説明

ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子、及び、それを利用したホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング方法

【課題】本発明は、がんマーカー等として用い得るホスファチジルセリン結合性因子を高効率、かつ、高感度でスクリーニングし得るホスファチジルセリン被覆磁気微粒子や、該ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法や、該ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用した、ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【解決手段】人工磁気微粒子やバイオ磁気微粒子の表面上に、ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含む被膜を形成し、得られた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子や、該ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用した、ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、現在の日本における死亡原因の第一位であり、治療の困難な病気として知られている。がんによる死亡率を下げるためには、その早期発見・早期治療が有効であり、様々な研究が進められている。がんは遺伝子レベルでの異常が起因となることが知られているが、細胞のがん化によって引き起こされる細胞外分泌物質のプロファイル変化または変異遺伝子そのものを、がん細胞の存在を反映するマーカー(がんマーカー)として検出することにより、がんの早期診断が試みられている(非特許文献1)。現在、様々ながんマーカーが診断に用いられているが、擬陽性となることや早期のがんでは陽性となりにくいものもあるなど、がんの早期で正確な診断のためには複数のがんマーカーを組み合わせて使用する必要がある。
【0003】
フォスファチジルセリン(PS)は、ヒトの細胞膜を構成するリン脂質成分の一つである。健常時には、細胞膜の内側に局在しているが、細胞内恒常性が崩れたときやアポトーシスが起こるときには細胞膜の外側に存在するようになる(非特許文献2)。これはBoonらの総説で以下のように述べられている(非特許文献3)。細胞膜には脂質転位酵素が存在している。フリッパーゼと呼ばれる細胞膜脂質転位酵素は、脂質の頭部を認識してPSやフォスファチジルエタノールアミン(PE)を細胞膜の外側から内側に転位させる働きをもつ膜タンパク質である。また、フロッパーゼと呼ばれる脂質転位酵素は、フォスファチジルコリン(PC)やスフィンゴミエリン(SM)、PEを細胞膜の内側から外側へと転位させる酵素である。そして、スクランブラーゼという転位酵素は脂質の頭部に関係なく細胞膜の脂質を内側もしくは外側に無差別に転位させる働きを持つ。フリッパーゼとフロッパーゼはATP依存的に働き、スクランブラーゼは細胞内カルシウムイオン濃度によってその活性を変化させる。そのため、細胞の恒常性が損なわれたときやアポトーシスの際に細胞膜の脂質が転位するということが考えられる。
【0004】
PSはいくつかのタンパク質と相互作用することが知られており、例えば、シグナル伝達などの役割のあるAnnexin V(非特許文献4)やマクロファージによる貪食時に働くMFG−E8(非特許文献5)が知られている。そこで、生体内異常を反映するPS結合性タンパク質を検出できればがん診断といった生体内モニタリングに利用できる可能性があり、実際、PS結合性がんマーカーの有力な候補としてMFG−E8などがあげられる。MFG−E8は、先述のように、マクロファージが分泌し、アポトーシス細胞を貪食するためのオプソニンとして働く分泌タンパク質として同定されていた。しかし、近年、自然発がんマウス(RipTagマウス)を用いて行われた研究から、MFG−E8は、がんの増殖促進や、血管への浸潤促進に関与していることが報告されている(非特許文献6)。これらのことから、MFG−E8は血液中に存在しており、特にがん患者の血液中においては健常者と比較して増加している可能性が示唆される。また、MFG−E8以外にも、がんマーカー等として用い得る可能性のあるPS結合性因子が存在することも考えられる。しかし、例えば、がん細胞と正常細胞との間のタンパク発現の相違を2次元電気泳動等によりプロファイリングする方法を用いる場合、細胞の培養に血清培地を用いると、その血清中のタンパク質がプロファイリングを妨げるため、精度や感度に問題が生じてしまう。一方、その問題を避けるために、無血清培地を用いると、細胞内のタンパク発現が変化し、がんマーカーなどの発現レベルが低下するという問題が生じるとされている。以上のことから、がんマーカー等として用い得る可能性のあるPS結合性因子を高効率、かつ、高感度でスクリーニングする手段が望まれている。
【0005】
ところで、微粒子担体は平面の基盤に比べ、その比表面積が大きく表面反応の効率を高めることができる。そこで、微粒子担体に様々な機能を付加するための研究がなされている。生物学的な分野においては、細胞表面モデル(非特許文献7)として、また、イメージング(非特許文献8)やドラッグデリバリー(非特許文献9)やタンパク質の精製などに向けた研究がなされている。タンパク質の精製への微粒子の使用として、例えば、特許文献1には、強磁性粒子と、強磁性粒子を被覆するタンパク質層とを備えるタンパク質固定化磁性担体であって、タンパク質と強磁性粒子表面、ならびに、互いに隣り合うタンパク質同士が、非共有結合によって結合することによってタンパク質層が形成されたものである、タンパク質固定化磁性担体を用いて、上記タンパク質に特異的に結合し得る物質を含有する試料から当該物質を精製する方法が記載されている。
【0006】
しかし、特に生物学的な分野に微粒子担体を用いる場合、極微少な粒子を安定に保持することは難しいため、分散性や安定性を高める必要がある。双性イオンリン脂質であるフォスファチジルコリンはガラス表面に自己組織的に脂質二重膜を構築し、タンパク質などの非特異的吸着を強く抑えることが知られている(非特許文献10)。このことから、ガラスビーズなどに脂質膜の構築をしているもの(非特許文献11)や、親水性のポリマーコーティングを施した粒子表面への脂質膜の構築(非特許文献12)がなされてきた。また、新しい手法として、オレイン酸−金属複合体の熱分解によってオレイン酸被覆金属酸化物微粒子を生成し(非特許文献13)、オレイン酸とポリエチレングリコール誘導体化フォスフィンオキサイドをリガンド交換することでポリエチレングリコールによって被覆された微粒子を作製するという方法も報告されている(非特許文献14)。
【0007】
また、特許文献2には、湿式法により得られた粒径10〜1000オングストロームの強磁性酸化鉄系フェライト超微粒子の表面に脂肪酸とリン脂質とからなる脂質二重膜が被覆されていることを特徴とする強磁性酸化鉄系フェライト超微粒子含有磁性粒子が記載されている。しかし、特許文献2記載の方法では、リン脂質の中でも安定性の低いホスファチジルセリンを用いた場合に、十分な安定性を確保し得るかどうか不明であった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−256445号公報
【特許文献2】特開平2−59428号公報
【非特許文献1】J. Bio. Chem. (1995) 270(52): 30857-38061
【非特許文献2】Biochem. and Biophys. Res. Com. (2004) 324(3): 1059-1064
【非特許文献3】Med Res Rev. (2002) 22(3): 251-281
【非特許文献4】BioMetals (1998) 11(4): 399-404
【非特許文献5】Trends in cell Biol. (2006) 16(4): 189-197
【非特許文献6】Cancer Res. (2007) 67(14): 6777-6785
【非特許文献7】Nat Biotech. (1996) 14,999-1002
【非特許文献8】Sci. (2002) 298(5599): 1759-1762
【非特許文献9】Environ. Sci. Technol. (1993) 27(5): 057-065
【非特許文献10】Anal. Chem. (2007) 79(8): 3135-3141
【非特許文献11】Biophy. Jour. (2001) 80(5): 2298-2309
【非特許文献12】Trends Biotech. (2000) 18(2): 58-64
【非特許文献13】Nat. mater. (2004) 3 891-895
【非特許文献14】Chem. Commun. (2007) (7): 5167-5169
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、がんマーカー等として用い得るホスファチジルセリン結合性因子を高効率、かつ、高感度でスクリーニングし得るホスファチジルセリン被覆磁気微粒子や、該ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法や、該ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用した、ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の背景技術のような状況下、本発明者らは、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子の作製を試みたが、リン脂質の中でも安定性の低いホスファチジルセリンを、ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニングに用い得る程度の割合で脂質膜に含めた場合、ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニングに用いるのに必要な安定性を十分に確保することは非常に困難であった。しかし、本発明者らは、鋭意検討を繰り返した結果、人工磁気微粒子の表面に、疎水基を有するカップリング剤を含む第1被膜材を付着させて、第1被膜を形成した後、ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含む第2被膜材を第1被膜の表面にさらに付着させて第2被膜を形成することによって、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を簡便かつ安定的に製造し得ることを見い出した。また、磁性細菌からバイオ磁気微粒子を磁気分離し、この分離したバイオ磁気微粒子上のタンパク質及び脂質膜を除去した後、ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含んで成る被膜材を、前記タンパク質及び脂質膜を除去したバイオ磁気微粒子の表面に付着させて、被膜をすることによって、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を簡便かつ安定的に製造し得ることを見い出した。そして、これらのホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用することによって、ホスファチジルセリン結合性因子を高効率、かつ、高感度でスクリーニングし得ること等を確認した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。なお、本明細書における「%」は、特に記載がない限り、「質量%」を意味する。
