ホウ素イオンクラスター型コレステロール及びリポソーム
【課題】高濃度でホウ素をデリバリーできるリポソームを構成でき、かつ特許文献1に開示のニド型カルボランよりも低毒性のホウ素クラスター型コレステロール並びに該ホウ素クラスター型コレステロールを含有するリポソームを提供する。
【解決手段】ホウ素イオンクラスター型コレステロールは、化学式(化1)にて表わされることを特徴とする。リポソームは、上記のホウ素イオンクラスター型コレステロールを含むものとする。
【化1】
【解決手段】ホウ素イオンクラスター型コレステロールは、化学式(化1)にて表わされることを特徴とする。リポソームは、上記のホウ素イオンクラスター型コレステロールを含むものとする。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホウ素クラスター型コレステロール並びに該ホウ素クラスター型コレステロールを含有するリポソームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性アイソトープを利用した新しい癌の治療方法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が公知である。ホウ素中性子捕捉療法は、ホウ素10同位体(10B)を含むホウ素化合物をガン細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(たとえば熱中性子)を照射して、細胞内で起こる核反応により局所的にガン細胞を破壊する治療方法である。この治療方法では、10Bを含むホウ素化合物をガン組織の細胞に選択的に蓄積させることが、治療効果を高める上で重要であるため、ガン細胞に選択的に取り込まれるホウ素化合物を開発することが必要となる。
【0003】
10Bを含有する分子のがん組織への有効な送達法としてドラッグデリバリーシステムの利用が注目されている。一般にリポソームを利用したドラッグデリバリーシステム
では、10B含有分子のようながん細胞へ送達したい薬剤をリポソームの内側に閉じ込めデリバリーするため、封入できる薬剤の濃度には限界があり、より高濃度でデリバリーする技術が求められていた。
【0004】
脂質二分子膜は、分子間相互作用により自己集合化しているため密度が高く、10B含有分子のようながん細胞へ送達したい薬剤をリポソームの内側に閉じ込める方法に代えて、この二分子膜へホウ素分子を導入することにより、高濃度でホウ素をがん細胞にデリバリーできることに着目し、リポソームの二分子膜へニド型カルボランをホウ素源として導入したホウ素イオンクラスター型脂質は公知である(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−343858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高濃度でホウ素をデリバリーできるリポソームを構成でき、かつ特許文献1に開示のニドカルボランよりも低毒性のホウ素クラスター型コレステロール並びに該ホウ素クラスター型コレステロールを含有するリポソームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のホウ素イオンクラスター型コレステロールは、化学式(化3)にて表わされることを特徴とする。
【0008】
【化3】
【0009】
(BCLはホウ素イオンクラスター基である。)
【0010】
上記構成のホウ素イオンクラスター型コレステロールは、高濃度でホウ素をデリバリーできるリポソームを構成でき、かつ特許文献1に開示のニドカルボランよりも低毒性である。また、該ホウ素イオンクラスター型コレステロールを使用して形成したリポソームは、熱中性子照射により脂質二重層が不安定となり、腫瘍などの標的部位に例えば抗がん剤などを封入したホウ素コレステロールリポソームをデリバリーし、中性子照射を行うことで、ホウ素の中性子捕捉反応による細胞致死効果とこのリポソームからの抗がん剤のリリース(コントロールリリース)が可能となる。その結果、腫瘍組織周辺の浸潤したがん細胞にも抗がん剤による治療が可能となる。
【0011】
ホウ素イオンクラスター基(BCL)は、ホウ素と水素からなる20面体のホウ素クラスター構造を有し、下記の化学式(化4)又は(化5)にて示される。ホウ素イオンクラスター基(BCL)は、3つのホウ素原子が2つの電子を共有するいわゆる3中心2電子結合構造をとり、電子が局在化した特異な構造をしている。
【0012】
【化4】
【0013】
【化5】
【0014】
上記の前記ホウ素イオンクラスター型コレステロールにおいては、化学式(化3)におけるLinkerが−CO−CH2−又は−CO−NH−CO−CH2−であることが好ましい。
【0015】
本発明の上記(化4)又は(化5)のBCL基に対するカウンターカチオンは特に限定されないが、Na+、K+、Li+、Ca2+、Mg2+、等のアルカリ金属イオンないしアルカリ土類金属イオン、並びに1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のそれぞれのアンモニウムカチオンまたはテトラメチルアンモニウムイオン(TMA+)等の第4級アンモニウムカチオンから選択されるカチオンであることが好ましい。
【0016】
本発明のリポソームは、上記化学式(化3)にて表わされるホウ素イオンクラスター型コレステロールを含むものであることを特徴とする。
【0017】
上記構成のリポソームは、高濃度でホウ素をデリバリーできるものであり、かつ特許文献1に開示のニドカルボランよりも低毒性である。また、該リポソームは、熱中性子照射により脂質二重層が不安定となり、腫瘍などの標的部位に例えば抗がん剤などを封入してデリバリーし、中性子照射を行うことで、ホウ素の中性子捕捉反応による細胞致死効果とこのリポソームからの抗がん剤のリリース(コントロールリリース)が可能となる。その結果、腫瘍組織周辺の浸潤したがん細胞にも抗がん剤による治療が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の上記化学式(化3)のホウ素クラスター型コレステロールにおけるLinkerは、特に限定されるものではないが、上述のように、コレステロールの水酸基をエステル基の一部とする−CO−CH2−又は−CO−NH−CO−CH2−であることが好ましい。BCLは、例えば以下の実施例に示すように、活性型BSHを使用して合成することができ、活性型BSHは公知文献(D. Gabel,他,Inorg. Chem. 1993, 32, 2276-2278)に記載されている。
【0019】
本発明の化合物をリポソームの膜構成成分の一部として用いる場合、通常のリポソーム形成性脂質類に加えることができる。リポソーム形成性脂質類としては、たとえば、リン脂質、グリセロ糖脂質およびスフィンゴ糖脂質の他、これらの脂質に、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基または第4級アンモニウム基が導入されたカチオン性脂質、これらの脂質にポリアルキレングリコールが導入された脂質、さらに各種細胞、組織等に対するリガンドが結合した脂質類があげられる。これらの脂質類は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
リン脂質としては、たとえば、ホスファチジルコリン(大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルエタノールアミン(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等)、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、水素添加リン脂質等の天然または合成のリン脂質等があげられる。
【0021】
グリセロ糖脂質としては、たとえば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等があげられる。
【0022】
スフィンゴ糖脂質としては、たとえばガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等があげられる。
【0023】
