説明

ホイールバランスウエイト

【課題】周縁部形状が異なるホイールへも装着可能な、鉄製のウエイトからなるホイールバランスウエイトを提供する。
【解決手段】本発明のホイールバランスウエイトは、鉄製のウエイト(1)と、このウエイトに連結される連結部(21)と、連結部から延在し連結部をホイール側に対面させた状態でホイールの周縁部(R)を内周側から外周側にかけて抱囲して周縁部に係止され得る係止部(22)とを有する鋼製のクリップ(2)とからなり、クリップの係止部は、周縁部の内周面(Ri)に弾性的に当接し得る内向きに突出した係止突部(222)を有することを特徴とする。本発明のホイールバランスウエイトでは、クリップの形状がホイールの周縁部に最適化されてなくても、係止突部がホイールの周縁部に弾性的に当接するため、周縁部の形状が異なる複数種のホイールへも安定して装着可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や二輪車などのホイールに装着されるホイールバランスウエイトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車などの車輪は、高速回転時の振動原因となるアンバランスを解消するために、ホイールの周縁部にホイールバランスウエイト(適宜「バランスウエイト」という。)が装着される。
【0003】
従来のバランスウエイトは、比重が比較的大きくてホイールの湾曲面などになじみ易い鉛または鉛合金製のウエイトに、クリップを鋳込んだものであった。しかし、環境負荷の大きい鉛の使用は好ましくない。そこで最近では、下記の特許文献1にあるように、鉄製(鉄合金製を含む)のウエイトに、鋼製のクリップをかしめ等により固定したホイールバランスウエイトが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3847974号公報
【特許文献2】特開平8−61433号公報
【特許文献3】特開平11−294540号公報
【特許文献4】特開2004−92685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鉄製のウエイトは、鉛製のウエイトのように軟らかくない。このため、バランスウエイトをホイールの周縁部へ打ち込んで装着する際、鉄製のウエイトは殆ど変形せず、周縁部の形状に馴染み難い。つまり、鉄製のウエイトからなるバランスウエイトの場合、鉛製のウエイトからなるバランスウエイトとは異なり、ウエイトとクリップが協調してホイールへ固定されることがない。
【0006】
そこで、従来の鉄製のウエイトからなるバランスウエイトでは、クリップの形状をホイールの周縁部毎にマッチングさせて、バランスウエイトがホイールへ安定的に固定されるようにしていた。その結果、多種多様な形状のクリップを用意しなければならず、バランスウエイトの製造コストや製品管理コスト等が増大していた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、周縁部形状が異なる複数種のホイールに対応でき、製造コストや部品管理コスト等を低減できる鉄製のウエイトからなるバランスウエイトを提供することを目的とする。
【0008】
なお上記の特許文献2には、周縁部に係止されるクリップの先端側(周縁部の外周面側)にカギ状係止部を設けたバランスウエイトが開示されている。しかし、このバランスウエイトは鉛製のウエイトにクリップを鋳込んだものであり、本発明のバランスウエイトとは前提が異なる。
【0009】
また特許文献3には、金属板の一部を切り起こした弾性係止部を有するバランスウエイトが開示されている。しかし、このバランスウエイトは、基本的にウエイトとクリップが一体化したバランスウエイトであって、やはり本発明のバランスウエイトとは前提が異なる。
【0010】
さらに特許文献4には、クリップの一部を切り起こした切起片を設けたバランスウエイトが開示されている。しかし、このバランスウエイトの切起片は、ウエイトを固定するものに過ぎず、その突出方向はウエイト側であって、クリップが係止されるホイールの周縁部側ではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し試行錯誤を重ねた結果、鉄製のウエイトに連結されたクリップに、ホイールの周縁部の内周面側へ向かう内向きの弾性突起を設けることにより、周縁部の形状が異なるホイールへも装着可能なバランスウエイトを思いついた。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《ホイールバランスウエイト》
【0012】
