは理論的に可能である。これらの状況において、血圧を測定するためにアームバンドカフを備える通常の血圧計の使用に関する問題は、各々の血圧測定が相当の時間を要し、実際には、多くの異なる測定が最適化プロセスの間にされなければならないということである。このように、この方法による最適化は、完全に非実用的である。
【0010】
また、患者の血圧の侵襲性血行動態モニタリング(invasive haemodynamic monitoring)によって、両室ペースメーカーの特質を最適化する一方で、血圧を決定することも提案されている。しかしながら、このアプローチによる問題は、侵襲性血行動態モニタリングに含まれる臨床的な複雑さ及び侵襲性血行動態モニタリングと関連する些細でない(non-trivial)リスクないし危険が、通常の実施において、ペースメーカーの特質を設定するルーチンの最適化を不適切にするということである。
【0011】
特許文献1は、ペースメーカーを取り付けた患者の血圧を測定するために、フィナプレス(finapres)などの非侵襲性手段(non-invasive means)を用いることによって、ペースメーカーの設定を最適化する方法を開示する。特許文献1は、患者の心拍数が上昇した間に、ペースメーカーの最適な設定を決定することが望ましいことも開示している。これは、運動する間に、心不全を患う患者が、通常は症状を現すからである。
【0012】
【特許文献1】WO2006/008535
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ペースメーカーの特性の設定を最適化する、そのような先行技術アプローチでの1つの問題は、最適化プロセスの間に、患者の運動によって心拍数を上昇させることをそれらアプローチが要求するということである。運動中の最適化は、現在利用できる方法を使用して技術的に困難であることが証明されている。侵襲性血行動態は、それらの侵襲的な性質のために適切でなく、また、心エコー技術は、運動中のイメージないし画像を獲得することの実際的な制限のために使用が制限されている。血行動態を決定するためにフィナプレスなどの非侵襲性手段が使用されたとしても、心拍数を上昇するために運動ができない患者にとって問題は未だに生じる。また、運動の最適化に施設ないし設備を利用できないセンターでも問題は生じる。
【0014】
本発明は、特にペースメーカーを取り付けている患者のAV遅延の最適化に関して、上記の問題を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一つの視点によると、個人のペースメーカーをプログラミングするためのペースメーカープログラミング機器が提供され、以下を含む:
個人のペースメーカーの(心臓からのP同期ペーシングの電気信号の)検知ないしセンシング(信号)と(心臓をペーシングする該ペースメーカーからの心房ペーシングの電気信号の)ペーシング(信号)の差(sensed-paced difference)(以下、「検知(信号)とペーシング(信号)の差」という)を決定する手段;
ペースメーカーが上昇した心拍数で心房ペーシング(atrially pacing)する間に、最適なAV遅延を決定するための第一試験手段;及び
第一試験手段によって決定される最適なAV遅延から検知(信号)とペーシング(信号)の差を引く(minus)計算をするための計算手段。
【0016】
好都合なものとして、ペースメーカーの検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定するための手段は、以下を含む:
ペースメーカーが特定の心拍数でP同期ペーシング(P-synchronous pacing)する間に、最適なAV遅延を決定するための第二試験手段;
ペースメーカーが特定の心拍数又は特定の心拍数に近似の心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第三試験手段;
第三試験手段によって決定される最適なAV遅延から第二試験手段によって決定される最適なAV遅れを差し引くことによって検知(信号)とペーシング(信号)の差を計算する計算手段。
【0017】
好ましくは、ペースメーカープログラミング機器は、さらに、個人のペースメーカーと通信する(communicate)手段をも含む。
【0018】
本発明の別の視点によると、ペースメーカープログラミング機器のためのコンピュータプログラムが提供され、以下を含む:
個人のペースメーカーの検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定するための分析モジュール;
ペースメーカーが上昇した心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第一試験モジュール;及び
第一試験モジュールによって決定される最適なAV遅延から検知(信号)とペーシング(信号)の差を引く計算をするための計算モジュール。
【0019】
有利には、分析モジュールは、以下を含む:
ペースメーカーが特定の心拍数でP同期ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第二試験モジュール;及び
ペースメーカーが特定の心拍数又は特定の心拍数に近似の心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第三試験モジュール;
また、ここで、計算モジュールは、第三試験モジュールによって決定される最適なAV遅延から第二試験モジュールによって決定される最適なAV遅れを差し引くことによって検知(信号)とペーシング(信号)の差を計算する。
【0020】
本発明の別の視点によると、ペースメーカーを取り付けている個人の検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定するための方法が提供され、以下のステップを含む:
i)ペースメーカーが特定の心拍数でP同期ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するステップ;
ii)ペースメーカーが特定の心拍数又は特定の心拍数に近似の心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するステップ;
iii)ステップi)で決定された最適なAV遅延とステップii)で決定された最適なAV遅延との間の差を決定するステップ。
【0021】