カチオン性脂質としては、たとえば、上記リン脂質、グリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質に、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム基、モノアシルオキシアルキル−ジアルキルアンモニウム基、ジアシルオキシアルキル−モノアルキルアンモニウム基等の第4級アンモニウム基が導入された脂質があげられる。
【0024】
さらに、前記膜構成成分がポリアルキレングリコール修飾されていることが好ましい。かかるリポソームを用いることにより、血中滞留性をより確実に向上させることができる。
【0025】
また、ポリアルキレングリコール修飾脂質としては、たとえば、上記リン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が修飾した脂質、たとえばジ−C12−24アシル−グリセロール−ホスファチジルエタノールアミン−N−PEG等があげられる。
【0026】
さらに、必要に応じて、膜安定化剤として、たとえば、コレステロール類、抗酸化剤としてトコフェロール類、ステアリルアミン、ジセチルホスフェート、ガレグリオシドを用いてもよい。
【0027】
リポソームの製造には、公知のリポソームの調製方法を適用することができる。リポソームの調整方法としては、たとえば、バンガム(Bangham)らのリポソーム調製法[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),13,238(1965)]、エタノール注入法[ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J.Cell.Biol.),66,621(1975)]、フレンチプレス法[フェブス・レター(FEBS Lett.),99,210(1979)]、凍結融解法[アーカイブス・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Arch.Biochem.Biophys.),212,186(1981)]、逆相蒸発法[プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユー・エス・エー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),75,4194(1978)]等があげられる。
【0028】
また、標的細胞、標的組織、標的病巣に対するリガンドとしては、トランスフェリン、葉酸、ヒアルロン酸、ガラクトース、マンノースなどの癌細胞に対するリガンド等があげられる。また、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体もリガンドとして使用できる。
【0029】
本発明のリポソームは、安定で、整体安全性に優れ、かつリポソーム膜上高濃度にボランを含有しているので、癌中性子捕捉療法剤として使用できる。また、本発明のリポソームの内部には、抗癌剤や遺伝子類等の薬物を含有させることもできる。これらの薬物を含有するリポソームは、化学療法剤としても、また癌中性子捕捉療法剤としても適宜使用できる。
【実施例1】
【0030】
(ホウ素イオンクラスター型コレステロールの合成例)
ホウ素イオンクラスター型コレステロールの合成を反応式(化6)〜(化8)に示す。 Linkerとしては、炭素鎖1つを有するエステル結合を用いた。コレステロールの水酸基部位をブロモアセチルブロミドと処理しブロモエステル(2)を得た。このブロモエステル(2)に対し公知の方法に従い合成した活性型BSH(3)と反応させ、置換体(4)とした後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドと処理し、目的のホウ素イオンクラスター型コレステロール(5)をテトラメチルアンモニウム(TMA)塩として得た。ホウ素10エンリッチ体も同様にして合成することができる。具体的な合成例は以下のとおりである。
【0031】
<化合物(2)の合成>
コレステロール(CHL−OH)386mg(1mmol)を塩化メチレン5mLに溶解し、ピリジン96μL(1.1mmol)を加えた後、0℃でブロモアセチルブロミド89μL(1.1mmol)を滴下した。得られた反応溶液を0℃にて30分間撹拌した後、室温で更に30分撹拌した。反応溶液に塩酸(0.5N)を加え、中和した後、ジエチルエーテルで抽出し、その有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗い、続いて飽和食塩水で洗った。溶媒を減圧下溜去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフ(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、化合物(2)を白色個体で定量的に得た(反応式(化6))。
化合物(2)の1HNMR(CDCl3;400MHz)測定結果
δ 5.45(bd,J=4.0Hz,1H), 4.65 (m, 1H), 3.77 (s, 2H), 2.31 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 1.98 (t, J = 3.2 Hz, 1H), 1.96 (t, J = 3.6 Hz, 1H), 1.92 (t, J = 3.2 Hz, 1H), 1.86-1.72 (m, 3H), 1.65-0.92 (m, 21H), 0.99 (s, 3H), 0.88 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.84 (d, J = 2.0 Hz, 3H), 0.82 (d, J = 2.0 Hz, 3H), 0.64 (s, 3H)。
【0032】
【化6】
【0033】
<化合物(4)の合成>
化合物(3)200mg(0.51mmol)を乾燥アセトニトリル10mLに懸濁させ、化合物(2)275mg(0.55mmol)を溶解したテトラヒドロフラン溶液10mLを室温で加えた。その混合溶液を60℃にて14時間撹拌後、減圧下に溶媒を溜去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフ(酢酸エチル:アセトン=5:1)で精製し、化合物(4)を白色固体で得た(収量79mg,収率99%)(反応式(化7))。
化合物(4)のマススペクトル分析結果
MS (ESI, negative) [M-TMA]+ m/z = 650, 651, 652, 653, 654 (max), 655, 656, 657, 658, 659, 670。
【0034】
【化7】
【0035】
<化合物(5)の合成>
化合物(4)379mg(0.51mmol)を乾燥アセトン5mLに溶かし、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのメタノール溶液(25%w/w)186mgを室温で加えた。得られた白色沈殿をろ別し、得られた白色固体をアセトンでよく洗い、減圧下で乾燥した(収量236mg(0.32mmol),収率62%)(反応式(化8))。
化合物(5)の1HNMR(CD3CN;400MHz)測定結果
δ 5.37 (bd, J=4.8 Hz,1H), 4.42 (m, 1H), 3.11 (s, 2H), 3.07 (s, 12H), 2.57 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 2.02-1.76 (m, 5H), 1.86-0.92 (m, 21H), 1.02 (s, 3H), 0.91 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.86 (d, J = 2.0 Hz, 3H), 0.84 (d, J = 2.0 Hz, 3H), 0.69 (s, 3H)
化合物(5)のマススペクトル分析結果
MS (ESI, negative) [(M-2TMA)/2] m/z = 298, 298.5, 299, 299.5, 300 (max), 300.5, 301, 301.5, 302, 302.5.