(1)本発明のホイールバランスウエイト(以下「バランスウエイト」という。)は、鉄製のウエイトと、該ウエイトに連結される連結部と、該連結部から延在し該連結部をホイール側に対面させた状態で該ホイールの周縁部を内周側から外周側にかけて抱囲して該周縁部に係止され得る係止部とを有する鋼製のクリップと、からなるホイールバランスウエイトであって、前記クリップの係止部は、前記周縁部の内周面に弾性的に当接し得る内向きに突出した係止突部を有し、該周縁部の形状が異なる複数種のホイールに対応可能であることを特徴とする。
【0013】
(2)本発明のバランスウエイトは、ホイールの周縁部の内周面に弾性的に当接し得る係止突部をクリップに有する。この係止突部により、クリップの湾曲形状がホイールの周縁部形状に一対一で対応していなくても、クリップは周縁部をしっかりと弾性的に挟持するようになり、ウエイトがホイールに安定して保持される。
【0014】
つまり、クリップがホイールの周縁部毎に最適設計されたものでなくても、バランスウエイトを周縁部に安定的に固定でき、バランスウエイトの汎用性が増し、バランスウエイト一種あたりで対応可能なホイールの種類が増える。この結果、バランスウエイトの種類を削減でき、一種あたりのバランスウエイトの製造数が増えるので、管理コストや製造コストの大幅な削減を図れる。
【0015】
(3)ここで、上述した係止突部は、周縁部の外周面に当接する位置(クリップの係止部の先端付近)に設けることも考えられる。しかし、次のような理由により、本発明では係止突部を上述した位置に設けている。
【0016】
バランスウエイトをホイールに装着すると、クリップの先端部分は、周縁部の外周面とタイヤのビードとに挟持され得る。このような部分に係止突部があると、その弾性力は、周縁部の外周面とタイヤのビードとの挟持力により低減さらにはキャンセルされる。その結果、係止突部は、ホイールの周縁部に対してクリップを保持する機能を十分に発揮しなくなる。つまり、クリップの先端付近に係止突部もうけても、前述したようなバランスウエイトの汎用性があまり向上しない。また、このような位置に設けた係止突部は、走行中にタイヤのビードやサイドウォールから変動荷重を受けて金属疲労し易く、耐久性が低下し得る。そこで本発明に係る係止突部は、上述した位置に設けた。
【0017】
(4)また本発明に係るクリップの係止部は、連結部から延在し、その連結部をホイール側に対面させた状態でホイールの周縁部を内周側から外周側にかけて抱囲するようにして周縁部に係止される。このように係止部がホイールの周縁部に長い区間で係止される結果、上述したような係止突部による弾性的挟持でもバランスウエイトはホイールに安定的に固定される。なお、本発明のバランスウエイトは、ウエイトが鉄製でクリップが鋼製であるため、いずれも環境負荷が小さく廃棄等も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例であるホイールバランスウエイトを示す斜視図である。
【図2】そのホイールバランスウエイトの中央断面図である。
【図3】そのホイールバランスウエイトをホイールの周縁部へ装着した様子を示す断面図である。
【図4】他の実施例であるホイールバランスウエイトを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ウエイト
2 クリップ
21 連結部
22 係止部
222 切起片(係止突部)
W ホイールバランスウエイト
R 周縁部
T タイヤ
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。上述した本発明の構成に本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明に係るバランスウエイトのみならずその製造方法にも適用され、製造方法に関する構成は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物(バランスウエイト)に関する構成ともなり得る。なお、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0021】
《ホイールバランスウエイト》
(1)ウエイト
本発明にかかるウエイトは、純鉄製または鉄合金製である。具体的な種類は問わないが、例えば、JIS規格にあるSC鋼材(SWRM、SWRCH等)、SS鋼材(SS400等)である。
【0022】
ウエイトの製造方法は問わない。例えば、引抜きや転造等された鉄線材(鉄棒材を含む。)を所望重量(長さ)で切断した鉄片を、所望形状に成形して得られる。なお、この成形時に、クリップをかしめ固定するための連結突起等が併せて形成されると好ましい。
【0023】
(2)クリップ