【0011】
すなわち本発明は、(1)以下の工程を順次備えたことを特徴とする、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法;工程(i):人工磁気微粒子を準備する工程; 工程(ii):疎水基を有するカップリング剤を含む第1被膜材を、工程(i)で準備した人工磁気微粒子の表面に付着させて、第1被膜を形成した人工磁気微粒子を調製する工程; 工程(iii):ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含む第2被膜材を、工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、第2被膜を形成したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を調製する工程;や、(2)カップリング剤が、シランカップリング剤であることを特徴とする上記(1)に記載の方法や、(3)以下の工程を順次備えたことを特徴とする、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法;工程(i):磁性細菌からバイオ磁気微粒子を磁気分離する工程; 工程(ii):工程(i)で分離したバイオ磁気微粒子上のタンパク質及び脂質膜を除去する工程; 工程(iii):ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含んで成る被膜材を、工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、被膜を形成したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を調製する工程;や、(4)ホスファチジルセリンと共に脂質膜を形成し得る脂質が、リン脂質であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法や、(5)リン脂質が、ホスファチジルコリンであることを特徴とする上記(4)に記載の方法に関する。
【0012】
また本発明は、(6)上記(1)〜(5)のいずれかの方法によって得られるホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子や、(7)ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆された磁気微粒子であって、前記脂質膜に含まれる全脂質に対するホスファチジルセリンの割合がモル比で3%以上であることを特徴とするホスファチジルセリン被覆磁気微粒子に関する。
【0013】
さらに本発明は、(8)以下の工程を順次備えたことを特徴とする、ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング方法;工程(i):上記(6)又は(7)に記載のホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と、ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料を接触させる工程; 工程(ii):工程(i)で生体試料と接触させたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を分離した後、それを膜画分と磁気微粒子に分離する工程:工程(iii); 工程(ii)で分離した膜画分と、ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子を用いて分離される膜画分とを、比較して解析する工程; 工程(iv):工程(ii)で分離した膜画分に含まれ、かつ、対照磁気微粒子を用いて分離した膜画分に含まれない分子を単離・同定する工程:や、(9)ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子が、ホスファチジルコリンからなる脂質膜で被覆されたホスファチジルコリン被覆磁気微粒子であることを特徴とする上記(8)に記載のスクリーニング方法や、(10)ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料が、ヒト全血由来であることを特徴とする上記(8)又は(9)に記載のスクリーニング方法や、(11)ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料が、がん細胞の培養上清であることを特徴とする上記(8)又は(9)に記載のスクリーニング方法や、(12)がん細胞の培養上清が、血清を含む、がん細胞の培養上清であることを特徴とする上記(11)に記載のスクリーニング方法や、(13)ホスファチジルセリン結合性分子として、がんマーカーをスクリーニングすることを特徴とする上記(8)〜(12)のいずれかに記載のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子は、比表面積が大きく、かつ、分散性も高いうえ、目的物質(ホスファチジルセリン結合性分子)への特異性や安定性に非常に優れているので、目的物質を微量しか含まない生体試料や、目的物質以外の生体分子を多量に含む生体試料(例えば血清を含む生体試料)からであっても、目的物質を高感度で濃縮・スクリーニングすることができる。また、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子は、外部磁場により迅速かつ簡易に回収することが可能であるため、目的物質の濃縮・スクリーニングを簡便に高効率で行うことができる。すなわち、本発明によると、がんマーカー等として用い得るホスファチジルセリン結合性因子を高効率、かつ、高感度でスクリーニングし得るホスファチジルセリン被覆磁気微粒子や、該ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を簡便かつ安定的に製造する方法や、該ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用することを特徴とする、ホスファチジルセリン結合性分子を高効率かつ高感度でスクリーニングする方法を提供することができる。本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子は、新規がんマーカーを含む可能性があるホスファチジルセリン結合性分子の中から新規がんマーカーをスクリーニングするために特に有効に用いることができると考えられる。このように、本発明は、がん化メカニズムに関する新たな知見の獲得と診断効率の向上・早期治療、さらに、創薬ターゲットの発見にも繋がると考えられるため、学術的・産業的に非常に意義深いといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
1.人工磁気微粒子から本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法
人工磁気微粒子から本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法(以下、「本発明の製造方法(人工磁気微粒子)」ともいう。)としては、以下の工程を順次備えている限り特に制限されない。
工程(i):人工磁気微粒子を準備する工程:
工程(ii):疎水基を有するカップリング剤を含む第1被膜材を、工程(i)で準備した人工磁気微粒子の表面に付着させて、第1被膜を形成した人工磁気微粒子を調製する工程:及び
工程(iii):ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含む第2被膜材を、工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、第2被膜を形成したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を調製する工程:
【0016】
上記工程(i)としては、人工磁気微粒子を準備する工程である限り特に制限されず、本発明における「人工磁気微粒子」とは、生体由来ではない磁気微粒子を意味する。また、本発明における「磁気微粒子」とは、磁気応答性(磁界に対する感応性)を有する微粒子を意味し、第1被膜及び第2被膜を形成してホスファチジルセリン被覆磁気微粒子とした場合に磁気応答性を付与し得るものであれば、超常磁性を示す微粒子も含まれる。ここで「磁気応答性を有する」とは、外部磁界が存在するとき、磁界により磁化する、あるいは磁石に吸着するなど、磁界に対して感応性を示すことを指す。
【0017】
本発明における人工磁気微粒子として、具体的には、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属微粒子や、酸化鉄、二酸化クロムなどの金属酸化物の微粒子や、これらの金属酸化物の複合体の微粒子、さらには各種の金属間化合物の微粒子などから選ばれる少なくともいずれかを例示することができ、品質面での安定性が優れ、かつ磁界に対する感応性に優れている点で、金属酸化物の微粒子を好ましく例示することができ、酸化鉄の微粒子をより好ましく例示することができる。上記酸化鉄の微粒子の中でも化学的安定性に優れることからマグネタイト(Fe)微粒子、マグヘマイト(γ−Fe)微粒子、マグネタイト−マグヘマイト中間体微粒子、マンガン亜鉛フェライト(Mn1−XZnFe:0<X<1)微粒子などのフェライト微粒子から選ばれる少なくとも一種を好適に例示することができ、中でも大きな磁化量を有しているため磁界に対する感応性に優れるマグネタイト微粒子を特に好適に例示することができる。前述の人工磁気微粒子の入手方法としては、市販のものを用いてもよいし、公知の製法により作製してもよい。例えば、酸化鉄の微粒子は、水中でFe(OH)などの微粒子を酸化反応させる等の公知の製法により作製することができる。
【0018】