化合物(5)のホウ素10エンリッチ体:
MS (ESI, negative) [(M-2TMA)/2] m/z = 295。
【0036】
【化8】
【0037】
<化合物(5’)の合成>
化合物(5)100mgをアセトニトリルと水の混合溶媒(1:1)5mLに溶かし、イオン交換樹脂(DOWEX 50W Na+、50-100 mesh )を加えて撹拌した。イオン交換樹脂をろ別し、良く洗った後、ろ液を減圧下で溶媒留去し、化合物(5’)を白色固体で得た(収量86mg、収率>99%)(反応式(化9))。
化合物(5’)のマススペクトル分析結果
MS (ESI, negative) [(M-2Na)/2]- m/z = 298, 298.5, 299, 299.5, 300 (max), 300.5, 301, 301.5, 302, 302.5.
化合物(5’)のホウ素10エンリッチ体:
MS (ESI, negative) [(M-2Na)/2]- m/z = 295。
【0038】
【化9】
【実施例2】
【0039】
<化合物(6)の合成>
コレステロール(CHL−OH)1.16g (3mmol) を塩化メチレン(CH2Cl2)10mLに溶解し、トリエチルアミン(TEA) (3.6mmol,0.50ml)を室温で加えた後、クロロアセチルイソシアナート (7) (4.5mmol,0.38ml)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、40℃のオイルバスを用いて4時間加熱還流させ、室温に冷やした後、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。その後シリカゲルクロマトグラフィー(CH2Cl2:MeOH=100:1)を用いて精製し、化合物(6)(1.77mmol,895mg,収率59%)を得た(反応式(化10))。
化合物(6)の1HNMR(CDCl3;400MHz)測定結果
δ 7.80 (bs, 1H), 5.40 (bm, 1H), 4.61 (m, 1H), 4.49 (s, 2H), 2.38 (m, 2H), 2.08-1.76 (m, 5H), 1.68-0.92 (m, 21H), 1.02 (s, 3H), 0.91 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.87 (s, 3H), 0.86 (s, 3H), 0.68 (s, 3H)。
【0040】
【化10】
【0041】
<化合物(8)の合成>
化合物(6)150mg (0.40mmol)をArガス雰囲気下において乾燥アセトニトリル (10ml)に溶解させ、そこに化合物(3)(0.45mmol,228mg)を乾燥テトラヒドロフラン (10ml)に溶解させた溶液をゆっくりと除々に加えた。その後、80℃のオイルバスを用いて6時間加熱還流させ、室温に冷やした後、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。その後シリカゲルクロマトグラフィー(AcOEt:acetone=5:1)を用いて精製し、化合物(8)(0.30mmol,235mg,収率76%)を得た(反応式(化11))。
化合物(8)の1HNMR(CD3CN;400MHz)測定結果
δ 8.82 (bs, 1H), 5.41 (bm, 1H), 4.52 (m, 3H), 4.24 (d, J = 18.0 Hz, 1H), 3.30 (m, 4H), 2.97 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.36 (m, 4H), 1.68-0.92 (m, 21H), 1.03 (s, 3H), 0.91 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.86 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 0.85 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 0.69 (s, 3H)
MS (ESI, negative) [M−TMA]- m/z = 694, 695, 696, 697, 698 (max), 699, 700, 701。
【0042】
【化11】
【0043】
<化合物(9)の合成>
化合物(8)(0.13mmol,100mg)をアセトン(2ml)に溶解させ、撹拌しているところに水酸化テトラメチルアンモニウム25wt% メタノール溶液(0.13mmol,55μl)を加え、約1分間撹拌させ、生じた白色沈殿をろ過し、アセトンで洗い、真空のデジケーター中で乾燥させ化合物(9)(0.08mmol,64mg,収率62%)を得た(反応式(化12))。
化合物(6)の1HNMR(CD3CN;400MHz)測定結果
δ 9.88 (bs, 1H), 5.41 (bm, 1H), 4.48 (m, 1H), 3.12 (bs, 3H), 3.07 (s, 24H), 2.37 (d, J = 6.4 Hz, 2H), 2.01-1.80 (m, 4H), 1.68-0.92 (m, 21H), 1.03 (s, 3H), 0.92 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.87 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 0.85 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 0.69 (s, 3H)
MS (ESI, negative) [(M−2TMA)/2]- m/z = 320, 320.5, 321, 321.5, 322 (max),322.5, 323, 323.5, 324。
【0044】
【化12】
【0045】
<化合物(9’)の合成>
化合物(9)100mgをアセトニトリルと水の混合溶媒(1:1)5mLに溶かし、イオン交換樹脂(DOWEX 50W Na+、50-100 mesh )を加えて撹拌した。イオン交換樹脂をろ別し、良く洗った後、ろ液を減圧下で溶媒留去し、化合物(9’)を白色固体で得た(収量85mg、収率98%)(反応式(化13))。
化合物(9’)のマススペクトル分析結果
MS (ESI, negative) [(M-2Na)/2]- m/z = 320, 320.5, 321, 321.5, 322 (max),322.5, 323, 323.5, 324
化合物(9’)のホウ素10エンリッチ体:
MS (ESI, negative) [(M-2Na)/2]- m/z = 316.5。
【0046】
【化13】
【実施例3】
【0047】
(ホウ素クラスターリポソームの合成)
DSPC(distearoylphosphatidylchorine; COATSOME MC-8080)、コレステロール、合成したホウ素イオンクラスター型コレステロール(5)(BC)を1:(1−X):X(X=0.25,0.5,0.75,1.0)の比率で調整し、これら脂質を、クロロホルムとジイソプロピルエーテルの1:1溶液2mLに溶かした。カルセインを加え、得られたエマルジョンを1分間超音波に通した後、減圧下に有機溶媒を溜去した。得られた脂質ゲルを、エクストルーダーを用いて100nmのポリカーボネート膜を通してサイズを整え、超遠心(42,500rpm)にて20分精製し、PBSバッファーに加え、懸濁液とした。エクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を図1〜4に示した。サイジング前の粒形分布は破線で示し、サイジング後の粒形分布は実線で示した。サイジング後の粒径分布のピークは、122nm(BC=25%;図1)、114nm(BC=50%;図2)、122nm(BC=75%;図3)、120nm(BC=100%;図4)であった。