本発明のさらなる視点によると、個人のペースメーカーのための好ましいAV遅延を決定する方法が提供され、以下のステップを含む:
i)個人のペースメーカーの検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定するステップ;
ii)ペースメーカーが上昇した心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するステップ;
iii)ステップi)で決定される検知(信号)とペーシング(信号)の差により、上記ステップii)で決定される最適なAV遅延を調節するステップ。
【0022】
好都合なものとして、上昇した心拍数は、90と200bpmとの間であり、好ましくは、95と110bpmとの間である。
【0023】
好ましくは、個人のペースメーカーのための好ましいAV遅延を決定するための方法において、ステップi)は上述したように、個人の検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定する方法を含み、またステップiii)は、上昇した心拍数で決定した最適なAV遅延から特定の心拍数又は特定の心拍数に近似の心拍数での心房ペーシング間に決定された最適なAV遅延を減じ(minus)、特定の心拍数でのP同期ペーシング間に決定された最適なAV遅延を加える(plus)計算を含む。
【0024】
有利には、個人のペースメーカーをプログラミングする方法は、さらに、以下のステップを含む:
iv)ステップiii)で決定されたAV遅延によりペースメーカーをプログラミングする。
【0025】
好都合なものとして、ペースメーカーの最適なAV遅延は、個人の最高血圧を提供する、AV遅延である。
【0026】
好ましくは、最適なAV遅延を決定することは、個人の血圧を測定する間にAV遅延を変化させ、個人の最高血圧になるAV遅延を決定することを含む。
【0027】
有利には、最適なAV遅延は、個人の血圧において最大限の相対的増加(maximum relative increase)を提供する、試験AV遅延(test AV delay)を決定するために、参照(reference)AV遅延と試験AV遅延の範囲との間のペースメーカーのAV遅延を変更することによって決定される。
【0028】
好都合なものとして、特定の心拍数は安静時心拍数(rest heart rate)である。
【0029】
好ましくは、安静時心拍数は、60と100bpmとの間であり、より好ましくは、65と80bpmとの間である。
【0030】
有利には、特定の心拍数に近い心拍数は、その特定の心拍数の10、15又は20bpm以内であり、好ましくは、その特定の心拍数の5bpm以内である。
【0031】
好都合なものとして、個人の検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定する方法において、ステップiii)は、ステップii)で決定された最適なAV遅延からステップi)で決定された最適なAV遅延を差し引くことを含む。
【0032】
ペースメーカープログラミング機器は、さらに、本発明のコンピュータプログラムによりプログラムされるプロセッサを含むことが好ましい。
【0033】
この明細書において、個人のペースメーカーの“検知(信号)とペーシング(信号)の差”は、特定の個人の所与の心拍数で、同一のメカニカルな(心臓の)左側のAV遅延(左心房と左心室の収縮間の遅延)を達成するために、P同期ペーシングと房室シーケンシャルペーシング(atrioventricular sequential pacing)(つまり、“心房”ペーシング)との間に要求されるプログラムされたAV遅延の差を意味する。一つの実施態様において、これは、心房ペーシングと比較してP同期ペーシングによって、個人の最高血圧を達成することを要求されるAV遅延における差を決定することによって達成される。
【0034】
本発明がより理解され、本発明のさらなる特徴がさらに十分に認識されるために、本発明の実施態様は添付の図面を参照してここに記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1を参照するに、本発明の一実施態様がここに記載される。患者1は、両室ペースメーカー2を取り付けている。ペースメーカー2のAV遅延の設定を最適化するために、フィナプレス(ないし指先カフ)3は患者の人差し指4に取り付けられ、次いで、(フィナプレスは)プロセッサ5に接続される。プロセッサは、フィナプレス3からの入力から、個人の血圧を計算するようにプログラムされる。
【0036】
プロセッサ5はまた、患者1の身体の外側に位置するトランスミッタ6にも接続されるが、トランスミッタがペースメーカー2と通信するように、埋め込んだペースメーカー2と隣接して配される。
【0037】
プロセッサ5は、ペースメーカー2のAV遅延を調節し、フィナプレス3から受けた入力からAV遅延を設定(setting)するごとに患者の血圧を評価するようにプログラムされる。
【0038】
両室ペースメーカー2が2つの異なる手法:P同期ペーシングと房室シーケンシャルペーシングで、患者1の心臓を(刺激ないし)ペーシングできることが認識されるべきである。P同期ペーシングにおいて、患者の心房は心房自体を活性化させる。この活性化は、ペースメーカー2によって検知され、短い遅延の後、次いで、心室が(刺激ないし)ペーシング(paced)される。検知される心房の活性化とペーシング(刺激)される心室との間に遅延がある。
【0039】
房室シーケンシャルペーシングにおいては、心房自身が活性化する代わりに、心房はペースメーカーによってペーシングされる。
【0040】
したがって、房室シーケンシャルペーシングは、個人の心拍数を、運動中に通常達成されるレート(例えば、100bpm)まで高めるために使用できる。このように、房室シーケンシャルペーシングは、運動中の心臓の活動をシミュレーションするために使用できる。本発明者等によって、ペースメーカーのAV遅延は、患者が運動している時におかれる状況のために最大限に最適化されることが見出された。しかしながら、患者が自然に運動している時、ペースメーカーは、患者の心臓のP同期ペーシングに携わっている(engaged)であろう。したがって、実際の運動中の患者の正確なモデルを提供するために最適化がシミュレーションされた運動中に実行される際、モデルは、P同期ペーシング(検知(sensed))のAV遅延と房室シーケンシャルペーシング(ペーシング(paced))のAV遅延との間のペーシング(信号)の差を考慮しなければならない。この“検知(信号)とペーシング(信号)”の(時間的)差(sensed-paced difference)は、患者から患者へと変化し、したがって、各患者での検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定する必要がある。