本発明における人工磁気微粒子の形状としては、特に制限されず、球状、楕円体状、粒状、板状、針状のほか、直方体状、立方体状等の多面体状などを例示することができるが、後述のホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子とした時点で、好適な形状に実現されやすい点から、球状、楕円体状、粒状のほか、直方体状、立方体状等の多面体状を好ましく例示することができる。
【0019】
本発明における人工磁気微粒子の大きさとしては、特に制限されないが、ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子の安定性や、後述のホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング感度等の点から、平均粒子サイズが、10〜10000nmであることが好ましく、10〜3000nmであることがより好ましく、10〜1000nmであることがさらに好ましく、10〜500nmであることがさらにより好ましく、50〜350nmであることがより好ましく、110〜290nmであることがさらに好ましく、150〜250nmであることがさらにより好ましい。なお、本発明における「粒子サイズ」とは、当該粒子のあらゆる方向に関する長さのうち最大となる長さを意味する。粒子の平均粒子サイズは、例えば、透過型電子顕微鏡写真上で各粒子200個の粒子サイズを測定し、その数平均として算出することができる。
【0020】
上記工程(ii)としては、疎水基を有するカップリング剤を含む第1被膜材を、工程(i)で準備した人工磁気微粒子の表面に付着させて、第1被膜を形成した人工磁気微粒子を調製する工程である限り特に制限されない。このような第1被膜を形成すると、人工磁気微粒子の表面が疎水性となり、疎水基を有する第2被膜剤中のホスファチジルセリンや、それと共に脂質膜を形成し得る脂質が、第1被膜表面上に安定的に第2被膜を形成することができる。
【0021】
上記の疎水基を有するカップリング剤としては、該カップリング剤を含む第1被膜材で人工磁気微粒子表面に第1被膜を形成した場合に、その表面上にさらに後述の第2被膜材で第2被膜(ホスファチジルセリンを含む脂質膜)を形成させ得るものである限り、特に制限されないが、より優れた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得る観点から、Si、Al、Tiの無機塩、有機塩あるいはアルコキシドが疎水基を1つ以上持つ有機化合物を好ましく例示することができ、疎水基を1つ以上持つシラン系カップリング剤や、アルミナ系カップリング剤や、チタネート系カップリング剤をより好ましく例示することができ、疎水基を1つ以上持つシラン系カップリング剤をさらに好ましく例示することができる。上記の疎水基の数としては、1つ以上であればよいが、1つであることが好ましい。本発明における疎水基を有するカップリング剤は、市販のものを適宜使用することができる。
【0022】
以下、シラン系カップリング剤を例により具体的に説明すると、上記の疎水基を1つ以上持つシラン系カップリング剤としては、好ましくはYSiX4−nで表されるシランカップリング剤である。ここで、nは1〜3の整数である。Yは、炭素数1〜35の炭化水素基、及び炭素数1〜35の炭化水素基と置換基から構成される有機官能基からなる群から選択される少なくとも1種であり、該置換基としては、エステル基、エーテル基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミド基、メルカプト基、スルホニル基、スルフェニル基、ニトロ基、ニトロソ基、ニトリル基、ハロゲン原子、及び水酸基から成る群より選択される官能基を少なくとも1種含むものである。Xは加水分解性基及び/又は水酸基であり、該加水分解基としてはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アシルオキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、及びハロゲンから成る群より選択される少なくとも1種である。n個のY又は4−n個のXは、それぞれ同種でも異種でもよい。なお、上記Yにおける炭素数としては、より優れた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得る観点から、3〜33であることがより好ましく、6〜30であることがさらに好ましく、9〜27であることがさらにより好ましく、14〜20であることが特に好ましい。
【0023】
上記の炭化水素基とは、直鎖または分岐鎖(すなわち側鎖を有する)の飽和又は不飽和の一価又は多価の脂肪族炭化水素基、及び芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基を意味し、例えば、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、ナフチル基、シクロアルキル基等を好適に例示することができる。なお、本発明におけるアルキル基には、特に指示が無い限りアルキレン基等の多価の炭化水素基を包含する。同様に本発明におけるアルケニル基、アルキニル基、フェニル基、ナフチル基、及びシクロアルキル基には、それぞれアルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基、及びシクロアルキレン基等を包含する。
【0024】
上記の式YSiX4−nにおいて、Yが炭素数1〜25の炭化水素基であるシランカップリング剤としては、オクタデシルトリメトキシシランのように高級アルキル基を有するもの、2−ヘキセニルトリメトキシシランのように不飽和炭化水素基を有するもの、2−エチルヘキシルトリメトキシシランのように側鎖を有するもの、フェニルトリエトキシシランのようにフェニル基を有するもの、3−β−ナフチルプロピルトリメトキシシランのようにナフチル基を有するもの、及びp−ビニルベンジルトリメトキシシランのようにフェニレン基を有するものを例示することができる。Yがビニル基を有する基であるシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、及びビニルトリアセトキシシランを例示することができる。Yがアミノ基を有する基であるシランカップリング剤としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、及びγ−アニリノプロピルトリメトキシシランを例示することができる。より優れた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得る観点から特に好ましいシランカップリング剤として、テトラデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ノナデシルトリメトキシシラン、エイコシルトリメトキシシラン、ヘネイコシルトリメトキシシラン、ドコシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ノナデシルトリエトキシシラン、エイコシルトリエトキシシラン、ヘネイコシルトリエトキシシラン、ドコシルトリエトキシシラン等を例示することができ、さらに好ましいシランカップリング剤として、テトラデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ノナデシルトリメトキシシラン、エイコシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ノナデシルトリエトキシシラン、エイコシルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0025】
上記の第1被膜材としては、前述の疎水基を有するカップリング剤を含んでいる限り特に制限されないが、前述の疎水基を有するカップリング剤を含む液体溶媒を好適に例示することができ、前述の疎水基を有するカップリング剤を含む水溶液をより好適に例示することができる。なお、カップリング剤の濃度等については適宜調整することができる。
【0026】
上記の疎水基を有するカップリング剤を含む第1被膜材を、工程(i)で準備した人工磁気微粒子の表面に付着させて第1被膜を形成する方法としては、前述のカップリング剤を加水分解反応及び脱水縮合反応させることによって、工程(i)で準備した人工磁気微粒子の表面上にその被膜(第1被膜)を形成し得る方法である限り特に制限されず、具体的には、カップリング剤中に人工磁気微粒子を添加して攪拌した後、溶媒を有機溶媒に置換し、加熱処理する方法を例示することができ、より詳細には、人工磁気微粒子の溶媒を有機溶媒に置換した後、カップリング剤を含む有機溶媒をそこに添加して攪拌(好ましくは超音波処理)し、次いで、その溶液を時おり攪拌(好ましくは超音波処理)しつつ加熱(例えば120℃30分間)する方法を、より優れた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得る観点から好ましく例示することができる。その際、カップリング剤中に添加する人工磁気微粒子は、あらかじめアンモニウム過酸化水素溶液等を添加することによって、微粒子表面の水酸基を活性化させておくことが、より安定的なホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を作製し得る点で好ましい。
【0027】
上記工程(iii)としては、ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含む第2被膜材を、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、第2被膜を形成したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を調製する工程である限り特に制限されない。前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に第2被膜を形成させると、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得ることができる。なお、本発明における「脂質膜」には、脂質の2重膜のほか、単分子膜や、多重膜(ただし2重膜を除く)も含まれる。
【0028】
上記のホスファチジルセリンと共に脂質膜を形成し得る脂質としては、ホスファチジルセリンと共に脂質膜を形成し得る脂質である限り特に制限されず、ホルファチジルセリンであってもよいが、より安定的なホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得る観点から、ホルファチジルセリン以外のリン脂質を好適に例示することができ、中でも、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、カルジオリピン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、モノ−アシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルコリン、ホスファチジン酸等をより好適に例示することができ、中でも、ホスファチジルコリン(PC)を特に好適に例示することができる。