【0048】
粒径分布図から、サイジング前においては粒径200〜500nmにてリポソームが形成されており、サイジング後には,粒子径が約100nmに形が整っていることが分かる。
【0049】
<ホウ素クラスターリポソームの安定性試験>
上記(ホウ素クラスターリポソームの合成)において合成したカルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を調べた。血液中での安定性を調べるためのモデル実験として、血清中における封入されたカルセインの蛍光強度の変化を観測した。血清中に上記カルセイン封入ホウ素クラスターリポソーム溶液を体積比で血清/ベシクル溶液=9/1になるように加え、37℃でマグネチックスターラーを用いて撹拌し、0〜24時間の各時間における蛍光強度を測定した。結果は図5〜9に示した。図5はコントロールであり、上記〔実施例2〕のX=0のリポソームを使用したものである。また、各時間におけるベシクル溶液の蛍光強度を測定後、Triton X-100でベシクルを破壊し、ベシクルからリリースされたカルセインの蛍光強度を同時に測定し、図5〜9に併せて示した(+Triton 1%として表示)。
【0050】
これらの結果からホウ素イオンクラスター型コレステロール(5)がコレルステロールに対して50%含まれるリポソームは血清中で安定であることが分かった。また、各組成比のリポソームにおけるカルセインの封入量に関して比較すると、図10に示すようにホウ素イオンクラスター型コレステロール(5)が25%(X=0.25),50%(X=0.5)含まれるもので高い封入率が得られることが分かった。図10において黒菱形はリポソームを血清中に加えた際の蛍光強度であり、黒正方形はTriton 1%で処理した際の蛍光強度である。黒正方形の数値が黒菱形の数値より大きいほど多くのカルセインがリポソームに封入されていることを示しており、X=0.25,0.5においてその差が大きい。
【0051】
(PEG修飾型ホウ素クラスターリポソームの合成)
マクロファージからの貪食から逃れ高い血中滞留性を維持することは、EPR効果を挙げる上で、リポソームを用いたドラッグデリバリーには重要である。この目的のためPEG修飾リポソームが注目されている。そこで、PEG修飾型リポソームを合成しその細胞成長阻害について調べた。DMPC(dimyristoylphosphatidylchorine), コレステロール、合成したホウ素イオンクラスター型コレステロール(5),DSPE−PEG−OMe
(distearoylphosphatidylethanolamine-polyethyleneglycol-OMe; DSPE-020C)、を1:(1−X):X(X=0,0.25,0.5)の比率で調整し、エクストルーダーでサイジング後、得られたホウ素クラスターリポソームをPBSバッファーに懸濁した。得られたリポソーム溶液をICP−AESでそのホウ素濃度を測定したところ、それぞれ280ppm(X=0.25;理論値500ppm),520ppm(X=0.5;理論値960ppm)であった。このリポソーム溶液が最高10%になるように細胞培地を調整した後、順次希釈し96ウェルディッシュにcolon 26細胞に72時間接触させ、細胞増殖阻害を検討した。その結果を図11,12に示す。ホウ素クラスターリポソーム(X=0.25)は、ホウ素濃度20ppmの濃度以下では、全く細胞毒性を示さなかった(n=4)また、ホウ素クラスターリポソーム(X=0.5)は、ホウ素濃度52ppmにおいてコントロールリポソーム(X=0)の細胞増殖に対する細胞増殖は、80%と良好であった(BC25%;n=1)。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのエクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を示したグラフ(X=0.25)
【図2】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのエクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を示したグラフ(X=0.5)
【図3】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのエクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を示したグラフ(X=0.75)
【図4】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのエクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を示したグラフ(X=1.0)
【図5】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=0)
【図6】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=0.25)
【図7】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=0.5)
【図8】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=0.75)
【図9】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=1.0)
【図10】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのカルセインの封入率を示したグラフ
【図11】colon 26細胞に72時間接触させ、細胞増殖阻害を測定した結果を示すグラフ(X=0.25)
【図12】colon 26細胞に72時間接触させ、細胞増殖阻害を測定した結果を示すグラフ(X=0.5)
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホウ素クラスター型コレステロール並びに該ホウ素クラスター型コレステロールを含有するリポソームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放射性アイソトープを利用した新しい癌の治療方法として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が公知である。ホウ素中性子捕捉療法は、ホウ素10同位体(10B)を含むホウ素化合物をガン細胞に取り込ませ、低エネルギーの中性子線(たとえば熱中性子)を照射して、細胞内で起こる核反応により局所的にガン細胞を破壊する治療方法である。この治療方法では、10Bを含むホウ素化合物をガン組織の細胞に選択的に蓄積させることが、治療効果を高める上で重要であるため、ガン細胞に選択的に取り込まれるホウ素化合物を開発することが必要となる。