【0041】
特に、AV遅延がペースメーカーでプログラムされるとき、これは(心臓の)右側のAV遅延を意味する点に注意することが重要である。それは、しかしながら、全身的な血行動態に支配的な影響を及ぼす左心房と左心室との間のメカニカルな収縮の遅延(mechanical contraction delay)である。(参考文献1、2、3)
【0042】
P同期ペーシングと房室シーケンシャルペーシングとの間に考慮されるべき3つの原理的な違いがあり、それらは、心房センシング遅延(atrial sensing delay)、心房ペーシング・レイテンシー(atrial pacing latency)、及び心房内(intra-atrial)遅延である。
【0043】
心房センシング遅延
P同期ペーシング中に、プログラムされた(心臓の)右側のAV遅延は、実際の(心臓の)右側のAV遅延よりも短い。これは、ペースメーカーは、一旦、脱分極の振幅が特定のサイズに達するとき、単に、心房の脱分極の開始を検知するだけであるからである。これが、心房の脱分極の開始の検知における時間のずれ(ないしタイムラグ)(time lag)に結果としてなる;心房センシング遅延(図2a)。
【0044】
心房ペーシング・レイテンシー
右心房からペーシングするとき、ペーシング刺激(pacing stimulus)の心房の脱分極の開始への伝達ないしデリバリー(delivery)時からの遅延がある(いわゆる、心房ペーシング・レイテンシー(潜伏期間))。これは、実際の(心臓の)右側のAV遅延が、プログラムされたAV遅延よりも僅かに短いことを意味する。(図2b)
心房内遅延
左心房の活性化のために要する時間は、活性化が固有(内因性)の心房活動又は心房ペーシングによって開始されるかどうかに依存して異なる。一般的には、内因性の活性化と比較して、心房内遅延は、心房のペーシング拍動(atrial paced beat)において長い。この遅延は、効果的でない心房内伝導(conduction)によると思われる。ペーシング(活性化)と検知(センシング)活性化(paced and sensed activation)との間の心房内遅延の差は、患者特異的であると認められ(参考文献1、2、3)、それらは、根本的な伝導、リード位置、心房サイズ及び機能における違いを反映するものである。心拍数が変更されるとき、心房内伝導時間は、比較的一定に維持される。(参考文献5)
【0045】
要約すれば、心拍出量及び全身的血行動態のAV遅延の最適化の効果は、左心房と左心室との間隔に最終的に依存する。しかしながら、ペースメーカーによってプログラムされるのは、(心臓の)右側のAV遅延である。P同期ペーシング(検知のAV遅延(sensed AV delay))において、実際の(心臓の)右側のAV遅延は、心房脱分極の開始を検知するペースメーカーのために要する時間のためにプログラムされた遅延よりも僅かに長い(心房センシング遅延)。図2aに示されるように、右心房をペーシングするとき、実際の(心臓の)右側のAV遅延は、プログラムされたAV遅延よりも短く、その理由は、心房脱分極の開始まで短いレイテンシーが存在するからである。これらの違いに加えて、(心臓の)左側のAV遅延のために利用可能な時間は、P同期ペーシングと比較して、心房ペーシング中に短くなる。その理由は、図2bに示されるように心房ペーシングでは長い心房内伝導時間(prolonged interatrial conduction time)となる傾向があるためである。したがって、同一の(心臓の)左側のAV遅延を達成するためには、より長いペーシングAV遅延(a longer paced AV delay)を、図2cに示されるようにプログラムすることを必要とする。
【0046】
したがって、患者1はペースメーカー2を取り付けられた後、使用において、患者1はペースメーカー2のAV遅延の設定の最適化の過程を受ける。これを行うために、患者の血圧は、フィナプレス3の取り付けによって非侵襲的にモニターされ、フィナプレス3はプロセッサ5に接続されている。プロセッサ5は、次に、トランスミッタ6を介してペースメーカー2と通信する。
【0047】
第一ステップは、患者1の検知(信号)とペーシング(信号)の差を決定することである。安静時の心拍数(典型的には、65乃至80bpmの範囲)で、ペースメーカー2はプロセッサ5によってP同期ペーシングに設定される。次いで、患者1の血圧がフィナプレス3を通してモニターされる間に、ペースメーカー2のAV遅延はプロセッサ5によって調節される。
【0048】
例えば、一の特に好ましい実施態様において、プロセッサ5は、ペースメーカー2を所定数の心拍(例えば、10心拍)に亘る試験期間の間、AV遅延の参照設定に設定し、その間に患者の血圧が測定される。試験期間の後、AV遅延の設定は第一試験の設定に変化され、また患者1の血圧は第二試験期間の間に測定される。次いで、ペースメーカーは、第三試験期間の間に参照設定に戻され、その間に患者の血圧が決定される。続いて、ペースメーカーのAV遅延は、別の試験期間の間に第二試験設定に調節され、その間に患者1の血圧が測定される。参照設定と試験設定の範囲との間を交互するペースメーカー2のAV遅延の設定により、このプロセスは繰り返される。例えば、参照設定は120msのAV遅延を表し、また、試験設定は40msずつ段階的に40乃至240msの範囲を表し得る。この方法を使用することによって、各試験設定は、参照設定の直前直後での血圧と比較でき、これにより、達成される血圧の変化、又は、換言すると、“相対的な有益性”を明らかにする。これは、血圧における何らかの徐々の傾向(変化)の影響を除外する。血圧に最大の相対的な増大をもたらすAV遅延は、このように、最適なAV遅延である。最適なAV遅延を測定することに関するさらなる議論は、参照によって本明細書に組み込まれる特許文献1に開示されている。
【0049】