【0029】
上記の第2被膜材としては、ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含んでいる限り特に制限されないが、それらの脂質を含む液体溶媒を好適に例示することができ、それらの脂質を含むアルコール溶液をより好適に例示することができる。なお、脂質膜の安定性と後述のスクリーニング方法における感度のバランスが優れていることから、第2被膜材中のホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質との合計に対するホスファチジルセリンの割合がモル比で3%以上であることが好ましく、3〜70%であることがより好ましく、5〜50%であることがさらに好ましく、8〜30%であることがさらにより好ましく、中でも10%〜20%であることが最も好ましい。また、第2被膜材中のホスファチジルセリン等の脂質の濃度は、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子が得られる限り特に制限されないが、0.1〜10mg/mLであることが好ましく、0.5〜2mg/mLであることがより好ましい。
【0030】
上記の第2被膜材を、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、第2被膜を形成する方法としては、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に前述の第2被膜材を付着させることによって、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面上に、ホスファチジルセリンを含む脂質膜を形成し得る方法である限り特に制限されず、具体的には、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子を含む溶媒中に第2被膜材を添加して攪拌(好ましくは超音波処理)しつつ、加温した後、適当な溶媒(室温)中に注入する方法を例示することができ、より詳細には、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子を含む溶媒をアルコールに置換し、そこにホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含むアルコール溶液(第2被膜材)を添加し、この溶液を攪拌(好ましくは超音波処理)しつつ55℃に加温した後、その溶液を、シリンジ(注射針付き)でPBS(室温)中に注入し(好ましくはこの際、PBSについて超音波分散を行いながら注入し)、次いで、この溶液中の磁気微粒子を、HEPES(2-[4-Hydroxyethyl]-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)緩衝液で洗浄する方法を、より優れた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得る観点から好ましく例示することができる。前述のように超音波処理を行うと、磁気微粒子の凝集を防ぐことができる点で好ましい。
【0031】
以上の工程(i)〜工程(iii)を順次行うことによって、人工磁気微粒子から、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子(ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子)を製造することができる。
【0032】
2.バイオ磁気微粒子から本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法
バイオ磁気微粒子から本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法(以下、「本発明の製造方法(バイオ磁気微粒子)」ともいう。)としては、以下の工程を順次備えている限り特に制限されない。
工程(i):磁性細菌からバイオ磁気微粒子を磁気分離する工程:
工程(ii):工程(i)で分離したバイオ磁気微粒子上のタンパク質及び脂質膜を除去する工程:
工程(iii):ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含んで成る被膜材を、工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、被膜を形成したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を調製する工程:
【0033】
上記工程(i)としては、磁性細菌からバイオ磁気微粒子を磁気分離する工程である限り特に制限されず、本発明における「バイオ磁気微粒子」とは磁性細菌から分離し得る磁気微粒子を意味する。磁性細菌の菌体内においては、通常、粒径約50〜150nmのマグネタイトからなる微粒子が産生され、これをバイオ磁気微粒子として使用することができる。上記磁性細菌としては、Magnetospirillum 種の微生物(例えば、Magnetospirillum magneticum AMB-1 (FERM BP-5458), MS-1 (IFO 15272, ATCC31632, DSM3856), SR-1 (IFO 15272 DSM 6361)や、Desulfovibrio 種の微生物(例えば、Desulfovibrio sp. RS-1 (FERM P-13283))などを好ましく例示することができる。
【0034】
上記の磁性細菌からバイオ磁気微粒子を磁気分離する方法として、具体的には、磁性細菌を培養して得られた菌体を破砕し、その菌体破砕液から磁石を用いてバイオ磁気微粒子を磁気分離する方法を例示することができ、より詳細には、磁性細菌をMSGM(magnetic spirillum growth medium)(Blakemore et al., J Bacteriol. 1979, 140(2): 720-729)にて微好気条件下で静置培養し、得られた培養物を遠心分離等して菌体を集菌し、この菌体をPBS等の適当な溶媒に懸濁した後、フレンチプレス等により菌体を破砕し、この菌体破砕液の容器の外側から磁石を当てながら上清を除去するなどして、菌体破砕液からバイオ磁気微粒子を磁気分離する方法を好ましく例示することができる。
【0035】
上記工程(ii)としては、工程(i)で分離したバイオ磁気微粒子上のタンパク質及び脂質膜を除去する工程である限り特に制限されない。本発明において「バイオ磁気微粒子上のタンパク質及び脂質膜を除去する」とは、物理的にタンパク質及び脂質膜をほぼ完全に除去する場合の他、後述の工程(iii)において、ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを付着させ得る限度において、バイオ磁気微粒子表面上のタンパク質と、脂質のほとんどを除去する場合をいう。
【0036】
上記のバイオ磁気微粒子上のタンパク質及び脂質膜を除去する方法としては、バイオ磁気微粒子上のタンパク質及び脂質膜を除去し得る方法である限り特に制限されないが、具体的には、工程(i)で分離したバイオ磁気微粒子について、アルコール処理やクロロホルム処理やプロテイナーゼ処理や界面活性剤処理や尿素処理や塩基処理する方法を例示することができ、より詳細には、バイオ磁気微粒子をアルコールで複数回、クロロホルムで複数回、アルコールで複数回洗浄処理した後、さらにプロテイナーゼKで処理する方法を好ましく例示することができる。
【0037】
上記工程(iii)としては、ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含む被膜材を、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、被膜を形成したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を調製する工程である限り特に制限されない。前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に被膜を形成させると、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得ることができる。なお、ここでいう被膜材は、前述の本発明の製造方法(人工磁気微粒子)の第2被膜材において述べたとおりである。
【0038】
上記の被膜材を、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、被膜を形成する方法としては、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に前述の被膜材を付着させることによって、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面上に、ホスファチジルセリンを含む脂質膜を形成し得る方法である限り特に制限されず、具体的には、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子を含む溶媒中に被膜材を添加して攪拌(好ましくは超音波処理)した後、適当な溶媒中に注入する方法を例示することができ、より詳細には、前記工程(ii)で得られた磁気微粒子を含む溶媒をアルコールに置換し、そこにホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含むアルコール溶液(被膜材)を添加し、この溶液を攪拌(好ましくは超音波処理)した後、シリンジ(注射針付き)でPBS(30℃)中に注入し(好ましくはこの際、PBSについて超音波分散を行いながら注入し)、次いで、この溶液中の磁気微粒子を、HEPES緩衝液で洗浄する方法を、より優れた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得る観点から好ましく例示することができる。
【0039】
以上の工程(i)〜工程(iii)を順次行うことによって、バイオ磁気微粒子から、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子(ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子)を製造することができる。
【0040】