【0003】
10Bを含有する分子のがん組織への有効な送達法としてドラッグデリバリーシステムの利用が注目されている。一般にリポソームを利用したドラッグデリバリーシステム
では、10B含有分子のようながん細胞へ送達したい薬剤をリポソームの内側に閉じ込めデリバリーするため、封入できる薬剤の濃度には限界があり、より高濃度でデリバリーする技術が求められていた。
【0004】
脂質二分子膜は、分子間相互作用により自己集合化しているため密度が高く、10B含有分子のようながん細胞へ送達したい薬剤をリポソームの内側に閉じ込める方法に代えて、この二分子膜へホウ素分子を導入することにより、高濃度でホウ素をがん細胞にデリバリーできることに着目し、リポソームの二分子膜へニド型カルボランをホウ素源として導入したホウ素イオンクラスター型脂質は公知である(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−343858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高濃度でホウ素をデリバリーできるリポソームを構成でき、かつ特許文献1に開示のニドカルボランよりも低毒性のホウ素クラスター型コレステロール並びに該ホウ素クラスター型コレステロールを含有するリポソームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のホウ素イオンクラスター型コレステロールは、化学式(化3)にて表わされることを特徴とする。
【0008】
【化3】
【0009】
(BCLはホウ素イオンクラスター基である。)
【0010】
上記構成のホウ素イオンクラスター型コレステロールは、高濃度でホウ素をデリバリーできるリポソームを構成でき、かつ特許文献1に開示のニドカルボランよりも低毒性である。また、該ホウ素イオンクラスター型コレステロールを使用して形成したリポソームは、熱中性子照射により脂質二重層が不安定となり、腫瘍などの標的部位に例えば抗がん剤などを封入したホウ素コレステロールリポソームをデリバリーし、中性子照射を行うことで、ホウ素の中性子捕捉反応による細胞致死効果とこのリポソームからの抗がん剤のリリース(コントロールリリース)が可能となる。その結果、腫瘍組織周辺の浸潤したがん細胞にも抗がん剤による治療が可能となる。
【0011】
ホウ素イオンクラスター基(BCL)は、ホウ素と水素からなる20面体のホウ素クラスター構造を有し、下記の化学式(化4)又は(化5)にて示される。ホウ素イオンクラスター基(BCL)は、3つのホウ素原子が2つの電子を共有するいわゆる3中心2電子結合構造をとり、電子が局在化した特異な構造をしている。
【0012】
【化4】
【0013】
【化5】
【0014】
上記の前記ホウ素イオンクラスター型コレステロールにおいては、化学式(化3)におけるLinkerが−CO−CH2−又は−CO−NH−CO−CH2−であることが好ましい。
【0015】
本発明の上記(化4)又は(化5)のBCL基に対するカウンターカチオンは特に限定されないが、Na+、K+、Li+、Ca2+、Mg2+、等のアルカリ金属イオンないしアルカリ土類金属イオン、並びに1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のそれぞれのアンモニウムカチオンまたはテトラメチルアンモニウムイオン(TMA+)等の第4級アンモニウムカチオンから選択されるカチオンであることが好ましい。
【0016】
本発明のリポソームは、上記化学式(化3)にて表わされるホウ素イオンクラスター型コレステロールを含むものであることを特徴とする。
【0017】
上記構成のリポソームは、高濃度でホウ素をデリバリーできるものであり、かつ特許文献1に開示のニドカルボランよりも低毒性である。また、該リポソームは、熱中性子照射により脂質二重層が不安定となり、腫瘍などの標的部位に例えば抗がん剤などを封入してデリバリーし、中性子照射を行うことで、ホウ素の中性子捕捉反応による細胞致死効果とこのリポソームからの抗がん剤のリリース(コントロールリリース)が可能となる。その結果、腫瘍組織周辺の浸潤したがん細胞にも抗がん剤による治療が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の上記化学式(化3)のホウ素クラスター型コレステロールにおけるLinkerは、特に限定されるものではないが、上述のように、コレステロールの水酸基をエステル基の一部とする−CO−CH2−又は−CO−NH−CO−CH2−であることが好ましい。BCLは、例えば以下の実施例に示すように、活性型BSHを使用して合成することができ、活性型BSHは公知文献(D. Gabel,他,Inorg. Chem. 1993, 32, 2276-2278)に記載されている。
【0019】
本発明の化合物をリポソームの膜構成成分の一部として用いる場合、通常のリポソーム形成性脂質類に加えることができる。リポソーム形成性脂質類としては、たとえば、リン脂質、グリセロ糖脂質およびスフィンゴ糖脂質の他、これらの脂質に、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基または第4級アンモニウム基が導入されたカチオン性脂質、これらの脂質にポリアルキレングリコールが導入された脂質、さらに各種細胞、組織等に対するリガンドが結合した脂質類があげられる。これらの脂質類は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0020】
リン脂質としては、たとえば、ホスファチジルコリン(大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルエタノールアミン(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等)、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン、水素添加リン脂質等の天然または合成のリン脂質等があげられる。
【0021】
グリセロ糖脂質としては、たとえば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等があげられる。
【0022】
スフィンゴ糖脂質としては、たとえばガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等があげられる。
【0023】
カチオン性脂質としては、たとえば、上記リン脂質、グリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質に、アミノ基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム基、モノアシルオキシアルキル−ジアルキルアンモニウム基、ジアシルオキシアルキル−モノアルキルアンモニウム基等の第4級アンモニウム基が導入された脂質があげられる。
【0024】
さらに、前記膜構成成分がポリアルキレングリコール修飾されていることが好ましい。かかるリポソームを用いることにより、血中滞留性をより確実に向上させることができる。
【0025】
また、ポリアルキレングリコール修飾脂質としては、たとえば、上記リン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が修飾した脂質、たとえばジ−C12−24アシル−グリセロール−ホスファチジルエタノールアミン−N−PEG等があげられる。