P同期ペーシングの間に患者のための最適なAV遅延が一旦決定されると、プロセッサはペースメーカー2を心房ペーシングに切り替え、患者のためのAV遅延を最適化するプロセスを繰り返す。この最適化プロセスは、安静時の心拍数でも実行される。しかしながら、実際には、心房ペーシングを受けている患者の安静時の心拍数は、P同期ペーシングを受けている患者1の本来の自然な安静時の心拍数よりもわずかに高いはずである(例えば、5乃至10bpm)。これは、心房ペーシングが、もしそうでなければ、心臓が本来生じるペーシングと干渉し、それゆえペーシングの活性化よりもむしろ活動の阻害になり得るからである。
【0050】
患者のための最適なAV遅延が心房ペーシングの間に一旦決定されると、検知(信号)とペーシング(信号)の差は、P同期ペーシングの間に決定された最適なAV遅延と、心房ペーシングの間に決定された最適なAV遅延との差を決定することによって計算される。より詳細には、P同期ペーシングの間に決定された最適なAV遅延は、心房ペーシングの間に決定された最適なAV遅延から差し引かれる。
【0051】
次のステップは、運動中の患者の最適なAV遅延を決定することである。プロセッサ5は、患者が運動することをシミュレートするために上昇した心拍数(例えば、100乃至110bpm)まで患者1の心拍数を高めるようにペースメーカー2(心房ペーシング(atrially pacing)を継続する)を調節する。次いで、プロセッサ5は、上述した同様の手法において、上昇した心拍数で患者1の最適なAV遅延を決定する。
【0052】
ペースメーカーのための予測される最適なAV遅延は、上昇した心拍数で心房ペーシングの間に決定された最適なAV遅延から心房ペーシングの間に安静時心拍数で決定された最適なAV遅延を引き(minus)、安静時心拍数でP同期ペーシングの間に決定された最適なAV遅延を加える(plus)計算によって、計算される。この手法において、シミュレートされた運動の間に決定された最適なAV遅延は、患者1の検知(信号)とペーシング(信号)の差を考慮するために修正される。
【0053】
最終的に、プロセッサ5は、運動中のP同期ペーシングのために予測されている、最適なAV遅延にペースメーカー2を調節する。
【0054】
上述した実施態様において、プロセッサ5は患者1の外部にある。しかしながら、代わりの実施態様において、プロセッサ5は、植え込まれたペースメーカー2内に組み込まれる。これらの実施態様において、AV遅延の最適化の処理中に、患者1の血圧はフィナプレス3を用いてモニターされ、フィナプレス3によって生成された信号は、トランスミッタ6を介して、患者1内のプロセッサ5に通信(伝達)される。
【実施例】
【0055】
実施例1
これは仮説的な実施例であり、なぜペーシングのAV最適値(the paced AV optimum)が検知(センシング)のAV最適値(the sensed AV optimum)よりも長いかを例示するものである。(心臓の)左側のAV遅延は、心拍出量及び全身血行動態に支配的な影響を及ぼす。
【0056】
図3aは、最適な検知(センシング)のAV遅延(optimal sensed AV delay)の仮説的な実施例の血圧対時間のグラフを示す。(心臓の)左側のAV遅延は、全身血行動態の影響に最も重要であると思われる。この実施例において、最適な全身血行動態をもたらす(心臓の)左側のAV遅延は、110msである。これが心房センシングによって為される場合、心房センシング遅延(ここでは30ms)及び心房内遅延(ここでは70ms)を考慮にいれることが必要である。この仮説的患者は、したがって、110+70−30=150msの検知(センシング)のAV遅延(sensed AV delay)を必要とする。
【0057】
図3bは、プログラムされた(信号の)ペーシングのAV遅延(paced AV delay programmed)による、検知(センシング)のAV遅延(sensed AV delay)(この場合は150ms)と同じ値に対応する、グラフを示す。これは、同一の(心臓の)左側のAV遅延を生じない。心房ペーシング・レイテンシー及び長い心房内遅延は、検知(センシング)及びペーシングAV遅延が異なった(心臓の)左側のAV遅延(複数)に結果としてなることを意味する。同一のAV遅延がペーシングのAV遅延のためにプログラムされると、次いで、この結果は、最適でない(心臓の)左側のAV遅延(この実施例では40ms)となる。この違いは、心房ペーシング・レイテンシー(ここでは20ms)の結果として生じ、右と左の心房間を移動する心房信号のためにとられるより長い時間は、より長い心房内遅延(ここでは90ms)として現れる。ここで、(心臓の)左側のAV遅延は、150−20−90=40msである。
【0058】
図3cは、最適な検知(センシング)のAV遅延(図3aに示されるように)に関して、同一の(心臓の)左側のAV遅延をプログラムするため、より長いペーシングのAV遅延がプログラムされた(この場合220ms)、対応するグラフを示す。すなわち、最適な(心臓の)左側のAV遅延を得るため、ペーシングのAV遅延は、心房ペーシング・レイテンシー及びより長い心房内遅延を考慮するために、より長い値(遅延時間)にプログラムされる。この仮説的患者は、110+90+20=220msのプログラムされたペーシングのAV遅延(programmed paced AV delay)を必要とする。
【0059】
実施例2
患者ないし被検者
臨床的適応(NYHA III又はIV心不全、QRS>120ms、最大限の内科治療)のために両室ペースメーカー又は両室除細動器を植え込まれた20人の外来患者が研究に登録された。同調律(sinus rhythm)でない者、ペーシング依存の者、又は、トレッドミル(treadmill)上を歩行できなかった患者は除外された。
【0060】
測定
データ取得
非侵襲性の指動脈圧測定は、フィノメータ(Finometer)(Finapres Medical Systems, Amsterdam, Holland)を用いて行われた。ペナズ(Penaz)(参考文献6)及びウェセリング(Wesseling)(参考文献7)により開発された、この技術は、指の周りに配置されるカフ、ビルトイン・フォトエレクトリック・プレチスモグラフ(built-in photoelectric plethysmograph)、及び、動脈圧に動的に従うボリュームクランプ回路(volume-clamp circuit)を使用する。この技術は、血圧の瞬間的な変化を測定するために十分に確証される。(参考文献8、9、10、11、12)
【0061】