なお、上記1.や2.において製造した本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子の表面上に、ホスファチジルセリンを含む脂質膜が実際に形成されているかどうかは、例えば、後述の実施例3に記載された薄層クロマトグラフィー(TLC)による評価試験や、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行うことによって容易に確認することができる。また、本発明における「ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子」とは、そのホスファチジルセリン被覆磁気微粒子における脂質膜が2重膜以上である場合は、その最も外側の膜にもホスファチジルセリンを含んでいるホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を意味する。本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子が、最も外側の膜にもホスファチジルセリンを含んでいるかどうかは、例えば、後述の実施例4に記載されたAnnexin Vとの結合評価試験を行うことによって、容易に確認することができる。
【0041】
3.本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子
本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子としては、上記1.の本発明の製造方法(人工磁気微粒子)や、上記2.の本発明の製造方法(バイオ磁気微粒子)により製造されるホスファチジルセリン被覆磁気微粒子の他、本発明のこれらの製造方法に限定されないホスファチジルセリン被覆磁気微粒子(ただし、自然界に存在するものを除く)も含まれる。以下、これらのホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を併せて、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子ともいう。
【0042】
本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子の表面上の脂質膜に含まれるホスファチジルセリンの割合としては、特に制限されないが、脂質膜の安定性と後述のスクリーニング方法における感度のバランスが優れていることから、磁気微粒子の表面上の脂質膜に含まれる全脂質に対するホスファチジルセリンの割合がモル比で3%以上であることが好ましく、3〜70%であることがより好ましく、5〜50%であることがさらに好ましく、8〜30%であることがさらにより好ましく、中でも10%〜20%であることが最も好ましい。
【0043】
4.ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング方法
本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用した、ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング方法(以下、「本発明のスクリーニング方法」ともいう。)としては、以下の工程を順次備えている限り特に制限されない。
工程(i):本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と、ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料を接触させる工程:
工程(ii):工程(i)で生体試料と接触させたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を分離した後、それを膜画分と磁気微粒子に分離する工程:
工程(iii):工程(ii)で分離した膜画分と、ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子を用いて分離される膜画分とを、比較して解析する工程:
工程(iv):工程(ii)で分離した膜画分に含まれ、かつ、対照磁気微粒子を用いて分離した膜画分に含まれない分子を単離・同定する工程:
【0044】
上記工程(i)としては、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と、ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料を接触させる工程である限り特に制限されず、本発明における「ホスファチジルセリン結合性分子」とは、ホスファチジルセリンに結合する分子である限り特に制限されず、タンパク質、核酸、糖質、又はこれらの2種類若しくは3種類の複合体を好適に例示することができ、中でもタンパク質、又は、これと核酸若しくは糖質との複合体をより好適に例示することができ、中でもタンパク質を最も好適に例示することができる。なお、ここでいう「タンパク質」には、ペプチドも含まれる。
【0045】
上記の生体試料としては、生体(好ましくは哺乳動物、特に好ましくはヒト)由来の試料である限り特に制限されず、細胞の培養上清;血清等の全血由来の試料;細胞破砕液;細胞から抽出した核酸;などを例示することができるが、疾患のマーカー分子のスクリーニングを目的とする場合は、そのマーカー分子の有無をより容易に検出し得ることから、血清等の全血由来の試料や、細胞の培養上清(特に、血清を含む、細胞の培養上清)を用いることが好ましい。また、疾患のマーカー分子のスクリーニングを目的とする場合は、生体試料として、その疾患の患者由来の生体試料と、健常者由来の生体試料を両方用いると比較することができるため好ましい。上記疾患としては、特に制限されず、がん、虚血性心疾患、糖尿病等を例示することができるが、がんを特に好適に例示することができる。上記のがんとしては特に制限されないが、肺がん、気管及び気管支がん、口腔上皮がん、食道がん、胃がん、結腸がん、直腸がん、大腸がん、肝臓及び肝内胆管がん、腎臓がん、膵臓がん、前立腺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、脳腫瘍、悪性黒色腫(メラノーマ)、皮膚がん等の上皮細胞などが悪性化したがんや腫瘍、筋肉腫、骨肉腫、ユーイング肉腫等の支持組織を構成する細胞である筋肉や骨が悪性化したがんや腫瘍、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫、バーキットリンパ腫等の造血細胞由来のがんや腫瘍などを例示することができる。
【0046】
上記の本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と、ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料を接触させる方法としては特に制限されないが、接触効率の点から、ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と、ホスファチジルセリン結合性分子とが、適当な液体中で接触し得る状況下で接触させる方法を好ましく例示することができ、より詳細には、ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と、生体試料とをHEPES等の適当な緩衝液中で時折撹拌(好ましくは超音波処理)しつつインキュベーションする方法を、より優れた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を得る観点からより好ましく例示することができる。
【0047】
上記工程(ii)としては、前記工程(i)で生体試料と接触させたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を分離した後、それを膜画分と磁気微粒子に分離する工程である限り特に制限されない。前記工程(i)で生体試料と接触させたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を分離する方法としては特に制限されないが、簡便かつ迅速であることから、前述の生体試料と接触させたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を、磁石を利用して磁気分離(磁気回収)する方法を好ましく例示することができる。また、上記の膜画分と磁気微粒子に分離する方法としては特に制限されないが、生体試料と接触させたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を、HEPES緩衝液等の適当な緩衝液中で激しく撹拌(好ましくはボルテックスによる攪拌)した後、磁気微粒子を分離(好ましくは磁気回収)することによって、膜画分と磁気微粒子に分離する方法を好ましく例示することができる。
【0048】
上記工程(iii)としては、工程(ii)で分離した膜画分と、ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子を用いて分離される膜画分とを、比較して解析する工程である限り特に制限されず、本発明における「ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子」としては、ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された磁気微粒子である限り特に制限されないが、より精度の高いスクリーニングを行う観点からは、上記工程(i)で用いた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子において、ホスファチジルセリン以外に用いられた脂質(ただし、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子において、ホスファチジルセリンのみを脂質として用いた場合は、ホスファチジルセリン以外の脂質)で表面を被覆したこと以外は、工程(i)で用いた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と同じ磁気微粒子を用いることが好ましい。例えば、工程(i)で用いた本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子において、その表面の脂質膜にホスファチジルセリンとホスファチジルコリンが用いられている場合は、ホスファチジルコリンで表面を被覆したこと以外は、前述の本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と同じ磁気微粒子を対照磁気微粒子として好ましく用いることができる。
【0049】
工程(ii)で分離した膜画分と、対照磁気微粒子を用いて分離される膜画分とを、比較して解析する方法としては、特に制限されず、両膜画分について1次元又は2次元電気泳動を行ってそのバンドを比較したり、両膜画分についてウエスタンブロッティングを行ってそのバンドを比較したり、両膜画分についてクロマトグラフィーを行ってそのシグナルを比較したり、両膜画分についてショットガン法により質量分析を行ってそのシグナルを比較する方法を好適に例示することができる。なお、前述の1次元電気泳動や2次元電気泳動としては、SDS−PAGEを好適に例示することができる。