【0026】
さらに、必要に応じて、膜安定化剤として、たとえば、コレステロール類、抗酸化剤としてトコフェロール類、ステアリルアミン、ジセチルホスフェート、ガレグリオシドを用いてもよい。
【0027】
リポソームの製造には、公知のリポソームの調製方法を適用することができる。リポソームの調整方法としては、たとえば、バンガム(Bangham)らのリポソーム調製法[ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.),13,238(1965)]、エタノール注入法[ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J.Cell.Biol.),66,621(1975)]、フレンチプレス法[フェブス・レター(FEBS Lett.),99,210(1979)]、凍結融解法[アーカイブス・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス(Arch.Biochem.Biophys.),212,186(1981)]、逆相蒸発法[プロシーディング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・ユー・エス・エー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),75,4194(1978)]等があげられる。
【0028】
また、標的細胞、標的組織、標的病巣に対するリガンドとしては、トランスフェリン、葉酸、ヒアルロン酸、ガラクトース、マンノースなどの癌細胞に対するリガンド等があげられる。また、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体もリガンドとして使用できる。
【0029】
本発明のリポソームは、安定で、整体安全性に優れ、かつリポソーム膜上高濃度にボランを含有しているので、癌中性子捕捉療法剤として使用できる。また、本発明のリポソームの内部には、抗癌剤や遺伝子類等の薬物を含有させることもできる。これらの薬物を含有するリポソームは、化学療法剤としても、また癌中性子捕捉療法剤としても適宜使用できる。
【実施例1】
【0030】
(ホウ素イオンクラスター型コレステロールの合成例)
ホウ素イオンクラスター型コレステロールの合成を反応式(化6)〜(化8)に示す。 Linkerとしては、炭素鎖1つを有するエステル結合を用いた。コレステロールの水酸基部位をブロモアセチルブロミドと処理しブロモエステル(2)を得た。このブロモエステル(2)に対し公知の方法に従い合成した活性型BSH(3)と反応させ、置換体(4)とした後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドと処理し、目的のホウ素イオンクラスター型コレステロール(5)をテトラメチルアンモニウム(TMA)塩として得た。ホウ素10エンリッチ体も同様にして合成することができる。具体的な合成例は以下のとおりである。
【0031】
<化合物(2)の合成>
コレステロール(CHL−OH)386mg(1mmol)を塩化メチレン5mLに溶解し、ピリジン96μL(1.1mmol)を加えた後、0℃でブロモアセチルブロミド89μL(1.1mmol)を滴下した。得られた反応溶液を0℃にて30分間撹拌した後、室温で更に30分撹拌した。反応溶液に塩酸(0.5N)を加え、中和した後、ジエチルエーテルで抽出し、その有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗い、続いて飽和食塩水で洗った。溶媒を減圧下溜去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフ(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、化合物(2)を白色個体で定量的に得た(反応式(化6))。
化合物(2)の1HNMR(CDCl3;400MHz)測定結果
δ 5.45(bd,J=4.0Hz,1H), 4.65 (m, 1H), 3.77 (s, 2H), 2.31 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 1.98 (t, J = 3.2 Hz, 1H), 1.96 (t, J = 3.6 Hz, 1H), 1.92 (t, J = 3.2 Hz, 1H), 1.86-1.72 (m, 3H), 1.65-0.92 (m, 21H), 0.99 (s, 3H), 0.88 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.84 (d, J = 2.0 Hz, 3H), 0.82 (d, J = 2.0 Hz, 3H), 0.64 (s, 3H)。
【0032】
【化6】
【0033】
<化合物(4)の合成>
化合物(3)200mg(0.51mmol)を乾燥アセトニトリル10mLに懸濁させ、化合物(2)275mg(0.55mmol)を溶解したテトラヒドロフラン溶液10mLを室温で加えた。その混合溶液を60℃にて14時間撹拌後、減圧下に溶媒を溜去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフ(酢酸エチル:アセトン=5:1)で精製し、化合物(4)を白色固体で得た(収量79mg,収率99%)(反応式(化7))。
化合物(4)のマススペクトル分析結果
MS (ESI, negative) [M-TMA]+ m/z = 650, 651, 652, 653, 654 (max), 655, 656, 657, 658, 659, 670。
【0034】
【化7】
【0035】
<化合物(5)の合成>
化合物(4)379mg(0.51mmol)を乾燥アセトン5mLに溶かし、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのメタノール溶液(25%w/w)186mgを室温で加えた。得られた白色沈殿をろ別し、得られた白色固体をアセトンでよく洗い、減圧下で乾燥した(収量236mg(0.32mmol),収率62%)(反応式(化8))。
化合物(5)の1HNMR(CD3CN;400MHz)測定結果
δ 5.37 (bd, J=4.8 Hz,1H), 4.42 (m, 1H), 3.11 (s, 2H), 3.07 (s, 12H), 2.57 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 2.02-1.76 (m, 5H), 1.86-0.92 (m, 21H), 1.02 (s, 3H), 0.91 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.86 (d, J = 2.0 Hz, 3H), 0.84 (d, J = 2.0 Hz, 3H), 0.69 (s, 3H)
化合物(5)のマススペクトル分析結果
MS (ESI, negative) [(M-2TMA)/2] m/z = 298, 298.5, 299, 299.5, 300 (max), 300.5, 301, 301.5, 302, 302.5.