ECG信号も記録された。これらの信号は、改造開発のソフトウェアを用いて、アナログ・デジタル変換カード(National Instruments, Austin, TX)(参考文献13)を介して獲得され、マットラボプラットフォーム(Matlab platform)(MathWorks, Natick, MA)に基づく更なる改造ソフトウェアによりオフラインで分析された。
【0062】
異なるAV遅延に亘る血圧の相対変化の測定
心拍から心拍へ亘る(beat-to-beat)血圧は、患者ないし被検者の両室ペースメーカーのAV遅延の調節の間に記録された。上述したように、血圧トレース(trace)におけるバックグラウンドノイズの影響は、収縮期血圧(SBPrel)における相対変化を計算することによって減じられた。これは、参照AV遅延に対する各トランジションないし移行(transition)を比較し、各SBPrelに少なくとも6つの反復測定を得る複数のオルターネーション(alternations)を実行することによってなされた。これら(の比較や実行)は、各試験された遅延ごと、平均SBPrelを獲得するために組合された。SBPrelは、AV遅延の範囲(40、80、120、140、160、200、240msであった)において上述の手法で測定されて、この手順(sequence)は固有(内因性)の伝導が生じたときに停止した。心室間遅延は0msのままであったか、又は、ペースメーカーの許容値と同じくらい近似であった。
【0063】
AV遅延最適化の手順
患者がソファに座って安静にしている間に、最初に最適化が実行された。この安静状態において、AV遅延の血行動態の最適化は3つの異なる条件で実行されて、それら3つの条件は、安静時心拍数でのP同期ペーシング、患者の安静レートより5bpm高いレートでの心房ペーシング、及び100bpmの心拍数での心房ペーシングであった。次いで、患者はトレッドミル上で運動を行い、運動負荷が患者の心拍数を100と110bpm間で維持するように調整され、P同期AV遅延(P-synchronous AV delay)が調節された。
【0064】
各試験手順(test sequence)において、AV遅延は上述の手順で変更されて、内因性の伝導が生じた場合に停止された。
【0065】
安静時のペーシングにより運動中における最適なAV遅延を予測するための方法
個々の患者で、AV遅延最適化中に同定される最適なAV遅延は、最適化が安静時又は運動中のいずれかで実行されるかに依存して異なる。安静時での運動の最適なAV遅延(exercise optimal AV delay)を同定するために、心拍数が心房ペーシングによって運動レベルまで増大されて、心房刺激(ペーシング)のAV遅延(atrial paced AV delay)とP同期AV遅延との間の差、いわゆる、“検知(信号)とペーシング(信号)の差”のための調節がなされた。
【0066】
“検知(信号)とペーシング(信号)の差”は、患者の安静時の心拍数より5bpm高いレートでの心房ペーシングの間に決定された最適なAV遅延と、安静時の心拍数におけるP同期ペーシング中に決定された最適なAV遅延との間の差を決定することによって計算された。
【0067】
次いで、“検知(信号)とペーシング(信号)の差”は、100bpmの心拍数での心房ペーシングの間に決定された、最適なAV遅延から減じられた。これは、運動中に決定される最適なAV遅延の予測を我々に与えた。
【0068】
要約すると、最適の運動のAV遅延(optimum exercise AV delay)は、下記式を用いて決定された。
【0069】
運動の最適なAVD=optAVDap100bpm−(optAVDaprr−optAVDpsynchrr
optAVDap100bpm:100bpmのレートでの心房ペーシングの間に決定される最適なAV遅延。
【0070】
optAVDaprr:患者の固有の内因性のレートより5bpm高いレートでの心房ペーシングの間に決定される最適なAV遅延。
【0071】
optAVDpsynchrr:固有のレートでのP同期ペーシング中に決定される最適なAV遅延。
【0072】
図4は、安静時及び上昇した心拍数におけるP同期及び心房ペーシングを受ける患者の血圧に対するAV遅延のグラフの個々の患者における実施例を示す。運動の最適なAV遅延を予測するためのペーシングモデルを用いて、計算は下記に示す。
【0073】
予測されるOpt.exAVD=200−(169−97)=128ms
認識されるように、128msの最適な運動AV遅延の予測は、122msの測定された最適なAV遅延と好ましく相関する。
【0074】
統計
SBPrel値は、少なくとも6人の個人のトランジションないし変化から観察された血圧変化の平均をとることによって参照AV遅延(120ms)及びVV遅延(0ms)に連関するAV及びVV遅延の各試験された組合せにおいて決定された。対応づけた比較(paired comparisons)は、スチューデントの対応づけたt検定(Student' s paired t test)を用いてなされた。比率の比較は、フィッシャーの正確確立検定(Fisher's exact test)を用いてなされた。P値<0.05は、統計的に有意ないし重要であるように得られた。統計パッケージStatview5.0(SAS Institute Inc.,Cary,NC)が分析のために用いられた。
【0075】
結果
患者の特徴
移植後平均12ヶ月の両室ペースメーカー又は両室ICDのペースメーカーを備える20名の患者が研究に登録された。11名が男性、9名が女性で、年齢の幅は46−79歳であった(平均68.5歳)。心不全の原因は11名が虚血で、9名が特発性拡張型であった。血圧計による平均の収縮期血圧は、116.4±18.3mmHgであった。研究時の患者の平均駆出率(ejection fraction)は、30±4.9%であった。研究時の1名の患者はNYHAクラスIで、13名の患者はNYHAクラスIIで、6名の患者はNYHAクラスIIIであった。患者は、地域の倫理委員会の承認を得た、この研究のための告知に基づく同意をした。
【0076】
血行動態応答の放物線形状
高い心拍数及び低い心拍数において、心房ペーシング又はP同期ペーシングによるAV遅延を変化させる影響は、線形というよりはむしろ曲線形で、放物線に近似する。したがって、試験系(series)ごとに、ピークのAV遅延を同定する放物線補間(parabolic interpolation)を使用することが可能であった(図5)。100−110bpm間の心拍数による運動中、100bpmでの心房ペーシング中、安静時でのP同期ペーシング中、安静時より5bpm高いレートでの心房ペーシング中のAV遅延の最適化における血行動態応答曲線(haemodynamic response curves)が示される。
