説明

ホウ酸塩含有重合性(メタ)アクリレート

【課題】 アミノ基含有(メタ)アクリレートと安価なホウ酸とを反応して、(メタ)アクリレートの二重結合が保持されたままホウ酸塩基を導入することにより新規な重合性のホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートモノマーを提供する。
【解決手段】 (A)アミノ基含有(メタ)アクリレートのアミノ基に(B)無機ホウ酸系化合物が結合してなり、アミノ基1個当たりホウ素原子を1〜8個含有してなり、分子中にホウ酸塩基を有することにより生体適合性の高いポリマー又はゲルの合成に有効なモノマーホウ酸塩基含有重合性(メタ)アクリレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホウ酸塩基含有重合性(メタ)アクリレートに関するものであり、特にホウ酸塩基を有する水溶性又は水膨潤性ポリマーの原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
モノアミン、ジアミンなどのアミン化合物とホウ酸との反応生成物は古くから研究されている(特許文献1および2参照)。これらの文献では、アミン化合物とホウ酸とを反応させて得られる水溶液を、そのままラテックスの凝固剤あるいはα-アルキルアクロレインの製造用触媒として用いている。しかしながら、ホウ酸塩基を含有した重合性(メタ)アクリル系モノマーについては知られていない。
【0003】
【特許文献1】特公昭54-4377号公報
【特許文献2】特開平4-338355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規な重合性のホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートモノマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、アミノ基含有(メタ)アクリレートと安価なホウ酸とを反応して、(メタ)アクリレートの二重結合が保持されたままホウ酸塩基を導入することに成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、(A)アミノ基含有(メタ)アクリレートのアミノ基に(B)無機ホウ酸系化合物が結合してなり、アミノ基1個当たりホウ素原子を1〜8個含有してなるホウ酸塩基含有重合性(メタ)アクリレートを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートは、分子中にホウ酸塩基を有することにより
生体適合性の高いポリマー又はゲルの合成に有効なモノマーとして用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においてアミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、一般式(1)

(式中RはH叉はCH3,Aは−(CH2)―,―(CH2)3―,−CH2CH(CH3)―又は−CH2CH(OH)CH2―,R1及びR2はC2m+1のアルキル基であり、mは1〜4の整数を表す。)で示されるものであって、具体的には、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレートなどが挙げられる。
また、本発明においてアミノ基含有アクリレートの他の具体例としては、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、7-アミノ-3,7-ジメチルオクチルアクリレートなどが挙げられる。
なお、本発明で「(メタ)アクリレート」の表示は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味する。
【0008】
本発明での無機ホウ酸系化合物としては、一般式(2)
B(OR)n(OH)3−n (2)
(式中、nは0〜3までの整数、RはC2m+1のアルキル基であり、mは1〜10の整数を表す。)で表わされるホウ酸およびホウ酸エステルが用いられる。ホウ酸の具体的なものとしては、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸、およびそれらの混合物であり、また、ホウ酸エステルの具体的なものとしては、例えばホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。これらのホウ酸及びホウ酸エステルは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。上記の中ではホウ酸が最も好ましく用いられる。
【0009】