化合物(5)のホウ素10エンリッチ体:
MS (ESI, negative) [(M-2TMA)/2] m/z = 295。
【0036】
【化8】
【0037】
<化合物(5’)の合成>
化合物(5)100mgをアセトニトリルと水の混合溶媒(1:1)5mLに溶かし、イオン交換樹脂(DOWEX 50W Na+、50-100 mesh )を加えて撹拌した。イオン交換樹脂をろ別し、良く洗った後、ろ液を減圧下で溶媒留去し、化合物(5’)を白色固体で得た(収量86mg、収率>99%)(反応式(化9))。
化合物(5’)のマススペクトル分析結果
MS (ESI, negative) [(M-2Na)/2]- m/z = 298, 298.5, 299, 299.5, 300 (max), 300.5, 301, 301.5, 302, 302.5.
化合物(5’)のホウ素10エンリッチ体:
MS (ESI, negative) [(M-2Na)/2]- m/z = 295。
【0038】
【化9】
【実施例2】
【0039】
<化合物(6)の合成>
コレステロール(CHL−OH)1.16g (3mmol) を塩化メチレン(CH2Cl2)10mLに溶解し、トリエチルアミン(TEA) (3.6mmol,0.50ml)を室温で加えた後、クロロアセチルイソシアナート (7) (4.5mmol,0.38ml)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、40℃のオイルバスを用いて4時間加熱還流させ、室温に冷やした後、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。その後シリカゲルクロマトグラフィー(CH2Cl2:MeOH=100:1)を用いて精製し、化合物(6)(1.77mmol,895mg,収率59%)を得た(反応式(化10))。
化合物(6)の1HNMR(CDCl3;400MHz)測定結果
δ 7.80 (bs, 1H), 5.40 (bm, 1H), 4.61 (m, 1H), 4.49 (s, 2H), 2.38 (m, 2H), 2.08-1.76 (m, 5H), 1.68-0.92 (m, 21H), 1.02 (s, 3H), 0.91 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.87 (s, 3H), 0.86 (s, 3H), 0.68 (s, 3H)。
【0040】
【化10】
【0041】
<化合物(8)の合成>
化合物(6)150mg (0.40mmol)をArガス雰囲気下において乾燥アセトニトリル (10ml)に溶解させ、そこに化合物(3)(0.45mmol,228mg)を乾燥テトラヒドロフラン (10ml)に溶解させた溶液をゆっくりと除々に加えた。その後、80℃のオイルバスを用いて6時間加熱還流させ、室温に冷やした後、溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。その後シリカゲルクロマトグラフィー(AcOEt:acetone=5:1)を用いて精製し、化合物(8)(0.30mmol,235mg,収率76%)を得た(反応式(化11))。
化合物(8)の1HNMR(CD3CN;400MHz)測定結果
δ 8.82 (bs, 1H), 5.41 (bm, 1H), 4.52 (m, 3H), 4.24 (d, J = 18.0 Hz, 1H), 3.30 (m, 4H), 2.97 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.36 (m, 4H), 1.68-0.92 (m, 21H), 1.03 (s, 3H), 0.91 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.86 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 0.85 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 0.69 (s, 3H)
MS (ESI, negative) [M−TMA]- m/z = 694, 695, 696, 697, 698 (max), 699, 700, 701。
【0042】
【化11】
【0043】
<化合物(9)の合成>
化合物(8)(0.13mmol,100mg)をアセトン(2ml)に溶解させ、撹拌しているところに水酸化テトラメチルアンモニウム25wt% メタノール溶液(0.13mmol,55μl)を加え、約1分間撹拌させ、生じた白色沈殿をろ過し、アセトンで洗い、真空のデジケーター中で乾燥させ化合物(9)(0.08mmol,64mg,収率62%)を得た(反応式(化12))。
化合物(6)の1HNMR(CD3CN;400MHz)測定結果
δ 9.88 (bs, 1H), 5.41 (bm, 1H), 4.48 (m, 1H), 3.12 (bs, 3H), 3.07 (s, 24H), 2.37 (d, J = 6.4 Hz, 2H), 2.01-1.80 (m, 4H), 1.68-0.92 (m, 21H), 1.03 (s, 3H), 0.92 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 0.87 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 0.85 (d, J = 1.6 Hz, 3H), 0.69 (s, 3H)
MS (ESI, negative) [(M−2TMA)/2]- m/z = 320, 320.5, 321, 321.5, 322 (max),322.5, 323, 323.5, 324。
【0044】
【化12】
【0045】
<化合物(9’)の合成>
化合物(9)100mgをアセトニトリルと水の混合溶媒(1:1)5mLに溶かし、イオン交換樹脂(DOWEX 50W Na+、50-100 mesh )を加えて撹拌した。イオン交換樹脂をろ別し、良く洗った後、ろ液を減圧下で溶媒留去し、化合物(9’)を白色固体で得た(収量85mg、収率98%)(反応式(化13))。
化合物(9’)のマススペクトル分析結果
MS (ESI, negative) [(M-2Na)/2]- m/z = 320, 320.5, 321, 321.5, 322 (max),322.5, 323, 323.5, 324
化合物(9’)のホウ素10エンリッチ体:
MS (ESI, negative) [(M-2Na)/2]- m/z = 316.5。
【0046】
【化13】
【実施例3】
【0047】
(ホウ素クラスターリポソームの合成)
DSPC(distearoylphosphatidylchorine; COATSOME MC-8080)、コレステロール、合成したホウ素イオンクラスター型コレステロール(5)(BC)を1:(1−X):X(X=0.25,0.5,0.75,1.0)の比率で調整し、これら脂質を、クロロホルムとジイソプロピルエーテルの1:1溶液2mLに溶かした。カルセインを加え、得られたエマルジョンを1分間超音波に通した後、減圧下に有機溶媒を溜去した。得られた脂質ゲルを、エクストルーダーを用いて100nmのポリカーボネート膜を通してサイズを整え、超遠心(42,500rpm)にて20分精製し、PBSバッファーに加え、懸濁液とした。エクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を図1〜4に示した。サイジング前の粒形分布は破線で示し、サイジング後の粒形分布は実線で示した。サイジング後の粒径分布のピークは、122nm(BC=25%;図1)、114nm(BC=50%;図2)、122nm(BC=75%;図3)、120nm(BC=100%;図4)であった。
【0048】