【0050】
上記工程(iv)としては、工程(ii)で分離した膜画分に含まれ、かつ、対照磁気微粒子を用いて分離した膜画分に含まれない分子を単離・同定する工程である限り特に制限されない。前述の分子を単離する方法としては特に制限されないが、SDS−PAGE等の電気泳動により、工程(ii)で分離した膜画分に含まれ、かつ、対照磁気微粒子を用いて分離した膜画分に含まれない分子を含むバンドを切り出し、常法にしたがって該分子を抽出する方法を好適に例示することができる。また、前述の分子を同定する方法としては、TOF−MS、sector MS、FTICR−MS、MS/MS等の質量分析を好適に例示することができる。
【0051】
本発明のスクリーニング方法は、血清を含む生体試料からもホスファチジルセリン結合性分子を高効率かつ高感度でスクリーニングすることができることから、疾患マーカー(特に、がんマーカー)のスクリーニングに特に好適に用いることができる。すなわち、血清には夾雑タンパク質等が多量に含まれているため、通常の方法では十分な感度での検出が困難であるところ、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用すると、血清を含む、細胞の培養上清や、血清を生体試料であっても十分な感度でホスファチジルセリン結合性分子(疾患マーカー)を検出することができる。このようにして検出される疾患マーカーは、実用化された場合にも、血清等を試料として用いることができると考えられ、疾患かどうかを、被験者の組織を採取することなく容易に判定することが可能となる。なお、本発明のスクリーニング方法には、生体試料から未知のホスファチジルセリン結合性分子(好ましくはがんマーカー)をスクリーニングする場合の他、既知のホスファチジルセリン結合性分子(好ましくはがんマーカー)が生体試料中に存在するかどうかを検出する方法や、生体試料中の既知のホスファチジルセリン結合性分子(好ましくはがんマーカー)を定量する方法も便宜上含まれる。
【0052】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
[癌細胞表面のホスファチジルセリン存在率の評価]
癌細胞株[SK−BR−3(乳癌細胞株)又はCapan−1(膵癌細胞株)]を培養容器底面積70%程度まで培養し、接着性及び浮遊性の細胞をそれぞれ回収後、生細胞及びホスファチジルセリン提示細胞のカウントをそれぞれ以下の方法にしたがって行った。
【0054】
(生細胞のカウント)
生細胞のカウントは、回収した接着性及び浮遊性の細胞をトリパンブルー(Sigma社製)で染色し、染色を受けなかった細胞を倒立型顕微鏡観察下で血球計算盤を用いてカウントすることによって行った。
【0055】
(ホスファチジルセリン提示細胞のカウント)
ホスファチジルセリン提示細胞のカウントは、まず、回収した接着性及び浮遊性の細胞について、Annexin V-Cy3 Apoptosis Detection Kit(Funakoshi社製)を用いて細胞表面に提示されたホスファチジルセリンの蛍光染色を行った後、Cy3蛍光を発する細胞を、蛍光顕微鏡観察下で血球計算盤を用いてカウントすることによって行った。
【0056】
前述の生細胞及びホスファチジルセリン提示細胞のカウントで得られた結果から、生細胞に対するホスファチジルセリン提示細胞の割合(ratio(%))を、浮遊性細胞(Floating)、接着性細胞(Adherent)のそれぞれについて算出した。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から分かるように、生細胞中にもホスファチジルセリンを提示しているものが多く含まれることが示された。この結果は、癌細胞は表面にPS提示しているという以前報告された知見(CANCER RESEARCH 51. 3062-3066, 1991)と一致している。
【実施例2】
【0059】
[ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子の作製]
1.人工磁気微粒子を用いたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子の作製
(1)試薬及び機器
未修飾の人工磁気微粒子(Artificial Magnetic Particles:AMPs)(粒径(粒子サイズ)200nm)は戸田工業株式会社より提供されたものを用いた。なお、このAMPsはマグネタイトの微粒子である。シランカップリング剤n-Octadecyltrimethoxysilane(ODS)はアヅマックス株式会社より購入した。1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospocholine(Dipalmitoylphosphatidyl choline:DPPC)、及び1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine, sodium salt(Dipalmitoylphosphatidyl serine:DPPS)はNOF CORPORATION社より購入した。Annexin V-Cy3 apoptosis detection kitはBiovision社より購入した。銀染色キットIIワコーはWako社より購入した。抗Annexin V抗体(マウスIgG抗体)、HRP標識抗マウスIgG抗体はシグマ社より購入した。ECL plus western blotting Detection systemはGEヘルスケア バイオサイエンス株式会社より購入した。TLCプレートはメルク社より購入した。超音波発生装置はW-170-ST(本多電子株式会社製)、あるいはSU-25(SHIBATA社製)を用いた。透過型電子顕微鏡にはJEM-1230(JEOL社製)を用いた。その他の試薬は全て研究用の特級品を使用し、水には蒸留水、及び、MilliQ Lab. (MILLIPORE社製) で処理された超純水を用いた。
【0060】
(2)AMPs表面上でのODS被膜(第1被膜)及びリン脂質膜(第2被膜)の形成
AMPs5mgに対して10mLのアンモニウム過酸化水素溶液(25%アンモニウム水溶液:30%過酸化水素:超純水=1:1:5)を添加し、10分間の超音波処理を行うことで、AMPsの粒子表面の水酸基を活性化させた。このAMPsを含む水溶液をエタノールで置換し、次いでトルエンで置換した後、2%のODSを含むトルエン溶液(第1被膜材)を10mL添加し、10分間の超音波処理を行った。この溶液の溶媒をN,N’-dimethylfolmamide(DMF)10mLに置換し、120℃で30分間の加熱処理を行った。この30分間の加熱処理の際には、10分ごとに超音波処理を行った。このようにして得られたAMPsを、ODS被膜(第1被膜)形成AMPs(ODS−AMPs)とした。
【0061】
次に、このODS−AMPsに対して、リン脂質膜(第2被膜)の形成を行った。具体的には、前述のODS−AMPsを含む溶液をエタノールで置換し、次いで1mg/mLのリン脂質(DPPCのみ、あるいはDPPC:DPPS=8:2(モル比))を含むエタノール溶液(第2被膜材)を5mL添加した。この溶液を、超音波で分散させながら55℃に加温した後、50mLのPBS(室温)中にシリンジ(注射針付き)を用いて注入した。この注入の際には、PBSについても超音波分散を行った。PBS中のAMPsを、10mLのHEPES(2-[4-Hydroxyethyl]-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid)緩衝液にて5回洗浄した後、10mLのHEPES緩衝液中で4℃にて保存した。このようにして得られたAMPsを、リン脂質膜(第2被膜)形成AMPs[PC−AMPs(第2被膜材としてDPPCのみを含むエタノール溶液を用いて得られたもの),PCPS−AMPs(第2被膜材としてDPPCとDPPSを含むエタノール溶液を用いて得られたもの)]とした。以上のようにして、人工磁気微粒子を利用した、本発明のホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子(PCPS−AMPs)、ならびに、ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子(PC−AMPs)を作製した。
【0062】
2.磁性細菌由来のバイオ磁気微粒子を用いたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子の作製
(1)磁性細菌からのバイオ磁気微粒子の分離
磁性細菌Magnetospillum magneticum AMB-1を、4.5LのMSGM(magnetic spirillum growth medium)(Blakemore et al., J Bacteriol. 1979, 140(2): 720-729)に植菌した後、このMSGMにアルゴンガスを15分間バブリングすることにより微好気状態にした上で、室温にて約5日間、静置培養した。静置培養して得られた培養物を8000rpm、4℃で8分間、遠心分離することによって、磁性細菌の菌体を集菌した。この菌体を、45mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)に懸濁した後、フレンチプレスを用いて2000kg/cmの圧力で破砕した。この菌体破砕液を三角フラスコに入れた後、その三角フラスコの底部にネオジウム−ボロン(Nd−B)磁石を取り付けて磁性細菌由来のバイオ磁気微粒子(bacterial magnetic particles: BacMPs)を磁気分離し、そのBacMPsをHEPES緩衝液(10mM、pH7.4)中で超音波洗浄機を用いながら10回洗浄した。洗浄したBacMPsはPBSに懸濁し、4℃で保存した。以上のようにして、バイオ磁気微粒子(BacMPs)(以下、「未処理のBacMPs」ともいう。)を得た。
【0063】
(2)BacMPs表面上でのリン脂質膜の再構築
BacMPs表面上に、ホスファチジルセリンを含むリン脂質膜を再構築するために、まず、BacMPs上の本来存在するタンパク質及び脂質膜の除去を行った。具体的には、上記2(1)で得られた1mgのBacMPsを2mLのエタノールで2回洗浄した後、2mLのクロロホルムで3回、2mLのメタノールで2回洗浄し、各段階のBacMPs画分及び上清画分を回収した。回収したBacMPs画分の残留溶媒を気化させ、蒸留水で2回洗浄した。これにproteinase K(1unit/mL)を加え30分反応後、HEPESで3回洗浄することでBacMPs表面上のタンパク質と、脂質のほとんどを除去した。
【0064】