クリップは、例えば、合金鋼板(JIS規格にあるSK7材、SK6材、SK5材、S60CM材、S65CM材など)などを所望形状に切断、打抜き等した後、プレス成形することで得られる。その後、適宜、調質(焼入れ・焼戻し)などの熱処理が施される。こうして、係止突部を介して周縁部を長期的に安定して弾性挟持できる、十分な高強度、高靱性を有するクリップが得られる。
【0024】
本発明に係るクリップの係止突部は、その形態を問わない。例えば、係止突部は、鋼板(片)を山形または波形に曲折して形成した突起でも良い。もっとも係止突部は、クリップの連結部側から内向き(周縁部の内周面に当接する向き)に切り起こされた切起片であると好ましい。切起片であれば、その切り起こし角度や長さを変更するだけで、係止部と周縁部の間に形成される間隔(挟持間隔)を自由に調整でき、バランスウエイトの汎用性を高め易い。なお、このような切起片は、所望する大きさの切起片に対応した切り込みを鋼片に入れて、それを折り曲げることで容易に形成される。
【0025】
クリップの連結部は、ウエイトとの連結に適した形状であれば足る。クリップとウエイトの連結は、かしめることで容易に行えるが、溶接等によってもよい。
【0026】
クリップの連結部または連結部周囲のウエイトに、ホイールの周縁部やフランジ部の側面に当接する当接部があると、ホイールに装着したバランスウエイトをより安定的に保持できる。特に、クリップの連結部にウエイトよりも突出した当接部があると、クリップがホイールの周縁部を抱囲する区間が長くなり、バランスウエイトがホイールにより安定的に保持される。なお、この当接部は、バランスウエイトを周縁部に打ち込んでホイールへ装着する際に、ホイールへ加わる衝撃を緩和する緩衝部ともなる。
【0027】
(3)バランスウエイト
バランスウエイトは、防錆や美観向上のために、塗装(工程)や各種の表面処理(工程)がなされると好ましい。塗装には、例えば、アクリル系樹脂を用いたアクリル塗装がある。さらにその一種としてアルミ銀粉塗装などのメタリック塗装などがある。また表面処理には、亜鉛クロメート処理、ジオメット(登録商標)処理またはマグニ処理などがある。
【実施例】
【0028】
実施例を挙げて本発明に係るホイールバランスウエイトをより具体的に説明する。
《ホイールバランスウエイト》
(1)一実施例であるホイールバランスウエイトW(以下「バランスウエイトW」という。)の斜視図と中央断面図を図1および図2にそれぞれ示した。また、バランスウエイトWを、タイヤTのビードBを保持するホイールHの周縁部Rに装着したときの断面図を図3に示した。このバランスウエイトWにより、タイヤTをホイールHに組み込んだアッセンブリーの回転アンバランスが解消される。以下、バランスウエイトWを構成するウエイト1およびクリップ2について詳しく説明する。
【0029】
(2)ウエイト1は、中央部に凹んだ嵌装溝11(被連結部)と、その嵌装溝11の中央底面から突出した連結突起131と、その両側から突出した連結突起132、133(これらをまとめて「連結突起13」という。)を有する鉄片からなる。
【0030】
このウエイト1は、例えば、鋼線材(JIS:S10C)を所定長さで順次切断して所望の重量とした鉄片を、冷間鍛造して得られる。
【0031】
(3)クリップ2は、連結部21と、連結部21に連なる係止部22とからなる。連結部21は、略中央にある谷部211と、その両側に連なる山部212、213(当接部)とを有する波状をしている。谷部211の略中央には、ウエイト1の連結突起131へ嵌挿される連結孔214が形成されている。
【0032】
次に係止部22は、連結部21の山部213から延在してホイールHの周縁部Rの形状に沿って湾曲した略半長円状の本体部221と、本体部221の根元(山部213)のあたりから内向きに切り起こされた方形状の切起片(係止突部)222と、本体部221の中央付近に設けられバランスウエイトWをホイールHから取り外す際に利用される取外孔223とからなる。なお、係止部22の先端部224は、厚みが徐々に薄くなる先細形状となっている。これによりクリップ2の係止部22は、周縁部RとタイヤTの間に滑らかに収まり、バランスウエイトWのホイールHへの装着が容易となる。
【0033】
ところで、クリップ2は、一定厚さの鋼板(JIS:SK7)を打ち抜いた鋼片を、所望形状に折り曲げた後、調質熱処理を施すことにより得られる。上述した切起片222に対応した切り込み、連結孔214や取外孔223の穿孔、先端部224等は鋼板の打ち抜き時に形成される。また、切起片222の切り起しは、連結部21や係止部22の曲折時になされる。なお、調質熱処理は応力歪み除去を兼ねており、クリップ2の強度および靱性の向上と共に耐疲労性の向上も図られる。
【0034】