上記一般式で表されるアミノ基含有(メタ)アクリレートとホウ酸系化合物との反応によって得られるホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート((メタ)アクリレートホウ酸塩)の具体例としては、ジメチルアミノエチルメタクリレートホウ酸塩、ジエチルアミノエチルメタクリレートホウ酸塩、ジメチルアミノエチルアクリレートホウ酸塩、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドホウ酸塩などが挙げられる。N-アルキル置換アミノ(メタ)アクリレートの場合、結晶性の(メタ)アクリレートホウ酸塩が得られる。これに対して、N-アルキル置換アクリルアミド、例えばジメチルアミノプロピルアクリルアミドの場合、非結晶性のアクリレートホウ酸塩が得られる。これらの結晶性と非結晶の(メタ)アクリレートホウ酸塩のいずれも、ホウ素含有量の測定値が単核ホウ酸塩のホウ素含有量の計算値より高いことから、得られた(メタ)アクリレートホウ酸塩が多核縮合ホウ酸塩又は多核縮合ホウ酸塩を含有するものであると推定された。
【0010】
本発明におけるホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートの合成は、例えば次のようにして行うことができる。即ち、溶媒にホウ酸を溶解させて攪拌しながら、アミノ基含有(メタ)アクリレートを滴下する。場合によっては、添加順序を逆にしてアミノ基含有(メタ)アクリレート溶液を攪拌しながら、それにホウ酸溶液を滴下する場合も可能である。続いて、室温または加熱下、一定時間保持叉は攪拌して、アミノ基含有(メタ)アクリレートとホウ酸の反応を行う。これによりホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートが析出し、吸引濾過により沈殿物(ホウ酸塩基含有(メタ)アクリレート)を回収する。一方、反応生成物が反応溶媒に溶けている場合があり、その場合はエパポレーターにより溶媒を留去してホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートを回収する。以上のようにして得られた反応生成物をN,N-ジメチルホルムアミド、アセトンなどを用いて数回繰り返し洗浄した後、真空乾燥することにより白色粉末の(メタ)アクリレートホウ酸塩が得られる。
【0011】
本発明におけるホウ酸塩基含有アミノ基含有(メタ)アクリレートの合成溶媒としては、ホウ酸系化合物またはアミノ基含有(メタ)アクリレートの少なくとも一種を溶解するようなものが必要である。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、水などが挙げられ、これらは単独又は二種以上の混合で使用できる。その中では、特にN,N-ジメチルホルムアミドを用いることが好ましい。溶媒の使用量は、ホウ酸系化合物およびアミノ基含有(メタ)アクリレートの合計100質量部に対して溶媒が300〜1500質量部となるように用いることが好ましい。
【0012】
本発明におけるホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートの合成条件として、アミノ基含有(メタ)アクリレートの中のアミノ基とホウ酸系化合物のホウ素とのモル比が重要である。ホウ酸系化合物の比率を増やすと、多核縮合ホウ酸塩が形成しやすく、高い収率でホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートが得られる。一般的にアミノ基含有(メタ)アクリレートの中のアミノ基1モルに対して、ホウ素が0.1〜10モルが好ましく、より好ましくは0.5〜8モル、特に好ましくは1〜6モルである。0.1モル未満又は10モルを超える場合、(メタ)アクリレートホウ酸塩の収率が低くなり、得られる効果が小さくなる。また、反応温度について、用いるアミノ基含有(メタ)アクリレートの種類によっては異なるが、一般的に15℃〜150℃が好ましく、より好ましくは20℃〜120℃であり、特に好ましくは25℃〜100℃である。反応時間は反応温度にもよるが、通常1〜15時間が好ましく用いられる。
【0013】
本発明のホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートは、アミノ基1個当たりホウ素原子を1〜8個含有しており、アミン特有の刺激臭が殆どない固形状粉末であり、水またはメタノールなどの低級アルコールによく溶ける性質を持っており、重合用モノマーとして好適に用いられる。
本発明のホウ酸塩基含有(メタ)アクリレートは、それ単独で重合するか、又は他のビニルモノマーと共重合することができる。
【実施例】
【0014】
本発明を次の実施例によって更に具体的に説明する。尚、例中の%は特に断らない限り重量基準である。
(実施例1) [ジメチルアミノエチルメタクリレート縮合ホウ酸塩の合成]
ホウ酸20g(0.324mol)をDMF 100gに溶かした溶液を攪拌しながら、ジメチルアミノエチルメタクリレート50.9g(0.324mol)を滴下した。白色沈殿が徐々に析出した。室温で15時間攪拌して、吸引濾過により沈殿物を回収した。続いて、得た沈殿物をアセトンで二回洗浄し、50℃、2時間真空乾燥したところ、原料に対して23.9%の収率で反応生成物の白色粉末1a 16.9gを得た。また、濾液をエパポレーターでDMFを留去し、得た白色固体をアセトンで二回洗った。50℃、2時間真空乾燥により、原料に対して9.4%の収率で1aと同一の反応生成物の白色粉末6.7gを得た。分析結果は表1〜3に示す。
【0015】