【0077】
P同期ペーシングによる安静時の心拍数において、AV遅延の変化に対する応答曲線は、0.77の放物線へのあてはめ(ないしプロット、fitting)に対し平均(mean)Rを有し、放物線から離れた平均残差(誤差分散)は、単に、0.8mmHgだけであった。安静時の心拍数よりも5bpm高いレートでの心房ペーシングに対し、Rは0.9であり、残差は1.7mmHgであった。P同期ペーシングによる運動中、Rは0.8であり、残差は1.9mmHgであった。一方、100bpmでの心房ペーシングの間、Rは0.9であり、残差は4mmHgであった。
【0078】
血行動態ピークの同定
血圧の連続する非侵襲性測定を用いて、心房ペーシング及びP同期ペーシングにより、安静時とより高い心拍数のいずれでも、すべての患者の明らかな血行動態の最適なAV遅延を同定することが可能であった。すべての患者はトレッドミル上を歩行し、心拍数を100と110bpm間まで上昇することが可能であったが、一部の患者では、検査された異なったAV遅延の間で患者を安静にさせるために、運動の最適化を段階的に実行することが必要であった。
【0079】
最適であるように同定されたAV遅延は、個々の患者に対して特異的であった。P同期ペーシングと比較して、心房ペーシングの間に決定されたとき、最適にプログラムされたAV遅延は、平均してより長かった。これは、低い心拍数と、高い心拍数のいずれの場合でもそうであった。100bpmでの心房ペーシング中の平均最適なAV遅延は183ms(範囲240−140ms)であった;100bpmの心拍数での運動中のP同期ペーシングでは、平均125ms(範囲200−80ms)であった;安静時のレートよりも5bpm高いレートでの心房ペーシングでは平均182ms(範囲240−140ms)であった;そして安静時心拍数でのP同期ペーシングでは平均127ms(範囲200−80ms)(表1)であった。
【0080】
二次補間された最適なAVD(ms)
【0081】
【表1】

表1.4つの異なるペーシング状況の夫々において個々の各患者に最適であるように同定されたAV遅延
個々の各患者のために二次補間(quadratic interpolation)を用いて最適であるように同定されたAV遅延が、100−110bpmの心拍数による運動中の最適化、100bpmでの心房ペーシング間の最適化、安静時心拍数でのP同期ペーシング中の最適化、及び安静心拍数よりも5bpm高いレートでの心房ペーシング間の最適化において示される。予測された最適な運動のAV遅延(運動の最適なAVD=optAVDap100bpm−(optAVDaprr−optAVDpsynchrr))が示され、実際の運動と予測された運動との間の差が、安静時と運動時でのP同期の最適化における差と同様に、示される。平均及び標準偏差が示される。
【0082】
ペーシングモデルと運動の比較
安静時におけるペーシングモデルとP同期ペーシングとにおいて同定された最適なAV遅延における平均値が運動中に同定された最適なAV遅延とは著しく(有意に)異ならず、個々の患者内では、ペーシングモデルは近接した相関を示す。
【0083】
安静時のペーシングモデルは、運動中に同定された最適なAV遅延と十分相関し、R=0.88、差の標準偏差は12.2msである。それに対して、P同期ペーシングによる安静時に同定された最適なAV遅延は運動により芳しくない(poorer)相関を示し、R=0.57、差の標準偏差は12msである。
【0084】
運動中に同定された最適なAV遅延と、安静時のペーシングモデルを用いる予測された運動の最適値との比較が図6に示される。運動中に最適化を実行することによって決定された実際の最適なAV遅延と、安静時のペーシングモデルを用いて決定された予測の最適なAV遅延との間には強い相関がある。これは、患者が運動をせずとも、最適な運動のAV遅延の予測が可能であることを意味する。
【0085】
プログラムされたAV遅延を選択する安静時のペーシングモデルとP同期ペーシングを用いる血行動態の結果
プログラムされたAV遅延を選択する安静時のペーシングモデル又はP同期ペーシングのいずれかを用いて、運動中の血行動態の結果を評価するために、SBPrelでの変化が、個々の各患者の運動血行動態の放物曲線における実際の運動の最適値(actual exercise optimum)から計算された。
【0086】
運動中(p=NS)に同定された実際のAV遅延と比較して、運動の最適なAV遅延を選択する安静時ペーシングモデルを用いるとき、SBPrelに平均0.2mmHg(±0.5mmHg)の差があったが、一方、P同期ペーシング(p=0.046)による安静時心拍数で最適化を実行することによってピークAV遅延を選択するとき、SBPrelに1.1mmHg(±2.2mmHg)の減少があった。
【0087】
議論
この研究は、運動中に最適化を実行させるCRT装置のAV遅延の最適化のための方法を実証する。第二に、この研究は、AV遅延における変化に対する血行動態応答が線形よりもむしろ曲線形であり、低い心拍数及び上昇した心拍数のいずれでも放物線に近似して(あてはまって)適応することを示す。第三に、この研究は、P同期ペーシングによる安静時心拍数での最適化が、運動の最適値と十分合理的に相関するAV遅延を選択することを示す。第四に、この研究は、運動との相関性が、安静時での運動のためのペーシングモデルを用いることによって実質的に改善できることを示す。最後に、このペーシングモデルを使用することによって、患者は、安静時心拍数でのP同期ペーシングによる標準的な最適化よりも著しい血行動態の改善を得る。
【0088】
運動中にAV遅延を選択するときの安静時でのペーシングモデル又はP同期最適化を用いる血行動態の結果
急性的な血圧変化の0.9mmHgの差は、心機能における実質的な差を表す。
【0089】