次に、この除去処理後のBacMPs(以下、「脂質膜除去後のBacMPs」ともいう。)に対して、リン脂質膜(本発明の工程(iii)における被膜)の形成を行った。具体的には、前述の除去処理後のBacMPs(2mg)に対し、1mg/mLのリン脂質(DPPCのみ、あるいはDPPC:DPPS=9:1(質量比))を含むエタノール溶液(本発明の工程(iii)における被膜材)を2mL添加し、超音波で分散させた。この溶液を、20mLのPBS(30℃)中にシリンジ(注射針付き)を用いてゆっくりと注入し、その溶液を超音波分散することで、添加したリン脂質を含む脂質膜を粒子上へ構築した。PBS中のBacMPsをHEPES緩衝液にて5回洗浄した後、HEPES緩衝液中で4℃にて保存した。このようにして得られたBacMPsを、リン脂質膜形成BacMPs[PC−BacMPs(被膜材としてDPPCのみを含むエタノール溶液を用いて得られたもの),PCPS−BacMPs(被膜材としてDPPCとDPPSを含むエタノール溶液を用いて得られたもの)]とした。以上のようにして、バイオ磁気微粒を利用した、本発明のホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子(PCPS−BacMPs)、ならびに、ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子(PC−BacMPs)を作製した。
【実施例3】
【0065】
[磁気微粒子上への脂質膜形成の評価]
1.薄層クロマトグラフィー(TLC)による評価
上記実施例2で作製した、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子や、対照磁気微粒子の脂質膜が、実際に目的の脂質(DPPCやDPPS)で形成されているかを確認するために、TLCによる解析を行った。具体的には、3mgの磁気微粒子(PC−AMPs、PCPS−AMPs、未処理のBacMPs、脂質膜除去後のBacMPs、PC−BacMPs、又は、PCPS−BacMPs)に、750μLのクロロホルム/メタノール溶液(クロロホルム:メタノール=2:1(体積比))を加え、超音波分散を行った。その溶液に、200μLの超純水を加えて、超音波分散を行い、その後10分毎に超音波分散をしながら2時間インキュベーションした(クロロホルム/メタノール処理)。この溶液に対して磁気回収処理することによって、磁気微粒子と上清に分離し、上清を別容器に移した。残った磁気微粒子に対して、前述のクロロホルム・メタノール処理を再び行った。今回のクロロホルム・メタノール処理ではインキュベーション時間を1時間とした。得られた溶液の上清を回収し、500μLクロロホルムを加えてボルテックスした後、遠心分離(1,000rpm,10分間)を行ってクロロホルム層を回収した。回収したクロロホルム層のクロロホルムをアルゴン気流によって完全に除去した後、50μLのクロロホルムを添加して溶解液を得た。この溶解液のうち、20μLをTLCプレートにスポットした。この操作を前述の6種類の磁気微粒子について行った。スポットしたプレートを冷風でよく乾かした後、このプレートを、クロロホルム/メタノール/25%アンモニア水(クロロホルム:メタノール:25%アンモニア水=65:35:8(体積比))の展開溶媒で展開した。展開後、Dittmer試薬(Dittmer et al., J. Lipid Res., 1964, 5:126-127)を噴霧し、リン脂質を呈色させた。
【0066】
以上の方法によって、AMPs上への脂質導入を確認した結果を図1Aに示す(図1Aの(3):PC−AMPs; (4):PCPS−AMPs)。PC−AMPsについては、PCの分子量の部分にバンドが確認され、PCPS−AMPsについては、PC及びPSの双方の分子量の部分にバンドが確認された(図1A)ことから、PC−AMPsやPCPS−AMPsの表面上の脂質膜は、それぞれ目的のリン脂質で形成されていることが分かった。一方、BacMPs上への脂質導入を確認した結果を図1Bに示す(図1Bの(1)未処理のBacMPs、(2)脂質膜除去後のBacMPs、(3)PC−BacMPs、(4)PCPS−BacMPs)。未処理のBacMPs表面上にはフォスファチジルエタノールアミン(PE)が多く存在しているものの、その未処理のBacMPsに対してクロロホルム、プロテアーゼ処理を行うことによって、脂質膜が除去されたことが示された(図1Bの(1)と(2))。また、図1Bの(3)と(4)から、PC−BacMPsやPCPS−BacMPsの表面上の脂質膜は、それぞれ目的のリン脂質で形成されていることが分かった。
【0067】
2.透過型電子顕微鏡(TEM)による観察
上記実施例2で作製した、ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子や、対照磁気微粒子において、それらの粒子の表面上に脂質膜が実際に形成されているかを確認するために、PCPS−AMPsやPC−AMPsや未処理のAMPs等のAMPsについてTEMによる解析を行った。具体的には、0.5mg/mLのAMPs(PCPS−AMPs、PC−AMPs又は未処理のAMPs)を含むHEPES緩衝液を超音波分散して得られた磁気微粒子溶液を、TEM用のグリッド上に1滴滴下し、磁気微粒子の流出を防ぐためにネオジウム磁石上でろ紙を使って溶液を吸い取った。グリッドを風乾したのち、それをTEMにより観察した。その結果を図2に示す(図2A:未処理のAMPs; 図2B:PC−AMPs; 図2C:PCPS−AMPs)。図2から分かるように、PC−AMPs(図2B)やPCPS−AMPs(図2C)のTEM観察像には、AMPs粒子の外側に膜に見える領域が確認できた。この部分の領域の厚さを算出すると、3〜5nmであった。PC−AMPsやPCPS−AMPsの第1被膜材として用いたODSはC18の直鎖炭素鎖をもつ分子であり、その長さは理論値でおよそ2.3nmとなり、また、第2被膜材として用いたDPPCは疎水部のパルミチン酸がC16であり、その長さは理論値でおよそ2.2nmであることから、未処理のAMPs表面上にODSによる第1被膜とリン脂質による第2被膜が形成されていれば、理論上は4〜5nmの厚さの膜になると考えられる。図2Bや図2Cで観察された膜の実測値は、この理論値とほぼ一致したことから、実施例2で作製した、ホスファチジルセリン被覆磁気微粒子や、対照磁気微粒子において、それらの粒子の表面上に脂質2重膜が実際に形成されていることが示唆された。
【実施例4】
【0068】
[Annexin Vとの結合評価]
1.人工磁気微粒子を利用したリン脂質被覆磁気微粒子を用いたSDS−PAGE
本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子が、ホスファチジルセリン結合性分子との結合能を実際に有しているかを確認するために、PS結合性タンパク質として知られるAnnexin Vとの結合試験(SDS−PAGE)を行った。具体的には、実施例2で作製したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子(PCPS−AMPs;0.6mg)又は対照磁気微粒子(PC−AMPs;0.6mg)を、150mMのNaClを含有する50mM HEPES緩衝液、あるいは10mMCaCl及び150mMのNaClを含有する50mM HEPES緩衝液 5mLに懸濁し、その懸濁液にApoptosis detection kitのAnnexin V-Cy3溶液を10μL添加した。この懸濁液について超音波分散を行った後、5分毎にボルテックスによる攪拌をし、合計20分間インキュベーションした。次いで、ネオジウム磁石を用いて磁気微粒子を磁気回収し、先ほど用いたのと同じ緩衝液を2mL加えてボルテックスするという洗浄操作を2回行った。洗浄した磁気微粒子を500μLの緩衝液を用いてトレフチューブに移し、磁気回収により溶液を除去した。回収した磁気微粒子に30μLのSDS−サンプルバッファーを加えて5分間の煮沸を行った。得られた溶液から磁気微粒子を磁気分離した後の上清のうち15μLをサンプルとしてSDS−PAGEを行い、銀染色キットIIワコーによってAnnexin Vタンパク質について銀染色を行った。人工磁気微粒子を用いたリン脂質被覆磁気微粒子に対するAnnexin V結合試験(SDS−PAGE)の結果を図3Aに示す。Annexin Vタンパク質は分子量36kDaであり、Cy3を含めると約37kDaにバンドが出ると考えられる。また、Annexin Vはカルシウムイオン存在下においてカルシウムを介してPSと結合することが知られている(非特許文献4)。図3Aから分かるように、カルシウムイオン存在下(Ca2+)におけるPCPS−AMPsに対してAnnexin V-Cy3と思われるバンド(約37kDa)が確認された。なお、このSDS−PAGEに用いたAnnexin V-Cy3溶液にはAnnexin V-Cy3以外に血漿成分が含まれているが(図3AのAnxのレーン)、カルシウムイオン存在下(Ca2+)におけるPCPS−AMPsからはAnnexin V-Cy3と思われるバンドがかなり特異性の高い状態で検出された。
【0069】
2.ウエスタンブロッティングによる解析
上記実施例4の1のSDS−PAGEで検出された37kDaのバンドがAnnexin Vであることを確認するためにウエスタンブロッティングを行った。具体的には、上記実施例4の1におけるSDS−PAGEで用いた残りのサンプルを7.5μLずつ用いてSDS−PAGEを行った後、メンブレンにトランスファーを行った。Annexin Vを検出するための一次抗体として、抗Annexin V抗体(マウスIgG抗体)を1:3500希釈したものを使用し、二次抗体としては、HRP標識抗マウスIgG抗体を1:5000希釈で使用したものを使用した。シグナルの検出は、ECL plus western blotting Detection systemによって行った。このウエスタンブロッティングの結果を図3Bに示す。その結果、37kDaのバンドと同位置に発光が検出され、上記実施例4の1のSDS−PAGEで検出された37kDaのバンドAnnexin Vであるということが確認された。
【0070】
3.バイオ磁気微粒子を利用したリン脂質被覆磁気微粒子を用いたSDS−PAGE
バイオ磁気微粒子を利用したリン脂質被覆磁気微粒子についても、人工磁気微粒子を利用したリン脂質被覆磁気微粒子と同様に、ホスファチジルセリン結合性分子との結合能を実際に有しているかを確認するために、上記実施例4の1と同様のSDS−PAGEを行った。その際、HEPES緩衝液に懸濁する磁気微粒子の量を、0.6mgではなく、0.2mgとし、SDS−PAGEにアプライするサンプル量を15μLではなく、30μLとした。その結果を図4に示す。人工磁気微粒子を利用した場合と同様に、カルシウムイオン存在下(Ca2+)におけるPCPS−BacMPsからはAnnexin V-Cy3がかなり特異性の高い状態で検出された。
【0071】
4.Annexin Vとの結合評価のまとめ