粒径分布図から、サイジング前においては粒径200〜500nmにてリポソームが形成されており、サイジング後には,粒子径が約100nmに形が整っていることが分かる。
【0049】
<ホウ素クラスターリポソームの安定性試験>
上記(ホウ素クラスターリポソームの合成)において合成したカルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を調べた。血液中での安定性を調べるためのモデル実験として、血清中における封入されたカルセインの蛍光強度の変化を観測した。血清中に上記カルセイン封入ホウ素クラスターリポソーム溶液を体積比で血清/ベシクル溶液=9/1になるように加え、37℃でマグネチックスターラーを用いて撹拌し、0〜24時間の各時間における蛍光強度を測定した。結果は図5〜9に示した。図5はコントロールであり、上記〔実施例2〕のX=0のリポソームを使用したものである。また、各時間におけるベシクル溶液の蛍光強度を測定後、Triton X-100でベシクルを破壊し、ベシクルからリリースされたカルセインの蛍光強度を同時に測定し、図5〜9に併せて示した(+Triton 1%として表示)。
【0050】
これらの結果からホウ素イオンクラスター型コレステロール(5)がコレルステロールに対して50%含まれるリポソームは血清中で安定であることが分かった。また、各組成比のリポソームにおけるカルセインの封入量に関して比較すると、図10に示すようにホウ素イオンクラスター型コレステロール(5)が25%(X=0.25),50%(X=0.5)含まれるもので高い封入率が得られることが分かった。図10において黒菱形はリポソームを血清中に加えた際の蛍光強度であり、黒正方形はTriton 1%で処理した際の蛍光強度である。黒正方形の数値が黒菱形の数値より大きいほど多くのカルセインがリポソームに封入されていることを示しており、X=0.25,0.5においてその差が大きい。
【0051】
(PEG修飾型ホウ素クラスターリポソームの合成)
マクロファージからの貪食から逃れ高い血中滞留性を維持することは、EPR効果を挙げる上で、リポソームを用いたドラッグデリバリーには重要である。この目的のためPEG修飾リポソームが注目されている。そこで、PEG修飾型リポソームを合成しその細胞成長阻害について調べた。DMPC(dimyristoylphosphatidylchorine), コレステロール、合成したホウ素イオンクラスター型コレステロール(5),DSPE−PEG−OMe
(distearoylphosphatidylethanolamine-polyethyleneglycol-OMe; DSPE-020C)、を1:(1−X):X(X=0,0.25,0.5)の比率で調整し、エクストルーダーでサイジング後、得られたホウ素クラスターリポソームをPBSバッファーに懸濁した。得られたリポソーム溶液をICP−AESでそのホウ素濃度を測定したところ、それぞれ280ppm(X=0.25;理論値500ppm),520ppm(X=0.5;理論値960ppm)であった。このリポソーム溶液が最高10%になるように細胞培地を調整した後、順次希釈し96ウェルディッシュにcolon 26細胞に72時間接触させ、細胞増殖阻害を検討した。その結果を図11,12に示す。ホウ素クラスターリポソーム(X=0.25)は、ホウ素濃度20ppmの濃度以下では、全く細胞毒性を示さなかった(n=4)また、ホウ素クラスターリポソーム(X=0.5)は、ホウ素濃度52ppmにおいてコントロールリポソーム(X=0)の細胞増殖に対する細胞増殖は、80%と良好であった(BC25%;n=1)。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのエクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を示したグラフ(X=0.25)
【図2】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのエクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を示したグラフ(X=0.5)
【図3】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのエクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を示したグラフ(X=0.75)
【図4】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのエクストルーダーによるサイジング前とサイジング後の粒形分布を示したグラフ(X=1.0)
【図5】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=0)
【図6】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=0.25)
【図7】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=0.5)
【図8】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=0.75)
【図9】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームの安定性を示したグラフ(X=1.0)
【図10】カルセイン封入ホウ素クラスターリポソームのカルセインの封入率を示したグラフ
【図11】colon 26細胞に72時間接触させ、細胞増殖阻害を測定した結果を示すグラフ(X=0.25)
【図12】colon 26細胞に72時間接触させ、細胞増殖阻害を測定した結果を示すグラフ(X=0.5)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(化1)にて表わされるホウ素イオンクラスター型コレステロール。
【化1】
(BCLはホウ素イオンクラスター基である。)
【請求項2】
前記化学式(化1)におけるLinkerが−CO−CH2−又は−CO−NH−CO−CH2−である請求項1に記載のホウ素イオンクラスター型コレステロール。
【請求項3】
化学式(化2)にて表わされるホウ素イオンクラスター型コレステロールを含むリポソーム。
【化2】
(BCLはホウ素イオンクラスター基である。)
【請求項4】
前記化学式(化2)におけるLinkerが−CO−CH2−又は−CO−NH−CO−CH2−である請求項3に記載のリポソーム。
【請求項1】
化学式(化1)にて表わされるホウ素イオンクラスター型コレステロール。
【化1】
(BCLはホウ素イオンクラスター基である。)
【請求項2】
前記化学式(化1)におけるLinkerが−CO−CH2−又は−CO−NH−CO−CH2−である請求項1に記載のホウ素イオンクラスター型コレステロール。
【請求項3】
化学式(化2)にて表わされるホウ素イオンクラスター型コレステロールを含むリポソーム。
【化2】
(BCLはホウ素イオンクラスター基である。)
【請求項4】
前記化学式(化2)におけるLinkerが−CO−CH2−又は−CO−NH−CO−CH2−である請求項3に記載のリポソーム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−74817(P2008−74817A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259290(P2006−259290)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(506318388)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(506318388)
【出願人】(000162847)ステラケミファ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]