両室ペーシングの開始は、以前の侵襲性研究における急性大動脈収縮期パルス血圧(acute aortic systolic pulse pressure)で2mmHgの平均の増大(a mean increase)になる。これは、装置での治療群(device arm)に登録された患者の症状及び生存率の改善と共に、血圧の増大を示した、心臓再同期療法によるランドマーク的な治験(landmark trial)と一致する。例えば、コンパニオン(COMPANION)治験において、再同期治療群(resynchronisation arm)の患者は、初期に、収縮期血圧でほぼ2mmHg(非公表の信頼区間(confidence interval))を得て(対照治療群(control arm)と比較)、罹患率(ないし病的状態)と死亡率を複合したエンドポイント(endpoint)で18%の相対的減少(95%信頼区間1%増大‐42%減少)を有し続けた。(参考文献14)同様に、Care-HF治験では、3ヶ月で、装置での治療群に起因される血圧の増加は、5.8(95CI(信頼区間):3.5対8.2)mmHgであり、死亡率の減少は37パーセント(95%CI(信頼区間):23対49)であった。(参考文献15)
【0090】
横断的観察(cross-sectional observational)データは、慢性心不全による外来患者において、収縮期血圧が1mmHg低下するごとに、死亡率で4%(95%信頼区間、3%対5%)の相対的な増加を暗示する。(参考文献16)
【0091】
これは、もし患者のAV遅延の最適化が、患者が運動するとき(ほとんどの患者に症状が現れるとき)における最も可能なAV遅延を提供するように適合されるのであれば、患者の心再同期装置から患者が重要で付加的な利益を得ることを示す。
【0092】
結論
血圧の平均相対変化を計算する急性的な非侵襲性血行動態を用いて、患者が運動をする間に心再同期装置のAV遅延を最適化することが可能である。P同期ペーシング中の安静時心拍数での最適化は、運動中に同定される最適値と相関する。しかしながら、安静時ペーシングモデルを用いて、この相関性は、実質的に改善でき、この改善は個々の患者にとって重要な急性的な血行動態の利益を有する。
【0093】
参考文献(REFERENCES)



【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の一実施態様と一致する、ペースメーカープログラミング機器の概略図である。
【図2】AV遅延がプログラムされたP波同期であるか、又は心房がペーシングされているかどうかに依存して、(心臓の)左側のAV遅延に利用可能な時間の変化を示すグラフである。
【図3】仮説的実施例で、a)最適なセンシング(optimal sensing)AV遅延;b)150msに設定されたペーシングの(padec)AV遅延;及びc)最適なペーシングの(optimal paced)AV遅延における時間に対する血圧を示す一セットの模式的グラフを示す。
【図4】運動時の最適なAV遅延(exercise optimal AV delay)を予測するためのペーシングモデルで使用される方法の個々の患者の実施例を提供する4つのグラフを示す。
【図5】個々の患者で得られた血行動態応答曲線の実施例を提供する4つのグラフを示す。
【図6】運動中に同定された最適なAV遅延と、安静時のペーシングモデルを用いる予測された運動時の最適値(the predicted exercise optimum)との比較を示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
1 患者
2 両室ペースメーカー
3 フィナプレス
4 人差し指
5 プロセッサ
6 トランスミッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人のペースメーカーの(心臓からのP同期ペーシングの電気信号の)検知信号と(心臓をペーシングする該ペースメーカーからの心房ペーシングの電気信号の)ペーシング信号の差(sensed-paced difference)(以下、「検知信号とペーシング信号の差」という)を決定する手段;
該ペースメーカーが上昇した心拍数で心房ペーシング(atrially pacing)する間に、最適なAV遅延を決定するための第一試験手段;及び
該第一試験手段によって決定される該最適なAV遅延から該検知信号とペーシング信号の差を引く(minus)計算をするための計算手段、
を含む、個人のペースメーカーをプログラミングするためのペースメーカープログラミング機器。
【請求項2】
前記ペースメーカーの検知信号とペーシング信号の差を決定するための手段は、
該ペースメーカーが特定の心拍数でP同期ペーシング(P-synchronous pacing)する間に、最適なAV遅延を決定するための第二試験手段;
該ペースメーカーが特定の心拍数又は特定の心拍数に近似の心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第三試験手段;
該第三試験手段によって測定される最適なAV遅延から前記第二試験手段によって測定される最適のAV遅れを差し引くことによって該検知信号とペーシング信号の差を計算するための計算手段を含む請求項1に記載のペースメーカープログラミング機器。
【請求項3】
前記個人のペースメーカーと通信する手段をさらに含む請求項1又は2に記載のペースメーカープログラミング機器。
【請求項4】
個人のペースメーカーの検知信号とペーシング信号の差を決定するための分析モジュール;
ペースメーカーが上昇した心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第一試験モジュール;及び
該第一試験モジュールによって決定される該最適なAV遅延から該検知信号とペーシング信号の差を引く計算をするための計算モジュール
を含むペースメーカープログラミング機器のためのコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記分析モジュールは、
ペースメーカーが特定の心拍数でP同期ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第二試験モジュール;及び
該ペースメーカーが特定の心拍数又は特定の心拍数に近似の心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するための第三試験モジュール;
を含み、ここで、前記計算モジュールは、該第三試験モジュールによって決定される最適なAV遅延から該第二試験モジュールによって決定される最適なAV遅れを差し引くことによって前記検知信号とペーシング信号の差を計算することを特徴とする請求項4に記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
ペースメーカーを取り付けている個人の検知信号とペーシング信号の差を決定するための方法であって、該方法は以下のステップを含む:
i)該ペースメーカーが特定の心拍数でP同期ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するステップ;
ii)該ペースメーカーが該特定の心拍数又は特定の心拍数に近似の心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するステップ;
iii)該ステップi)で決定された最適なAV遅延と該ステップii)で決定された最適なAV遅延との差を決定するステップ。
【請求項7】
個人のペースメーカーのための好ましいAV遅延を決定する方法であって、該方法は以下のステップを含む:
i)該個人のペースメーカーの検知信号とペーシング信号の差を決定するステップ;
ii)該ペースメーカーが上昇した心拍数で心房ペーシングする間に、最適なAV遅延を決定するステップ;
iii)該ステップi)で決定される検知信号とペーシング信号の差により、該ステップii)で決定される最適なAV遅延を調節するステップ。
【請求項8】
前記上昇した心拍数は、90と200bpmとの間であり、好ましくは、95と110bpmとの間であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のペースメーカープログラミング機器、請求項4若しくは5に記載のコンピュータプログラム、又は請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップi)は請求項6の方法を含んで、及び、前記ステップiii)は、上昇した心拍数で決定した最適なAV遅延から特定の心拍数又は特定の心拍数に近似の心拍数での心房ペーシング間に決定された最適なAV遅延を減じ(minus)、該特定の心拍数でのP同期ペーシング間に決定された最適なAV遅延を加える(plus)計算を含むことを特徴とする請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の方法を実行することを含み、さらに、
iv)ステップiii)で決定されたAV遅延でペースメーカーをプログラミングするステップ
を含む個人のペースメーカーをプログラミングする方法。
【請求項11】
前記ペースメーカーの最適なAV遅延は、個人の最高血圧を提供する、AV遅延であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のペースメーカープログラミング機器、請求項4、5若しくは8のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム、又は請求項6乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記最適なAV遅延を決定することは、個人の血圧を測定する間にAV遅延を変化させ、個人の最高血圧になるAV遅延を決定することを含むことを特徴とする請求項1乃至3、8若しくは11のいずれか一項に記載のペースメーカープログラミング機器、請求項4、5、8若しくは11のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム、又は請求項6乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記最適なAV遅延は、個人の血圧において最大限の相対的増加(maximum relative increase)を提供する、試験AV遅延を決定するために、参照(reference)AV遅延と該試験AV遅延の範囲との間のペースメーカーのAV遅延を変更することによって決定されることを特徴とする請求項12に記載のペースメーカープログラミング機器、コンピュータプログラム、又は方法。
【請求項14】
前記特定の心拍数は安静時心拍数(rest heart rate)であることを特徴とする請求項1乃至3、8若しくは11乃至13のいずれか一項に記載のペースメーカープログラミング機器、請求項4、5、8、11乃至13のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム、又は請求項4乃至13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記安静時心拍数は、60と100bpmとの間であり、より好ましくは、65と80bpmとの間であることを特徴とする請求項14に記載のペースメーカープログラミング機器、コンピュータプログラム、又は方法。
【請求項16】
前記特定の心拍数に近い心拍数は、該特定の心拍数の10、15又は20bpm以内であり、好ましくは、該特定の心拍数の5bpm以内であることを特徴とする請求項1乃至3、8若しくは11乃至15のいずれか一項に記載のペースメーカープログラミング機器、請求項4、5、8若しくは11乃至15のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム、又は請求項4乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ステップiii)は、ステップii)で決定された最適なAV遅延からステップi)で決定された最適なAV遅延を差し引くことを含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項18】
請求項4、5、8若しくは11乃至16のいずれか一項に記載のコンピュータプログラムでプログラムされるプロセッサをさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3、8若しくは11乃至16のいずれか一項に記載のペースメーカープログラミング機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−534077(P2009−534077A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505960(P2009−505960)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001446
【国際公開番号】WO2007/125280
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(599008621)インペリアル イノベーションズ リミテッド (25)
【Fターム(参考)】