実施例4の1〜3の試験の結果から、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子は、血清タンパク質の様な夾雑タンパク質が多く存在する試料からも、ホスファチジルセリン結合性分子を高効率で濃縮・スクリーニングし得ることが示された。すなわち、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子は、非特異的な吸着も少なく、ホスファチジルセリン結合性分子を高効率で濃縮又は高感度でスクリーニングすることができたため、がんマーカー探索のために十分用い得るものであることが確認された。
【実施例5】
【0072】
[がん細胞培養上清からのPS結合性タンパク質のスクリーニング]
本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子は、非特異吸着が少なく、PS結合性タンパク質等のPS結合性分子を高効率で濃縮又は高感度でスクリーニングし得る粒子であることが確認されたことから、実際の生態試料を用いたスクリーニングアッセイを行った。
【0073】
1.人工磁気微粒子を利用したリン脂質被覆磁気微粒子を用いたアッセイ
本アッセイでは、低転移型胃がん細胞株MKN45や、高転移型胃がん細胞株MKN45 P−15GAを血清培地で培養した培養上清を生体試料として用いた。実施例2で作製したPCPS−AMPs(0.6mg)又はPC−AMPs(0.6mg)を、150mMのNaClを含有する50mM HEPES緩衝液、あるいは10mMCaCl及び150mMのNaClを含有する50mM HEPES緩衝液4.5mLに懸濁し、その懸濁液に生体試料(MKN45又はMKN45 P−15GAの培養上清)を0.5mL添加した。この懸濁液について超音波分散を行った後、5分毎にボルテックスによる攪拌をし、合計20分間インキュベーションした。次いで、ネオジウム磁石を用いて磁気微粒子を磁気回収し、先ほど用いたのと同じ緩衝液を2mL加えてボルテックスするという洗浄操作を2回行った。洗浄した磁気微粒子を500μLの緩衝液用いてトレフチューブに移し、磁気回収により溶液を除去した。回収した磁気微粒子に30μLのSDS−サンプルバッファーを加えて5分間の煮沸を行った。得られた溶液から磁気微粒子を磁気分離した後の上清のうち15μLをサンプルとしてSDS−PAGEを行った。また、コントロール試料として、血清を含むRPMI1640培地を用いたものについても同様にSDS−PAGEを行った。これらの結果を図5に示す。コントロール試料や対照磁気微粒子を用いた場合等と比較して、PCPS−AMPsに顕著に見られるバンドが矢印で示した場所に認められた。また、高転移型の胃がん細胞株MKN45−15GA(図5のReaction to (2))においてMKN45(図5のReaction to (1))には見られないバンドが観察され、これらは転移に関連するタンパク質である可能性が示唆された。
【0074】
2.バイオ磁気微粒子を利用したリン脂質被覆磁気微粒子を用いたアッセイ
本アッセイでは、膵管がん細胞株AsPC−1や、膵腺がん細胞株BxPC−3を血清培地で培養した培養上清を生体試料として用いた。実施例2で作製したPC−BacMPs(0.2mg)又はPCPS−BacMPs(0.2mg)を、150mMのNaClを含有する50mM HEPES緩衝液5mLに懸濁し、その懸濁液に生体試料(AsPC−1又はBxPC−3の培養上清)を0.5mL添加した。この懸濁液について10分間超音波分散を行った。次いで、ネオジウム磁石を用いて磁気微粒子を磁気回収し、400μLのPBSで2回洗浄後、その磁気微粒子に30μLの2×SDS−PAGE用サンプルバッファーを添加し、5分間煮沸を行った。得られた溶液から磁気微粒子を磁気分離した後の上清のうち15μLをサンプルとしてSDS−PAGEを行った。その結果を図6に示す。対照磁気微粒子を用いた場合等と比較して、PCPS−BacMPsに顕著に見られるバンドが複数認められた。このうち、70kDa及び60kDa付近にある特に濃い2つのバンド(図6の矢印部分)を切り出し、タンパク質を抽出した。抽出したタンパク質を、TOF−MSにより質量分析し、さらに、NNCBIのプロテインデータベースとの相同性解析を行った。その結果、70kDa付近のバンドからは、分子量72.2kDaの機能未知のタンパク質が1つと、insulinoma-associated 1と同配列のペプチドが1つ同定され、60kDa付近のバンドからは、Keratin 9と同配列の分子量62.0kDaのペプチドが1つ同定された(表2)。
【0075】
【表2】

【0076】
以上の結果から、本発明のホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を利用したスクリーニング方法を用いることによって、血清を含むがん細胞培養上清等の生体試料から、がんマーカーとなりうるPS結合性タンパク質等のホスファチジルセリン結合性分子を、簡便に高効率で濃縮したり、高感度でスクリーニングし得ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】磁気微粒子上への脂質導入をTLCにより確認した結果を示す図である。
【図2】磁気微粒子上での脂質膜形成をTEMにより確認した結果を示す図である。
【図3】脂質膜で被覆された人工磁気微粒子に対するAnnexin V結合能評価試験の結果を示す図(図3A:SDS−PAGE; 図3B:ウエスタンブロッティング)である。
【図4】脂質膜で被覆されたバイオ磁気微粒子に対するAnnexin V結合能評価試験の結果を示す図(SDS−PAGE)である。
【図5】脂質膜で被覆された人工磁気微粒子を用いた、胃がん細胞株培養上清からのPS結合性タンパク質のスクリーニングの結果を示す図である。
【図6】脂質膜で被覆されたバイオ磁気微粒子を用いた、膵管がん細胞株及び膵腺がん細胞株培養上清からのPS結合性タンパク質のスクリーニングの結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を順次備えたことを特徴とする、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法。
工程(i):人工磁気微粒子を準備する工程:
工程(ii):疎水基を有するカップリング剤を含む第1被膜材を、工程(i)で準備した人工磁気微粒子の表面に付着させて、第1被膜を形成した人工磁気微粒子を調製する工程:
工程(iii):ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含む第2被膜材を、工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、第2被膜を形成したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を調製する工程:
【請求項2】
カップリング剤が、シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の工程を順次備えたことを特徴とする、ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を製造する方法。
工程(i):磁性細菌からバイオ磁気微粒子を磁気分離する工程:
工程(ii):工程(i)で分離したバイオ磁気微粒子上のタンパク質及び脂質膜を除去する工程:
工程(iii):ホスファチジルセリンと、それと共に脂質膜を形成し得る脂質とを含んで成る被膜材を、工程(ii)で得られた磁気微粒子の表面に付着させて、被膜を形成したホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を調製する工程:
【請求項4】
ホスファチジルセリンと共に脂質膜を形成し得る脂質が、リン脂質であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
リン脂質が、ホスファチジルコリンであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法によって得られるホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子。
【請求項7】
ホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆された磁気微粒子であって、前記脂質膜に含まれる全脂質に対するホスファチジルセリンの割合がモル比で3%以上であることを特徴とするホスファチジルセリン被覆磁気微粒子。
【請求項8】
以下の工程を順次備えたことを特徴とする、ホスファチジルセリン結合性分子のスクリーニング方法。
工程(i):請求項6又は7に記載のホスファチジルセリンを含む脂質膜で被覆されたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子と、ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料を接触させる工程:
工程(ii):工程(i)で生体試料と接触させたホスファチジルセリン被覆磁気微粒子を分離した後、それを膜画分と磁気微粒子に分離する工程:
工程(iii):工程(ii)で分離した膜画分と、ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子を用いて分離される膜画分とを、比較して解析する工程:
工程(iv):工程(ii)で分離した膜画分に含まれ、かつ、対照磁気微粒子を用いて分離した膜画分に含まれない分子を単離・同定する工程:
【請求項9】
ホスファチジルセリンを含まない脂質膜で被覆された対照磁気微粒子が、ホスファチジルコリンからなる脂質膜で被覆されたホスファチジルコリン被覆磁気微粒子であることを特徴とする請求項8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料が、ヒト全血由来であることを特徴とする請求項8又は9に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
ホスファチジルセリン結合性分子を含む生体試料が、がん細胞の培養上清であることを特徴とする請求項8又は9に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
がん細胞の培養上清が、血清を含む、がん細胞の培養上清であることを特徴とする請求項11に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
ホスファチジルセリン結合性分子として、がんマーカーをスクリーニングすることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−244157(P2009−244157A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92286(P2008−92286)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】