(実施例2) [ジメチルアミノエチルメタクリレート縮合ホウ酸塩の合成]
ホウ酸20g(0.324mol)をDMF 100gに溶かした溶液を攪拌しながら、ジメチルアミノエチルメタクリレート25.5g(0.162mol)を滴下した。白色沈殿が徐々に析出した。室温で8時間攪拌して、吸引濾過により沈殿物を回収した。続いて、得た沈殿物をアセトンで二回洗浄し、70℃、4時間真空乾燥したところ、原料に対して39.7%の収率で1aと同一の反応生成物の白色粉末16.7gを得た。
【0016】
(実施例3) [ジエチルアミノエチルメタクリレート縮合ホウ酸塩の合成]
ホウ酸20g(0.324mol)をDMF 100gに溶かした溶液を攪拌しながら、ジエチルアミノエチルメタクリレート25.5g(0.162mol)を滴下し、室温で19時間攪拌した。得られた溶液をエパポレーターでDMFを留去した後、70℃、2時間真空乾燥した。続いて、得た白色固体をアセトンで3回洗浄し、70℃、2時間真空乾燥したところ、原料に対して54.7%の収率で反応生成物の白色粉末1b 27.4gを得た。分析結果は表1〜3に示す。
【0017】
(実施例4) [ジメチルアミノエチルアクリレート縮合ホウ酸塩の合成]
ホウ酸20g(0.324mol)をDMF 100gに溶かした溶液を攪拌しながら、ジメチルアミノエチルアクリレート23.2g(0.162mol)を滴下した。白色沈殿が析出した。室温で15時間攪拌して、吸引濾過により沈殿物を回収した。続いて、得た沈殿物をアセトンで二回洗浄し、50℃、4時間真空乾燥したところ、原料に対して49.1%の収率で反応生成物の白色粉末1c 21.2gを得た。また、濾液をエパポレーターでDMFを留去し、得た白色固体をアセトンで二回洗った。50℃、2時間真空乾燥により、原料に対して5%の収率で反応生成物の白色粉末2c 2.1gを得た。分析結果は表1〜3に示す。
【0018】
(実施例5) [ジメチルアミノプロピルアクリルアミド縮合ホウ酸塩の合成]
ホウ酸20g(0.324mol)をDMF 100gに溶かした溶液を攪拌しながら、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド25.3g(0.162mol)を滴下し、室温で15時間攪拌した。少量の白色沈殿を生じた溶液をエパポレーターでDMFを留去した後、アセトンで3回洗浄した。引き続き、70℃、2時間真空乾燥することにより原料に対して58.4%の収率で反応生成物の白色粉末1d 26.5gを得た。分析結果は表1〜3に示す。
【0019】
尚、表中及び本文中の略号は次の化合物を示す。
DMAEM: N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート
DEAEM: N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート
DMAEA: N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート
DMAPAA: N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DMAA: N,N-ジメチルアクリルアミド
VA-086: 2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]
AIBN: アゾビスイソブチロニトリル
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
(応用例1)
DMAEMホウ酸塩2g、ラジカル開始剤VA-086の10%水溶液73mgを脱酸素水20gに加え、溶解させた。次に20分窒素バップリングして、窒素雰囲気下、90℃、7時間で重合を行った。得られたポリマー溶液はエパポレーターで溶媒を留去した後、アセトンで二回洗浄を行い、更に真空乾燥した。得られたポリマーの収率は90%である。また、ホウ素含有率はプラズマ発光分析によって16%であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アミノ基含有(メタ)アクリレートのアミノ基に(B)無機ホウ酸系化合物が結合してなり、アミノ基1個当たりホウ素原子を1〜8個含有してなるホウ酸塩基含有重合性(メタ)アクリレート。
【請求項2】
前記アミノ基含有(メタ)アクリレートが、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、7-アミノ-3,7-ジメチルオクチルアクリレートから選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載のホウ酸塩基含有重合性(メタ)アクリレート。
【請求項3】
前記無機ホウ酸系化合物が、ホウ酸又はホウ酸エステルである請求項1又は2に記載のホウ酸塩基含有重合性(メタ)アクリレート。


【公開番号】特開2006−257048(P2006−257048A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79228(P2005−79228)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】