(4)ウエイト1とクリップ2は次のように連結されてバランスウエイトWとなる。すなわち、ウエイト1の嵌装溝11にクリップ2の谷部211を嵌装し、谷部211の両側にある連結突起132、133の頭部と、連結孔214に嵌挿された連結突起131の頭部とをプレス機でかしめる。こうしてクリップ2がウエイト1に固定されたバランスウエイトWが得られる。この後、アクリル塗装(アルミ銀粉塗装)等を行うことにより、バランスウエイトWの防錆と美観の向上が図られる。
【0035】
《ホイールバランスウエイト》
図3に示すように、バランスウエイトWは、クリップ2の係止部22を周縁部Rの先端部Rcへ被せ、係止部22の背面を木槌等で軽く打ち込むことに、容易に装着される。本実施例のバランスウエイトWの場合、クリップ2の係止部22の湾曲形状は、周縁部Rの湾曲形状に沿うように最適化されたものではない。このため、周縁部Rの外周面Roに係止部22(本体部221)の上内面221oを沿わすと、周縁部Rの内周面Riと係止部22(本体部221)の下内面221iとの間に僅かな隙間を生じ得る。
【0036】
しかし、本実施例のバランスウエイトWでは、弾性片である切起片222の上面222iが、内周面Riに当接し、本体部221の上内面221oと協調して、周縁部Rを両面から強く弾性的に挟持する。この際、クリップ2の山部212および山部213が周縁部Rに連なるフランジ面Rfに当接しているため、バランスウエイトWはホイールHの幅方向にも拘束される。このため、本実施例のバランスウエイトWはホイールHにより安定して保持される。
【0037】
《他の実施例》
他の実施例であるバランスウエイトW2の斜視図を図4に示した。バランスウエイトWと相違する部分について主に説明し、バランスウエイトWと同様な部分の説明は適宜省略する。
【0038】
バランスウエイトW2はウエイト3とクリップ4とからなる。ウエイト3は、中央部に凹んだ嵌装溝31(被連結部)と、その嵌装溝31の両側および中央底面からそれぞれ突出した連結突起321、322、331および332を有する鉄片からなる。
【0039】
クリップ4は、連結部41と、連結部41に連なる係止部42とからなる。連結部41は、平板状であり、その略中央2カ所から、ウエイト3の連結突起331、332にそれぞれ嵌挿される連結孔411、412が形成されている。
【0040】
ウエイト3の嵌装溝31に連結部41を嵌装し、その両側にある連結突起321、322の頭部と、連結孔411、421にそれぞれ嵌挿された連結突起331、332の頭部とをプレス機でかしめることにより、クリップ4がウエイト3に固定されたバランスウエイトW2が得られる。
【0041】
ウエイト3およびクリップ4の製造方法、バランスウエイトW2のホイールHへの装着等は、前述した場合と同様である。もっとも本実施例では、クリップ4の連結部41が平坦なため、ウエイト3の連結突起321、322のかしめ部分が連結部41よりも最前面にきている。従ってバランスウエイトW2をホイールHへ装着すると、そのウエイト3のかしめ部分が、フランジ面Rfに当接することになる。この点が前述したバランスウエイトWの場合と異なる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄製のウエイトと、
該ウエイトに連結される連結部と、該連結部から延在し該連結部をホイール側に対面させた状態で該ホイールの周縁部を内周側から外周側にかけて抱囲して該周縁部に係止され得る係止部とを有する鋼製のクリップと、
からなるホイールバランスウエイトであって、
前記クリップの係止部は、前記周縁部の内周面に弾性的に当接し得る内向きに突出した係止突部を有し、該周縁部の形状が異なる複数種のホイールに対応可能であることを特徴とするホイールバランスウエイト。
【請求項2】
前記係止突部は、前記連結部側から前記周縁部の内周面側に向けて切り起こされた切起片である請求項1に記載のホイールバランスウエイト。
【請求項3】
前記クリップは、前記切起片に対応した切り込みを入れた鋼片を折り曲げ成形してなる請求項2に記載のホイールバランスウエイト。
【請求項4】
前記クリップの連結部は、前記ウエイトよりも突出した当接部を有する請求項1または3に記載のホイールバランスウエイト。
【請求項5】
前記ウエイトと前記クリップは、該クリップの連結部でかしめられて固定されている請求項1〜4のいずれかに記載のホイールバランスウエイト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−177416(P2012−177416A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40220(P2011−40220)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(309022822)東豊工業株式会社 (6)